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Blancanieves ケレンミとスタイルのよさで魅せる無声映画

この夏一番私が期待していた映画で、ヴァカンスから帰ったら即見に行こうと思っていた。
ところが案に反して、リュミエールでは、毎晩9時からという結構遅い上映のため行きにくかった。
映画を見るのは、水曜の午後と月曜の夜7時の部専門である。もたもたしているうちに、とうとう
昨日が最終日になってしまった。平日の遅い時間だが、長男が帰省しているのを幸い、いっしょに
見に行った。
ぎりぎりセーフだったが、これを見逃していたら一生の不覚となっただろう。

c0188818_17255159.jpgブランカニーヴス
監督 Pablo Berger
制作 Ibon Cormenzana  Jerome Vidal  Pablo Berger
脚本 Pablo Berger
出演
Maribel Verdú (Encarna)
Daniel Giménez Cacho (Antonio Villalta)
Pere Ponce (Genaro Bilbao)
Angela Molina (Dona Concha)
Macarena García (Carmen)
Sofía Oria (Carmencita)
撮影 Kiko de la Rica
編集 Fernando Franco
美術 Alain Bainée
音楽 Alfonso de Vilallonga

2012年 スペイン、フランス




邦題『ブランカニーヴス』として2013年12月に日本での上映も決まったようで、ご同慶。

何はともあれ、写真の数々をご覧になっていただきたい。とにかくかっこいいの一言に尽きる。

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               マレーナ様を日焼けさせて黒くした感じの闘牛士白雪姫


グリム童話の「白雪姫」を、1910年代のスペインに舞台を移して、白雪姫は女性マタドール、
7人ならぬ6人の小人は旅芸人という設定である。
その設定と写真にそそられたのだが、実際に見る映画にはもっともっと意外性が盛り込まれ、
ショットもカットも音楽も決まりすぎるほど決まってケレンミが心地よく、唖然、そして陶酔した。

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                  美しいスティールの継母エンカルナ。このキャラが凄すぎ。


白雪姫ことカルメンシータの一生を、彼女の出生前から始まって、不憫な子供時代を経て
闘牛士となって終わるまでじっくりと見せ語るので、話は長くなる。
闘牛士の父親とフラメンコ歌手の母との間に生まれるのだが、父は闘牛事故で手足が麻痺、
母はショックから産褥の床で亡くなる。
愛する妻の死がトラウマとなって白雪姫を愛せない父親は入院先の看護婦(いかにも邪悪そう)と
再婚し、白雪姫は祖母によって育てられ、父と子はほとんど全く親子の交流がない。

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                  初聖体拝領式にも父は現れないが、祖母とフラメンコ。


祖母が亡くなると、父の元に引き取られるが、そこはサディスティックな継母の支配する邪悪の
館であった。
髪を短く切られたカルメンシータは、下女として洗濯や台所仕事の下働きをさせられ、寝起きは
鳥小屋。二階には上がらないようにと固く言いつけられる。
二階の部屋で繰り広げられる継母のSMプレイが笑いを誘う。豪壮な館でのシーンの数々は
ブニュエルの『小間使いの日記』や『昼顔』、ベルイマンの『野いちご』や『ファニーとアレクサンデル』
そしてヒッチコックの『レベッカ』などを思い起こさせる。

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                      マジでサドの継母


『白雪姫』は、世界中の誰でも知っている物語であるから、次なる展開がどうなるかはわかっているの
だが、時代と場所と設定を読み替え、白黒画面のくっきりした小気味よくスタイリッシュなこの映画では、
全く別の物語のように思え、初めて聞く子供のようにワクワクしつつ、お、そうきたか、と意外なカウンター
パンチを食らう楽しみを味わえる。
衣装やセットやカットが細部まで凝っていて、いかにもスペイン的センスのよさで唸らされるのに、
無声映画の伝統も踏まえて笑いも取れるようになっている。しかし、それがクサくなく、ベタでなく、
ヨーロッパ映画らしい美の世界としてまとまっていて、ハリウッド的能天気さ全開で世界中(特に
アメリカ)で大受けし、アカデミー賞も取った無声映画『アーチスト』とは正反対の趣味のよさである。
現代のオペラ演出に通じるものもあり、いうなれば、ヘアハイムやチェルニャコフのように自己完結した
独自の世界を創り上げているのだ。そういえば、映画の冒頭ではオーケストラのチューニングの音
がしてカーテンが開く映像から始まったから、オペラ舞台を意識しているのだろうと思える。

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カルメンシータは旅芸人の小人一座に助けられる。

小人たちが登場してから話は明るくなっていきそうなのだが、明るくコミカルなだけでなく、白雪姫が
加わってから彼らの間に妬みやシリアスな純愛感情も混じり、映画に陰影と深みを与えている。

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                 白雪姫を見つめる小人の一人の視線が重要な伏線。


白雪姫を森で助け出した小人の青年が彼女に向けるとろけるような視線が気になった。

彼の視線とキスが、この映画の中で重要な伏線となっていて、お伽話のハッピーエンドとは異なるが、
ラストに複雑な後味を残すことになる。彼が白雪姫を救い守る王子様なのだ。

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by didoregina | 2013-08-28 12:05 | 映画 | Comments(4)

ストロンボリ島とサリーナ島   チレント海岸とエオリア諸島をセイリング  その5

ストロンボリ島北側の湾に投錨してから、フロティッラ参加者全員で島の中腹、大きな教会の
向かいにあるピッツェリッアに夕食に出かけることになった。

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岸まで遠いのに、ディンギーボートの空気が足りなかったり、船外機が上手く作動しなかったりして、
なかなか行きつけない。

