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昼食会には紬で

着物を着る回数が恐ろしく減っている。最後に着たのは、9月のストックホルム遠征である。
12月は、なるべくオペラなどに着物で出かけたいと思っているが、その前に丁度いチャンスが
あった。
オランダ生活を今年いっぱいで終えられ、もうすぐ日本に帰られるバービーさん、A子さんとの
お別れ昼食会だ。

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          レストランは、ファルケンブルクにあるジェローム

このレストランは、この1,2年、そのクリエイティブな料理が話題になっていて、ぜひ一度行き
たいと思っていた。
平日の昼間だと、町中でなく郊外にあるレストランは閑散としている。わたし達4人以外の客は、
もう一組だけだった。

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     突き出しは、山羊のチーズとラベンダー入りのミニ・タルト・サレ、
     キャッサバにイカ墨を混ぜた揚げ煎餅、パクサイとさやえんどう、ゴマのソース。

この写真のイメージや食材は中華っぽいが、れっきとしたフレンチである。色々な香りや味が
楽しめ、今日の料理に期待を沸かせるアミューズだ。

ランチだから、3コースのプリフィクスにした。各コースとも2種類の料理から選べる。

前菜は、
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    オランダの小エビ、ライ麦のクランブル、シコン、キャビアに卵のソースと森のキノコのソース。

もしくは、
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        マグロの照り焼きとゴマの薄焼き煎餅。


主菜は、
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        りんごとブラッド・ヴルストの上に乗っかったシャコの胸肉、キノコ、
        芽キャベツのピューレ、パースニップのピューレ、マスタード・ソース。

もしくは、
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        鯛の切り身、シュークルートのリゾット、キノコのソース。


本当は、メニューでは、前菜はステーキ・タルタルか小エビ、主菜は鳩か鯛となっていたのだが、
わたし達の好き嫌いには対処してくれて、小エビの代わりにマグロ、鳩の代わりにシャコとなった。


デザートは、チーズもしくは甘いもので、全員甘いものを頼んだ。

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        ホワイトチョコのソースの上に、チョコレート・アイス、チョコレート・ムース、
        八角風味のアイス、ピーナッツ・クッキー、チョコレート・グレナッシュ。

隣のテーブルで頼んでいたのをちょっと見ると、チャツネや甘酸っぱい果物ソースやシロップに、少し
ずつ5種類のチーズが盛り合わせてあり、そちらも美味しそうだった。

さて、着物の写真はレストランで上手く撮れなかったので、家に帰ってから撮ってもらおうと思い、
主人の帰宅を待った。しかし、そういうときに限って遅くなる。9時過ぎまで着物のままで待ち続けた。

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        母の(大島)紬の裄を直したもの。10月に日本から持ち帰ったので、
        早く袖を通してみたかったのだ。昼食会にはピッタリの色と質感。
        藍色の地に少し薄い青の縦縞の絣のグラデーション、銀色の線、
        そして十字の白と赤で花模様が織り出されている。


この着物は、ミステリアスで出自がわからない。
母は、着物の証紙や反物の端の部分は必ず残してあるので、ほとんどの着物は、どこの織物だ
とか、どこの染だとか、誰の作品だとかがわかるのだが、この紬だけ証紙が見つからない。
織り方だけ見ると大島っぽく、つるりとした質感もそんな感じなのだが、糸に節が入っていて厚みが
あり、経緯十字の花模様に対して、光沢のある縞模様のグラデーションの出し方が絣っぽくて、
変わっている。
かなり近くでじっくり見たり触ったりしないとわからないが、箪笥の中にある他の大島とは、大分
異なる趣なのだ。しかも、大島や他の紬だったら全て証紙が揃っているのに、これだけ証紙が
見あたらないというのも納得いかない。


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         若草色と抹茶色の中間のような淡いグリーン地の塩瀬に、黄土色の
         埴輪のような人物と橙色の鹿がロウケツで描かれた名古屋帯。


この日の着物コーディネートでは、銀杏をテーマにしたかった。ところが、なんと、銀杏の模様の
着物や帯を持っていないのだった。

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         そこで、銀杏の形の鼈甲の根付。帯の中に入っている
         懐中時計の蓋にも象嵌で銀杏の模様が。


お茶から着物に入ったせいか、根付を下げるのが性に合わない。だから、根付はこれのみ。
金具や石が光ったりする帯留も、同様にして持っていない。珊瑚のが一つだけ。

スキン写真の彫金で作った「角切銀杏」は、ペンダント・トップかブローチにしたいのだが、今の
ところ、純粋なオブジェである。
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by didoregina | 2012-12-07 18:01 | 着物 | Comments(8)

『セヴィリアの理髪師』@ストックホルム王立歌劇場

8月にウィーンでマレーナ様主演の『湖上の美人』を鑑賞したばかりですが、彼女が9月に
本拠地ストックホルムでの『セヴィリアの理髪師』にロジーナ役で出演することがわかった時、
2ヶ月続けての遠征を決意しました。
4月のチケット発売日に、即、オンライン参戦したのですが、争奪戦はなかなか厳しく、平土間の
席は全く残っていませんでした。歌劇場の規模や座席と舞台との相対関係や音響も分からないので、
無難に1階バルコニー正面席を選びました。スウェーデンの一般物価と比較すると一番高い席でも
それほどのお値段ではありません。

c0188818_1633882.jpgIl barbiere di Siviglia
Musik: Gioacchino Rossini
Text: Cesare Sterbini efter Beaumarchais komedi
Regi: Knut Hendriksen
Scenografi och kostym: Per A. Jonsson
Ljus: Ronny Andersson
Medverkande
Greve Almaviva : Michele Angelini
Doktor Bartolo : John Erik Eleby
Rosina Malena : Ernman
Figaro : Ola Eliasson
Basilio : Lars Arvidson
Berta : Agneta Lundgren
Fiorello : Kristian Flor
Officeren : Kristian Flor
Dirigent : Jean-Christophe Spinosi
Herrar ur Kungliga Operans Kör
Kormästare: Folke Alin och Christina Hörnell

