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『アルタセルセ』@ケルン初日は、白白歌合戦の趣で白組の勝ち

カウンター・テナー・ファンの間では、今年一番の話題はなんと言ってもヴィンチの『アルタセルセ』
上演である。
なにしろ、当世随一の人気を誇る若手実力派CTが5人も出演するということはめったにない。
これを企画し実現にこぎつけたのは、マックス・エマニュエル・チェンチッチとそのパートナーである
ラング氏の手腕に負うところが大きい。

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     ケルン歌劇場は改修工事中のため、テント・ホールでの上演。

当初このプロダクションを共同推進していたケルン歌劇場が、今年に入って財政危機のごたごたが
続き、全ての演目の上演回数を減らすことになり、しかもとばっちりで『アルタセルセ』はコンサート
形式に変更になってしまったというのが、ファンにとっては晴天の霹靂で残念無念だった。
フランスのナンシー歌劇場を皮切りに、ウィーン、ローザンヌ、パリと公演が続き、最後がケルン
だった。
(結局、舞台形式の上演が行われたのはフランスのナンシー歌劇場のみ。昨日ラング氏に確認した
最新情報によると、『アルタセルセ』は2014年に再演され、3月のヴェルサイユでは舞台形式、
5月のアムステルダムではコンサート形式の上演が決定している。その他のヨーロッパの劇場とは
現在交渉中)

1年前から楽しみにしていたケルン遠征をsarahoctavianさんと共に行った。
しかし、泥縄式予習としてはCDを1,2度聴いただけで、もうすでにネット上に全編アップされている
ナンシーの舞台動画はさわりを観ただけで、予習とは言いがたい態度で臨んだのだった。

コンサート形式になったことで事前に残念に思っていたのは、CT歌手たちの女装やバロックなコス
チュームおよび化粧によるケレンミたっぷりのちょっと倒錯した耽美の世界を見ることが叶わない、と
いう点であった。
ところが、実際に行ってみると、コンサート形式であってもそれが全く不満に感じられない上質なエン
ターテインメントになっていて、客を飽きさせないショーマン精神に満ち溢れていた。

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        終演後のサイン会には、CT4人が並んだ。(座長チェンチッチは
        サイン会には多分病気のため欠席)

まず、ヴィンチのこのオペラは、コンサート形式にもとても向いているのだと確認できた。
バロック・オペラと言ってもいろいろあるが、ストーリーが明快で、登場人物の性格づけが比較的
単純かつ心理の葛藤が込み入っていないこのオペラには、器楽演奏とレチタティーボとアリアとが
ほとんど交互に現れ、しかも登場人物に割り当てられたアリアの長さや重要度もほぼ同等。
歌われる内容は、しんみりと悩みを吐露したり、怒り狂ったり、悪巧みだったり、勇気を奮ったり、
歓喜や哀しみくらいのヴァリエーションしかない。
そういう、絵に描いたようなバロック・オペラだから、常套手段がうまく使えるのだ。
すなわち、歌謡ショーの要領で、歌手が一人ずつもしくは二人ずつ登場して、大見得を切りつつ
歌っては引っ込むという繰り返しで、歌手は全員男性(CT5人にテノール1人)だから、ほとんど
白白歌合戦という趣になる。

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       サバドゥス(左)は26歳、ファジョーリ(右)は30歳と若い。

歌謡ショーと同じような構成のコンサート形式だから、一曲歌い終わると歌手が引っ込む前に必ず
拍手およびブラボーの歓声が起こるという按配である。
舞台上演を行った歌手達ばかりだから皆暗譜しているし、動きに多少の演技も取り入れているから
コスチュームこそ私服だが、役に成りきっている。
そして、うれしいことに、上手くて絶好調の人が歌うと、次にはそれに他が引っ張られるような具合に
コンサート中にも歌手同士が互いに切磋琢磨して、多少コンディションが悪くてもどんどん歌唱の質が
高まっていき、全体的に尻上がりに盛り上がるのであった。
次々と入れ替わり舞台にCTたちが登場しては、見事な喉を披露するという、歌合戦そのものの
コンサート形式で、勝負は白組の勝ち!という結果に終わった途端スタンディング・オヴェーション。
拍手が鳴り止まず、最後の合唱をアンコールに歌ってくれた。

ファゾリス指揮コンチェルト・ケルンのオーケストラともCD録音からツアーまで行った、最後の締めく
くりがケルンでの公演であった。オケも歌手も長いことかけて作り上げたものがまとめあがり完成した
感じで最高の状態に近かったのではないか。演奏者も皆満足できたコンサートのようだった。

チェンチッチは、休憩中のラング氏の話ではどうやらまだ風邪が全快していないらしかったが、
それはほとんど聴衆には悟られなかったと思うくらいの意地を見せた。ちょっとヒステリックな女性役
を、演歌調に恨みを帯びた低音を響かせ聴かせた。高音は苦しかったのかもしれないが、全くそれは
表に出さなかったのがさすがだ。

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         サイン会でのジャルスキー(私服もステージ衣装もなんだか似てる)

