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イアン・ボストリッジのリサイタル@デン・ハーグの新教会

デン・ハーグまでイアン・ボストリッジ博士のシューベルトを聴きに行った。
マーストリヒトから電車で片道3時間弱の距離である。

日曜日にオランダ鉄道(NS)を利用するのは非常にリスキーなので、できるかぎり、なるべく
避けたいところだ。
なぜかというと、毎週末、必ずどこかで保線のため線路が閉鎖されているからだ。
それで、恐ろしいほどの回り道ルートになったり、一部区間はバスを代替運行させたりする。
しかし、アムステルダム、ユトレヒト、デン・ハーグ、ロッテルダムなどの都市は家から遠いので、
日帰りしようとするとマチネ・コンサートを狙わざるを得ない。だから、わたしの乗る電車のルートが
丁度その日保線に当たるかどうか、目的地まで一体何時間かかるのか、運を天に任せるしかない。

イアン・ボストリッジのリサイタル@デン・ハーグの新教会_c0188818_17461894.jpg

            会場は、デン・ハーグの新教会

ボストリッジ博士のコンサートに行くのは初めてだ。今までなかなか縁がなかったのは、マチネしか
狙えないという理由に尽きる。だから、今回のマチネ・コンサートへは万難を排してでも行くべきだ。
そして、その価値は十分以上あった。

イアン・ボストリッジのリサイタル@デン・ハーグの新教会_c0188818_17472473.jpgIan Bostridge & Julius Drake
2012122@Nieuwe Kerk Den Haag

Franz Schubert (1797 - 1828)
Wehmut
Der Zwerg
Nacht und Traume
Der Musensohn
An die Entfernte
Am Flusse
Willkommen und Abschied
Wandrers Nachtlied II
An die Leier
Am See
Im Haine
Erlkonig

pauze



An den Mond I
Nahe des Geliebten
Nachtgesang
Liebhaber in allen Gestalten
Meerestille
Auf dem See
An Mignon
Erster Verlust
Ganymed
An Schewager Kronos
An den Mond II


この教会へ足を運ぶのは始めてであるから、音響等、色々チェックしたい。

イアン・ボストリッジのリサイタル@デン・ハーグの新教会_c0188818_17581892.jpg

            1656年の中央構造式のプロテスタント教会。
            1970年代より、教会としての機能はなくなり、
            コンサート会場、結婚式場、その他バーティ用に。

右手脇の狭い入り口から入ると、チケットもぎが立っている、そこから階段を下りて行く。
すると、地下がクローク兼フォアイエになっている。階段の途中には、トイレもある。

イアン・ボストリッジのリサイタル@デン・ハーグの新教会_c0188818_183795.jpg

       30分以上前に入場したので、がら空きのフォアイエ。
       チケット代金35ユーロにはコンサート前のコーヒー・紅茶込み。

ここまでの印象では、教会とは思えないほどコンサート会場としての機能がしっかりしている。
地下は暖房も効いてるし、人が集まれば熱気がこもる。コートはクロークに預けた。一抹の不安を
感じたのだが、地下は暖かかったのだ。

カーテンの奥に、コンサート・ホールへ続く階段が隠されていて、15分くらい前に開いた。
再び階段を上がって、教会内部へ。座席には全部番号がついているからあわてる必要はない。

イアン・ボストリッジのリサイタル@デン・ハーグの新教会_c0188818_1894338.jpg

          階段を登ると、あっと驚く。正面に立派なパイプオルガンと
          シャンデリア。そして、壁面・窓・天井には、プレキシ・ガラスと
          木のパネルを組み合わせた音響板が吊り下げられている。

教会内部は、500人くらい座れそうで、天井が高く、ひんやりしている。
プロテスタントの教会だから装飾はシンプルだが、建物自体はどっしりと立派な造りである。

イアン・ボストリッジのリサイタル@デン・ハーグの新教会_c0188818_1814327.jpg

           天井の木の組み方が美しい。

こういう天井だから、音響をよくするためにパネルで補う必要があるだろう。
壁面のガラスは波打った形態で4層構造になっていて、水平の木板が間に嵌め込まれている。
それらのモダンな形態が、教会のインテリアにマッチしていて美しい。

イアン・ボストリッジのリサイタル@デン・ハーグの新教会_c0188818_18202158.jpg

           説教壇の下がステージ。ピアノはスタインウェイ。
           後ろにある窓の赤いカーテンの前にも波状プレキシ・
           ガラスの音響版が下がっている。