フロティッラ・リーダーによると、エオリア諸島で一番美味しいピザが食べられると評判の店らしい。
確かに、最初の2口3口までは、「おお、本当に美味しい!」と思ったのだが、とにかくでかい
ので、だんだん飽きてくる。ピザ台の組成は、よく伸びるチューイーな感じで、薄いのにモチモチして
いるのが新鮮な食感で悪くないのだが。ちょっと焼きが足りないのが問題だったのかもしれない。


投錨した島の北側からは、手前の山が火口よりも高いため、活火山のストロンボリが火を噴く活動が
見えない。
それで、真夜中、リーダーが、彼のヨットにフロティッラ参加者全員を乗せて島の西南側まで行って
噴火見物するというサーヴィスをしてくれた。オランダでヨット・スクールを経営するヴェテラン・スキッ
パーのRが今回のリーダーなので、深夜の航行も大船に乗った気分だ。
リーダー船は、フロティッラ期間は客を乗せずに彼と奥さん2人だけなのに、52フィートもある。
「この晩の私達のために、52フィートのヨットにしたのね」と思わず口走ったが、実際、16人乗っても
コックピットは余裕のスペースだ。ヨットは、花火見物の屋形船のような観光船と化した。

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                    翌朝、島の西南側に回ると、噴煙を上げる火山が見えた。

夜空を焦がすように、ストロンボリ火山が数分に一度、間欠的に赤い炎を上げて噴火しているのが
よく見え、皆、歓声を上げた。
昼間だと、明るすぎて炎は見えず噴煙が上がっているのしかわからないし、夜中だと暗くて赤い炎の
写真撮影は難しい。
これは実際に見ないと、そのすごさが実感できないものだ。

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                    噴出した溶岩が、須走のような斜面を海まで落ちてくる。


しかも、その晩は、流れ星がとても多く、4,5回の噴火の合間や噴火と同時に同じ回数の流れ星が
火山の傍に眺められた。
この組み合わせは、なかなかめったに経験できないのではないだろうか。
「Rのサーヴィスはすごいね。舵の下に火山噴火スイッチと流れ星スイッチが付いてるんでしょ」という
感想が飛び出すほどだった。

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                     間欠的に噴火するストロンボリ


前夜は睡眠不足で早朝出航、そして12時間の航行のあと真夜中の火山見学で、クタクタになった。

その翌朝は、エオリア諸島のサリーナ島を目指すことになった。前日と比べたら短い距離である。

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                     ヨットの後ろにストロンボリ島が見える。

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                     島の南側斜面にも家が建っているのにびっくり。
                     噴火した溶岩がすぐ近くを流れ落ちてるのに。


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                      エオリア諸島は、大小7つの島からなる。(岩のような
                      島は含まない。) そのうち5つの島に行った。

サリーナ島というと、映画『イル・ポスティーノ』の舞台になったので、今回、上陸することを心待ちに
していた。

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                      どんな島だろうか、ワクワク。

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                      サリーナ島でも、港の外の湾に投錨。

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                       上陸するため、ディンギーをヨットから海に下ろす。

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                       買い出しのため、3人でディンギーに乗りこむ。

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                       サリーナ島の港に向かう。


ストロンボリ島でも思ったのだが、平らな屋根の家の作りと白く塗られた壁とで、とてもギリシア的
印象を与えるのが、ここサリーナ島だ。
ポンペイでもすでにギリシアの残り香を感じたのだが、シチリアに近いエオリア諸島に来ると、それが
より一層顕著に感じられるのだった。
サリーナ島で見かけた別荘案内は、イタリア語・英語・ギリシア語で書いてあった。

島は、メインストリートを歩いただけだが、こぎれいでお洒落なお店が多い。今までチレント海岸の
町々で目にしたような、いわゆる海水浴場的土産物屋ではなく、こじゃれたブティックやギャラリー
みたいな店が目につく。いかにもちょっと高級っぽく、ヴァカンス客用に夏だけ開いてるような感じ。
でも、我が家のメンバーは、そういうのには興味がなく、それよりも庶民的で下町の生活の匂いが
ふんぷんのオーセンティックな町の方が好きだから、「ふ~ん」と冷たく眺めるだけだった。
映画『イル・ポスティーノ』の面影の片りんも見つけられなかった。
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by didoregina | 2013-08-27 14:20 | セイリング | Comments(2)

ストロンボリ島をひたすら目指す   チレント海岸とエオリア諸島をセイリング  その4

最初の一週間はサレルノの南にあるチレント海岸の沿岸セイリングで、一日の距離も15から20海里
ほど。毎日、小さな町の港に係留したり入江に投錨したりしていた。
だから、いつも、↓のような静かな陸地風景が視界に入っていた。

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そこから、今度は、70海里(約130キロメートル)進んで、一気にエオリア諸島のストロンボリ島を
目指すことになった。
地図でいうと、左下部分ナポリのNの字辺りをウロウロとしていた一週間から、今度はシチリア島の
北にあるエオリア諸島に行くわけだから、風景は全く一変する。

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70海里を12時間かけて行く。そのため、朝6時の出航となり、日の出前から準備を始めた。

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         5時起床、5時45分に出航。日の出前の風景。

毎時6マイルの速度をキープすれば12時間でストロンボリ島に着くというのが、フロティッラ・リーダー
の立てたプランであった。
しかし、われらのサローナ37は、レース向け仕様のためエンジン出力が小さい。
ヤンマー・ディーゼル製で、32馬力しかないので、最高速度でも6ノットにはならない。前日にトライして
みたところ、どう頑張っても5.6から5.8ノットである。風が上手く吹いてくれたら、セイルを使った帆走と
エンジンを使った機走の併用で6ノットは出せるだろう、と一応楽観した。

