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ネーデルランド・オペラ(DNO) 2013/2014年演目発表

訂正・追記あり。1,2月は『指輪』ツィクルス>

アムステルダム歌劇場(Het Muziektheater)の De Nederlandse Opera(DNO)が
2013・2014年のプログラムを発表した。
演目はというと、二年続けて非常にオーソドックスなラインナップで、あのトンガリ具合も今は昔と
いうか、まるでどこかの首都の歌劇場のような様相を呈している。

ワーグナー・イヤーということで右に倣えという態度は世間体もあるだろうからまだ許せるとしても、
1998年の指輪プロダクションをこれで最後だからと言い訳してまたもや上演するってのは?
そこには、すなわち、25年目に突入するというオーディ体制の悪しき弊害がはっきりと現れている。
それらの演出もオーディなのだ。。。
1,2月の『指輪』ツィクルスを最後の花道として、オーディはDNOを去るのだろうか。

8,9月  『ジークフリート』 ハーンヒェン指揮 オーディ演出

10月   グルックの『アルミード』  ボルトン指揮 コスキー演出 カリーナ・ゴーヴァン!
      新プロダクション

11月   『神々の黄昏』  ハーンヒェン指揮 オーディ演出

12月   プロコフィエフの『賭博師』  アルブレヒト指揮 ブレト演出! ナジャ・ミヒャエル!
      新プロダクション

1,2月  『ニーベルンゲンの指輪』ツィクルス  ハーンヒェン指揮 オーディ演出 
     (『ラインの黄金』だけかと勘違いしていたことをお詫びし、ここに訂正します。)

3,4月  『ランメルメールのルチア』  リッツィ指揮 ワーゲマーカース演出 
      2007年のプロダクションの再演  マリナ・レベカとイスマエル・ホルディ!

4,5月  『アラベラ』 アルブレヒト指揮 ロイ演出! アンネッテ・ダッシュ!
      ヨーテボリとフランクフルトのプロダクション

5月    『ファウスト』 ミンコフスキー指揮! アレックス・オレ演出! ソニア・ヨンケヴァ
      新プロダクション

6月    マルテイン・パディングの『ライカ』 シーベンス指揮 ミック演出
      新作の世界初演   トマス・オリーマンスとクレロン・マクファデン

6月    『ファルスタッフ』 ガッティ指揮 カーセン演出
      ROH スカラ METとの共同プロ


何これ、一体?ほとんどコメントすべき内容がない。。。がっくり、悄然。
しかし、『アルミード』『賭博師』『ルチア』『アラベラ』『ファウスト』『ファルスタッフ』は
観てもいいかな、というか、演目があまりにオーソドックスなだけに、演出に期待できそうな気も
しないでもない。いや、するしかないだろう、アムステルダムの面子にかけても。

バロック・オペラはひとつもない。カウンターテナーが出演するオペラも全くない。(コンセルトヘボウ
のコンサート形式で、3つくらいはあるが)
ときめきが感じられないし、安全第一でチャレンジ精神が見えないという、これは世界的傾向なの
だろうか、時代の趨勢なのだろうか。なんともはや、寂しいことである。
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by didoregina | 2013-02-26 22:57 | オペラ実演 | Comments(24)

2013/2014年、コンセルトヘボウにPJが2度登場!

<CT数名の追記あり>

アムステルダムのコンセルトヘボウは、今年創立125年を迎える。コンセルトヘボウとは
オランダ語で「コンサートの建物」と言う意味で、すなわちザ・コンサートホールというわけだ。
ホール専属オーケストラであるコンセルトヘボウ・オーケストラ創立も同じく125年になるので、
記念世界ツアーを行っている最中だ。

ホールの方のコンセルトヘボウのサイトで、何気なくアーティスト名および作曲家名を検索したら、
来シーズンのコンサート情報がぞろぞろと出てきた。
わたしが興味を持つカウンターテナーやバロック系だけに限っても、素晴らしいラインナップである。

まず、ユリア・レージネヴァの新譜プロモーションのメールが来たので、ユリアちゃんで検索したら、
なんとすごいコンサートがヒット。

2014年1月19日(月)にユリアちゃんとPJことフィリップ・ジャルスキーによるペルゴレージの
『スターバト・マーテル』、ヘンデルの『サルヴェ・レジーナ』、ヴィヴァルディのコンサートが!
ディエゴ・ファゾリス指揮でイル・バロッキスティの演奏。

PJは、昨年末の『アルタセルセ』公演を最後に、現在8ヶ月のサバティカル中であるが、
当然ながらすでに来シーズンの予定は決まっている。ユリアちゃんとの『スタバ』以外にも、
2013年10月20日(日)に「ファリネッリ」と題して、ポルポラ作曲のアリアのコンサート
アンドレア・マルコン指揮ヴェニス・バロック・オーケストラと共に行う。

ユリアちゃんも、来シーズン、コンセルトヘボウには2回登場する。
9月21日(土)のヘンデル『アレッサンドロ』コンサート形式上演である。これは、マックス・
エマニュエル・チェンチッチ
が題名役の他、グザヴィエ・サバタ ワシリー・コロシェフも出演する。

チェンチッチ繋がりで、ヴィンチ『アルタセルセ』コンサート形式の日程とキャストも出てきた。
2014年5月10日(土) ファゾリス指揮コンチェルト・ケルンの演奏は昨年の公演およびCDと
同様だが、再演ではPJが出演しないと明言されていた。その代わりは誰か。コンセルトヘボウの
スケジュールによるとVince Yiのようである。(ロシア系とか韓国系CTと噂されていた、その彼)
チェンチッチファジョーリバルナ=サバドゥスミネンコ、ベーレは続投のようである。

チッチは、コンセルトヘボウでは毎回マチネに登場していたが、来シーズンもそうなのでうれしい。

ここまででも、ユリアちゃん、PJ、チッチがそれぞれ2回登場するのだが、その他気になるCT
は、どうなっているだろうか。

イェスティン・デイヴィスも、来シーズン、コンセルトヘボウに2回登場だ!
11月26日(火) ブリテン『カンティクルズ』、パーセル、シューベルトというすごい組み合わせ
のプログラムで、イェスティン君の他、歌手はマーク・パドモア、ピアノ伴奏にドレイク、そしてハープ
のラヴィニア・メイヤーという、これも面白い組み合わせだ。

2014年4月17日(土) 『ヨハネ受難曲』にもイェスティン君が出演する!

ヨハネとくれば、マタイも忘れてはならない。オランダでは、復活祭前後はもう連日連夜各地で受難曲
コンサートが行われる。コンセルトヘボウだけでも様々な団体によるコンサートが10回以上あるのでは
ないだろうか。その中で、これは絶対に外せないのは、ヘレヴェッヘ指揮コレギウム・ヴォカーレ・ヘント
『マタイ受難曲』だ。
2014年4月11日(金) ソリストは、キャロリン・サンプソン、ダミアン・ギヨン、ペーター・コーイ他。

ヘレヴェッヘ、CVG、ギヨン君、コーイの組み合わせでは、別のバッハ・カンタータ・コンサートも
2014年6月7日(土)にある。こちらには、ドロテー・ミールズも出演。
同様のメンバーの組み合わせに、ハナちゃん、マクラウドも出演して面白そうなのは、
12月1日(日) シュッツの『ダビデ詩篇』だ。 

11月2日(土) マルク・ミンコフスキ指揮LMDLGによるバッハ『ロ短調ミサ』には
テリー・ウェイとデルフィーヌ・ガルーも出演する!

