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グラインドボーンの『こうもり』

新春を飾るにふさわしい演目といえば、シュトラウスjrの『こうもり』だ。
Bravaでは年中放映しているが、マレーナ様がオルロフスキー役で出演しているこの
グラインドボーン版を全編鑑賞するのは、実は初めて。
イギリスやオランダのオペラ評では、妙に暗い舞台だと言われているのと、マレーナ様の髭面も
今回の役作りもあまり好みではないので、それほど積極的に見る気はしなかったのだ。
ともあれ、ようやく鑑賞した。

グラインドボーンの『こうもり』_c0188818_0523213.jpg
Alfred: Pär Lindskog
Adele: Lyubov Petrova
Rosalinde: Pamela Armstrong
Gabriel von Eisenstein: Thomas Allen
Dr Blind: Ragnar Ulfung
Dr Falke: Håkan Hagegård
Frank: Artur Korn
Prince Orlofsky: Malena Ernman
Frosch: Udo Samel
Ida: Renée Schüttengruber


London Philharmonic Orchestra (Leader Pieter Schoeman)
The Glyndebourne Chorus (Chorus Master Bernard McDonald)
Conductor: Vladimir Jurowski
Director: Stephen Lawless
Set Designer Benoit Dugardyn

キーワードは「シャンペン」。
まず、緞帳の柄がシャンペンのラベルを模したもの。そして、後半は終始シャンペンを飲みながらの
馬鹿騒ぎ。シャボン玉の飛ぶバックもまるでシャンペンの泡立ちのようで、酔いとともに登場人物が
瓶の中に閉じ込められてるイメージだ。

グラインドボーンの『こうもり』_c0188818_12567.jpg

       アイゼンシュタイン家の館のロザリンデとガブリエル夫婦。
       インテリアもクリムト風模様の衣装も世紀末の薫り高い。

グラインドボーンの『こうもり』_c0188818_162153.jpg

       室内着のクリムト風衣装に注目のこと。

確かに、舞台は薄暗いが、これは世紀末の雰囲気を高めるためのものであり、こういう薄暗い
室内でこそ、クリムト風金襴の衣装と装飾の妖しい美しさが映えるのだ。
世紀末を表現するのにこの陰影のニュアンスはまさに最適。当時、ブルジョワの家に掛けられていた
装飾性の強いクリムトの絵画が光芒を放ったのは暗い室内だったからこそと同様だ。

グラインドボーンの『こうもり』_c0188818_115259.jpg

       オルロフスキーの館は、間口が狭くても高さはある
       グラインドボーンの舞台を最大限に利用するように、   
       階段とアールデコ風の回り舞台。ダンスや歌の
       最中でも舞台はしょっちゅう回る。

グラインドボーンの『こうもり』_c0188818_1182030.jpg

       ロシア貴族オルロフスキーは、メランコリーな病に冒されてる
       という設定の割には、歌も台詞も躁っぽい。
       エキセントリックな役柄は、マレーナ様の得意とするもの
       だが、この役はちょっと合わないような気がする。

マレーナ様の、低い声でしゃべるロシア訛りのドイツ語の台詞回しは上手い。
しかし、歌になると、高音の多いこの役の音域のためか、女性っぽく聞こえるのだ。
演技は抜群なのに、バロック的な歌い方のせいか、どうも世紀末的なアンニュイが感じられない。
声だけ少年みたいで清々しくなってしまうのだ。
この役は、CTが歌うほうがいい。

グラインドボーンの『こうもり』_c0188818_12762.jpg

       アデーレ役は、聞かせどころアリアが多くて得だ。
       歌手も期待に応えている。


この演出では、こうもりの復讐に重きがかかっているので、無口で無骨・無粋なのに、
こうもり博士は、影で全てを操ってるような役柄だ。
丁度、ポール・デルボーの絵によく描かれているジュール・ヴェルヌのリーデンブロック教授
みたいな雰囲気で、独特の存在感を出している。陰湿さが匂ってくるかのような。

全体的に笑いを取ることに重点が置かれていないのも、このプロダクションは妙に暗い、と
いわれる所以でもある。見ながら、わっはは、と笑える要素が非常に少ない。

しかし、まるでオスカー・ワイルドの母親がそうだったように、やっと目を凝らすと見えるような
暗い室内で装飾華美な服装と濃い化粧を凝らしてじっと座っていて、そこだけ不気味にぼっと
灯った薄明りのような味わいの、陰影礼賛的なこのプロダクションは結構気に入った。
世紀末やベルエポックの陰影に沈んだ中の微妙なかび臭い空気を味わわせてくれたからだ。

       
by didoregina | 2011-01-07 17:54 | オペラ映像


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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