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                  出発後間もなく、日が昇った。

今日は、今までの沿岸セイリングとは異なって、大海に乗り出すのだ。だから本当に船団を組んで
ほとんど横一列となって進むことになった。

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12時間ノンストップというと、日本からヨーロッパへの飛行便と同じ時間をかけてセイリングするわけだ。
北海や、ドーヴァー海峡や、イギリス南海岸では一日10時間を越えるセイリングは経験済みだが、
地中海では初めての体験になる。
最初の6時間は、あっと言う間だった。

しかし、いくら帆走と機走の併用をしても、他のヨットからはどんどん遅れをとってしまう、われらの
シモーナ号であった。キャパが足りないのだから、じたばたしても仕方ない。

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他の3隻との距離はどんどん開いていく。。。


早朝に出帆し、ひたすら沖を行き南を目指すと間もなく、周り360度に陸地が見えなくなり、
大海原にも他の帆影は全く見えない。
これが、波が荒くて雲が低くてどんよりした灰色の北海だと気が重くなるのだが、地中海だと、
波もほとんどなく、群青色の海と薄いヴェールのかかったような明るい空で、全く不安を感じない。
風の音だけの静謐の青の世界を心からエンジョイできるのだ。


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                   半分くらい航行したところで、遠くにストロンボリ島の姿が。

しかし、それからが長かった。
富士山の頂上は見えているのになかなか辿りつけない、というのと同じ原理である。
海から屹立する火山島のストロンボリの姿はくっきりと真正面に見え、そこを目指して進むのだが、
島影はなかなか近づいてこない。午後からのセイリングは、とても長く感じられるのだった。

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         目の前に見えてる。しかし、まだあと3時間くらいかかりそうだ。。。


ストロンボリ島北側の広い湾に到着し、投錨し終わったのは、出航後12時間半過ぎてからだった。

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投錨した湾は広く、他のヨットとの距離は十分取れるが、村のある岸までは遠い。
広い海原にほとんど全く行きかう船を見ることのなかった12時間のセイリングを終えると、疲労感と
ともに達成感も湧く。しかし、結構リラックスできるのが、地中海のうれしいところだ。
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by didoregina | 2013-08-26 16:45 | セイリング | Comments(0)

安眠湾で眠れない   チレント海岸とエオリア諸島をセイリング  その3  

チレント海岸では、静かなBaia di Bon Dormina (安眠湾)と Efresci の入り江に投錨し、
安眠をむさぼるはずであった。

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              静かなチレント海岸を海から眺める。


安眠湾には、ムーリングやアンカー・ブイの設備がないため、夜の間に強風になった場合に備えて
安定性がよいよう、フロティッラ参加の4艇が横にくっついてのアンカリングになった。
つまり、最初に投錨したヨットの横に並んで各ヨットがそれぞれ投錨した後、ロープで互いを固定
しあうというわけである。

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横並びに投錨してヨット同士をロープで固定。


しかし、この案は、安眠には適さないのであった。
アンカーだけで海底に固定されているヨットは、風と波にあおられて、ゆらゆらと動く。
横からの波を受けたヨットの揺れは、普通に投錨しただけだったりムーリングで固定した場合は、
ゆりかごのように快適なリズミカルな揺れ方で、心地よい眠りに誘い気持ちよく眠れるものだ。
しかし、互いを結んだピンと張ったロープのせいで、揺れが中途半端というか、ドシン、ドン、ドン、
ドッカンという4拍子の最初と最期に強いアクセント置かれたような不規則かつ不快な揺れとなり、
しかもロープのこすれる音が混じって、眠りを妨げるのだった。
安眠湾という名前なのに、まことに残念なことだ。

また、別の入江エフレスキ湾に投錨した時にも、他の理由で安眠が得られなかった。
しかし、これは自業自得、身から出た錆なのであった。

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                   エフレスキ湾からの眺め

ここの入り江には、外からは見えない奥まったところに小さな浜があって、そこに海賊の隠れ家
風のレストランがある。

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                   海賊レストランから、モーターボートの迎えが来た。


入江には、レストランが設置したアンカー・ブイがあり、レストラン利用と抱き合わせで使用できる。
それで、フロティッラ全員で海賊レストランまで食事に出かけた。

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自分のディンギーで行かないで済む、いいサーヴィス。

入り江の奥の小さな浜にはレストランが一軒。頭上は断崖で陸路はなく、海からしか辿りつけない。

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なかなか、風情があって面白い。出される料理もその日仕入れた材料でできるものだけで、
当日はムール貝が大量に供された。

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             ムール貝の前菜のあと、選べるパスタはムール貝かシーフードのみ。
             シーフード・パスタを選ぶと、ガンバやボンゴレやイカも入ってはいるが、
             ムール貝が大半の内容だった。今日は、ムール貝の大漁で、きっと、
             デザートもムール貝だね、と皆で言い合った。


大人8人で、ワインを9本は飲んだ。一人一本以上の勘定だ。
これでは、自分でディンギーを操縦してヨットに戻るのは危険だから、送迎サーヴィスはありがたい。

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                 食後にはお決まりのリモンチェッロ。どかんとマグナム瓶で出た。
                 リコリス味のリキュールも飲んだ。


皆でほろ酔い加減になって盛り上がった晩であったが、ほろ酔いと思っていたのは当人だけで、
わたしは、なんと、レストランの桟橋からディンギーに移るとき、海に落ちてしまったのだった。
リモンチェッロのアルコール度は28度あって侮れないのだが、甘くて冷え冷えのは口当たりが
よいため、予想外に沢山飲めてしまう。

