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ユロフスキ指揮コンセルトヘボウ管の公開リハーサル

ウラディミール・ユロフスキ(別名 ユロ兄)がコンセルトヘボウ・オーケストラを指揮する
コンサートの公開リハーサルに行ってきた。
曲目は、ツェムリンスキーの『人魚姫』とラフマニノフの『ピアノ協奏曲第3番』(ソリストは
アレクサンダー・ガブリリュク)という、マイナーな曲と超有名曲の組み合わせだ。
好きな作曲家だし、指揮者にもソリストにもそそられるし、コンセルトヘボウの演奏を本家本元
ホールのコンセルトヘボウで聴いたことがなかったし、オーケストラのリハーサルというのにも
興味津々だった。

『オーケストラ・リハーサル』といえば、フェリーニ


       フェリーニの映画としては退屈で諧謔もわかりづらく好きになれなかった。


今回の公開リハには2ヶ月前から目を付けていたのだが、友の会会員のみ入場可という但し
書きがあったので一旦は諦めた。
しかし、色んなところで騒いでいたら思わぬ助っ人が現れて、本人も忘れていたが友人が会員で
あったことが判明。一緒にアムステルダムまで行くことになった。
朝9時半開始・途中入場不可なので、自宅を朝6時に出て6時半の電車に乗ってアムステルダム
まで行き、トラムに乗り換えてコンセルトヘボウに着いたのは開演5,6分前だった。
会場は、ほぼ満席に近い。売り出されたのは平土間のみで、バルコンとポディウム席はなし。
わたしがチケットを買おうと思った1ヶ月前には後ろの方の席しか残っていなかったのだが、コネの
威力か10列目の席が取れた。7列目までは立ち入り禁止になっていて、オケ・メンバーのコートや
楽器ケースなどが置かれている。
ポディウム席にはTVカメラマンが入っていて、こちらもリハーサルに余念がない。

司会者に促されて、指揮者がポディウム後方の階段から下りてくるのではなく平土間上手側から
ステージに上った。リハーサルだから、皆私服である。ユロフスキは、黒のタートルネックの薄手
ニットにダークなカラーのジーンズにベルト。肩にクリーム・カーキ色のジャケットを羽織っていたが、
指揮台まで来るとそれを脱いで、落下防止用柵にかけた。

舞台に向かって右側前方の席だったため、舞台後ろの方の編成はよく見えないが、対向配置で
第一第二ヴァイオリンとも10人の構成。ハープ2台と打楽器が場所をとるためか、舞台は手狭な
印象。

ツェムリンスキーの『人魚姫』の出だしから始めるのではなく、いきなり楽譜の小節を指定し細かく
区切ってのリハーサルに入る。まず、打楽器やホルン、トランペット、チューバなどの音の大きさ
や強弱のニュアンスの付け方にとても細かい指示を与えている。ユロフスキは、金管が爆音を
出すのは好みでないらしく(これはわたしにとっても喜ばしい)、よくありがちな箇所で金管が
ここぞと音を張り上げると「とてもドラマチックでイクサイティングな盛り上がりですがやりすぎです。」
などと抑止していた。
トランペットにも消音器を入れさせて音を聞き比べ、「そのくらいが丁度いいです」と。

↓は、ツェムリンスキー『人魚姫』の一部




映画『オーケストラ・リハーサル』のように、指揮者を無視して暴走するオケというのとは
正反対で、コンセルトヘボウの皆さんは指揮者の注意をよく聞いて、楽譜に書き込んだり、
書いてあったのを消しゴムで消したり、楽譜チェックにもかなり忙しい。
あまりに細々とストップしては注意を与えるのは、この曲がマイナーなためオケとして今まで演奏
経験があまりないためだろうと思われた。その朝のリハーサル中に全体を通しで演奏することはな
かった。その晩が、コンサート本番である。

休憩中に、友人の友人である団員に訊くと「わたしはこの曲は今回が初めて。他の人が言うには、
2,3回演奏したことがあるというけど」とのこと。

ツェムリンスキーは、19世紀と20世紀初頭の狭間の作曲家であり、いかにもウィーン世紀末の
匂いが紛々と漂う曲を作っている。
「『人魚姫』には後期ロマン派らしさもあるし耽美的な音楽なのですが、20世紀の音楽、プロコ
フィエフやストラヴィンスキーに見られるようなモダンな要素の先駆けも感じられます。その味わいは、
スタッカートの使い方で顕著に表現すべきです。変化のあるリズムに突き刺すようなアタックで」と
いうことをユロフスキは言っていたと思う。(客席には背を向けてオケ団員に向かってしゃべるので、
よく聴こえないから不確か)

ユロフスキの立ち姿は、非常に美しい。脚をほとんど開かずに真っ直ぐに立ち、背筋もすっと伸び、
動きも自然かつ力みが感じられずスマート。

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休憩20分を挟んで、後半はラフマニノフのピアノ協奏曲3番のリハーサルだ。

『ラック3』といえば、ガブリリュクの十八番でお手の物である。ベタといえばベタな曲だから、
リハーサルもさらりとオーケストラと合わせる程度ですんなりと行くだろうと予想した。時間は丁度
1時間。

まず、ピアノとオケとの掛け合いでもつれそうになるかもしれない部分とカデンツァ部分を練習。
しかし、それにしても、ガブリリュクは見かけは神経質そうな図書館司書みたいだが、演奏はとても
男性的で、豪腕を生かしてのダイナミックな音を作る。しかし、それは若さにまかせての荒っぽさとは
全く別物で、非常に立体的で明確な音楽観が聴き取れて心地よい。