Kungliga Hovkapellet


さて、当日は、ホテルにチェックインしてからすぐに歌劇場に向かいました。チケットが上手く
プリント・アウトできなかったので再発行してもらうためです。
オンラインでのチケット・ダウンロードとプリントは一回限りと注意書きがあったのですが、どうやら
サイトの不備でプリントのサイズ設定がおかしくなっていたため、A4から重要な部分がはみ出て
しまったのです。これにはあせって、電話とメールで問い合わせたので、再発行はスムーズでした。
劇場窓口でも、オンライン・プリントした人は皆プリントに失敗したらしい、と言われました。

そして、楽屋口の位置を尋ねておきました。
これで準備完了。

ホテルに戻り、ゆっくりと着物の着付けとヘア・メークをしました。遠征では、大概、遊びすぎて
時間が足りなくなるのですが、その日は気温10度で強風しかも小雨模様なので、町歩きをする
気分にならなかったのです。

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       ホテルのロビーで。8月にウィーンで着ようと思っていた絽の着物。
       ようやく袖を通すことができた白と黒の細縞に萩の花の模様の小紋。
       博多の献上帯に白と黒の変わり織の帯締めと幾何学模様の帯揚げ。
       (公演後ホテルに戻ってからの写真なので髪が乱れてる。)


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            対岸の王宮から眺めたストックホルム王立歌劇場
          
ロビーに入って、開場を待ちながら人々の服装を眺めると、皆、アムステルダム同様にかなり
カジュアルです。金曜日夜の公演なのに、ほとんど着飾っている人は見当たりません。
各階の左右にクロークがあるため、一箇所に混み合わず、ゆったり鷹揚な気分になれます。

正面バルコニー席は、さほど大規模な劇場ではないので舞台も遠からず視界は悪くありません。
しかし、左隣に座ったオヤジが、恐怖のグミ食い魔だったのです。なぜか、ズボンの右ポケットに
グミを入れていて、1,2分おきにポケットに手をつっこんで取り出すので、その度に肘をわたしの
左腕にぐいぐいと押し付ける形になるのです。アングロ・サクソンの国とは異なり、体が他人に
触れても謝ったり気にしない人が多いのは、スウェーデンもオランダと同様のようですが、気分は
害されます。劇場の座席に座って物を食べるという行為も、褒められたものではありません。
劇場からは、電話のスイッチを切れとか、撮影や録音は堅く禁じるとかのアナウンスはありましたが、
食べ物持ち込みも厳重に注意してもらいたいものです。

そして、グミというものは、食べだすとなかなか止められなくなるものです。
もう、袋ごと膝の上に出して堂々と食べたらいいものを、こっそりとポケットから出して口に入れようと
する態度と動作が、他人を不快にするのです。
そうこうするうちに、指揮者のスピノジが登場しました。拍手で迎えられた彼がオケ・ピットの指揮台に
立ち、指揮棒を下ろした瞬間にも、隣のグミおやぢがズボンのポケットに手を入れたので、わたしは、
そいつに向かって制するようなしぐさをして「プリーズ、ストップ・イット」と冷たい口調で命じました。
虚をつかれたおやぢはひるんで、そのままフリーズしてしまいました。そして、とうとう、序曲の間中、
じっとポケットに手を入れたままだったのです。きっと、ぐっしょりと手の汗にまみれたグミはべとべとに
なったことでしょう。

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ロッシーニのオペラをスピノジがストックホルムで指揮する、というのは、意外な組み合わせに思え
ますが、昨年のウィーンでの『セルセ』以来のマレーナ様つながりのご縁でしょうか。この二人は、
この夏にもブルターニュの野外バロック・ロック・コンサートでも共演しています。音楽的にも気が合う
ようです。
そのスピノジですが、いつものようにきびきびと若々しい動作で、溌剌とわくわくするような音楽を
作り出していきます。

オケは大編成でもないのに、PAのためか、よく鳴り響きます。とくに下手側からの管楽器が響き
すぎ、バランスとしてはちょっと突出しすぎの感がありました。それは器楽だけの演奏の時にはさほど
気になりませんが、歌手との絡みや伴奏では、管の音が大きすぎて歌唱がよく聞こえずいらいら
した場面がしばしばあったのです。

スピノジといえば、ウィーンでのオペラの指揮の最中に、『狂えるオルランド』でも『セルセ』でも、
お得意のヴァイオリン・ソロを披露してくれました。観客にはウケルし、彼の定番パフォーマンスなの
かしら、と思っていましたが、今回も彼のソロ演奏がありました。それは、カスタネットでした。
アルマヴィーバ伯爵が「わたしの名前はリンドーロ」と歌う場面では、フィガロ役の歌手が見事な
ギター演奏を披露するのですが、そのあとスピノジがカスタネットでアンダルシアらしさを盛り上げる
のでした。

スムーズな音楽展開とややこしくない喜劇なので、演出らしい演出は必要ない演目ですが、だから
こそ、上手い歌手が揃わないと興ざめになってしまいます。
ロジーナ役のマレーナ様は、歌いなれてるという感じでそつなくこなし、コロラチューラは滑らかかつ
まじめ一本やりのオペラ歌手とは一味異なる、お遊びの要素も散りばめた歌唱です。
喜劇なのである程度の演技力は必要とされますが、その点では表情豊かなマレーナ様にはうって
つけの役です。
サーヴィス精神旺盛なマレーナ様の歌唱および演技には、誇張しすぎともとれる場面も見受けられる
のですが、読み替えのないストレートな演出には、盛大なノリの過剰な歌い方でも浮いたりしません。
こなれた歌唱で役にぴったりという点では、先月のエレナ役以上と思えました。


           2010年のストックホルムでのコンサート

アルマヴィーバ役の歌手は、なかなかに甘いマスクと晴れやかな明るい声の持ち主で、時にはフロー
レス様の声に似ているとも思えるほど。育ちのいい若者らしいくったくのなさと、自然な伸びやかさが
歌声に溢れていて、好感度が高かったのです。

それ以外の歌手、特にフィガロに、あまりにも声量が傑出する人を配置すると嫌味と言うか、
くどくなるのですが、今回のフィガロ役歌手はあまり低音を響かせるタイプではなく、脇役に徹する
ほどほどの中庸感覚を心得ていました。だから、歌手同士のバランスがとれて、全体的によくまと
まってひきしまった印象になりました。


