タグ:ルトガー・ハウアー ( 7 ) タグの人気記事

The Mill and the Cross 『ブリューゲルの動く絵』

日本公開よりも少し遅れて、リュミエールで先週からようやくThe Mill and the Crossが
上映されている。2ヶ月ほど前、リュミエールの館長さんに直訴(?)したら、その翌々週
くらいに、駐輪場にこの映画のポスターが沢山貼られていて、おお~っと欣喜雀躍。
オランダ人画家が主人公でオランダ人俳優が主役の映画なんだから、オランダ映画では
ないが、オランダのアートハウス系映画館で上映されて当然なのだが。

c0188818_4264946.jpg
監督 Lech Majewski
脚本 Michael Francis Gibson, Lech Majewski

ピーター・ブリューゲル Rutger Hauer
ニコラース・ヨンゲリンク Michael York
マリア Charlotte Rampling
若い妻 Joanna Litwin

ポーランド、スウェーデン 2011年










ロッテルダム映画祭で話題になったので、一年以上前からいつ観ることができるのかと、
待ちに待っていた。そして、その期待は裏切られなかった。

c0188818_4343494.jpg

     広壮な構図の絵の広い地域に散らばるモブを実際の人と動物とで映像化。

まず、ウィーンの美術史博物館にあるブリューゲルの『十字架への道』や『子供遊び』や
『農民の踊り』などの絵を、そのまま文字通り活写し、絵そっくりの背景の中、時代考証も
完璧で絵そのものの扮装で配置された夥しい数の人物を動かすという手法が画期的だ。
ここまで徹底して「動く絵」を創ったという前例はないだろう。
中世のコスチュームでパレードしたりする時代祭りなんかよりも、もっともっとディテールまで
細かい。人間なら絵そっくりのシーンのためのストップモーションも可能だが、馬なんかは
微妙に動いてしまっている点で、監督の偏執狂的な細部へのこだわりが強調されていた。

c0188818_445718.jpg

      背景は、書割みたいなDGと実際のロケ地とがミックスして交錯。
   

こんな風に人海戦術の映画は、ロケ地も含めて実際にオランダやベルギーでは作ることは今や
不可能なのだろう。監督も登場人物も(主要有名俳優を除いて)ポーランド人になってしまった
のはいたし方ない。それどころか、監督のこの情熱には恐れ入り、映画化への感謝の気持ちで
いっぱいである。
しかし、ブリューゲルやそのパトロンで資産家のヨンゲリンクや老いたマリアなどの主要俳優が
英語の台詞をしゃべるのに対して、その他大勢はポーランド語をしゃべっていたのだが、それには
少々違和感を感じ、やはり残念であった。いうなれば、関が原の合戦を壮大な時代絵巻の映像
化したのに、ハリウッド資本の映画になったため、主要人物は中国人俳優で英語をしゃべり、
その他大勢は中国語をしゃべり、ロケ地はモンゴルの草原みたいな感じに近い。

c0188818_505036.jpg

       原題にもあるし重要な風車は、現実離れした迫力の存在感。

奇岩の上に屹立する風車は、そこへいたる長い階段の内部構造も、まるでバベルの塔を
裏返しにしたようなデザインで、人間の意志や想像力とはかけ離れたような不思議な建物だ。
まるで天の高みから地上の出来事を眺め、風も自由の操れるかのような風車守の親方の存在も
不思議である。

c0188818_5121189.jpg

          神の寓意のように高みから地上を見守る風車守の親方

その風車で挽かれる粉から作られたパンも、人びとにとっては生きるための有り難い糧であり、
尊敬の対象になる。生の基盤である。
若者や子供達は、踊りや遊びの中で自然と共に生を謳歌している。
そして、それと対象をなす突発的で残酷かつ日常的な死。

死は、たいてい赤マントのスペイン(傭)兵によって、突然有無を言わさず宣告され執行される。
オランダ・フランドルが被った横暴なスペインの圧制が、時代背景に濃密に漂っているのだ。

