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Dans la Maison

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監督: François Ozon
キャスト: Fabrice Luchini (Germain),
Ernst Umhauer (Claude Garcia),
Kristin Scott Thomas (Jeanne Germain),
Emanuelle Seigner (Esther Artole), e.a.
フランス  2012年





この映画を観ようと思ったのは、ひとえにクリスティン・スコット=トーマスが出演しているからと
いう理由だけである。期待度としては、フランソワ・オゾン監督作品だから、悪くはなかろうという
程度の消極的なものだった。
ポスターも、チラシも、予告編も全て地味~なので、かなり玄人好みっぽい映画だろうと予測した。

確かにその通りであった。

クリスティン・スコット=トーマスの役柄は、フランスの地方都市の画廊主。フランス語教師の夫と
二人暮しで子供はいない。
画廊では現代アートを扱っているが、ポルノまがいの奇天烈な作品などを置いても田舎の人々の
感覚には合わず、倒産すれすれ。フラストレーションが溜まっている。
(たまに佳い作品のいい役(例えば、『イングリッシュ・ペイシェント』『ずっとあなたを愛してる』
『サラの鍵』)に当たって、瑞々しい大人の女の印象を残すけれども、この頃どうも、彼女の
役は、居丈高でサクセスを求めるヒステリックなキャリア・ウーマンというタイプに嵌りがちだ。
『砂漠でサーモン・フィッシング』での役は、その典型だった。)

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高校のフランス語教師ジェルマンは、昔、小説家を目指したのだが、才能がないことを悟り、
筆を折った。
教鞭を取る高校の生徒の中に、1人だけミステリアスかつ文才のある少年クロードを見出す。

クロードの書く作文は、日記の体裁を取りつつも内容も文体も高校生離れしていて、新聞の
連載小説のごとく読む者を引きつける魅力がある。
国語教師は、クロードの才能を深く発掘しようと思い、放課後、個人授業を授ける。
そして、いつしか妻とともに、フィクションなのか実際に起こった出来事なのかわからないまま、
毎日クロードの書く日記の世界に引込まれていくのだった。

という展開なので、これは、オゾン自身の傑作映画『スイミング・プール』の二番煎じみたいでは
ないか。こちらの方では、最初から「書かれたもの」という一種のネタ明かしがあるが、作家の
妄想と現実の境目が曖昧になっているような映像や、ちょっとコミカルだがミステリアスな展開など、
どうも手法としてそっくりなのだ。

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ある一軒の家の中で起こる出来事が中心になっている。
少年クロードが外から見て憧れていた中流のごく普通の家庭なのだが、作者であるクロード自身が
その世界に文字通り侵入することから、事件が引き起こされる。
それは起こるべくして起きたものだ。作家は事件の傍観者であるが、その作家の目から見て書かれた
世界だから、全能の神のごとくそのミクロコスモスでの主導権を握るのは作家自身である。

とはいえ、作者は高校生であるから、まだまだ人生経験も少ないし文学的成熟度は足りない。
家の中で起こる出来事の主人公でありかつ全てを見ている作者でもあるクロードの高校生らしい
幼稚な思いつきや、読者である国語教師そしてその妻のコメントからストーリーが変化していくの
だが。。。

この映画はスペイン語の戯曲を元にしたらしいので、そういう作品の映画化にはよくあることだが、
どうしてもある種、密室劇的な息苦しさが付きまとう。インティームもしくはエスプリやユーモアのある
会話を生かそうとすると、スケールがこじんまりして映像が外に向かって広がらず萎縮したようになる。
いろいろな意味で息が詰まりそうで、開放感の乏しい映画だった。

フランスの怪女優ヨランド・モロー(『セラフィーヌ』!)が、双子の客としてカメオ出演していたり、
とぼけた軽いユーモアはあるのだが。
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by didoregina | 2012-11-28 10:34 | 映画 | Comments(2)

歌劇場でのコスチューム・セール参戦記@リエージュ

歌劇場で不要になり場所塞ぎの衣装を放出するセールというのは、リエージュでは大体、
3年おきくらいにあるように思う。
アムステルダムの歌劇場では、知ってる限り今までに1回あった。
興味は大いにあっても、なかなか実際にセールに出かける機会に恵まれなかった。
満を持して、本日、リエージュまで行ってきた。同行したのは、ファンションに関しては情熱を
共有するPである。

