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Iestyn Davies Recital: Evensong - English Cathedral Organists in Song

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2014年6月15日@ウィグモア・ホール
Evensong - English Cathedral Organists in song

Iestyn Davies (countertenot)
Malcolm Martineau (piano)

Michael Howard: The painted rose
Purcell: Full Fathom Five (realised by Thomas Adès)
William Croft: A Hymn on Divine Musick (realised by Britten)
William Byrd: Ye sacred muses
Jeremiah Clarke: A Divine Hymn (realised by Britten)
Herbert Howells: Goddess of night; The little boy lost; When the dew is falling;
King David

Intervval

Charles Villers Stanford: La Belle Dame sans merci
Cyril Bradley Rootham: Everyone sang; Idyll; A supplication
Francis Jackson: From a railway carriage
Philip Moore: Summer night; Cradle song
Francis Jackson: Tree at my window
Thomas Dunhill: The Cloths of Heaven
Henry Walford Davies: I love the jocund dance
Ivor Gurney: The Apple Orchard
Ivor Novello: Fly home little heart

Encore
Henry Purcell: An Evening Hymn; Music for a while

イエステイン・デイヴィスがロンドンで行うコンサートではフランチャイズ化している
というか定番会場であるウィグモア・ホールには、今回初めて入った。
ホールのサイズ、ステージの造り、イスの並べ方その他内装など、コンセルトヘボウの
小ホールにとても似ている、という印象だ。(コンヘボの小ホールの方がもう少し寸詰
まりで横に広いが)室内楽コンサートや声楽リサイタルにはぴったりの規模である。
音響の感じも似ていて、小さなホールなのでちょっと響きすぎるきらいがある。
ともあれ、インティームな雰囲気は悪くなく、いかにもクラシック好きそうな客層
(イケてない服装や高齢の年齢層)もコンヘボと激似。

すべてを聴かせます!という先月のケルンでのリサイタル曲目とはまた打って変わって、
今回はイギリスの聖堂付属オルガニストによって作曲された16世紀から21世紀までの聖歌・
讃美歌などが中心のオリジナリティあふれる選曲の意欲的なプログラムである。(終演後、
ピアニストに訊いたところ、曲目選定はイエステイン君)

バードやパーセルそしてハウウェルを除くと、今まで名前を聞いたことがない作曲家ばか
りである。

パーセル作曲(アデス編曲)のFull fathom fiveを、イエスティン君のコンサートで聴く
のは4回目である。土臭い男性的なイメージの曲であり、しかも音域があまりCT向けでは
ないように思えて最初のうちはこの曲を聴くのが苦手であった。
しかし、何度も生で聴くうちに、英国的かつ控えめなこの曲のよさが少しわかるように
なったのか、それともパワーを抑えてリラックした優しさの感じられる歌唱と、それに
寄り添うピアノの親密さに感服したこともあり、そんなに悪い曲じゃないんじゃないか、
と思えるようになった。

教会付属オルガニスト作曲であっても、聖書を題材にした抹香臭い曲ばかりというわけ
ではないのがこのプログラムのミソで、シェイクスピアやブレイク、キーツ、テニソン、
イェイツそしてフロストなどの詩に付けられた曲は、テーマも様々である。

後半は非常にロマンチックな詩に作曲されたものが多い。休憩後最初の曲は、キーツの
「つれなき美女」なので、身を乗り出して聴いた。ところが、意外にもかなりあっさりと
いかにも20世紀的初頭の作風で、19世紀的ロマンチシズムの情感はほとんど感じられない
曲なのであった。う~む、この詩はやっぱり朗読を聴く方が好きだ。




それに対して、21世紀になってムーアが19世紀のテニソンの詩と17世紀のワッツの詩に
曲を付けたSummer NightとCradle Songは優しさにあふれるメロディーで気に入った。
特に、子守唄はイエスティン君の慈愛に満ちた歌唱とも相まって、じんわりと心の琴線に
触れるのであった。

わたしにとっては、ジャクソンがフロストの詩に付けた曲Tree at my windowが今回の
リサイタルの白眉であった。イエスティン君によって歌われる英語の歌詞は、毎度ながら
明瞭かつ丁寧な発音で美しく、ホールの隅々にまで届く歌唱には余裕もうかがえる。
前回も感じたのだが、イギリスで歌うときにはいい意味でリラックスしたものが感じられ、
こちらも緊張を強いられることなく楽しめるのだ。

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アンコール1曲目は、まさに今回のプログラムにはこれ以上ふさわしい曲はありえないと
思われるパーセルの「夕べの賛歌」。
イエスティン君によってしみじみと歌われると、涙がこぼれそうになるほど美しい。

そして、アンコール2曲目は、まさかの Music for a while. 
この曲は、コンサートの〆、アンコールにやっぱりふさわしい。
これで希望がまた一つ叶った。あとは、イエスティン君の歌うChe faroが聴けたら、もう
思い残すことはないだろう。


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by didoregina | 2014-06-23 15:34 | イエスティン・デイヴィス | Comments(2)

イエスティン・デイヴィスのリサイタル@ケルン

昨年末から各地で様々な演目・曲目で聴いているイエスティン・デイヴィスだが、
このリサイタルはまさに集大成、ほとんど全て聴かせます!という内容だった。

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2014年5月17日 @ Kölner Philharmonie

Iestyn Davies Countertenor
Malcolm Martineau Klavier

Henry Purcell / Walter Bergmann / Michael Tippett
"Music For A While" (1692)
aus der Musik zum Schauspiel "Oedipus, King of Thebes" Z 583 von John Dryden und Nathaniel Lee. Gesetzt für Singstimme und Klavier

Henry Purcell / Benjamin Britten
"Sweeter than Roses" Z 585/1
aus "Pausanias, the Betrayer of his Country" Z 585. Bearbeitung für Singstimme und Klavier

Henry Purcell / Benjamin Britten
"Lord, what is man?" (A Divine Hymn) Z 192 (1693)
für Singstimme und Klavier (1947)



John Dowland
"In darkness let me dwell"
für Singstimme und Klavier

Thomas Adès
Darknesse Visible (1992)
für Klavier

Henry Purcell / Thomas Adès
"Full Fathom Five"
für Singstimme und Klavier. Text von William Shakespeare

Michael Tippett
Songs for Ariel (1962)
für Singstimme und Klavier. Texte von William Shakespeare

Franz Schubert
Der Tod und das Mädchen op. 7,3 D 531 (1817)
für Singstimme und Klavier. Text von Matthias Claudius

Johannes Brahms
Alte Liebe op. 72,1. Text von Karl Candidus
aus: Fünf Gesänge op. 72 (1876–77)

Johannes Brahms
Unüberwindlich op. 72,5. Text von Johann Wolfgang von Goethe
aus: Fünf Gesänge op. 72 (1876–77)

Pause

Johann Sebastian Bach / Benjamin Britten
Five Spiritual Songs
für hohe Stimme und Klavier (1969/1971)

Nico Muhly
Four Traditional Songs (2011)
für Singstimme und Klavier

Benjamin Britten
The Salley Gardens
aus: Folk Song Arrangements. Vol. I British Isles (1941–42)

Benjamin Britten
"There's none to soothe"
aus: Folk Song Arrangements. Vol. III British Isles (1945–46)

Benjamin Britten
Oliver Cromwell
aus: Folk Song Arrangements. Vol. I British Isles (1941–42)