ブリューゲルのパトロンだったアントワープの金満家ヨンゲリンクの存在が何とも不思議で、しかも
意味ありげである。単なる善人には見えないのだ。スペインによる異端尋問や圧制に対する不満
を口にするのだが、実は裏でスペイン側に通じて自分ひとりで甘い汁を吸ってるんじゃないかと
疑ってしまうようなうさんくささを感じさせる顔つきのマイケル・ヨークなのであった。

ブリューゲルは、それらの出来事を克明に絵に記録する。天から命じられた使命のごとく。
ルトガー・ハウアー演じるブリューゲルは、ルト様の実際の年齢や普段TVで見る顔よりは若く
見えるが、ブリューゲルは40台で亡くなったのだから、心労のためかかなり老けている。
自分の絵のプランをヨンゲリンクに見せながら、図像の解説をしてしまうところが現代的である。
ブリューゲル自身によるブリューゲル作品の絵解きというわけだ。

『ブリューゲルの動く絵』という邦題は、たしかにそのとおりであるが、ちょっと含みが足りない。
なんだか、教育映画みたいな響きになってしまう。しかし、ブリューゲルの絵愛好者にとっては、
とても満足のいく眼福をもたらす映画なのだった。
[PR]
by didoregina | 2012-05-17 22:46 | 映画 | Comments(4)

Soldier of Orange (Sodaat van Oranje)は抵抗と連帯のテーマ曲

モネ劇場の『サンドリヨン』の動画を探していたら、面白いものが見つかった。
オンライン・ストリーミング録画と同じ日(12月13日)に作られたものだが、本編のストリーミング
では流されなかった。



神妙な顔付きの出演者全員はカーテンの前に立ったままで、オーケストラが妙に威勢のいい
音楽を演奏する。
そして演奏後に、モネ劇場のインテンダント、ペーター・デ・カーリュウェ(世紀末ダンディ風の
装いが似合ってる)が、やはり神妙に語りだす。それを聞いて、ようやく納得がいった。
つまり、この曲の演奏によって、オランダ政府が昨年から推進しようとしている大幅な文化予算
削減に対する抵抗と、オランダで苦しむ劇場おより音楽団体に対しての外国からの同士による
連帯を表明しているのである。

デ・カーリュウェは「(前略)文化というものは経済効率という物差しで計ることは到底できない
ものです。(中略)一部の政治家が経済優先でオランダで推し進めているこの政策に抗するため、
音楽でわれわれの連帯感をここに表します。オランダの政治家諸氏が、この件をもう一度、考え
直していただくことを願います。」

なるほど、なるほど。ユーチューブ上で関連動画を探すと、ヨーロッパ中の有名・無名オケが、
抵抗と連帯の名の下にこの曲を演奏しているではないか。
大概の動画は、演奏とオケ・メンバーであるオランダ人奏者が飛ばす檄と指揮者の語り、という
パターンで、リハーサル中に録画したとおぼしきものが多い。しかし、中にはモネ劇場のように、
公演の最中または後で聴衆・観客の前で演奏しているものもある。
連帯のために選ばれたSoldier of Orangeという同じ曲をどのオケも演奏しているので、様々の
オーケストラを聞き比べることになり、上手下手や、やる気のあるなしがはっきり判るのも面白い。

エネルギッシュな演奏では、ヨーロピアン・ユニオン・ユース・オケが一番ハジケていて聴き応えが
あった。
指揮者の語りでは、トーンハレのデヴィッド・ジンマンが、カメラの目線を向けずに文面を読み上
げるだけ、というのがイマイチだったが、演奏自体は打楽器の撥さばきが冴えている。
さすがの貫禄と、金管の下品にならない重厚さで群を抜いていたのはバイエルン放送響である。
コンセルトヘボウとの首席指揮者を兼ねているマリス・ヤンソンスの語りは、内容がよく練られて
いてまとまりもいい。結構長いスピーチなのでつかえたりするが棒読みでないから好感度が高い。




さて、これらのオーケストラが演奏したのは、オランダ映画Soldaat van Oranje(Soldier of
Orange)(邦題『女王陛下の戦士』)のテーマ曲で、作曲はロヒーエ・ファン・オッテルロー。
文化予算削減に対するレジスタンスという意味もあるし、勇ましい行進曲風でもあり、タイトルも
ばっちりだし、抵抗と連帯を謳う各国オーケストラのアクションにまことにふさわしい。