実は、昨日、Pといっしょにマーストリヒト市内にあるウェディング・ドレスや式典およびパーティ用の
服専門店のセールに出かけた。オートクチュールで、オーソドックス過ぎず遊びのあるデザインと
素材およびシルエットで満足できるジャケット2着をゲットしたばかりだ。オペラやコンサートやパー
ティーにピッタリ。しかし、おかげで懐はあまり暖かくない。

リエージュでは、いつかヴェネツィアのカーニヴァルで着るためのドレスを狙うことにした。

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       事前に目を付けていたのは、『ユグノー教徒』のマルグリット・ド・ヴァロワ
       役でアニク・マッシスが着たドレス。

一体いくら位になるのか見当が付きかねたが、100ユーロを上限と決めた。オークションと同様に
セールに参戦する時には、自分の決めた上限を絶対に超えないことを厳守する。そうでないと、
その場の熱気に押されて、どうでもいいようなものを安いからという理由で買って後悔することになる。

セールに勝つための鉄則はシンプルで、誰よりも早く、狙っているもの目がけて突撃することだ。

しかし、まず、出だしで躓いた。
11時開始のセール会場、すなわち歌劇場に到着したのが11時20分ごろ。出遅れている。
すでに入り口から黒山の人だかりで、恐れていた通り、デパートのバーゲン・セールのような様相を
呈している。開場前から並んで待って入った人が多いのだろうな、と思う。

ホール、フォアイエ、廊下などに、木製のコンテナのような衣装保管および移動用のケースが立ち
並び、その中に様々な衣装がハンガーにかかっている。全部で800点ほどだという。
試着室などないから、男女入り乱れて、その辺の廊下で真剣に試着している。すごい熱気である。
目指すタイプのドレスは、もうほとんどしっかりと誰かの腕に抱えられていて、探しても見当たらない。
そして、主役用の手の込んだドレスは大体、200ユーロくらいと、お安くない。

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     一番欲しかった、やはりマルグリット・ド・ヴァロワのドレスは、今回の
     目玉商品のようで、レジ近くのマネキンが着て立っていた。凝った
     素晴らしい素材(シルク)とデザインが光っていて、実物は工芸品の趣。
     さすがに300ユーロ。しかもバニエなし。


わたしの手が届きそうな値段のドレスは、その他大勢の合唱団員が着ていたようなものだ。
それでも120から160ユーロはする。そして、もうあらかた残っていない。
かろうじて、これならばと思えるドレスを一着見つけた。『ランメルモールのルチア』の結婚式の
場面で招待客の一人が着ていた衣装で、赤のロング・ドレスにブロカードのロングのガウンと
同布の帽子のセット。

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       左手後ろの方に立ってる女性が着ている衣装を試着。

このドレス・セットは、ワインカラーに黒で模様を織り出したブロカード素材でルネッサンス風提灯袖の
ロング・ガウンと、下の赤のロング・ドレスの胴の部分にヴェネツィアのカーニヴァル用仮面そのものの
デザインの鳥の羽とライン・ストーンを使った豪華でアーティな飾りがポイントになっている。
シルエットはオーセンティックだが、ディテールが凝っていて、全体的に派手で、ヴェネツィアの
カーニヴァルで着たいという目的にどんぴしゃだ。
ドレスの上半身部分は、デコルテがスクエアに開いていて、ビスチュエのようにしっかりした作りで、
背中は交差した紐を縛って結ぶようになっている。
スカート部分が安っぽい透けるようなオーガンジーなのだけが不満であるが、丈もウエストもぴったり。

ロングドレスはいずれもコルセットのようになった紐を後ろで締めるデザインになっていて、1人で着る
のは不可能なので、着付け部屋みたいなところで着せてもらえる。『風と共に去りぬ』の主人公が
小間使いにギューっとコルセットの紐を締められているところを思い出してもらいたい。
フォアイエの両面にある鏡の前に立って、着姿をチェックしてみた。かなり楽しいコスプレである。

