A Most Wanted Man (誰よりも狙われた男) アントン・コービンの新作映画!

アントン・コービン (オランダ人。オランダ語発音に従えばコルバイン表記の方が妥当だろう
が国際的に活躍しているので、英語っぽい慣例に従ったカタカナ表記で)の新作映画ならば
見逃せない。しかも、原作はジョン・ル・カレで、主演はフィリップ・シーモア・ホフマン
と3拍子揃っているから、期待はいやましに高まった。

c0188818_1754839.jpgDirected by Anton Corbijn
Screenplay by Andrew Bovell
Based on A Most Wanted Man by John le Carré

Philip Seymour Hoffman as Günther Bachmann
Rachel McAdams as Annabel Richter
Willem Dafoe as Tommy Brue
Robin Wright as Martha Sullivan
Grigoriy Dobrygin as Issa Karpov
Derya Alabora as Leyla
Daniel Brühl as Max
Nina Hoss as Erna Frey
Herbert Grönemeyer as Michael Axelrod
Martin Wuttke as Erhardt
Kostja Ullmann as Rasheed
Homayoun Ershadi as Dr. Faisal Abdullah
Mehdi Dehbi as Jamal Abdullah
Vicky Krieps as Niki
Rainer Bock as Dieter Mohr

Music by Herbert Grönemeyer
Cinematography Benoit Delhomme
Edited by Claire Simpson
2014年 イギリス

英・蘭での封切直後の各紙・誌の評がかなり分かれているのに、おやっと思った。
ガーディアン誌では評者によって全く異なる星数の複数のレビューが出ているし、NRC誌の
評も微妙である。新聞・雑誌によって、5つ星から3つ星まで様々なのだ。
そういう場合、わたしにとって吉と出るか凶と出るか。少しだけ戦々恐々となった。
いや、武者震いと言ったほうがいいかもしれない。
いざ、リュミエールへ出陣!

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コービンの前作The American (邦題「ラスト・ターゲット)では、いかにも本職の写真家
らしい凝りに凝った映像の作り、反耽美的とでも称すべき独特の風景描写を堪能したものだ。
コービンらしい美意識に溢れてただひたすらカッコよさを追求しました、とでもいう感じで、
ストーリー展開と主人公の心理描写はまあまあいいのだが、ラストのあっけなさには釈然と
しなかった。(小説が原作という制約もあるが。)
今回は、スパイ小説の大家ジョン・ル・カレの原作に基づいているから、数年前のやはりル・
カレ原作の傑作映画Tinker Taylor Sodier Spy (邦題「裏切りのサーカス」)とどうしても
比較してしまう。

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911テロでジハードの脅威で世界の平和意識が覆った後のハンブルクが舞台で、現代のアク
チュアルな時事問題に直結している。ドイツのほとんど非公認秘密諜報機関で冷や飯を食わせ
られているグンター(フィリップ・シーモア・ホフマン)がさる筋から得た情報を元に追い詰め
るのは、チェチェンとロシアのハーフでイスラム原理主義テロリストのイッサだ。
ロシアからもアメリカからも危険人物として目を付けられたA Most Wanted Man (邦題
「誰よりも狙われた男」)である。

そのイッサというのが、痩せてダークな陰が魅力であり、いじめられっ子のようにおどおど
として非力に見え、守って助けてあげたいという気持ちにさせる。実際、危険なテロリストに
こういうタイプもいるんだろうが、その辺の人物の性格付けがうまい。
ロシア人俳優グリゴリー・ドブリジンが演じているのだが、この俳優、ベン・ウィショーと
タハール・ラヒムを足して二で割ったような感じだから、わたしの胸がキュンとなったのも故
なきこととは言えまい。

イッサは、ロシア人大物軍人がチェチェン人の少女に産ませた子で、15歳だった母はイッサの
出産直後に亡くなっている。汚職軍人だった父を憎んでいるが、父の手紙を手に危険を冒して
ハンブルクに不法潜入してきたのだ。

c0188818_18125775.jpg


追われてどこにも居場所のないイッサを匿い、亡命申請の補助をする左翼系ドイツ人弁護士
アナベルは金髪の若い女性である。正義感溢れる彼女は次第にイッサの魅力に惹かれていく。
このプロセスはたぶん多くの女性観客の目や感情と一致するのではないだろうか。だから、
ストーリーに真実味を与えている。しかし、彼女は本当にイッサを助けようとしているのか、
それとも。。。スパイものには裏切りはお約束だし、特に美人というところが怪しい。
そういう点でハラハラさせ、疑わせるところも秀逸である。

ジハード系テロには、巨額の資金を援助・供給しているところがあるのも当然で、そのルート
もグンターらは探っている。
汚れた闇の金ロンダリング専門だった銀行の頭取役ブルーがウィレム・デフォーで、こいつも
いかにも悪そうな顔つきだが、あまりに悪役然とした奴ほどこういう映画では心に清いものが
あったりするものである。正と悪は、007映画では確然と判断がつくが、それほど単純に一筋縄
でいかないこの映画はハラハラどきどきさせる。

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そういうわけで、イスラムのテロ組織、CIA、ロシア諜報部、ドイツ諜報部すべてから狙わ
れているイッサを泳がせて大物を捕獲する、というのがグンターの取った手段なのだが。。。
グンター役のフィリップ・シーモア・ホフマンは、これが最後の映画出演となったのだが、
彼の魅力が初めて理解できた。太って汗をかきかき歩くのも大儀そうだし、たばこも離せず、
外見は不健康で、いかにもドイツ政府からほとんど未公認の諜報組織のしがないスパイなのに、
部下から絶大な信頼を得ているし、意外な筋との重要なコネクトも持つ。

新聞での評価が低い理由に、すぐに誰が裏切者なのかわかってしまうからスリルに乏しい、と
いうのがあった。あれこれと考えつつ、しかし映画の面白い展開に乗せられたわたしには、
ラストシーンまで裏切者はわからなかった。
ハラハラ度と胸キュン度は最高潮に達したのだった。

映画館から外に出たら、外の景色がいつもと違って見えた。
ほぼ毎週映画は見ているが、こういう気分になる映画を鑑賞したのは久しぶりだ。
そのことからもこの映画の素晴らしさが確証できる。太鼓判を押したい。
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by didoregina | 2014-09-25 18:43 | 映画 | Comments(2)
Commented by kew Gardens at 2014-09-26 12:37 x
この映画、日本での公開は10月17日からで、久々に映画館で鑑賞しようと思っていたのですが、期待がさらに高まりました。 ル・カレの小説は、現代社会の要素と、絶妙なひねりが入っていて、妙に後をひきます。 白黒がはっきりしたハリウッド的勧善懲悪ではないところもお気に入り。 実は原作を読んでいないので、映画がとても楽しみです。 ふふふ
Commented by レイネ at 2014-09-26 16:52 x
Kew Gardensさま、この映画どなたにもお勧めします!できれば数人でご覧になって、あれこれあとで感想言いあうのもまた楽しいかと。わたしもル・カレの原作は未読なので、よりハラハラどきどき度が高かったのかも。しかし、コービンもなかなかメジャーっぽい映画作るようになったんだわ、と感慨新た。
あああ、レビューに書き忘れたけど、エンド・クレジットに流れるトム・ウェイツの歌がまんまコービンのセンスそのものでカッコよすぎ!


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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