モネ劇場の『椿姫』をオン・デマンドで

ブリュッセルのモネ劇場は、昨シーズンから、全ての演目を千秋楽が終わってから3週間
劇場サイトで全編を全世界に向けて公開、オンライン・ストリーミング配信している。
劇場主導型の無料視聴サーヴィスとしては、画期的である。

2012年12月の公演は『椿姫』で、サイトからのオンライン・ストリーミングは終了したが、
ヴェルディ・イヤーということでTV局のArte が放映した映像が現在ArteLiveWebから
オン・デマンド配信されているので、あと4ヶ月は見ることができる。
配信期間はまだまだ長いから、いずれそのうちに見ようと思って先延ばしにしているうちに
終了して見逃してしまう、ということが結構起こる(わたしの場合)ので、思い立ったが吉日、
即ご覧になることをお勧めする。(リンクを張った。多分、地域に関係なくタダで見られるはず)

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      モネ劇場では毎度おなじみトップレスの女の子達がやはり登場。


この『椿姫』は実演鑑賞しないで、モネ劇場サイトからのオンライン・ストリーミングのサー
ヴィス終了直前、『マノン・レスコー』の実演鑑賞直前に観た。
すると、この二つのプロダクションにはかなりの類似性が見出せて、とても面白かった。
というより、今シーズン最初の演目『ルル』から連綿と続く一貫性が感じられるのだった。

いずれのプロダクションでも、演出に共通するのは、玄人好みというか「初心者お断り」という
スタンスである。こういう演出に慣れていない人には、さぞかしショッキングかつスキャン
ダラスに映ることであろう。しかし、スマートでセンスがよくスタイリッシュであると感じる
とも思う。
Sで始まる形容の羅列にさらに付け加えれば、SMっぽい要素もある。

これら3作は作曲家も演出家も異なるのに、ある意味統一感があるのは、モネ劇場の総監督
ペーター・デ・カールウの美意識がしっかりと反映されているためだろう。
それから、3作とも主人公がいわゆる世間からは後ろ指をさされるタイプの女性であるという
点で共通しているから、典型的ファム・ファタールの3タイプを見ることができる。
そういう女達の悲劇であるから、ラストまで救いのない暗さが付きまとうのは避けようもない。
いずれも舞台装置・背景は黒が基調で、いかにも怪しげな人物たちばかり登場して悪の匂いが
漂う。

La Traviata
Giuseppe Verdi  2012年12月15日収録@モネ劇場

Music direction¦ Ádám Fischer
Director¦ Andrea Breth
Set design¦ Martin Zehetgruber
Costumes¦ Moidele Bickel
Lighting¦ Alexander Koppelmann
Dramaturgy¦ Sergio Morabito
Chorus direction¦ Martino Faggiani

Violetta Valéry¦ Simona Šaturová
Flora Bervoix¦ Salomé Haller
Annina¦ Carole Wilson
Alfredo Germont¦ Sébastien Guèze
Giorgio Germont¦ Scott Hendricks
Gastone¦ Dietmar Kerschbaum
Barone Douphol¦ Till Fechner
Marchese d’Obigny¦J ean-Luc Ballestra
Dottor Grenvil¦ Guillaume Antoine
Giuseppe¦ Gijs Van der Linden
Commissionario¦ Matthew Zadow
Domestico¦ Kris Belligh
Orchestra¦ La Monnaie Symphony Orchestra & Chorus

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       フローラ主催のパーティーは、あらゆる快楽のひたすらの追求に終始。
       左の椅子に座っているのが、キュートなぼんぼんのアルフレード。

ヴィオレッタが苦界の底から苦労の末這い上がったということは、前奏曲の間に舞台の後ろの
方で演じられているシーンが説明している。
高級娼婦としての成功を手に入れたヴィオレッタは物憂げかつ気品ある美しい人に変身した。
パパ・ジェルモンに対しても、風当たりのきつい世間に対しても、そして最期は落ちぶれて
ホームレスとなっても毅然と自らの人生を引き受けているという態度を崩さない。女の鑑だ。