11月28日(木) ヘンデル『リナルド』コンサート形式には、カルロス・メナオリヴィア・ファームー
レン
ちゃん、オーウェン・ウィレッツが出演だ。リナルド役はCTのメナなのかそれともメゾのオリヴィア
ちゃんなのか。多分後者であるとほぼ確信しているが。

オリヴィアちゃんも来シーズン、コンセルトヘボウ2回登場組だ。
10月12日(土) デュリュフレ、リーム、マネケという20世紀および現代もののコンサートに出演。

12月16日(月) ヘンデル『メサイア』に、ヌリア・リアルちゃんが!その他、ポール・アグニュー、
ロビン・ブレイズも出演。

オランダの若手CTといえば、マールテン・エンゲルチュスも忘れてはならない。
12月29日(日) マイク・フェントロス指揮ラ・スフェラ・アルモニオーザによるヴィヴァルディおよび
カプスベルガーのコンサートに登場する。

それ以外に面白そうなのは、ソプラノのバーバラ・ハニガンが指揮もしちゃうというコンサート。
2014年4月5日(土) ハイドン、モーツァルト、ストラヴィヴィンスキーというハニガンらしからぬ
プログラムで、コンセルトヘボウにおける彼女の指揮正式デビュー。

チェチリア・バルトリやエリナ・ガランチャ、そしてジョイス・ディドナートも来シーズン、リサイタルを
行うので、近くに住んでいたら行きたいコンサート満載のコンセルトヘボウである。

11月11日(月) ディドナートのリサイタルはCD『ドラマ・クィーンズ』のツアーの一環で、
イル・コンプレッソ・バロッコはアラン・カーティス指揮ではなく、カウンターテナーでもあるコンマスの
ドミートリ・シンコフスキーの弾き振り。エイントホーフェンにも来るのでは、と期待している。

唯一寂しいのは、来シーズンのコンセルトヘボウのプログラムに今のところ、クリストフ・デュモー
名前が見当たらないことだ。
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by didoregina | 2013-02-25 21:21 | カウンターテナー | Comments(17)

マレーナ様、バーデン・バーデンでドンナ・エルヴィーラ!ネトレプコ、シュロット、ピサローニと共演!

あまりの驚きに、キーを打つ手も震えがちです。
さきほど何気なく、マレーナ様のオフィシャル・サイトを覗くと、2013年オペラ出演のお知らせが
でていました。つい先ほどアップされたばかりのようです。

それによりますと、今年バーデン・バーデン祝祭劇場の『ドン・ジョヴァンニ』のドンナ・エルヴィーラ
役で出演、しかもアンナ・ネトレプコ、アーウィン・シュロット、ルカ・ピサローニ、チャールズ・カステル
ノーヴォと共演!と書いてあるではありませんか。

劇場サイトで確かめると、指揮はヘンゲルブロック、そして上記出演者の名前は出ていますが、
ドンナ・エルヴィーラ役歌手もマレーナ様の名前も見当たりません。急に決まったのでしょうか。
ともあれ本人がオフィシャル・サイトに書いているのだから、これ以上確実な情報の出所はありえず、
ガセネタということはないでしょう。
『ドン・ジョヴァンニ』の公演日程は、5月17、20、23、26日で、まだチケットは予約可能のよう
です。
いったいわたしは、どうしたらいいのでしょうか。。。
こういう事態になるとは全く予測していませんでした。マレーナ様がネトレプコと共演。。。

また、マレーナ様は来シーズンには、チューリッヒ歌劇場の『アルチーナ』にルッジェーロ役で
出演することが決まっています。タイトル・ロールはチェチリア・バルトリです。ああ、ここも高いし
バルトリ姐主演ということでチケット争奪戦になるのは必至だし。。。

まずは、4月のウィーンでの『ベアトリスとベネディクト』の予習CDを聴いて頭を冷やしながら
考えてみます、いったい、どうすべきか。。。
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by didoregina | 2013-02-22 14:18 | マレーナ・エルンマン | Comments(10)

オランダの小さな町で出会った17世紀のワイン・グラス

ハーレムのフランス・ハルス美術館に行った1週間後、今度はオランダ中部の森林公園の北に
位置する村に出かけた。オランダに散らばっている旧友たちが年に一度一堂に会する週末という
もので泊りがけになる。

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             ハッテムのマルクト広場に建つ市庁舎

土曜日の午後、ハッテムという小さな町に足を伸ばした。いかにも中北部らしい清潔感が漂い、ズ
ウォレの小型版という印象だ。

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             町を取り囲む城壁にある城門の塔


地元の画家の絵などを展示してあるとても小さな郷土博物館に入った。
アイセル川の河川敷にいる牛や帆影の見えるアイセル湖などを描いた風景画が多く、それらの構図は、
オランダ特有の地平線が低く、空が画布の3分の2を占める遠景である。

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            マルクト広場に建つ教会の横手


そして、ガラスの陳列ケースの中に、あの見覚えのあるワイン・グラスを発見して、狂喜した。

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            17世紀後半に作られたワイン・グラス。
            クラースゾーンが描いたものそっくり。

丁度一週間前にフランス・ハルス美術館で観た絵に描かれたものとほぼ同じタイプである。
本物は、思ったよりもかなり大振りで、脚の部分も空洞になっているので入るワインの容量は
相当なものになる。半リットルはありそうだ。説明版を読むと、果たして、宴会などで回し飲み
するため、と書いてある。

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            こちらはプラド所蔵の絵。探したが本物には出会えず。
            (Pieter Claesz., Bodegon, 1637, Madrid,
             Museo Nacional del Prado)

なるほど、たしかに、こうして本物のワイン・グラスをじっくり観た後で、絵の方のワイン・グラスを
見ると、その手前に描かれたレモンや胡桃と比べてワイン・グラスは相当に大きい。
グラスの脚部分に張り付いているブラックベリー様の形状のボツボツには、手に持ったときの滑り
止めの役割もあったのだろうか。ガラスそのものはかなり薄手で、これにワインを入れたものを
手にすると緊張感が伴ったろう。洗うときにも、細心の注意が要するだろう。

本物のグラスの方は、見る角度によって、表面に蜘蛛の巣が張ったように見える。
これは、なんと20世紀になって掃除婦さんの不注意で割れたのを接いだものだそうだ。17世紀の
グラスだけに貴重なので、特殊技術で接着剤を使わずに接いだそうだ。その修復技術の確かさは
表面上は滑らかで、光線の加減によって細い蜘蛛の巣状の線が見えるだけということからも明白だ。
本物のグラスに出会うことが出来たので感極まって、博物館に写真撮影許可を求めたら、そういう
説明をしてくれた。小さな郷土博物館所蔵のこのグラスの価値を認めてくれる訪問者がいることを
向こうも喜んでいるようだった。

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           郷土博物館の筋向いの建物は擬ゴシック窓が珍しい。
           その手前にタンタンと犬のミルー
            

翌日は、友人の犬といっしょに、森林公園北辺にあるヒースの野と沼沢地を散歩した。

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         寒いのに、沼に入って水浴びしてる犬。
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by didoregina | 2013-02-21 16:45 | 旅行 | Comments(4)