その後は、最初からの通し演奏。とにかくピアノの音がクリアかつ大きくて、オーケストラの特に弦
パートは伴奏に徹しているように音量をかなり抑えている印象であまり耳に入ってこないほどで、
まるでピアノリサイタルを聴いているような感じ。
しつこいくらい繰り返されるテーマも、ピアニストの叙情溢れるニュアンスの付け方が洗練されていて
飽きさせないし、あの何とも言いがたく胸を締め付けるような、郷愁を覚えさせるロシア的メロディーが
全く陳腐にも泥臭くもならず軽い味わいになっているオーケストラ演奏に唸らされる。うねるような情感
には乏しいが、都会的・現代な解釈・演奏の『ラック3』である。

全曲通しになるか、と思いきや、フィナーレに入る前の意外なところで指揮者の手が止まった。
ピアニストとロシア語で話してなにやら確認したりしている。残り時間15分。またもや、細かい部分
ごとの手直し詰めの作業である。
フィナーレが終わると、ガブリリュクに対して盛大な拍手がわいて、周りに座った人たちは、皆一様に
「なんてすごいピアニスト!」と興奮している。

そして、きっかりと午後1時にリハーサルは終了した。

友人の友人の団員に「せっかくだから、今夜の本番のコンサートも聴いていけば?」と言われた。
「本当に全部きちんと聴きたいのはやまやまですが、終電に間に合わないので泊まるしかないから」
と暇乞いした。
その後、ゆっくりとランチをとって、4時の電車に乗ってマーストリヒト駅に着いたのは午後6時半。
12時間のプチ遠征である。もっと近くに住んでたら友の会会員になってコンサートにもリハーサルにも
通えるのに、と夢見たことである。

3月28日の同プロ・ライブ録音が、3月31日(日)14時CETからオランダラジオ4から放送される。
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by didoregina | 2013-03-28 10:25 | コンサート | Comments(4)

マースメヘレンの教会で復活祭オラトリオ

フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラとダニエル・ロイス指揮カペラ・アムステル
ダムにソリストとしてマイケル・チャンスが参加する『復活祭オラトリオ』が、比較的近場の
ベルギーの教会で演奏されると知って、心待ちにしていた。復活祭の1週間前とちと早く、
オランダだったら受難曲シーズンである。

c0188818_16301894.jpg2013年3月24日@St.Barbarakerk Maasmechelen
Orkest van de Achttiende Eeuw
o.l.v. Kenneth Montgomery
Cappella Amsterdam o.l.v. Daniel Reuss
Ilse Eerens (sopraan)
Michael Chance (alto)
Thomas Walker (tenor)
David Wilson-Johnson (bas)


Johann Sebastian Bach (1685 - 1750)
Missa in F BWV 233 (1738)
pauze
Oster-Oratorium BWV 249 (1725)

当日の朝、目を覚ますと外の風景は一変していた。またしても15センチの積雪で、一面の銀世界
である。ああ、晩までに少しは融けてくれるだろうか。
極々局地的な降雪だったようで、マーストリヒト以外はほとんど降らなかったのが救い。
日曜なのに道路の除雪はすぐにされた。雪が積もったままなのは、自宅の敷地だけである。
第一の関門はなんとかクリアできそうだ。

教会でのコンサートの場合、座席は自由で早い者勝ち!という場合が多い。開場と同時に入場
するため、コンサート開始45分前には会場に着いていようと思って、余裕を見て家を出た。
通常、車で30分の距離である。20時15分からのコンサートに行くのに19時少し前に出発した。

しかし高速に乗ってしばらくすると、いきなりの急停車でそのまま車の列は動かなくなってし
まった。
どうやら事故が起こったらしい。完全な渋滞で全く進まない。ああ~、よりによってこのタイ
ミングで事故って。しかし、ここで諦めてはいけないのだ。とにかく、ネヴァー・ギブアップを
念仏のように唱えてポジティブな運気を誘い込む。その願いは通じて、7,8分後には車の列が
動き出した。
高速道路の右側ガードレイルにナンバープレートがついたバンパーが張り付いている。左車線
には前がもがれてエンジン・ルームむき出しの車が180度回転してこっちを向いている。大方、
スリップでもしたのだろう。でも、高速道路上には雪は一片も見られないのだが。警察も来て
いないので、皆そろそろと事故車を避けつつ運転している。
ああ、ここもなんとかクリアした。

ベルギーに入ってマースメヘレンで高速を降りたら次の村に行くだけだ。しかし、なんと、
その村への道が道路工事のため閉鎖されている。
通行止めになってても、迂回路の表示などないのがいかにもベルギーである。引き返すしかない。
ほぼ一直線の道のりだし近いので、地図もナビも持たずに家を出てしまった。もう、あとは適当に
目星をつけた方向に進むしかない。
教会のある辺りは村と森に挟まれて、ヴィラという感じの高級住宅が多い。家々は鉄の柵と門扉の
奥深くに鎮座している。道を聞こうにも寒い晩だから人はほとんど外を歩いていない。
たまたま歩いている人を見かけたので、教会への道を尋ねた。かなりわかりにくい道であるが、
彼女は以前その近くに住んでいたそうなので、詳しく説明してくれたおかげで、ようやく辿りついた。

わたしの心境はまさに、Against All Odds



コンサート開始25分前くらいに着いたのだが、前の方のいい席は埋まってしまっている。かなり
後ろの方のしかし中央通路側の席をなんとか確保した。
プログラム・ブックは空いてる椅子の上に置いてある。それを読むと、なんと、指揮者が変更に
なっているではないか。
フランス・ブリュッヘンの代わりにケネス・モンゴメリーとな。

もうこうなると、ブリュッヘンの代わりがコープマンになってもヘレヴェッヘになっても驚かない。
ご高齢のブリュッヘンを見逃したくないと思って、ここまで困難も厭わずにやってきたというのに。
大体、このコンサートがこういう田舎の教会で開かれるというのが不思議である。
ツアーの(当初の)メンツは上掲写真のCD録音とほぼ同じで、ベルギーではここのみだし、
他はヨーロッパのもっと大きな都市である。
理由が分かった。ソプラノのイルゼ・エーレンスは、ここマースメヘレンの出身だったのだ。
彼女のコネで、このコンサートが実現されたと言ってもいい。

↓の動画は、ヘレヴェッヘ指揮、テノールはマーク・パドモア!


