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『セヴィリアの理髪師』@ストックホルム王立歌劇場

8月にウィーンでマレーナ様主演の『湖上の美人』を鑑賞したばかりですが、彼女が9月に
本拠地ストックホルムでの『セヴィリアの理髪師』にロジーナ役で出演することがわかった時、
2ヶ月続けての遠征を決意しました。
4月のチケット発売日に、即、オンライン参戦したのですが、争奪戦はなかなか厳しく、平土間の
席は全く残っていませんでした。歌劇場の規模や座席と舞台との相対関係や音響も分からないので、
無難に1階バルコニー正面席を選びました。スウェーデンの一般物価と比較すると一番高い席でも
それほどのお値段ではありません。

c0188818_1633882.jpgIl barbiere di Siviglia
Musik: Gioacchino Rossini
Text: Cesare Sterbini efter Beaumarchais komedi
Regi: Knut Hendriksen
Scenografi och kostym: Per A. Jonsson
Ljus: Ronny Andersson
Medverkande
Greve Almaviva : Michele Angelini
Doktor Bartolo : John Erik Eleby
Rosina Malena : Ernman
Figaro : Ola Eliasson
Basilio : Lars Arvidson
Berta : Agneta Lundgren
Fiorello : Kristian Flor
Officeren : Kristian Flor
Dirigent : Jean-Christophe Spinosi
Herrar ur Kungliga Operans Kör
Kormästare: Folke Alin och Christina Hörnell

Kungliga Hovkapellet


さて、当日は、ホテルにチェックインしてからすぐに歌劇場に向かいました。チケットが上手く
プリント・アウトできなかったので再発行してもらうためです。
オンラインでのチケット・ダウンロードとプリントは一回限りと注意書きがあったのですが、どうやら
サイトの不備でプリントのサイズ設定がおかしくなっていたため、A4から重要な部分がはみ出て
しまったのです。これにはあせって、電話とメールで問い合わせたので、再発行はスムーズでした。
劇場窓口でも、オンライン・プリントした人は皆プリントに失敗したらしい、と言われました。

そして、楽屋口の位置を尋ねておきました。
これで準備完了。

ホテルに戻り、ゆっくりと着物の着付けとヘア・メークをしました。遠征では、大概、遊びすぎて
時間が足りなくなるのですが、その日は気温10度で強風しかも小雨模様なので、町歩きをする
気分にならなかったのです。

c0188818_1734744.jpg

       ホテルのロビーで。8月にウィーンで着ようと思っていた絽の着物。
       ようやく袖を通すことができた白と黒の細縞に萩の花の模様の小紋。
       博多の献上帯に白と黒の変わり織の帯締めと幾何学模様の帯揚げ。
       (公演後ホテルに戻ってからの写真なので髪が乱れてる。)


c0188818_17124882.jpg

            対岸の王宮から眺めたストックホルム王立歌劇場
          
ロビーに入って、開場を待ちながら人々の服装を眺めると、皆、アムステルダム同様にかなり
カジュアルです。金曜日夜の公演なのに、ほとんど着飾っている人は見当たりません。
各階の左右にクロークがあるため、一箇所に混み合わず、ゆったり鷹揚な気分になれます。

正面バルコニー席は、さほど大規模な劇場ではないので舞台も遠からず視界は悪くありません。
しかし、左隣に座ったオヤジが、恐怖のグミ食い魔だったのです。なぜか、ズボンの右ポケットに
グミを入れていて、1,2分おきにポケットに手をつっこんで取り出すので、その度に肘をわたしの
左腕にぐいぐいと押し付ける形になるのです。アングロ・サクソンの国とは異なり、体が他人に
触れても謝ったり気にしない人が多いのは、スウェーデンもオランダと同様のようですが、気分は
害されます。劇場の座席に座って物を食べるという行為も、褒められたものではありません。
劇場からは、電話のスイッチを切れとか、撮影や録音は堅く禁じるとかのアナウンスはありましたが、
食べ物持ち込みも厳重に注意してもらいたいものです。