内田光子さんのリサイタルに着物で

内田光子さんがオランダでいつもコンサートを行うのは、アムステルダムのコンセルトヘボウと
エイントホーフェンのフィリップス・ミュージックヘボウ(ミュージックセントルム)のみだと思う。
前者の場合は誰にも合点がいくだろうが、なぜ後者にも毎年来てくれるのか?
多分、昔からのフィリップス・レーベル繋がりではないかと思われる。

今回のプログラムは以下のとおりだった。

Mitsuko Uchida @Muziekgebouw Frits Philips Eindhoven 2013年2月13日

平均律クラヴィーア曲集第二巻より
Bach - Prelude and Fugue No1, BWV 870
Bach - Prelude and Fugue No14, BWV 883

Schoenberg - Sechs kleine Klavierstücke opus 19

Schumann - Waldszenen

(休憩)

Schumann - Sonate nr 2

Schumann - Gesänge der Frühe


当初のプログラムは、ベートーヴェンの『ディアベッリ変奏曲』とシューベルトのソナタの予定
だったのが変更された。
『ディアベッリ』は、特に聴きたい曲ではないが、内田さんの弾くシューベルトは魅力的だ。
対するに、バッハとシェーンベルクはぜひとも聴きたいが、シューマンはさほど好みではない。
というわけで、曲目変更されても、感情的には差し引きゼロの勘定である。

今回のコンサートには行こうかどうしようか迷っていた。というのは、その週には寒波が来る見込み
との予報だったからで、夜更けに1人で1時間も高速を飛ばすのはなんだかいやだなあ、と尻込み
していたのだ。あまりに荒天になった場合、市内の義妹の家に泊めてもらうという手もあるのだが、
その週はカーニヴァル休みのため家族揃ってスイスにスキーに行っていて留守だ。

そこへ助っ人登場。同行者が三人現れ、しかもわたしは車を運転する必要なし。
その3人とは来週のクリスによるバッハのチャンバロ・リサイタルに同行する人たちで、内田さんの
プログラムにもバッハの『プレリュードとフーガ』が加わったため、チェンバロとピアノとで聞き比べ
ようという訳だ。

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            母が結んだ糸で織ってもらった帯。

内田さんは、動きやすそうな黒のジャンプ・スーツみたいなのをお召しで、金色の幅広サッシュを
腰に巻いて左側でリボン結びにしている。ジャンプ・スーツは三宅一生か山本耀司のデザインの
ような感じで、機能的かつ内田さんのスレンダーな体型にマッチしている。金色のサッシュをしている
ところがいかにも彼女らしい。

バッハをモダン・ピアノの生演奏で聴くのは、本当に久しぶりだ。
内田さんによるバッハ演奏は、ペダルも多用したレガートで、しかもかなりの弱音から始まって、
強弱の付け方もモダン・ピアノらしい音作りである。
すなわち、消え入りそうに儚いタッチで揺らしつつ弾かれる前奏曲と、ごつごつしたところがなく
滑らかに流麗に弾かれる3声のフーガとの対比もロマン派風アプローチなのである。
バッハをピアノで弾くからといって、ノン・ペダルでいかにもぽつぽつしたチェンバロっぽい音を出そうと
する必要はないし、生真面目一本やりみたいな弾き方ではなく、洒落っ気があって耳に心地よい。

シェーンベルクの演奏前に、一旦席を立って内田さんは楽屋に戻った。それが結構長い時間席を
外していたので会場がざわざわとなって、また内田さんが戻ってきてもなかなかしーんとはならない
のだった。これは困る。シェーンベルクの曲はとても短いが、弾く方も聴くほうも集中力を要する
真剣勝負の趣であるのだ。
隣のおばあちゃんはバッハが始まったら爆睡していたし、短い曲間や弱音になると傍若無人に咳を
する人が多くて非常に耳障りである。音が大きくなるのにタイミングを合わせて咳もすべきである。
そのくらいの覚悟がなかったら、家で寝るなりコンサートはお休みしてもらいたいものだ。
シェーンベルクもウィーンの人であるから、内田さんのレパートリーには適っている。奇をてらわず
全くエキセントリックにならずにロマンチックに聴こえる演奏だった。

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            内田さんのイメージで選んだ着物は結城紬。
            真綿紬なのでほっこりと暖かく、冬にぴったり。
            鶯色の地にグリーンの細かい格子と横縞。
            母が手で結んだ糸を横糸にして織ってもらった帯。      
            光沢のあるオレンジの地にクリーム色系のグラデーションの
            パステル・カラーの結び糸が、ひげのように出ている。
            帯揚は、紺にクリーム色の菊模様。
            帯締は、クリーム色のごろっとした変わり組。
            (多分、叔母が組んでくれたもの)


わたしはシューマンのピアノ曲にはあまりそそられない。つまり、弾いてみたいと思わせる曲が
少ない。
前半最後の『森の情景』は、ピアノ師匠Pのレパートリーでもあるのでまだ聴く機会があるが、
ピアノ・ソナタ第二番なんて、その晩聴くのが初めてであった。

『森の情景』には『子供の情景』のような無邪気な面が少なくて大人っぽく、複雑さと奥深さも
秘めつつ、鳥のささやきや狩の馬や犬の駆ける様子などがリアルな情景として目に浮かんでくる。
内田さんのデリケートな演奏でしっかり聴くと、その複雑さがミクロコスモスのように有機的に絡まって、
森の樹間から湧いてくる霧のように神秘的に響き、いい曲だなあと思わせる。

最後の『暁の歌』では、情景としての叙情性が少なくなり、怪奇な暗さが増している。ロマンチシズム
の真骨頂ともいえる彩りの所々に耳を引掻くような不安感を募らせる音が混じる。しかも、ベートーヴェン
のように昇華するところがなく、閉塞感のある曲である。
この小さな不安を煽るような曲も、内田さんは繊細に魂を込めるかのように弾き聞かせてくれた。

アンコールは、モーツアルトのソナタの一部。(特定できなかった)
前半は爆睡していた隣のおばあちゃんも、休憩中にスイッチが入ったようで、最後には一部分いきなり
ピアノに合わせて口ずさんだりしていた。晩年のホロヴィッツみたいなとろけそうな顔の白髪の彼女は、
しかしかなりオシャレであり、多分ピアノ教師ではないかと思われた。

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休憩中や、トイレや、帰りの出口などでもわざわざ寄ってきては着物を褒めてくれる人がいるので、
同行者たちは、着物の威力にびっくりしていた。
内田さんのリサイタルに、彼女のイメージに合わせた着物で行ったのは大正解であった。

         
  
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by didoregina | 2013-02-18 09:34 | コンサート | Comments(10)

ハーレムのフランス・ハルス美術館

ハーレムは北オランダで一番好きな町だ。
オランダ南端のマーストリヒトに住んでいてそこが一番気に入ってるのだが、色んな意味で
正反対の町ハーレムにも同じくらいの愛おしさを感じる。アムステルダムから電車で15分
くらいだし、ここに住んだらさぞ楽しかろうと思われる。(実際、長男の友人はアムステル
ダム市内に適当なアパートが見つからず、ハーレムに下宿してアムステルダムの大学に通っ
ている)
そして、17世紀のオランダ画家の中では、フランス・ハルスが一番好きだ。

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          フランス・ハルス美術館の建物は17世紀の養老院を
          そっくりそのまま使っている。

