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草上の音楽と映画

夏の間に一度は体験したいのが、野外での音楽会や映画上映だ。
これがないと夏が終わった気がしない。

アムステルダムのプリンセン運河コンサートとか、ロッテルダムのフェアハーフェン港湾
コンサートとか、その他各地でもいろいろと無料のコンサートが開催されて、新シーズン
開始前の予告編の様相を呈するので、出演するアーティスト達も一流ぞろいだ。

ロッテルダム・フィル(ネゼ=セガン指揮)とアナ・カテリーナ・アントナッチの港湾コンサートへ
は、直前に行くのを止めてしまった。大雨・雷雨の予想だったからだ。ヨット用の防水ジャケット
を着たのに、どうも玄関で気が萎えてしまって。。。

野外での映画上演で、今年リュミエールが主催したのは『少年と自転車』だったが、既に観て
いるので、これもパス。
昨年は、『神々と男たち』『マムート』『エデン』をそれぞれ異なるロケーションで観たのだが、
開放感も雰囲気も抜群だった。

土曜日夜に出かけたのは、マーストリヒト市内、マルクト広場から程遠からぬ立地のスフィンクス
陶器工場の跡地で行われた野外映画およびコンサートだった。

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         映画上映の前にバロック・コンサート

このロケーションが、また信じられないほど自然が残って、町中のアルカディアの趣だ。
高いレンガ塀に囲まれた工場跡地には、窓ガラスの割れた工場やオフィス・ビルが残ったままだが、
世界的不況による建設業界の停滞を反映して、その中に抱かれるように6ヘクタールの空き地が
手付かずになっていつの間にか自然に帰っているのだ。
実際、何も手を加えないでおくと、自然はびっくりするほどの繁殖力を町の中心であろうとも見せる
ものである。

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     倒木や草の上に座っている会衆は、高校生、赤ちゃん連れの若い夫婦や
     退職後の熟年など、様々。犬もいる。

この秘密の場所を見つけた人は、犬の散歩で迷い込んだ都心のアルカディアに感嘆し、早速、市に
当面2年間の占拠を掛け合った。経済的に開発の見込みが立たない現在の状況下、その申し出は
許可された。そして、スフィンクス・パークとしてカルチャー発信の場になっているのだ。
空き家のスクウォッティングも、自治体から合法的に認められている場合がしばしばある。それは、
犯罪防止や家屋の荒廃・スラム化を防ぐ意味で、誰かに住んでもらうほうがいいからだ。

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               隣はワンちゃん連れの人


21時からの映画上映の前に、ポーランドとイタリアのバロック・アンサンブルIl Giardino d'Amore
によるヴィヴァルディ、コレッリ、スカルラッティの器楽曲およびマドリガーレの演奏があった。

Il Giardino d'Amore
Stefan Plewniak(viool), Marzena Matyaszek (viool), Katarzyna Kalinowska (viool), Monika Boroni (viool), Magdalena Chmielowiec (altviool), Wojciech Witek (altviool), Marta Semkiw (cello), Katarzyna Cichon (cello) en Maria Guzowska (luit)
Natalia Kawalek (sopraan) en Dawid Biwo (bas-bariton)

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水上の音楽ならぬ、草上で聴くバロック音楽もなかなかよろしい。
野外だから、各楽器の前にはマイクが立ち、歌手もマイクを持ってスピーカーで増幅した音響で
あるのはいたしかたない。それでも、ロケーションのアルカディア的雰囲気と素朴で明るいマドリ
ガーレが絶妙にマッチして効果抜群。

ソプラノ歌手は、名前から判断すると、先月、インスブルックの古楽音楽祭でのコンクールで3位に
なった人のようだ。このアンサンブルを率いてヴァイオリン・ソロも弾く人が旦那さんのようである。
PAで増幅されていたが、鄙びてはいるが生き生きした演奏の弦楽器の音と、アンサンブルの名前
(愛の庭)そのものの、生の愉悦を表現するような曲選定で、楽しめた。
古楽のソプラノにしてはちょっと変わった深みがあるというか、ドスの効いた声で歌われるマドリガーレ
は、野趣満点。

同じ歌手による、インスブルックの古楽コンクールの動画を下に貼っておく。



    勢い余ってちょっと音程がヘンだったり、荒削りではあるが、不思議な個性のある歌声だ。


音楽のあとは、昆虫の世界を描いた自然映画Microcosmos。マクロで映し出された昆虫の生態は
コミカルで笑いを誘う。しかし、ちょっと長くて、オチとかはどうするんだろう、と思わせ、途中で
ちょっと飽きてきた。
たぶん、ロケーションを基準に選んだ映画であった。
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by didoregina | 2012-09-03 18:07 | コンサート | Comments(4)

『イポリートとアリシー』@オペラ・ガルニエは正統的HIP

パリのオペラ・ガルニエで6月・7月に上演されたラモーの『イポリートとアリシー』は、ぜひとも
実演鑑賞してバロックの雰囲気を満喫したい!と思わせる正統的HIP(Historically Informed Performance)の舞台だ。
すなわち、アイム女史指揮の古楽オケ、コンセール・ダストレーによる器楽演奏、歌手陣も
バロックを得意とする歌い手で揃え、舞台美術・衣装および装置はバロック時代をかなり正確に
再現するような造形で、歌手の身振りはバロック・ジェスチャーだし、バレエは優美なバロック・ダンス。
ここまで凝ったHIP上演は、めったに拝むことはできまい。

実演鑑賞は叶わなかったが、MezzoでTV放映されたライブがYoutubeにアップされていて、
全編観ることができる。(この人、TV放映されたバロック・オペラの相当数を投稿している。
ありがたいことだが、著作権問題があるだろうからいつまで視聴可かは不明)

Hippolyte et Aricie, by Jean-Phiippe Rameau
Le Concert d'Astrée, Emmanuelle Haïm (conductor)
Ivan Alexandre (stage director)
Antoine Fontaine (sets)
Jean-Daniel Vuillermoz (Costumes)
Hervé Gary (lighting)
Natalie Van Parys (choreography)

Sarah Connolly (Phèdre),
Anne-Catherine Gillet (Aricie),
Andrea Hill (Diane),
Jaël Azzaretti (L'Amour / Une Prêtresse / Une Matelote),
Salomé Haller (Oenone),
Marc Mauillon (Tisiphone),
Aurélia Legay (La Grande Prêtresse de Diane / Une Chasseresse / Une Prêtresse),
Topi Lehtipuu (Hippolyte),
Stéphane Degout (Thésée),
François Lis (Pluton / Jupiter),
Aimery Lefèvre (Arcas / Deuxième Parque),
Manuel Nuñez Camelino (Un Suivant / Mercure),
Jérôme Varnier (Neptune / Troisième Parque)
Live from the Paris Opera, Palais Garnier

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       プロローグは森の中

プロローグの舞台装置および演出から、既に期待が高まる。
森に勢ぞろいした月のニンフ達のコーラスは、バロック・ジェスチャー付きで、舞台前方床の端に
置かれた照明が、ろうそく風の色で下方正面からの光を後方に向かって当てているので、ほの暗い
舞台上の登場人物の目から上が影になり、なんとも独特のバロック風情がかもし出されている。
本物のろうそく使用は、防火上許可が下りなかったのだろうが、この薄暗さはなかなかよろしい。

ゴンドラに乗って天から下るディアーヌの声が最初迫力不足に聴こえたのは、舞台のかなり上方
から歌わされたためだろうか。舞台に降り立つほど下に来ると、聞き取りやすいくらいの声量に
なったように思えた。(そのゴンドラは、プロローグの最後にかなりのスピードで上手方向上方に
斜めに上がって行ったのでびっくり)

ディアーヌと言い争うお茶目なアモールの歌手は、軽くて転がる声とルックスも可憐。
雷鳴と共にジュピターも天下り、けんかを成敗すると、地下の者達はいっせいにかしずくのだった。
ジュピター役はプルート役も兼ねているのだが、歌もルックスも、どうも神としては迫力不足である。
(第二幕のプルートになったら俄然よくなったが)

全幕通じて非常に多いバレエ・シーンだが、バロック・ダンスの軽やかなステップがとても優美で
ドレスとメイクアップともマッチしているから、飽きさせない。
実際、ストーリー進行を途切れさせることなく、自然にバレエ音楽部分が融合しているのは、
ラモーの作曲の力量を示すものだろう。ダンス・シーンと歌の部分が有機的に結合していて、
バレエの合間に歌が入っているかのような流れと趣である。スムーズそのものでほころび部分が
見当たらない。
そういうふうに自然に流れるのは、オーセンティックな鬘やメイクや衣装と、音楽および雰囲気に
マッチしたバロック・ダンス振付とダンサー達のテクニックにも負うところが大きい。これぞおフランス
のエレガンスの最高峰といえよう。


第一幕の舞台は、ディアーヌの神殿。
アリシー役のジルは、ルックスは地味目のお姫様だが、声量がしっかりあるので、優美さの中に
芯の強さを秘めているようでとても好ましい。
低めのテノールで歌うトピ君のイポリートは、狩装束の姿かたちの美しくすらりとしたプリンスで、
凛々しさ抜群。
恋する二人は、しかし、互いに向き合ったり近づくこともなく、客席に向かって正面を向いたまま歌う
のが、バロックらしい。
お互いに見つめあうのは最後の方になってからである。

