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Norwegian Wood

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Tran Anh Hung,  Japan 2010, 133 min.
Naoko   Rinko Kikuchi,
Watanabe   Ken’ichi Matsuyama,
Midori   Kiko Mizuhara,
Nagasawa   Tetsuji Tamayama,
Kizuki   Kengo Kôra













ほとんどの場合、映画が原作をしのぐことはない、と決めてかかってもまちがいはない。
本を読んでから映画を見て失望したなどというのは、だから、確信犯のマゾヒスト的行動である。

小説『ノルウェイの森』には、全く感動しなかったどころか、あまりの稚拙さにしらけてしまって
なんの思い入れもないから、この映画化にはある意味で期待があった。
全世界中でベストセラーになり、これをもってノーベル文学賞を村上に取らせろ、という声が上
がるほど大衆に認められた傑作なのだからして、わたしの期待を下回る映画は作りようがない
だろう、と。

その意味で、わたしの期待には大いに応えてくれた映画であった。
愛読紙NRCでの、この映画の評は芳しくない。また、この新聞紙上では村上春樹の文学的才能
にも大きな疑問符が付されていているから、一般的世評とは異なる評価をNRC読者もある程度
持っていると思う。来週土曜日には、デン・ハーグにおいてNRC主催の「村上春樹文学ライブ
討論会」がある。彼の文学は本物なのか、単に大衆操作の上手いペテン師か、というディスカッ
ションが行われるようである。最新作『1Q84』のオランダ語版発売は、まるで『ハリー・ポッ
ター』最新刊発売のような鳴り物入りだった。国境を越えて売れる作家である。
そして、アンチ村上派もまた多い(だろう)ということは、彼が現代文学界で無視できない大きな
存在であることを如実に物語っている。アンチ・ファンもファンのうちなのだ。

小説『ノルウェイの森』に思い入れのある人にとっては、これは駄作の映画だろう。
わたしには、逆に、全く小説そっくりに作ってあって上手い、と思えた。
読むと、うそっぽすぎて足の裏がむずがゆくなるような会話や独白が、映画だとなかなかに画面の
作り物っぽい60年代の雰囲気とマッチしていて、気にならないどころか笑える。

渡辺役の俳優の目元が村上春樹を髣髴とさせて、私小説の味わいがそこはかとなく視覚的にも
漂う。
女優が皆、小説の登場人物よりもずっと存在感があって、好感すら持てる。
日本の四季を、ベトナム人監督とカメラマンがエキゾチックに美しく撮っているのも、マル。
れいこさん役の女優がギターを爪弾いて歌う『ノルウェイの森』が、しみじみと上手く、聞かせる。
糸井重里、細野晴臣、高橋幸宏が、カメオ出演しているのが、あとでわかって楽しい。
終わったあと、映画館になぜか笑いが広がったというのが、珍しい。

と、この映画にはけなす点がなくて、ほめることばっかりだ。
しかし、それは小説と比べた相対比であって、絶対的な長所ではない。
映画単独としてみたら、突っ込みどころもなくて、つまらないものだ。
だから、原作よりも劣るかといったらそうともいえない。


もうすぐ、ロッテルダム国際映画祭の開幕だ。
カズオ・イシグロ原作のNever let me go(邦題『わたしを離さないで』)も参加する。
キーラちゃん出演だし期待できる作品であるが、評によると、「奇想天外のストーリー展開を
知っていると面白さは半減だから、まっさらなままで観るがよろしい」とのこと。
『わたしを離さないで』と『素数たちの孤独』と『ノルウェイの森』が、いずれも国際的ベストセラー
小説の映画化ということで、比較する記事もあった。小説の映画化は、なんであれ、ありがたいこと
だと感謝する。

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さて、それとは別に、ロッテルダム映画祭にルトガー・ハウアー主演の作品も出品される。
The Mill and the Crossというタイトルで、ブリューゲル作のウィーンの美術史博物館にある
『十字架への道』をデジタル映画化した(!)という、想像の埒外のエキサイティングなものだ。
薬中・アル中のオヤジ姿をTVトークショーにさらすことの多いルト様であるが、役者および最近は
監督および映画普及活動家としては、まだまだ腐ってはいないのだ、と安心した。
しかも、共演はシャーロット・ランプリングとマイケル・ヨークである。期待に心躍る。
by didoregina | 2011-01-14 22:07 | 映画


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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