まず最初の3曲は、パーセル作曲だがピアノ伴奏と声楽用にティペットやブリテンらが
現代風にアレンジしたもので、Music for a while とSweeter than roses は昨年11月と
12月にも聴いている。
拙ブログ名もそう名付けているほど愛着のある、Music for a while で始まるコンサート
には弱い。
これは通常のパーセル作曲のヴァージョンでチェンバロ伴奏などで歌われると、内省的な
歌詞と陰と陽が巧みに絡み合う曲調とによって、悲痛の中に希望の灯がまたたくようで、
胸に痛みと喜びを交互に感じる。
しみじみと心に沁みる余韻を残すから、どちらかというとアンコール向けの曲ではないか
とも思える。
だがティペット編曲になると、男性的な力強さのあるイエスティン君の歌声とピアノ伴奏
とも相まって、この曲のイメージが切々とした心情の吐露とは全く別のものなるのである。
聴く者に勇気を与える方法のアプローチが異なるとでも言おうか、物思いに沈む者を現実に
引き戻して最後には突き放すようなそっけなさがあって、まるで「風たちぬ、いざ、生きめ
やも」という思いにさせる。自分の力で、上を向いて生きろと肩を押されるような気分に
なるのである。

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今回のピアニスト、マルティノーによる伴奏は、音量が非常に控えめで歌唱の邪魔をせず、
主張しすぎたりリードを取ることもなく、いい具合に寄り沿っていて、好感度大であった。

ダウランドの In darkness let me dwellといえば、メランコリーの真骨頂だ。
2月3月4月に立て続けにリリースされたイエスティン君のCDの中でも、リュートのトマス・
ダンフォードと組んでのダウランドのリュート・ソング集 The Art of Melancholyは白眉
である。
今回はモダンピアノ伴奏だったのだが、リュートに劣らないほどデリケートで切々とした
ピアノ演奏とイエスティン君のシンとした暗さをたたえた歌唱がとても自然にマッチして
いた。途切れたように終わるエンディングが見事で、メランコリックでありながら、
じめじめしたところがなく、さわやかである。

アデス作曲のピアノ曲 Darknesse Visibleもはかなげな美しさを湛えたいい曲であった。

今回のリサイタルにはピアノ曲による水増しがほとんどなく、ソロ・リサイタルだから
ほぼ出ずっぱりで次から次まで様々な曲を歌うわけで、歌手にとっては大変だろう。
特にびっくりし興味を惹いたのは、プログラムにシューベルトとブラームスの歌曲が入って
いることだ。

イエスティン君は歌詞の内容を非常に重要視し、明瞭な発音を心がけているのが、毎度
印象に残る。曖昧さを嫌うのであろう。言葉の持つ重みや意味を直に聴衆に伝えたいという
使命感のようなものさえ感じさせる真摯な態度が表れているのである。
それは英語のみならずドイツ語の歌詞の発音にも当てはまり、同行したドイツ人の友人、
語学および哲学教師もイエスティン君の歌唱の発音の明瞭なことと美しさには感心していて、
意見の一致を見た。

会場はケルンのフィルハーモニー・ホールで、舞台が中央下方にあるヴィンヤード型だ。
カウンターテナーによるリサイタルには客席数が多すぎるきらいがあるが、音響的に何の
問題もなかった。ピアノ伴奏は控えめなのに弱音まで聴きとれるし、イエスティン君は声の
飛ばし方がうまいので、大ホールや大きな歌劇場でも全く不安を感じさせない。安心して
聴くことができるのである。

後半は、バッハや古謡を現代作曲家がアレンジした歌曲である。
特に印象に残っているのは、ニコ・マーリーが編曲したFor Traditional Songsだ。
スコットランドやヨークシャー地方などの古謡を現代的にアレンジしたもので、歌の
導入はいつもア・カペラで、そのあとからピアノ伴奏がそっと寄り沿う。フィリップ・
グラスを思わせるようなミニマルな美しさのある曲たちである。
物語を紡ぎだすような書法で作られた曲であり、歌詞自体にもヴィジュアルなストーリーが
はっきりあることと明瞭な発音の歌唱のため、耳から入ってくる音楽が頭の中で可視化され
るような気分になる。まるで映画を見ているような具合で、荒涼とした風景が眼前に現れる
のだった。
ニコが古謡をイエスティン君のために、彼の声が一番美しく聞こえる音域に編曲したものと
思しく、彼の透徹した高音の美しさを再発見させられた。

持ち駒を全て包み隠さず見せたかのような意欲的な内容のコンサートで、イエスティン君
の魅力が存分に発揮されていた。

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by didoregina | 2014-05-20 17:26 | イエスティン・デイヴィス | Comments(2)

イエスティン・デイヴィスとAurora Orchestraのコンサート

Aurora Orchestra: How Pure the Sky
1 May 2014 / 19:30 @ LSO St Luke’s

Howells arr Muhly King David
Thomas Adès Three Studies from Couperin
Bach Cantata BWV 54, ‘Widerstehe doch der Sünde’
Nico Muhly Drones on ‘O Lord, whose mercies numberless’
Gluck ‘Che puro ciel’ from Orfeo ed Euridice
Schubert Symphony No 5 in B flat

Nicholas Collon conductor
Iestyn Davies countertenor
Aurora Orchestra




イエスティン・デイヴィスが出演するコンサートおよびオペラを、異なるプログラムであれば、
今年はできるだけ沢山生で聴きたいと思っているので、ヨーロッパ内であれば遠征は厭
わない。
有難いことに今年前半はほぼ毎月、時には2週間くらいの間隔でコンサートがあるのだ。
しかし、このコンサートの日には当初仕事の予定が入っていたので行くのは諦めていた。
ところが、リスボン遠征直後に、その仕事がキャンセルになった。ご贔屓歌手のキャン
セルは困るが、こういうキャンセルはうれしい、というのが本音である。しかも、いい席が
まだまだ残っていたので早速チケットゲット。ロンドンまで一泊の弾丸遠征を決めた。

プログラムにはニコ・マーリーの曲と、一曲だけだがグルックの『オルフェオとエウリディー
チェ』からのアリアも入っている。グルック・イヤーである今年はぜひともイエスティン君の
歌う『オルフェとエウリディーチェ』を生で聴きたいという悲願が少しだけ叶うのだ。
グルックのオルフェオ役は、当時のカストラート歌手グァダーニが初演で歌っている。
そして、イエスティン君は『グァダーニのためのアリア』集CDを出している。男性的なアルトで
ある彼の声質にこれほどぴたりと合っている役もないだろうと確信しているし、オルフェの
アリアはとにかく美しいので、今年イエスティン君がどこかの歌劇場でオルフェオ役で主演
しないかなあ、と夢見ていたのだ。

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このコンサートの会場は、LSOが練習場としているらしい元教会である。バービカンから歩いて
10分足らずの場所にある。しかし教会なので、特に舞台があるわけではなく、最前列の特等席
(かぶりつき席という言うのはやめる。最前列で歌手のドンピシャ真向いだったブリュッセルと
リスボンでは、イエスティン君から「今日は特等席だったね」と言われたので、その用語に従う。)
だと、恐ろしいくらいの近距離である。わたしは中央すこし右寄りの席だったので指揮台の左側
に歌手の立ち台が置かれた今回は特等席とは言えないが、ご一緒したロンドンの椿姫さんとご
主人の席はこの小さな台の真向かいで、歌手から1メートルもない距離だった。

内陣上部には大きなスクリーンが掲げられ、上に貼った動画のようなヴィデオ(草原を歩いたり
寝転んだりするイエスティン君の大写し)が流れる。それに呼応してオケの器楽演奏が始まったが、
歌手はオケの後ろの方、楽屋と思しき場所から登場して、マーリーが編曲したハウエルの『ダビデ
王』を歌う。
夜啼き鳥の声に哀しみを慰められるダビデ王という、抒情的でメランコリックな英語の歌詞を、
いつものように明瞭で丁寧な発音のイエスティン君によってストレートに歌われると、とらえどころの
ない寂寞感というものの実体が目に見えないまま、しかし空気のようにまことに直にこちらの胸に
届くのだ。
もっともっと長い曲ならいいのに、というくらいあっけなく終わったのが残念だった。

オケは小さな編成だが、この教会のスペースと音響的にはマッチしていて、アデス編曲のクープ
ランの雅な音楽にもぴったり。
バッハのアリアでは、歌手は教会後方上部から歌い始め、中央通路を通って歩きながら歌い、
オケの前まで来るという演出(?)なのだった。生真面目さの本領発揮ともいえる、やはり丁寧な
歌唱であるが、この曲も余韻に浸る暇ももないほど短い。
そこまでは、曲間の拍手もなしでヴィデオ・アートと器楽演奏と歌唱とが切れ目なく続いた。