休憩中には、1人だったので、飲み物はとらずに金が基調できらびやかなフォアイエの天井を見たり
廊下や階段をしゃなりしゃなりと歩いたりして過ごしました。
ロングドレス姿の人は皆無で、かなりカジュアルな服装がほとんどを占めていたのですが、中学生
くらいの女の子が、感に堪えたように「すみません、よく見せてください、素敵なドレスですね」と
話しかけてきました。
「日本の着物なんですよ」と言うと、「知ってます。本当に美しい!」とうれしいことを言ってくれる
のでした。
階段を下りて、入り口付近を歩いて、買う気もないままショップを見たりしていると、手持ち無沙汰な
風情のアッシャーがCD売り場の方を指差しています。その方向を見ると、今さっき通りかかった
ショップのお兄さんが、
「そんなに素敵なお召し物でオペラにお越しいただいたので、このCDを差し上げたいと思います」
と言って、歌劇場のサンプルCDを差し出しすではありませんか。
「当歌劇場で活躍した歌手達の録音を集めたものなんです。どうぞ」と言うので、ご好意に甘え
喜んでいただいてきました。

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         「お兄さん、ありがとう」

ここの歌劇場のユニフォームは、日本の詰襟そっくりなので、
「あなたの着ているユニフォームも素敵ですよ。日本の男子中・高生の制服そっくりのデザインね」と
褒めあったのでした。
いただいたCDには、ニーナ・シュテンメの歌う『マノン・レスコー』『オネーギン』からのアリアなど
が収められています。


演出には、特記すべきものはありませんでしたが、正統的喜劇で満場の笑いを取り、拍手も鳴り止
まず盛況に終わりました。
アムステルダムの観客と似ているのは、服装だけでなく、誰もカーテンコールの写真を撮る人が
いないという点も同様なので、わたしも写真を撮るのは控えてしまいました。

その代わり、楽屋口でマレーナ様の出待ちをしました。
ウィーンには遠征してくるファンがいつも待っていて、和気藹々とした楽屋口ですが、ここには私以外
一人も待っている人はいませんでした。
先月のウィーンでは、マレーナ様の旦那様や出演歌手も勢ぞろいした劇場のカフェに、ファンクラブの
面々も行って、公演後、楽しいひと時を過ごしたのですが。。。。

間もなく、化粧を落としたマレーナ様が出てきました。
わたしが声をかけると驚いたようですが、「まあ、また来てくれたのね。うれしいわ」と向こうから
ハグしてくれたのです。
M「どこに泊まっているの?」
R「ここから駅の方向に向かったところです」
M「今日のストックホルムは、寒かったでしょう?」
R「飛行機から降りたら、気温10度だというので、おもわずショールを買っちゃいました」
M「明日からは、いいお天気になるらしいわ。週末はここにいるんでしょう?」
などと、いつものように、普通の女の子の会話になるのでした。

R「先月のウィーンでは、空港から荷物が届くのが遅れて。だから、このプレゼントは一月遅れです」
M「そうそう、そうだったわね。着物が着れなかったと言ってたわね」
R「今日の歌手は皆、期待以上に上手い人が揃ってました。また、スピノジが指揮というのが意外で」
M「彼とは、このところ良く共演してるのよ」
R「昨年ウィーンでの『セルセ』以来のコンビですね。フランスでも」
M「そうなのよ。来週はベルリンでまた、彼と共演するのよ」

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楽屋口外に置いてあった自転車は、もしやマレーナ様のかと思ったのですが、そのとおりでした。
籠にバッグを入れて自転車を引いて歩いてくれるマレーナ様と一緒に、深夜のストックホルムを駅に
向かって二人でおしゃべりしながら歩いたのでした。
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by didoregina | 2012-09-19 13:15 | オペラ実演 | Comments(19)

Chéri  紳士用の帽子とフエルト・ジャケット

寒さが厳しいときには、頭を帽子で覆うだけでかなり暖かく感じる。
2月上旬、ヨーロッパが極寒だった頃、主人から紳士用の黒い帽子の注文があった。
今までに紳士用では、カウボーイ風の茶色の帽子、夏のパナマ帽、そして叔父に紺のフエルト
帽を作っている。
黒の帽子はコートにもジャケットにも合うし、飾りによって改まった雰囲気にもカジュアルに
もなる。
出来上がったのは2月も終わりで、寒波は去った後だった。

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      黒のボルサリーノ・タイプ。南米風の織模様のリボンでカジュアルに。
      Chériと名付けた。

布を縫ったりしない、本格的な帽子の作り方は以下の通り。
フエルトの帽体に、糊を内側から塗りスチームで全体を柔らかくしてから木型に合わせてアイ
ロンをかけながらぎゅうぎゅうと伸ばす。
ブリムの下を木型に鋲で留め付け、クラウンとブリムの間を紐で縛る。頭頂やブリム正面の窪
みはアイロンをよく押し付けたあと、重しを乗せておく。
一週間そのままにしておけば形が出来上がるので、その後、針金を入れてブリム回りの始末をし、
内側にサイズ・ベルトを縫い付ける。
好みのリボンや羽根などの飾りを付けると、帽子の完成だ。


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        なぜか日本ではソフト帽とか中折れ帽とか呼ばれるが、
        全然ソフトではない。バランスよく仕上がったと思う。


帽子の名前は、コレット原作の映画『シェリ』からいただいた。

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20世紀初頭ベルエポックのパリやノルマンディーが舞台で、ミシェル・ファイファーが演じる
中年の元高級娼婦と元同僚の息子の恋物語だ。その年齢差は25~30歳。

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          優雅な暮らしの、中年から初老の元高級娼婦たち。

なぜ、そう名付けたかというと、日曜日に行ったヨハネット・ゾマー他のコンサートで、着物を
着ていたわたしは、数人の人からきれいですねえと言われたのだが、着物=芸者、というナイー
ブなイメージで注目されていたように思えたからだ。

