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エネスコの『オイディプス王』@モネ劇場

当初観に行こうかどうか迷ったが、千秋楽に行ってきた。もう2週間以上も前になる。
なぜ迷ったかというと、モネでは今シーズン、どうやら全てのプロダクションの公演終了後
3週間、タダでオンライン・ストリーミング公開するらしいからだ。
でも、やっぱりエネスコのオペラ実演観賞機会は、これを逃したらもう2度と巡ってこないかも
しれない、という思いの方が勝った。
そして、それはいい選択だったのだ。しかし、なかなか記事にできないまま日が経ってしまった。
記憶はどんどん曖昧になっていく。そういう時、ストリーミングは便利である。もう一度オンライン
で全編見直すことができる。(12月2日までモネのサイトから。ただし、字幕はオランダ語と
フランス語のみ。フランス語で歌われるからフランス語字幕を読むとわかりやすいかも)

Oedipe by George Enescu   2011年11月6日@モネ劇場

Music direction¦Leo Hussain
Concept¦Alex Ollé (La Fura dels Baus)
Director¦Alex Ollé (La Fura dels Baus) Valentina Carrasco
Set design¦Alfons Flores
Costumes¦Lluc Castells
Lighting¦Peter Van Praet
Chorus direction¦Martino Faggiani
Youth chorus direction¦Benoît Giaux

Oedipe¦Dietrich Henschel
Tirésias¦Jan-Hendrik Rootering
Créon¦Robert Bork
Le Berger¦John Graham-Hall
Le Grand-Prêtre¦Jean Teitgen
Phorbas¦Henk Neven
Le Veilleur¦Frédéric Caton
Thésée¦Nabil Suliman
Laios¦Yves Saelens
Jocaste¦Natascha Petrinsky
La Sphinge¦Marie-Nicole Lemieux
Antigone¦Ilse Eerens
Mérope¦Catherine Keen
Une femme thébaine¦Kinga Borowska
Orchestra¦La Monnaie Symphony Orchestra & Chorus

エネスコの『オイディプス王』@モネ劇場_c0188818_17245785.jpg

      
舞台にかかった幕の模様が凝ったデザインを投影したものになっていて、オイディプスの縁起を
物語っているようだ、まるで『風の谷のナウシカ』の冒頭に似てる、と思って見ていたら、なんと、
薄い紗のような布が引かれると、模様と思ったのは実際の舞台上のデコールだった。
舞台は4層の壁(穿眼のような)になっていて、テラコッタで出来た彫刻のように静止した人物が
大勢立ち様々な姿勢で並んでいる。序曲の間中、人物はじっとしたまま動かない。様式美に溢れ、
ドラマチックな緊張感のある素晴らしい幕開けだ。

実際、ドラマチックという言葉が、このプロダクションを貫いていると思える。そして、わたしは
この作品を「音楽劇」として見た。音楽はドラマのドラマチックさを増幅するための添え物的なもの
であると。
スペインの劇団La Fura dels BausのAlex Ollé とValentina Carrascoによる演出は、いい
意味で非常に演劇的で、造形やモブの動作も緻密で美的な統一感がある。

オイディプスの出生から始まる数奇な人生を語るオペラである。
ギリシア悲劇に源泉を汲むオペラ作品は万とあるが、これは非常に正攻法で出来事をクロノロジカル
に淡々と語って見せる形式だ。しかし、単に事件や出来事の羅列にはなっていないのは、演出の
巧みさのおかげだろう。演技や動作でその後の展開の暗示がされたり、人物の性格表現がされて
いる。
例えば、スフィンクスを倒したオイディプスが、それと知らずに母と結婚する場面では、血の
着いた手で母の白い腕を汚す。母は、はっとしたような目で汚れた腕を見る、という具合である。

また、オイディプスというえばフロイト、という連想そのもののシーンに、白衣にカルテを手にした
精神科医のような養母が、カウチに横たわるオイディプスの夢診断をする、という場面があった。

三叉路で父王とオイディプスが出会うシーンも後々のドラマの伏線になっている。
道路工事中の道に仁王立ちのオイディプスが、車で通りかかった王たちを酒に酔った勢いで殺す、
という残酷な展開なのだが、羊飼いならぬ道路工事人夫にしっかり目撃されている。


古代ギリシア語のドラーン(行動する)がドラマの語源だとすると、このオペラがドラマチックに
展開するのは、主人公オイディプスの行動に負うところが大きい。
夢と神託という、いかにも古代ギリシア的な要素が劇の進行を支配しているのだが、それに抗する
行動に出て「宿命」を打ち砕こうとする人間がオイディプスである。

エネスコの『オイディプス王』@モネ劇場_c0188818_1855268.jpg

        スフィンクスは小型飛行機に乗っている。飛行機の造形は
        なるほど、スフィンクスそのものだなあ、と思わせる。
        スフィンクス役のルミューの歌唱は迫力と説得力に満ちている。

スフィンクスの投げかける問いは、「宿命に打ち克つものは何だ?」という近代的なものだが、
自信満々のオイディプスは「それは人間」と答えてスフィンクスを負かす。よく言われるように、
「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足の動物は?」という問いではないのがミソである。

エネスコの『オイディプス王』@モネ劇場_c0188818_18412293.jpg

        平和と幸福の後には災いが。ペストに苦しむテーベを救えるのは、
        罪を犯したオイディプス王だけ。償いのために自ら目を潰す。

自らの行動こそが、宿命に打ち克つ方法だと信じるオイディプスは、しかし、暗い宿命に翻弄される。
償いとしての行動は、テーベ市民には理解されず、追放され、娘アンティゴネと放浪の旅に出るという
前途に全く救いの見えない状況だったのだが、最後には天から注ぐ泉の水オイディプスは浄化される。

エネスコの『オイディプス王』@モネ劇場_c0188818_1945482.jpg


音楽もドラマチックではある。しかし、歌は無調なので、メロディーとして印象に残らない。観賞して
いる時には圧倒されても、すぐに忘れてしまうのだ。だから、音楽は添え物として聴いて、美しく
統一の取れた舞台のドラマを観た気分になるのだった。それで満足はできる素晴らしいプロダクション
だった。

エネスコの『オイディプス王』@モネ劇場_c0188818_1994946.jpg


歌手は、低音の男性の登場人物がやたらと多い。だから、華やかさには欠ける。
女性では、母イオカステ役が美しくしかも迫力ある歌唱で舞台を〆ていた。それから、スフィンクス役
のルミューは期待通りの素晴らしさだった。
指揮者のフセインは、若いのにどうも神経質すぎるようで、正確さを出したいのはわかるが溌剌さに
欠ける。冒頭、客席の雑音がなくなるまで、何度も指揮をし始めるのだが止めたりしていた。
by didoregina | 2011-11-22 11:13 | オペラ実演


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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