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VERYFAIRY もしくはセミオペラの勝利

地元の音大(在学生及び卒業生)と演劇学校のコラボによる、セミオペラVERYFAIRYは
パーセルの『妖精の女王』翻案舞台として画期的に素晴らしい出来だった。

VERYFAIRY もしくはセミオペラの勝利_c0188818_18404958.jpgTekst: William Shakespeare |
Muziek: Henry Purcell |
Vertaling: Johan Boonen |
Regie: Aram Adriaanse | Regie-assistentie: Amanda Dekker |
Muzikale leiding: The Continuo Company onder leiding van
Arjen Verhage en Jenny Thomas |
Spel: Alex Hendrickx, Bart Bijnens, Sofie Porro, Willemien Slot |
Zang: Mami Kamezaki, Sandrine Mairesse, Florence Minon,
Krisztián Egyed, Raoul Reimersdal |
Begeleidend ensemble: The Continuo Company onder leiding van
Arjen Verhage en Jenny Thomas en studenten Conservatorium
Maastricht |
Toneelbeeld: Rebecca Downs |
Kostuums: Frances Loch |
Coaching zang: Claron McFadden, zangdocenten Conservatorium
en Toneelacademie |

VERYFAIRY 2016年2月25日@Toneelacademie Maastricht

舞台は一面に15センチくらいの長さの黒いひも状の繊維が厚く敷き詰められ、左奥に
器楽演奏家(チェンバロ、テオルボ、ハープの通奏低音、リコーダー3名とヴァイオリン4名)
が陣取っている。正面奥に映写用に使われるようなスクリーン状の幕が下がっている他、
大道具は天井からかなり下の方に下げられたPL電灯が4、5個のみ。そのうちの一つは
舞台で座れるほどの高さに降りていて、すなわちベンチやブランコとして使用。

序曲の場面では、男女のペア4,5組が半円の形に立って微笑み見つめあいながら、一人
ずつ移動しては次つぎと異なるカップルを形成していく。展開されるストーリーをここで示唆し
ている。

そのうち白い服の男女4人が芝居の登場人物で、青い服の男女5人が歌手であることが
後でわかるのだった。すなわち、白い服の男女は人間で、青い服の男女は妖精である。

シェイクスピアの『真夏の夜の夢』に基づいてパーセルが作ったセミオペラ『妖精の女王』は
それまでに2回、生で鑑賞しているのだが、いずれもこのジャンルの上演の難しさが痛ましい
ほど実感できるのであった。
そのうちの一つはいかにも苦労してセミオペラという形式に則りましたという感じで、役者が
語る台詞(ほとんど朗読)とダンス、歌手が歌う歌と器楽演奏とが、分離したまま全く
有機的に結合されていない演出で、咀嚼不足感が免れないものであった。
次に鑑賞したのは、コンセルトヘボウでのコンサート形式で、ヨハネット・ゾマーがメインのソリ
ストである以外は合唱団員がソロ・パートを歌うというもので、それもまた台詞が省かれている
分、そしてゾマー以外の歌手に華がない分、中途半端な出来であった。

しかるに、今回は学生がメインである故、歌は少々迫力不足であるものの、演劇学生による
芝居の熱演がそれを補って余りある、見応えのある舞台になっているのだった。
今回初めて、このセミオペラのよさがわかり、心から楽しめた。
パーセルらしが凝縮された音楽が、夢と現、魔界と人間界、森と町、男女という様々な対極を
きらびやかに映し出す。リサイタルなどで歌われることが多い珠玉のようなそれらの歌の一つ
一つがストーリー展開に繋がりセミオペラの全体を成すと、その良さがより一層しみじみと味わえ
るのだ。今までにない満足感を得ることができた。

それはなんといっても、舞台上を飛び回り、転げまわり、もつれあい、怒鳴り合う、2組のカッ
プル、ハーミアとライサンダー、ヘレナとディミートリアス役4人の役者の演技の迫力に負う
ところが多いのだが、演奏される音楽も歌も演技と隔離せず、しっかり寄り添うようにできて
いる演出も素晴らしい。
歌手も演技に加わるし、役者も歌う。人間と妖精との違いが説明がなくとも白と青の衣装と
いう見かけでハッキリと区別されているのがポイントである。妖精達には女王や王という威厳
はなく、(ティターニアとオベロンのケンカは省かれて、人間カップルのドタバタだけにストー
リーは集中)悪戯っ子達の集まりのようなシンプルさもいい効果を生んでいる。
(ダブルいざこざというシェイクスピアらしい楽しさが省かれてるのは遺憾ではあるが、若さに
焦点を当てるというコンセプトが理解できる)

セミオペラ成功のカギと言うのは、あれもこれもと様々な要素を入れ込まずに、一点集中
(今回は人間カップル2組のごたこたの芝居)することで、歌や器楽演奏など、他の要素が
かえって生きてくるし聴きごたえあるという、一見逆説的ながら素晴らしく効果的ですっきり
する答えがここに示されたのだった。

10月にアカデミー・オブ・エインシェント・ミュージックがイエスティン・ディヴィスを含むソリストで
パーセル『妖精の女王』をセミ・ステージ形式で上演(多分ツアーで)するのだが、どういう
セミオペラになるのか、楽しみだ。
by didoregina | 2016-02-27 19:47 | オペラ実演


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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