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ハイ・ティーに目覚めて、シャトー・シント・ヘルラッハへ

なんだか唐突に、ハイ・ティーを極めたい、と思うようになった。
イギリスのアフタヌーン・ティーは、オランダではハイ・ティーと呼ばれる。多分、アメリカ的発想
で、ハイというのがなんとなくハイソなイメージを連想するので定着した名称なのだろう。
イギリス人やわたしが、いくら「正しくアヌタヌーン・ティーと呼ぼう」と提案しても無駄である。
もうオランダでは、ハイ・ティーというのが市民権を得ているのだから、反対するのはあきらめた。

ハイ・ティーで基本というか、はずせないクリテリアは、
1 お茶は数種類から選べ、ポットで飲み放題
2 きゅうりのサンドウィッチなど甘くないもの数種
3 スコーンにクロテッド・クリームとジャム
4 食べきれない量で多種の甘いもの
5 3段トレイに盛り付け
6 ちょっとすました雰囲気(できればお城)
7 テーブル・セッティング(美しい食器)
8 天気がよければお庭で(室内ならインテリアも重要)
9 値段は一人20ユーロ前後
10 上記以外での特色

上記クリテリアに基づいて採点した結果、ほぼ10点満点のハイ・ティーを先日体験した。
場所は、ファルケンブルク郊外にあるお城、シャトー・シント・ヘルラッハだ。

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      レストランとビストロのある本館(左)にくっついた形の教会(右)
      
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      その正面のフランス庭園は広くて、公園の趣。
      彫刻や像が点在するが、展示内容がよく変わる。

しかし、ハイ・ティーは、レストランでもビストロでも本館のテラスでもなく、ホテル客室のある
赤い別館のラウンジ・バーまたはサン・ルーム、またはその裏にあるハーブ・ガーデンを臨む
テラスで供される。

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      シャトー・シント・ヘルラッハの赤い別館の前で。

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      牧草地やうっそうとした丘を借景にエレガントなフランス式の
      キッチン・ガーデンが目の前にあるテラスからの眺めは抜群。

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      食用になるハーブやベリーや野菜や果物が植えられている。
      庭師さんたちが、新しいハーブを植えていたので訊いてみると、
      レストランで使われるので、有機栽培だそう。


そして、ハイ・ティーの内容は、満足という言葉では足りないくらいの充実度だった。
紅茶は、オランダだから予想通りティー・バッグだが、16種類から選べる。
お湯は足りなくなったらどんどん追加してくれる。

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      まず、サンドウィッチの大皿が来た。卵サラダのミニ・バゲットに
      きゅうりとチーズ、サーモンとルッコラのサンドウィッチが山盛り。

甘くないものから始めるのが正式で、サンドウィッチを食べ終わってから甘いものに移行する。
4人分の3段トレイの内容が凄すぎて、サンドウィッチは乗り切らないから、別皿でまず最初に
来たのだった。
ティーカップとソーサーはちょっと意外なモダンなデザインで、ティーポットはホテル用の偽銀器。

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      下段は、スコーン、ミニ・クロワッサン、ブリオッシュのラスク、
      クロテッド・クリームにレモン・カード。
      中段と上段は、果物のタルトレット、ブラウニー、ミニ・マフィン、
      ジェノア・ケーキ、ミニ・エクレア、果物のムース・タルト、チョコレート、
      アーモンドのガレットがそれぞれ人数分。
      ジャムは、イチゴ、ラズベリー、杏の3種。

さすがにサンドウィッチは残したし、ラスクまでは手が回らなかった。
これで、一人19ユーロ50セントというのは、安すぎるのではないだろうか。
12時半から、途中でお庭の散歩など入れて3時半まで、食べ、飲み、おしゃべりした。
まだまだ、ここのハイ・ティーは知られていないので、わたしたち4人以外のお客は2人連れ1組
だけだった。

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      途中で腹ごなしのため、ハーブ・ガーデンを散策。

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      奥に行くと、バラ園がある。気分は、ディアーヌ・ド・ポワティエだ。
      このテーブルと椅子の並べ方が結婚式っぽいな、と思ったら、やはり、
      白い薔薇の花びらが撒き散らされていた。