「着物着てるからって芸者とは限りませんよ。これは日本のナショナル・コスチュームなんです
から」と、ツーショットの後「芸者さんですか」と聞いてきたバート・シュニーマンに説明した。
彼が使う「芸者」という言葉に全く悪気は感じられず、感に堪えたように無邪気そのものであった。
また、「日本を舞台にした小説を読んだばかりですのよ」と話しかけてきたご婦人に、「どういう
ストーリーですか」と問うと、「戦前から終戦にかけての高級娼婦のお話なのよ」と答えてから
ハッとしたようにバツが悪そうな表情になった。
それで、わたしは、『シェリ』の元高級娼婦になったつもりで鷹揚に微笑を返したのだった。

外国で着物を着るからには、そういう誤解も引き受ける覚悟がないといけない。そして機会が
あれば、着物は高級なお出かけ着もしくはソワレに相当するフォーマルな社交着だ、と説明する。



帽子の師匠Pがフエルトのジャケットを綿から作った。縫い目がない一体化タイプの大作だ。
大変な手間がかかっている。
赤をベースにオレンジ、フクシャなどの色を加えて作り上げたグラデーションが美しい。

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              ほぼ1日中、綿のようなフエルトを
              ごしごしと石鹸で擦って作った。


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         ヴィンテージの赤のキャスケットを合わせるとキュート。


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         つばが広めのフェードラ帽を合わせるとシックになる。


Pはどんな帽子でも似合うし、被りこなせる人だ。
    
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by didoregina | 2012-02-29 22:51 | 帽子 | Comments(10)

アンドレアス・ショルとShield of Harmony

ショル兄の声を生で聴ける!というので期待で胸は膨らんだ。
着物もリキを入れて選んだし、着物が汚れないよう、車の内外を次男にきれいに洗わせ
掃除機もかけてもらった。もしかしたら、コンサート後にサイン会があるかもしれない、と
思って、CDも持参した。

エイントホーフェンのムジックヘボー(ムジックセントルム改め)の大ホールは、満員とは
言えないが、水曜夜の古楽コンサートにしては上々の入りだった。平土間6列目のわたしの
周りにはなぜか空席が目立ったが。

Andreas Scholl & Shield of Harmony Oswald von Wolkenstein
            2012年1月11日 @ Muziekgebouw Eindhoven
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Andreas Scholl - altus
Shield of Harmony
Miriam Andersén - harp en zang
Margit Übbelacker - dulcimelos
Marc Lewon - vedel en luit
Crawford Young - luit
Reinout Bussemaker - spel
Jos Groenier - regie en tekst
Uri Rapaport - licht en beeld
Joost Gulien - video


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     公演が始まる前から、舞台上、中央奥に設置されたスクリーンに、
     写本がスライドで映し出されている。

いきなり、ア・カペラで、客席後方なのか舞台後方なのかわからない位置から、ショル兄の
スピーカーを通した歌声が響いてきた。それはまるで天使の声が天上から注ぐような効果の
エコーがかかっていて、わたしは落胆し一気に気持ちが萎えた。
生の声じゃない。。。

ショル兄は客席通路を通って上手から舞台に登場した。そして、体型もルックスも正反対だが、
似たような衣装(蝶ネクタイを解いて垂らしたスモーキング姿)の男性が下手から現れ、二人は
舞台上手の同じテーブルに着く。
ショル兄は、左目に黒いアイパッチを付けている。そして、右側頬にはマイクロフォンが。
スクリーン上に投影されているオズワルド・フォン・ヴォルケンシュタインを演じていることを、
アイ・パッチで表現しているのである。(アイパッチはすぐに外し、ショル兄は眼鏡をかけた)

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        オズワルド・フォン・ヴォルケンシュタイン(1377-1445)

舞台上のもう1人の男性は、楽器奏者ではなく、俳優であった。そして、彼もフォン・ヴォルケン
シュタインの役を演じるのである。
すなわち、二人のフォン・ヴォルケンシュタインが舞台にいて、1人はオランダ語の台詞(ドイツ語
歌詞の訳なのだが、朗読ではなく、俳優らしい台詞回しでオーバーにしゃべる)を、1人は彼の
作った歌を歌う、というわけだった。

俳優が舞台でマイクを使うのは、まあ、許そう。台詞が聞き取りやすくなる。
しかし、クラシック歌手がコンサート・ホールでマイクを使って歌うというのは、どういうことだ?
大ホールとはいえ、めちゃくちゃ大きいわけではなく、日本だったら中ホールくらいの規模だ。
フランス・ブリュッヘンがここの音響には太鼓判を押しているから、古楽にも向いているはずだ。
俳優がマイクを使ったら、音量のバランスをとるために、歌手もマイクを使わざるを得ない。
だが、俳優を使う理由は?歌われる歌詞をオランダ語の台詞にして説明のようにしゃべり聞かせる、
という意味と効果は薄い。スクリーンが使われているのだから、字幕を出したら問題ないはずだ。
単なる、水増し効果か?

そして、リュートなどの古楽器の前にもマイクが立てられ、スピーカーで音響が増強されていた。
こうなると、もう、クラシックのコンサートの雰囲気ではない。
リュートなどの古楽器は音量が少ないから、大ホールでのコンサートには向いていない。だから、
会場選びからして間違っているのだ。

好意的に見れば、歌唱のミキシング処理は、音響増幅というよりも、微妙なエコーをかけていた
ので、教会で聴くような残響効果を出して中世のイメージにしたかったのかも、という気もする。

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        4人の器楽奏者(Shield of Harmony)とショル兄。


オズワルド・フォン・ヴォルケンシュタインという数奇な運命を辿った中世後期の人物が作った
歌を、ショル兄が歌う前に、歌詞内容を俳優がしゃべり聞かせるのだが、粗野な響きのオランダ
語の俳優らしいもったいぶった台詞回しと、ショル兄の天使のような声および雅趣のあるメロディー
との共通点は全くない。

舞台上には、上下左右4箇所にテーブルが設置されているので、歌手と俳優と楽器奏者が、
場面を変えるごとくあちこちに移動する。それは酒場であったり、砂漠であったり、城であったり
天国的などこかであったりする。
なにしろ、ヴォルケンシュタインは、外交官兼吟遊詩人として、ヨーロッパ全土のみならず、
グルジアやモロッコにまで足跡を残している人物なのだから。
そして、歌われる内容も、冒険談から貴婦人への愛やマリア賛歌まで、中世の吟遊詩人らしく
幅広い。


