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「アウリスのイフィゲニア」@モネ劇場

寒波と共に大雪が降った。
ベルギー首都圏では、しょっぱなから25センチも積もったので、交通マヒの様子である。
日曜日には状況も落ち着きをみせるかと思ったら、今度は吹雪。
ベルギー国鉄は列車の運行をしてくれるのか、心配になり、4時間も前に家を出た。木曜日から列車は最大1時間の遅れだとラジオで言ってるから、念には念を入れよ、である。
しかし、なんでこんな日にブリュッセルまで出かけなければならないのか。めったにないダブル・ビルのオペラ・チケットを買ったからだ。(<-ツッコミ)

c0188818_6521849.jpgmuzikale leiding | Christophe Rousset
regie | Pierre Audi
dramaturgie | Klaus Bertisch
decor | Michael Simon
kostuums | Anna Eiermann
belichting | Jean Kalman
koorleiding | Piers Maxim

Agamemnon | Andrew Schroeder
Clytemnestre | Charlotte Hellekant
Iphigénie | Véronique Gens
Achille | Avi Klemberg
Patrocle | Henk Neven
Calchas | Gilles Cachemaille
Arcas | Werner Van Mechelen
Diane | Violet Serena Noorduyn

Symfonieorkest en koor van de Munt

グルックの「イフィゲニア二部作」は、たしかに、主役が同じで、10年を間に挟んだ二つの事件を取り扱ったものだが、はたして、二部作として一挙上演する意味はあるのか。作曲家は、それを念頭において作ったものか、そうだとしたら、なぜ、一挙上演される機会があまりに少ないのか。
とにかく、意欲的な取り組みであることは間違いない。
両方合わせて5時間弱(1時間の休憩をはさむ)であるから、マチネで一挙に観るのが一番理にかなっていそうだ。

順を追って、まず第一部とも言うべき、「アウリスのイフィゲニア」について述べよう。

エウリピデスによる同テーマ同タイトルのギリシア悲劇とは、このオペラは少々趣が異なった。
たまたま、2年前に蘭・独・白の高校生による3ヶ国語上演で、このギリシア悲劇を観たが、印象があまりに違った。どこにドラマの焦点を置くか、視点が変わると展開のスリルも異なる。

トロイに向かうギリシャ軍の総大将アガメムノンが、神(ディアナ)を冒涜した罰で、風が凪ぎ、船は出航できない。神の怒りを抑えるため、娘のイフィゲニアを生贄に捧げなければならなくなる。それを食い止めることの出来ない母親クリュタイムネストラの苦しい心中と、報国という諦めの境地に至ったイフィゲニア。
結局、ディアナの加護により、すんでのところでイフィゲニアは救われるのだった。

ギリシア悲劇のほうでは、クリュタイムネストラの、母としてなすすべのない嘆きと、戦争という大義のために人身御供を求める軍や民衆との板ばさみで、アガメムノンも苦しむ。
c0188818_732405.jpg

         母(左)と娘。(その後に指揮者ルセ)
         迷彩カラーのドレスが素敵。

オペラのほうでは、そのアガメムノンは、横暴な専制君主そのものの軍司令官で、冷血この上ない。
また、特に目立って登場するのがアキレスである。イフィゲニアの婚約者として。
アガメムノンは苦肉の策として、アキレスとの結婚を口実に母と娘を騙すのだ。
そして、一番大きな違いは、多分演出家の視点がそうなのだが、今回のオペラでのクリュタイムネストラには、母親としての苦しみがあまり表現されていない。娘に対する態度が、どこかよそよそしく、哀しみの表情も白々しいのだ。まるで、継母。

c0188818_7374056.jpg

         アキレスとイフィゲニア。(または春樹と真知子)
         「戦争が終わったら、数寄屋橋で会おう」

また、イフィゲニア自身も、戦時下という非常事態で、絶対的権力を振るう父親の忠実な部下のごとく振舞う。だから、静かな諦観と共に生きる尼僧のようで、アキレスとの恋愛においても運命に翻弄されるがままになっているから、まるで「君の名は」のパロディではないか。

オーディの作った舞台は、いかにも彼らしくて、物理的にもギリシア的ドラマの基本を正しく表現したものだ。
具体的に言うと、ドラマの舞台はオケピットの上に作られ、オーケストラは普段の舞台上、つまり歌手の後方で、そのまた後ろの半円形の階段状の椅子に合唱隊と観客の一部が座る。足場を組んで上手と下手に階段が建てられ、上手の階段はロイヤル・ボックスに繋がる。そこが、軍司令部というわけだ。
舞台後方には、半円の階段状の座席が設置され、そこには放射状の通路も設けられている。
通常のオペラ舞台が、正面から見ることを前提に作られているため、上下・奥行きがあっても平面的にならざるを得ないのに対して、今回の舞台は、3次元の構造がくっきりと立体的になっている。舞台がかなり客席に入り込むことになるからだ。
また、観客の一部が合唱隊と混じった舞台後方の席に座るというのも、合唱隊(コロス)は民衆の声を代表するという、ギリシア劇本来の姿に呼応している。

舞台装置もいいが、特に気に入ったのは、またしても衣装だ。
c0188818_81276.jpg

戦場が舞台なので、衣装には迷彩モチーフが、ろうけつのように繊細な方法で染めてある。その色合いも微妙なトーンのグラデーションで、そのまま着物の柄にしてもよさそうな上品さである。近くで見ると、いわゆる迷彩服とは、全然違うのがよくわかって、欲しくなってしまった。
王妃は、迷彩モチーフのロングドレスに赤のベレー帽という、素敵ないでたち。
生贄に捧げられるイフィゲニアの体には、手榴弾が巻きつけられ、まるで、現代の自爆テロに利用される弱者そのものだ。

そんな風に、オーディには珍しく、ちょっぴり時事が盛り込まれているが、それはほんのりとした味付けで、そのものズパリという悪趣味ではなく、観客にニヤリとさせる程度で、くどくない。いくらだって、置き換え・読み替えは可能だが、オーディの美意識はそれを避ける。
そのせいか、オペラを鑑賞したというより、ドラマを観たという印象のほうが強かった。

音楽は、グルックのオペラから、バレエなどのトラジェディ・リリクの要素を取り除き、簡潔に換骨奪胎したものだと、ルセが言っている。
そうすれば、たしかに、バロックから決別したグルックの音楽の革新性がより鮮明に浮き彫りにされる。

ヴェロニク・ジャンスの声が、清純無垢な娘の表現にぴったりだった。演技も悲劇の主人公になりきって、表情もデリケートで好演。しかし、彼女は、びっくりするほど大柄で馬面だった。カーテンコールでルセと並ぶと、ルセのほうが首一つ分小さい。
その他の歌手は、古楽系とクラシック系が入り混じっていた。アキレス役の歌手は、鼻声が強いヘルデン・タイプだ。だから、かえって、ヴェロニク・ジャンスの清清しい歌い方が、古楽的に聞えた。
by didoregina | 2009-12-22 00:32 | オペラ実演


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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