クリムトの「ユディット」 美術と音楽の相乗作用その1

ウィーン2日目は、朝から晴天である。
半そでのポロシャツにミニスカート、タイツとパシュミナという格好で一日歩いて観光した。

ホテルからワンブロック先に分離派会館ゼツェッションがある。
ここでクリムトの壁画『ベートーヴェン・フリーズ』をまず見よう。

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      ロータリーから見たゼツェッション。葉っぱをつなげたような金色の
      ドームが陽光に映える。
      花壇のある小公園には、なぜかさまざまな都市のマンホールの蓋が
      集められている。

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ベートーヴェンの『歓喜の歌』からインスピレーションを得たというこの壁画は、長年見てみたい
と憧れていたが、展示室に入って対峙すると、それほどの感慨が沸いてこなかった。

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絵を見ても、頭に音楽が鳴り響いてこないのだ。
どういうことだろう。

絵を見ると、すぐに音楽が聞こえてきたり、頭の中が文字で一杯になるような気がすることがある。
前者は、象徴派や印象派の絵の場合が多く、後者は、図像の絵解きをしなければならないような
神話や宗教的題材の近代より前の絵に多い。

ここにあるクリムトの絵とわたしとの接点はいつのまにかなくなっていて、心は遠く離れたところに行って
しまったようだった。クリムトとベートーヴェンという組み合わせも、いかにもウィーンらしいという気が
していたのだが。

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       ゼツェッションを出ての道すがら、ベートーヴェンの像に出会った。


次の目的地は、ベルヴェデーレだ。
まず『スリーピング・ビューティ』展を見た後、本館にあるオーストリア絵画館に行った。

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ここでもクリムトの絵がメインであるが、セガンティーニとホドラーのいい絵があるからうれしい。
27,8年前にここを訪れたときには、『接吻』『抱擁』などのキンキラと華やかな装飾性の強い
絵に惹かれたが、今見ると、どうもメジャーになりすぎて手垢がついたような感じがして、正視に
耐えられないくらい俗悪に思えた。これは、単にわたしが年を取った証拠なのかもしれないが、
コマーシャリズムの犠牲になった絵が哀れだ。

その代わり、クリムトの別の絵で、ほの暗い背景に浮かぶようなタッチの肖像画がいい、と思った。

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     クラヴィンのカルロスに扮した役者ヨーゼフ・ルウィンスキー
     (1895、 ベルヴェデーレ・オーストリア絵画館蔵)

金色を小量効かせてきりっとした使い方で、背景から煙るようにぼおっと浮き出る繊細な人物像との
対比が絶妙。線的・平面的なタッチと立体的でファジーなタッチとの組み合わせが洗練の極地だ。
こういう肖像画なら、頼んで描いてもらいたい。

そして、もう一枚、不思議と気に入った絵があるのだが、それは、次回の話にしたい。


BravaTVで昨日、モーツアルトの唯一のオラトリオ『救われたベトゥリア』を放送してくれた。
2006年にザルツブルクでコンサート形式で上演されたものだ。

c0188818_22362534.jpgMozart  Betulia Liberata(1771)
libretto  Pietro Metastasio (1698-1782)

Jeremy Ovenden als Ozias
Marjana Mijanovic als Judith
Franz-Josef Selig als Alchior
Julia Kleiter als Ami
Christoph Poppen 指揮
Münchener Kammerorchester
KV Wiener Staatsopernchor






聖書の「ユディット書」に題材をとった、モーツアルト15歳のときの作品だ。宗教的な作品はほとんど
書かなかったモーツアルトだから、オラトリアというのは珍しいが、生前は上演の機会に恵まれなかった
ようだ。
ベトゥリアが陥落寸前、寡婦ユディットは美しく着飾って敵の陣地に乗り込み、敵将ホロフェルネスを
誘惑し天幕の中で寝首を切り取った、という故事は、絵画ではよく見かける題材である。



ユディット役のミヤ様に注目してもらいたい。いつもと違うイメージではないか。妙にフェミニンだ。
しかも髪型は、クリムト描く『ユディット』そっくり!
いくら女らしく歌ってもミヤ様のユディットは、クリムト描く官能的な女性像とはかけ離れている。
しかし、それはミヤ様の責任ではない。天才とはいえ、15歳のモーツアルトが作ったユディット
像は、世紀末的ファム・ファタールにはなりえなかったのだ。時代や作曲を依頼した人の嗜好や
意向も無視できないだろう。モーツアルトのユディットは、お国のために、やむなく敵将を誘惑して
殺すという、正義の人なのだ。

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   『ユディットI』(1901、ベルヴェデーレ・オーストリア絵画館蔵)
by didoregina | 2010-09-23 15:38 | 美術


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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名前:レイネ
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性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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