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        バラ園の一角には、つるバラのキャノピー。


ハイ・ティーの後、シャトーに隣接する教会を見学しようとしたら、お日柄もよろしいので結婚式の
最中だった。
案内のおばさんが「絶対に静かにしてるなら、後ろで見学してもよろしい」と特別に入れてくれた。
中に入ると丁度、花嫁・花婿がキスするところだった。

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         オランダでは珍しいバロックのフレスコ画も美しい教会。

ちょっとだけ見学のはずが、カトリックの式なので長くて、なかなかタイミングよく退出できない。
パイプオルガンの真下で式を見ていたら、ソプラノのキレイな歌が上から降り注いで聞こえてきた。
「リエージュ出身の作曲家フランクの『天使のパン』という曲よ」とバービーさんが教えてくれた。


  エリーナ・ガランチャがドレスデンで歌った。髪型もドレスも素敵だ。


追記:このブログ記事を読んだとしか思えない反応なのだが、シャトー・シント・ヘルラッハのハイ・
ティーは、8月からアフタヌーン・ティーと名称が変更された。
そして、値段も30ユーロに値上げ!(以前の内容に自家製ハーブ・カクテルが加わっただけ)
シャンペン付だと35ユーロ。ここの内容ならば、適正価格だ。
# by didoregina | 2011-07-04 17:14 | ハイ・ティー

洋装・和装兼用のカクテル・ハット『メルーラ』

モナコ大公とシャルレーヌ妃の結婚式のTV中継を見ていた。相当の暑さとおぼしく、参列者は
扇子代わりに式典プログラム・ブックをぱたぱた扇いだり、真っ赤な顔に噴出す汗を拭いたりして
タイヘンだ。夏の結婚式は、だから、昔から避けるべきだと言われてきたのだ。
女性の服装は、地中海岸という土地柄からリゾートっぽのあるフォーマルで、夏らしい帽子が
目に付いた。
一番ノーブルで素敵に見えたのは、シャルレーヌさんの母親だった。それから、小さな子供たち
が被っていた民族風の麦わら帽子が、かわいらしさ抜群。そして、式を司る司教の僧衣のオリーブ・
モチーフも土地柄を表した洒落たデザインだ。

結婚式に合わせたわけではないが、藤色のシルク・タフタで薔薇なのか芍薬か判らないような形に
なってしまったコサージュを作り、それがメインの飾りになる小型の帽子を作った。

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洋装にはもちろんだが、小型のカクテル・ハットなので、着物にも合わせられる。
秋のウィーン遠征(ご存知マレーナ様の『セルセ』観賞)には、この帽子をもとにして着物を
コーディネートしようかと思っている。

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       藤色のようなパープル濃淡2色のシルク・タフタでコサージュを作り、
       ミッドナイト・ブルーの小型帽子に留めた。帽子と同色・同素材の
       小さな薔薇とリボンを添えて、一段濃い目の色のトリミングとループ。
       全体の色をまとめるために藤色のチュールをふんわりと。

帽子の名前は、メルーラ(ラテン語でクロウタドリ)。
命名の理由は、北部ヨーロッパでは春から鳴く声をよく聞くし、姿も見かけるブラック・バード
(クロウタドリ)が、裏庭のブドウ棚に巣を作ったからだ。

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      雛鳥が大口を開けている巣に、親鳥がせっせと餌を
      運んでいたのに気兼ねして、6月中はブドウ棚の
      下が利用できなかった。

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      昨日、巣が空になっているのを子供が確認した。
      木の枝やプラスチックなどを利用してうまく出来た巣。

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      巣箱も設置してあるが、いつの間にか底が抜けてしまって
      使用不可能。かわいそうなことをした。

ブドウ棚の下は、自然の木陰が陽光を遮り、初夏から夏にかけてはブドウの実も小さくて邪魔に
ならず、食事やお茶や昼寝や読書にいいテラスだが、今年は、まだ一度も使っていない。

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      「朝顔につるべ取られてもらい水」の加賀千代女の心境になって一句。
      「ウタドリにひさしを貸して声ひそめ」(丸郷レイネ)