      エイントホーフェンのコンサートの隠し撮りがアップされてる。
       実際に聴いたときより、この動画のほうがマシに聴こえる。

最初からマイクを通したショルの声にショックを受け、邪魔な俳優にも拒絶反応を起こしてしまい、
最後まであまり楽しめなかった。面白いなと思ったのは、ショル兄がバリトンの声で歌った2曲だ。

しかし、会場は大いに盛り上がり、ブラヴォーが飛び、毎度おなじみスタンディング・オヴェー
ション。
それから、最初のほうで、俳優がしゃべるオランダ語の台詞をショル兄が同時にオランダ語で
ハモったのだが、発音が自然でスムーズで上手い。

その人気とオランダ語の巧みさのなぞが解けたのは、TVトーク・ショーに出演しているショル兄
の動画を見てからだ。
人気番組に登場したおかげで、チケット売れ行きが上がったろうし、コンサート聴衆に受けた
理由も合点がいく。
なんと、12分にわたるTVでのインタビューを、ショル兄は全てオランダ語で通したのだ。それが
またびっくりするほど上手い。オランダに住んでるわけでもないのに、ここまで巧みに操れるとは。
これで好感度は最高に達したろう。
このインタビューはなかなか優れているので、動画とともに内容を訳して次回紹介したいと思う。


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              白大島のアンサンブルでお正月らしく。


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            同系色のつなぎ糸の帯に、オレンジ色の帯締め、
            珊瑚色の羽織紐、少しトーンが暗めの帯揚げ。


コーディネートも気張って着付けも進んだところで、黒地に雪輪と源氏香の帯を巻きつけてから、
帯枕が見つからない。ありとあらゆる可能性のある引き出しを2度開けて探したが、ない。
前回着物を着たのは、10月のウィーンである。きっと、ホテルに帯枕を置いてきてしまったの
だろう、と諦めて、2部式の付け帯にした。これなら、普通の帯枕ではなく器具でも装着できる。

しかし、その器具の装着感は、「大リーグボール養成ギプス」に近いような違和感を伴う。
使う紐が2つ増えるし、背中はがっちりと固められて苦しい。
コンサートの最中に、肩が凝って二の腕も痛くなってきた。「大リーグボール養成ギプス」効果が
効いている感じだ。すなわち、拷問に近い。
音楽的にも、肉体的にも、苦しくて、幸先のあまりよくない今年のコンサート初めだった。
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by didoregina | 2012-01-16 08:38 | コンサート | Comments(18)

新春は白大島で

このところ、着物を着る機会がずいぶん減ってしまった。
なんと、ウィーン遠征で着たのが最後で、11月と12月は一度も着物でお出かけしていない。
また、今年の新年会は、会場が着物にはまったくふさわしくない場所である。

しかし、アンドレアス・ショルのコンサートには絶対着物で行こう、と思った。
本日は、穏やかな日の光も麗らかで春が遠からぬことを感じさせ、絶好の着物日和である。

初春らしい白大島に決めた。

白大島に対しては特別な感慨を抱いていて、憧れの着物だった。
50歳になったら白大島を誂えたいと願っていた。しかし、高価なものなので躊躇していたら、
大島紬大好きの母から3種類の白大島を譲ってもらえた。

最初の一枚は、数年前のロンドン遠征でサラ様のために着た。
二枚目の夏大島は、昨年50歳になったサラ・パーティで着用した。
そして、三枚目。これはアンサンブルであるから、お正月にぴったりだと思っていたが、
なかなか袖を通す機会がなかった。
わたしにとって、神聖にして犯すべかざる着物である。おいそれとは着たくない。お正月に
相応しいイヴェントがあるまでとって置いたのだ。
ショル兄のコンサートならば、白大島を着るまたとないチャンスである。

着物は決まった。しかし、帯のコーディネートに悩むのであった。

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      最初に思いついたのは、コントラストの強い黒の帯。
      雪輪に源氏香の模様が、冬らしい雰囲気。

なんだか、黒が強すぎるし、つるつるスペスペした大島の質感と合わないような気もする。

c0188818_19571493.jpg

      次に、上とは全く正反対の組み合わせで、
      同系色の刺繍帯を合わせてみた。上品な雰囲気。

白大島には同系色の帯を合わせると、華やかさが増し、しっくり来る感じだ。
帯揚げと帯締めは甘い色にして、白大島のパッキリ潔すぎるイメージを和らげる。

そして、アンサンブルなので、羽織紐もコーディネートしないといけない。

c0188818_203237.jpg

        平たい変わり組(左)か、珊瑚(右)か。

        それとも、

c0188818_204239.jpg

        丸組の珊瑚色(左)か、朱赤(右)か。


羽織を着るなら、帯の配分量が少なくなるから、メリハリをつけるために黒の帯がいいよう
にも思える。
げに、楽しくも悩み多きは、着物遊びである。
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by didoregina | 2012-01-11 12:12 | 着物 | Comments(10)

マレーナ様の『セルセ』カーテンコールと出待ち

マレーナ・エルンマン・ファンクラブの皆様、大変お待たせいたしました。

アン・デア・ウィーン劇場の『セルセ』は、歌手陣も演奏も演出も3拍子揃って全く減点対象のない、
期待通りの素晴らしいプロダクションでした。
ヘンデル作曲のこのバロック・オペラは、近年あまり上演の機会がありませんが、マレーナ・エルン
マンという不世出のズボン役を主役に得て、今世紀の決定版ともいえる舞台が実現しました。

その感動さめやらぬカーテンコールとマレーナ様とのスリーショットをご覧下さい。

c0188818_3383199.jpg

          終盤には、ジャケットもベストも脱いで
          シャツとズボンだけになったマレーナ様。

c0188818_3412648.jpg

          背中にはうっすらと汗もにじんでいました。

c0188818_3432841.jpg

            アタランタ役のダニエル・ド・ニース。

c0188818_344289.jpg

          ロミルダ役の可憐なアドリアーナ・クチェローヴァ。
          背後霊のような黒服は、演出家のエイドリアン・ノーブル。

c0188818_3471994.jpg

               説明不要。。。

さて、終演後は楽屋口に行って出待ちをしました。
昨晩に練習しましたから要領がよくわかっていたのと、雨模様でもあるので、外で待たずに、
関係者出入り口の中に入って待ちました。