ジャルスキーはやっぱりいつでもジャルスキーというか、他のCTとは全く異なる声質でなるほど
唯一無二の存在感が光るのだが、どんな役でも独特の個性が勝るので、コンサート形式の場合、
彼が歌い演じる役柄が聴衆の頭には浮かんでこないで、ジャルスキーを聴いてるという思いが強く
なる。
だから、彼の場合、単なるコンサートでなくオペラの役柄を歌ってるんだと視覚的に理解させる
ようなエキセントリックなステージ衣装を着てもらいたかった。チェンチッチのように。
天使のようでありかつ全体的に声量およびエネルギーに満ちた声が素直で真摯なのだが、ちょっと
一本調子に押し捲ってるように感じた。
サイン会での彼は、とてもファンに優しく丁寧に対応していた。ファンには舞台でも舞台を下りても
誠意のありったけを見せる、という印象だ。

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           最年少のサバドゥスは、期待の新人。

今回の5人のCT中、唯一今まで生の声を聴いたことがなかったのが、サバドゥス君である。
そして、今回初めて彼の歌唱に接して、すっかりファンになった。歌心や表現の幅の広さでは、
ファジョーリに近いものがあり、今後とてつもなく成長しそうな気がする。
彼の長所は、なんといってもすらりとした現代的なプロポーションと、派手で甘いマスクという、
舞台栄えするルックスである。しかも、指先や表情での演技が繊細で上手いのだ。細やかさという
点で典型的女形といえる。声もいいから、これからテクニックをもっと身に付けたら鬼に金棒である。


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           今回一番の立役者ファジョーリ

とにかく、期待に背かない実力のファジョーリである。まこと、ファリネッリの再来と呼んでもいい
抜群の歌唱力と技術を身につけている
小柄だが舞台での存在感・求心力は凄まじく、ルックスが男性的なのに対して、声は女性的でメゾ・
ソプラノそのものの自由自在にコントロールが利いたテクニックで圧倒する。
CTには無理だと言われていた繊細な歌唱および表現力と、どの音域でも安定した声と音程と
乱れないテクニック。進化したCTの理想の姿と言える。
一見声量がないかのように思えるが、実は深みと芯があって通る声が魅力的だ。歌い方や声質、
表現力など、様々な点でバルトリそっくり。男バルトリと呼びたいのは賛めてるつもりである。

サイン会では、ほとんど一番最後に並んだので1時間待たされたが、ファジョーリとは結構
いろいろおしゃべりできた。
ケルンでは『ポッペアの戴冠』初演および再演でおなじみの彼だ。「来年は、ウィーンでお会い
できるかも」とわたしが言うと、「2月、3月と11月に歌います」との返事。
11月は初耳なので問うと「11月にアン・デア・ウィーン劇場で『リナルド』」と言うではないか。
「え、ウィーンであなたが『リナルド』のタイトル・ロールを歌うの?」と訊ねると、うれしそうに
「ええ、来シーズンなんですが、決まりました」と頷いた。でも、コンサート形式だそうだ。
(アン・デア・ウィーンでは4月に『ゴーラのアマディージ』に出演と噂に上ったが、いつの間にか
それがスケジュールから消えている)
「それから、『ポッペアの戴冠』の再々演はないのかしら?」と問うと、「その話は今のところ
ありません。今年再演があったばかりですし」とのこと。
来年の11月といえば、バルセロナでマレーナ様(決定)とサラ様(多分)の『アグリッピーナ』
が上演される。ウィーンの『リナルド』と組み合わせて日本からヨーロッパ遠征することをお勧めする。
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by didoregina | 2012-12-18 23:50 | オペラ実演 | Comments(27)

オペラ・ザウドの『マノン』

オペラ・ザウドのプロダクションは当たり外れが激しいので、実演鑑賞には及び腰になる。
上演機会の多い有名な演目の場合は、かなりの覚悟で臨む。他の歌劇場の有名歌手の
歌ってるのと比べてしまうとその差は歴然だから、まあ、がっかりすることの方が多い。
だから、この『マノン』も、当初全く鑑賞する気がなかった。ところが、マーストリヒトでの
プレミエの評がNRCなどの全国紙でもかなりよいので気が変わった。
全国巡業してまた南部に戻ってくる、シッタルトでの公演を予約した。
もうすぐ帰国されるバービーさんとA子さんにも、オランダで最後のオペラだからごいっしょに
いかが、とお誘いして。

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Muziek  Jules Massenet
Libretto  Henri Meilhac en Philippe Gille naar de roman Histoire du Chevalier
des Grieux et de Manon Lescaut van Abbé Prévost
Regie  Lotte de Beer
Dirigent  Ivan Meylemans
Orkest  Limburgs Symfonie Orkest
Manon   Kim Savelsbergh,
Le Chavalier des Grieux  Rafael Vazquez Sanchis
Le Comte des Grieux  Marco Bakker,
Lescaut  Richard Morrison,
Monsieur De Bretigny  Martijn Sanders e.a

見たいという気にさせたのは、気鋭の新進演出家ロッテ・デ・ベア女史による読み替えが、かなり
好意的に評価されていたからだ。(デ・ベア女史は、今年のホランド・フェスティヴァル参加DNO
プロダクションの新作オペラWriting for Miss Monroeの演出担当)
すなわち舞台を現代に置き換えて、東欧かどこかからヨーロッパの都会に出てきた山出しの芋ネエ
ちゃんのサクセスおよび破滅のストーリーになっていて、アクチュアリティが抜群だという。