もっと短かったのは、マーリーの次の曲だった。
期待が大きかっただけに、肩すかしというか、今思い出そうとしてもほとんど印象に残っていない。

グルックのChe puro ciel!を英訳すると、今回のコンサートのテーマHow clear the sky!に
なる。暗い草原を歩くイエスティン君の映像がスクリーンに映されると、歌手登場の合図のように
なっているらしい。
あてどなく彷徨うスクリーン上の彼の姿が、エウリディーチェを探し回るオルフェの絶望を象徴して
いるようであり、わかりやすい。
この曲もとても美しいし、イエスティン君の十八番らしいのだが、Che faro senza Euridiceも
歌ってもらいたかった。イエスティン君の歌うグルックが聴けただけで満足、と思わないとばちが
当たる。

シューベルトの交響曲第五番に関してはノーコメント。これが、本来ならメインであったのかも
しれないが。

そしてアンコールとして、雨が止んで明るい空を仰ぐかのように能天気な曲Blue Skiesを
傘をさして後方から歩きながらイエスティン君が歌った。いかにも古き良きエンタメ的要素が
或るポピュラー曲なので、彼の別の面を聴くことができて楽しかった。

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Courtesy of Tsubakihime (Peraperaopera)
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by didoregina | 2014-05-04 12:34 | イエスティン・デイヴィス | Comments(4)

Britten Sinfoniaによるヨハネ受難曲@コンセルトヘボウ

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2014年4月17日@Concertgebouw

J.S. Bach - Johannes-Passion, BWV 245

Britten Sinfonia Voices
Britten Sinfonia
Jacqueline Shave (viool/leiding)
Nicholas Mulroy (tenor, Evangelist)
Matthew Brook (bas, Christus)
Julia Doyle (sopraan)
Iestyn Davies (countertenor)
Jeremy Budd (tenor)
Eamonn Dougan (bas, Pilatus)

オランダ・バッハ協会による『マタイ』の2日後に、アムステルダムのコンセルトヘボウでの
イギリスの団体Britten Sinfoniaによる『ヨハネ』コンサートに行った。
前者のネームバリューが各段に高いのに対して、後者の名前は寡聞にして知らなかったし、
イギリスの楽団は中庸の美徳を重んじるかのようでスリリングな演奏にはぶち当たったことが
ほとんどないから、あまり期待せずにいた。
ハッキリ言うと、今年はとにかく生のイエスティン・デイヴィスを聞き逃したくないという理由から
チケットを買ったのであった。『ヨハネ』の方が耳なじみがよくて好き、という理由もあるが。
案の定、チケットの売れ行きはほとんど直前まで芳しくなかったが、当日、少なくとも平土間
席は埋まっていたと思う。

しかし、結果は期待を上回るどころの話ではなく、聞く前になんだかしょぼそうとか言っていた
自分を恥じ土下座して謝りたいほどの素晴らしくエネルギッシュな演奏だったのだ。
ヴァイオリンの最初の音がちょっとばらけているように聞え、あららやっぱり、などど一瞬だけ
思ったのを除くと、スリリングかつドラマ性のあるオケの演奏は冴えていた。
チェンバロ奏者が指揮を兼ねているのかと思ったらそうではなく、コンミスのジャクリーン・シェイヴ
女史がきびきびとリードして、オケ全員がまるでソリストのように主張溢れかつ室内楽風に親密で
息のあったまとまりを作り上げていた。
脱帽である。

↓にBritten Sinfoniaのプロモ・ヴィデオを貼るので、ご視聴あれ。




なぜ、わたしは『ヨハネ』が好きかと言うと、最初にガツンとくるHerr, unser Herrscherで
否応なく熱い音楽の渦中に引き込まれ、こうべを垂れる思いになり、最後まで緊迫感溢れる
ドラマが無駄なく進行して続くので、コンパクトにきゅっと詰まった緻密な音楽の中に自分が
閉じこまれたような感覚になるのがたまらなく気持ちいいからだ。
そして、コラールの部分にどこか中世的な土臭い匂いが感じられ、ホッとできる部分がちゃんと
ある。聴く方にも緊張だけを要求しないのである。
それでいて劇と音楽の融合性と密度が高いため、途中で飽きたり他のことを考えたりする余裕を
与えない。
その晩の演奏は、まさにそういう密度が高く結晶化したかのようで、弛緩した部分が全くない
理想的な姿なのだった。

コンセルトヘボウで聴く受難曲というのは初めての経験だったのだが、それも期待以上であった。
音響的にモダンでドライすぎたりすることなく、大きな教会で聴くように合唱が団子になってしまう
こともなく、ソロ・パートはクリアでよく響き、隔靴掻痒感が全くない。
荘厳さと言う点では教会で聴く受難曲に勝るものはないという思いもあるのだが、音楽として聴く
にはこのホールはやはりさすがの素晴らしさである。

もう一つ期待していたのは、コンセルトヘボウの大ホールで聴くイエスティン君の歌唱である。
彼は声の飛ばし方が大変よく大ホールの隅々まで届くはずだし声量もしっかりあるから、去年
11月に小ホールで聴いたときには会場が狭すぎて響きすぎるし、もっと大きなホールで聴きたい
なあと思ったものである。
その期待は裏切られなかった。彼の声の魅力は、確固とした男性的な芯を内包しつつ外側も
ふやけたりぼやけたりしたところがないが優しさを感じさせ、ストレートな直球で勝負という歌唱の
小気味よさである。
てらいがなく、またある意味カウンターテナーらしからぬ男性的なアプローチなのである。
小柄ながら胸板が厚そうなので、胸声の幅が広いのかもしれない。だから、特に中音域にその
精華が詰まった歌唱を聞かせるのだが、高音にもその特徴が現れている。高音域でもあまり
ファルセットっぽい声ではないところが、ちょっと一般的にCTに期待されるものとはずれるかも
しれないが、それが彼の個性だと思う。

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ソロ歌手は皆若く、先日の『マタイ』でも思ったように重厚さよりも爽やかさが勝る。
福音史家の歌手も若いが堂々と安定したものである。バスは渋みのある重々しい声で説得力も
あった。そして、ソプラノの軽く清々しい歌唱がとても光っていた。
合唱もソロも全体的に、非常にハイレベルなのに驚かされた。

そういうわけで、今回の『ヨハネ』は、演奏の小気味よさもさることながら感動レベルも高い、近年
稀に遭遇するコンサートなのだった。
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by didoregina | 2014-04-23 13:01 | コンサート | Comments(0)

オランダ・バッハ協会の『マタイ受難曲』コンサート

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Johann Sebastian Bach - Matthäus-Passion, BWV 244
2014年4月15日@Muziekgebouw Eindhoven

Nederlandse Bachvereniging
Jos van Veldhoven, dirigent
Benjamin Hulett, tenor
Charles Daniels, tenor
Griet De Geyter, sopraan
Lore Binon, sopraan
Tim Mead, contratenor
Alex Potter, contratenor
Robert Murray, tenor
Andreas Wolf, Bas
Sabastian Noack, bas
Kampen Boys Choir,

オランダに住んでいると、復活祭前の受難節には各地で開かれる受難曲コンサートを避けて
通るのは難しい。
TVでも新聞でもオランダ各地の、様々な団体による受難曲コンサートが話題に上る。
毎年この時期の国を挙げてのフィーヴァーぶりはオランダ独特の風物詩と化している。
この社会現象の分析もされてはいるが、もうほとんど理論とかを超えた国民体質的なものに
なってきているように思われるのである。
ほとんど、年末の日本の全国各地で第九コンサートが開かれるのと表層的には似たような
様相であるが、オランダの場合、やはり宗教が絡んでいて人々のDNAに刻み込まれている
から、みそぎの気分になるのである。
そしてまた、ふだんあまりバッハや古楽はたまたクラシックのコンサートに足を向けない人々、
特に比較的新興の富裕層にとって受難曲コンサートに行くのはほとんど義務に近いような
社交の場として重要な意味を持つ。
受難曲(の話題)を聴かないと春を迎えた気分にならないのは、第九なしでは師走気分が盛り
上がらない(?)という感覚および、時勢に乗り遅れてはならないというのに近いのかもしれない。