ダニエルちゃんやメータ、アドリアーナちゃんが次々と出てきます。ダニエルちゃんは、ほとんど
舞台メークのままのようで、ド派手なルックスに黒い毛皮の襟がスターの貫禄十分。
さて、我らがマレーナ様は、鬘をとってメークをさっぱり洗い落とした全くのすっぴんです。
化粧っけはひとはけもなく、ちょっと皺が目立つほど。

「またウィーンに来ました。再度お目にかかれてうれしいです。」と言うと、マレーナ様は「ウェル
カム・バック!」と憶えておいでのようでした。さすが着物の威力は凄い。
「で、どちらから?」と聞かれたので「実は、オランダから」と言うと、「それならあまり遠くなくて
いいわね」とのご感想。
去年は、ロンドンの椿姫さんと二人で着物姿だったのが印象に残ったようで、日本からおっかけファン
が来たのだと思われてツイッターに書かれていました。

お疲れに違いないのに、ファンのサインには丁寧に応じています。大きく引き伸ばした何枚もの写真を
持ってきている人がいて、それに一枚一枚サインしているマレーナ様の脇に私は立ち、写真を覗き込ん
では「それはロジーナね」とか「納涼芸能人水泳大会ですか」とか「サンタさんの格好してますね」と
かコメントしてしまいました。すると、マレーナ様も「真夏なのにクリスマス・プロモーションでね」などと
応えてくれます。すごく気さくな方なのです。

c0188818_43417.jpg

       sarahoctavianさんとマレーナ様と私のスリーショット。
       3人ともブルーのコートが偶然ながらバッティングしてる。

今回はズボン役だったのですが、次回8月のウィーンでは、ロッシーニ『湖上の美人』でお姫様役
です。
R「素晴らしい舞台の男役でしたが、次回のオペラも今から待ちきれずに興奮してます。全く違う
  タイプの役ですもの。」
M「ロッシーニだしね。今度は鬘もつけなくて地毛でいいのが楽チン。本当に全然違うのよ。」
R「あなたのダイドーはとても気に入ってますから、女性役にも期待してるんです。」
S「ミュンヘンにはいつ来て下さるの?」
M「ドイツ・ツアーがあるのだけど、ミュンヘンは入ってないわね。」
R「アムスかブリュッセルの予定は?」
M「また、アムスかブリュッセルで出演できたらうれしいわ。」
R「でも、その前にバルセロナですよね!」
M「そうそう。2014年だったかしら?ダニエルちゃんが共演なのよ。」
  ここで、一瞬うっと詰まる私とsarahoctavianさんでした。これでしっかり『アグリッピーナ』は
  マレーナ様がネローネ、ダニエルちゃんがポッペアという噂を、本人から確認できました。
R「ポッペアですね。アムスでは今回の3人(ダニエルちゃん、メータ、マレーナ様)が共演しました
  ね。」
  わたしは、ここで少々混乱して、アムスでの『ポッペアの戴冠』のことを言ってたのでした。
M「次のバルセロナでは同じプロダクションで4回目なのよ。」
  と言われて、同じネローネとポッペアが登場するけど、ヘンデルの『アグリッピーナ』だったっけと
  間違いに気が付いたのでした。

あまり引き留めても悪いので、この辺でお別れしました。
念願のマレーナ様主演のズボン役を観られ、終演後はおしゃべりもでき、大満足でテンションがハイに
なった一晩でした。

最後に、気張っておしゃれしてオペラ観賞に臨んだ私たちのツーショットもご覧下さい。

c0188818_4323971.jpg

        私は藤色の疋田絞りの着物に葡萄の柄の帯。帯締めと帯揚げは紫。
        頭には、夏に作った紫の造花付きカクテル・ハットを髪飾り代わりに。
        sarahoctavianさんは、手作り(!)のシルクタフタのワンピース。
        ドレスもショールも色合いと柄が、『セルセ』登場人物の衣装そっくり。

  
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by didoregina | 2011-10-28 21:40 | マレーナ・エルンマン | Comments(10)

帯地で作ったツーウェイの和装バッグ

リエージュでのオペラ鑑賞には着物で出かけた。それにあわせて、着物用のバッグを手作りした。

c0188818_16154332.jpg

        赤が基調で持ち手はチェーンに皮が入ったタイプ。

このバッグは、もともと母が帯地で作った正方形のトート・バッグをリフォームしたものだ。
持ち手が普通のトートっぽくて着物とは合わないし、中途半端な大きさなのとファスナーなしなので
使いにくかった。

ただ、そのバッグは2つの全く異なる帯地を上手く使ったデザインになっていて、その配色の分量が
なかなかよかった。片側は、下3分の一が赤で上3分の2が白と金の帯地。反対側は、下3分の1
が白と金で上3分の2が赤。
それで、上を3分の1ほど折り返してみると、反対側の色が表に出て、それがどちらの側を表にして
も他の色が丁度隠れる。バッグの形は細長くなって着物にいい感じだ。
チェーンに皮が入ったシャネルっぽいベルトを切って、同じ金色の金具で留めつけ、持ち手にした。

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          反対側は、白と金の帯地。

つまり、一つのバッグなのだがふた部分の折り返す方向を変えるだけで、まったく異なる色の二つの
バッグみたいになるのだ。
折り返し部分がふたになるのでファスナーは要らない。
両側の上(開いた口部分)にループ飾りを付けた。折り返してループを閉めると、着物らしいデザ
インになったし、バッグの口が閉じられるというファンクションも。
帯地なのでどっしり、しっかりしている。内側には裏布および携帯用ポケットを付けた。

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        水色の着物には、アクセントになる赤側を。
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by didoregina | 2011-09-27 09:42 | バッグ | Comments(4)

『イル・トロヴァトーレ』@リエージュは、イタリア・オペラ節炸裂!