そこへ典雅かつ荘重なサラ様のフェードルが登場する。重厚な上着とビラビラしたフリル・レース襟の
スペイン風のドレスで悪役であることを強調。男前のチェーザレそのものの顔つきで邪悪な目付きの、
典型的継母という風貌である。
しかし、悪役だからといってわざとらしいドスを効かせたりせず、歌声はあくまで優雅さを失わない。
これぞバロックの真髄。裏に秘めたフェードルの情熱は、サラ様の均整の取れた美しい声で
なくては表現できまい。


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         地獄は上下さかしまの国

第二幕は、アップテンポで快活に始まるが、舞台は地獄である。
地獄の責め苦にあうテゼー王役のドグーは、とにかく歌が上手いし、老け役も上手だ。
鼻に掛かって下によく響く朗々たる美声で、立ち姿もフランス語もほれぼれするほど美しい。

この地獄では、コーラスの顔が上下さかさまのメイクなのが効果抜群。しかも、閻魔大王の家来
みたいな役のメイクと所作が歌舞伎か京劇の悪役風で面白い。


第三幕では、道ならぬ恋心に身を焦がすフェードルのアリアが胸を打つ。
王妃の誇りを捨てて生身の女であることを象徴するかのように、髪飾りと首のフリルの襟を外すと、
歌い方も様式的というよりは、情熱を強調するように変化する。その変身振りを歌唱でも表現できる
ところがサラ様の面目躍如。
激しく息詰まるかのような、フェードルの心情吐露とイポリートとの応酬が続き、ここにはダンスの
入り込む余地はない。
突然のテゼー帰宅に、驚く二人。そこに割って入った女官の機転で、音楽もいきなり明るい
菅楽器演奏にダンス。演出もこのように緩急自在にストーリーと音楽に対応しているのが素晴ら
しい。
自ら責任を引き受けて放浪の旅に発つイポリート。その後は、テゼーの一人舞台である。
相変わらず老け役が上手いドグーだが、いくらメイクで顔に皺や隈をつけても、体型と立ち姿の
若々しさは隠せない。


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第四幕では、ネプチューンの支配する海に放浪するイポリートは、アリシーと再会するも、
死の国へと旅立つ。
そこへ髪を下ろしたフェードルが登場して、自らの罪のため死んだ無実のイポリートを悼む。
その後悔の様子は悲劇の王妃そのもの、もしくは恋狂いの狂女だ。

第五幕では、苦悩するテゼーのところにネプチューンが現れ、イポリートは死んでいないと言う。
噴水の沢山ある庭で1人嘆くアリシー。そこに男女のダンサー達が静々と登場し、皆で天に祈る。
その祈りが通じたかのように天から矢が降ってきて、ディアーヌが降臨。風に乗ってイポリートも
黄泉の国から生還して、ハッピーエンド。

コンセール・ダストレーによるラモーの音楽は、特に低音の通奏がびしばしとよく響き、めりはり
抜群。緊張感と躍動感に溢れている。
HIPというだけでなく、トータル芸術としても完璧な舞台だった。
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by didoregina | 2012-08-03 15:02 | オペラ映像 | Comments(4)

Bravaに感謝!招待コンサートでハナちゃん発掘!

またまた、Bravaからのコンサート招待に当選した。昨年はほとんど当選しなかったと
記憶するが、今年は、リンブルフス・シンフォニー・オーケストラ(地元LSO)とオランダ
期待の若手ピアニスト、ハネス・ミナーによるオール・Rシュトラウス・プログラムのコンサート
当選に続いて2度目である。

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          4月に行ったけど、忙しくて記事に出来なかったコンサートで
          ピアニストのハネス・ミナーとツーショット。

今回当たったのは、リンブルフ州の作曲家デイというかなりマイナーなテーマのコンサートで
あるが、そういうものこそ、タダ券でも貰わない限り聴きに行こうとはなかなか思わない
から、当選してうれしい。

土曜日の朝から晩まで、地元出身の作曲家による主に世界初演の曲を、地元の演奏家が
演奏するというものだが、特に興味を覚えた午後からのコンサートを三つ聴くことにする。

Limburgse Componistendag @ Theater Heerlen 2012年6月30日

Studium Chorale & Ensamble 88 dirigent Hans Leenders
Simons Three Shakespeare Sonnets
Leenders Hoc est praeceptum meum

Ensemble 88  & Hannah Morrison
Van den Booren Duende

Heerlense Oratorium Vereniging dirigent Emmanuel Pleijers
Lambrechts Impressions Maritimes, Carmen Laudationem

大体、コンサート当選のお知らせは、当日の2日前くらいに来る。
それから同行者を探すのは、なかなか大変だ。興味を持ちそうな友人を誘うが、「残念ながら
予定が詰まっていて」と4人から丁寧に断られた。それで、長男と行くことにした。

しかし、ヘーレンの市民会館窓口で「ブラーヴァの無料コンサート券に当選したんです」と
告げるも、わたしの名前のチケットはなぜか用意されていなかった。
当選を知らせるメールは、もちろんプリント・アウトしていかなかった。いつも、名前を言うだけで
さっとチケットが出てくるからだ。
今回は、どうやら、Bravaがわたしの名前を劇場に通達し忘れたようである。
顧客としてこの劇場にはわたしのデータが登録されているので、窓口の人の信用を得ることが
できたのは幸いであった。
そして、あまりにもいい天気だから、多分現れそうもないだろう、と窓口担当者は、アペルドー
ルン(ヘーレンから200キロほど北の町)在住の当選者のチケットを替わりにくれた。
(Bravaには、そのいきさつを書いて苦情メールを送ったが、返事はまだ来ない。)

午後の部の会場(大ホール)の客席は、3分の1も埋まってはいなかった。
内容のマイナーさと、外の天気のよさの相乗効果であるから、いた仕方ない。

最初の曲を作曲したのは、まだ若いマレイン・シモンズ。子供の頃からヴァイオリンと作曲の
神童として名を馳せたが、20代後半になったであろう最近は作曲に的を絞っているようだ。
シェイクスピアのソネットを、ア・カペラの現代的混声合唱曲にしたものだ。
無調でしかも合唱の各人ばらばらで必然性のない不協和音で出来上がっていて、しかも伴奏
なしだから、音程を取るのが大変そうである。全員、それぞれ、出だしや主要各所で音叉を
耳に当てて音を取っていた。
面白いのは、ソネットが進むにつれて、だんだんとわかりやすい音楽の形に変化していって、
最後の方は、いかにもシェイクスピアらしい歌曲の趣になって終わるのだった。
聴き終えると、数世紀の音楽史を遡るような感じの大作だ。
このソネットを聴く限り、作曲家シモンズは、オペラ作曲への意欲満々のように思われる。
現代曲のオペラへの批判という意図も含まれているかもしれない。ただし、作曲家自身は、
ミュンヘンでのリハーサルのため、世界初演の機会に同席できなかった。

二番目の曲は、合唱指揮で活躍しているハンス・レーンダース作曲。
指揮者としての彼は、主にポリフォニーからバロックの宗教曲をレパートリーとしているから、
作曲作法も、バッハを思わせる。ラテン語の歌詞をカノン主体の混声で歌わせていく。現代的な
要素は、ビブラフォーンが活躍する器楽演奏部分以外には全くない。18世紀の曲だと言われたら、
信じてしまうだろう。
合唱団は、大分以前『ヨハネ』を聴いたときよりも、ずいぶん進歩しているのに驚かせられた。

その後、小ホールに移動。
アンサンブル88は、構成人員をフルート、クラリネット、ヴァイオリン、チェロの四人に縮小し、
真ん中に立った歌手が、まずオランダ語で詩の朗読をする。太陽や宇宙、気象など自然賛歌
から愛を歌うものまで様々だ。ベルギー訛のオランダ語の発音が美しい。
それから、おもむろに室内楽の演奏に合わせて、素直かつストレートで張りのある好感度抜群
声の、小柄で細身の外見からは意外なほど十分な声量で会場を満たすのだった。
わたしを含む会場は、彼女に魅入られてしまった。Who's that girl?

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         声にもルックスにも清楚な美しさが光る Hannah Morrison

オランダではほぼ絶対不可欠なスタンディング・オヴェーションは、その日のプログラムでは
それまで起きなかったが、ここにきてようやく歌手と作曲家に対するスタンディング・オヴェーション
になった。わたしも、真っ先に立ちたい気分だった。

プログラム・ブックには名前すら、歌手に関する記載がなかった。長男の隣に座った人の話に
よると、その歌手はスコットランド人とアイスランド人のハーフであるという。
帰宅してから、アンサンブル88のサイトで調べると、ハナ・モリソンというソプラノだとわかった。
それからは、ネット・サーフィンである。
両親はたしかにスコットランド人とアイスランド人らしいが、オランダ育ちで、マーストリヒト音大
出身である。
最近では、ハナちゃんは、ポール・アグニュー指揮およびテノールとして出演のレ・ザール・フロ
リッサンによるモンテヴェルディの『マドリガーレ』コンサートに参加している。


         この『マドリガーレ』コンサートも全編タダでMediciTVのサイトから視聴可能。

そして、なんと、ラルペッジャータの『聖母マリアの晩課』コンサートでもソリストだった!
その今年6月14日のサン・ドニ音楽祭でのコンサートがArte Live Webから、全編あと164日間
視聴できる。(下線部分にリンクを張ったので、ぜひ!)
ハナちゃんは、8月24日26日にインスブルック古楽祭にもラルペッジャータのソリストとして
Il Parideに出演する。

魅力的な若手ソプラノをこうして発見することができ、タダ券をくれたBravaには感謝に堪えない。
ハナちゃんからは、今後、目が離せない。
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by didoregina | 2012-07-02 17:25 | コンサート | Comments(2)