帽子の名前にもなったメルーラの曲もどうぞ。



リコーダーのアムステルダム・ルッキ・スターダスト・クアルテットによる、タルクィーニオ・メルーラ
作曲のLa Lusignuola(『夜啼き鳥』)
# by didoregina | 2011-07-02 22:25 | 帽子

シャトー・レストランでの〆はアイス・コーヒー

オペラ・コンサート・シーズンは、デュモーの『スタバ』で終わった。

様々なコンサートやオペラにご一緒してくれたK子さんが、ご主人の帰任に伴って
月末に帰国されることになり、バッコスの信女3人を含む熟女4人でお別れランチをした。
最後だからリキを入れて、一つ星レストランのシャトー・ネアカンネのテーブルを予約。

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         お城のテラスにあるブロンズ像のバッコスの噴水

アッシー君もいるし、ワインしこたま飲んだれ、とバッコスの信女は浮き足立った。
久しぶりに着物を着るチャンスでもある。しかし、当日は予想気温32度。有松絞りの
浴衣を着物風(半襟・足袋・名古屋帯をお太鼓結び)に着ることにしたが、着付けで
かなり汗をかき、顔は粉ふき芋状態になった。

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       黒に近い紺の絞り染め。帯は白の生紬に手描きの筍。
       夕食のセッティングがしてあるお城の中のテーブルで。

オランダで唯一の高台テラスがあるお城という長所を生かすべく、夏のランチのテーブルは、
テラスにしつらえてある。噴水の脇で大きなパラソルの下ではあるが、気温は34度にも
上ったので、めまいがしてくるほど暑い。扇子から手が離せない。

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       高台にあるお城の敷地はオランダとベルギーにまたがっている。

夏らしく軽い3コースのランチだったが、ワインは思ったほど飲めなかった。ランチなので
グラスで頼んだのだが、暑すぎて給仕の人があまり外に出てこなくて、追加注文ができな
かったためだ。前菜にマーストリヒトのフブ・ネックムの白(お城からほど遠からぬ農園で
作られている。マーストリヒト産ワインにしては酸味が強すぎず、フルーティでさわやか)、
メインにロゼを一杯ずつだった。

食事の後、普通ならコーヒー(または紅茶)になるところだが、暑すぎてとても温かい飲み物を
とる気がしない。「アイス・コーヒーなら」と言ってみたら、メートル・ド・テルはちょっと考えてから
「作ってみましょう」と言ってくれた。ヨーロッパ北部では日本風アイス・コーヒーは存在しないに
等しく、お目にかかることはまずない。スタバなどに行けば、置いてあるんだろうか。しかし、
オランダでは空港もしくは大都市の中央駅のフード・コートにしか、スタバは進出していない。
一般のカフェでは、アイスクリームがメインでコーヒーが下のほうにあるような、パフェに近いものを、
アイス・カフェなどど呼んで置いている場合もある。どんなものが出てくるんだろうか。

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       お砂糖が極少量入った、薫り高いコーヒーがアイスになって
       ワイングラスで出てきた。  
       さすが、と皆で喜び、喉を鳴らしてごくごくと飲んだ。
       氷は瞬く間に融けて、飲み終わる前に消えていた。
       これは、シャトーの夏場限定名物にしてもいいのではないだろうか。
# by didoregina | 2011-07-01 09:36 | 料理

デュモーの『スタバ』@コンセルトヘボウ

『スターバト・マーテル』が好きだ。ロッシーニでもヴェルディでもドヴォルザークでも
アレッサンドロ・スカルラッティでもヴィヴァルディでも誰の作曲によるものでもよろしい。
作曲家によって様々なアプローチを採っているが、生きる者(残された者)にのしかかる
悲しみという究極かつ普遍的テーマを音楽にしたものだ。
息子(キリスト)の死に接して慟哭の母(マリア)という、これ以上に身につまされる不条理な
状況はなかなか思い浮かべられない。受難曲よりももっとストレートに誰の胸にも迫る普遍的な
悲しみである。

声高には悲しみを表現しないが、思わず聴く者の頭を垂れさせ、そくそくたる思いを胸に溢れさす
という点で、ペルゴレージ作曲の『スタバ』に及ぶものはない。人類皆のための永劫の遺産と
言ってもいい。