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     ヨーロッパの都会の空港に着いて、物品の質と量に圧倒されるマノン(右奥)

ハッピーな旅行者が行き交う空港は、きらきらと乙女の憧れを誘う高級品で一杯だが、田舎から
出てきた女の子を陥れる罠や悪の匂いも漂う。
金持ちのボンボン騎士デ・グリューは、バックパッカーの姿で空港に降り立ったばかり。喧騒の中、
マノンとお互い一目ぼれの恋に落ち、逃避行となる。

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          空港のブランド商店で愛を語る二人。

第一幕第一場、マノン役キム・サーベルスベルクの声は、ちょっと意外なほど精彩さを欠いていて、
これで主役はちょっと、と思ったのだが、どうやら芋ネエちゃんという役柄設定に忠実に、発声も
歌唱も押さえ気味にしていたらしい、と第二場になってわかった。

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          貧しい二人が暮らすのは、トレーラー・ハウス。

このトレーラー・ハウス(というかキャラバン)は、最初、空港でブランド商品としてリボンで包装
されていたのを破ると出てくるもので、巡業歌劇団の宿命で限られた舞台装置の有効な使い方に
感心した。

これ以降、マノンはちゃっかりと援助交際したり、美貌を武器にのし上がっていく。そうなると、第一
場でのおずおずとした少女とは別人のように、声にも艶と伸びやかさが加わり自信が覗えるのだ。
それに対して、世間知らずのボンボンのままであるデ・グリューは、親に金の無心することぐらいしか
出来ない。(パパへの頼みごとには携帯を使う)
デ・グリュー役はスペイン人歌手だが、テノール人材不足のオペラ・ザウドにしては、逸材を持って
きた。背丈こそ、他のオランダ人キャストより頭一つ低いが、いかにもラテン系の鼻にかかった甘い
声が二枚目役にぴったり。

第二幕は、金持ちド・ブレティニーの援助によってデザイナーとして成功したマノンのファション・
ショーから始まる。ココ・シャネルが成り上がったのと同様である。

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       ショーには、デ・グリュー父も現れて、息子が僧侶となったことを告げる。

面白いのは、デザイナーとして得意の絶頂にいるマノンに負けないほど、デ・グリューもTVタレント
神父として華々しい活躍をしていることだ。
カメラマンの注文に応えて様々なポーズをとる神父姿のデ・グリューは、セレブそのものでとても
笑える。彼は彼で傷心から立ち直り成功しているのだが、マノンが彼に遭いに行くことから破滅への
道のりが始まる。

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         再びいっしょになった二人は、博打で生活費を稼ぐ。

この『マノン』では、デ・グリューは完全に魔性の女マノンに切りきり舞させられる、憐れな若者だ。
小悪魔マノン、という従来どおりの解釈から抜け出ていない。
実生活の経験に乏しい世間知らずという点では、二人とも似たりよったりではあるが、女の武器で
のし上がるという体験をしているマノンの方が強いのだ。
        
カジノで不正の疑惑をかけられた二人のうち、デ・グリューは親の七光りと財力のおかげで、警察の
手から逃れるが、マノンは不法滞在者として強制退去させられる。
最後に二人がようやく出会えたのは、国境近くにある強制退去者の収容所だ。
監視員にワイロを渡して最後の別れをする二人だが、マノンは最後まで虚勢を張って、「これが
マノンという女のストーリーよ」と見得を切って終わるという幕切れであった。


歌手にも演出にも、自信とトータルの芯が貫かれていて、とても楽しめるプロダクションだった。
現代への読み替えということで、字幕ではフランのかわりにユーロと出たりしていたが、実際に
歌詞もユーロと変えて歌っていた。喧嘩シーンや言い争いでは、オランダ語字幕が、最近流行り
の言い回しそのもので、アクチュアリティとリアリティが高まっていた。

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         ホール入り口に立ってたマノンの実物大写真と。

また、オペラ・ザウドの強みは、音大オペラ科という新人供給源が近くにあることから、コーラス
その他の登場人物が皆若くてフレッシュ。これは、見ていて聴いていて清々しく、同じ巡回オペラ
であるナショナル・レイス・オペラの年寄りが多い合唱団のもさついた動きや演技と比べると、格段の
差だ。
若い出演者の多い華やかな現代的な舞台はミュージカルみたいな軽さが感じられ、主要歌手は、
しかし、しっかりとした聴かせる歌唱力を披露するので、その落差が心地よいプロダクションだった。

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           クリーム色の万筋の着物に、光るグリーンの洒落袋帯。
           帯には『富嶽三六景』から「駿州江尻」を写した刺繍。
           オレンジ色の帯揚げ、象牙色の冠組の帯締め。
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by didoregina | 2012-12-16 12:51 | オペラ実演 | Comments(6)

ハネケのAmourは、私的にはビミョ~

ソールド・アウトだったため一週間お預けを食わされたハネケ監督作品Amourをようやく見る
ことができた。この晩も、満員御礼であった。

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監督: Michael Haneke
出演: Emmannuelle Riva
   Jean-Louis Trintignant 
   Isabelle Huppert
   Alexandre Tharaud
   William Shimell