ザルツブルクの『ジュリオ・チェーザレ』

ザルツブルク精霊降臨祭フェスティヴァルでの『ジュリオ・チェーザレ』をTV中継および
ストリーミングで2度鑑賞した。
(TVは前半の約1時間、ストリーミングは最後の1時間、それぞれ見ていない)
休憩も入れて4時間以上の長いオペラだが、LivewebArteのサイトであと57日間全編見られる。

記憶が新鮮なうちに、感想を書き留めておきたい。

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  Giulio Cessare Salzburger Festspiele 2012 © Hans Jörg Michel

まず、なんといっても、空前絶後、当代随一の(バロック・オペラ)歌手の揃い踏みが
一番の聴きもの・見ものだ。まさに夢の競演。
チェチリア・バルトリが芸術監督(?)になった音楽祭だから、彼女の嗜好とネットワーク
が反映したキャスティングであることは間違いない。

Giovanni Antonini    Musikalische Leitung
Moshe Leiser, Patrice Caurier    Inszenierung
Christian Fenouillat    Bühne
Agostino Cavalca   Kostüme
Christophe Forey   Licht
Konrad Kuhn   Dramaturgie
Beate Vollack   Choreografie

Andreas Scholl   Giulio Cesare, römischer Imperator
Cecilia Bartoli   Cleopatra, Königin von Ägypten
Anne Sofie von Otter   Cornelia, Pompeos Witwe
Philippe Jaroussky   Sesto, Pompeos und Cornelias Sohn
Christophe Dumaux   Tolomeo, König von Ägypten, Cleopatras Bruder
Jochen Kowalski    Nireno, Kammerdiener
Ruben Drole, Achilla   General, Tolomeos Berater
Peter Kálmán   Curio, römischer Tribun

Il Giardino Armonico


そのバルトリ本人であるが、彼女の歌唱ならばどの曲でも安心して聴いていられるし、何の
不安も感じずに音楽に浸れた。その心地よさ。(もともと、バルトリ姐の大ファンというわけ
ではないが、さすがの実力に感服)
ヴィジュアル的には、ダニエル・ド・ニースやサンドリーヌ・ピオーやナタリー・ドゥセイの
クレオパトラのほうが、コケットだったりしなやかな肢体だったり軽量だったりで美しい。
しかし、バルトリ姐の個性と迫力には、前3者が束になってかかっても太刀打ちできないほど
のインパクトがある。その自信が溢れ出して輝いているようなバルトリ姐であった。姐の歌唱に
関しては今回、全く文句の付け所はなかった。




はっきり言うと、わたしの関心はクレオパトラにはあまりない。

わたしにとって何が一番の見もの・聴き所だったかというと、新旧のカウンターテナーのそれ
ぞれの個性の光具合である。

まず、チェーザレ役のアンドレアス・ショル。
だが、どうしても比較してしまう歌手がいる。
わたしにとってデフォールトというかスタンダード、リファレンスになっているのは、グライ
ンドボーンでのサラ・コノリーによるチェーザレである。
サラ様チェーザレとの大きな違いは何か。女性が男性役を演じ歌う場合、ある意味で宝塚的な
凛々しさを作為的に出す。ヘアメークや表情や立ち居振る舞いに、「練って作られた」と感じる
要素が多くなる。サラ様は完璧に壮年のチェーザレになりきり、ヴィジュアル的に違和感はない。
声はメゾであるから、軽さが短所にならないように歌唱のテクニックにも気を使う。
外観と声とのギャップがまた爽快である。

しこうして、ショルは男性であるから、あえて男性役を演じる必要はない。地のままでもいける
はずだ。しかし、そういう甘い考えではいけない。
ショル兄は堂々とした体格なのに、顔が優しい雰囲気で、目や表情での演技が不得意である。
だから、鬼気迫る形相はできないし、きりっとしたところがなくて、なんだか、自信のない男
みたいになってしまう。演技も役者としてははっきり言って大根である。大男、総身になんと
やら、とは言いすぎであろうが。
歌声はどうか。ここでも、男性であることが裏目に出てしまっている。CTにも色々な声質が
あるが、ショルの場合は、聖歌系である。戦う男というイメージとはかけ離れている声なので
女性がチェーザレを歌う場合と同じように練った作戦が必要なはずなのに、その詰めが甘い。
だから、全体の印象として、クレオパトラに手玉に取られ篭絡させられる優男のチェーザレに
なってしまっているのだった。王者の風格に欠けるのだが、あえてそういう役作りだったのか?

チェーザレのアリアEmpio, diro, tu seiは、なかなかに迫力があって、もしかしたら、今回の
ショルの歌では一番びしっと決まっていた。オケの弦も締まってテンポも切れも気持ちよく、
風雲急を告げるの感に満ち溢れていた。しかし、ここでもショルのアジリタが一部回りきらない
ようで歯がゆい。最後の〆は極まったが。

Va tacito e nascostoは、テンポがゆったりしているので歌いやすいのだろうし、ショルの
個性にもあった演出で、破綻もなく楽しめた。しかし、古楽器ではとても難しいホルンの音が
特に最初の方が不安定で、ちょっと残念。このオケは、弦はとてもいいのだが管がイマイチ。




それに対して、チャーザレのアリアで一番好きなSe in fiorito ameno pratoには、がっかり。
ここでのチェーザレは、薬でラリッて幻覚が見えてるのか、夢の中で浮遊しているかのようで、
音楽のテンポも遅くて芯もしまりもない。クレオパトラの魅力にめろめろになってるという
わけだが、妙なもだえ方が女々しく、目を覆いたくなる。




フィリップ・ジャルスキー(PJ)のセストは、さすがに歌いこんでいるので歌唱に余裕すら
感じられ、安定して美しい。
あえて言うと、けなげで可愛いリリカルなのと元気で勇ましく押しまくりとの、二通りの歌い方
しか出来ないようで変化に乏しい。そして、歌いだすと、なんだかいつも正面向いて突っ立つ
リサイタル風になってしまう。しかし、全ての歌に彼の澄んだ高音の魅力が思い切り発散され
爽快そのもの。
キャラクター的にも、CTでここまでセストにぴったりという人はいないだろう。この役を男性
が歌うというのは異例だと思うが、彼ならはまり役。


はまり役と言えば、クリストフ・デュモーによるトロメオだ。
デュモー選手は、グラインドボーン以来、トロメオの印象が強すぎて各地の歌劇場でもなんだか
トロメオ役専門になってしまった。しかし、ルーティーンに流されることなく研鑽に励んだ跡が
はっきりと聞き取れるのが素晴らしい。そして、歌唱のパワフルさではCTの中で群を抜いて
いる。
彼の声は、体格同様引き締まって全く贅肉のない、筋肉質だ。レーザー光線のような鋭さがあり、
アジリタのテクニックの切れのよさも魅力で、これは腹筋同様に日々鍛えた喉の賜物だろう。
レチタティーヴォのディクションもはっきりとしてよく通り、説得力がある。



嫌なヤツのトロメオになりきった演技も迫真だし、ブーイングだって悪役なら貰って当然の勲章
である。歌唱に全くソツがないのだから、演出に対するブーイングだと本人は理解しただろうが、
トロメオのアリアのたびにブーイングする人たちがいるザルツブルク音楽祭って、お上品ぶった
人たちの牙城なんだろう。器量がないし、大人気ない。ええかげんにせよ、と思った。



今回は、あまりに問題の多い演技をさせられたデュモー選手であるから、分が悪い。
しかし、逆に彼の実力と魅力に気が付いてこれでハマッたという人もいるのではないだろうか。
若手CTの中でも破格の才能である。ヘンデルのヒーロー役ならなんでもこなせるはずだ。
これからも精進を重ねて、大舞台でチェーザレの役を歌ってもらいたい。


もう1人、あまり期待していなかったCTにヨッフム・コヴァルスキーがいる。
しかし、彼の今回の舞台での光具合は、いぶし銀そのもの。盛時を過ぎたとはいえ、さすがの
オーラと貫禄があり、老婆になりきっていて存在感抜群。歌唱もしみじみとして、予想以上に
聞かせるのであった。あなどっていてすまない、と謝りたくなったほどだ。
宦官ニレーノではなく乳母ニレーナという感じのクレオパトラの腹心の重臣に、滋味ある声と
演技とでとなりきっていた。


セストの母コルネリアというのは、意外にもかなり出番も歌も多いことを再発見した。
だから、あまりたいしたことのない歌手が歌うと長いし眠くなってしまうのだが、今回はさすが
アンヌ・ソフィー・フォン・オッター!全く飽きさせない。この人もコヴァルスキー同様、
母とか乳母なんかの役しか回ってこない年齢になってしまったが、昔日ズボン役で鳴らした華は
失われていないし、新境地をこれからも開拓していくだろう。
彼女の素晴らしさは、謙虚に相手とのアンサンブルを大切にする点で、伊達に長いキャリアを
誇るわけではないことが再確認できた。

今回のプロダクションで一番美しかった、セストとコルネリアのデュエット





演出は、安っぽい舞台装置と小道具がそれを象徴しているように、いろんなネタの寄せ集めで、
全体をピシッと締めるようなラインが通っていない。はっきり言って、かなり酷いものだ。
歌手がこれほど揃っていなかったら見られたものではない。

舞台を現代のエジプトに移して、アラブ情勢を反映したような、石油の利権に絡んだ西洋と中東
との葛藤になっているアイデアはよろしい。しかし、手段が常套的なのと、悪乗りすぎるのが
いけない。美意識のかけらも感じられないのだ。

主要歌手のダンスはないが、兵士達のヘンな格闘技っぽい踊りに効果が見出せない。
ブーレスクなどの二流舞台芸術への賛歌というコンセプトなのだろうか。エンタメとしても
中途半端で、ザルツブルク・フェスティヴァルにはしっくりこない。激しいブーイングは、全て
悪乗り演出に向けられたものなのだ。
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by didoregina | 2012-05-30 10:45 | オペラ映像 | Comments(18)

今年のヴェルサイユ・フェスティヴァルはヘンデル祭り!