今年が開館100年目に当たるフランス・ハルス美術館は、独自のフランス・ハルス・イヤー
として特別展を企画している。あの愛らしい幼児としっかり者の乳母を描いた傑作肖像画の
『カタリーナ・ホーフトと乳母』がベルリンから来るし、ルーブルからは『リュートを弾く
道化師』もやってくる!
このアナウンスがなされたのはずいぶんと前なので、特別展はすでに始まっているものと
思っていたら、実際には3月23日から。ちょっとがっかりしたが、久しぶりに訪れたフラン
ス・ハルス美術館は改装が完了して建物内部は美しく調和し、所蔵品はすっきりした配置で
収まるべき場所にきちんと展示されていて、記念イヤーの準備はすっかり整っているように
感じられた。

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           古い部分と近年の新増築部分がスムーズに繋がる。

美術館の入場料金10ユーロ(特別展はプラス3ユーロになる)に、オーディオ・ガイドの
貸し出しも含まれている(蘭・英・仏の3ヶ国語)のは、素晴らしいサーヴィスだと思う。
今回はNSのヴァウチャーのおかげで二人でたったの10ユーロになったから、もう感謝
感激だ。
写真撮影に関しても、フラッシュを焚かなければOKと言われた。

順路に従うと、16世紀の画家ヤン・ファン・スコレルから始まり、マールテン・ファン・
ヘームスケルク、コルネリス・ファン・ハーレムなどといった地元出身の画家の聖書を題材
にした絵や風景画やハーレムの教会内部を描いた絵の数々を観ることになるのだが、オー
ディオ・ガイドの説明のおかげでこういう比較的マイナーな画家による絵画も結構面白く
観つつ、進むことができる。

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           マイセン陶器のコレクションも控えめながら吟味されてる。

黄金時代の古い建物や当時の有力者の豪邸などをそっくりそのまま美術館としている所
には、窓ガラスや壁紙(壁革)や暖炉や真鍮のシャンデリアや調度などもきちんと残され
たり復元されているので、絵だけを鑑賞するのではなくその時代の匂いも同時に味わうこと
ができるのがうれしい。
こういう小さな美術館には、時代精神が凝縮されていて大変好ましい。

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          ハーレムの自警団の集団肖像画のある部屋には
          当時の会合での食卓が再現されていて楽しい。

レンブラントの気概が凝縮したような緻密な構成と描写の肖像画の数々も感動を呼ぶもの
ではあるが、わたしは、ハルスの肖像画に特有の、一瞬の表情を捕らえて、服のひだ飾り
などもささっと描いたあの気楽さがずっと好きだ。
前者の絵にはバッハの音楽のようなぎっしりと計算しつくされた濃さがあり、見つめている
こちらの頭の中も覗きこまれるようで、息苦しくなってくる。
それに対して、後者の絵の密度はずっと緩やかなので、ゆったりのんびり楽しめるのだ。
オペラ・ブッファのようなお気軽な態度で臨める。

バッハの音楽は、聴いてる分にはこの上もなく美しいのだが、自分でピアノ演奏すると
あまりに構成が複雑で、入り組んだものが一体化して成り立っているので、いったいどこで
息をついだらいいのか分からなくなり、苦しくなってくる。頭痛がしてくる。
レンブラントの絵も、分析的な目でじっくり対峙しないで、あっさりと観るくらいがいいの
かもしれない。

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        ピーテル・クラースゾーンの朝食画

ハルスの絵以外にも色々と楽しい絵が架かっていて、特に楽しみにしていたのは食卓の
静物画。
主人もわたしもこの手の絵に目がない。宝くじが当たったら、17世紀の本物の静物画を
ぜひとも手に入れて食堂に飾りたいと思っているので、美術館や美術フェアなどでいつも
じっくりと吟味する。

クラースゾーンの朝食画を、主人はマドリッドのプラドでも探した。ところが、所蔵されて
いるはずだし、ミュージアム・ショップで絵葉書も売っているのに、どこを探しても展示
されていなかったのだ。上掲の絵と似たタイプで、ワイン・グラスに白ワイン、真鍮の皿に
切ったパンとレモンが載っていて、胡桃も殻から剥いたばかり。テーブル・クロスもワイン・
グラスもナイフも、上の絵と同じもののようだ。

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        ユディット・レイスターの『ペーケルハーリング氏』

もう一つうれしかったのは、女流画家ユディット・レイスターの『ペーケルハーリング氏』が、
アムステルダムの国立美術館から長期貸与されていることだ。
ハルスの弟子であったと言われる彼女は、ハーレムで初めて職業画家と名乗ることを許され
た女流で、組合にも加入し弟子を取り、有力者たちから作品の依頼を受けたという恵まれた
画家だ。

この陽気な酒飲みのペーケルハーリング氏の絵には、題名にも描かれた細部の小道具にも
象徴性があるが、それよりも人のよさそうな顔といかにも楽しそうな姿に、思わず、乾杯!
と言いたくなる。このお気軽さがハルス的で好きだ。

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           新増築部分のミュージアム・カフェはインテリアもいい感じ。

オーディオ・ガイドを聴きながら絵を鑑賞するとかなり時間がかかる。大分お腹も減ったし、
喉も渇いたので、お約束のミュージアム・カフェへ。

サンドイッチ類やケーキ類は非常に大型なので、甘いものとしょっぱいものを一個づつ頼んで
二人で分けて食べて丁度いいくらいだった。そして、地ビール!

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          ハーレムのヨーペン醸造所のビール2種

ハーレムには、16世紀にスペインの圧制から逃れるためアントワープなどのフランダース
地方から逃げてきた人たちが住み着いたため人口が2倍になったと、オーディオ・ガイドの
説明があった。
ハルスもアントワープ生まれだが、子供の頃一家でハーレムに移った。そういう人たちに
よって経済や文化が勃興し、オランダ17世紀の黄金時代を築く礎になった。
ハルスや同時代の絵の依頼主にはビール醸造所経営者が多かった。
美味しいビールを造る技術もフランダースから来た人たちが伝えたのだろうか。このハーレ
ムの地ビールには北オランダのビールらしからぬコクがあって、実に美味しい。
ベルギー・ビールを信奉するわたしだが、ハーレムにおいてオランダのビールを見直すこと
になった。

右がブロンドのJopen Hoppenbierで、大麦、カラスムギ、小麦の3種の麦とホップを通常の
2倍使うという1501年のレシピに基づいて作られた。3種の麦のミックスがかもし出す複雑
な味にきりりとしたホップの苦味が加わり、ピルシュに代表される一般的オランダ・ビール
とは全く異なる深みのあるビールだ。アルコール度は6,8%

左はMalle Babbeで、ベルリンにあるハルスの描いた『マレ・バベ』の名前が冠されている。
こちらは、ドゥンケル・ヴァイツィエンで、小麦から作られたダーク・ビールだ。白っぽい
のが普通のヴァイツェンだが小麦モルツの焦がしたのを加えてダークにした。フルーティー
な酸味とキャラメルのような甘みのバランスが絶妙だ。ホップはドイツのサフィアを使用。
アルコール度5%。

ヨーペン醸造所のサイトを見ると、ハーレムのビールは昔から有名で、15世紀にアントワ
ープで最も飲まれたビールがこのハーレムのKoytだったらしい。
ということは、当時ビールはベルギーよりもこちらの方が本場だったのだ。おみそれしました。
今回飲んだ二種のヨーペン・ビールは、思わず脱帽するほど美味だった。
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by didoregina | 2013-02-13 12:00 | 美術 | Comments(8)