   最初見た時、とてもパドモアとは思えなかった。最近のワイルドでかっこいい彼とは
   同一人物とは信じられないほどナードっぽい、昔のパドモア。最後の方に出てくる
   ショル兄にも注目のこと。一体何年前?


さて、会場になっている教会は、別名「炭鉱のカテドラル」で、炭鉱地帯として19世紀から20
世紀初めに栄えたこの地にふさわしいインダストリアルなデザインである。すなわち、ガタイは
でかいが無骨で寒々しく、装飾もほとんどない。内壁はコンクリに漆喰を塗ってるのではないかと
思われるほど、つるりとした感じ。カテドラルという別名の通り、身廊の天井はゴシックを真似た
穹窿が高く、嫌~な予感がする。

器楽演奏が始まって、その予感がだんだんと実感に変わっていった。残響が長すぎ、エコーが
かかりすぎ、音が時間差で重なって団子状態になる。トランペットなんていつも1泊遅れて音が
届く感じになり、冴えないことおびただしい。悪いのは全てこの教会の音響のせいである。
合唱になると、もっといけない。カペラ・アムステルダムは一流の合唱団である。それなのに、
歌詞もパートもクリアに聞き取れないから、ほわんほわんしてるだけで、上手い下手の区別がつく
どころではない。
『受難曲』などは教会で聴くのに限る、と思っていたが、それは聖ヤンのようにコンサート会場と
して音響が理想的な教会に限られるのであって、多少有り難味は薄れても、ちゃんとしたホールで
聴く方が音楽としては楽しめるのだ。

『復活祭オラトリオ』は、華やかで明るい喜びを歌った曲だから、前半には、暗めのを持ってきて
対比させたらよかったのに。『ミサ曲ヘ長調』は、とても短くて初めて聴く曲であるが、どうも
印象に残る部分がないのであった。ホワンホワンとした音響に包まれて、何度かうとうとして
しまった。

『復活祭オラトリオ』も比較的短い曲だが、合唱部分が少なくて、ソリストの配分がなかなか
上手くて聴き応えのあるアリアがちりばめられている。ソプラノのアリアとバロック・フルートの
オブリガート、テノールのアリアとブロックフレーテ、アルトのアリアとオーボエとの絡みが
いずれも楽しい。

↓は、ショル兄の歌うアルトのアリア



当日の花、ソプラノのイルゼ・エーレンスの声にも歌唱にもどうも好みのツボにハマるものが
なかった。いかにも教会系の声だがピュアに澄んでるだけでなく暗さもある声質なので陰影を
感じさせるかと思いきや、歌唱がどうもあまり感心できないのだった。

期待していたのは、CTのマイケル・チャンスである。彼は現在では大御所なので隠居の身かと
思ってたら、今だに結構バッハなんかには出演しているのである。(2、3年前、デン・ハーグで
マイナーなスカルラッティの『ユディット』に乳母役で出演したのを実演で聴いた。)
こういうほのぼのした宗教曲ではオペラほどのテクニックは必要なさそうなので、まだまだ
マイケル・チャンスにもチャンスがあるのだ。期待を裏切らないオーラと声量とで、他の歌手を
圧していた。

『受難曲』ほど肩肘はった感じがしなくて、ひたすら明るい『復活祭オラトリア』は、いかにも
春の訪れを寿ぐのにふさわしい。もっと有名になってコンサートで聴く機会が増えるといい曲だ。
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by didoregina | 2013-03-26 10:28 | コンサート | Comments(4)

来季デュモーが出演するオペラから窺えるCT冬の時代

ヨーロッパ各地の歌劇場が、次々に来季の演目を発表している。
今まで比較的バロック・オペラ上演に熱心だった歌劇場でも、来季は全くないところもある。
(例えば、ネーデルランド・オペラ。モネ劇場だって寂しいものだ。)
そうかと思えば、バイエルン州立歌劇場では久しぶりにバロック・オペラが2作も上演される。

そして、ミュンヘンでの『ラ・カリスト』リバイバル公演のキャスト表の一番上になんと
デュモー選手の名前が挙がっているではないか。ティム・ミードがエンディミオーネ役で
出演することは既に知っていたので、すわミュンヘン初遠征なるか、と浮き足立ってしまった。
しかし、その下をよく見ると、題名役はダニエルちゃん。。。。

これは性質の悪い冗談かわたしへの嫌がらせか。それとも、ダニエルちゃんとわたしは運命の
赤い糸で繋がれていて分かち難いのか。わたしの遠征先に彼女の影はいつでも付きまとうのだ。
腐れ縁などと言って笑ってはすませられない。
しかも、デュモーの役は小さな役のかき集めみたいなもの。(以前、モネ劇場で鑑賞した『ラ・
カリスト』に同じ役でチェンチッチが出演していたのだが、全く印象に残っていないほど)
ミュンヘン遠征の夢は、あえなく崩れた。

チューリッヒ歌劇場の演目発表では、2月1月の『アルチーナ』(マレーナ様がルッジェーロ役)
に全神経を集中していた。でも、それ以外にも面白そうな演目が沢山ある。
例えば、今シーズンにも上演されたヘンデル・パスティーシュ・オペラのSaleが12月1月に
再演され、フォン・オッターと並んでデュモー選手も再登場!