6月8日から7月13日まで連日、ヴェルサイユ宮殿で繰り広げられる音楽祭の今年の
テーマは『ヘンデルの勝利』で、素晴らしい充実のプログラムだ。

ヘンデルのオペラやオラトリオのほか、『王宮の花火』や『水上の音楽』などの演奏会が、
宮殿内の王室礼拝堂や歌劇場、鏡の回廊および庭を会場として行われる。バロックの精華を
これ以上は望めないほど雰囲気がマッチした会場で鑑賞できるのだ。
プログラムのみならず、出演者のラインナップもすごい。

気になるものだけ挙げても以下のとおり。

6月11日 『オルランド』@王立歌劇場 カーティス指揮 主役がイェスティン・デイビスで、
     ロベルタ・マメリ、クリスティーナ・ハンマーシュトロム他の出演!

6月12日 『アルチーナ』@王立歌劇場 ルセ指揮レ・タラン・リリク、カリーナ・ゴーヴァン、
     アン・ハレンベリ、デルフィーヌ・ガルー他

6月13日 チェチリア・バルトリのリサイタル@鏡の回廊、題して『ヘンデルのヒロイン達』

6月14日 『ジュリオ・チェーザレ』@王立歌劇場 ダントーネ指揮アカデミア・ビザンチーナ
     ソニア・プリーナが主役で、パオロ・ロペスがセスト。

6月19日 4人のカウンター・テナー・ガラ チェンチッチ、サバタにTerry Wey とVince Yi

6月22,28,29日 『王宮の花火』もちろん外で。

6月24日 『サウル』@王室礼拝堂 

6月25日 『エジプトのイスラエル人』@王室礼拝堂 クリストファーズ指揮ザ・シックスティーン

6月26日 『ソロモン』@王室礼拝堂 マクリーシュ指揮ガブリエリ・コンソート、イェスティン
     君がまたもや主役!

6月27日 チェチリア・バルトリのリサイタル@王立歌劇場、Sacrificium!

6月28日 アレクサンドル・タローのピアノ・リサイタル@王立歌劇場 『ラモー賛歌』

7月1日 『セルセ』 スピノジ指揮、マレーナ・エルンマン主役!アドリアーナ・クチェロヴァ、
     デヴィッド・DQ・リーにヴェロニカ・カンヘミ!


7月5,6,7日 サヴァール指揮による『水上の音楽』@大運河

7月6日 アイム女史指揮ル・コンソール・ダストレーによる『水上の音楽』他@王立歌劇場、
     ソニア・ヨンケヴァ出演

7月6日 マックス・エマヌエル・チェンチッチのリサイタル@鏡の回廊 『ヘンデルのヒーロー達』

7月10,11日 『メサイア』@王室礼拝堂 ザ・キングズ・コンソート

7月11日 『タメルラーノ』@王立歌劇場 ミンコフスキー指揮MLG、 クリストフ・デュモー!
     ユリア・レジネーヴァ、ティム・ミード他の出演

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イェスティン君主演の『オルランド』は、なかなか期待できそうだし、脇を固める女性陣も手堅い。

『アルチーナ』と『ジュリオ・チェーザレ』には、バロック・オペラに欠かせない女性歌手たちが
勢ぞろいする。

『セルセ』は、昨年のウィーン公演での面子から、キャストは少々替わったが、興味津々だ。
会場が発表されてないが、どこだろうか。コンサート形式だろうが、マレーナ様の演技にも期待。

そして、〆の『タメルラーノ』がスゴイ。デュモー選手もとうとうミンコさん好みの仲間入り?
今後もご贔屓にしてもらいたいものである。デュモーとユリアちゃんとの若手パワフル・コンビが
早々に実現するのが聴きものだ。
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by didoregina | 2012-05-25 13:43 | バロック | Comments(27)

『ポッペアの戴冠』@ケルン、後半のみ鑑賞

何かと話題のケルンの歌劇場だが、昨年大好評だったため今年再演されている『ポッペアの
戴冠』の会場は、移民の多そうな町外れの寂れた工場地帯にある倉庫を改装したと思しい
ディスコ・クラブである。

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    ロビーに置かれたゴンドラのような大道具。左手のカーテンの向こうが舞台。

ケルンの東に位置する会場へ行く手前の高速道路で、大変な渋滞に巻き込まれてしまった。
目的地まであと7キロという地点から延々4キロが1時間半近くかかった。ゆっくり歩く速度とほぼ
同じだが、高速道路だから歩くわけには行かない。そして、このくらいのろのろ運転だと、クラッチと
アクセルとブレーキのペダルをずっと交互に踏むことになり、車に乗りながら4キロ歩いたような具合
である。足がつりそうだ。

夜7時開演というのは、渋滞に巻き込まれやすい時間帯なので嫌な予感がした。通常なら1時間
20分で着くはずのところ、余裕をもって5時15分前には出発したのに。。。
多分休憩時間だろうと思って8時15分頃に会場に入ると、「あと15分ほどで一幕目が終わるので
ロビーでお待ちください」と言われた。同様に待つ人が10人ほどいた。皆、渋滞の被害者だと思う。
ドアから外に漏れ聴こえてくる音が慰めてくれた。

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     ロビー奥には、チェンバロと器楽奏者用の椅子が。黒いドアは客席に通じる。

一幕目が終わる頃になると、ゴンドラの回りに通行止めの線が張られ、アッシャー達がドアの前に
立つ。すると、舞台に通じるカーテンを通り抜けて、オットーネ役のデヴィッド・D・Q・リーが
飛び出してきた。
あれあれ、と思っているうちに、拍手が鳴りドアが開け放たれた。観客がロビーに出てくる。
器楽奏者もロビーの席に着く。休憩中に音楽を流すのか?
ゴンドラの回りに観客が集まるが、その反対側にあるカウンターで飲み物を頼む列も出来て、ロビー
は混雑している。トイレに行く人も多い。
休憩が始まる前にトイレに行こうと思っていたが、機会を逃したのでトイレに行って、ロビーに戻って
来ると、なんと、ゴンドラの回りで、フランコ・ファジョーリのネローネが血にまみれた手をすり合わせ
ながら歌っているではないか。ネローネとルカーノが「アンディアーモ」と歌うデュエットにはなんとか
間に合った。

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       ロビーのゴンドラの周りで歌うファジョーリ。photo by Paul Leclaire

大失敗!混雑していた地下のトイレには音楽は全く聴こえてこなかった。アッシャーたちも、もっと
はっきりと、休憩になる前にロビーで幕の続きがあることを伝えるべきである。
昨年の公演でははBMWのオフィスビルが使われ、社員食堂や玄関ホールや廊下、オフィスなどを
観客も移動しながらの上演という演出だったのだが、今年も一部そのようになるとは思わなかった。

通常3幕のオペラだが、今回は2幕にして上演しているので、セネカの死までが前半だったのだ。
かなり重要な部分を沢山見逃したことになる。
ヨーロッパの歌劇場中、自治体からの補助金が一番多いというケルン歌劇場の場合、チケット代金が
異常に安い(最高カテゴリーでも60ユーロちょっと)ので、さほど悔しい気分にはならず諦めもつく。

L'incoronazione di Poppea (Claudio Monteverdi)
2012年4月25日@Palladium

Musikalische Leitung  Konrad Junghänel
Inszenierung  Dietrich W. Hilsdorf
Bühne  Dieter Richter
Kostüme  Renate Schmitzer
Licht  Nicol Hungsberg
Video  Jasper Lenz & Eric Poß

Poppea Maria Bengtsson
Nerone Franco Fagioli
Ottone David DQ Lee
Ottavia Katrin Wundsam
Seneca Wolf Matthias Friedrich
Drusilla Claudia Rohrbach
Nutrice Andrea Andonian
Arnalta 1. Schüler Senecas Daniel Lager Littore  
Tribuno 3. Schüler Senecas Sévag Tachdjian
Fortuna 2. Amorino Ji-Hyun An
Virtù  Damigella 3. Amorino Adriana Bastidas Gamboa
Amore  Valletto 1. Amorino Maike Raschke
Liberto 2. Soldato Console John Heuzenroeder
Lucano 1. Soldato 2. Schüler Senecas Gustavo Quaresma
4. Amorino Martina Sigl
Orchester Gürzenich-Orchester Köln und Gäste

後半を鑑賞するため席に着く前に、会場や舞台を見てみよう。
舞台は、細長い体育館のようなディスコ・クラブの中央に置かれ、その左右にオケピット。
観客席は中央の舞台を挟んで対称的に設置されている。つまり、円形の舞台は正面からのみ見る
ような作りではなく、前後両方の観客席から対等に見られる。
歌手達は舞台の真ん中に置かれたテーブルの上や回りで、両面の観客に向かって演技しつつ
歌うのだった。

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        舞台中央のテーブルのみが大道具。photo by Paul Leclaire

舞台とオケ・ピットの回りには金網のように見える幕が張られ、後半はピンクの色の照明が下から
当てられていた。(写真で見ると前半は水色だったようだ)
中央舞台はプラクシ・ガラス張りで、その下から蛍光灯の無機質な光が当たり、モダンなデザインの
ドイツのオフィスの雰囲気だ。左右の舞台裏からラン・ウェイみたいなものが伸びていて、それを
通って歌手は舞台に登場する。