第二次大戦中(すなわちナチ・ドイツ占領下の)オランダでのレジスタンスの伝記を映画化したもの
で、1977年製作のポール・バーホーベン監督、ルトガー・ハウアー主演、イェルン・クラベほかの
オール・スター競演だから、オランダで知らぬ人はいない愛国映画である。
戦争レジスタンスものだし監督が同じだから、『ブラック・ブック』に通じるところも少しある。
というより、原作の制約がある『女王陛下の戦士』では描ききれなかった(タブーの部分である)
戦争およびレジスタンスの裏面にも『ブラック・ブック』で光を当てたともいえる。


          美男子だった頃のルトガー・ハウアーは
          ルドルフ・ヴァレンティノばりの正統派ハンサム
[PR]
by didoregina | 2012-01-10 10:13 | 映画 | Comments(2)

Black Butterflies カリスちゃんとルト様共演!

久々のルトガー・ハウアー出演の新作映画だ。期待は大きい。
しかも、主演はカリス・ファン・ホウテンである。期待はさらに増す。
南アフリカの女流詩人イングリッド・ヨンカーの伝記映画である。
↑のリンクで、カリスちゃんが朗読する詩Little Grain of Sand(英訳)が聴ける。


c0188818_16271710.jpgPaula van der Oest
Jaar: 2011
Duur: 90 minuten

Cast:Rutger Hauer
Carice van Houten
Liam Cunningham
Grant Swanby
Candice D'Arcy
Graham Clarke
Nicholas Pauling
Leon Clingman
Jennifer Steyn
Damon Berry
Waldemar Schultz
Florence Masebe
Thamsanqua Mbongo

Land: Nederland


南アフリカのアフリカーンス語詩人の伝記映画を作ったのはオランダ人のクルーで、主要キャ
ストもオランダ人、しかし言語は英語というのは、微妙な政治的・経済的効率の計算結果だろう。
アフリカーンス語(オランダ語の変形語)やオランダ語では、国際市場でウケル映画になりにくい。

c0188818_17141077.jpg


イングリッド・ヨンカー(1933-1965)のことは全く知らなかったが、この映画の印象では、
シルヴィア・プラスとアナイス・ニンとヴァージニア・ウルフを混ぜ合わせた様な人物である。

父親はアパルトヘイト政策を推進する南アフリカの超保守的政治家で、親子関係は複雑。
精神的な起伏が激しく、情熱的でしかも繊細。欝のため精神病院に何度も入院している。
このあたりが、シルヴィア・プラスを思い出させる。

妻子持ちの男性作家と次々に関係を持つのだが、破滅的な性格のため長続きしない。
自身が傷つき、相手も傷つけるという繰り返し。色情狂的な性格がアナイス・ニンそっくり。

また、当時の南アフリカの白人としては思想的にラディカルで、反アパルトヘイトの政治的主張を
詩作に反映させている。作家サークルの中心的存在であるのが、ヴァージニア・ウルフに似ている。


c0188818_17155144.jpg


カリスちゃんのヘア・メイクがイングリッド・ヨンカーを真似た造形のため、彼女本来の静謐で
透明な美しさはほとんど表に出ていない。しかし、狂を孕んだ鬱屈した詩人の暗い内面を表現
する演技は秀逸。

ルト様の役は、まるで某都知事みたいな超保守の国会議員で、反アパルトヘイトの書物検閲・
主義者弾圧という立場にあるから、思想的に正反対の親子の葛藤には決着が付かない。

c0188818_17162630.jpg


孤独な心が求めるものが激しすぎるため、付き合う人間を辟易させて、それが人間関係の破局に
繋がる。求めれば求めるほど、欲しいものが遠のいていってしまうというジレンマ。精神の振幅が
激しすぎる詩人の悲劇的生涯であった。