5月6月公演の『ウリッセの帰還』にもデュモー選手は出演するが、ここでも複数のチョイ役だ。

こうしてデュモー選手の来季スケジュールをちらりと見ただけでも、カウンターテナーの冬の
時代を予感させるものがある。
箱の大きな歌劇場はバロック・オペラには不向きだから、ちゃんとした上演はヴェルサイユとか
アン・デア・ウィーンとかに集中してしまうのも仕方がない。それから、ドイツの地方都市の
歌劇場も侮れない。これらの歌劇場の来シーズン・プログラム発表に望みをかけよう。


↓は、デュモーの歌うヴィヴァルディの『スターバト・マーテル』


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by didoregina | 2013-03-21 15:08 | カウンターテナー | Comments(12)

Lorraine Hunt Lieberson の歌うNeruda Songs その他

この夏のセイリングはイタリア南部のティレニア海、サレルノからエオリア諸島を経てトロペアまでの
ワン・ウェイだ。
エオリア諸島(なんと美しい響き!)といっても、活火山のストロンボリ島ぐらいしか名前は知ら
なかった。寄港予定地を調べたら、映画『イル・ポスティーノ』の舞台になったサリーナ島も
含まれている。

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映画はもうずいぶん前に観たので内容はあまりよく覚えていないが、チリ人詩人ネルーダが住む
イタリアの孤島での、詩人と朴訥な郵便配達人とのふれあいを美しい自然の中に描いたものだ。
ぶらぶらと単調な生活を送っていた郵便配達人だが、詩人との交流から詩心が芽生え世界が広がり、
人を愛することや共産主義に目覚めていくというお話だったと思う。夏までに、もう一度観たい。





ネルーダつながりで、昨年秋にゲットしたCDのことを思い出した。
ロレイン・ハント・リーバーソンの歌う『ネルーダ・ソングス』である。
彼女の夫であるピーター・リーバーソンがパブロ・ネルーダの詩に音楽をつけ、ロレインが歌う。
初演されたのはロレインの死の1年前で、CDは2005年のボストンでのライブ録音。

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収められたネルーダの詩、5編は全て、恋人に捧げる愛の賛歌である。情熱がほとばしり熱い。
(詩はスペイン語で書かれていてそれに曲が付けられているのだが、第一曲目の英訳を載せる)

If your eyes were not the color of the moon,
of a day full of clay, and work, and fire,
if even held in you did not move in agile grace like the air,
if you were not an amber week,

not the yellow moment
when autumn climbs up through the vines;
if you were not that bread the fragrant moon
kneads, sprinkling its flour across the sky,

oh, my dearest, I could not love you so!
But when I hold you I hold everything that is -
sand, time, the tree of the rain,

everything is alive so that I can be alive:
without moving I can see it all:
in your life I see everyghing that lives.

愛する女性の身体と彼女への愛を表現するのに、はっとするほど巧みで斬新、しかし難解でない
比喩が散りばめられていて、美しい。

しかし、煌くエスプリに溢れた詩に付けられた音楽は、なんだかブリテン風でかなり暗いのである。
(ロレインの歌う動画が見つからなかったので、サラ・コノリーによるバービカンでの2010年ライブ)



サラ様の歌唱および声質のせいで暗さは少し抑えられて、情感みなぎっている。

この歌集は、ピーター・リーバーソンからのロレインへの愛の発露であるが、現代音楽に付きまとう
暗さから逃れられないのはいかがなものだろうか。詩だけ読んでる分には、とても心地よいのに。


このCDを含め10枚のCDを昨秋、市立図書館の放出セールで一枚1ユーロでゲットした。
1ユーロは安い!と浮き足立って、両手に抱えたCD30枚ほどの中から10枚を選りすぐった。
マイナーな演奏家や歌手や作曲家や作品が多く、ほとんど借りた形跡がないようなものも。
それらを改めて並べてみると、詩に曲をつけた作品が多いことに気が付いた。

その他選んだCDは
● 南アフリカの詩人イングリッド・ヨンカーの詩にフランス・エールハルトが曲を付けオランダ人ソプラノ
 のシャーロット・マリギオーノが歌っているCD Hierdie Reis
● ジェラルド・フィンレーが歌うサミュエル・バーバー歌集 Songs by Samuel Barber
● カサロヴァが歌うシューベルト、ブラームス、シューマンのリート集
● ドビュッシーの『アッシャー家の崩壊』他
● ドビュッシーがD.G.ロセッティの詩に曲を付けた『祝福されし乙女』他
● カルダーラの『ミサ・ドロローサ』『スターバト・マーテル』
● ジェズアルド・コンソートによる『オランダの古楽 1400年から1600年』
● 向山朋子(Pf)他によるワーゲマンス曲集
● アンスネス(Pf)とバイエルン放送響による北欧・東欧作曲家の『沈黙の影』

これらのCDは、家に1人でいるときに聴くのにはいい。仕事するときのバック・グラウンドにもいい。
しかし、聴かせられた人の感想は大概、「暗い」というにべもないものであった。
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by didoregina | 2013-03-19 11:05 | CD | Comments(0)