指揮者は、わたしの座った側からは上手に当たる位置に立ち、上手側のオケは一般管弦奏者および
リュートとチェンバロとバロック・ギター。下手側には、チェンバロ、オルガン、ハープ、ヴィオラ・ダ・
ガンバ、テオルボのコンティヌオという布陣である。
右側一列目席のわたしの目の前が管楽器で、演奏の難しそうな古楽器コロネットなども手堅い演奏
で、なかなかのものだった。去年の『リナルド』でも、金管以外の古楽器演奏が予想以上に上手い
のでびっくりしたものだった。
通奏低音はオケの人数割合からすると多い。左右に分かれた配置を生かして、対話形式のレチタ
ティーボの伴奏はそれぞれ別のピットからの通奏低音楽器が担当するので、人物の個性にくっきりと
コントラストが付く。レチタティーボの伴奏が左右ではっきり分離しているので、夫々の人物の台詞に
同化するという効果も大きかった。

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      photo by Paul Leclaire

さて、後半のみの鑑賞なので全体的なストーリーや演出にはコメントできない。個々の歌手の歌唱の
印象のみに留める。

ケルンまで来たのは、話題のCT、フランコ・ファジョーリの生の歌声を聴くことが最大の目的だ。
ファリネッリの再来と言われるテクニックとパワフルかつ男性的な声のCTというイメージの彼だが、
実際に聴く声は、芯がはっきりと通って強くかつ澄んで美しい高音に感嘆した。
モンテヴェルディのネローネのパートは、男性にしてはかなりな高音域で作曲されている。ソプラノ・
パートであるポッペアとほぼ同じような音域が要求される歌もある。だから、通常メゾ・ソプラノによって
歌われてきたが、このところ、高音が無理なく美しく出せる新世代CTによる上演が多くなっている。
以前なら、フォン・オッター、マレーナ様、サラ様というのがネローネの定番だったが、近年は、
PJ、チェンチッチ、そしてファジョーリによる新境地ネローネが現れる時代になっている。

生の『ポッペア』鑑賞は、マレーナ様ネローネに次いでこれが2度目である。
ファジョーリの生の声の印象は期待以上で、マレーナ様に負けるどころか、特に高音部での歌唱の
安定度と力強い表現の素晴らしさは特筆に価する。低音のドスの利き具合ではマレーナ様の方が
男性的だが、ファジョーリの方は高音に女性には出せない男性的な強さがあり唸らされた。
演技では、鞭を叩いて鳴らしたり、爪や指を詰めたりするサディスティックなネローネになりきっていて、
小柄な彼なのに舞台では堂々と大きく見える。(かなりのハイヒール履いてた)
眼力というか、目による表現も上手く、権力と愛欲に執着するネローネなのに一回り器の大きいチェー
ザレに見えたりすることもあったほどだ。(衣装と髪型のせいもある)
予習のために鑑賞したチェンチッチのネローネ@リールが、ゲイっぽさの漂うエキセントリックさを出し、
それはそれでなかなか面白かったが、ファジョーリのはそれとは対照的にファシスト的マッチョな
ネローネ像で大分異なる。夫々のキャラに合っているのが面白い。

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         photo by Paul Leclaire

もう1人のCT、オットーネ役のリーとの一騎打ちが楽しみでもあった。
生の声を聴いたことのあるリーは、ふくよかな胸声のように聴こえるファルセットがユニークで、声量も
あり押し出しが強いため、主役だが調子のイマイチだったチェンチッチを食っていた。その時は印象に
残るタイプの声の持ち主で得だな、と思った。
ところが、今回は地味なオットーネ役でちょっと損している。どうやらこの役を演じるのはCTにとって
不利なのではないかという気がする。暗い性格を反映した歌やレチばかりで、華やかなテクニックを
披露できないのだ。朗々とした明るい声質なので、役に合わないのだ。
メータのオットーネにも以前失望したのだが、後になって、これは、メータの声や歌がどうこうという
より、オットーネに与えられた歌や性格がアピールしないのだと思った。

女性歌手にはあまり期待していなかった。
主役のポッペアは、まあ、こんなもんだろうという感じ。可憐さもしくはイノセントな悪女ぶりを発揮でき
たらいいのだが、役者不足。声にあまり魅力がなく、演技もどちらでもない中途半端なポッペアだった。
それに対して、オッターヴィアは、なかなかしたたかなタイプだった。皇后だったのにネローネの愛情が
冷めて最後にはローマから追放されるとというのに、憐れな女ではなく悪女っぽいのである。そういう
キャラには、今回の歌手はぴったりだ。
一番よかったのは、ドルシーラ役だ。複雑な境遇なのに秘めた野心がめらめらと燃える小悪女で、
耳に心地よい声の持ち主だ。

セネカ役の歌手が、カーテンコールで大きな拍手を貰っていたのだが、セネカは前半で死んだので、
彼の声が聴けなかったのがとても残念だ。

演出としては、舞台の左右のスクリーンにヴィデオ映像が投影され、舞台上の歌や台詞や出来事と
呼応する別の場面が映し出されていたのが面白かった。
例えば、ポッペアがテーブルで眠りこけ、愛の神が天井近くのバルコニーから歌っている間、
スクリーンでは、去年の会場だったオフィス・ビル内の廊下を女装したオットーネが駆け抜け、
ドアを一つ一つ開けては、ポッペアを必死に探す映像が映されたり、ネローネがポッペアを暗殺しよう
としたオットーネを責めて拷問する場面では、牢屋での拷問を思わせる映像だったり、ポッペアの
戴冠の前には、後に起きるネロによるローマ炎上を想像させるようなオフィス・ビルの火災の映像が
流れたり。
舞台装置はテーブルというシンプルさなので、そういう映像も演奏や歌の邪魔にはならなかった。
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by didoregina | 2012-04-26 13:57 | オペラ実演 | Comments(8)

マレーナ様の来シーズンは女性役ばかり

マレーナ・エルンマンの来シーズン予定には、今のところバロック・オペラが見当らず、
寂しい限りです。

ぎりぎりで今シーズンに入る8月のアン・デア・ウィーン劇場で、ロッシーニの『湖上の美人』。
それから、来年4月には、ベルリオーズの『ベアトリスとベネディクト』。いずれも主役です。

お子さんたちの学校の休みに合わせているようで、近年は、外国の歌劇場でのオペラ出演は、
秋と春の二回というのが定番化しています。
来シーズンには、アムステルダムとブリュッセルはおろか、期待していたパリもバルセロナでも
マレーナ様が出演するオペラはありません。

しかし、灯台下暗し、というか、意表を突いた時期と場所でのオペラ出演があります!
地元ストックホルムの王立歌劇場9月の『セヴィリアの理髪師』ロジーナ役です!
ロジーナは彼女のレパートリーではありますが、今更、というか意外な感じ。
日本への里帰りと組み合わせて、ストックホルムへ参上します。チケット発売は来週月曜日です。
8月、9月と続けてマレーナ様にお会いできるという、幸先のよさ!

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        カルメンのような黒髪のロジーナ。
       プロダクション動画を見ると、古色蒼然たるコスチュームと演技なのに
       ちょっと『スウィーニー・トッド』みたいになんだか暗い演出。


こうして見ると、マレーナ様は、ズボン役から普通のメゾ・ソプラノのレパートリーにシフトしている
ように思えます。
年齢的・体力的に、バロック・オペラの男性主役を歌うのはキツくなっているのでしょうか。

バロック・オペラの男性主役は、テクニックの発展が著しい若手カウンターテナーに移行している、
というのがトレンドであるのかもしれません。

さて、来年4月25日にアン・デア・ウィーンでは、コンサート形式の『ゴーラのアマディージ』が
あり、イェスティン・デイヴィス主演なので、マレーナ様ベアトリスと組み合わせるつもりでした。
しかし、来シーズン・プログラム発表から1ヶ月経たずにすでに変更が。なんと、イェスティン君から
ソニア・プリーナに代わっているではありませんか!トレンドに逆行してるわ。しかも、指揮はアラン・
カーティス。。。
大きな落胆ではありますが、ドタキャンでないだけに心の準備ができるというものです。

それでは、CTの出る別の演目に目を向けることにしましょう。
1月にアン・デア・ウィーンでは、『ラダミスト』が上演されます。デヴィッド・ダニエルス主演、
ソフィー・カルトホイザー、パトリシア・バードン他出演で、ヤーコブス指揮フライブルク・バロック・
オーケストラです。
1月30日にコンサート形式の『時と悟りの勝利』がありますので、組み合わせての遠征が妥当。
だって、こちらは、クリストフ・デュモーとユリア・レージネヴァが出演ですからね。オケと指揮者も
『ラダミスト』と同様です。
デュモー選手のコンサート@コンヘボをパスしてしまったので、これは、1月にウィーンに行くしか
ないでしょう。ユリアちゃんも出演しますし!