今シーズン最後を飾るコンサートは、クリストフ・デュモーが歌うペルゴレージの『スターバト・
マーテル』だ。アムステルダムのコンセルトヘボウまで聴きに行った。

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2011年6月26日@concertgebouw
Vivaldi - De vier jaargetijden, op. 8
Pergolesi - Stabat mater

Musica Amphion
Amaryllis Dieltiens - sopraan
Christophe Dumaux - countertenor
Rosita Steenbeek - Spreker

前半プログラムは、ヴィヴァルディの『四季』。今シーズンなんと3度目の『四季』である。
この曲をプログラムに入れると、バロック・コンサートの敷居が低くなり集客が図れるかもしれないが、
あまりにベタであり、しかも感動的演奏に遭遇することはほとんどないから、かえってリスキーだ。

ムジカ・アンフィオンは、オランダ・バッハ協会や18世紀オケなどのバロック楽団の演奏家が
集まったアンサンブルで、メンツは揃っているのに、どうも演奏はさほど刺激的ではなかった。
『四季』は、聴衆皆の頭の中に理想の音もしくは聴きなれた音がそれぞれインプットされている
から、実演で唸らすのは、かなり難しいのだ。

バロック専門の呼び屋さんフレッド・ライテンは、いらぬサーヴィスに腐心する傾向がある。
まず、チケットをとにかくさばきたいからか、コンサートが近づくといろいろな口実を設けては
プロモーション価格で安売りする。それはまあいい。それでホールが満員の盛況になるのだから。
困るのは、例えば、前回のサラ様コンサートの場合のように、当初のプログラムを急に全く
変えてしまって、それをグレード・アップのサーヴィスだと思い込むことだ。
今回のいらぬサーヴィスは、『四季』の各楽章ごとに、ローマ在住の女流作家ロジータ・
ステーンベークによるオランダ語の説明と18世紀ヴェネツィア方言(イタリア語)のソネット朗読を
入れたことだ。

ローマ在住女流作家というと、日本人なら塩野七生を思い浮かべるが、オランダではロジータ・
ステーンベークだ。ただし、書いている作品の傾向は全く異なり、後者は大衆路線小説である。
その彼女が、まるでケルメス姐ばりのシルクのロング・ドレスを着て、髪には赤い薔薇の飾りをつけ
カルメンみたいに品のないスタイルで舞台に登場すると、唖然となった会場からは拍手が起きな
かった。それで彼女は舞台中央に立ち、拍手を強要するかのように両手を広げたのだった。

『四季』の音楽について、演奏前に言葉で解説するというのは、無駄な徒労だ。ブログラム・
ブックに書いておけばよろしい。
そして、「スタッカートが古風に響く18世紀のヴェネツィア方言のイタリア語」でオランダ人による
ソネット朗読には、ほとんど価値が見出せない。
それよりも、冒頭に語った彼女が住むローマの住居(8世紀の教会に隣接し、教会でよく催される
バロック・コンサートの音楽や練習の音が漏れ聞こえ、テラスからはバロックのローマの建物が見え
て、臨場感抜群とか)での日常的音楽の話がよっぽど面白かった。

『四季』演奏の方は、可もなく不可もなく、印象に残るものではなかった。
ヴァイオリン・ソリストが、エキセントリックだったり、個性的オーラを発したり、ケレンミがあるとか
でないと現代人は納得できない。だからこの曲はリスキーで難しいのだ。

しかし、メインは後半の『スターバト・マーテル』だから、いいのだ。

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       プログラム・ブックに載っているこのプロフィール写真は、
       スケボー少年だった彼の背景はわかっても、歌手である彼の
       イメージとは異なるから、事務所も招聘元も、マーケティングを
       もう少し真剣に考えるべし。

クリストフ・デュモーがタイトル・ロールの『ジュリオ・チェザーレ』を見逃したので、リヴェンジの意味
でこのコンサートに臨んだ。
そして、それは期待以上に素晴らしいものだったのだ。