ヴェジタリアンのペーターのご家族を招いてディナー

大人になってから再開したピアノ・レッスンだが、丁度十年を区切りとして昨年夏以来中断している。
3年前に50歳になった記念パーティー兼コンサートを開いてから目標がなくなり、モチヴェーションが
低下していたからでもある。
しかし、ピアノの師匠ペーターとの一家揃ってのお付き合いは続いている。
主人が作るヴェジタリアン・ディナーに招きたくてもお互い忙くてなかなかスケジュールが合わず、ようやく
実現したのは昨日だった。
ペーターのママEはかなりの料理上手かつ研究熱心、ペーターのピアノ・リサイタルと組み合わせた
ディナーなどでも腕を振るうセミ・プロである。だから、彼ら一家は一般のヴェジタリアンとは一味異なり、
各地に出向いて飽くなき美味を追及したりして舌が肥えているし、厳しい批評眼を持っている。

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それで、主人はディナーの献立を考えまとめるのに一週間かけた。
わたしは前日に主人の作ったリストを持って、2つ星レストラン・ベルーガなどへ卸していて郊外にある
高級八百屋兼食材店エイザーハルテまで買出しに出かけた。
さすがに艶やかでイキのいい一級品の野菜、果物、ハーブ、チーズ、ワインやデリカが揃っていて、
客1人1人に店員が付く。普段のスーパーでの買い物とは異なり、値段は見ないでひたすらリストに
載っている品々を買い込んだ。

主人は金曜日の夜から仕込みにかかり、当日土曜日は朝早くから料理に余念がない。
わたしはといえば、ピアノ・レッスンに通っていたお城に隣接したワイン屋にでかけて、料理に合う
ワインを選んだ。
ワイン屋のご主人Aは、平日はワインの買い付けと大学の観光学科・ホテル専門学校でのワイン
学講義を行い、金・土のみ店を開けている。
金曜日午後に店に寄ったら、なぜか閉まっている。マーストリヒトでは今、TEFAFという世界的
に有数の美術フェア開催中なので、きっとそれに関連してるのではないかと思ったとおり、TEFAF
関連のクライアントの手持ちシャンペンが足りなくなったため、急遽シャンパーニュまで出向いて、その
あとお届けに行っていたのだそう。(マーストリヒトからランスへはパリよりも近い)

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      まずはシャンペンで乾杯。友人からの頂き物を開ける丁度いい機会。
      でも、頂き物だと古くなっていたりして味が落ちているかもしれないので
      別のも予備に買った。これは、マイルドで落ち着いた馥郁たる味わい。

アミューズは、写真に撮り忘れたが、自家製パンのクロスティーニにクリーミーな山羊のチーズと
小さなグリン・ピースのペーストを塗って洋ナシのコンポートを載せたものと、小たまねぎを煮て串に
刺してバルサミコ酢を煮詰めたソースを絡めた。グリーンの色鮮やかな豆とかりっと焼きあがった
パンと黒い小たまねぎの甘みがアピタイザーにぴったり。


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       アーティショークの芯の手作りラビオリ。オランダうどの炒めもの。
       
前日の晩に野菜を大量に茹でてとったスープストックを少し煮詰めてラビオリを茹でた。ヴェジタリアン
だからスープストックにも肉は使えないのだ。

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       アーティショークに合うのはこれ!と、Aお勧めはサルディーニャ産の
       白。ブドウはヴェルメンティーノで、アルコール度14%と強め。

最初から強い白だと後が困るなあ、と思ったが、アクと風味の強いアーティショークのパスタには
このくらい野趣のあるワインが確かに合う。


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       プチ・トマトとへーゼルナッツとパルメザンのクランブルのオーブン焼き。
       バルサミコを煮詰めたソース。モッツァレッラにルッコラにトマト。


ペーターの一家は白ワイン党である。メイン・コース用には赤と白の両方を用意して、味見してから
好きな方を選んでもらった。

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          赤はひたすら軽めのコート・ロワネーズ。少し冷やしていただく。
          白はアルザスのゲヴュルツトラミナーのグラン・クリュでコクがある。

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         リコッタとミュンスター・チーズとズッキーニと松の実のシュトゥルーデル。
         コールラビの薄切りにアンチョビ(隠し味、秘密)のソテー。
         フェンネルにパルメザン・チーズのオーブン焼き。
         フレッシュ・バジリコと松の実のペスト。

2007年のゲヴュルツトラミナーはあと10年は寝かせばもっと美味しくなるという逸品で、ねっとりと
したコクがママEの大のお気に召した。でも、Aは「ミュンスターにはぴったりだけど、ズッキーニと
松の実には合わないから、赤ワインを方を勧める。軽い味わいだから少し冷やして」と言うので、
両方試してもらって、皆それぞれ気に入った方のワインを選んだので問題ない。

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         自家製パンに、ナスとピーナッツの炒め煮。
         ちょっと中華風の味わいだが、イタリア料理として習った。

このパンは、全粒粉にほんの少しだけイーストを混ぜてよくこねてから、12~18時間寝かせたのを
ル・クルーゼ鍋に入れて蓋をしたままオーブンで45分焼いたもの。ぱりっと堅くて噛みごたえのある
皮に中はふんわりとしたカンパーニュ風パンが焼きあがった。


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         マスカルポーネ入りアイスクリームにマンゴーを裏ごしたソース。
         イチゴ添え。マスカルポーネ控えめだがクリーミーに出来た。

アイスクリームは、電動のアイスクリームマシン(家庭用なら50ユーロ位からと安価)があれば、
様々な味と材料でホームメイドが作れるから楽だ。意外にアイスクリームマシンを持っている人は
友人・知り合いにはいないので、デザートに手作りのアイスクリームを出すと喜ばれる。
サバイヨンをしっかりとふわふわに作って、砂糖でなくてグリコーズを加えるととても滑らかでクリーミー
なアイスクリームになる。

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         デザート・ワインには、Oupia の2005年のVin Blanc Noble。
         エレガントでシックな姿に一目ぼれ。とろりとした上品な喉越し。