彼女が酸いも甘いも噛み分けた大人の魅力的な女であるのに対して、ぼんぼんで苦労知らず
だったアルフレード役の歌手がアンドレアス・ショルの弟みたいなルックスの可愛いタイプ
でいかにもイノセントなのがいい。
遊び人たちの中で1人だけ場違いな身なりの彼が歌う「乾杯の歌」もおずおずと紙に書かれた
ものを読みながら、というのもリアリティーがあった。
少年っぽさの残る顔立ちで、甘いだけでない歌声には育ちのよさを感じさせる芯のような
ものがある。
全幕を通じて変化の激しい彼の、憧れ、喜び、失望、怒り、後悔、そして悲しみに至る心情の
振幅をしっかり表現できて、この役にここまでぴったりの歌手もなかなかいないだろう。

ヴィオレッタは、ちょっと幼稚なアルフレードに対して大人の女であることを強調した役柄
なので、恋する女のかわいらしさは歌唱にも込めていない。声質があまり華やかではないが
暗すぎもしないし、歓喜の表現でもこれみよがしに高音を強調したりしないので、いかにも
現代的で好感の持てるさらりとした歌い方だ。
パパ・ジェルモンに諭されて身を引く覚悟を決めた際のしおらしさと、苦い運命を受け入れる
決意表明がいじらしく涙を誘う。
あまりに華やかな技巧を聴かせるタイプの歌手だと、後半の打ちひしがれたヴィオレッタに
感情移入ができにくくなるのだが、中庸を取った彼女は最期まで飽きさせずに聴かせた。

アンニーナはヴィオレッタの女中ではなく、娼婦仲間になっている。彼女のキャラクターが
なかなか今回の演出では重要かつ際立っていた。快楽と金銭の奴隷のようだった1幕目の彼女は、ヴィオレッタと運命を共にしていくうちに人間味を取り戻し、3幕目では落ちぶれたヴィオレ
ッタを見捨てずに、文字通り身を張って最期を看取るのである。

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           ホームレスになって息をひきとるヴィオレッタ。

さて、アンドレア・ブレト女史による演出は、モネやドイツのレギーを見慣れてる人にはさほどショッキングではないし、エロ・グロの度合いも女性らしい抑制が効いていてスタイリッシュ
でさえある、とわたしは思ったのだが、なんと、この演出は近年のモネには珍しいほどの物議を
かもしたのであった。
発端は、初日でのブーイングと一部観客へのインタビューに基づいたタブロイド新聞記事らしい。
モネ劇場で演出に対して激しいブーイングが起きるというのも珍しいし、実演を観ずに書いた
としか思えない記事に反応して世間が騒ぎだし、青少年および家族連れ客に対する教育的見解
としてモネが発表した「お断りの手紙」などから発展して議論が展開され、モネのサイトに現在特別ページが開設されているほどである。
英語ページにリンクを張ったので、オン・デマンドでこのプロダクションを鑑賞した後に、
モネおなじみの演出家4人による擁護論などを読んで頂くと、自分の感想と比較できて面白さは
格別かと思う。

ワルリコフスキー演出の『ルル』でもそうだったように、性的にきわどく背徳的で露出度の高い
舞台に今回も子役が出演しているのだが、ペドフィル行為っぽい演技が行われているのと、パーティー場面および最後の幕での生々しい性描写が問題になっているのだ。
コンビチュニー演出の『サロメ』の節操のないエロ・グロに比べたら、この『椿姫』は相当
洗練されていて美しいし、モネで何をいまさら騒ぐのか、という気がするのだが。
問題のペドフィルやパーティー・シーンは、ヴィスコンティ監督映画『地獄へ堕ちた勇者ども』
やリリアーナ・カヴァーニ監督映画『愛の嵐』を思わせ耽美的でもある、とわたしには思えたが、
クリスマス前後の上演だったため家族連れや外国からの観光客が多かったとみえて、華やかで
きらびやかな舞台を期待していたら予想外にきわどいシーンが多かったので、こういう過剰反
応を引き起こしたようだ。
by didoregina | 2013-01-30 17:25 | オペラ映像


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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