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ザンブリと足から頭まで水に嵌ったわたしを、次男が引き上げてくれたが、わたしと運命を共にした
ソニー・サイバーショットは、海水が入っておシャカ。上の写真が最後となったのである。
着ていた服を干して、濡れた水着のままベッドに横たわったのだが、翌日は5時起床6時出発のため、
寝たと思ったらすぐに太陽の上る前に起きることになり、ここでも安眠が得られないのだった。
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by didoregina | 2013-08-24 19:12 | セイリング | Comments(2)

ザルツブルクの『ドン・カルロ』の衣装デザイン

ザルツブルク音楽祭の『ドン・カルロ』をArteによるTV中継で観た。
休憩も含めて5時間以上の超長尺ヴァージョンだったので、肝心なところでウツラウツラ
してしまい、オペラをしっかり鑑賞したとは言えないので、視覚的に印象に残ったコス
チュームに関して書き留めたい。

舞台装置・デコールが非常に簡素で重厚さに欠け、デザイン的にもイマイチ練りとひねりが
足りないのは少々残念だったが、衣装デザインは素晴らしく練られて、歴史的スタイルを
換骨奪胎しながら、舞台映えもして機能的になっている点を評価したい。
衣装デザイン担当は、Annamaria Heinreich。

以下、ザルツブルク音楽祭サイトの写真と、デザイン・モデルにしたであろう肖像画とを
見比べてみよう。


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© Monika Rittershaus

まず、フォンテーヌブローの場での衣装には、かなりがっかりさせられた。
毛皮の付いた外套を羽織ったこの二人の写真だけ見たら、ドン・カルロとエリザベッタだとは
到底思えない。ロシアかどこか東欧風の色使いのドレスに毛皮である。しかも、ダサいと
しか言いようのない帽子。エリザベッタはフランス王の息女で、母親はメディチ家出身である。
当時最新のモードを着こなして当然のプリンセスなのに、田舎っぽすぎる。

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    エリザベート・ド・ヴァロワ(1560年) Antonis Mor画 Varez Fisa Collection

スペイン王に嫁いだフランス王女ともなれば、↑のような豪奢さを見せつけて当然。
もしかしたら、オペラの衣装デザイン担当のハインライヒ女史は、この絵からインスピレー
ションを得て、舞台用に簡素化したのかとも思われるのだが、色づかいが安っぽい。


また、ドン・カルロの舞台衣装として定番化しているのが、提灯ブルマーとびらびらフリルの
襟元だが、今回の衣装デザインでは、そのどちらも採用されなかった。衣装デザイナーの画期
的決断とも言えよう。

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      ドン・カルロス(1557~1559年頃) Sanchez Coello画 プラド美術館

この絵に描かれたドン・カルロスは、エリザベート・ド・ヴァロワとフェリペ2世が結婚した
頃で少年の趣が残る。 だから、提灯ブルマーも似合っている。
しかし、舞台上では動きにくく暑いという欠点があるため、今回の舞台衣装に提灯ブルマーは
採用されなかった。
そして同時に、フリルの襟元も不採用。これも、機能性重視のためだろうか。それとも、
スリムなズボンとブーツというスタイルに合わせてのデザイン上のマッチングのためか。

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© Monika Rittershaus

フリルなしで、普通のワイシャツみたいな打ち合わせのブラウスを下に着ているのが、やはり
デザイン的にイマイチ好みではなかったのだが、舞台が暑いのか、熱演・熱唱のため暑くなる
のか、それともファン・サーヴィスのためか、ブラウスの襟元を開けて胸元近くまで見せる
ことが結構多いカウフマンであった。

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   © Monika Rittershaus      現代的で動きやすそうな衣装

                         
また、彼のキュートなクルクル巻き毛の魅力を生かすためか、羽根飾りや宝石の付いた帽子も
なし。

ところが、ハンプソン演じるロドリーゴは肖像画のドン・カルロスそっくりな素敵な帽子を
被っていて、それがまたよく似合うのだった。

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  © Monika Rittershaus           ロドリーゴの帽子が素敵!


この写真のフェリポの衣装は、フェリペ2世の肖像画そっくりである。間違い探ししても
違いが見つけにくいほど、考証がしっかりしている。帽子や上着の質感、首から下げた
金羊毛騎士団のメダルに至るまで、下の絵から抜き出てきたかのよう。

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       フェリペ2世(1565年) Sofonisba Anguissola画 プラド美術館収蔵

この肖像画を描いたソフォニスバ・アングィッソラというイタリア人女流画家は、スペイン
宮廷ではエリザベート王妃の女官として仕えかつ王妃に絵を教えていた人だという。
彼女の描いたエリザベートの肖像画も美しい。

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    エリザベート・ド・ヴァロワ(1561~1565年ごろ) Sofonisba Anguissola画
            プラド美術館

この絵の黒いローブに縦に入っている刺繍模様が、オペラの舞台衣装デザインに取り入れら
れている。

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                               © Monika Rittershaus

黒地に白の刺繍模様が、ここではローブ全体のモチーフになっている。
アニア・ハルテロスは、すらりと長身で顔立ちも細面でノーブルで、全体的に王妃にふさわ
しい気品が漂うから、どんなドレスでも似合う。デザイナーにとって理想的というかデザイン
のし甲斐・着せ甲斐のある歌手だろう。