わたしの座席は平土間下手6列目隅で、階段に近い。他に選ぶ余地がなかったからいたしかた
ない。この教会だったら、段差があり高くなっている中央後方がベストだろうか。


ボストリッジ博士とピアニストが登場した。
シューベルト歌曲のプログラムということしか事前に知らされていなかった。直前まで日本で
ツアーを行っていたから、同じ『白鳥の歌』かな、と思っていた。
前半は、1,2,3曲目がフォン・コリン、4,5,6,7,8,12曲目がゲーテ、
9,10,11曲目がフォン・ブルックマン作詞による曲で、日本ツアーとは異なるプログラムだった。

特に前半の曲には、情熱的なメロディーが多いので、博士の熱演にも力がこもる。
CDで聴く博士のシューベルトには、時に鬼気迫るものも感じられるが、実演を目の当たりにすると
なるほど、パッションとはこういうことか、と思えた。シューベルトの生涯には博士自身、並々ならぬ
シンパシーを抱いているようで、胸の思いをありったけ表現して聴衆に訴える。その専念と集中力とが
真摯な態度と相まってこちらに迫って響いてくる。
彼の歌声には、低音の方に魅力がより感じられた。特に10,11曲目では、熱演のあまり喉に疲れ
が出たのか、高音がずいぶん弱くなって、あれっと思ってしまった。
しかし、それは、前半のフィナーレ『魔王』に備えるための前哨戦であったのだ。
1人オペラのようなこの曲を、それぞれの人物になりきって、声も絶好調で歌い終えた。

ところで、博士のパフォーマンスは多動ということで有名らしい。つまり、歌いながら思わず発散
される感情を抑えきれずに舞台で動き回ったり、顔芸も出てしまうというわけだ。
それにはさほどびっくりはしなかったが、前の列にADHDおやぢがいて、そいつの多動が邪魔
だった。配布された歌詞を読んだり舞台に目をやったりと忙しく、大体2秒ごとに頭を動かすのである。
それに耐えられず、曲間に一番隅の座席に移動した。隅だと寒さが身にしみる。コートを預けて
しまったが、次回はショール必携であると学習した。

イアン・ボストリッジのリサイタル@デン・ハーグの新教会_c0188818_18501047.jpg

          フォアイエは地下だから、壁には墓石が残っている。

階段に一番近い席だったので、休憩のフォアイエにはほぼ一番乗りだった。休憩中のドリンクも
チケット代金込みである。赤・白ワインやジュースやソフト・ドリンクが盆の上に用意されている。
それでカウンターが混み合わず、いらいらすることなく、休憩時間中に飲み終わることができる。
近年、オランダ各地のコンサート・ホールで行われているサーヴィスであるが、マーストリヒト、
ヘーレン、そしてベルギーではどこでも(多分)このサーヴィスがないから、関係者各位には、
システム導入の検討をしてもらいたいものである。

後半のプログラムは、オール・ゲーテである。そして、前半とは対照的に、静かなメロディーの曲
が多い。しっとりと聴かせる歌である。喉の調子も乗ってきたようで、声に滑らかさが増した。
それでも、切々と訴えかけるというよりは、情感抑えがたく声も大きくなり、怒りに近いような顔付と
動作もついつい出てしまう博士であった。シューベルトの歌曲において、喜びの表現というものは
封印すべし、という金科玉条を持っているのか、とも思えた。

主人は、ボストリッジ博士のドイツ語に感心していた。発音が正確でわかりやすいので、てっきり
ドイツ語ネイティブだと思ったらしい。そして、全部暗譜で歌っていることも凄い、と言っている。
あれだけの歌詞を全部憶えられる頭脳は、只者ではない、と。
そういう技術・頭脳面だけでなく感情面でも、情感溢れる博士の歌唱にはびっくりしていたようだ。
また、例の多動おやぢは、どうも知能的障害がありそうな感じだったのだが、博士の歌に感極ま
って溢れた涙をぬぐったりしていた。

観客はもちろん総立ちになり、ブラヴォーも飛んだ。
アンコール曲は、『鱒』と『月に寄す』第二作。これは、かなりのサーヴィスではないだろうか。
そして、ようやく、博士の顔に笑みがもれたのだった。
全曲歌い終わって、緊張がほぐれたのだろう。ご苦労様、そしてありがとうと労いたくなる熱演と
力唱であった。

会場の音響面では、不足や不具合は感じられなかった。まあ、歌手1人とピアノだけであるから、
器楽合奏や合唱とは比べられないが、多分、モダンな音響パネルを駆使しているから、コンサート
会場としては悪くないのではないかと思える。
by didoregina | 2012-01-24 11:24 | コンサート


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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