コンセルトヘボウでは、指揮者やソリストは、大概向かって右のコーラス席上方から階段を下りて
舞台に登場する。
ソプラノの女性をレディー・ファーストで先に進ませると、男性は後になるから、ステージでの立ち
位置は向かって右になるのでは、という予想が当たり、デュモー選手はわたしのほぼ正面に来た。
ステージ衣装は、グレーのスーツにブルー・グレーの開襟シャツで、ちょっとその組み合わせが
伊達とか粋を通り越して、ヤバ筋っぽい感じの着こなしになっていた。
脚が細いから、ズボンがだぼっとして見えるためもある。しかし、小顔で9頭身くらいはあり、
背も高く、立ち姿はモデルのようだ。しかし、神経質そうな顔はこわばって、かなり緊張している
ように見うけられた。

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         このスーツに、ワイシャツはブルー・グレー。
         丁度1年前はスキンヘッドだったが、今は
         これよりちょっとだけ短いくらいの髪。

はっきり言って、ソプラノ歌手の衣装は全く覚えていない。デュモー選手に目が釘付けになって
いたからだ。そして、後ろに控える器楽演奏家達も全く視界に入らなくなった。目の焦点が
デュモーに一点集中していた。
音楽もしかりである。伴奏はあってなきが如し。耳に入ってこない。デュモーの声にだけ耳を
そばだてていたからである。
そうやって聴いてみると、この曲はアルトが活躍するアルトのための曲であることがよくわかる。

デュモーは、ソロの部分では自由自在に強弱をつけ、感情移入させる。そして、デュエットでは
でしゃばらずにソプラノに華を持たせる。そのアンサンブルのバランス感覚が素晴らしく、かえって
奥ゆかしさが光るのだった。
きっちりとした発声とヴォイス・トレーニンブを積んだことがよく判るような、音程的に安定した堂々
たる歌唱に声量のコントロールもびしっと決まっている。CTにありがちな不安定さがない。
体力・筋力維持にも力を注いでいる結果だろう、声が筋肉質で、全く弛緩していない。しかも、
パワーを表に出すのではなく、美に変換しているのだった。

こういう歌声に接する無上の幸福感に浸りつつ、同時にえも言われぬ無常を味わう。ああ、時よ
過ぎ去るな、終わって欲しくない、もっともっと聴いていたい、と願うばかりだ。
『四季』なしで、スカルラッティの『スタバ』を組み合わせたらよかったのに。それだと集客が
難しいのだろうか。
わたしにとって、この日の『スタバ』は、ペルゴレージではなく、デュモーの『スタバ』であった。
 
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        コンヘボでは写真撮影厳禁なので、雰囲気からして怖くて
        カーテンコール写真も撮れない。写真は、だから、全て
        よそからのかき集め。

来シーズンもデュモー選手は、コンヘボに来て歌ってくれる。ヴィヴァルディとヘンデルの聖歌で
ある。オペラでの予定は、秋からの『リナルド』(グラインドボーン・オン・トゥアー)と2012年に
ザルツブルク・フェスティヴァルに出演決定とのこと。行けないだろうが、演目と役が気になる。
  
# by didoregina | 2011-06-29 11:04 | コンサート

アントン・コービン(コルバイン)の写真展@foam

アムステルダムの写真ギャラリーfoam(Keizersgracht 609)で6月24日から9月1日まで
アントン・コービン(Anton Corbijn オランダ人なのでオランダ語読みだとコルバイン)の
写真展が開催中だ。

アントン・コービン(コルバイン)の写真展@foam_c0188818_22292641.jpg


Inwards and Onwardsと題した展覧会は、ミュージシャン、アーティストなど著名人の
2000年以降の比較的新作のポートレイトを集めたものだ。
26日(日)にコンセルトヘボウでのコンサートを組み合わせて見に行った。かなり盛況だった。

アントン・コービン(コルバイン)の写真展@foam_c0188818_23215581.jpg

        foamはアンネの家ほどの小さな建物


全て白黒の、サイズも同じ正方形(約60センチ四方)の写真が幅8センチほどの黒縁の額に
入れられて、整然と展示されているのだが、その集め方と順番や位置の構成に唸ってしまう。