今回のドン・カルロ掟破りとしては、エボリ公女のアイ・パッチなし、というのもある。
アイ・パッチ、びらびらレースの襟、提灯ブルマーなどは、アイコン化していると同時にクリ
シェと化してもいるから、それらを排してオリジナリティを出しているのは好ましいが、
わたしの好みとしては、エボリのアイ・パッチは捨てがたい。

その代り、と言ってはなんだが、ヴェールが上手く使われていた。エボリとエリザベッタの
ヴェールのみならず、ムーア風テーマの音楽に乗って、中庭で女官たちがアラビア風ヴェー
ルを顔に巻くシーンは美しい。

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                              © Monika Rittershaus

スペインの宮廷では、黒のドレスが当時のモードだったから、皆、黒いドレス姿なのだ。
襟が詰まっていず胸元が開きすぎという感じだが、ドレスのウエストはV字カットの切り替え
があり、考証が生かされているデザイン。

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       エリザベート・ド・ヴァロワ(1605年) Juan Pantoja dela Cruz画
                プラド美術館

上の肖像画が描かれた時点では、エリザベート王妃は亡くなっているから、多分1565年にアングィッソラ
が描いた肖像画をもとにした絵であろうと推測されるもの。
ドレス自体は黒で比較的シンプルだが、宝石類を使った飾りがさすが王妃の貫禄である。
当時のスペイン王ともなれば世界一の資産家・長者であり、その王妃のお召し物であるのだから、
贅沢で高価かつゴージャスなのは当然だし、誇示して威光を見せつけている。

最期に、悲劇の王子ドン・カルロスの肖像画を掲げたい。
王妃エリザベートと義理の息子ドン・カルロスは、奇しくも同じ年の1568年に亡くなっている。
昨年末、プラドやエル・エスコリアルで見たドン・カルロスの肖像画には、金羊毛騎士団の
メダルをつけたものが見あたらず不憫に思ったのだが、神聖ローマ皇帝マキシミリアン2世の
命によってウィーンに届けられたドン・カルロスの肖像画には、ハプスブルクの家系らしく
金羊毛メダルが描かれている。

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スペイン王子ドン・カルロス(1564年頃) Alfonso Sanchez Coello画
                ウィーン美術史美術館
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by didoregina | 2013-08-21 12:12 | オペラ映像 | Comments(5)

シレンツィオなチレント  チレント海岸とエオリア諸島をセイリング その2

サレルノから南の海岸は、コスタ・チレントと呼ばれる。
北に向かえば、天下の景勝地として有名なアマルフィ海岸がある。
2週間のセイリングだから、普通だったらカプリとか、ポジターノとかにも足を伸ばすだろう。
しかし、われらのフロティッラは、そういう有名どころは全く無視してひたすら南を目指すのだった。

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最初の一週間は、チレント海岸の小さな町アグロポリ、アッチャロリ、カメロータの港への係留と、
静かな入江での投錨とが、ほぼ一日おきだった。
港では水や燃料・食糧の補給ができるし必要なのだが、町も続くと飽きてくる。
俗塵や浮世から離れ自然に抱かれた澄んだ入江の方にずっと惹かれる。

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                 アグロポリかアッチャロリ。
                 海から眺める町は、どこも似ている。

アマルフィをうっちゃってチレント海岸までやってくる観光客は少ない。セイリングする物好きとなると
もっと少数派だ。
今回2週間ワンウェイのフロティッラに参加したヨットはなんと3隻。リーダー船を含めても4隻という
非常に小さな船団だ。
立ち寄った港自体、どこも小さくて、ヨットの数は非常に少ない。

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  アッチャロリの港。ヨットも漁船もモーターボートもフェリーも仲良く一つの埠頭に停泊。


港や町の規模が小さいのは、過疎の南イタリアだから想像がついた。
しかし、驚いたのは、海に出ると、一日航行しても帆影がほとんど見えないことだ。
たま~に、漁船に出会うくらいで、水平線に及ぶまで、わたしたちのフロティッラ3隻以外のヨットの
姿が見えないのだ。

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                岸壁に泡だつ白波が、遠くからは船のように見えたのだが。


ここは、チレント海岸ならぬシレンツィオ海岸と呼ぶべきではあるまいか。
それで、思わず頭に浮かんだのは、バロックのナポリ古謡Silenzio d'amuriだ。
映画Tous les Soleils のサントラとして使われたのが印象に残る、ラルペッジャータの演奏と
マルコ・ビーズリーの歌。
↓は、映画のラスト・シーン




海から眺める海岸線は、峰と沢が規則正しく並ぶ山が水辺まで迫って、レモンや果樹が植わっている
ようで緑が濃い。非常に日本的というか、懐かしさを覚える風景である。

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                荒波に洗われる外側から、波静かな入江の内側に入る。

群青色の水の濃さから、水深の深いことがわかる。岸からちょっと離れればすぐに100メートルを
越える。
チャーターしたヨットは、キールの水深が2メートル10センチで、外海航行には適している。だが、
深めだから、港や浅瀬には注意しないといけない。
水深計のセンサーの位置は、普通キールに付けるものだが、このヨットで表示される水深は船体の
底からだと、チャーター会社のメカニックから言われた。
それを信じるなら、もしも、水深計が2メートル30センチを指しているとき、キールからは20センチ
しか余裕がないlことになる。
しかし、どうも、そうではないらしいことがだんだん判明してきた。

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                   入り江に浮かぶ島と砂浜の岸の間に投錨して、泳ぐ。