こんな風に一喜一憂しながら、遠征計画を思い描くのはそれ自体が楽しい娯楽です。
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by didoregina | 2012-04-17 08:49 | マレーナ・エルンマン | Comments(10)

ヘンデルの『デイダミア』@アムステルダム歌劇場

バロック・オペラ・ファンにとっては、今シーズンはアムステルダムでもブリュッセルでもなんとか
バロック・オペラが上演され、一安心であった。しかし、来シーズンのプログラムを見ると、
両歌劇場ともバロック・オペラはひとつもない。ついにそうなってしまったか、と一抹の寂しさを
覚える。

2012年3月25日 @ DNO
c0188818_6572621.pngDeidamia
Georg Friedrich Händel 1685 1759

muzikale leiding  Ivor Bolton
regie  David Alden
decor  Paul Steinberg
kostuums  Constance Hoffman
licht  Adam Silverman
choreograaf  Jonathan Lunn

Deidamia  Sally Matthews
Nerea  Veronica Cangemi
Achille  Olga Pasichnyk
Ulisse  Silvia Tro Santafé
Fenice  Andrew Foster-Williams
Licomede  Umberto Chiummo
Nestore  Jan-Willem Schaafsma

orkest  Concerto Köln

ヘンデルの最後のイタリア語オペラ『デイダミア』は、いかにもそれまでのヘンデルのスタイルを
踏襲してはいるが、一味違うところがある。
まず、準主役である女装の男性(ピラ=アキーレ)役をソプラノ歌手が歌う、というのが意表を突く。
少年から青年への移行期にある楽天的なアキーレという設定の喜劇であるためだ。
主役のデイダミアとその親友ネレアもソプラノで、また、元々はカストラートが歌ったはずのウリッセ
役は今回はメゾ・ソプラノが担当する。つまり、主要登場人物は全員女性歌手なのだ。

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      舞台装置も衣装もポップで軽いタッチ。右から3人目が女装のアキーレ。
      登場人物に若い女性(ギャル)が多く、全体の印象がキャピキャピ。


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     床はプレキシ・ガラス張り。底が水色なのと背景の青空の反射が
     相まって淡い海の色そのもの。潜水艦からギリシア軍が現れた。

アキーレ(アキレス)は、トロイで戦死するという予言から逃れるため、スキュロス島で女の子と
して育てられていた。成長したアキーレは島の王女デイダミアと恋仲になる。
そこへ、トロイへ向かうギリシア軍がやってくる。トロイに勝つためにはアキレスの力がどうしても
必要という神託により、ギリシア軍はアキーレをなんとか探し出そうとする。
智に長けたウリッセ(オディッセウス)は姦計を廻らし、女装したアキーレの尻尾をつかむ。
狩や武術が大好きで武具に目の無いアキーレは、ウリッセの策略に乗って正体を現し、無邪気な
男の子らしい戦意を高揚させる。
アキーレはトロイに出征するが、その先に待っているのは戦死の運命であることを誰もが知っている。
後に残されるのは憐れなデイダミア。


     ルセ指揮レ・タラン・リリック演奏でピオーの歌うデイダミア


コメディと悲劇がいっしょになったようなストーリーである。めでたしめでたしでは終わらない。
いうなれば、高貴の者が都から離れた鄙の地に身をやつしていて、現地の女と恋仲になるが、
最後には身分が明らかになり女は捨てられる、という能によくあるような貴種流離譚のパターンを
踏んでいる。ギリシア・ローマの場合、捨てられる女として有名なのはアリアドネ(アリアンナ)や
ディドである。

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        出征するアキーレと捨てられるデイダミア。          
        ファン・デル・ローエのバルセロナ・チェア(コピーだろう)に
        代表される地中海セレブ風インテリアがスタイリッシュで
        リッチな雰囲気を高めている。

アキーレ役のオルガ・パシチュニクは、少年の愛らしさと未来の偉丈夫らしい逞しさを兼ね備えた
ルックスで適役だ。声も歌い方もくせがなく、好きなタイプ。女装の少年役をソプラノに歌わせると
いうヘンデルのアイデアが生きるキャストといえる。
天真爛漫で子供子供したアキーレだから、メゾでなくソプラノというのがミソなのだ。小柄で丸顔、
ショートカットにパッチリお目目のキュートなパシチュニクは、男っぽいしぐさで少年らしさが上手く
表現でき、伸び伸びした高音も耳に心地よく響く。

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デイダミア役は、去年のDNO『ばらの騎士』でゾフィー役を歌ったサリー・マシューズだ。
この人は嫌味の無いノーブルな少女らしい歌唱も出来るが、少女から大人に脱皮したばかりという
微妙な年齢の心の揺らぎを表現し、最後には捨てられる女の憐れさとけなげさをはっとするほど
大人っぽい歌唱で聴かせる。そのバランス感覚が絶妙だった。

若い女性の登場人物は皆、かなり高度な振付のダンスを踊りながら歌う。

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      飛び込み台みたいな高いところで踊りながら歌ったりするので、
      見ているほうがハラハラしてしまう。
      左は、ウリッセ役のシルヴィア・トロ・サンタフェ。

問題は、メゾ・ソプラノが歌うウリッセ役だ。少なくともわたしにとっては。
というのは、休憩中の噂話やカーテン・コールから察するに、トロ・サンタフェは、アムステルダムの
観客受けがなかなかよろしいようだった。
しかし、わたしには、あの押し出すような中・低音部が生理的にどうも苦手だ。なんだか不自然に
男っぽくしようと懸命になっているように聴こえるのである。
そして、一番違和感を感じたのは彼女のルックスと小柄な体型だ。狡猾な智将であるウリッセの
イメージには全然合わない。悪いけど、この人はミス・キャストと言わざるを得ない。
すらっとした大人っぽいアルトやメゾは他にも沢山いるのに、なんでこの人が、と思ってしまう。
または、なぜ、カウンターテナーを起用しなかったのか。これが、一番の謎だ。
ソプラノの少年アキーレとCTの大人ウリッセという対比で、喜劇的ドラマにぴしりと締りが出せた
はずなのに。ベジュン・メータやクリストフ・デュモーなんてこの役にピッタリだったろうに。


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          海辺のネレア(パラソルさしてる)とデイダミア

ネレア役のヴェロニカ・カンヘミは期待に背かず、ノーブルそのものの歌唱も風情も自然で、さらりと
した発声なので熱唱しても暑苦しさを感じさせない。この人とサリー・マシューズの二人のおかげで
全体がとても上品にまとまったと思う。
悲劇的結末の最後に、呆然と崩れるネレアという演出が、唐突なエンディングをなんとかまとめた。

オールデンの演出は、ほとんどマクヴィカーの『ジュリオ・チェーザレ』に迫るくらい踊りの要素が多く、
アクロバティックな所作も入って、ポップでしかも猥雑な振りもあり楽しい。ヘンデル最後のオペラの
内容にふさわしく、かなりハチャメチャなコメディア・デッラルテの要素を取り入れているのであった。
でも、あくまでも気品を保っていて、やりすぎないのがよかった。

しかしなんといっても、全体をびしっと〆ていたのは、コンチェルト・ケルンによるオーケストラ演奏だ。
大体私が座るバルコンの隅でオケを横から見るような位置だと、オケの音が響きすぎるきらいがある。
シュトラウスなどの威勢のいい音楽の場合、オケが鳴り過ぎて、歌手の声がよく届いてこない。
今回は、古楽オケだから編成は小さめなので、音量は丁度いい。
聴こえてくる音は、バロックには珍しいほどの重々しさが感じられる。弦の響きがじんじんと底の
方から伝わるようで、全体の音色に何ともいえない深みがある。
チェンバロは2台で、指揮のアイヴァー・ボルトンは、レチタティーボに入るときはほとんど自らチェン
バロを弾きリードしていた。それ以外の時は、上半身全体を流麗に動かした滑らかなダンスのような
指揮振りで、その自然な動きの美しさに思わず見とれてしまうほどだった。オケは指揮者の動きに
応えて、ちまちましたところの全くない、スケールの大きな音を出していた。気宇壮大という言葉が
似つかわしい演奏であった。成熟してどっしり構えた音作りというべきか。

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歌劇場のCD売り場のお姉さんによると、このプロダクションはDVD化が決まっているという。
だから、多分、年末あたりにTV放映もされるだろう。
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by didoregina | 2012-03-31 00:03 | オペラ実演 | Comments(11)

プレガルディエン指揮の『ヨハネ受難曲』@アントワープ

受難曲のシーズンである。オランダ中いたるところで受難曲のコンサートがある。それなのに、
わざわざアントワープまで、『ヨハネ受難曲』を聴きに行ったのは以下の理由による。

1、アンドレアス・ショルが参加する。生の歌声を聴くチャンス。
2、テノール歌手のプレガルディエンが初めて指揮する。
3、次回のコンサートのための、ホール下見。

コンサート・ホールのデ・シンヘルには一度行ったことがある。しかし、自分で車を運転して行く
のは初めてだ。誰か助手席に座ってくれたら心強い。同行者を募ると、バロック合唱曲好きの
Nが喜んで参加表明してくれた。彼女とは、大体1年に1度位の割りでいっしょにコンサートに
行っている。

平日夜8時開演のコンサートだから、遅くとも6時にはマーストリヒトを発ちたい。家からコンサート
ホールまでは110Kmだから順調に行けば1時間ちょっとの距離であるが、着くまでに何が起こる
かわからないから、余裕をみておく。どうせだから、向こうで夕食をとることにして4時に出発した。
これは、正解であった。

デ・シンヘルから、「8時きっかり開演で、公演時間は2時間10分の予定。休憩なし」とのメール
が届いた。途中入場不可、と注意を喚起しているのである。

マーストリヒト市街を抜けて国境近くまで来たら、道路工事中で先に進めない。かなり逆戻りに
なる迂回路で別の国境を通ると、今度は高速に乗るまでの距離が長くなった。
そして、アントワープに近づくと、案の定渋滞の時間帯である。ホールに着いたのは6時だった。