そして、グミというものは、食べだすとなかなか止められなくなるものです。
もう、袋ごと膝の上に出して堂々と食べたらいいものを、こっそりとポケットから出して口に入れようと
する態度と動作が、他人を不快にするのです。
そうこうするうちに、指揮者のスピノジが登場しました。拍手で迎えられた彼がオケ・ピットの指揮台に
立ち、指揮棒を下ろした瞬間にも、隣のグミおやぢがズボンのポケットに手を入れたので、わたしは、
そいつに向かって制するようなしぐさをして「プリーズ、ストップ・イット」と冷たい口調で命じました。
虚をつかれたおやぢはひるんで、そのままフリーズしてしまいました。そして、とうとう、序曲の間中、
じっとポケットに手を入れたままだったのです。きっと、ぐっしょりと手の汗にまみれたグミはべとべとに
なったことでしょう。

c0188818_18142963.jpg


ロッシーニのオペラをスピノジがストックホルムで指揮する、というのは、意外な組み合わせに思え
ますが、昨年のウィーンでの『セルセ』以来のマレーナ様つながりのご縁でしょうか。この二人は、
この夏にもブルターニュの野外バロック・ロック・コンサートでも共演しています。音楽的にも気が合う
ようです。
そのスピノジですが、いつものようにきびきびと若々しい動作で、溌剌とわくわくするような音楽を
作り出していきます。

オケは大編成でもないのに、PAのためか、よく鳴り響きます。とくに下手側からの管楽器が響き
すぎ、バランスとしてはちょっと突出しすぎの感がありました。それは器楽だけの演奏の時にはさほど
気になりませんが、歌手との絡みや伴奏では、管の音が大きすぎて歌唱がよく聞こえずいらいら
した場面がしばしばあったのです。

スピノジといえば、ウィーンでのオペラの指揮の最中に、『狂えるオルランド』でも『セルセ』でも、
お得意のヴァイオリン・ソロを披露してくれました。観客にはウケルし、彼の定番パフォーマンスなの
かしら、と思っていましたが、今回も彼のソロ演奏がありました。それは、カスタネットでした。
アルマヴィーバ伯爵が「わたしの名前はリンドーロ」と歌う場面では、フィガロ役の歌手が見事な
ギター演奏を披露するのですが、そのあとスピノジがカスタネットでアンダルシアらしさを盛り上げる
のでした。

スムーズな音楽展開とややこしくない喜劇なので、演出らしい演出は必要ない演目ですが、だから
こそ、上手い歌手が揃わないと興ざめになってしまいます。
ロジーナ役のマレーナ様は、歌いなれてるという感じでそつなくこなし、コロラチューラは滑らかかつ
まじめ一本やりのオペラ歌手とは一味異なる、お遊びの要素も散りばめた歌唱です。
喜劇なのである程度の演技力は必要とされますが、その点では表情豊かなマレーナ様にはうって
つけの役です。
サーヴィス精神旺盛なマレーナ様の歌唱および演技には、誇張しすぎともとれる場面も見受けられる
のですが、読み替えのないストレートな演出には、盛大なノリの過剰な歌い方でも浮いたりしません。
こなれた歌唱で役にぴったりという点では、先月のエレナ役以上と思えました。


           2010年のストックホルムでのコンサート

アルマヴィーバ役の歌手は、なかなかに甘いマスクと晴れやかな明るい声の持ち主で、時にはフロー
レス様の声に似ているとも思えるほど。育ちのいい若者らしいくったくのなさと、自然な伸びやかさが
歌声に溢れていて、好感度が高かったのです。

それ以外の歌手、特にフィガロに、あまりにも声量が傑出する人を配置すると嫌味と言うか、
くどくなるのですが、今回のフィガロ役歌手はあまり低音を響かせるタイプではなく、脇役に徹する
ほどほどの中庸感覚を心得ていました。だから、歌手同士のバランスがとれて、全体的によくまと
まってひきしまった印象になりました。