また、錨のチェーンの長さは70メートルある、とチェックイン時に言われた。
最初に投錨したところは、水深12メートルくらいだった。チェーンには10メートルおきに赤い印が
入っている。30メートル過ぎてもまだまだ大丈夫、と思って錨を下ろし続けていたのだが、ふと
チェーンを見ると、もう終わりに近い。メカニックの言葉を信じていたら、危ないところだった。
結局、チェーンの長さは40メートルしか長さがないことが判明。いい加減なもんだ。
しかし、そんなことでいちいち腹を立てていては、イタリアの海域でセイリングはできない。
腹をくくって、大船に乗った気持ちに無理やりなることが肝心である、と学習した。
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by didoregina | 2013-08-19 19:40 | セイリング | Comments(4)

Meteora メテオラ

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Metéora
Spiros Stathoulopoulos
制作  Philippe Bober  Susanne Marian
監督と撮影   Spiros Stathoulopoulos
脚本   Asimakis Alfa Pagidas   Spiros Stathoulopoulos
編集   George Cragg
美術   Aristotelis Karananos   Aleksandra Siafkou

テオドロス   Theo Alexander
ウラニア   Tamila Koulieva-Karantinaki
笛吹き   Adonis Kapsalis

ギリシャ、ドイツ、フランス 2012年

ギリシャ中央部の奇岩地帯に建つ正教修道院が舞台の、いかにもベルリン映画祭受けしそうな
セミ・ドキュメンタリー・タッチのアートハウス映画である。

ストーリーは単純で、険峻な岩山のてっぺんに向かい合って建つ修道院のギリシア人修道僧
テオドロスとロシア人修道女ウラニアがプラトニックではない愛を育みつつ、キリストへの愛
と奉仕へのジレンマに悩む、という話が悠長に進む。

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しかし、画面構成では、フィクティブな愛のストーリーの場面と、象徴的なビザンチン風
アニメーションと、カラッと乾いて暑くても結構過ごしやすそうなギリシアの自然描写と、
プリミティブで厳しい修道院の生活と、わざとドキュメンタリー風に撮った平地の普通の
人々の何世紀も変わっていないような明け暮れとが、あまり脈絡なく交差する。
そうすることで、聖と俗、性愛と信仰、神と人などの対比が明確に浮き彫りにされ、悠久の
時の流れの中、太古からの自然とともに暮らす人間の姿が浮かび上がってくる仕組みだ。

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              それぞれ屹立する岩山のてっぺんの修道院に暮らす
              修道僧と修道女の密会の合図は、互いの窓に向けて
              太陽光を反射させることで。


女子修道院への食糧運搬や人間の移動も、固く編んだ荒縄の網に入れて滑車で吊し上げるという、
かなり原始的方法である。生活はもちろんストイックだ。
修道院も、岩山の下の平地で営まれる生活も、原始的ではあるが、無邪気かつ牧歌的に描かれて、
からりと乾いた感じで、情念という言葉とは全く無縁のように思わせる。
そこに修道僧と修道女の禁断の愛というシーンが挿入され、単調な場面がいきなり破調に転じる
のだ。
自然の中の人間、という存在を考えれば、納得のいく展開でもある。

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修道僧テオドロス役のテオ・アレクサンダーがモデル並みの格好よさ!

愛欲とキリストへの愛の板挟みで悩む彼らの心境は、象徴的な夢としてアニメーションで表現
される。
ビザンチン風とロシア正教的な要素が混じって、動きはプリミティブだが、壁や地面のひび割
れがテンペラのクラケーみたいになってたりして細部に重点が置かれた絵である。

たとえば、密会したテオドロスがウラニアにベールの下に隠された髪の毛の色を尋ねる場面が
ある。
夢の中(アニメ)では、ウラニアの長い髪の毛が伸びてきて、岩山の間の峡谷に橋のように
渡される。その橋を綱渡りのごとく渡って、テオドロスはウラニアに逢いに行く。
ラプンツェルのごとくでもあり、女体への興味という破戒僧の弱みを突いた妖艶な話のよう
でもあり、象徴性に満ちている。

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               ウラニアの足元の地面が崩れて、地獄が口を開く。


また、テオドロスの夢で、テーセウスのように赤い糸を持って迷宮に入り込んだ彼は、ミノ
タウロスならぬキリストに出会い、そこで十字架にかけられたキリストの手と足に楔を打ち込む。
キリストの体から流れ出る血の海に乗って迷宮から脱出する、という、ギリシア神話とキリ
スト教のイコンとが合体したような、独特の世界で圧巻である。

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テオドロスとウラニアが、聖ヤコブの話を中心に語りあう哲学的会話中、ギリシア語とロシア
語で教えあう単語、「海」と「自由」と「絶望」とが、この映画のテーマにもなっている。
「絶望」は、もっとも忌み嫌われるべき、という態度はその時点から明白で、最後に二人が選ぶ
のは「自由」なのであった。   

使われている音楽は、村の笛吹が吹くギリシャの土俗音楽を除いては、ビザンチンというより、
西欧の中世音楽が多いように思われた。エンド・クレジットで流された音楽タイトルで知ってる
名前は、作曲家ぺロタン(ペロティウス)と演奏はヒリアード・アンサンブルだけだったが。
男声ではなく、女声で歌われるぺロタンの歌が、すがすがしく軽やかでよかった。

      

                映画サントラとは別だが、涼やか。   
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by didoregina | 2013-08-18 12:16 | 映画 | Comments(2)

チレント海岸とエオリア諸島をセイリング その1 ヨットの問題

今回チャーターしたヨットは、クロアチア製のSalona37フィートである。

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                      船の名前はシモーナ。遠目には速そうに見える。

