The Road to Van Eyck 展@ボイマンス美術館

ロッテルダムのボイマンス美術館で『ファン・エイクへの道』展が開催中(2012年10月13日から
2013年2月10日まで)だ。

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ファン・エイク展だと思って行くとがっかりするだろうが、ファン・エイクへの道というタイトルが正に
正しい内容となっている。
つまり、同時代の画家の中ではあまりにそのテクニックが突出して、大木のように屹立した存在
でエイリアンとしか思えないファン・エイク兄弟だが、彼らの出現前後の美術を俯瞰・比較して
彼らの偉大さを浮き彫りにする、という企画展である。

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      美術館近くの舗道には、ファン・エイクの絵が点々と。


ボイマンス美術館といえば、「水曜日はタダよ」を売り(?)にしていた。今でもそうなのか、
サイトで確認してから、わざわざ水曜日を選んで出かけた。スーパーのAHで購入しておいた
オランダ鉄道割引切符(16ユーロで1日乗り放題)の利用期限も切羽詰っているので丁度いい。
美術館に近づくと、水曜目当ての客が多そうな雰囲気である。

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しかし、中に入って切符売り場に行くと、「残念ながら、水曜日はタダよは本日より取りやめです。
ご了承のほどを」と言われるではないか。事前に知っていたら、混雑する水曜日は避けたのに。
しかし、もう着いてしまっているから引き返すわけにもいかない。
文化全般への公的補助削減の折、財源緊縮のため仕方ない処置ではあろうが、ゲリラ的に当日
になって取りやめ発表というのは、ちょっと姑息ではないか。
主人は通勤途中の車の中でラジオ・ニュースを聞いて、怒った私が切符売り場の係員を問い詰め、
絶対にタダで入場すると押し問答している姿を思い浮かべたそうだ。
実際にはそんなことはなく、がっくりと肩を落としながらも、諦めて財布を開く私であった。


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      『受胎告知』の床に描かれた「ゴリアテの首を切るダビデ」も舗道に。


芸術・文化には金がかかるのが常である。税金やパトロンやスポンサーによる大口の寄付その他で
賄いきれない場合、入場料を取るのは仕方がない。

さて、内容的には、かなりマニアックな集め方をしてある展覧会だ。なにしろ、1400年前後の
ネーデルラント絵画で残っている物の数が絶対的に少ないのだ。水増しに写るかもしれないが、
美術史的に重要だったり興味を惹くものが各地から色々と集めてある。
ブースや壁が、インターナショナル・ゴシック、パリ、ブルゴーニュ、シャンモルのシャルトルーズ
修道院、ファン・エイクの先人、ファン・エイクの作品、そのコピーなどのテーマ別の展示で、
ゴシックから北方ルネッサンスへ到る道程がわかるように工夫されている。ちょっと、玄人好みすぎる
かなとも思えるが、なかなかよく考えられていて渋い。

玉石混交に見えるが、光るものはやっぱり輝きの具合が他とは異なる。おおっと思えるものが
混じっている。
クラウス・シュリューテルのアラバスター彫刻がシャンモルから来てたり、シュテファン・ロホナーの
『薔薇園の聖母』がケルンから来てたりして、懐かしい思いがこみ上げた。

そして、予想外のものに出会えたことも。装飾写本では、ブシコー元帥の時祷書の画家による
『エティエンヌ・シュバリエの時祷書』の1葉「死者のためのミサ」が大英博物館から来ていて、
『トリノ=ミラノ時祷書』のためにファン・エイクが描いた細密画(現存するたった2枚!)と見比べる
ことができるのだ。
『トリノ=ミラノ時祷書』のファン・エイクが描いたと言われる細密画2葉のうち、12月半ばまでは
「死者のためのミサ」のページが開かれていて、ブシコー元帥の画家のものと対比できる。しかし
もう1葉の「洗礼者ヨハネの生誕」の方も見たいから、もう一度ロッテルダムに行く必要がある!


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           『受胎告知』の天使


なんといっても、今回の展覧会での白眉は、ワシントンから来ている『受胎告知』である。
アメリカに行く機会は未だなかったので、この絵がヨーロッパまで来てくれたのはとてもうれしい。
ボイマンスにある『3人のマリア』は、この展覧会のために大掛かりな修復を終えてのお目見えで、
やはり目玉になってはいるが、『受胎告知』にはかなわない。微笑む天使の美しさのインパクトが
強すぎる。全てがほとんど完璧で、いくら見ても見飽きない。
それに対して、どうも、修復された『3人のマリア』は、厚塗りでぼってりした感じが全体的に
あって、あまり優美さを感じさせないのだ。修復後もヤン・ファン・エイク作ということに関しては、?
マークがまだ付いている。)


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      ヤン・ファン・エイク(?)『3人のマリア』(1430-1435年頃)

『3人のマリア』の購入・疎開および修復にまつわる話は、それ自体が面白いドキュメンタリーで
ヴィデオ上映されていた。ボイマンス氏が、どういうめぐり合わせでこの絵を購入したのか、しかも
その4日後にドイツ軍がロッテルダムまで侵攻してきたため絵は疎開を余儀なくされたとか、どういう
光線の当たる部屋のどの位置に飾るつもりだったか、等が明るみになって興味は尽きない。


入場料は、常設展および特別展合わせて16ユーロも払ったので、常設展も観た。
個人のコレクションからなるが、各時代の作品が満遍なく集めてあって、とてもいい趣味の美術館
なのだが、今回、いきなり目に飛び込んできて驚いたのはこれだ。

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         カルロ・クリヴェッリ『マグダラのマリア』(1480年)

なんと、アムステルダムの国立美術館所蔵のこの絵なのだが、改修中のため昨年からロッテルダム
に掛かっているのだった。それを知らずに対面したから、びっくり。



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    美術館のカフェには必ず入るのがお約束。
    サーモンのキッシュはなかなかのお味。しかしコーヒーが紙コップというのは、どうも感心しない。


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         広々した窓が公園に向かっていて、天井も高く気持ちいいい。
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by didoregina | 2012-11-06 10:26 | 美術 | Comments(2)
Commented by Mev at 2012-11-08 07:19 x
ボイマンスは1度だけ行きましたが、こじんまりしているのに、中身の濃い美術館だったなと思います。私はもちろんファン・エイクにもその周辺の画家にも全く詳しくはないですが、ロンドンのナショナル・ギャラリーで恐ろしげな中世の夫婦の肖像を見て以来、ファン・エイクが怖くなりました。でも怖いものも見たいです、、、。
Commented by レイネ at 2012-11-08 16:13 x
Mevさま、小粒ながら光る作品ばかり集めて、凄く内容の濃い美術館ですよね、ボイマンスは。しかも、展示方法や絵画の掛けてある場所があまりにさりげなくて。レンブラントの描いた肖像画が、陶芸作品のガラス展示室の壁に何気なく掛かってたり。

>ロンドンのナショナル・ギャラリーで恐ろしげな中世の夫婦の肖像を見て以来、
それって、もしかしてアルノルフィーニ夫妻の肖像画のこと?怖い絵かしらね。。。結婚を象徴する絵として、大好きな作品。あの時代が大好きということもありますが。


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