脚本: Michael Haneke

2012年 フランス・オーストリア・ドイツ







どうも、かなり微妙な映画だった。諸手を挙げての感服や降伏には程遠く、感動もなかった。
なにしろ、ケレンミもセンセーショナルなシーンも全くなく、淡々とストレートかつリアルに、
脳梗塞のため体が麻痺し認知症の度合いが増していく老いた妻と、精一杯愛の限り尽くす
老いた夫との、死に至るまでの生活を描いているのだ。

エマニュエル・リヴァ演じる、体も言語も不自由になった老妻のリアルな演技と表情および発声
(言葉にならない言葉)はもうほとんど神業に近いし、ジャン=ルイ・トランティニャン演じる老夫の
献身度合いには頭を垂れるしかない、と思わせるものがある。

しつこく、細部にわたってそういう老妻の介護の日々を映して見せるのだが、しかし、こういうのを
映画として見せられる観客はどういう反応を示したらいいのだろうか。
テレビ・ドラマでよくあるようなストーリーだし、ドキュメンタリーものとしても目新しい素材ではない。

「映画館にはフィール・グッドになるために行くもの」というスタンスの人たちも結構多いと思うが、
そういう人たちにとって、これは「金を払って見てるのに気分が晴れ晴れしない映画」と、一刀
両断に切り捨てられるだろうし、普段はそういう態度を憐憫の目で見つめるわたしでさえ、あえて
人に勧める気がしない映画だ。

今年のカンヌでパルム・ドールを受賞したし、各地の各紙・誌では絶賛の嵐、ほとんど全部が5つ星
の評価であるから、期待は大きくなって当然。皆こぞって観に行くので連日満席なのだが。。。
映画館の観客の反応は冷やかであった。なにしろ唐突に終わった映画のエンディング・クレジットが
出るか出ないかで席を立つ人が大半。わたしはじっと座っていたのだが、ほとんど人がいなくなった
ので上映技師もクレジットの途中でぶちっと切る始末。見終わってから余韻に浸ろうという人も少な
かったようで、上映後のリュミエール・カフェは閑散としていた。

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               老妻は、元ピアノ教師。


面白いなと思えたのは、以下の点である。
パリの中流インテリの生活環境。かなり広いアパルトマンのインテリアが、いかにも、という感じ。
元ピアノ教師の娘役がイザベル・ユペール。(『ピアニスト』に通じる?)
そして、教え子で成功したピアニストの名前がアレクサンドル。(アレクサンドル・タローが実名で
ピアニストとして出演)

アレクサンドル・タローは、さすがにヴィジュアル的に傑出した若手ピアニストなので、映画出演
しても遜色ない存在感があり、地のままのような演技も好感が持てる。
彼の演奏は、映画の中のコンサート・シーンや、老夫婦のアパルトマンにあるピアノでの演奏や、
プレーヤーから流れるCDで聴くことができる。シューベルトの『即興曲集』やベートーヴェンの
『バガテル』なのだが、落ち着いて無駄のなくスマートな外見そのものの音の印象が、映画の
静謐さとマッチしていた。
ただ、ピアノ演奏はかなり短い断片ばかりなので、欲求不満になる。

この映画、劇場公開されてすぐの12月2日が投票締め切りだった、リュミエール観客および従業員
による今年のベスト映画の第一位になった。このことも、どうも不可解である。
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by didoregina | 2012-12-14 11:05 | 映画 | Comments(6)

Cloud Atlas 『クラウド・アトラス』

月曜日の晩は、リュミエールで夫婦揃って映画を見ると決めている。
先週選んだのはハネケのAmourだ。夜7時上映だから、いつものように5時に予約電話を入れた。
ところが、7時のその映画のチケットはソールド・アウトだと言われた。夜9時以降に始まるのでは、
帰りが遅くなりすぎる。
そこで7時台に始まる他の映画、Sister、 Populaire、 Anna Karenina、 Cloud Atlas
Het meisje en de doodの中から、主人に選ばせた。
消去法で決定したのは、Cloud Atlasだった。

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監督: Andy Wachowski, Lana Wachowski,
Tom Tykwer
出演: Tom Hanks,
Halle Berry,
Jim Broadbent,
Jim Sturgess,
Doona Bae.
Hugo Weaving,
Ben Wishaw,
James Darcy,
Hugh Grant,
Keith David,
Susan Sarandon e.a.
2012年 アメリカ・ドイツ・香港・シンガポール



実は、この映画はアートハウスのリュミエールだけでなくパテというシネコンでも上映中なので、
もっと大きなスクリーンで見たかったのだが、リュミエールに予約を入れてしまったから仕方ない。
それが、期待以上に楽しめたのだった。(一週間後に念願のAmourを見たのだが、かなり
微妙というか、肩すかしを食わされた感じで、『クラウド・アトラス』の方がずっとよかった)

この映画へ期待してたのは、原作がデイヴィッド・ミッチェルということと、お気に入り俳優ベン・ウィ
ショーが出演するということによる。

イギリス人作家のデイヴィッド・ミッチェルは個人的に好みで、『クラウド・アトラス』(未読)や
The Thousand Autumns of Jacob de Zoet などのベスト・セラー以外にも、オランダの
ナショナル・レイスオペラのためにWakeというオペラ(雪のため鑑賞断念)のリブレットや
来年のホランド・フェスティヴァルのためのENOとDNOの共同プロの新作オペラSunken
Gardenのリブレットも書いている。日本にもオランダにもオペラにも縁が深い人だ。