前回イタリアのサルデーニャでセイリングしたとき、フロティッラ・リーダーのヨットがサローナの
42フィートだった。いかにもレース向けっぽいスポーティーな外観に比して居住スペースがゆったり
広そうなのと、速度などのパフォーマンスに関してもリーダーやヨット雑誌のテストが太鼓判を押して
いたことから、次回借りるならこれ、と目をつけていた。
しかし、クロアチア製なのにクロアチアの海域ではなぜかあまり見かけないのだった。

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              地中海のように深いブルーの船体が目立つ。

今年イタリアのサレルノからの2週間のセイリングのために選んだサローナの37フィートには、期待が
大きかった。
昨年、クロアチアでは、最初の1週間は6人が乗り込んだのだが、37フィートのベネトー・オセアニスは
コックピットも内部のキャビンも余裕のスペースだった。
それで、今年は4人だけだが37フィートにしたのだ。ラグジュアリーに慣れると、後戻りできなくなるのが
人間の性である。
しかし、それが大いなる幻影であることを悟るのに数日とかからないのだった。

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                  コックピットの大きな青いビミニ(日よけ)を張れるのは
                  係留してメインセイルを使わないときのみ。                   

ベネトーと比べると様々な点で、サローナは私たちにとって居住性も機能性も劣るように思われた。

まず、居住性に関してだが、内部レイアウトがよろしくない。
船尾のキャビン2室は比較的広いのに対して、船首のマスター・キャビンがやたらと狭い。これは、
トイレが船首の左舷側に設置されているためだ。ただでさえ細身のレース仕様の船首である。その分、
キャビンに食い込む形になり、荷物を置くためのスぺースが少なくなる。右舷の片側のみにしか衣装
棚がなく、通常ベッドの下にある収納スペースもない。

また、冷蔵庫が古臭いタイプの上面蓋で、しかもやたらと厚くて重いのだ。セイリングを初めて2,3日
たったら、右手の腱がおかしい。冷蔵庫の蓋の開け閉めの際負荷がかかりすぎて痛めたのだと気が
付いたのはそのまた2日後だ。
サロンのテーブルも、コックピットのテーブルもデザインが機能的でないのみならず、ガタガタするし、
しかも両端が下がっているという致命的欠陥が。


トイレも、イタリアでは以前も経験したのだが、汚水槽と船外への排出バルブがうまく切り替わらない。
イタリアは、マリンスポーツのインフラに関してはクロアチアとは比べられないほど遅れていて、充実
したマリーナなどほとんどどこにもなく、港には桟橋があるのみで、トイレ、シャワーなどのサニタリー
施設は、全くといって見かけないから、自艇のトイレとシャワーを毎日使わざるをえない。それなのに、
貯水タンクの容量が少ない。


一番の問題は、もっと単純なところにもあった。

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レース仕様らしく舵がやたらとでかいのはまだいいが、ソロでのセイリングを前提にしているためか、
メイン・セイルのオーヴァーシート(写真左上から右下に斜めに見えるロープ)とトラベラーが舵の
手前まで来ている。通常のクルージング仕様だったら、コックピットの一番前、サロンへの入口辺り
にあって、舵からは遠い。
メイン・セイルを使っての帆走中は、そのオーヴァーシートは左右に動くわけだから、すなわち、日よけ
ビニミが使えない。(正確に言うとビミニは舵の上を覆っているだけ)

この点は、確か、昨年も懸案だったのだ。一度、クロアチアでこういう小さなビミニのヨットをチャーター
したことがあり、日陰争いが熾烈であったのを憶えている。

だから、帆走中は、コックピットの大部分が直射日光に晒される。チーク材のベンチや床は、直射日光
に当たると、アチチというくらいの温度になって座ることも素足で歩くこともできない。
舵の後ろに弧を描く形のベンチになんとか4人並んで座れるのだけが救いであった。
そして、帆の影が日陰になるから、帆の位置は風向きよりも太陽の位置関係で決めるという、とんでも
ないテクニックを用いることになった。

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ヨットを無事舫ったら、真っ先にするのは小さなビミニにテント状のエクステンションをつけること。
そして、西日を防ぐためにシーツも使う。

私たちがセイリングした期間の南イタリアは酷暑で、湿度も高かった。水温はほとんど体温に近い。
しかし、人間の体というものは、暑さにも直射日光にも慣れるものである。
あの暑さの中、2週間コックピットにビミニなしでセイリングするのは無理と思ったのは、チェックイン
した夕方だけで、海上に出て風さえあれば暑さも直射日光もさほど苦にならない。

しかし、このヨットには、まだまだ他にも問題があり、もう絶対にサローナをあのチャーター会社からは
借りない!と家族全員見解の一致を見たのだった。
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by didoregina | 2013-08-15 22:41 | セイリング | Comments(2)

ポンペイにて

金曜日にナポリ空港到着後、どこに行って何をしてどこに泊まるか。
翌日夕方にサレルノでヨットのチェックインするまで、1日半の時間がある。
いろいろと候補があって、悩んだ。
ポンペイは絶対に外せないし、位置的にナポリからサレルノに行く丁度途中にある。
荷物の問題もある。遺跡観光中、ホテルかどこかで預かってもらわないといけない。
一番無駄のないルートと荷物預かりの件を勘案して、ナポリ観光も宿泊もせずに素通りして、
ポンペイに宿泊することに。翌日朝一番に遺跡入場するために、程遠からぬB&Bを予約した。

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             ポンペイの民家の庭に実るレモンは、ボンタンのような大きさ!