カーニヴァルからのエクソダスでハーレムへ

南部のカーニヴァルの騒音・雑音から逃れるため、土曜日に北部まで出かけた。
オランダ鉄道の安売り切符(1日全区間乗り放題2枚で25ユーロ)の使用期限が今月末まで
と迫っていたからでもある。

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どこに行こうかと主人と相談すると、第一候補は新装オープンしたアムステルダムの市立美術館。
しかもその日なら、筋向いのコンセルトヘボウでルセ指揮タラン・リリクとヘレンベリその他の歌手に
よるバロックの魅力的なマチネ・コンサートもある。
しかし、いい座席のチケットはすでにほとんど売り切れ。P席や平土間の前3列など、音響的にも
視覚的にもイマイチの席しか残っていない。最近は、そういう視覚的に難がある場所だと情けなく
なってくるから避けたい、という気持ちが強いのだ。
市立美術館は、増築部分のインテリアをじっくり見たいと二人とも思っていた。現在は特に面白そうな
特別展はない。それでいて入場料は1人17ユーロ50セントも取られる。う~む。

すると、またもやオランダ鉄道からオファーが来た。フランス・ハルス美術館に1人分の入場料金で
チケット2枚どうぞ、というヴァウチャーである。
それで行き先をハーレムに変更した。いや、どこでもかまわない、オランダを南北に分割する大河
より北側のプロテスタント地域にさえ逃避できれば。そこはカーニヴァルとは縁のない静地である。
予想通り、北に向かう電車は空いていたし、途中で乗り換えたアムステルダム中央駅でもハーレム
駅でも仮装している人は1人も見かけなかった。

ハーレムは、北オランダで一番好きな町だ。オランダの黄金時代そのままにしっとりとした美しさが
街並みに残っていて落ち着ける。そして、一番美しいオランダ語が話される町でもあるのだ。
しかし、ハーレム駅前広場は、バス・ターミナルとしての機能重視を第一としているらしく、恐ろしいほど
醜くつまらない広場に変貌してしまっていた。
駅前広場をさっさと通り過ぎて町の中心に向かうと、あちらこちらに素敵な建物がある。

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        ハーレムに現在でも残るホフュの一つ。Hofje van Oorschot

ハーレム出身の知人が、「ハーレムにはホフュが今でも沢山残っているのよ。建てられた当時は
貧しい人たちのための住居だったけど、今では人気があって入居するのが難しいほど」と、以前
教えてくれた。彼女のオランダ語も美しい発声なので聞いていて気持ちがいい。彼女も結婚前まで
ホフュの中の一軒に住んでいたのだった。

ホフュとは、中庭を囲む形で建てられた30戸ほどの集合住宅で、ハーレムには盛時には全部で40の
ホフュがあったが、現在でも20残っている。基本的に貧しい老人や寡婦などの老女を救援するための
公共住居で、一番古いものは13世紀、新しいものは19世紀に建設された。
現在は一般の人が入居しているが、いずれのホフュも観光名所として敷地は開放されている。
(週末には門が閉まるが、平日は10時から17時まで庭などの敷地が一般公開されている)
17世紀や18世紀の豪商が残した遺産を 貧者救済の目的に使うようにとの遺志を守って建てられた
ホフュだが、当時の入居条件として一般的だったのは、50歳とか60歳以上の老女でカルヴァン派を
信奉する人ということだった。

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   フランス・ハルス美術館の建物も17世紀のホフュ。こちらは男性老人用。


聖バーフ教会のあるマルクト広場から、フランス・ハルス美術館のある通りまでは、賑やかな商店街
から一筋横の道を歩くと情緒があっていい。ひょいと見える横丁や路地にオランダ黄金時代の庶民
生活の息吹が今でも感じられるような気がする。

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         ハルス美術館の口の字形の建物に囲まれた中庭。いかにもホフュそのもの。
     

美術館の向かいの建物は17世紀の元聖エリザベト施療院で、ハルスが描いた病院理事達の肖像
画もフランス・ハルス美術館にある。

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             聖エリザベト施療院


その右隣につながる家並みを、現在ブログのスキン写真にした。
ハーレムのこういう通りを歩いて、ハルスの時代からある建物内の美術館で当時の養老院理事や
町の自警団の肖像画などを見ていると、その頃の地霊が今もそこに宿っているのが体感出来る。
フランス・ハルス美術館に関しては、また別の記事にしたい。
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by didoregina | 2013-02-12 12:55 | 旅行 | Comments(2)

Life of Pi 『ライフ・オブ・パイ』

この映画を鑑賞したのも、すでに3週間以上前である。
友人のTとH夫妻と私達夫婦の4人で、丁度主人がインドへ出張する前夜に観に行った。
映画の主人公がインド人少年とベンガル虎だし、TとHのヨットで今年も6月に北海セイリングに
参加する予定なので、この映画の選択はどんぴしゃ、正鵠を射るものと言えよう。

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Life of Pi (3D)

監督 Ang Lee
原作 Yann Martel
脚本 David Magee

Suraj Sharma (青年パイ)
Irrfan Khan  (大人になったパイ)
Ayush Tandon (少年パイ)
2012年 アメリカ・台湾





最近は、『クラウド・アトラス』やこの『ライフ・オブ・パイ』のように、映像化は不可能だろうと
言われていた小説の映画化が相次いでいる。
それにはCGやSFXなどによる映像合成処理の進化も大きく貢献しているだろうが、それよりも
もっと重要なのは、映画監督の想像力と創造性が柔軟で既存の枠に囚われずに飛翔することで、
それが不可能と思われた映画化を可能にしかつ成功に導いたのだ。

突飛なファンタジーのようなストーリーを映像化する場合、いかにもファンタジー映画に特有の
トリックを用いた映像だけでは元々浅い底が割れてしまい、シネフィルの心を揺さぶるには至ら
ないものだ。
それが、この映画では、ありえないようなストーリーなのになぜか信憑性を持たせて、観客を
その渦の中にぐいぐいと惹き込む独特のパワーがある。そして、それに乗せられる心地よさ。

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大人になったパイが作家に語る半生は、リアリティに溢れる実話のようでいてかつ御伽噺めいている
のだが、エキゾチックなインドでの生活や海上での漂流も、誰も実際に見たり体験したことがないこと
ばかりだから、インドでならそして太平洋上ではありうるかも、という気分になり、その世界にかえって
入り込みやすいというのがポイントである。フィクションの世界を観客の心にするりと無理なく忍び込
ませる技量が優れているのだ。

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虎はペットには出来ない、人間と虎との心の交流などはありえない、という教えが出発点であり、
そこがこの物語の意外性と現実味が同時に存在する下地になっている。甘いファンタジーの要素を
そこで排している。
誰が上位に立つのかはっきりさせないと食われてしまう。いつでも気が抜けない。ただでさえ過酷な
洋上漂流サバイバルを生き延びるだけで大変なのに、虎とも共存しないといけないのだ。

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3Dで見ると、自然の美しさが拡大・強調されて迫力満点だ。
満月や、波のしぶきや、襲い掛かる猛獣や、海面から飛び上がる鯨や、夜光虫や飛び魚やミーア
キャットの群れなどの自然描写が現実離れしていて目にも心にも心地よい。