彼女の詩が有名になったのは、1994年に南アフリカで初めて民主主義的選挙によって大統領に
なったネルソン・マンデーラが国会開会でのスピーチで朗読したThe child is not deadによる。
彼女の死後ほぼ30年後、彼女の詩が(政治的に)認知されたのだった。

c0188818_17392557.jpg


イングリッド・ヨンカーが実際に思索および詩作に用いた言語はアフリカーンス語だった。このところ
新聞などでオランダ語との対訳を見る機会が多い。アフリカーンス語は、ほぼオランダ語に近いので
読めばほとんどストレートにわかる。
マンデーラが朗読した詩は英訳だし、映画に登場した多くの詩も全て英訳だが、予想以上に秀逸で、
リズムに躍動感があり、韻も踏みつつ、叙情性を残してしかもインパクトがあって、いずれも魅力的
だった。

しかし、映画自体は、全体としてどうもあまり上手く出来ていないのだった。カリスちゃんとルト様を
見たいという目的がない人には、訴えてくるものが少ないだろう。なんで今頃、反アパルトヘイトの
女流詩人のデスパレートな人生を映画化したのか。グウィニス・パルトロウとダニエル・クレイグという
美しく演技も達者な役者のおかげでなんとかもった映画『シルヴィア』と似ている。
[PR]
by didoregina | 2011-04-13 10:47 | 映画 | Comments(4)

Norwegian Wood

c0188818_4575141.jpg
Tran Anh Hung,  Japan 2010, 133 min.
Naoko   Rinko Kikuchi,
Watanabe   Ken’ichi Matsuyama,
Midori   Kiko Mizuhara,
Nagasawa   Tetsuji Tamayama,
Kizuki   Kengo Kôra













ほとんどの場合、映画が原作をしのぐことはない、と決めてかかってもまちがいはない。
本を読んでから映画を見て失望したなどというのは、だから、確信犯のマゾヒスト的行動である。

小説『ノルウェイの森』には、全く感動しなかったどころか、あまりの稚拙さにしらけてしまって
なんの思い入れもないから、この映画化にはある意味で期待があった。
全世界中でベストセラーになり、これをもってノーベル文学賞を村上に取らせろ、という声が上
がるほど大衆に認められた傑作なのだからして、わたしの期待を下回る映画は作りようがない
だろう、と。

その意味で、わたしの期待には大いに応えてくれた映画であった。
愛読紙NRCでの、この映画の評は芳しくない。また、この新聞紙上では村上春樹の文学的才能
にも大きな疑問符が付されていているから、一般的世評とは異なる評価をNRC読者もある程度
持っていると思う。来週土曜日には、デン・ハーグにおいてNRC主催の「村上春樹文学ライブ
討論会」がある。彼の文学は本物なのか、単に大衆操作の上手いペテン師か、というディスカッ
ションが行われるようである。最新作『1Q84』のオランダ語版発売は、まるで『ハリー・ポッ
ター』最新刊発売のような鳴り物入りだった。国境を越えて売れる作家である。
そして、アンチ村上派もまた多い(だろう)ということは、彼が現代文学界で無視できない大きな
存在であることを如実に物語っている。アンチ・ファンもファンのうちなのだ。

小説『ノルウェイの森』に思い入れのある人にとっては、これは駄作の映画だろう。
わたしには、逆に、全く小説そっくりに作ってあって上手い、と思えた。
読むと、うそっぽすぎて足の裏がむずがゆくなるような会話や独白が、映画だとなかなかに画面の
作り物っぽい60年代の雰囲気とマッチしていて、気にならないどころか笑える。

渡辺役の俳優の目元が村上春樹を髣髴とさせて、私小説の味わいがそこはかとなく視覚的にも
漂う。
女優が皆、小説の登場人物よりもずっと存在感があって、好感すら持てる。
日本の四季を、ベトナム人監督とカメラマンがエキゾチックに美しく撮っているのも、マル。
れいこさん役の女優がギターを爪弾いて歌う『ノルウェイの森』が、しみじみと上手く、聞かせる。
糸井重里、細野晴臣、高橋幸宏が、カメオ出演しているのが、あとでわかって楽しい。
終わったあと、映画館になぜか笑いが広がったというのが、珍しい。