そして、ベン・ウィショーは、最新の007『スカイフォール』でのQ役が話題になっている。
結構、ダニエル・クレイグと共演(端役ばかり)してたりするし、若手の演技派で、カルト的
人気があり、神経質なナードやちょっと変った人を演じたら、なりきりで凄いのだ。


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       近未来都市ネオ・ソウルのファースト・フード店。働くのはアンドロイド。

ストーリーが複雑で込み入っていて、マトルーシュカ人形のように入れ子になった複数の話からなる
この小説の映画化は不可能といわれていたのが、なんと監督を三人起用して、異なる時代・場所で
起こる別々の6つの話をそれぞれ異なるスタイルで撮影したものを、文字通り繋げたのだ。
しかも各話の主要登場人物は(特殊メークをほどこした)同じ俳優が演じていて、しかも各人が
時空を離れていながらどこかで繋がっていて、入れ子というより次々とパッチワークのように接ぎ合
わせてあるから、なかなか理解するのが難しい。この映画を見ているとルービック・キューブやパズル
を解くような快感を頭に感じる、というのがミソである。
『トータル・リコール』を一回見ただけでストーリーが理解でき、ついていけた人なら大丈夫だ。
『めぐり合う時間たち』(the Hours)に似た構成でもあるが、あちらで絡まっていたストーリーは
3つだけだが、『クラウド・アトラス』ではその倍の6つである。

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      核戦争後、プリミティブな未開人と高次能力および文明を誇るグループに分かれる。


荒唐無稽な未来の部分と70年代は、ウォシャウスキー姉弟が担当しているから、派手なアクションや
SFXが満載でハイテクっぽく、手に汗握るシーンが多い。
それに対して、19世紀や20世紀初頭と現代はテイクヴァ監督の担当で、舞台もイギリスやスコット
ランドはたまた帆船の中なので、コスチューム・ドラマのような趣。ジョークやユーモアがかなりベタな
イギリス風だったり、胸キュン・ストーリーが入っていたりして、ローテクである。

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      ヒュー・グラントは、いつものワンパターンの役柄および演技から脱皮した悪役。


トム・ハンクスやハル・ベリーは、どの時代・場所のどんなメークのどの役をやってもすぐに見破れる。
それ以外の俳優たちの変身ぶりが見ものである。なにしろ、時空を超えるから、同じ役者が人種や
性別も変えて演じてたりするのだ。特殊メークしててもすぐにわかって笑えるのもあれば、途中で
あれっ?と思ったり、あの人誰だろう、と気になったりするが、エンディング・クレジットに俳優の
名前とそれぞれの役(皆、一人で4,5役を演じてる)のシーンがご丁寧に流されるから、もう
一度楽しめる。
ええ~、意外!絶対分からんかった、というのもあった。
ネオ・ソウルの話では、白人俳優がすごい特殊メークでコリアンの役をやってるのだが、コリアンと
いうよりコンピューター・ゲームによく出てくる国籍不詳だが多分アジア系だろうのっぺりしたヒーロー
みたいなルックスが、SFらしいストーリーにマッチしていて面白かった。
1人なぜか気になってたジョージェットという女性役は、もしかしてマドンナがカメオ出演か?と思って
たのが、実に意外な人が演じていた。

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           この美しいラスト・シーンが一番好き。右がベン・ウィショー。

ベン・ウィショーは貧しく薄幸の作曲家役で、彼が同性愛の相手に書いた手紙の文面や、まるで
『君の名は』みたいにすれ違いの二人を描いた場面や自殺シーンなどが哀しいくらいに美しく、
胸にきゅんと来て、思い出しても涙が出てくる。

全6話で描かれるのはいずれも、優と劣、清と濁、善と悪、正と邪、虚と実、富と貧などの二元論に
集約されるのだが、だからといってそれだけという単純な訳ではなく、輪廻転生しても古今東西変わらぬ
人間の哀しみ、欲望や煩悩や狡猾さ、愚かさ、自己本位な態度などが、一見善人の中にも描かれてい
る。ちょっと哲学的ですらあるのだ。

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         ハラハラどきどきのアクション・シーン。


見終わった翌日、この映画また観たい、と思った。見逃した点、ついていけなかった点、理解できな
かった点が多かったからだ。そして、不幸な作曲家の哀しいお話は、もっとじっくり味わいたくなった。

そして、この監督トリオなら、光瀬龍の『百億の昼と千億の夜』も映画化可能もしれない。
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by didoregina | 2012-12-12 12:37 | 映画 | Comments(4)

クリスマス・イルミネーションのデルフト

雪と寒波の合間を縫ってデルフトに出かけた土曜日は、晴れ間が多くていい天気だった。

8月に長男は、同じデルフト市内ながら広いアパート(しかも駅前)に引っ越した。
2年間住んでいたのは、デルフトの小さな旧市街を囲む運河の外側にあるアパートで、狭いことは
もうめちゃくちゃ狭いが、立地は抜群。東門が目の前で窓から眺める風景は、フェルメールの描いた
デルフトのイメージに近いものだった。
移ったのは、元東インド会社の建物の奥にある中庭に面した元建築学科の建物で、廊下や階段も
広々している。

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      道路に面した側は、17世紀の東インド会社デルフト事務所