ホール付属のグラン・カフェは混んでいた。天井が高く四方がガラス張りのせいか、賑わいが
うそのように音がこもらない設計になっている。

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         まずは、ビールで乾杯。アントワープの地ビールのデ・コーニンク。
         通はボルケと言って注文する。グラスに描かれた手はアントワープの
         シンボルだ。
         グリーン・アスパラとキノコをトリの胸肉で巻いたルーラーデ。
         ナスとマッシュルームのソテーの上にマッシュ・ポテト。トリュフ
         ソースが効いている。根菜数種の薄切り揚げ。メイン一皿が
         16ユーロは、マーストリヒトではまずありえないほど安い。


注文や給仕はてきぱきしているのに、お勘定となるとやたらと時間がかかるのが毎度ながら
不思議である。お金を受け取るのがそんなにいやなのか、それとも単純計算が出来ないのが
恥ずかしいから避けるのか、と勘ぐってしまう。しかも、勘定書きにはビール3杯となっている。
クレームを言うと、給仕は逃げ腰になってしまい、埒が明かない。マネジャーは見てみぬふり。
オランダ人だったら、いかにもベルギー!とあきれるところであるが、どこの国でもよくあることで
ある。
女性2人で2杯しか飲んでいない!と言い張ると、疑い深そうな目で「本当ですか?」などと
言い放ち、新しい勘定書きを作るのに時間がかかる。今度は計算が間違っていて安くなりすぎて
いるが、もう時間が無いから、これでいい、とチップは渡さずに出てきた。こういう接客態度だと、
チップも取りはぐれるのである、と反省・学習できただろうか。

Johannes Passion @ De Singel Antwerpen 2012年3月22日

Le Concert Lorrain   オーケストラ
Nederlands Kamerkoor 合唱
Christoph Pregardien 指揮
Ruth Ziesak ソプラノ
Andreas Scholl カウンターテナー
James Gilchrist テノール(福音史家)
Eric Stoklossa テノール
Yorck Felix Speer  バリトン(キリスト)
Dietrich Henschel バリトン(ピラト)


デ・シンヘルの大ホールに入るのは初めてで、どの座席がいいのかわからないまま、チケットが
売り切れになる直前に買ったので、座席選択の余地は前の方の隅か後ろ~の方しかなかった。
ショル兄を真近で見て聴きたいから、3列目を選んだ。初利用客ディスカウント券というのを使うと
5ユーロ割引で、手数料・送料込みで29ユーロになった。オランダではありえない値段である。

舞台がやたらと横に広い。客席も同様である。変則の小さなバルコン席が下手側にちょっとだけ
張り出しているが、基本的に平土間から緩やかな階段状に座席が設置された、前世紀中ごろなら
モダンだったかもしれないようなホールである。ベルギーのホールはどこもこんな感じで、音響云々
以前のところが多い。

古楽オケなので小編成で、3列目下手側だと4人の第一ヴァイオリン奏者達の背中を見るような
位置になる。
合唱団はオケ後方に2列で女声高音から並んだ配置だ。
指揮者プレガルディエンの前、オルガンを挟んで左右に福音史家とピラト役のバリトンが座っている。
その他のソロ歌手は、上手側の椅子に腰掛けている。だから、ショル兄が目の前に来るのは、
舞台を横切って登場・退場するときだけだった。

この古楽オーケストラは名前も音楽も聞くのは初めてだ。その名の通り、フランスとドイツ混成の
ようである。
かなり緊張していたようで、出だしのオーボエが冴えない音色だったのが非常に残念。
それ以外は、特に可もなし不可もなしと言う感じで、あまり印象に残るところのない演奏だった。

それに対して合唱はオランダ室内合唱団で、余裕綽々で隙がなく上手い。とにかく安心して
聴いていられるし、聴き終えるとやっぱりうまいな~と感心してしまうのだった。ベルギーには
コレギウム・ヴォカーレ・ヘントという私的にトップだと思えるめちゃウマ合唱団が存在し、ヨハネ
CDも彼らのを繰り返し聞いていて耳に馴染んでいる。しかし、オランダ室内合唱団も、かなり
互角に張り合っているのである。両方のヨハネを生で聞き比べてみたい、と思った。

プレガルディエンがなぜ受難曲を指揮してみたいと思うようになったか、というインタビューがあった。
「テノール歌手として『ヨハネ』の福音史家役は25歳の時から100回以上歌っています。
元々、ロマン派音楽をレパートリーとしている私がこういう宗教曲を歌うときには、自分自身の中で
解釈上様々な問題が起こり、それを毎回楽しんでいたという部分があります。(中略)洞察が深く
なるとともに、『ヨハネ』を他の人が自分が理想とするのと異なる方法で歌うのを聴くと違和感を
覚えるようにすらなりました」
つまり、理想の『ヨハネ』を追求するあまり、自分で理想のオケや合唱団、キャストで演奏したいと
思うように至ったというわけだ。

ソリスト選びに関しても、理想の歌手のリストを作成して、各パートごとに2,3人の名前を挙げて
いた、という。それで、リストの上から片っ端にプレガルディエン自身が電話をかけていった。
すると、全員が即迷うことなくプロジェクト参加の意思を表明したと言うのだ。
つまり、ソロ・パートに関しては、プレガルディエン理想の歌手が集結したわけだ。

さすがに、指揮者自身が選んだソリストだから、ある意味でまとまりがあった。
まず、1人を除いて、全員がドイツ人である。その1人が、福音史家役であるのが、意外というか
ご愛嬌と言うべきか。
その福音史家役のイギリス人テノールのジェイムズ・ギルクライストは、堂々たる貫禄の声で
ニュートラルなナレーターではなく率先して劇を作り上げて行った。最後には感極まって絞り出す
ような声で、まるで義太夫節を歌うような感じであった。または、無声映画の弁士のよう。

ソロ歌手では、もちろん、ショル兄に注目である。
なにしろ、今回は、目の前でマイクなしの生の声を聴くことが出来るのだ。
『ヨハネ』のアルト・パートは、軽やかなアリア2曲で、あくまでもさわやかさが強調されている。
無理せずに気持ちよく歌える曲だから、その歌手の地というか素の部分が否応無く現れそうである。
ショル兄の生の声は、あの立派な体格から比するとちょっと頼りない感じがしたのものの、バッハには
合っていた。ソロ・パートが少ないのは残念だが、それ以外でもコラールではいっしょに歌っていた。
まあ、とにかく、生の歌声を聴きたいという念願は叶った。予想通りの、ちょっとオペラ舞台ではもの
足りないだろうな、と思える声量であった。でも、軽やかに歌い上げるショル兄の声を聴けて満足した。

予想外によかったのは、ディートリッヒ・ヘンシェルだ。
11月に彼がモネ劇場で『オイディプス』のタイトル・ロールを歌うのを聴いている。青年から成年
を経て老年までのオイディプスの生涯を描いたオペラで、複雑な役割の歌い分け・演じ分けが上手
かった。
ちょっと斜に構えたニヒルな悪役が似合う面構えの、苦虫を噛み潰したような顔でピラトの複雑な
心境を、しかし淡々と歌う。それが、まあ、なんともピッタリなのだ。思わぬひろいものだった。

プレガルディエンの指揮ぶりは、熱血熱演という感じでいかにも理想を追求している風であった。
思い通りの『ヨハネ』演奏が実現できて満足だったろう。
来シーズン、彼はエイントホーフェンで『冬の旅』のマチネ・リサイタルをプレスラーの伴奏で行う。
聴きに行こうと思っている。


帰りに車に乗ろうとすると、「まあ、オランダからわざわざ聴きにいらしたの?すごいわ、熱心な
音楽愛好家でいらっしゃるのね~」とベルギーのおばちゃんから感心された。
この面子によるコンサートは、オランダではアムステルダムのコンセルトヘボウのみの公演である。
そちらに行くには片道3時間かかるから、ベルギーの方がずっと近いのだが、それは黙っていた。
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by didoregina | 2012-03-29 16:26 | コンサート | Comments(14)

サラ様の『アリオダンテ』は、盛り上がり度最高

『アリオダンテ』はサラ様で持つ。これは、わたしの独りよがりの感想ではない。
ミュージックヘボウ・エントホーフェンのサイトおよびパンフレットには、Sarah Connollyの文字が
一番上に踊っていた。他の出演者や指揮者・オケ、ヘンデルそして演目の名前よりもずっと大きな
太字で書かれていることからも明らかだ。

c0188818_18173187.jpg

    ホールに沢山ある入り口ドアの投射表示。右上には休憩の残り時間が。
    ドア3の下に書かれているのは、演目『アリオダンテ』ではなくサラ・コノリー!

パンフレットに表記された出演者などの文字フォントは、ほぼ以下のとおりである。

Sarah Connolly mezzosoporaan
Il complesso Barocco
Alan Curtis dirigent

Karina Gauvin sopraan (Genevra)
Sabina Puertolas sopraan (Dalinda)
Marie-Nicole Lemieux alt (Polinesso)
Nicholas Phan tenor (Lurcanio)
Matthew Brook basbariton (Re di Scozia)

Georg Friedrich Handel (1685 - 1759)
Ariodante (1735) opera seria in dire bedrijven

2012年3月12日@Muziekgebouw Eindhoven

通常よりも45分も早い19時30分の開演時間に間に合うよう十分余裕を見て出発したので、
ホールにはその30分以上前に到着した。
CD売り場を覗くと、予想通り「公演終了後、出演者のサイン会があります」との表示が。
しかし、あわてていたため、家からCDを持ってくるのを忘れた!
しかたがない、「今晩に限り3ユーロ引きですよ。2枚組みなら6ユーロお得」との誘いに乗って
『ヘンデル・デュエット』CDを買った。サラ様とローズマリー・ジョシュアのデュエット集だ。

会場に入り平土間5列目中央右よりの席に着いて辺りを見回すと、案の定、平土間にはかなり
空席が目立つ。8列目以降は傾斜のある階段になっていて、そこからは結構埋まっている。
公演前に支配人が舞台に出てきた。「皆様、まただれか病気になったとかの悪い知らせか、と
身構える必要はありません。当初2回の予定だった休憩が1回になりましたので、それをお伝え
したいだけです」
プログラム・ブックを見ると、三幕のオペラなのに、二幕目の中間に休憩を入れている。

c0188818_20164648.jpg

          サイン会での、プエルトラス(左)とサラ様。
          サラ様の衣装は、紺の立ち襟で長めのジャケットに
          紺のスリム・フィットのパンツ、その下に紺のブーツ。
          襟から胸と袖口にフリルのあるブラウスで、今回は
          フェルゼン伯風(?)

