教会の建物が別の用途・目的に活用されるとき

マーストリヒトでは、教会が別の用途に使用されている例は数多く、美しい本屋に生まれ変わった
ドミニコ会修道院の元教会はほんの一例である。

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        教会に隣接する元修道院の敷地は、現在、ショッピングモール。
        右手のカフェになっている古い部分と、左手の新建築部分が
        自然に融合して美しく調和している。


前回の記事ではさらりと書いただけだが、実は最も重要な転機点について今回は触れたい。

宗教改革や聖像破壊やスペイン軍やフランス軍の占領やフランス革命という荒波を潜り抜け、
驚異的にも生き延びてきたその教会が、教会としての機能を最終的に失ったのは、そういう
外部からの圧力のせいではなかった。

フランス革命による修道院解散後も、付属教会の建物自体は教区教会として使われることに
よって命脈を保っていたのに、1805年になってから突然、教会としての機能に終止符を打たざるを
得なくなった。

それはなぜか。

簡単に言うと、マーストリヒトには教会の数が多すぎたからだ。
ドミニコ会教会は、町の中心フレイトホフ広場から数10メートルの場所に位置する。
そのフレイトホフ広場にはオランダ最古の聖セルファース教会(カトリック)と聖ヤン教会
(プロテスタント)が並んで建っている。
その教区は聖セルファース教会に統合されることになった。

顧客の減った商店が閉店に追い込まれる、または同種の商店との競合に敗れるというのにも似た
資本主義経済の原則は、教会にも当てはまる。
フランス革命までは修道士のための教会だったのが、いきなりいなくなった修道士の替わりに一般
信徒を集めるといっても無理があったのだろう。
もしくは、教区教会にしては建物の規模が微妙で、逆に信徒を収容しきれないという理由だったの
かもしれない。
ともあれ、すぐ近くにある聖セルファース教会と競合したら勝ち目はない。

人はいなくなっても建物は残された。
修道院自体、教会よりも敷地面積は広く、様々な建物があった。そちらの建物は、当初カトリックで
その後市立の中学・高校として使われることになった。

教会の建物はどうすべきか。

オランダでは、由緒ある古い建物は勝手に取り壊して更地にすることは許されない。
重要文化財級であればなおさらだ。
それでは、その建物の生きる道は?
過去の遺物の観光教会に徹するか、別の用途を見出して活用するかのいずれかだろう。
いずれにせよ、教会の建物を風化させないように維持するためには莫大な費用がかかるものである。

後者の結論に行き着いた時代を考えてもらいたい。19世紀初頭である。教会が観光だけで生き
残れる時代ではありえないことは、小学生でもわかるはずだ。

そういうわけで、カトリック教会であろうとも、プロテスタンティズムの精神とはシャム双生児のように
分け離すのが難しいように思われている資本主義の原理を避けて通ることはできなかったのである。

ほぼ同様の理由から、修道院付属だった教会や教区教会は次々と経営難に陥り、似たような経過を
辿って、別の用途に用いられている。

c0188818_1819539.jpg

            教会の内陣が、本屋の中のカフェになっている。
            マーストリヒトでコーヒー豆や紅茶を昔から扱う店が
            近年、カフェとしても進出。いつも賑わっている。


オランダでは市町村自治体ごとに美観を決定する委員会があり、建築基準に厳しい睨みをきかせている。
マーストリヒトは、特に厳しいので有名である。
古い建物の有効活用には細心の注意が注がれ、勝手に手を加えることは許されない。

例えば、やはり元修道院で現在ホテルになっている建物でも、内壁には手をつけてはいけない、
というお達しのため、客室のインテリアは、壁に全く何も触れないような配置になっている。
ベッドやデスクや箪笥やランプはもちろん、バスタブ、洗面台、シャワーも、壁から離れた位置に
設置されているのである。
その修道院付属教会も、古い壁画や天井画には手を加えずに、素晴らしくトレンディーで機能的な
デザインのレストランになっている。

c0188818_18245493.jpg

            本棚の裏側と教会の内壁には10センチくらいの隙間が。
            古い建物の壁には触らない工夫の一つだが、
            地震の多い日本では、多分許されない設計では?

建築やインテリア・デザイン的見地からも、それらの教会の有効活用はとても興味深いものだ。
今後も、そういう元教会で現在は別の用途に用いられている例を検証していきたい。
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by didoregina | 2012-03-03 09:26 | 教会建築 | Comments(2)
Commented by アルチーナ at 2012-03-06 10:39 x
なるほど・・・興味深いですね。
そして改装する際には建築物から離して設置する・・
以前紹介されていたレストランの入口の銅のトンネルも
そういう作りのような感じがしますね。
一から建築物を作るのも良いですけれど、
このような改修も面白そうですね。
一から作るにしても、やっぱり周囲の環境が特殊だと面白いでしょうしね。
結構、建築って色々な制約のなかでどうやって解決していくか、が
楽しい部分もありそうですし・・(他の仕事も?)
Commented by レイネ at 2012-03-06 16:35 x
アルチーナさま、日本の大都市部での建築は土地面積に関しては厳しいものがあるでしょうし、オランダでは美観という制約が大きいし。制約があればあるほど、クリエイティブな能力が発揮できる楽しみもやりがいもありそうですね。
例の教会レストランにまた日曜のランチに行きます。もっと細かい点もチェックしてきますね。
それと、市内の様々な元教会・元修道院のことを今色々と調べてるんですが、歴史のうねりの中で有為転変していく様がわかって、とても面白いです。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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