希望を失わずに創意工夫を凝らして生き延びる少年パイの物語は、存在の意義という問いへの一つの
答えを示している。
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by didoregina | 2013-02-11 11:21 | 映画 | Comments(6)

今年は、カウンターテナー・ルネッサンス

追記いくつかあり)
今年も昨年と同様、特に若手カウンターテナー(CT)を応援し、各地での活躍を見守っていきたい
と思っている。
先週の『セルセ』@デュッセルドルフでは、近い将来CT界を背負っていくに違いない二人の若手
歌手(ヴァラー・バルナ=サバドゥスとテリー・ウェイ)の実力を目の当たりにすることができた。
生舞台での彼らの歌唱は頼もしい限りで、まさにCTルネッサンスを実感させたのだった。

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なぜ、あえてカウンターテナー・ルネッサンスなどどと仰々しいタイトルを掲げたのかというと、CT界に
おける新旧交代は既成事実となった今、そこから一歩先に進んで、バロック・オペラのルネッサンスにも
寄与してもらいたいという願いを込めているからだ。
メゾ・ソプラノに拮抗する声域と歌唱の安定性およびテクニックに加えて、男性ならではのパワーを身に
付けしかも進化を続けるCTを若手有望CTとして注目していきたい。

彼らのスケジュールを追ってみよう。

まず、クリストフ・デュモー
1月と2月に、ルネ・ヤーコプス指揮フライブルク・バロック・オーケストラにユリア・レジネーヴァ
その他の共演でヘンデル『時と悟りの勝利』を演奏会形式に出演。この公演はウィーンとパリだけかと
思っていた。なにげなくFBOのサイトを見ると、なんと、ケルンでも2月15日にコンサートがある
ではないか!
デュモー選手の公式サイトがないのと、マネージメント会社もスケジュールのアップ・デートをあまり
行わないので知らなかった。とんだ落とし穴である。同行してくれる人がいたら行きたい。。。
4月と5月は、NYのメトロポリタン歌劇場でジュリオ・チェーザレ』のトロメオ役。デヴィッド・ダニエル
ズとの対比も鮮やかに、新世代CTの魅力を一般オペラ・ファンにもアピールしてくれるだろう。

追記
マドリッドの国立歌劇場の来シーズン演目が発表された。すると、11月にデュモー選手がパーセルの
『インドの女王』に出演することがわかった。そして、同月18日にコンサート形式で1回きりだが
パーセルの『ダイドーとイニーアス』もある。ケルメス姐がダイドーでヌリアちゃんがべリンダ!もしも
マドリッド遠征をするなら、17日か19日の『インドの女王』と組みあせたら万全である。
また、皆様十分ご承知とは思うが、11月にはバルセロナでマレーナ様、サラ様、ダニエルちゃん他
出演の『アグリッピーナ』も上演させるから、特に日本からヨーロッパ遠征される方は、スペインだけで
これら3演目を上手く組み合わせることも可能だ。

追記その2
書き忘れていたが、マックス・エマニュエル・チェンチッチは今年も忙しそうだ。比較的近場に登場する
のだけ挙げる。
9月にパリ、ウィーン、アムステルダムで『アレッサンドロ』!チッチはアムスのコンヘボではいつも
マチネ公演してくれるのがサーヴィス満点。サイン会を見越して既にCDゲット済み。
ユリアちゃんその他女性陣の競演が楽しみだ。
11月にフランクフルトでグルックの『エツィオ』。これも共演者が誰なのか気になる。CDがセールに
なってるから、一応買っておこうか。11月にヨーロッパ遠征する気になってる方には、ファジョーリの
『リナルド』@ウィーンもあるし大変だ。(ファジョーリは、10月にミュンヘンで『セメレ』にも出演)


ヴァラー・バルナ=サバドゥス(略して鯖奴。マダム貞奴の男性版として羽ばたいてもらいたい)
3月にヴェルサイユとリヨンでペルゴレージ『スターバト・マーテル』
3月~6月にギーセン市民劇場で、ヘンデル『アグリッピーナ』のネローネ役!(オットーネ役には
テリー・ウェイ。)セルセに続いてまたしてもマレーナ様の当たり役ネローネを歌うというのが興味深い。
マレーナ様ネローネは11月にバルセロナで公演が決まっているから、二人を聴き比べてみたい。
7月は、エクサンプロヴァンス音楽祭でカヴァッリの『エレーナ』にメネラオ役で出演。


フランコ・ファジョーリは、今年も各地でのスケジュールがぎっしり詰まっている。
詳しくはアルチーナさんのブログをご参照いただきたい。


イェスティン・デイヴィスも凄まじい売れっ子ぶりなので、興味深いもののみ記す。
3月にNYで鈴木雅明指揮BCJによるバッハとメンデルスゾーンの『マニフィカト』他に出演。
3月にロンドン、パリで『ヨハネ受難曲』
4月にハンブルク、5月にイギリスでブリテンの『アブラハムとイサク』出演。ボストリッジ、キンリー
サイドと共演。
5月にカナダでヘンデル『テオドーラ』ツアーにダイディムス役。ゴーヴァン、ルミューと共演。
6月にウィーン、7月にミュンヘンでベンジャミンのWritten on Skin出演。バーバラ・ハニガン共演。
10月にNYメトでブリテン『真夏の夜の夢』オベロン役。


ティム・ミードも同じく売れっ子ゆえ、主なものだけ記す。
3月4月に各地で『スタバ』『メサイア』『ヨハネ』に出演。
4月ロンドン・ウィグモア・ホールでヘンデル『エスター』に出演。来シーズンは、『テオドーラ』で
サラ様との共演も決まっているので、ヨーロッパ・ツアーがあることを期待している。
5月ゲッティンゲン・フェスティヴァルでヘンデル『ヨゼフとその兄弟』
6月ロンドンでヘンデル『スザンナ』
6月ロンドンのENOとアムステルダムのホランド・ファスティヴァルでブリテン『ヴェニスに死す』アポロ。
12月ヨーロッパ各地で『メサイア』出演。
来年1月ミュンヘンでカヴァッリの『ラ・カリスト』エンディミオーネ役!

ここで注目していただきたいのは、ミュンヘンの来シーズン演目に少なくとも2つバロック・オペラが
入っていることだ。10月にフランコ・ファジョーリが出演するヘンデル『セメレ』と1月にティム・ミード
出演の『ラ・カリスト』がある。
後者は、数年前に上演されたものの再演と思われるが、久しぶりにミュンヘンでも本格的なバロック・
オペラが若手CTの出演で上演されるという事実から、CTの活躍がバロック・オペラ・ルネッサンスに
貢献していると思えるのだ。


さて、お馴染みCT以外にも、新たに期待できそうなCTを見つけた。
galahadさんのつぶやきで、7月のブレゲンツ・フェスティヴァルでアンドレ・チャイコフスキー作曲の
オペラ『ヴェニスの商人』が世界初演され、CTも出演するという情報を得た。
そのCTとは一体誰だろうと興味を持って検索した結果、面白い事実が色々と発見できた。

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        打掛から作られたと思しき素敵なドレス姿のアルタセルセ!