チーズの写真も撮り忘れたが、バスク地方の青カビチーズ、ブリーに似たクロミエール、比較的
マイルドなシェーブルの3種。胡桃とイチジクのパンを添えて。

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         チーズにもあえて白を合わせた。モーゼルのリースリング
         2004年。

特にアルザス・ワイン大好きなペーター達なので、あえてモーゼルのリースリングの古めのを
選んでみたのだが、これが、皆に大好評。でも、わたしには、甘いデザート・ワインの後では
酸味が強く感じられてイマイチに思えたのだが。

わたしは料理には全くタッチしなかったので、Aのところに1時間腰を据えて料理に合うワインを
選んでもらった。材料は買出しに行ったから全部わかっているので、それを事細かに伝えると
ぴったりのワイン・サジェスチョンがされるのだった。私自身の好みやペーター達のお気に入り
ワインも知ってるAだから、あえて裏をかいたり、今まで飲んだことがないのをピックアップして
薀蓄も聞かせてくれるので、予算に合わせて決めればいいのだ。

料理にもワイン選びにも力を込めたのがわかって満足してもらえた。
次回のヴェジタリアン・ディナーはEが主催することになり、8月の日程を決めた。
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by didoregina | 2013-03-17 22:32 | 料理 | Comments(6)

雪の中、クロアチアの海を懐かしむ。 ヨットでスプリットからドゥブロブニクへセイリング 番外編

3月も中旬だというのに、オランダ南部はまさかの大雪である。一晩で15センチも積もった。
それくらいで騒いでいたら、雪国の人からはぷっと吹き出されるだろうが、雪に不慣れな地域
なのでほとんどどこにも出かけられない。玄関前には雪が30センチくらい吹き溜まっていて、
まず、家から出るのだって大変だ。広い道路や街なかは除雪されているが、家の周りの道路は
自力で雪かきするか、融けるのを待つほかない。

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           先月の大雪の時。これで最後かと思ったら。。。


それで、夏の地中海でのセイリングに思いを馳せ、心を慰めることにした。

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           去年の夏のアドリア海、クロアチアの島と雲


今年の夏は、イタリア南部のティレニア海側をセイリングする。ナポリの南に位置するサレルノ
から長靴のつま先の方に向かって南下し、シシリア島北にある火山島ストロンボリのあるエオリア
諸島に寄りながら、最終地のトロペアまで2週間のワン・ウェイである。(出港地まで戻らない)
7月最後の週末からの2週間だが、ヨットは1月に、フライトも2月に予約した。
(往きはブリュッセルからナポリ、帰りはラメツィア・テルメからブリュッセルという変則の往復)


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             こういう荒天は夏の地中海では珍しい。


この10年ほど毎夏2週間、地中海をヨットでセイリングしているが、雨に降られるのは、大体
いつも1日くらい。太陽には焼かれるが、ヨットの上ではいつも海風にさらされるので快適な体感
温度。


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               静かな湾で、海と空を独り占め。


子供達も大きくなったので、今年も37フィートのヨットをチャーターした。キャビンが3室あり、大人
6人まで大丈夫なので4人なら楽々。それでも大概、フロティッラの中では小型の部類に属する。


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              海上から眺めるコルチュラ島のコルチュラ


昨年のクロアチアでのセイリングは、スプリットから出発して最終目的地ドゥブロブニクまでの
往復だった。と言っても寄る島や港や湾などは往復で異なる。海上だから選ぶルートは風次第。
風が強すぎて出港は危険なので足止めされたコルチュラ島の小さなマリーナから、バスに乗って
コルチュラの町まで観光に出かけた。


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             コルチュラは、小ドゥブロブニクの趣

コルチュラには30年前にも訪れたことがある。ドゥブロフニクほど大きくないのと、狭い通りなどに
何ともいえない味わいがあり、とても気に入った。ヴェネツィア植民地らしい趣の町である。

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             ヴェネツィアらしらはこんなところにも。


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             コルチュラにあるマルコ・ポーロの生家


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              港を見下ろす広場の階段


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              旧市街へのアプローチは階段と城門から


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            この港に2日間足止めされた。風の強さは写真では分からない。


コルチュラ島に足止めされたので、コルチュラの町へはバスで2回通った。
着いた夕方に、対岸の島が真近に迫るテラスのピッツェリアに座ったら、北東からの強風ボラが
やってきた。テーブルごと吹き飛ばされそうな勢いになって、店の人たちは看板を片付けたりして
素早く店内に非難していた。松葉が飛んできて目に痛い。5分くらいの速攻でピザを食べ終えた。
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by didoregina | 2013-03-12 13:04 | セイリング | Comments(2)

Like Someone in Love とThe Patience Stoneの不思議な共通項

この2つの映画には、不思議な共通項がある。

c0188818_17464082.jpgライク・サムワン・イン・ラブ
監督: Abbas Kiarostami
出演: Rin Takanashi, Tadashi Okuno, Ryo Kase, Denden
脚本: Abbas Kiarostami
制作: Nathanaël Karmitz, Abbas Kiarostami, Charles Gillibert
撮影: Katsumi Yanagijima
編集: Bahman Kiarostami
2012年 フランス、日本








監督のアッバス・キアロスタミはイラン人だが、日本が舞台で出演者は全員、スタッフも
ほとんど日本人なので、純粋日本映画かと一瞬見まごう。
小津安二郎大好きというキアロスタミのこの映画には、日本映画に固有のコードが使用され
てはいるが、やはりどことなくエキゾチックなのである。
東京が舞台ということになっているが、地方都市っぽい街角や駅前の風景が日本人には
わかってしまい、東京らしさはほとんど漂わない。やはり、外国人から見た日本のイメージ
なのだ。