休憩中には、1人だったので、飲み物はとらずに金が基調できらびやかなフォアイエの天井を見たり
廊下や階段をしゃなりしゃなりと歩いたりして過ごしました。
ロングドレス姿の人は皆無で、かなりカジュアルな服装がほとんどを占めていたのですが、中学生
くらいの女の子が、感に堪えたように「すみません、よく見せてください、素敵なドレスですね」と
話しかけてきました。
「日本の着物なんですよ」と言うと、「知ってます。本当に美しい!」とうれしいことを言ってくれる
のでした。
階段を下りて、入り口付近を歩いて、買う気もないままショップを見たりしていると、手持ち無沙汰な
風情のアッシャーがCD売り場の方を指差しています。その方向を見ると、今さっき通りかかった
ショップのお兄さんが、
「そんなに素敵なお召し物でオペラにお越しいただいたので、このCDを差し上げたいと思います」
と言って、歌劇場のサンプルCDを差し出しすではありませんか。
「当歌劇場で活躍した歌手達の録音を集めたものなんです。どうぞ」と言うので、ご好意に甘え
喜んでいただいてきました。

c0188818_19323248.jpg

         「お兄さん、ありがとう」

ここの歌劇場のユニフォームは、日本の詰襟そっくりなので、
「あなたの着ているユニフォームも素敵ですよ。日本の男子中・高生の制服そっくりのデザインね」と
褒めあったのでした。
いただいたCDには、ニーナ・シュテンメの歌う『マノン・レスコー』『オネーギン』からのアリアなど
が収められています。


演出には、特記すべきものはありませんでしたが、正統的喜劇で満場の笑いを取り、拍手も鳴り止
まず盛況に終わりました。
アムステルダムの観客と似ているのは、服装だけでなく、誰もカーテンコールの写真を撮る人が
いないという点も同様なので、わたしも写真を撮るのは控えてしまいました。

その代わり、楽屋口でマレーナ様の出待ちをしました。
ウィーンには遠征してくるファンがいつも待っていて、和気藹々とした楽屋口ですが、ここには私以外
一人も待っている人はいませんでした。
先月のウィーンでは、マレーナ様の旦那様や出演歌手も勢ぞろいした劇場のカフェに、ファンクラブの
面々も行って、公演後、楽しいひと時を過ごしたのですが。。。。

間もなく、化粧を落としたマレーナ様が出てきました。
わたしが声をかけると驚いたようですが、「まあ、また来てくれたのね。うれしいわ」と向こうから
ハグしてくれたのです。
M「どこに泊まっているの?」
R「ここから駅の方向に向かったところです」
M「今日のストックホルムは、寒かったでしょう?」
R「飛行機から降りたら、気温10度だというので、おもわずショールを買っちゃいました」
M「明日からは、いいお天気になるらしいわ。週末はここにいるんでしょう?」
などと、いつものように、普通の女の子の会話になるのでした。

R「先月のウィーンでは、空港から荷物が届くのが遅れて。だから、このプレゼントは一月遅れです」
M「そうそう、そうだったわね。着物が着れなかったと言ってたわね」
R「今日の歌手は皆、期待以上に上手い人が揃ってました。また、スピノジが指揮というのが意外で」
M「彼とは、このところ良く共演してるのよ」
R「昨年ウィーンでの『セルセ』以来のコンビですね。フランスでも」
M「そうなのよ。来週はベルリンでまた、彼と共演するのよ」

c0188818_19591842.jpg


楽屋口外に置いてあった自転車は、もしやマレーナ様のかと思ったのですが、そのとおりでした。
籠にバッグを入れて自転車を引いて歩いてくれるマレーナ様と一緒に、深夜のストックホルムを駅に
向かって二人でおしゃべりしながら歩いたのでした。
by didoregina | 2012-09-19 13:15 | オペラ実演


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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