バッハの受難曲の横綱「ヨハネ」と「マタイ」を比べると、人気は「マタイ」に軍配が上がるようだ。
(聴衆も演奏者も同等に長い苦を共有するという点でも好まれるのだろうか。)

オランダ人キリスト教徒であれば(オランダ語でクリスチャンと言う場合、基本的にプロテスタン
トのことを指すのは言語学上および社会的にも周知の事実である。たとえば、学校にしろ組織
にしろ、宗教別セグリゲーションが現在でも残る国オランダでのクリスチャンと銘打った組織は
プロテスタントのことであることを理解すべきだ。オランダ語でコーヒーショップというとコーヒーを
飲むためでhなくソフトドラッグが買える店のことであるのと同様、間違えると大変な目に合う)
すっきりと復活祭を迎えるためには受難曲で禊をするのが精神上よろしいようである。
(これは、また、オランダのカトリック教徒が四旬節の始まる前にカーニヴァルを祝って飲めや
歌えの大騒ぎをするのと好対照なのであるが、復活祭までの潔斎の期間のとらえ方の裏表を
成すともいえる)

前置きが異常に長くなってしまったが、オランダの国を挙げての受難曲コンサートの白眉であると
誰からも太鼓判を押されているオランダ・バッハ協会による「マタイ」コンサートに行ってきた。

個人的には、「ヨハネ」の方が好きだ。短い中に凝縮されたドラマがより濃く感じられるからだ。
そして、できうれば、音響のいい(すなわち残響や反響がほどほどである)教会で聴きたい。
しかし、それが難しいとなればコンサートホールで聴く。ありがたみが薄れるのは仕方ないが。

この「マタイ」は、さすがに人気曲の人気団体による演奏なので、チケットを買おうと思った
時には遅く、ソールドアウトだった。それでも、諦めずに毎日のようにリターンチケットをチェック
していたら、なんと当日になって4枚出てきたのを発見。しかしそのうち2枚はオンラインでの
手続き中に先に売れてしまった。本当に最後の最後の2枚をゲットできたのは、ティム・ミードの
おかげである。
いや、別に彼から直接チケットをもらったとか招待されたわけではない。彼はオランダ・バッハ
教会のマタイ・ツアーに今年参加中で、FBにオランダのTV番組の紹介をポストしていたので
それにコメントを入れたついでに、ふと思い立ってエイントホーフェンのホールのサイトを覗い
たら、リターンが絶好のタイミングで出ていたのだ。

ティム君がFBで紹介していた動画もまたいかにもオランダならではのものであった。
もう何年も前のことであるが、オランダでは「マタイ」マスタークラスと称したTV番組があった。
セレブに特訓を施して「マタイ」のソロパートをコンサートで歌わせるという、よくあるタイプの
リアリティ・ドキュである。
こういう番組を世界のTV局が作るべきだ、と彼は書いていたのだが、「それは、皆が毎年、受難曲
コンサートに行くような、究極の受難曲愛好国であるオランダでしか無理なんではない?」とわたしは
コメントした。「たしかに。イギリスじゃこういう番組、受けそうもないよね」とのお返事であった。
そして、その後すぐにその晩のチケットが手に入ったので、「今晩、エイントホーフェンのコンサート
に行きます。またね」と返事をしたのであった。

コンサートホールはまさに超満員で、ポディウム席に3つだけ空きが見えただけだ。
ステージは、真ん中にチェンバロとオルガンそしてテオルボ、左右に弦楽器が均等の対抗配置と
なっていて、管楽器は中央辺りで、上手奥にもう一台オルガンが置かれていた。
舞台後方下手に8人の合唱隊、後方上手に少年合唱隊6名、中央奥に福音史家、ソロ歌手たちも
左右2グループに分かれてダブル配置されていた。
合唱隊員が少ない分、ダブル人員で1人当たりの労力が省力化されたソリストたちも合唱部分
には参加するという、エネルギー及びギャラ等の金銭面でも節約を前面に打ち出したものである。
すなわち、福音史家とイエス役以外の各ソロ部分は2人で担当するのである。

実際、毎晩のように(バッハ協会の場合コンサートは12回)長大なコンサート・ツアーを行うのは
演奏家にとったら大変な重労働だろう。聴く方がよっぽど楽である。

全体の印象は、メインのソリストが非常に若い歌手で揃えられていたため、すがすがしさが前面に
打ち出されていた。
特に、福音史家役のイギリス人テノールが若くて歌唱も爽やかで若々しく、イエス役のドイツ人バス
も同様に若いのだが、ルックスに似合わないほど骨太で重厚な低音が美しく印象的であった。
この二人の若い歌手双方とも爽やかな歌唱であるのだが、高音の軽みと低音の重みの対比が抜群
で、どちらもバランスがとれているコンビなのだった。

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決め手はカウンターテナーのティム・ミードであった。
もともと彼を目当てに聴きに行ったのだが、予想以上の素晴らしさである。自然かつ澄んだ高音も
中音域も無理が全く感じられない発声とよく飛ぶ声とで、自然な表現力もあいまって聴く者を感動に
誘うのである。特にマタイの中でも一番人気で美しいアリアErbarme dichの説得力にあふれ
かつピュアな哀しみを感じさせる歌唱の美しさはまさに天上からの声のようで、満場息を呑んだ。
自信があふれ出ているような安定性のある歌唱と澄んだ声は、まさにバッハの音楽にうってつけで
彼の進化には目を瞠り、今後も応援していきたいと思わせたのだった。

オケも手堅く、文句のつけようはなかった。
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by didoregina | 2014-04-17 15:33 | コンサート | Comments(10)

来季のOudeMuziekは 近場で充実のプログラム

各地の歌劇場・コンサートホールの来シーズン演目・日程が次々に発表されている。
エキサイティングなのではあるが、一喜一憂というより、個人的にはイマイチ盛り上がりに
欠けているのは、追っかけ相手が出演するのがほとんどまだどこにも見つかっていないからだ。
寂しいことである。

そんな中、渋いながらも、おっと目を剥くような充実さで冴えているのがOudeMuziekの
ブロシャーである。
近場に面白そうなのが来るのだ。そして、なぜかリュートが目につく。


Saturday 13 Dec 2014 20.00 hr
Ton Koopman & Tini Mathot
Limbricht, St. Salviuskerkje
コープマン夫妻が二台のチェンバロでバッハ『フーガの技法』


Friday 30 Jan 2015 20.30 hr
Concerto Copenhagen   Mass in B Minor, BWV 232
Maastricht, St.-Theresiakerk
Maria Keohane, Joanne Lunn, sopranos
Alex Potter, alto
Jan Kobow, tenor
Peter Harvey, bass
Lars Ulrik Mortensen, conductor
CoCoによるバッハ『ロ短調ミサ』


Saturday 21 Feb 2015 20.00 hr
Musicall Humors   Consort music by Dowland and Holborne
Limbricht, St. Salviuskerkje
Julien Léonard, alto gamba
Nick Milne, alto- and tenor gamba
Myriam Rignol, tenor gamba
Lucile Boulanger, bass gamba
Josh Cheatam, bass gamba
Thomas Dunford, lute
François Guerrier, organ en harpsichord
リュートのエリック・クラプトン、トマス・ダンフォード君が近くの教会に登場!

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        左端がトマス君。弱冠26歳。キュート!