ポンペイでは、ホテルやB&Bが安い。朝食が豪華と評判のところを選んだのだが、確かに、イタリア
らしからぬ内容の朝食で満足できる。フレッシュ・フルーツ・サラダ、オーブンで焼きあがったばかり
のペイストリー各種、ヨーグルト、ジュース、コーヒー各種、チーズ、ハム、サラミ等がテーブルに
運ばれてきた。
冷房のよくきいたツイン・ルーム(各部屋にシャワー、トイレ付)が50ユーロ。一人25ユーロでこの
内容はお得だ。

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             翌朝、サレルノのハーバー桟橋で、チャーター会社による朝食サーヴィス。
             ヨットのチャーターは15回以上経験しているが、朝食が出たのは初めて。
             クロワッサンのようなパンにクリームやチョコレートが挟んであったり、貝の
             形をしたパリパリのペイストリーなど、ポンペイでのB&Bも同じだった。
             桟橋の簡易テーブルにクロスをかけ、エスプレッソ・マシンまで設置。


夏の遺跡観光は、なるべく朝のうちに済ますことが肝心だ。昼頃からは日陰がなくなる。
入口(チケット売り場とは別)のインフォ窓口で無料マップをもらう。
オーディオ・ガイドを借りる。遺跡は、町そのものだから広大なので、マップとオーディオガイドで
ポイントを絞った観光ができる。

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                          バジリカ跡

なるべくマップに記された番号の順番通りに、家族4人が離れ離れにならずに観光しようとするが、
オーディオ・ガイドの説明を聴いていると次々に別の見どころが出てくるし、各人のテンポや好みが
異なるので、一緒に見て回るのは結構難しい。

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                        ユピテルの神殿


マリナ通りには壮麗な神殿やフォロなど大きな広場が多く、説明も多くなる。
もうすでに、このあたりでバラバラになってしまったので、主人が号令をかけ集合する。

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                       アポロの神殿とアポロ像

アポロ像の実物は、ナポリの博物館にあるようだが、このつやつやしたおしりの後ろ姿が美しい。
頭の形とショールのようなまといものを持つポーズと相まってまるで女性のようにも見えるが、腿や
ふくらはぎの筋肉がやっぱり男性だ。


メインの大通りから北に行くと、民家の内部が見学できる。食堂や台所、風呂場やサロンなど、
床のモザイクや、壁や台座の装飾なども凝っていて、爛熟した文化の気配が。

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              学生らしき人たちが崩れた遺跡の修復か調査を行っていた。


町はずれの豪壮な墓地のある通りを通り抜けて、北西に建つ秘儀荘に向かう。
ポンペイは、今年に入ってまた大規模な修復工事中とのことで、ここが閉まっていたら嫌だなあ、
と心配していたが、入れない部屋もあったが、目的の壁画は見ることができた。

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ディオニッソスの秘教に入信する若い女性。期待と不安の入り混じった表情。


バッコスの信女を自任しているから、ポンペイの秘儀荘の壁画を見ることは長年の夢だった。
まず、外から窓に縦に作られた木の日よけブラインドみたいなもの越しに壁画を見る。
遮光と暗さと光を自分で調整しながら、秘儀の行われる部屋の中を覗き見するという按配で、
隠微な趣がある。
部屋の中には入れないが、ぐるりと回ると部屋の入口までは来られる。そこで3面に描かれた
壁画を拝観。感嘆して、思わず拝みたくなるほどだ。
いわくありげなポーズでストーリー性に富んだものなのだが、部屋は暗いし、ディテールは美術書
その他で見た方がわかりやすい。
ポンペイの町からも、それから人々の表情からも、とてもギリシャ的なものが感じられるのだった。

秘儀荘の外に出ると、屋根越しにヴェスヴィオ山が真近に迫る。この距離で火山が爆発したら
助かりっこないよね、と思わず納得。
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by didoregina | 2013-08-14 10:11 | 旅行 | Comments(8)

ソレントへ

ナポリ空港から、ナポリは素通りしてソレント行きのバスでポンペイに向かった。
遺跡入口と電車の駅から程遠からぬB&Bに荷物を置いてから、江ノ電みたいな電車に乗って
ソレントに出かけた。

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               ソレントからの海の眺め

観光のためというより、夕ご飯を食べに来たのだ。
金曜日の夕方だったが、お日柄がよいのか、異なる2つの教会で結婚式カップル2組に出会った。

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                  眺めのよい崖に程近い教会前で。


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                 公園で記念写真。参列者にもロングドレスの人が多い。


なるべくなら海の近くのレストランで食べようと、崖に付けられた階段を下りる。

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桟橋のように張り出された海水浴場付属のレストランもいくつかあるが、港の方まで歩く。

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小さな港の奥まったところに、格好のレストランを見つけた。 その名も、Ghibli on the beach。

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                 アンチパストは、マグロのたたき

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                  メカジキのパスタは、かなり固めのアルデンテ。

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                  イカ墨にムール貝のパスタ。

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                  セコンドには本日お勧めの魚。ぶりみたいな感じ。
                  レモンがベースのソース。
                  人参とホウレン草もしゃっきりしていておいしい。

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                   フォンダンにナッツのアイスクリーム。

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                   ラズベリーのミルフィーユ。

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                   食後のコーヒーにはプティフールが付いてきて満足。


2週間、自炊したのは結局2回だけという、私達のセイリング・ヴァカンスにしてはちょっと珍しい
ほど外食が多かった。
初日に行ったこのレストランが、パスタ・ソースのとろみの絶妙さとちょっとした隠し味(イカ墨にほんの
少しトマトが入っていたり、写真に撮り忘れた海老のパスタのソースにはジャガイモが少し加えられ
ていたり)や、調理方法も盛り付けも洗練されていてダントツの美味しさだった。
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by didoregina | 2013-08-12 00:17 | 旅行 | Comments(6)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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