リエージュでオペラ実演を観賞するのはなんと、二年ぶりである。二年前の夏から歌劇場の
改修工事が始まったので、それ以来、公演は別の会場で行われている。
二年前、最後に観賞したのは、ホセ・クーラ主演の『サムソンとデリラ』で、会場はなんと
近隣の山村にある大きなバスケット・ボール専用体育館だった。オペラを観たという気が全く
しなかったし、音響うんぬん以前の最悪の環境だった。クーラは、よくまあ出演を承諾した
ものだ、と思う。
その後の公演は、リエージュの町外れの空き地に建てられたサーカス・テントのような仮設
ホールで行われている。音響に不安を感じ、そこには一度も足を踏み入れていなかった。
その代わり、ネットでのオンライン・ライブ配信を視聴したり、オランダに引越し公演をしに
来たりしたのは実演を観賞していた。

今回、『イル・トロヴァトーレ』を観に行ってみようという気になったのは、ヨーロッパでのオペ
ラ鑑賞は初めてという人が同行するので、主演歌手もよさそうだし演目としてもわかりやすいし、
美しいメロディーばかりのこの作品なら、と思ったからだ。わたしは、格別ヴェルディのオペラ
に萌えるタチではない。

c0188818_18492745.jpg2011年9月20日@リエージュ
Direction musicale: Paolo Arrivabeni
Mise en scène: Stefano Vizioli
Décors et costumes: Alessandro Ciammarughi*
Lumières: Franco Marri
Nouvelle coproduction: Opéra Royal de Wallonie &
Teatro Lirico Giuseppe Verdi de Trieste

Orchestre et Choeurs: Opéra Royal de Wallonie &
Choeur d'Opéra de Namur
Chef des Choeurs: Marcel Seminara

Manrico: Fabio Armiliato
Leonora: Daniela Dessi
Il Conte di Luna: Giovanni Meoni
Azucena: Ann McMahon Quintero*
Ferrando: Luciano Montanaro
Inès: Ninon Dann
Ruiz: Xavier Petithan
Un vieux gitan: Edwin Radermacher
Un messager: Raffaelle Lancellotti

まず一番の心配は、会場の音響だった。外から見るといかにもビニールで出来たような仮設
テントである。
とっつきのテントに入場すると、そこがフォアイエで、いいにおいが立ち込めている。
中央に飲み物のバーがあり、ケータリングもあるので軽食を取る人が大勢テーブルについている。
熱気がこもる。狭いが、トイレも完備されている。
天井からはプリーツを寄せた布やシャンデリアが下がり、壁面には過去のプロダクションの写真が
大きく飾られている。パリ・コレのショーなどで使用されるような大掛かりで立派なテントなので、
内装をちょっと豪華にすればまあまあの雰囲気だ。

c0188818_18584618.jpg

            テント内のフォアイエのデコレーション。
            黒と赤が基調で、シャンデリアも沢山。

演奏会場に入ると、どでかいテントで天井が高い。壁面は板で補強してあるので反響はある。
平土間と、その後方に段差をつけて傾斜を出した雛壇のような座席が設置されている。
私達の座席は一列目のほぼ真ん中だ。オケはピットではなく平土間と同じ高さに座っているので、
指揮者が少々邪魔になる位置であるが、舞台は間近でよく見える。字幕(仏・蘭・独が上下3列)
も読める。

音楽が始まると、メロディアスで威勢のよいヴェルディ節が炸裂して、思わず笑みがもれる。
これだ、これでなくては、いけない。
オーケストラはリエージュのワロン歌劇場専属だが、指揮者はイタリア人。主要歌手もイタリア人だ。
普段とは打って変わったように、恥じも外聞もかなぐり捨ててダイナミックで、甘さも誇張した演奏
だ。音楽で聴衆を酔わせるのが目的なのだから。
音響は、意外にも悪くない。特に最前列で聴いたせいか、オケの音も歌手の声も直接届くから、
問題なかった。

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         ファビオ・アルミリアートのマンリーコと
         ダニエラ・デッシーのレオノーラ

期待していたのは、主役二人。先シーズンからリエージュ常連のようになったこの二人のナマの
声を聴きたいと思っていた。耳を慣らすため(?)にその日の昼間は、この二人が主演する
『アイーダ』をTVで観ていた。リセウの豪華舞台セットのプロダクションだ。アルミリアートの
高音が美しく伸びていた。期待は高まった。

しかし、その晩の実演では、彼は不調だった。高音域に近づくのが怖いみたいな、おどおどした
発声で張りも伸びもない。もともと線が細い声なので、さほど魅力を感じさせない中音域よりも
高音に期待したのだが、声は割れるは、びくびくしたように歌うから音程も微妙で、ハイCなど
望むべくもない。しかも音量はくぐもって矮小化している。演技もなんだか、自信がなさそうで、
主役なのにまことに冴えない出来であった。

c0188818_19325937.jpg

        
彼以外の歌手は、なかなかよかった。

まず、近くで見る舞台上のダニエラ・デッシーの可憐ともいえる顔立ちにびっくり。ステージ・メイク
のせいか、肌のたるみなどの年を感じさせるものが見えない。顔の線がすっきりしている。夏の間
にフェイス・リフトでもしたのか。それともダイエットの成果か。

彼女の声は、ミレッラ・フレーニに似ていて好きなタイプである。嫌味や無理がなくて、イタリア・
オペラを歌うのに最適な正統的ソプラノ・リリコだと思う。歌唱は堂々と安定している。運命に弄ば
れる悲劇のヒロインの心情を切々と歌い、ほろりとさせるのが上手い。それでいて、声量もしっかり
あるのだ。見直した。この調子で、若手と張り合って末永く歌い続けてもらいたいものである。

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          アズチェーナ、フェランドとルーナ伯爵

アズチェーナ役のマクマホン・クインテーロだけ、主要出演歌手の中でイタリア人ではない。
体格・声量・表情が大きく派手で、いかにもジプシーらしい歌唱も演技も大迫力だ。ヴェルディ
向きの歌手である。
アズチェーナは、荒唐無稽なストーリーの鍵を握る重要人物だ。それを意識した演技と歌唱で、
カーテン・コールでは一番大喝采を貰っていた。

