人気ブログランキング | 話題のタグを見る

教会でのコンサートと芸術のお値段

聖セルファース教会で、なかなかに気骨のありそうなチャリティ・コンサートがあることを知り、興味を持ち、出かけた。
ローマにある、オランダ・ベルギーおよび北部ドイツからの巡礼のために400年ほど前に建てられた、通称フリース教会の修築費用供出のために、有志が結成した合唱団によるカトリック教会音楽のコンサートだ。
教会でのコンサートと芸術のお値段_c0188818_5294188.gif

            ローマのフリース教会内部

この教会は、サン・ピエトロの筋向いの建物の奥、階段を登った場所にひっそりとあり、知っている人しか訪れそうもないが、オランダからの巡礼には親しまれてきているそうだ。

寄付金集めのために全国5箇所でコンサートを行い、その最後のがマーストリヒトだった。
プログラムは、グレゴリア聖歌から始まり、ジョスカン・デ・プレから現代に至るオランダ人作曲家によるカトリック音楽の流れを辿るものとなっている。

教会でのコンサートと芸術のお値段_c0188818_681584.jpg

          会場となった聖セルファース教会の主祭壇

復活祭・昇天祭・精霊降臨祭のグレゴリア聖歌に続いて、ジョスカンとまた別の作曲家による16世紀のポリフォニーのあとは、ぐっと時代が現代に近づき、いきなり20世紀である。20世紀のオランダ人カトリック作曲家の名前なんて、誰も知らないだろうし興味もないだろうから、ここには書かない。それが10人も続いた。
それらは、主に合唱曲で、メゾとバスによる独唱曲も少しあった。そして、合間にオルガン独奏曲も入った。20世紀オランダのカトリック音楽は、いずれもラテン語の歌詞でくどくどとキリストやマリアを讃える内容で、音楽にもあきれ返るほどオリジナリティーが乏しく、16世紀からほとんど進歩していないように聞こえた。

教会でのコンサートと芸術のお値段_c0188818_6272282.jpg


その中で異質だったのは、なぜか真ん中と最後に歌われたポーランドの現代作曲家グレツキのTutus tuusと O Domina nostraで、これはわたしの好きなミニマルな聖歌であるが、その独創性には、他の曲と比べると天と地ほどの差がある。さすがに、世界的に活躍しているのも故なしではない。
歌詞はたった一行で、音楽もミニマルなのに、そのインパクトの強さと美しさは秀でている。言わずもがなの賛美は無用、とばかり、「おお我らの神よ」と「マリア様、わたしは全てあなたのものです」というタイトルがほぼそのまま歌詞になっているだけだ。それが、劇的に高揚する音楽とぴったりとあって聞き手の胸に迫る。

最後から二番目に、1962年生まれのオランダ人作曲家Aart de Kort によるLaudate Dominumが、作曲家自身によるオルガン演奏で歌われた。この曲だけは、面白かった。わたしと同年代の作曲家によるこの曲は、エマーソン・レイク・アンド・パーマーの「タルカス」そっくりで、かっこいいのだった。現代オルガン曲は、不協和音やとんでもない効果音ばかりでがんがんと頭を殴られるような気分になるものも多いが、この曲はなかなか感じがよかった。

教会でのコンサートと芸術のお値段_c0188818_651732.jpg

         聖セルファース教会のパイプオルガン

さて、寄付金としては、いくらが妥当であろうか。
払う額は、個人の思惑に委ねられる。わたしは、コンサート内容に妥当な額と踏んで3ユーロ払った。お札で払っている人も結構いた。

教会でのコンサートと芸術のお値段_c0188818_628442.jpg

     教会の外に出たら、絶妙のタイミングでカリヨンが鳴り出した。
     バッハのマーチだった。

芸術作品やコンサートなどに払う金額には、相場と思えるものがある。しかし、安ければ安いに越したことはない。
その相場が、一般の常識と非常に隔たっているのが現代アートの世界だ。デミアン・ハーストなんて、今年も現代アート長者番付トップだろう。また、ゴッホやセザンヌ、モネなど印象派の絵も競売に出されるとあいも変わらず高値を呼ぶ。

おかしいのは、気に入って目をつけていたアーチストの作品が、その後ぐんと高値になった場合、買える訳もないが、「やはり、わたしの目は確かだった」などと思い、なんとなく満足・納得してしまう自分だ。
ピーター・ドイグの展覧会をボネファンテン美術館で観たのは7,8年前だと思う。冷たくしんとした空気が感じられて気持ちがよく、ブライアン・イーノの音楽が聞こえてきそうな素敵な絵の数々に引き込まれた。それが、2年前から、押しも押されぬ高値の付く画家になってしまった。先日も、彼の絵はまたまた予想以上の値で売れた。うれしいような、悲しいような気分である。
ナイジェラ・ローソンの旦那さんのチャールズ・サーチのギャラリーに、彼の絵がいくつか所蔵されている。

教会でのコンサートと芸術のお値段_c0188818_6325350.jpg

       オランダ最初の司教、聖セルファース。
       4世紀に亡くなった彼の墓の上に建てられた
       聖セルファース教会は、オランダ最古。
by didoregina | 2009-10-29 22:39 | コンサート


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


以前の記事

2020年 09月
2018年 04月
2018年 03月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 08月
2016年 11月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 06月
2015年 04月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月

タグ

最新のトラックバック

カテゴリ

全体
バロック
映画
オペラ実演
オペラ映像
オペラ コンサート形式
着物
セイリング
コンサート
美術
帽子
マレーナ・エルンマン
イエスティン・デイヴィス
クイーン
CD
20世紀の音楽
旅行
料理
彫金
ビール醸造所
ベルギー・ビール
ハイ・ティー
サイクリング
ダンス
ハイキング
バッグ
教会建築
カウンターテナー
演劇
未分類

検索

その他のジャンル

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