この写真をブロシャーに発見し狂喜した。なぜかというと、彼は現在イエスティン・デイヴィスと
一緒にリュート・ソングの北米ツアーを行っている、若き相棒なのだ。
そして、BBCマガジンで「リュートのエリック・クラプトン」と書かれて以来、狭い世界でだが話題を
振りまいているのである。



とうとうツアーの最中にエリック・クラプトンの歌を歌う羽目になったイエスティン君。
「リュートのエリック・クラプトン」の伴奏で。




Saturday 21 Mar 2015 20.30 hr
Emma Kirkby & Jakob Lindberg  English Lute Songs
Maastricht, Cellebroederskapel
私が今年から参加している合唱団の本拠地・練習場所であるチャペルでのコンサートだから
行かないわけにいくまい。。。。



Saturday 25 Apr 2015 20.30 hr
ClubMediéval  The Enamoured Abbot
Kapel Zusters onder de bogen
Ballatas and madrigals by Don Paolo da Firenze (ca. 1355-1436)
イタリア中世のバラードとマドリガーレ



Sunday 03 May 2015 14.30 hr
Tiburtina  Visions of Hildegard
Limbricht, St. Salviuskerkje

Barbora Sojková, soprano, harp and leader
Hana Blažíková, soprano and harp
Ivana Bilej Brouková, soprano
Tereza Havlíková, soprano
Daniela Cermáková, alto
Kamila Mazalová, alto
Anna Chadimová Havlíková, alto
Margit Übellacker, dulcemelos
ハナちゃん出演で、12世紀のヒルデガルド・フォン・ビンゲン!



Saturday 09 May 2015 20.30 hr
Jordi Savall & Xavier Díaz-Latorre  Ostinatos & Improvisations
Maastricht, St.-Janskerk
Ostinatos & Improvisations Ortiz, Hume, De Murcia
出た!御大サヴァール!


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                最近とみにゴシック度が増しているハナちゃん


Thursday 28 May 2015 20.15 hr
Collegium Vocale Gent  O dolce mio tesoro
Eindhoven, Catharinakerk
O dolce mio tesoro Madrigals by Carlo Gesualdo from Books V and VI (1611)
Hana Blažíková, soprano
Barbora Sojková, mezzo soprano
Marnix De Cat, contratenor
Thomas Hobbs, tenor
Peter Kooij, bass
Thomas Dunford, lute
Philippe Herreweghe, conductor
シーズン最後は、ヘレヴェッヘ指揮コレギウム・ヴォカーレ・ヘントにハナちゃん他の豪華ソリストで
ジェズアルドのマドリガーレ!
これにもトマス君がリュートで参加!

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               ハナちゃんをまた間近で見ることができる!
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by didoregina | 2014-04-02 19:50 | コンサート | Comments(24)

イエスティン・デイヴィスの『ソロモン』を聴きにリスボン遠征

リスボンへ一泊の弾丸遠征をした。それも1人で。
今年おっかけターゲットに定めたイギリス人カウンターテナーのイエスティン・デイヴィスが
タイトルロールを歌うヘンデルのオラトリオ『ソロモン』をどうしても聴きたかったからだ。

c0188818_4252940.jpgThursday, 20 Mar 2014, 19:00 - Grande Auditório

GULBENKIAN ORCHESTRA
GULBENKIAN CHOIR
PAUL MCCREESH (conductor)
IESTYN DAVIES (countertenor) (Salomão)
INÊS SIMÕES (soprano) (Rainha de Salomão)
GILLIAN WEBSTER (soprano) (Rainha de Sabá)
MHAIRI LAWSON (soprano) (Primeira Prostituta)
CÁTIA MORESO (mezzo-soprano) (Segunda Prostituta)
THOMAS WALKER (tenor) (Zadok)
HUGO OLIVEIRA (baritone) (Um Levita)

Georg Friedrich Händel
Solomon, HWV 67


イエスティン君が出演した(主演といってもいい)ヘンデルのオペラ『ロデリンダ』鑑賞の
ために行ったロンドン遠征から2週間ほどしか経っていないから、現在、彼にどれだけ入れ
込んでいるのかお分かりいただけるかと思う。

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ポルトガルに行くのは、ヨーロッパ在住30年近くになるが今回が初めて。ヨーロッパ大陸の
西南の果てに位置するポルトガルは、なんと、CETとは一時間の時差があるGMTを採用している。
ブリュッセル空港からリスボンまでは3時間のフライトであるから、同じヨーロッパ内とはいえ、
かなり距離的には遠い。
しかし、ライアン・エアの今月から出来たてほやほやのこのルートのフライトは安い。
往復で60ユーロである。
それに空港からトランスファー(ホテルへのキャブ送迎)が往復で14ユーロ。
ホテルは、ホール至近で朝食付き50ユーロ。
そしてなんと、グルベンキアン音楽堂のコンサート・チケットは最前列かぶりつきの一番高い
席で27ユーロ!
全部合計しても、近場の歌劇場の一番高い席より安いし、1月のドルトムント遠征費用よりも
100ユーロ近く安くあがる勘定である。
(こんなにくどくどと細かくお金の話をするのは、それだけ「リスボン遠征」が心理的・距離
的に引っかかるものがあり、1人で行くことに罪悪感さえ覚えたためである)

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グルベンキアン音楽堂の舞台後方はガラス張りで、外の公園が借景。


コンサートは2夜連続公演だが、初日を一回だけ聴きに行った。
通常、遠征するときには2泊して別の演目も組み合わせるのだが、リスボンの歌劇場は月に2,
3日しか稼働していず、コンサートとオペラを組み合わせるのはまず不可能だ。
それならば追っかけの王道として、同じコンサートを二晩続けて聴くという選択肢もある。
当日の歌手の出来不出来、コンディションの違いが分かり、音楽的にもより楽しめるというのと、
ドタキャンがあるかもしれないから、保険代わりに2回は同じ演目を鑑賞するのが、一般的遠征
の鉄則であるらしい。
しかし、私は一期一会を大切にしたいと思う。一回のコンサートやオペラ鑑賞に全力投球したい。
それに私の場合、おっかけ歌手がキャンセルしたことはほとんど皆無である。(1月のドルト
ムントでのデュモーのキャンセルは本人も言っているが10年以上のキャリアで初めて。今後
10年はないだろうとのこと)
だがしかし、一回だけコンサートを聴きにいくというのは果たして正しい選択なのか、直前に
なって悩んだ。

結果はどうだったかというと、一回のコンサートが十二分に満足いくものだったため、もう一回
聴くべきだったのに!という後悔はなかった。

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                   女性ソリストたち

数あるバロックオペラの中でも、ヘンデルのオペラの数々は上演機会がダントツに多い。
音楽的に美しく万人向けであるから集客がしやすいのと、歌手やオケのレパートリーに入って
いる作品が多いこと、そして、内容的にもギリシャ神話を題材に採ったものが多く、ユニヴァー
サルかつ時代を超越したテーマを扱っているため舞台にかけやすいという理由であると思う。
それに対して、聖書の物語を題材にとったオラトリオの方は、構成上オペラに近いにもかかわ
らず、舞台形式で上演されるものではないし、コンサートにしても演奏される機会はあまり
多くない。
そしてまた、ヘンデルのオラトリオの歌詞はほとんど英語で書かれているから、英語のネイ
ティブ歌手によって歌われるのが自然であるように思われる。
手持ちのCDは、ダニエル・ロイス指揮、ベルリン古楽アカデミー演奏、RIAS室内合唱団と
オール英国人ソロ歌手によるものである。(ソロモンは、メゾのサラ・コノリー)