クリストファー・エインズリーという南アフリカ出身(現在ロンドン在住)の若手CTである。
彼の名前は全くノーマークだったが、既に様々なバロック・オペラに出演しているのだった。ノーマーク
だったのは、比較的マイナーな場所ばかりで歌っていたからだ。
その中でも面白そうなのは、ヘンデルと同時代のイギリス人作曲家トマス・アーンの『アルタセルセ』
のタイトルロール。

↓にアーンの『アルタセルセ』からIn Infancy, our Hopes and Fearsを貼る。



このアルタセルセの歌はずいぶんとシンプルだし、音域的にも普通のテノールでも歌えそうで、あまり
CTらしさが堪能できないが、エインズリーが歌うヘンデルの『パルテノーペ』『ゴーラのアマディージ』『ロデリンダ』やモーツアルトの『アポロとヒュアキント』などの動画を色々発見したので、次回また
紹介してみたい。

もっと興味深いのは、そのアーン(『ルール・ブリタニア』で有名)のマイナー・オペラをロンドンで
上演したClassical Opera Companyが作成した、作曲家についてのプロモーション・ヴィデオだ。



『アルタセルセ』は、CTが5人登場することで昨年話題になったレオナルド・ヴィンチ以外にも
様々な作曲家によるいろんなヴァージョンがあり、奥が深そうである。
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by didoregina | 2013-02-08 13:17 | カウンターテナー | Comments(14)

ヘアハイム演出の『セルセ』@デュッセルドルフ

カウンターテナー(CT)のヴァラー・バルナ=サバドゥスがタイトル・ロールの『セルセ』を
デュッセルドルフの歌劇場で鑑賞した。ここ数年、テクニックの向上が著しい若手CTたちの活躍
には目を瞠るものがあるが、サバドゥス君のナマの声を昨年12月にケルンでの『アルタセルセ』で
聴いて、今後一番期待できる成長株に違いないから目が離せない、と思った。
彼の場合、メゾ・ソプラノに匹敵する高音での安定した歌唱に加えて、声の芯に男性ならではの
力強さがあって魅力的なのと、既に技術的にもかなりのものを身につけているから様々な表現が
可能で、歌唱に多彩な色を付けることができるという点が、同じ舞台の他のCTと聴き比べた結果
印象に残った。これらに関しては、同行のsarahoctavianさんとも意見の一致をみた。

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         サバドゥスの『セルセ』ポスター

『セルセ』といえば、一昨年の10月にマレーナ・エルンマン主演のエイドリアン・ノーブル演出プロ
ダクションをウィーンで鑑賞している。通常はメゾ・ソプラノがタイトル・ロールで、CTによる『セルセ』
は、近年稀である。
デュッセルドルフのプロダクションは、コーミッシュ・オパー・ベルリンで昨年初演されたものとの共同
プロで、演出はステファン・ヘアハイム。KOBでのトレイラーを見てその面白さに圧倒され「絶対に
実演を鑑賞したい!」と思ったのが、図らずも一年を経ずして近場で願いが叶えられた。
しかもベルリンとは異なり、今回はヘンデルの初演と同じく主役がCTによって歌われるのだから、
興味津々。
しかし、期待度からいうと、ヘアハイム、セルセ、サバドゥスの順だった。


Xerxes   Handel  2012年2月3日@Deutsche Oper am Rhein Dusseldorf

***
Dramma per musica in drei Akten
Libretto nach Niccolò Minato und Silvio Stampiglia
Deutsche Übersetzung von Eberhard Schmidt
In der Einrichtung von Stefan Herheim

In deutscher Sprache

MUSIKALISCHE LEITUNG  Konrad Junghänel
INSZENIERUNG  Stefan Herheim
SZENISCHE EINSTUDIERUNG  Annette Weber, Stefan Herheim / Stefan Herheim / Annette Weber
BÜHNE  Heike Scheele
KOSTÜME  Gesine Völlm
LICHT  Franck Evin, Stefan Herheim, Johannes F. Scherfling / Stefan Herheim / Johannes F. Scherfling / Franck Evin
CHORLEITUNG  Christoph Kurig
DRAMATURGIE  Alexander Meier-Dörzenbach

XERXES  Valer Barna-Sabadus
ARSAMENES  Terry Wey
AMASTRIS  Katarina Bradic
ARIODATES  Torben Jürgens
ROMILDA  Heidi Elisabeth Meier
ATALANTA  Anke Krabbe
ELVIRO  Hagen Matzeit
CHOR  Chor der Deutschen Oper am Rhein
ORCHESTER Neue Düsseldorfer Hofmusik


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ヘアハイム演出の『セルセ』の基本コンセプトは、Xerxes = Sex Rexという点に集約される。
そして、それは王道で正しいアプローチである。

元々の『セルセ』のリブレットはニコラ・ミナートが書いたもので、カヴァッリ作曲で1654年に
ヴェネツィアで上演された。カヴァッリ、ヴェネツィアというキーワードですでにピンとくるだろうが、
ストーリーはハチャメチャで、王様からして変態だからいかにも当時のヴェネツィア好みの色情狂
の乱痴気騒ぎの舞台だったことだろう。
ヘンデルの『セルセ』は、ミナートのリブレットをスタンピーリャが1694年に改訂したもので、
ロンドンでの初演は1738年だが、ヴェネツィア・バロック・オペラらしさは色濃く残っている。

まず、色情狂のバカ殿にきりきり舞いされる回りの人間達の五角関係が笑いを取るストーリーの核
であるが、そこに庶民が参加するカーニヴァル的混乱という要素も加味されている。それは手紙の
差出人と受取人の取り違えや行き違いという筋および男装・女装・変装という形で端的に現れている。
また、音楽的にも、ダ・カーポ・アリアがなくてアリアが短く、レチタティーヴォも簡略化されている
というのも庶民に受けることが重要だったヴェネツィア・オペラ的である。コミカルな要素の方が強い
ブッファのようなセリアなのだ。

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         『オンブラ・マイ・フ』に引き続いての牧歌的風景の演出には
          文字通り、牧人と羊が舞台に登場。浅薄さがヴェネツィア的。


しかし、ヘアハイムの演出はまた二重構造になっている。
すなわち、時代設定がヘンデルの時代のロンドンと思しく、登場人物たちは劇場の役者であり、
芝居と地の部分とが入り組んでいるのである。回り舞台に設えたデコールが、衣裳部屋や楽屋と
劇中劇の「舞台」とにスムーズに変化する。劇場の舞台機構や衣装は、いかにも当時のバロック
らしいもので、それを現代のオペラ舞台にも利用しているのが楽しい。(舞台裏で操作する人たちも
ちゃんと当時の衣装を着ているから、作業や舞台裏が見えても統一感が失われない)

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         セルセの元婚約者アマストレは、衣裳部屋で兵士の服装に着替え
         変装して「舞台」に紛れ込む。

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         「舞台」上でのセルセ・ショー。バロック・ジェスチャーや
          襖のようなデコールやルイ14世がバレエを踊ったときのような
          衣装など、すべてがバロック・オペラおよびHIPのパロディー。


この『セルセ』プロダクションは、ドイツ語上演である。有名な歌はイタリア語で歌われるものも
あったが、その他の歌や台詞はドイツ語であり、レチらしいレチもないため、特に最初の方では
こちらがドイツ語に慣れるまで、ブッファというよりもうほとんどオペレッタ見てるような気になった。
第一部では、二人のソプラノ歌手によるロミルダとアタランタ姉妹が地の場面では全く同じドレス、
髪型、帽子だったので区別が付きにくく、ドタバタのやり取りがドイツ語であるので、ヘンデルの
オペラらしかねる印象を与え、ロココ調の衣装も相まってウィーンのオペレッタみたいに感じられ、
なんだか締りがなかったのが残念である。それだけが不満と言えば不満だが、それもまた巧妙に
仕組んだ演出の一部であり、ヘンデルのオペラ舞台ではよく起きたというソプラノ歌手同士の対立・
葛藤を、そっくり姉妹の喧嘩という形にして卑近にわかりやすく見せているのではないかとも思えた。