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主人公アキコ役の高梨凛の演技や台詞まわしは自然かつリアルで、現代の若い女の子そのもの。
夜のカフェに集まる同業者友達や元締めの演技も超リアル。しかし、昔の日本映画やテレビ・
ドラマのようなゆったりしたテンポでしかし丁寧に撮影しているため、場面転換がほとんどな
く悠長で、モノローグに近い会話もしつこいくらい長いので、現代人にはちょっと耐えられ
ないのではないかと心配になる。
しかも、事件らしい事件は起こらない。日常に疲弊した現代のごく普通のありふれた人間同士の
不毛のふれあいを描いていて、心配事があっても、ケ・セラ・セラ、なるようになる、という
人生処方がテーマなのだが。。。

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観客は、ぬるめの温泉にほんわかと浸かっているうちに、あまりに長風呂しすぎて湯あたりして
いるのにも気づかず、ぼーっとなって風呂から出ようとしたら滑って躓くみたいな唐突なエンド
である。
オープン・エンドになってるのがフランス映画っぽく、やはり日本映画ではないことを思い
しらされる。
しかしそれもまた、現代の日本そのものを描いていることに気づいて、にやりとさせられるのだ。



c0188818_17485077.jpg忍耐の石
監督: Atiq Rahimi
出演: Golshifteh Farahani, Hamid Djavadan, Massi Mrowat, Hassina Burgan
脚本: Jean-Claude Carrière
制作: Michael Gentile
撮影: Thierry Arbogast
編集: Hervé de Luze
原作: Atiq Rahimi
2012年 アフガニスタン、フランス





こちらは、アフガニスタン出身でフランスに亡命したアティク・ラヒニの原作・監督作品で、
主演がイラン人女優である。
舞台は、はっきりとはわからないようになっているが、アフガニスタンであろう。イスラム
原理派と戦争によって荒廃した村に残る主人公女性は、首に弾丸が当たり植物人間化した夫を
看護している。
未来への希望のかけらも見えない状況にいる彼女は、さほど愛してもいない夫に献身し尽く
しているのだが、何の反応も示さない夫に語る過去のモノローグと、厳しい戦争の現実とが
交錯した画面は現実離れしていかにもアートハウス映画らしい静謐さが漂う。登場人物はごく
ごく少なくて、展開の流れもゆったりしている。
その辺の間の取り方が、まず、前述のキアロスタミ監督映画を思わせる。

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また、会話がほとんどなくて(夫は植物人間、子供達は小さいし、若い兵士は吃音)モノロ
ーグで語られるというのも、前述の映画と似ている点だ。

虐げられ弱々しい存在かと思われた主人公女性には、実は自己中心的で奔放な面もあることが
告白のようなモノローグからだんだんとわかってくる。貞淑な妻ではなく夫を欺いたことも
一度ならずあることが、告白と若い兵士とのふれあいからも徐々に明らかになり、すると彼女
の表情や態度にも悪女らしさが漂うようになる。それが観客にとっては意外で、かえって心地
よい。
髪を出してルージュをぬって明るい色の服を着た彼女は、前述映画のアキコに似てさえ見える。
(どちらの映画でも、主人公と彼女を一番理解してくれる女性が、身を売ったり男に簡単に身
を任せる女性であることも共通項)

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登場人物の数の少なさも、人間同士の不毛のふれあいを描いている点も、両方の映画の共通項だ。
そして、背景となる場所も、寒々した都会と戦争で荒廃した村という違いはあっても、イメー
ジ的には似ているのだ。片方はメタファー、もう一方は実際の風景だが、取り囲むのはどちらも
砂漠である。

そして、唐突かつオープンなエンディング。
展開の意外さからいうと後者の映画の方が面白く、久しぶりに見ごたえがある映画を観た気が
した。
(アカデミー賞受賞作およびノミネート作品もいくつか観たのだが、わざわざ感想を書く気に
なれなかった。)
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by didoregina | 2013-03-08 11:40 | 映画 | Comments(0)

クリスのチェンバロ・リサイタル@聖ヤン教会

クリスティアン・ベザイデンホウト(日本語の表記は色々あるので略してクリス)によるチェンバロ
リサイタルを聴きにいった。

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         チェンバロの制作年代その他由来は説明がなかったので不明。

クリスのリサイタルに行くのは二年振りである。今回はフォルテ・ピアノでモーツアルトを弾くのでは
なくて、チェンバロで弾くバッハとその同時代かそれ以前のバロック音楽なのだった。

CLAVECIMBEL  Kristian Bezuidenhout 2013年2月28日@Sint Janskerk

Johann Kasper Kerll (1627 - 1693)
Toccata in g klein en Passacaglia in d klein

Louis Couperin (1626 - 1661)
Allemande - Courante - Sarabande in e klein (Bauyn MS)

G. F. Handel (1685 - 1759)
Allemande, from Suite Nr. 3 in d klein, HWV 428 - Courante,
from Suite Nr. 11 in d klein, HWV 437 - Aria & Variaties, uit HWV 428

Johann Jakob Froberger (1616 - 1667)
Partita in C groot, FbWV 612a

J.S. Bach (1685 - 1750)
Toccata in d klein, BWV 913

PAUZE

J.S. Bach
Prelude & Fuga in D groot, uit Das Woltemperierte klavier, boek I, BWV 850
Prelude & Fuga in D klein, uit Das Woltemperierte klavier boek II, BWV 875
Prelude & Fuga in es klein, uit Das Woltemperierte klavier boek II, BWV 876
Ricercar à 3 uit het Musikalisches Opfer, BWV 1079