と、この映画にはけなす点がなくて、ほめることばっかりだ。
しかし、それは小説と比べた相対比であって、絶対的な長所ではない。
映画単独としてみたら、突っ込みどころもなくて、つまらないものだ。
だから、原作よりも劣るかといったらそうともいえない。


もうすぐ、ロッテルダム国際映画祭の開幕だ。
カズオ・イシグロ原作のNever let me go(邦題『わたしを離さないで』)も参加する。
キーラちゃん出演だし期待できる作品であるが、評によると、「奇想天外のストーリー展開を
知っていると面白さは半減だから、まっさらなままで観るがよろしい」とのこと。
『わたしを離さないで』と『素数たちの孤独』と『ノルウェイの森』が、いずれも国際的ベストセラー
小説の映画化ということで、比較する記事もあった。小説の映画化は、なんであれ、ありがたいこと
だと感謝する。

c0188818_5563293.jpg


さて、それとは別に、ロッテルダム映画祭にルトガー・ハウアー主演の作品も出品される。
The Mill and the Crossというタイトルで、ブリューゲル作のウィーンの美術史博物館にある
『十字架への道』をデジタル映画化した(!)という、想像の埒外のエキサイティングなものだ。
薬中・アル中のオヤジ姿をTVトークショーにさらすことの多いルト様であるが、役者および最近は
監督および映画普及活動家としては、まだまだ腐ってはいないのだ、と安心した。
しかも、共演はシャーロット・ランプリングとマイケル・ヨークである。期待に心躍る。
[PR]
by didoregina | 2011-01-14 22:07 | 映画 | Comments(12)

ダンス版『ブレード・ランナー』

この夏クロアチアでヨットのセイリングをした時、2週間フロッティッラ(チャーター・ヨットの船団)で
いっしょになり、自宅が我が家のすぐ近くだとわかったTとH夫妻とは、私たち夫婦と年齢がほぼ
同じで学歴・職業も似通っていて、共通する趣味も多いので親しくなり、その後もお付き合いを続け
ている。
8月には、夫婦2組でお城でのアート・フェア兼ペーターのコンサートのほか、Tといっしょに洞窟での
現代曲ピアノ・リサイタルに出かけた。
今日は、Hからお誘いがあり、ダンス・パーフォーマンスを見に出かけた。
ヨットと音楽はまだしも、Hは趣味が高じてモダン・ダンスを教える資格も持っているときいて、
びっくりした。本業はお堅い職業である。ダンス教師として登録してあるので、さまざまなダンス・
パフォーマンスのお誘いが来るのだという。
この時期、マーストリヒトで毎年開かれるNederlandse Dansdagen(オランダ・ダンス・デイズ)に
出演する団体のゲネプロだ。

c0188818_422533.jpg


会場は元建材工場で、今はがらんとして鉄骨が剥き出しの、しかし天井から自然光が差し込む
広い建物だ。外壁と内壁はそのままで、床面積が広く、ガラス面積が多い窓やドアはきれいに
直してあるので、大きなインスタレーションのモダンアート展示等、多目的に使える。

c0188818_41495.jpg

            大きなエントランス・ドア

観客の年齢層は非常に低く、高校生・大学生みたいな感じの若い子が多い。
普段、コンサートやオペラの会場に行くと、「ここにいる中でわたしが一番若いかも」などと思う
ことが結構あるから、これには驚いた。

入り口の大きなガラス・ドア越しに、黒服にフェンシングのマスクをつけたダンサーたちが、
壁といわず窓ガラスといわず階段や鉄骨の柱といわず、あちこちにぶつかりながらあたりかまわず
走り回っているのが見える。
そのうちに、ドアが開いて、観客は、ダンサーたちと同じ空間に入れられた。
男女4人が、アクロバティックなモダンなダンスを踊るのだが、お互いに傷つけあい、追い求め、
逃げ回るようなアクションで、そのあと、黒服の集団が加わり、逃走・闘争に拍車がかかる。

客席はなく、工場の空間全てをステージとして使うので、観客の間を縫って、ダンサーは走りぬけ
柱や梁や階段を使って踊る。モダン・ダンスやブレーク・ダンスにアクロバットが加わる。
c0188818_4233649.jpg