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      歴史的建造物なので、蘭・英語の説明版が付いてる。

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      運河を挟んで向かい(右)は、軍事博物館。

日暮れの早くなった町に出ると、クリスマスのイルミネーションが瞬いている。

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      ベーステン・マルクト(動物市場)広場は、スケート・リンクに。

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         新教会の裏側


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         運河にも電飾のデコレーションがされてるのが珍しい。


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         マルクト広場に建つ市庁舎は、背景の空と雲に暗く浮かび上がって、
         おどろおどろしいホラー映画の雰囲気だ。


デルフトがロケ地となった映画では、ヴェルナー・ヘルツォークの『ノスフェラトゥ』(1979)が
有名だが、この広場や市庁舎も登場した。
クラウス・キンスキーのドラキュラが乗ってきた船からネズミが上陸して町に疫病が蔓延した。
ヒロイン、ルーシー役のイザベル・アジャーニが歩いた場面そのもの。

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              映画『ノスフェラトゥ』のポスター


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       市庁舎(右)とマルクト広場に建つ家々は、そっくりそのまま映画に使われた。


フェルメールの墓碑がある旧教会の裏側に来ると、冬の名物オリーボレン(拳骨大の揚げ菓子)の
屋台が光り輝き、妙にシュールな光景が出現。

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by didoregina | 2012-12-09 20:10 | 旅行 | Comments(4)

昼食会には紬で

着物を着る回数が恐ろしく減っている。最後に着たのは、9月のストックホルム遠征である。
12月は、なるべくオペラなどに着物で出かけたいと思っているが、その前に丁度いチャンスが
あった。
オランダ生活を今年いっぱいで終えられ、もうすぐ日本に帰られるバービーさん、A子さんとの
お別れ昼食会だ。

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          レストランは、ファルケンブルクにあるジェローム

このレストランは、この1,2年、そのクリエイティブな料理が話題になっていて、ぜひ一度行き
たいと思っていた。
平日の昼間だと、町中でなく郊外にあるレストランは閑散としている。わたし達4人以外の客は、
もう一組だけだった。

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     突き出しは、山羊のチーズとラベンダー入りのミニ・タルト・サレ、
     キャッサバにイカ墨を混ぜた揚げ煎餅、パクサイとさやえんどう、ゴマのソース。

この写真のイメージや食材は中華っぽいが、れっきとしたフレンチである。色々な香りや味が
楽しめ、今日の料理に期待を沸かせるアミューズだ。

ランチだから、3コースのプリフィクスにした。各コースとも2種類の料理から選べる。

前菜は、
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    オランダの小エビ、ライ麦のクランブル、シコン、キャビアに卵のソースと森のキノコのソース。

もしくは、
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        マグロの照り焼きとゴマの薄焼き煎餅。


主菜は、
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        りんごとブラッド・ヴルストの上に乗っかったシャコの胸肉、キノコ、
        芽キャベツのピューレ、パースニップのピューレ、マスタード・ソース。

もしくは、
c0188818_111420.jpg

        鯛の切り身、シュークルートのリゾット、キノコのソース。


本当は、メニューでは、前菜はステーキ・タルタルか小エビ、主菜は鳩か鯛となっていたのだが、
わたし達の好き嫌いには対処してくれて、小エビの代わりにマグロ、鳩の代わりにシャコとなった。


デザートは、チーズもしくは甘いもので、全員甘いものを頼んだ。

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        ホワイトチョコのソースの上に、チョコレート・アイス、チョコレート・ムース、
        八角風味のアイス、ピーナッツ・クッキー、チョコレート・グレナッシュ。

隣のテーブルで頼んでいたのをちょっと見ると、チャツネや甘酸っぱい果物ソースやシロップに、少し
ずつ5種類のチーズが盛り合わせてあり、そちらも美味しそうだった。

さて、着物の写真はレストランで上手く撮れなかったので、家に帰ってから撮ってもらおうと思い、
主人の帰宅を待った。しかし、そういうときに限って遅くなる。9時過ぎまで着物のままで待ち続けた。

c0188818_1135748.jpg

        母の(大島)紬の裄を直したもの。10月に日本から持ち帰ったので、
        早く袖を通してみたかったのだ。昼食会にはピッタリの色と質感。
        藍色の地に少し薄い青の縦縞の絣のグラデーション、銀色の線、
        そして十字の白と赤で花模様が織り出されている。


この着物は、ミステリアスで出自がわからない。
母は、着物の証紙や反物の端の部分は必ず残してあるので、ほとんどの着物は、どこの織物だ
とか、どこの染だとか、誰の作品だとかがわかるのだが、この紬だけ証紙が見つからない。
織り方だけ見ると大島っぽく、つるりとした質感もそんな感じなのだが、糸に節が入っていて厚みが
あり、経緯十字の花模様に対して、光沢のある縞模様のグラデーションの出し方が絣っぽくて、
変わっている。
かなり近くでじっくり見たり触ったりしないとわからないが、箪笥の中にある他の大島とは、大分
異なる趣なのだ。しかも、大島や他の紬だったら全て証紙が揃っているのに、これだけ証紙が
見あたらないというのも納得いかない。


c0188818_1362265.jpg

         若草色と抹茶色の中間のような淡いグリーン地の塩瀬に、黄土色の
         埴輪のような人物と橙色の鹿がロウケツで描かれた名古屋帯。


この日の着物コーディネートでは、銀杏をテーマにしたかった。ところが、なんと、銀杏の模様の
着物や帯を持っていないのだった。

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         そこで、銀杏の形の鼈甲の根付。帯の中に入っている
         懐中時計の蓋にも象嵌で銀杏の模様が。