また、今回の実演の指揮者と同じポール・マクリーシュの指揮、イエスティン君がソロモンを
歌う動画もYoutubenに全編アップされているので、↓に貼る。



上の動画も、上記CDも古楽オケによるきびきびしたテンポの溌剌たる演奏である。

今回鑑賞したコンサートでは、指揮者はマクリーシュだが、手勢のガブリエリ・コンソート
ではなく、ホール専属のモダンオケおよび専属合唱団による演奏だった。
どうも、なんだか水で薄まったような、ちょっと頼りない演奏である。
ソロ歌手は、半分くらいが英語ネイティブであろうかと思われる。
バリトンとテノールはちょっとオペラチックな歌唱だなあ、と思った程度でそれ以上、印象に
残らない。
女性歌手は、遊女その一とシバの女王の清らかな声と美しく惚れ惚れするような英語の発音とで
好感度が高かった。特に、遊女その一が、我が子を思う母親らしい心情を切々歌い、やはりこの
オラトリオの一番の聞かせどころだなあと、ぐっと胸を掴まれた。

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最前列中央より一つ右寄りの座席なので、イエスティン君は
            目の前。あまりに近すぎて、写真が上手く撮れなかったほど。


さて、肝心のイエスティン君の歌唱はどうだろう。
彼は、数日前までオペラ『ロデリンダ』に出演していた。そのオペラのマチネ公演の出待ちを
した時は疲れているようで、楽屋出口での彼は異常に言葉少なかった。
千秋楽の翌日にはリスボンに飛んだようで、すぐにリハーサルに入って、『ロデリンダ』の
千秋楽から5日後が『ソロモン』のコンサート初日だった。
本当にリスボンで歌うんだろうかと心配だったが、リスボンの天気を知らせるツイートを見て、
ああ、これでもうキャンセルはないだろう、と安堵した。
緊張気味の表情であるが、いつも通りどの音域でも安定してきっちりした歌唱としっかりした
声量で、安心して聴くことができた。

私自身びっくりしたのは、このところイエスティン君の実演やCDばかり聴いているため、あま
りに彼の声に耳が馴染んでしまって、舞台上の彼の歌唱を聴いてもトキメキを感じるよりも、
まるで生活の一部のようになっているというか、手の内がすっかりわかっている長年慣れ親し
んだ人に接するような気分になったことだ。
コンサートという非日常の時間と空間での体験の最中なのに、ごく日常的な幸福感に近いものを
感じ、自然に笑みが湧いてくるのだった。なんというか、ほっこりした羽毛に抱き包まれたかの
ような安心感に浸れるのだった。
こうなるともう、客観的になったり批評的に聴いたりすることは不可能である。

初めて見る詰襟のステージ衣装がストイックな雰囲気で、賢王のイメージにぴったりであった。

終演後、出待ちする人が他にはいなかったので、イエスティン君と少しおしゃべりができた。
今回の演奏は、モダンオケによる演奏で440Hzのモダンピッチなので、バロック時代のピッチ
に比べて高いため、特に高音が多いヘンデルのソロモンではCTである彼にはかなり辛かったそうだ。
翌日もう一回だけの実演で終了するからなんとかなるだろう、とのこと。
コンサート終了後の充実感と高揚感で饒舌になっている彼の態度からも、その晩のコンサートの
出来が満足いくものであったことが感じられるのだった。
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by didoregina | 2014-03-25 22:50 | コンサート | Comments(9)

カリーナ・ゴーヴァン・リサイタル@コンセルトヘボウ

またもや、コンセルトヘボウのコンサート招待券が当たった。
ソプラノ歌手、カリーナ・ゴーヴァンのリサイタルである。

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彼女は、2年前の『アリオダンテ』でのジネーヴラ役が印象に残っているし、この夏の
グラインドボーンでの『リナルド』では、イエスティン君リナルドに意地悪する魔女の
アルミーダ役で出演する。まさに、今聴きたい歌手の一人である。

それではなぜに自分でチケットを買わなかったのかというと、理由はシンプル。
平日夜のコンサートだからだ。
コンセルトヘボウでのコンサート終了後、マーストリヒト行き終電には間に合わないから、
どこかに泊まる必要がある。そういう訳で、行きたいとは思っても二の足を踏んでいる
コンサートが結構多いのであるが、タダで招待されたとなると話は別である。
コンヘボ近くのホテルをラストミニッツで探せば、チケット代金と同じくらいの価格で見つかる。

招待券プレゼントは、通常ペア券である。同行者を探さないといけない。
前回、丁度2か月前にイエスティン君から貰えたカンティクルズ・コンサートと同様に
アムステルダム在住の友人を誘うという手は、今回は使えない。彼女はすでに自前で
チケットをゲットしているのだ。
そして大概、チケット当選のお知らせは、唐突に、応募したのを忘れたころ、コンサート
当日の2,3日前に来るのだ。だから、あわてて同行者を探す電話をかけまくることになる。
いくらタダ券とはいえ、誰でもいいから簡単に放出するのはいやだ。
コンサートを楽しんでくれて、しかも一緒にでかけるのが楽しい相手を選ぶ。

ここにまた、チケット当選の極意も含まれている。
実は、このコンサートの2日前のコンサートにも当選している。(そのレポは1週間前にブログ
記事にしたのだが、投稿に失敗したため精神的に疲れてしまって、書き直す気力が失せ、
またブログ記事アップの間隔が大幅に開いてしまった。)

なぜ、わたしは、こんなにもよくチケット・プレゼントに当選するのか?とは、本人も、そして
まわりの誰もが抱く疑問である。2か月間に3回当選、というのはかなり多い方だと思う。
しかも、3戦3勝の勝率100%とくれば、これはもう、こういう星の元に生まれたのだと言うしか
ない。
ところが、やはり、コツみたいなものもあるようなのだ。

ラジオでのプレゼントに当選したことは皆無である。応募者が多くて、まさに何百分の1の確
率の単なる抽選だからだ。
それに対して、各劇場やコンサートホール、雑誌等のメールマガジンやFB上でのプレゼント
にメールで応募すると、今まで勝率が殆ど100%なのである。
先着順で当たるという運のいい場合もあるが、大概は「なぜそのコンサートに行きたいのか」を
書く。すると、勝率がグ~ンとアップする。つまり、主催者もしくはチケット提供者の心に響くような
コメントを一言書くことで、チケットゲット率が高まるのだ。向こうだって、誰でもいいからタダで
放出するより、来てもらいたい理想の観客・聴衆像にマッチする人を探すものであるのだから。

今回見つかった同行者は、ヨット仲間のHである。彼とは4年前にクロアチアで知り合って以来
趣味が似ていることからツーカーの仲となり、それ以来夫婦そろって4人で毎年6月に2週間北海
セイリングしたり、週末にハイキングしたり、食事したりコンサートに一緒に行ったりするのだが、
丁度コンサート当日、彼はアムステルダム出張なのだと、奥さんTが教えてくれた。願ってもない
同行者である。その晩はアムス泊を1泊伸ばして、コンサートに一緒に行ってくれることになった。

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カリーナ・ゴーヴァンは、つい先ごろまでミュンヘンのBSOでの『ラ・カリスト』に出演していた。
それを観にミュンヘンまで出かけた友人も結構いる。知り合いには彼女のファンが多い。
そして、昨年9月のDNOプロダクション、グルックの『アルミーダ』にも主演した。
実力を知る人は、良く知っている素晴らしい歌手である。

ところが、案に反してコンセルトヘボウ小ホールの座席は、6割ほどしか埋まっていなかった。

それが、どうも、コンセルトヘボウ聴衆のコンサバ度と年齢層を如実に表しているように思える。
バロックを得意とする歌手の場合、バルトリやディドナートくらいの有名歌手ならば、チケット代が
いくら高くてもすぐにソールドアウトになるのだが、知名度がいまいちのアーチストの場合、
事務所や呼び屋さんのプロモーションおよびマーケティングがかなり上手くないと、チケットを
売り捌くのは厳しいという現実が存在するのだ。
名の知れた歌手という安全パイにしか手を伸ばさないという心理はわからないでもない。
でも、有名だが歌唱や喉の盛りを過ぎつつあるような歌手よりも、これから花を咲かせる若手の
青田買い、もしくは今が旬の若手の先物買いのほうがスリリングで、ずっと面白いのに。

Karina Gauvin recital 2014年1月28日@ Concertgebouw, Amsterdam

Karina Gauvin (sopraan)
Maciej Pikulski (piano)