J.S. Bach
Partita in a (naar BWV 1004 voor vioolsolo in d klein) transcriptie voor clavecimbel
door L.U. Mortensen


会場は聖ヤン教会で、コンサート会場としてはお気に入りの部類である。教会にしては残響が少なく、
しかし地元の市民会館ホールほどは音響がデッドでなく、雰囲気も悪くない。
聖母マリア教会よりは、ずっとずっと好みである。しかも、ここには暖房もしっかり入っている!
(このことは11月に行ったコンサートで実証済みだったが、寒さと戦いつつ音楽を聴くのは辛いし
ほとんど難行であるから、暖房が入る教会は快適である)

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        教会内部とパイプオルガン。両脇上層部に注目のこと。

聖ヤン教会について調べるため、サイトをコンサートの前日に見ると、あっと驚く発見があった。
教会建築は、13世紀に建てられた身廊の初期ゴシック部分と15世紀に増築・再建された後期
ゴシックの部分と塔からなり、外側の下層部分は硬いナミュール石、外部上層部分と内部は
柔らかい石灰岩のマール石で出来ている。
元はカトリックの教会だったのだが、1633年オランダ軍がカトリック・スペインからマーストリヒトを
奪回すると、聖ヤンはカルヴァン派のための教会にさせられた。ついでに内部インテリアも
プロテスタントらしく替えるためか、漆喰が剥がされ、内部の壁は石がむき出しになった。
むき出しになった壁のマール石は多孔質のため、湿気や温度と同じく音も吸収しやすい。それで、
残響というものがほとんどない。
いわゆる教会らしい音響が皆無という珍しい教会なのだ。(だから、コンサート会場として好き)
しかし、それではありがたみが薄れてちと困るというので、マイク24本とスピーカー24台を両壁の
上層部に設置し、PA装置で残響を作り出すようにしているのだという。
オフ(残響ゼロ)、説教用に2.5秒、コンサート用に4秒の3種類から選べるという、ハイテク音響
教会なのだ。人工的に作り出した残響で、硬い石造りの教会のような厳かさが出せるらしい。
う~む、なるほど。そのことは今まで知らなかったし、気が付かなかったが、よく見るとたしかに
スピカーが上層部左右に12個ずつ計24個設置されている。
しかし、今までのコンサートでは全く気にならないくらい残響は少なかったし、今回のリサイタルでも
気になるほどの残響はなかった。ほとんど、デッドといってもいいくらいだ。

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         チェンバロの真正面、かぶりつき席に座った。


二年ぶりに真近で見るクリスは、感心なことに全くリバウンドしていないようでスリムなことこの上ない。
椅子に腰掛けてもお腹回りや背中、ヒップや腿などに全く贅肉が見えない。脚なんてすごく細い感じ
である。髪は短めにカットしてすっきり、ステージまでの足取りやお辞儀の仕方その他の所作もすこ
ぶる上品である。古楽界の鍵盤貴公子の名に恥じない。
ただし、顔芸だけは昔どおりで、結構楽しめる。

しかし、肝心なのは外見ではなくチェンバロ演奏である。

チェンバロは、ごくごく微細な音の楽器だから、この聖ヤン教会でも広すぎるくらいだ。
かぶりつき席を陣取ったのは正解で、鍵盤は見えても奏者後方の席ではチェンバロの音は聴こえて
こないだろう。鍵盤後ろ側に座っていた人たちは、休憩後に開かれた蓋の方にほとんど皆移動した。
マイクは見える場所に設置されていなかったから、清々しい生のチェンバロの音が聞こえるのだが、
それはごく近くに座らないとよく聴きとれないのだ。
今までチェンバロ独演に接したことはあまりなく、伴奏だったり通奏だったりするのがほとんどだった。
おのずと膝を正して耳を澄まして聴く、という態度になる。典雅でデリケートなチェンバロの独演では
独特の小世界が形成される。その味わい深さ。機会があったらまた行きたいと思った。

古楽器による古楽演奏ではアルファ波が発生するという自説を持っているのだが、その晩のクリスの
弾くチェンバロからはまさにそよそよ・ひたひたとアルファ波が漂い、かぶりつき席に座っていると全身
でその鮮烈な空気の洗礼を受けることになる。
少し溜まっていたストレスやイライラが優しい音のマッサージで解きほぐされ、とげとげしていた心も
すっきりと癒された気分だ。

当初の予定ではバッハ三昧のプログラムだったが、前半は、バッハより少し前か同時代のバロック
作曲家による曲に変更になった。ドイツの作曲家による曲が多いのだが、どの曲の印象も柔らかで、
まるでおフランスっぽい雅な雰囲気が漂う。ゆったり、ふんわりした優しい空気に包まれる感じだ。
最初と最後のトッカータは緊張感がありちょっと過激なタッチなので他の曲目と比べると異色だが、
じっくりと噛締めると味わいのあるドイツ・パンでふんわりした中身のソフトな曲を挟んだサンドイッチの
ような構成である。

休憩後は、バッハの平均律とパルティータ。アンコールもパルティータからアルマンド(BWV828)。
これらの曲を聴くと、バッハが唯一無二・孤高の天才であることがよくわかる。
鍵盤楽器の可能性を追求し計算しつくした感がある。(だから、楽譜や鍵盤を追っていると、頭が
非常に疲れてくる)
聴いているだけだと、その複雑に織り成される曲の緻密さが美に変換されて耳に届くので、幸福感が
得られる。まるで数式のようなバッハの曲をそういう美に変換できる音楽家は素晴らしいと思う。
クリスのチェンバロ演奏はとても丁寧で、繊細にして奔放、オーソドックスにしてドラマチックだった。
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by didoregina | 2013-03-05 16:34 | コンサート | Comments(12)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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