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         アタランタは、蓮っ葉でヘレナ・ボンナム=カーターそっくり。

ウィーンでのノーブル演出『セルセ』では、ロミルダに可憐な妖精のようなアドリアーナちゃん、
アタランタがキンキンと騒がしい小悪魔のダニエルちゃん、という対比が見事だった。
それに対して、ヘアハイム演出版での姉妹役の歌手はもうちょっとトウがたってて、オバサンぽい。
ロミルダ役の歌手はエマ・トンプソン(ワトソンではない)に似てるし、アタランタ役歌手は、
ヘレナ・ボンナム=カーター風の雰囲気である。だから、ロンドンの街頭が舞台になると、もう
コスチューム映画のパロディーそのものである。

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     サバドゥス君セルセはジョニー・デップに似ていて、『スウィニー・トッド』を思い出した。

芝居小屋が文字通り舞台になっているし街頭が舞台となる地の場面も、もろにスラップスティック・
コメディー風のギャグ満載である。例えて言えば、レスリー・ニールセンの『ネイキッド・ガン』に
近い。上の写真のシーンは、アタランタがセルセにロミルダを殺すように仕向け、これでもかと
エスカレートして様々な手段を差し出していくのだが、それがスラップスティックそのもの。
視覚的トリックのオン・パレードで見ていて楽しいが、歌っている歌手にはちょっと気の毒なものも
ある。歌唱があまり印象に残らないのだ。

セルセの歌は、各幕にほぼ一曲ずつ聴かせどころがあるのだが、最後のアリアを除いては、もう
あまりに視覚的要素が凝りすぎていて、歌を聴かせるのは2の次になっていた。
だから、最後のアリアには全く演技らしい演技がないのが逆に不満に思えるほどで、技巧的にも
アクロバティックな曲だからそれは歌手にとっては有り難いかもしれないが、マレーナ様は、
ここでも迫真の演技をしつつ超絶技巧を聴かせ、歌い終わると肩で息をしていたが万雷の拍手だった
なあ、と懐かしく思い出されてしまうのだった。
この歌がKOBのトレイラーに入っているのを聴いたときは、あまりにスローで切れの悪いテンポに
がっかりしたのだが、当日のサバドゥスの歌唱およびユングヘーネルの指揮による演奏には、ベル
リンのとは別物のようにしっかりとした躍動感が加わっていてうれしくなった。

指揮者のユングヘーネルは、もともとリュート奏者だったようだ。カントゥス・ケルンなどで指揮をして
いるし、昨年ケルンでの『ポッペアの戴冠』の指揮者も彼だった。チャンバロ奏者出身(ルセや
ファゾリス)やヴァイオリン奏者(スピノジ)出身だったりするのとリュート出身とでは、皆それぞれ
当然ながら音楽の作り上げ方や指揮にどこか異なるものがある。
ルセやファゾリスがオペラを指揮すると、いかにも通奏低音がしっかりとベースに置かれたきちんと感
および実際にチャンパロの弾き振りをしているのを目にすると音楽の流れは自分が引っ張るんだという
意識が強く感じられるのだが、ユングヘーネルの場合、おおまかな線はリードしてもその他は演奏家
と通奏低音奏者に任せる、という部分が多いように感じられた。そのせいかどうなのか、ヴァイオリン
がぶつぶつと細切れっぽく聴こえ、スピノジ指揮のような流麗な弦の伸びのよさと弾けるようなドライブ
感に気持ちよく浸ることはできなかった。
しかし、難しいトランペットはしっかりと決まっていたし、オケ・メンバー全体のレヴェルは高い。

また、オーケストラ・ボックスに歌手が入り込んで、オケ・メンバーや指揮者とも文字通り掛け合い
漫才のような演技をすることも多かった。

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               セルセとアリオダテ

セルセのパートは、高音から低音の幅が広いのみならず、一気に駆け上ったりコロコロころがしたり
技術的にもアクロバティックな要素が多いので難しい。だから、通常のCTには音域的にほぼ無理
なのだが、美しい高音を苦もなく出せるサバドゥス君にはピッタリ。彼の場合、高音の発声が澄ん
でいて無理を感じさせないというのが最大の長所だ。そして、男性的なルックスであるので、こういう
バカ殿役にはうってつけである。メイクでかなり志村けんが入ってて変態チックになっていた。
この点が、マレーナ様セルセとの大きな違いで、ジョニー・デップ風を取り入れてはいたが、マレーナ
様セルセはあまりにかっこよすぎて、変態演技は上手いけど、なぜロミルダにあれほど嫌われるのか
理解できなかった。
サバドゥス君の今後の課題は、アジリタをもう少し滑らかにすることと、高音部分にももう少しだけ
男性っぽい暗さを入れて一本調子でなくするということだろうか。装飾の入れ方にも今ひとつ工夫が
必要だ。そうでないと、長いアリアで演技がない場合単調でちょっと飽きてしまう。

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          カーテンコールで、テリー君は右はし。

もう1人のCTとして、弟アルサメネ役にテリー・ウェイが出演しているのにも注目していた。
彼の声は、録音で聴くとはっきりとわかる暗さがあるアルトなので、アルサメネ役に向いていると
思ったが、ナマの声はもっと澄んだ感じで、サバドゥスとの違いがそれほど感じられないのだった。
これは予想外だったが、しかし、二人とも若いので兄弟役としてはとてもフレッシュでバランスが
上手く取れていた。
ルックスもなかなかかわいくて、バカ殿ルードヴィッヒ2世=ヘルムート・バーガー的なサバドゥス君に
対して、王弟オットー1世=ジョン・モルダー=ブラウンみたいな感じでよかった。
歌唱に関して望む内容はサバドゥス君同様で、今後も期待できるから精進を続けてもらいたい。

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          劇場カフェで開演前と幕間にコーヒーとトルテ!

デュセルドルフ歌劇場は、70年代に建てられたものでどの席からも舞台がよく見えるし、音響的に
問題もなく、値段設定が低いから、これからも面白い演目があったら通いたいほどだ。
日曜マチネだったが満席で、しかも万雷の拍手やブラーヴィで、この演目・演出はとても受けていた。
外ではすでにカーニヴァルの「ハーラウ」が聞こえていたほどで、ラインラントのカーニヴァル地域
だからこういうものが受けるような素地があると思える。

だから、今、切に希望しているのは、昨年ナンシーのみで舞台形式で上演された『アルタセルセ』を
再来年の再演にはぜひ、ここデュッセルドルフに持ってきてもらいたいということだ。
ヘアハイム版『セルセ』を受け入れられる歌劇場なのだから、5人CTが出演して女装とケレンミ
たっぷりの舞台『アルタセルセ』も、絶対に大丈夫だ。
パルナッソス社長のジョージ・ラング氏には、ぜひともこの劇場との交渉を進めていただきたい。
    
         
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by didoregina | 2013-02-05 12:39 | オペラ実演 | Comments(31)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

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音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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