お茶から着物に入ったせいか、根付を下げるのが性に合わない。だから、根付はこれのみ。
金具や石が光ったりする帯留も、同様にして持っていない。珊瑚のが一つだけ。

スキン写真の彫金で作った「角切銀杏」は、ペンダント・トップかブローチにしたいのだが、今の
ところ、純粋なオブジェである。
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by didoregina | 2012-12-07 18:01 | 着物 | Comments(8)

The best of European Opera 2012

『2012年ヨーロッパ・オペラの白眉』と題したTV番組が放送された。
先シーズンにヨーロッパ各国のTV局が放送した各地の歌劇場のプロダクションの中から8作品
が選ばれ、シーンのさわりや舞台裏、指揮者や歌手や演出家のインタビューなどを見せて、最新の
ヨーロッパ・オペラ界の動向を紹介するというものだ。

上記タイトル下線にオランダのTV局のリンクを張った。そのページ下のほうに1時間ほどの映像が
貼られている。いつまで視聴可かわからないが、ぜひ、ご覧頂きたい。
というのは、選ばれたプロダクションのラインナップが幅広く、示唆に富むからだ。
最初に、今週プレミエになるDNOの新プロダクション『魔笛』の演出家によるオケ・リハーサルの
様子がCMのように流れるが、実際の番組はそのあとからで、進行役はROHの芸術監督カスパー・
ホルテン。

選ばれた8作品は、以下の通りである。

United Kingdom
Royal Opera House & BBC
Il Trittico
Composer G. Puccini
Libretto G. Adami
Luigi Aleksandr Antonenko
Sour Angelica Ermonela Jaho
Lauretta Ekaterina Siurina
Conducted by Antonio Pappano
Directed by Richard Jones


Spain
Teatro Real Madrid
Iolanta
Composer P.I. Tchaïkovski
Libretto M. Tchaïkovski
King René Dmitry Ulianov
Robert Alexej Markov
Vaudémont Pavel Cernoch
Ibn Hakia Willard White
Alméric Vasily Efimov
Bertrand Pavel Kudinov
Iolanta Ekaterina Scherbachenko
Marta Ekaterina Semenchuk
Brigitta Irina Churilova
Laura Letitia Singleton
Conducted by Teodor Currentzis
Directed by Peter Sellars

Teatro Real Madrid
Persefone
Composer I. Stravinsky
Libretto A. Gide
Eumolpe Paul Groves
Perséphone Dominique Blanc
Dancers
Perséphone Sam Sathya
Déméter Chumvan Sodhachivy
Pluton Khon Chansithyka
Mercure, Démophoon, Triptolème Nam Narim
Conducted by Teodor Currentzis
Directed by Peter Sellars

Latvia
Latvian National Opera
Lucia di Lammermoor
Composer G. Donizetti
Libretto Salvadore Cammarano
Lucia Marina Rebeka
Edgardo di Ravenswood Dmytro Popov
Enrico Aston Viktor Korotich
Raimondo Ilya Bannik
Arturo Bucklaw Dainis Skutelis
Alisa Kristīne Zadovska
Normanno Ansis Tālbergs
Conducted by Christoph Stiller
Directed by Andrejs Žagars

The Netherlands
Nederlandse Opera
Parsifal
Composer R. Wagner
Libretto R. Wagner
Parsifal Christopher Ventris
Kundry Petra Lang
Blumenmädchen Lisette Bolle
Conducted by Ivan Fischer
Directed by Pierre Audi

Sweden
Drottningholm Court Theatre Stockholm
Orlando Paladino
Composer J. Haydn
Libretto Nunziano Porta
Eurilla Ditte H Anderson
Pasquale Daniel Ralphsson
Set design & costumes Stephan Dietrich
Conducted by Mark Tatlow
Directed by Sigrid T`hooft

Umeå opera
Wozzeck
Composer A. Berg
Libretto G. Büchner, A. Berg
Wozzeck Fredrik Zetterström
The Doctor Lars Arvidson
Marie Susanna Levonen
Conducted by Roland Kluttig
Directed by Carina Reich & Bogdan Szyber

Czech Republic
Janacek Opera Brno
Rusalka
Composer A. Dvorak
Libretto J. Kvapil
Rusalka Pavla Vykopalová
Janacek Opera Choir
Conducted by Jaroslav Kyzlink
Directed by Vladimir Morávek

Norway
Den norske Opera
La Bohême
Composer G. Puccini
Libretto G. Giacosa and L. Illica
Rodolfo Diego Torre
Mimi Marita Solberg
The Norwegian National Opera Orchestra
Conducted by Eivind Gullberg Jensen
Directed by Stefan Herheim