        踊る、というよりアクションである。

前後左右上下全ての空間を舞台としているから、観客はダンサーのアクションに合わせて場所を
移動する。
大部屋から小部屋に誘われたり、暗闇の空間でレーザーのような光に照らされたり、階段の途上、
はたまた階上から下を見下ろしたり。

c0188818_4274050.jpg

       ダンサーたちは、壁をけり駆け上り、柱もするすると登るから、
       神出鬼没で、見るほうも気が抜けない。

なんとなく、ストーリーがあるようなないような、『マトリックス』みたいなもの?と思いつつ
見ていた。
とにかくテンポが速くて、ぼおっとしているとダンサーの邪魔になるから、何かを考えている暇はない。
久しぶりに文字や音楽が脳に入り込む隙間がないような、感覚だけで鑑賞する爽快感を味わった。
頭を真っ白にして、とにかく何事が起こるのか追いかけるのに精一杯だ。

正式上演の前に、実験台の観客を入れてみて、ダンサーの動きに邪魔にならないかどうか確かめる、
観客もダンサーに合わせて移動できるかどうか確認のためのゲネプロだったのだ。
ダンスおたくっぽい人や若い人ばかりだったから、皆すばやく対応できたが、一般観客だったら、
はたして今日のようにスムーズにいくかどうか、疑問が残ったが。

一般的な舞台とはまったく異なる空間を使っているから、立体的・3次元的な観点の振り付けが必要で、
実験的ではあるが、面白かった。

Hは「なにか映画を題材にしていると案内書に書いてあったが、映画には詳しくないからわからない」
という。「ハリソン・フォードが出ている映画らしい」とも。
「えっ、それじゃあ、もしかしたら『ブレード・ランナー』なの?ルトガー・ハウアーも出ていた」と
聞いたが、この超有名なカルト映画をご存じないようだ。

帰宅して、ダンス・サイトで確かめたら、果たして『ブレード・ランナー』とタイトルがついていた。
c0188818_4482571.jpg

            ダンス版『ブレード・ランナー』

1982年に作られた『ブレード・ランナー』(リドリー・スコット監督作品)は、映画史上に残る画期的
作品だし、その後のSF映画の路線を決定したと思う。
2019年のLAを舞台とする近未来の反ユートピアの、にごった霧のかかったような暗い画面に、アンド
ロイドが跳梁跋扈するというシチュエーションは、それ以後作られたSF映画に臆面もなくパクられ、
似たような題材やモチーフが散見する映画が多く作られた。

冷血なアンドロイドも感情を持つ、ということがルトガー・ハウアー演じるロイが最後に見せた、なんとも
名状しがたい悲しみに満ちた表情で、詩的な説得力を持って胸に迫った。
この映画で、ルトさまは、完全に主役のハリソン・フォードを食ってしまって、スターダムにのし上がった
のだ、カルト映画界の。

もしも、この映画を見ていない人がいたら、悪いことは言わない、即、レンタルすべし。
しかし、この映画をまだ見ていない人に嫉妬してしまう。極上の楽しみが残されているのだから。

(ついでに、マーストリヒト在住の皆様、このダンスは来週木曜日にもう一度ゲネプロが行われる。
金曜日から本番が始まるが、木曜の夜はタダで鑑賞できるので、ぜひ行かれることをお勧めする。
場所は、Timmerfabriekで Noorderbrug脇、マルクトから行くとBoschstraatと Bassinの先、
スフィンクス工場跡の向かい)
[PR]
by didoregina | 2010-09-25 22:10 | 映画 | Comments(6)

Control

c0188818_2032441.jpg2007年 監督:アントン・コービン
サム・ライリー、サマンサ・モートン、アレクサンドラ・マリア・ララ他

70年代末頃の伝説的ニュー・ウェーブ・バンド、
ジョイ・ディヴィジョンのシンガー、イアン・カーティスの
伝記的ストーリー。


カーティスが23歳で生涯を閉じるまでの、サクセスの陰の苦渋に満ちた私生活を描いたのは、写真家およびヴィデオ・クリップ監督として有名なアントン・コービンだ。この人、70年代からイギリスで活躍してるけど、もともとオランダ人だから、名前の発音は、アントン・コルバインのはずだが、日本ではコービンで通っているらしい。
本人のサイトを見てもらうとわかるように、U2のCDジャケットをはじめ、マイルス・デイビスやクリント・イーストウッドなどのモノクロ写真ポートレートで有名だ。
いずれの写真も、被写体がいいのはもちろんだが、とにかくスタイリッシュでバシッと硬派でかっこよさ抜群である。

