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Dido & Aeneas @ ROH

ついにその日はやってきた。
サラ・コノリーによる「ダイドー」をコヴェント・ガーデンで鑑賞というのが、今回のロンドン遠征の第一の目的であった。
それが、縁あって、前日にネトレプコとガランチャによる「カプレッティとモンテッキ」を観ることができた。
華やかな主役二人によるベルカント・オペラの翌日に、イギリス・バロックのオペラを体験することになったのだが、そのコントラストは予想以上に大きかった。

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Music   Henry Purcell
Choreography   Wayne McGregor
Director   Wayne McGregor
Set Designs   Hildegard Bechtler
Costume Designs   Fotini Dimou
Lighting   Lucy Carter
Conductor   Christopher Hogwood

Dido   Sarah Connolly
Belinda   Lucy Crowe
Aeneas   Lucas Meachem
Sorceress   Sara Fulgoni
Spirit   Iestyn Davies
First Witch   Eri Nakamura§
Second Witch   Pumeza Matshikiza§
Second Woman   Anita Watson§
Sailor   Ji-Min Park
Dancers of the Royal Ballet
Orchestra of the Age of Enlightenment

この晩も、前日同様ほぼ満員御礼の盛況であった。特にこのプロダクションはロイヤル・バレエとのコラボであることから、オペラ・ファンだけでなくバレエ・ファンも詰めかけたからだ。
そして、本日のオペラはBBC4で5月15日および22日に放映されるため、テレビ・カメラが多数入っていた。(放映後、DVDとして発売されるらしい。)

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わたしたちの席は、昨晩同様、舞台を右サイドから見る位置の2列目であり、1台のテレビカメラのほぼ隣上方であった。昨晩よりも、少し後方で舞台からは離れた位置になる。つまり死角はないのだが、その分舞台が遠のくので、一長一短であり、観る人の好みと演目によってその価値は変わってくる。わたしは、指揮者を横から見る位置だった昨日の席のほうが断然好きだ。2列目はクッションが少々悪い升席で、お値段は45ポンド。

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        今回もごいっしょしてくださったロンドンの椿姫様と。

オーケストラは、サラ様の「ダイドー」CD同様、オーケストラ・オブ・エイジ・オブ・エンライトメントである。(OAEは、2日前にアムステルダムのコンセルトヘボウで、キャンセルになったアムステルダム・バロック・オーケストラの代わりに「マタイ受難曲」を演奏している。)
指揮が、クリストファー・ホグウッドであるのが、ちょっと予想外だ。というより、この指揮者は、はっきり言って好みではない。手持ちのCDからの印象なのだが、イギリスの古楽系指揮者の中では、どうもホグウッドは主張が薄く頼りない音を作り上げるようで、わたしの求める演奏とは対極にあるのだ。どうなることやら。。。
前奏が始まると、わたしの胸騒ぎは杞憂ではなかったことがすぐにはっきりした。

OAE演奏のCDはもう、耳にタコができるくらい聴いた。きびきびと快活で若々しい演奏がとっても気に入っていた。ところが、ナマで聴く演奏は、水で薄まったような、ぐずぐずと輪郭がぼやけたような、いかにもホグウッド好みのものになってしまっているのだった。
「ダイドー」CDのレコーディングでは、特に指揮者を選ばず、団員の一人がリーダーとなって作り上げたのだが、今回の生演奏は、これが同じオケによるものとは信じがたいほど主張のない、魅力の乏しいものに成り果てていた。

舞台は、シンプルでほとんど装置らしいものはなく、ダンサーたちには踊りやすいだろう、と思わせるものだった。そのダンサーたちは、黒のショートパンツで体操着みたいな姿で、これもシンプルである。
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中央後方にたたずむのが、サラ様ダイドーであった。彼女にはほとんど振り付けはなく、すり足のような足運びで前方に歩む。登場したときは、シュミーズのような薄手のちょっと心もとないドレス姿で、悲劇の結末を暗示するようないでたちだったが、歌い始まる前に、ベリンダから打ち掛け風のキモノっぽい外套を着せ掛けられた。これで、気高い女王の風格が加わった。

ベリンダというのは、若手ソプラノ歌手のデビューにぴったりの準主役で、妹または侍女という役どころである。ダイドーとは正反対で、未来展望が楽天的、しかし、ダイドーに尽くしその身を案じる心優しい性格だ。わたしは、ベリンダというのは絶対ダイドーの妹であるはずだ、と思う。年若い侍女が、ここまでダイドーや王国の未来を憂えるわけがないからだ。
そのベリンダ役は、CD同様ルーシー・クロウである。全く期待通りで違和感がない。

エネーアスはバリトン歌手が歌っているが、まあこれはどうでもよろしい役である。CDでも舞台でも影が薄い役で、よっぽどの美男子(原作ではヴィーナスと人間の男との間に生まれたことになっている)か、勇者タイプでなければ見るに値しない。それとも、イアン・ボストリッジみたいに腺病質で女王ダイドーの同情を買う弱弱しいタイプで行くかだ。今回の舞台でも全く印象に残らなかった。

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        中央にベリンダ。左にはシャム双生児のような二人の魔女。

この魔女役の一人が、3月にネトレプコの代役でジュリエットを歌った中村恵理さんである。二人の魔女は左右にくっついたシャム双生児のような衣装で、動きもそんな感じでなかなか視覚的には面白かった。
恵理さんは、まだ若いのにこんなおどろおどろしい役が上手であった。ふたりとも若手育成プログラム研修生であるという。でも、恵理さんがどんなジュリエットだったのか、この晩の歌声からは想像がつかなかった。

肝心のサラ様である。
誇り高いカルタゴの女王、というよりは、若い外国の男の魅力に囚われた中年女性の心細さを強調した役作りと思えた。冒頭から最期のアリアまでほぼ一貫して、捨てられる運命の痛々しさがひしひしと伝わる、しんみりとした歌いぶりであったからだ。気丈でけなげな妹の支えがなければ、立っていることもできないだろうと思わせる、悲劇の女王ダイドー、である。ちょっと、一昔前の大和撫子のイメージか。それはそれで一つのキャラクター解釈なので、サラ様が女性役を歌うときの癖(?)でもある、ピアニッシモ多用が生きていたと思う。
パーセルの音楽にしてからが、ダイドーの歌に付けられたメロディーには希望や明るさが感じられないのだから。

こうして、サラ様ダイドーをナマで観て聴いてみて、ますます9月のマレーナ様によるダイドーにお目にかかるのが楽しみになった。きっと、演出にしろ、役作りにしろ、歌い方にしろ、全く異なったものになるだろうから。

演出といえば、今回のプロダクションではバレエの振り付け師が演出も兼ねていた。
しかし、どうして「ダイドー」に限らずパーセルのオペラ演出にはダンスが多用されるのか。
音楽だけの場面では、ダンスがないと間が持たないというのは、バロック・オペラには共通だと思う。
しかし、オペラなのかダンスを見に来ているのかわからなくなるほどで、ダンスが邪魔に感じられる場合も往々にしてある。
ロイヤル・バレエの若いダンサーたちは、肉体もテクニックも強靭に鍛えられているから、観ていて気分はよくなるが、アクロバティックなダンス以外でも間を持たせられるような演出は考えられないのだろうか。どうも安易にダンスに逃げているようで、演出の可能性をかえって狭めているように思えるのだ。
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by didoregina | 2009-04-08 21:15 | オペラ実演


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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