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Terraferma  イタリア本土を目指すボートピープル

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Terraferma

監督 Emanuele Crialese

フィリッポ Filippo Pucillo
ジュリエッタ(母) Donatella Finochiaro
エルネスト(祖父) Mimmo Cuticchio
サラ(難民) Timnit T
ニーノ(叔父) Beppe Fiorello

2011年 イタリア







アフリカからヨーロッパに流れ着いたボートピープルを扱った題材だけは同じだが、この前
観たLe Havre『ル・アーブルの靴みがき』とは、全く異なった観点から作られた映画である。
こちらは、シチリア島のさらに小島が舞台で、難民の目的地はイタリア本土である。

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映像では、さまざまな角度から見た海のシーンが多い。
特に、海中から見上げた船というアングルで撮った最初のシーンが印象的だ。逆光の黒い
シルエットだけの船は不気味で、まるでジョーズのように不安を掻き立てる。
そして、ゴミで汚れた海底。網にかかるのは魚よりもゴミの方が多いくらいだ。
海岸だって、観光局推薦のムード溢れる風景というわけではないから、叙情性を売りにした映画
ではないことが強調されている。

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            気骨ある海の男のおじいちゃん

イタリアの南、シチリア島のそのまた小島の現実は厳しい。
その島に生きる人びとは、代々漁業を生業にしてきたのだが、魚が枯渇した現在、漁業に活路は
見出せない。夏だけの観光に賭けるしかない。
そんな小島に、アフリカから続々と漂流のボートピープルが到着するのだった。

小さな漁船に乗り切れないほどの難民が漂流しているのを見つけたらどうするか。
海の掟に従えば、溺れる者は助けるのが鉄則だ。
しかし、現代の法は、難民を上陸させることを許さない。
また、助けた船の方が転覆してしまうかもしれないし、乗っ取られてしまうかもしれないという恐怖。
それは、小島に生きる人びとにとっても切羽詰ったジレンマだ。難民で溢れた島に観光客は寄り付
かなくなるだろう。

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            若く世間知らずの漁師フィリッポ

法と原則と理想と人間性の狭間に立たされた、人間たちの物語だ。
そして、これは物語の形式をとっているが、現実の話でもある。
難民を助けてかくまう島民の生活は苦しいし、助けられた難民の辿った軌跡は悲惨そのものだ。
父を海で亡くして、おじいちゃんと母と3人で島に暮らし、漁業に生きる、という主人公の設定は
いかにもステレオタイプであるが、母性や人情が絡んで古きよきイタリア映画の香りすらする。


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      アフリカ東海岸から砂漠を越え海を渡り、2年がかりでここまで来た難民の親子。
      その間に妊娠し、島で出産した。目指すのは夫の働くトリノだが、前途多難。


フィリッポが夜の海に出した船に、押し寄せた難民達が這い上がろうとするシーンがある。
小船は転覆寸前。恐怖心に駆られて、助ける代わりに、船べりに押し寄せた人々を無意識のうちに
オールで叩いて追い払ってしまう。そのシーンだけ見ると人間性が感じられず残虐でショッキング
ではあるが、映画全体のコンテキストからは理解できる行動だ。しかし、本土から来た観光客達
には、フィリッポの態度はあまりに非人間的で許せない。
もしも、わたしが実際のセイリング中にそんなボートピープルの群れに遭遇したら、と考えると
これは人事ではない気がする。気が動転してどういう行動をとるかわからない。
(また、イルカを撲殺している残虐シーンが取り上げられることの多い日本の漁民達の心情には、
このフィリッポに通じるものがあるかもしれない。そのジレンマを世界に理解してもらうためにも
日本の漁民の立場や視点を明確にした映画を作る人がいてもいいのに、と思った。)

人情と正義や資本主義や社会の無慈悲さや不正なども描かれた社会派映画だし、シチリアの海が
舞台なので、思い出すのは、ヴィスコンティのLa Terra Trema『揺れる大地』(1948年)だ。
タイトルが似てるだけでなく、フィリッポの顔立ちや巻き毛が『揺れる大地』の主人公青年そっくり
だから、なおさら。
Terrafermaはネオ・ネオ・リアリズム映画と言えるかもしれない。

↓は、ルッキノ・ヴィスコンティの『揺れる大地』最終シーン。


by didoregina | 2012-03-19 08:32 | 映画


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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