J. Haydn - The Mermaid's Song, nr. 1 (uit 'Six Original Canzonettas',
Hob. XXVIa: 25-30)
J. Haydn - She never Told her Love, nr. 4 (uit 'Six Original Canzonettas',
Hob. XXVIa: 31-36)
J. Haydn - The Spirit's Song, Hob. XXVIa: 41
Vaughan Williams - Silent Noon, nr. 2 (uit 'The House of Life')
Quilter - Love's Philosophy, nr. 1 (uit 'Three songs', op. 3)
Copland - The Boatmen's Dance (uit 'Old American Songs I')
Copland - The Dodger (uit 'Old American Songs I')
Copland - Long Time Ago (uit 'Old American Songs I')
Copland - Simple Gifts (uit 'Old American Songs I')
Copland - I Bought Me a Cat (uit 'Old American Songs I')

Debussy - Nuit d'étoiles
Debussy - Mandoline
Debussy - Beau soir, L. 6
Debussy - Noël des enfants qui n'ont plus de maison, L. 139
Ravel - Cinq mélodies populaires grecques
Bizet - De mon amie, fleur endormie, chanson (uit 'Les pêcheurs de perles')
Bizet - Guitare, nr. 4 (uit 'Feuilles d'Album')
Bizet - Adieux de l’hôtesse arabe
Bizet - Ouvre ton coeur
Poulenc - Les chemins de l'amour

リサイタル・プログラムは5部構成で、全てを聴かせます!という意欲に満ち変化に富んだ内容。
ピアノ伴奏はあっても、ピアノ・ソロでの水増しなど皆無である。

最初の部はハイドン作曲の英語の歌だ。
これが、素晴らしい。ゴーヴァンは、フランス語圏カナダ出身であるが、北米英語も癖がなく、
古式ゆかしいシェイクスピアの詩なども美しい発音で実に耳に心地よい。
ふくよかで響きのよい、よくとおる声を最初から全くセーブしないで聴かせてくれ、全体を通して
この第一部が一番気に入った。
第二部は、D.G.ロセッティの詩にヴォーン・ウィリアムスが曲を付けた、実にわたし好みの曲で
イギリスらしい静謐さと詩情溢れる佳曲。
第三部もそれに近いタイプで、シェリーの詩にキルターが曲を付け、イギリスの田園風景を歌
ったもの。
それに対して第四部はコープランドのあっけらかんとしたちょっと俗っぽいアメリカ民謡調の
明るい曲で、屈託のなさと楽しさを堂々たる歌唱で披露した。

前半が英語の曲だったのに対して、後半はフランス語である。
ドビュッシー作曲の歌曲には、好きなものが多いのだが、どうも、彼女のキャラクターに合わない。
どうも健康優良児的な発声のためか、彼女の歌うフランス語からは世紀末的暗さやアンニュイが
どこからも漂ってこないのが不満として残った。
歌声はあくまでも素直なのだが、声量が満々すぎて、そこはかとない隠微さとは無縁の、ちょっと
薄っぺらな解釈になっているのか、胸にあまり迫ってこない。
ラヴェルも同様であった。フランス語圏といえども、ヨーロッパ大陸とアメリカ大陸とでは、やはり
異なる風土であり、土壌が違うと咲く花の色も異なるということが歌手にも当てはまるのだな、と
思い知らせてくれた。
ビゼーの曲になって、ようやく彼女らしさが発揮できたように思える。スペイン風メロディーで、
日陰の部分にすら太陽の光を感じさせるような彼女の声質にぴったりなのだ。
バロックを得意とする歌手には、声量が乏しいイメージが付きまとうものだが、バロック的歌唱
という枠のみには収まりきらないスケールの大きさと、大輪の花のような華やかさがある声質に
ビゼーの華やかさがしっくりくるのだった。

リサイタル全体での印象は、ゴーヴァンの嫌みのない歌唱がとても好ましく、声量豊かで、
この人は何でも歌えるんだなあ、とその多彩な色彩感覚に感心するのだった。
そして、彼女のイメージと重なっていたバロックのレパートリーは、この晩のリサイタルには
入っていないことに気づいたのだった。
実に楽しいコンサートの後のサイン会で、グラインドボーンに行くことをアピッたら、びっくりされた。
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by didoregina | 2014-02-04 16:52 | コンサート | Comments(13)

カルダーラの『惑星の調和』La Concordia de' Pianeti ライブ録音コンサート

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指揮のアンドレア・マルコンとヴェロニカ・カンヘミ

Antonio Caldara »La concordia de’ pianeti«
KONZERTHAUS DORTMUND
2014年1月18日

Verónica Cangemi Diana,
Delphine Galou Venere,
Carlos Mena Marte,
Franco Fagioli Apollo,
Ruxandra Donose Giove,
Daniel Behle Mercurio,
Luca Tittoto Saturno,
La Cetra Vokalensemble Basel,
La Cetra Barockorchester Basel,
Andrea Marcon Dirigent

バロックオペラ・ファンおよびCTファンにとって鳴り物入りだったカルダーラの幻のオペラは、
キャンセル騒ぎの末、上記のキャストでのコンサート形式上演となった。
ディアーナ役はアナ・プロハスカからヴェロニカ・カンヘミに、ジョーヴェ役はクリストフ・
デュモーからメゾ・ソプラノのリュクサンドラ・ドノーゼにそれぞれ変更という正式発表が
あったのは、コンサートの数日前である。メールとその後ご丁寧にも封書でキャスト変更の
お知らせが届いた。

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この幻のオペラは300年ぶりの上演であるから、録音も資料もなく事前には一体どういう
内容なのか殆ど全くわからず、タイトルと役名からなんとなく推測するしかなかった。
当日のプログラム・ブックでも、内容説明について割かれたページは1ページのみだ。

1723年11月19日、ハプスブルク家の神聖ローマ帝国皇帝カール6世(ボヘミア王も兼ねる)
の皇后エリザベートの命名日にボヘミアで上演された。
リブレット作者はピエトロ・パリアーティで、歌詞内容を一口でまとめると、神々がエリザ
ベート(作品中ではエルザ)の徳と善と美を口々に讃える、という祝典劇である。
だから、まずはトランペットが祝祭らしい華やかなファンファーレを奏で、その後は神々
(天に煌めく惑星でもある)役のソリストが代りばんこに立って、エルザ称賛のアリアを歌い、
最後に合唱でまとめるという構成である。
エリザベート皇后は、将来ハプスブルクの女帝となるマリア・テレジアの母君で、初演当時
別のお子さんを妊娠中であった。男のお世継ぎが生まれ帝国安泰、母子ともに健やかなれと
の願いがこの曲には込められていたのかも知れない。
それゆえトランペットは重要なアリアでオブリガート伴奏にも活躍するし、朗々とめでたさ
を寿ぐ音楽と歌詞に終始するのだった。

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            二人のCT。フランコ・ファジョーリとカルロス・メナ。


ディアーナは、カンヘミが急な代役で歌った。彼女の方がプロハスカちゃんよりもずっとイタ
リアン・バロック・オペラには向いてる声質だし、急きょの代役を務めてコンサートを救って
くれてありがたい、と感謝の念は持った。
だが、やはり練習不足の感は否めない。まだまだ、自分のものになっていないからか、聴き手
にも説得力を持った歌唱として響くものが少ない。もともと声量豊かな歌手ではないが、彼女
のそこはかとない歌心の感じられる味わいが好きなのだが、もう少し華々しくまたは情感込め
て自信たっぷりに歌ってほしかった、と望んでもそれはないものねだりというべきか。
月と狩りの女神ディアーナ役のカンヘミと、対称関係であるアポロ役のファジョーリとの相性
はなかなかよかった。