あまり女性のポートレートは撮っていないようだが、
マリアンヌ・ファイスフルのこの写真はイカしてる。
c0188818_20494460.jpgc0188818_20502582.jpg              ルトガー・ハウアーも!







とにかく、その写真家コービンによる映画第一作である。映画も写真同様、白黒だ。
全てのシーンのアート性は完璧である。どの場面も、切り取って引き伸ばして壁に飾りたくなる。
70年代後半のイギリス北中部の地方都市が舞台だから、もしカラーで撮っていたら、灰色とくすんだレンガ色が基調の暗い背景で、リアリスティックではあってもスタイリッシュにはならなかっただろう。

ストーリーは簡単に言うと、才能とカリスマ性で急激にスターダムを登ったが、私生活では若くして結婚した妻と愛人との板ばさみで苦悩し、しかも癲癇の発作と薬の副作用に戦々恐々として、ついに精神的に破滅し自殺したシンガーの悲劇だ。
奥さんの書いた伝記本がもとになっているという。だから、イアン・カーティス本人の精神状態や苦悩を、残された手紙や歌詞などの断片をかき集めたものから、なんとか表現しようとしている。
映画から伺い知れるのは、世間知らずの若い男の子が、現実と夢のギャップに悩み、自我が十分に成長しないまま、突入した高速回転するショービジネスの世界に順応できなかったらしいこと。
自分が求めているものや興味を把握しないまま、スターへの階段を駆け足で登ってしまって、その高みから眺めて茫然自失、ということだったようだ。

役者は皆いい。ルックスのキュートさと歌の上手さ抜群のサム・ライリーを見るだけでも満足できる。
(彼は、スティーヴン・フライやリック・スタインやトビー・スペンスなどと同じ名門パブリック・スクール出身!)
妻役も愛人役も、雰囲気抜群。その他の脇役も、70年代の陰鬱で自堕落な雰囲気を演じるのが上手い。
ストーリー展開よりも、人物の内面を抉るよりも、雰囲気、というのがこの映画で最重要なのだ。
そして、それは観る者に共感を抱かせるように作ってある。ターゲットになっているだろう若い観客だけでなく、わたしにとっても、70年代後半の雰囲気をこれだけスタイリッシュに味わわせてくれたから、うれしかった。


[PR]
by didoregina | 2010-02-04 13:31 | 映画 | Comments(4)

Turks fruit  別のターキッシュ・ディライトをほうばる

ターキッシュ・ディライトで、ほんの少々盛り上がったので、別のターキッシュ・ディライトを取り上げたくなった。

カタカナでターキッシュ・ディライトと書くと、「ナルニア国物語」にでてくるトルコのゼリー菓子だが、オランダ語でTurks fruitと書くと、中年以上のオランダ人なら絶対思い浮かべるのは、ルトガー・ハウアー主演の同名の映画だ。(英語のタイトルはやっぱりTurkish Delightらしいが、日本語タイトルはなんと「危険な愛」だそうだ!日本公開されたのかどうかは知らないが。)

ルトガー・ハウアーはオランダを代表する映画俳優だが、若い頃は金髪碧眼の貴公子みたいな容姿だったのが、中年になると迫力のある悪役顔になり、それが薬物常用のためか年ともに崩れて、今は、そのへんによくいそうなでかいオランダのオヤジに、外見は成り果てた。(オフィシャル・サイトにリンク張ったので、ルックスの変遷をごらんあれ。)

ハリウッドでは、多分「ブレード・ランナー」でのアンドロイド役からブレークして、それ以来、くせのある性格俳優というか、悪役として欠かせない人になり、一部愛好家の間でカルト的人気を誇っている。実は、ファン・クラブを作りたいほど好きな俳優だが、会員が集まるかどうか心もとないので、言い出せないでいる。