ルーナ伯爵役のメオーニは、それほど印象に残らなかった。これは役のせいかもしれない。以前
聴いた『椿姫』でのパパ・ジェルモン役は説得力があった。それとも、主役のアルミリアートに合
わせて少々、声量を落としていたのかもしれない。

フェランド役は、なかなかに押しが強くて、主要登場人物のアンサンブルをきりりとまとめて締めた。
それから、男声合唱もヴェルディのオペラらしく、いい雰囲気を盛り上げた。

c0188818_2002270.jpg

              鍛冶屋の合唱シーン

演出は、取り立てて言うべき内容はない。アクロバット的な殺陣が目に付く程度で、小難しい
演技や振りが主要登場人物についているわけではない。読み替えなど全くないし、ヴェルディの
オペラにふさわしくわかりやすいものだ。とにかく、音楽が重要で、歌手が中心なのだから。

久方ぶりに、歌を聞かせることに的を絞った正統的なイタリア・オペラ実演を観賞した。
観て聴いて、心も耳もスカッとする。頭で考えずに体感で満足できる。
たまには、こういうのもいい。

         
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by didoregina | 2011-09-24 13:23 | オペラ実演 | Comments(8)

九月は単衣で

オペラやコンサートの新シーズンが始まった。着物の季節も再来だ。
車で行ける場所だったら、基本的に着物で出かける。
ウィッテムの修道院図書館でのエマ・カークビーのリサイタルには、草木染の単衣の紬を
着て行った。
今まで、教会でのコンサートに着物で出かけたことはない。石造りの教会と着物とはあまりに
ミスマッチに思えるからだ。
修道院の図書館は、書架や階段などがネオ・ゴシックの木で出来たぬくもりの感じられる
インテリアだったので、着物でも違和感がないどころかしっくりとマッチした。

c0188818_1823969.jpg

      グリーンの地にパステル・カラーで菱形のような模様を織り出した紬。
      竹の字を意匠化したデザインの塩瀬帯、茶色にパステル・カラーの
      入った帯締、白地に水色とピンクの源氏香柄の帯揚。
      

ブリュッセルにも車で行ったので、着物でオペラ鑑賞も可能だったが、マチネ公演だったし
その前に王宮を見学予定だったので洋装にした。

リエージュでのオペラ鑑賞には、もちろん着物を着て行った。家から一番近い歌劇場である。
車で25分くらいだ。

c0188818_1838789.jpg

        水色の紋ちりめん色無地単衣に砂子つづれの袋帯。
        三分紐に珊瑚のバラとゆりの帯留(デビュー!)、
        ローラ・アシュレーのバラ模様のスカーフを帯揚に。
        母の着物を裄直しせずに着たので、腕がにょっきり。
        帯地で手作りしたバッグはおニュー。

会場は黒と赤のインテリアなので、淡い色の着物ときらきら光る帯がばっちり映えたと思う。
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by didoregina | 2011-09-23 11:57 | 着物 | Comments(2)

シャトー・レストランでの〆はアイス・コーヒー

オペラ・コンサート・シーズンは、デュモーの『スタバ』で終わった。

様々なコンサートやオペラにご一緒してくれたK子さんが、ご主人の帰任に伴って
月末に帰国されることになり、バッコスの信女3人を含む熟女4人でお別れランチをした。
最後だからリキを入れて、一つ星レストランのシャトー・ネアカンネのテーブルを予約。

c0188818_165816.jpg

         お城のテラスにあるブロンズ像のバッコスの噴水

アッシー君もいるし、ワインしこたま飲んだれ、とバッコスの信女は浮き足立った。
久しぶりに着物を着るチャンスでもある。しかし、当日は予想気温32度。有松絞りの
浴衣を着物風(半襟・足袋・名古屋帯をお太鼓結び)に着ることにしたが、着付けで
かなり汗をかき、顔は粉ふき芋状態になった。

c0188818_167896.jpg

       黒に近い紺の絞り染め。帯は白の生紬に手描きの筍。
       夕食のセッティングがしてあるお城の中のテーブルで。

オランダで唯一の高台テラスがあるお城という長所を生かすべく、夏のランチのテーブルは、
テラスにしつらえてある。噴水の脇で大きなパラソルの下ではあるが、気温は34度にも
上ったので、めまいがしてくるほど暑い。扇子から手が離せない。

c0188818_16131473.jpg

       高台にあるお城の敷地はオランダとベルギーにまたがっている。

夏らしく軽い3コースのランチだったが、ワインは思ったほど飲めなかった。ランチなので
グラスで頼んだのだが、暑すぎて給仕の人があまり外に出てこなくて、追加注文ができな
かったためだ。前菜にマーストリヒトのフブ・ネックムの白(お城からほど遠からぬ農園で
作られている。マーストリヒト産ワインにしては酸味が強すぎず、フルーティでさわやか)、
メインにロゼを一杯ずつだった。

食事の後、普通ならコーヒー(または紅茶)になるところだが、暑すぎてとても温かい飲み物を
とる気がしない。「アイス・コーヒーなら」と言ってみたら、メートル・ド・テルはちょっと考えてから
「作ってみましょう」と言ってくれた。ヨーロッパ北部では日本風アイス・コーヒーは存在しないに
等しく、お目にかかることはまずない。スタバなどに行けば、置いてあるんだろうか。しかし、
オランダでは空港もしくは大都市の中央駅のフード・コートにしか、スタバは進出していない。
一般のカフェでは、アイスクリームがメインでコーヒーが下のほうにあるような、パフェに近いものを、
アイス・カフェなどど呼んで置いている場合もある。どんなものが出てくるんだろうか。

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       お砂糖が極少量入った、薫り高いコーヒーがアイスになって
       ワイングラスで出てきた。  
       さすが、と皆で喜び、喉を鳴らしてごくごくと飲んだ。
       氷は瞬く間に融けて、飲み終わる前に消えていた。
       これは、シャトーの夏場限定名物にしてもいいのではないだろうか。
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by didoregina | 2011-07-01 09:36 | 料理 | Comments(2)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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