古楽オケのイル・コンプレッソ・バロッコの演奏を聴くのは初めてだ。
アラン・カーティスの指揮は、二年前にオランダ・バッハ協会によるコンティの『ダビデ』で
体験済み。その時は、当初予想していたほどノリが悪いとは感じなかったが、今回は、まるで
人間メトロノームみたいな動作でテンポを四角四面になぞるだけで、メリハリがほとんどない。
そういう指揮に合わせたオケの演奏にも、覇気とか生気とかやる気というものが全く感じられない。
ここまで気力に乏しい古楽オケもなかなか珍しいのではないか。
これには、休憩中にテーブルを同席したご夫婦連れ(全然知らない人たち)も同意見だった。
最大限に好意的に見れば、歌手の邪魔をしない黒子のような伴奏に徹している、という程度の
バック・グラウンド・ミュージックのような具合である。

それに対して、歌手は皆、活力がみなぎった歌唱でぐいぐいと迫ってくる。
ジネブラ役のゴーヴァンも、ポリネッソ役のルミューも古楽系の歌手にしては、かなりの重量級だ。
若さも相まって、最初からパワー全開で押していくのだった。

c0188818_20185454.jpg

          笑顔が素敵なルミュー。ステージでは白のジャケットだった。

特に、ルミューは貫禄と余裕の歌唱で、声量豊富かつ安定した上手さで光っていた。
暗譜で歌えることと悪役であることを強調するためか、いつも歌う前に譜面台をぐっと押さえつけて
下ろす。そういう自信満々の動作にも好感が持てるのだった。明るくて姐御肌で人に好かれる得な
タイプだ。

c0188818_20204472.jpg

          笑顔の素敵さでは、サラ様も負けてはいない。
          横分けのボブを後ろにきれいにブローしたヘアスタイル。
          ステージでは、口紅もほとんど色が無いものを使用。

サラ様だけ、最初のアリアは、ちょっと声量抑え気味であった。そして、高音になるとまたぐっと
弱音になるのは彼女の癖(?)であることをこちらは了解しているのだが、隣や前の席に座った
夫婦連れなどは高音があやふやになったりすると、大げさにお互い顔を見合わせていたりした。
ピアニストのミスタッチとか歌手の音程の乱れなどにいちいちそういう風に反応する人が多いのが
このホールの聴衆の特徴である。「あ~あ」という声にならない微妙な振動が感じられる。

主役だから長丁場になる。後半のクライマックスに備えて喉の調子を抑えて最初はセーブしていた
サラ様も、曲が進むにつれ次第に封印を解くように自由闊達になり、表情にもこわばりが消えて
いった。
休憩前の最後の曲は、サラ様十八番の『不実な女よ』である。これに照準を定めたかのような
迫真の歌唱であった。もちろん狙いは決まって大成功だった。
他のアリアやレチタティーボでは譜面を見ながらだったが、この曲ではもちろん、役柄になりきって
歌う。時に鬼面のような表情で自分を裏切った恋人への呪詛のアリアを切々と歌い上げる。その
張り詰めた心情がこちらに迫って、涙がこぼれそうになる。会場は彼女の世界に包みこまれた。

c0188818_2022377.jpg

         サラ様とのツーショット。右手にゴーヴァン。

このアリアの前に、ジネブラに扮装したダリンダがポリネッソといちゃつくシーンがある。
ダリンダ役の歌手は細身で、ジネブラ役のゴーヴァンの豊満を通り越したような体型とは対照的で
ある。二人とも黒のロングドレス姿で、ゴーヴァンはオペラピンクと黒の張りのあるシルクの肩掛け
みたいなものを巻いている。(上掲写真参照のこと)
その肩掛けをダリンダ役が纏うことで、ジネブラに化けたことにしているのだが、いくらなんだって
あの二人を見間違えるなんてありえない、と突っ込みをいれたくなるのだった。

ダリンダ役のソプラノ、プエルトラスの声は、わたしには苦手なタイプだ。キンキンとしてまろやかさに
欠け、歌唱も張り上げるだけの一本調子である。ルックスは可愛いのに声には特別な魅力が乏しい。
ルルカニオ役のテノール、ニコラス・ファンの声も好みではない。特に中音部の声の出し方がわたし
の耳には不快に響くので、多分東南アジア系らしい顔と体型とから、例のダニエルちゃんを思い出す。
この二人の姉弟役なんて、もしも実現したら、絶対に聴きに行きたいとは思わないだろう。

感心したのは、ゴーヴァンのサラ様を立てるかのような態度だ。
彼女は声量が豊富で、生真面目かつ優等生風清純な声が優勢の古楽系ソプラノの中では、ビロード
の肌触りのような質感が際立つ歌手である。ビジュアル的にもその成熟した声質からもお姫様という
イメージではないが、とにかく上手いし、堂々と聴かせるタイプだ。
それが、サラ様とのデュエットになると、声量をぐっと落として楚々とした風情でアンサンブルに勤しむ
のである。
予想したよりもずっと骨太な声なので、サラ様よりはディドナートの声との相性の方がよさそうだが、
サラ様がアリオダンテの代役に立つステージでは、自我を多少抑えてでも完璧なアンサンブルを
作り上げようとしているようだった。

c0188818_2028052.jpg

          ルミューに「アリガト」と言われた。

後半に入ると、オケの演奏は、休憩中のわたし達のぼやきが耳に入って俄然やる気を出したか、と
思えるほど、躍動感に満ちて、生き生きしたものになった。
つまらなそうに演奏していた人たちも、乗ってきたコンマスに刺激されてギア・チェンジをしたようで
エンジンがフル稼働の様相を呈した。
それなのに指揮は相変わらずの調子なので、歌手はもちろん指揮者を見てないし、奏者もコンマスに
合わせているように思えた。

歌手は、前半にも増しての熱演・熱唱である。めったにないほど盛り上がったステージであった。
後半のハイライトはサラ様のもう一つの十八番『ドポ・ノッテ』だ。
あくまでもさわやかに歌い上げながらフィナーレにふさわしい華やかさも加えたダ・カーポを聴かせる。
コロラチューラも軽やかに決まって一気呵成。

やんやの拍手とスタンディング・オヴェーションで、大団円の最後の合唱をアンコールに歌ってくれた。
歌に合わせて右手に立ったルミューがスイングを始め、プエルトラス、ファンも踊りだした。


ロッテルダムでのアンコールは、エイントホーフェンでも同様。


終了後のサイン会は盛況で、客は口々に、ディドナートが降板したことがデメリットにはなっていない
素晴らしいコンサートだった、サラ・コノリーが予想以上によかったと言い合い、興奮気味であった。

そのサイン会にわたしは一番乗りで、歌手が来る前から待機していた。
会議用のテーブルがLの字に並べてあり、その外側に椅子がある。どういう具合になるのかと思った
ら、歌手は、来た順番に右端から座っていった。すなわち、ファン、ブルック、ゴーヴァン、サラ様、
プエルトラス、ルミュー、指揮者のカーティスである。
ブルックは、「お待たせして申し訳ありません」と言ってから着席した。
わたしは全員のサインが欲しいわけではないし、『アリオダンテ』のCDは持ってないし、当日
買った『ヘンデル・デュエット集』に、サラ様以外の人のサインを頼むのは変だ。だから、サラ様を
目指して他の歌手はスルーした。

CDのケースを開けると、CD本体もブックレットも黒地で、サラ様のサインペンも黒である。
「あら~、でも大丈夫、わかってるから」と言いつつ、サラ様はブックレットをケースから取り出し
ページをめくる。見返しページは白地なので、ヘンデルの肖像画の脇にサインしてくれた。
R「このデュエット・コンサートは、幻に終わったんですよね、去年」
S「え?」
R「アムステルダムでのコンサートのことです。ローズマリー・ジョシュアがキャンセルしたので」
S「ああ、そうだったわね。彼女は同時期にオペラに出演してたのよね」
R「残念でした。でも、今年は、こうしてお会いすることが出来ました。奇遇です」
S「たまたまスケジュールが空いてたので、ツアーに参加できたのよ」
R「うれしいことです。素晴らしいコンサートをありがとうございました」

どうも、マレーナ様とは勝手が違って、フツーの女同士の会話みたいな具合にはいかなかった。

ルミューやゴーヴァンのCDは持ってこなかったので、サインはなし。しかし、ルミューはみかけ
通り気さくな人で、ツーショットのために立ち上がって「アリガト」と日本語で言ってくれたのだった。

家に着いたのは12時を過ぎていたが、最後までテンションの高い盛り上がり度最高の一夜だった。
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by didoregina | 2012-03-14 12:53 | コンサート | Comments(11)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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