ヨーロッパ各国のTV局から応募されたオペラ・プロダクションの中から選ばれたのだが、ここには
イタリア、ドイツ、フランス、オーストリアはたまたスイスの歌劇場のプロダクションが一つも含まれて
いないというのがミソというか、オペラのメッカと思われる劇場や国よりも、マイナーな北欧および
周辺諸国に偏っているところが面白い。初めてその名を聞く歌劇場もあったりする。
番組の最後に、シャルパンティエのテ・デウムが流れる。これは、ユーロヴィジョンのテーマとして
ヨーロッパに住んでる人にはおなじみのメロディーである。ユーロヴィジョンがこの番組の制作母体と
いうことなんだろう。

集められたプロダクションは素晴らしくヴァラエティーに富んでいて、いかにも現在のヨーロッパの
(文化的)多様性が現れている。これを2012年のヨーロッパ・オペラ界の総括と見ると、
ヨーロッパ文化の中でのオペラ現象学の一面を鋭く切り取っていて、非常に興味深い。
オペラはヨーロッパ共通の文化で、その母体であるヨーロッパ全体がオペラの本場であるという自負
の表明なのだと思う。
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by didoregina | 2012-12-06 17:36 | オペラ映像 | Comments(10)

Beyond the Hills (După dealuri) ルーマニアの修道院にて

c0188818_20543026.jpg監督:Cristian Mungiu
脚本:Cristian Mungiu
Based on Deadly Confession and Judges' Book
by Tatiana Niculescu Bran
キャスト:Cosmina Stratan as Voichiţa
Cristina Flutur as Alina
Valeriu Andriuţă as Priest
Dana Tapalagă as Mother superior
Cătălina Harabagiu as Antonia
Gina Ţandură as nun Iustina
Vica Agache as nun Elisabeta
Nora Covali as Nun Pahomia
Dionisie Vitcu as Mr. Valerică

2012 年 ルーマニア


ルーマニア人監督による、ルーマニア人キャストでルーマニア語の映画を見るのは、これが
初めてではないだろうか。
舞台は現代のルーマニアだ。近年、EUに加盟したとはいえ、まだまだ社会主義時代および
チャウチェスクによる長い独裁政時代の名残が色濃く残っているのが、画面からもひしひしと
感じられる。

孤児院で育ったという設定の主人公の女の子二人の境遇や、物資に乏しい修道院の生活や、
寒々した村や町の外観や、自分が生きるのに精一杯で他人をかまっている余裕も潤いもない
庶民の態度など、映画を支配する冷やかさに身を刺されるような気分になる。
しかし、それがかえって新鮮で、普段見ることの多いフランス映画によく描かれる人情や家庭や
人間同士の温かみなどがクリシェでちゃちに感じられるほど、この映画のインパクトは強かった。

c0188818_2125789.jpg

     出稼ぎ先のドイツから戻ったアリーナは、修道院にいるヴォイキタの元へ。

一定の年齢になって孤児院から出ることを余儀なくされた子供達には、行き先の選択肢は少ない。
ヴォイキタは、修道院に入って清貧と祈りと奉仕に明け暮れる。
アリーナは、農家に養子として迎えられたが、単なる低賃金労働力として使われていただけで、
その後、ドイツに家政婦として出稼ぎに行った。アリーナの知的障害のある弟は、洗車の仕事を
得たが、劣悪な労働条件の下でで搾取されている。

c0188818_21362259.jpg

     孤児院時代からの仲良し、というよりレズビアン的関係だった二人。

修道院での過酷な暮らしにも盲従にも慣れた物静かなヴォイキタに対して、アリーナは修道院にも
外の生活にも矛盾や欺瞞の匂いを感じ、平安が見出せない。我慢や嫌悪を隠すすべや感情の
コントロールの仕方を知らない生来の反逆児であり、反抗心が強い彼女には、どこにも居場所が
ない。愛情に飢え、ヒステリー症状を呈する。
病院から追い出され、金がなくて他に行き場のない彼女を、修道院は条件付で迎えるのだが。。。。

c0188818_21494147.jpg

          ほとんど中世的な修道院の院長と神父。

ルーマニア正教会の女子修道院が主な舞台になるのだが、男性の神父が同じ敷地内に生活を
共にして、その指揮下で教会での祈りも行われるというのがちょっと異様で、何か隠微な出来事が
起こるのでは、という期待を抱かせる。
修道院の生活といえば、これほど密室的なものは他にないほどだから、外部の者がそう思っても
当然だ。

c0188818_21572234.jpg


性的妄想に取り付かれた女の子が主人公で修道院が舞台というと、プロコフィエフのオペラ
『炎の天使』を思い出す。
映画の方では、ヒステリー症状や幻覚・幻聴のようなものを悪魔祓いで治療しようとする。それは、
善意から発したものなのだが、無知と相まって壮絶な結果に終わってしまう。

善意と妄信が渦巻く修道院の中世的な世界と、現代的だが官僚的で冷たい外部の世界とを行き来
する映像は、あっけらかんとして明瞭この上ない。修道院が舞台だと、なんとなくヒューマンチックな
教育番組的というか、文部省推薦的イメージが付きまとうものだが、この映画はそうではない。
そして、興味本位で見ていると肩透かしを食わされる。その軽いパンチが潔く、今まで感じたことの
ない新しさを覚えた。
二人の主演女優は今年のカンヌ映画祭で共に最優秀女優賞を受賞、そして最優秀脚本賞も。
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by didoregina | 2012-12-03 14:19 | 映画 | Comments(8)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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