まず、最初の部屋で目に飛び込んできたのは、ネルソン・マンデーラだ。彼の顔は逆光で
しかも皺だらけだし、焦点が当てられていない。背後からの光と白髪が白っぽくぼやけた
感じなのに、着ているシャツの賑やかなアフリカン・バティックの模様は、コントラストも
はっきりくっきりと、そちらに焦点を合わせているのだ。まずアフリカ、そしてそれがあって
のマンデーラという順位がここでははっきりしている。

同じ部屋に、パティ・スミス。何十年も年を取らないようなおなじみのオーラを放つ彼女の
表情は、手と髪の躍動の瞬間を捉えているのに対して、時を越えて静止している。
背景には何もなく、白い空間に黒髪が踊る。反り返って横向きの顔に髪が邪魔して目は見え
ないが、一目見てすぐにパティ・スミスとわかる、圧倒的な存在感。

そのほぼ正面が、ブルース・スプリングスティーン。額から鼻先まで白い筋の入った黒毛の
馬とその横に立つスプリングスティーンの顔にも光が縦に当たって同じような筋に見える。
じっくり見ないとスプリングスティーンなのか誰なのかわからない。

ニューヨークのセントラル・パークなのか、森の中に、四足のケモノのような人物が小さく
写っている。
イギー・ポップという説明板がないと誰なのか不明だが、それを読めば誰でも納得する写真だ。

マンデーラの反対側の壁には、トム・ウェイツ。これも皺の深い顔にタバコの煙がかかり、
渋さ満点。かっこよさも満点。

(そのほかにもポートレイト写真は沢山壁に掛かっているのだが、印象に残ったものだけを
紹介している。)

次の部屋では、アレクサンダー・マックィーンが印象的だ。

アントン・コービン(コルバイン)の写真展@foam_c0188818_22581242.jpg

        展覧会のポスターにもなっている。
        目の下まで黒いトックリ・セーターの襟を伸ばして、覆面のよう。
        背後には、コレクション用のイメージ資料ピンナップが沢山あり、
        アーティストの仕事場の雰囲気がポートレイトらしい。


彼の左には、女装したミック・ジャガー。
右には、キャット・ウーマンのようなマスクをしたケイト・モス。
この3点の並べ方にストーリーが感じられ、秀逸。

その次の部屋は、現代美術アーティストが多い。

オランダのカレル・アップルの隣にはドアを挟んでアンセルモ・キーファー。
全く異なるタイプのポートレイトだが、どちらも仕事場もしくはアーティストの作品の雰囲
気を漂わせるセッティング。
年齢的に近い現代美術アーティストを同じ壁面に集めたようで、その中でも巨匠の貫禄十分
なのはルシアン・フロイドである。画面で横顔と同じくらいの面積を占めているのは、手に
した3本の絵筆が、多作の作家にふさわしいアクセサリーというかアイコンだ。

その向かいには、やはりイギリス人のデミアン・ハースト。白い顔に目と鼻は真っ黒で、
髑髏のよう。説明版なしでは誰だか絶対にわからないポートレイトの典型だ。

一番びっくりしたのは、ピーター・ドイグとマルレーネ・デュマスが並んでいたことだ。

ナイーブでセンシティブな感じのドイグは、トリニダードのアトリエで製作途中の絵の前に
立っている。等身大の横たわった女性の絵が目を引く。
ドイグはうつむき加減で考え込んでいるような表情だが、絵の具で汚れたジーンズや靴が、
芸術家というよりまるでペンキ職人みたいな印象だ。


アントン・コービン(コルバイン)の写真展@foam_c0188818_23104291.jpg

       迫力とかっこよさでダントツなのは、2000年のマルレーネ・デュマス。
       まるで女優。
       まだ(比較的)若かったデュマスはこの写真をあまりお気に
       召さなかったそうだが、年とともに好きになっていったそうだ。


8月一杯までやっているので、アムステルダムにこの夏行かれる方は、必見の展覧会だ。
入場料金は8ユーロだが、ミュージアム・カード所有者はタダ。お持ちの方はぜひとも。

アントン・コービン(コルバイン)の写真展@foam_c0188818_23192797.jpg

       美術館ではカフェに寄るのがお約束。ティーバッグだがお茶は美味。
       Mr.Jonesのオーガニック・ティー、種類様々。
# by didoregina | 2011-06-27 16:24 | 美術


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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