その彼主演の映画、邦題「危険な愛」は、1972年、あのポール・バーホーベン(本当はオランダの読みに近くファーホウフェンと書きたいが、そうすると誰もわかってくれないと思うので、ハリウッドでの通常読みにした。)監督作品で、主演はルトガー・ハウアーとモニク・ファン・フェン。いかにも70年代らしい、究極の愛の姿を描いた、大人なら必見の傑作だ。どうも、日本ではあまりにカルト映画扱いされているようだが、オランダでは多分いまだに観客動員数ナンバーワンを誇る、誰でも一度は観たことがある映画である。



ただ、いかにも70年代のオランダに台頭していた、恐れを知らぬヒッピー文化のおかげで、全ての描写がストレートすぎるのが、外国人には受け入れられにくいかもしれない。でも、あっけらかんとハッタリのある映像にも、ストーリーにも、わたしはすぐにハマッタどころか、ラストに近くなると涙が止まらなくなったほどである。先入観なしに観れば、とってもピュアで美しい青春の純愛劇、映画史上に残るべき名作である。

この映画からの連想で、Turks fruitというと、なんとなくエロチックな響きを感じてしまうのは、困ったものであるが、偏見を捨てれば、世界はもっともっと広がるのだ。
[PR]
by didoregina | 2009-05-25 18:00 | 映画 | Comments(10)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


最新のコメント

Vermeerさま、多分..
by レイネ at 01:38
トマスのソロ・コンサート..
by Vemeer at 01:25
Vermeerさま、この..
by レイネ at 20:56
詳細なレポート、楽しく拝..
by Vermeer at 18:02
ロンドンの椿姫さま、それ..
by レイネ at 17:03
大満足のマスタークラスで..
by ロンドンの椿姫 at 23:41
鍵コメさま、ヴェロニカ・..
by didoregina at 18:57
Mevrouwさま、北海..
by レイネ at 18:46
レイネ様も怒涛の更新で、..
by Mevrouw at 23:33
Mevrouwさま、サー..
by レイネ at 22:10
Mevrouwさま、夏の..
by レイネ at 22:05
新作オペラに挑むのは本当..
by Mevrouw at 20:56
クロアチア~ベネチアを自..
by Mevrouw at 20:27
Mevrouwさま、ご高..
by レイネ at 20:19
ようやく一息つける日なの..
by Mevrouw at 19:57
Mevrouwさま、癒し..
by レイネ at 16:49
このところネットからも音..
by Mevrouw at 16:37
斑猫さま、もうすでにパリ..
by レイネ at 16:57
ロンドンの椿姫さま、まさ..
by レイネ at 16:54
こんにちは CT研究会..
by 斑猫 at 00:16

以前の記事

2017年 10月
2017年 08月
2016年 11月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 06月
2015年 04月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月

タグ

最新のトラックバック

究極の愛を描いたワーグナ..
from dezire_photo &..
バッハが人類に残したメッ..
from dezire_photo &..
バッハが『ロ短調ミサ曲』..
from dezire_photo &..
ルター派のプロテスタント..
from dezire_photo &..
ダンテの『神曲』 ”地獄..
from dezire_photo &..
ポン=タヴァン派、総合主..
from dezire_photo &..
倉冨亮太さんの繊細な美し..
from dezire_photo &..
ダイナミックで刺激的な多..
from dezire_photo &..
贅沢と快楽に生きる娼婦な..
from dezire_photo &..
バッハとヘンデルの音楽性..
from dezire_photo &..

カテゴリ

全体
バロック
映画
オペラ実演
オペラ映像
オペラ コンサート形式
着物
セイリング
コンサート
美術
帽子
マレーナ・エルンマン
イエスティン・デイヴィス
クイーン
CD
20世紀の音楽
旅行
料理
彫金
ビール醸造所
ベルギー・ビール
ハイ・ティー
サイクリング
ダンス
ハイキング
バッグ
教会建築
カウンターテナー
演劇
未分類

検索

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

音楽
映画

画像一覧