もう一人の女神ヴェネーレ(ヴィーナス)には、デルフィーヌ・ガルー。彼女は今まで2回生
で聴いているのだが、いつもなんだか期待外れに終わっていた。それが今回は、他の女声陣が
急な代役での出演であったため相対的にかなり手堅く歌い込んでいるように聴こえるのだった。
練習時間の差であろうか。少し見直したほどであるが、まあ他の女性歌手にちょっとがっかり
させられたから、彼女への評価も甘くなるのはいたしかたない。自意識が強そうな、愛の女神
役は悪くはなかった。

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            左にテノールのベーレ。女声陣は、ガルー、ドノーゼ、カンヘミ。


ジョーヴェ(ジュピター)は天の神であるから、やはりどうしてもカウンターテナーの男声で
聴きたかった!ドノーゼの声も歌唱もおばさんぽいルックスも全て含めて、この役には向いて
いない。
彼女の歌唱を聴きながら、ああ、絶対数が少ないCTの中といえども、この役を短い練習期間
でも歌える歌手はきっと探したらいたはずなのに、と思えて残念でならなかった。
デュモーで聴きたかったのはもちろんだが、他のCTで代役を引き受けてくれる人がいればなあ、
と残念しきりである。男の神なのだし、他の2人のCTとのバランスを考慮に入れても、この役は
絶対にCTに歌ってもらうべきであった。

ジョーヴェ役に脳内変換していたデュモーの動画を貼る。


         2013年11月、マドリッド王立歌劇場の『インドの女王』でのデュモー。


CT以外の男性歌手は、テノールのベーレとバスのティットートだ。
ベーレはメルキュリオ(マーキュリー)、ちょっと優しい雰囲気の彼は残念なことに殆ど印象
に残っていない。バロック・オペラではテノールが活躍する場面が少ないし、ほとんど脇役
だったからだ。
ティットートはサチュルノ役で、これもバロックオペラではありがちなのだが、笑えてしまう
ほど低音がよく響く。大体、バスはコミカルもしくは好色爺みたいな役どころであるが、
サチュルノという役柄に似合うキャラと深い声とで、全体を引き締めていた。


さて、今回の歌手の中では、1人減って二人になってしまったが、CTに注目していた。

まずは、中堅と言ってもいいカルロス・メナ。
彼が参加したCDはいくつか持っているのだが、どうもいまひとつ個性が足りないような印象
を持っていたのだが、実際に聴く彼の声は外見よりもずっと若々しく、特に高音が澄んで美
しい。
12月に、彼が『リナルド』のタイトルロールを歌う公演を聴きに行くはずだったのだが、
その時はイエスティン君熱に浮かされていたため他のCTに目が向かなくなり、行くのを止め
てしまった。
それを後悔するほど、メナの歌唱はなんとも素敵で味わいがあるのだった。見直してしまった。

今回一番の目玉は、何と言ってもフランコ・ファジョーリだ。現在の若手CTの中でも群を抜い
て実力および個性が際立っている、CTファンの間では話題の歌手である。
彼の生の声を聴くのは3回目で、大体1年に一度の割合なのだが、その歌唱の進歩には今回も
驚かされた。別名「男バルトリ」と呼ばれるのに恥じない、イタリア人らしい濃い色合いの
深みのある声を持ち、歌唱はあくまで滑らかなベルカントで、得意な高音域をより際立たせる
ような装飾をふんだんに盛ったコロラチューラを聴かせるのである。
今までのカウンターテナーとは全く異なるタイプで、他に比べる人が見つからない。古今東西
見渡しても唯一のユニークな存在である。似ている歌手を探すならば、多分18世紀のカスト
ラートがこういう歌唱をしたのではないか、と思わせるようなスケールの大きな歌手なのだ。

彼をご存じない方のために、動画を貼る。


     昨年11月のパリでのリサイタルでグルックの『オルフェオとエウリディーチェ』から
    「エウリディーチェを失って」を、独特の装飾を加えて歌うフランコ・ファジョーリ。


彼が歌うアリアは、カルダーラが彼のために(実際には当時の花形カストラート、カレスティ
ーニのために)作ったとしか思えず、ファジョーリは易々と超絶技巧を炸裂させて歌い上げる
のだった。
現在まだ30歳そこそこなのに、比較を絶する唯一無二のCTとしての自信が、歌唱と表情とに
あふれて、聴く方は胸がすく。1年ぶりに接する彼のルックスは、またまた精悍さを増した。
その日のスターは何と言ってもファジョーリなのだった。
CTファンもそうでない人も、同時代を生きしかも日々進化を止めない彼からは、目を離すべき
ではない。神話がそろそろ完成するだろう。


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                  終演後、楽屋口でツーショット。
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by didoregina | 2014-01-23 23:45 | オペラ コンサート形式 | Comments(8)

着物始め、コンサート始め、習い事始め

皆さま、新年あけましておめでとうございます。

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一応松の内になんとか着物でおでかけの機会があった。
友人Hがフルート奏者として出演するアマチュア・コンサートである。

会場はセレブルダース・チャペル。上記写真のように天井も壁も美しい教会で、ちゃんとした
有料の、そして結構有名音楽家による古楽コンサートが開かれる。

お正月らしい華やかな着物だと、教会でのマチネ・コンサートでは浮きすぎるから、グリーンの
結城紬に改まった雰囲気の正倉院柄の帯の組み合わせにした。

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                偶然だが、教会の内装にぴったり合う色のコーデ。

昨年京都で買ったこの帯をいつおろすのがよいだろうかと機会をうかがっていたのだが、
ぜひとも今年1月に締めようと決めた。今年の干支の馬が織り込まれているからだ。
古典的な正倉院裂の騎馬模様の織帯で、柄は地味だがきらきらと上品な光沢があり、
光の当たる具合によって色が変わる。

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                 正倉院柄の織の名古屋帯で締めやすい。


コンサートの演目は、前半はアマチュア合唱団によるモーツアルトの『フィガロの結婚』から
伯爵夫人やケルビーノのアリアを混声合唱にアレンジした曲や、『帰れソレントへ』『オーソレミオ』
などのイタリア民謡であった。
後半は、ハイドンのトリオ・ソナタ『ロンドン』をフルート、リコーダー、チェロ、コントラバスのために
アレンジしたもの。なかなか一緒になっての練習時間の取れないアマチュア室内楽アンサンブル
にとってはかなりの大曲であった。




                マルコ・ビーズリーの歌う『オー・ソレ・ミオ』

マルコ・ビーズリーによって正統的ナポリ弁(?)歌われると、この曲も哀愁を帯びて味わい深く
なり、なんともいい曲だなあ、と思う。



コンサートの前日、HとTとその他10人ほどで、ベルギーのアルデンヌ高原をハイキングした。
普段の年だったら雪に覆われている山や丘陵だが、今年は暖冬のため、道はぐちょぐちょに
ぬかるんでいた。
フルートを吹くHからは、いつも、わたしのピアノ伴奏と一緒に合わせたい、と誘われるのだ。
合奏とか伴奏とかには全く向いていないと自覚しているので、いつもお茶を濁しているのだが、
逃げ口上ばかりでも能がないので、「今年の抱負として歌のレッスンを受けようかと思っている」
と言ってみた。
そして、その翌日、HのパートナーTと一緒にアマチュア・コンサートに行ってその楽しさに浸り、
どうせ歌うならTと二人でこの合唱団に参加してみようということになったのだった。
なんと、この合唱団は、アマチュアながらこの美しいチャペルを練習場としているという贅沢さ。
そして、レパートリーにモーツアルトやヘンデルが多いということにも惹かれたのだった。
歌手のおっかけをしているからには、自分でも歌を勉強してもう少し深く理解したいという願いも
ある。

c0188818_7404511.jpg

                      合唱団と室内楽団


早速、来週の水曜日夜からの練習に参加してみることになった。
3か月の見習い期間を経て、お互いにウマが合うようならば正式団員になれるという条件である。
歌のレッスンも別に受けることも可能であるという。
午年の一年の計としてもなかなかにふさわしい習い事始めであろう。
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by didoregina | 2014-01-07 00:00 | 着物 | Comments(4)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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