買うべきかどうかかなり悩んだのだが、お値段が120ユーロで、予算を20ユーロ・オーヴァーした
ので、原則を貫いて諦めた。カメラを持っていかなかったので、着姿を写真に収められなかったの
が、返す返すも残念だ。


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       『エルナーニ』で使用された帽子その他をPはゲット。

Pとは、目指すものが異なるから、時間を決めて出口で待ち合わせることにした。
彼女はなんと、帽子5つ、ワンピース、エプロン、スカート、ショールの計9点を合計65ユーロで
ゲットした。(わたしは、結局何も買わなかった)

実際に舞台で着用されたものだから、全てに、歌劇場の名前、演目名、役名、そして歌手の名前の
タグがブランド・ラベルの代わりに縫い付けられている。
それを読むだけでも楽しい。

例えば、Pがゲットした帽子の一つは、『エルナーニ』でドン・リッカルドが被っていたものだし、
刺繍が素敵な大判のロング・ショールには、アンナ・カテリーナの名前が書かれているから、
「もしかしたら、アンナ・カテリーナ・アントナッチが使ったもの?」とか、物自体からストーリーが
発せられるのだ。
シャーベット・トーンのペール・グリーンのシザルで出来たつば広帽には、「コジ、フィオルディリージ、
ハーヴェマン」と書かれたタグが付いているので、そのプロダクションではバーバラ・ハーヴェマンが
フィオルディリージ役だったのだと思われる。果たして、彼女のバイオを読むと、ORWでコジ・
ファン・トゥッテに出演と書いてある。

どれも手作りの一品物、オートクチュールだから、手仕事を確かめるという楽しさもある。
その他大勢の着る衣装は、素材こそ高いものではないだろうが、結構デザインや細工が凝って
いて、縫製にも手が抜かれていない。

12時過ぎにセール会場を出る頃には、レジは長蛇の列。ホールやフォアイエを埋め尽くしたケースは
あらかた空になっていた。たったの1時間である。今日一日でほとんど全て捌けて、かなりの売り上げに
なったろう。
オペラの衣装にフィーヴァーする人たちの多いのに目を丸くしたが、マーストリヒト近辺はカーニヴァル
が盛んな地域である。皆、カーニヴァルのコスチュームをゲットするために来たんだろう。
カーニヴァルの衣装は、専門店で買うと、ちゃちなものでも結構な値段である。
手作りする人も多いが、時代もののコスチュームは、やはり専門家の手になるオペラの衣装だと
本格的であるから、100ユーロほどで手に入るなら、お値打ちともいえる。
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by didoregina | 2012-11-24 23:32 | オペラ実演 | Comments(8)

I am a woman now

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監督:Michiel van Erp
2011年 オランダ














2012年のアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭に出品された作品で、劇場公開は今年3月。
「なんだかなあ」というタイトルなのとプレス写真に魅力を感じなかったので公開当時はスルー
したのだが、先日TV放映されたのを見た。すると、色々と考えさせるところの多い佳品だった。

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        50年近く前、性転換手術によって女性になったエイプリル(右)

1950年代から70年代にかけて、モロッコのカサブランカで開業するフランス人医師が行った
性転換手術で女性になった4人の現在(ほぼ老後)をドキュメンタリーで見せるのだが、
そのうちの3人は、言われなければ元男性だったとは思えないほど女らしく、見目麗しく、
立ち居振る舞いも上品で洗練されている。実際、年とともに女性ホルモンの分泌が少なくなる
ため見かけにも態度にも女らしさが減っている女性を目にすることが多いから、驚きは2重だ。
(性転換手術後は一生、女性ホルモンを経口薬などで摂取し続けるのだと、後で知った。)

女性らしさや美しさは、たゆまぬ努力で磨き続けないと持続不可能なのだ。(環境保全や経済
成長に絡んで使われる「持続可能な」という日本語には居心地の悪さを覚え、最も美しくない
単語の一つとして忌み嫌っているのだが、こういう用法ならばマル)

性同一性障害に長年苦しんだ彼らは、性転換手術を受けてその悩みからは解放された。
生まれ変わり本来の自分を蘇らせてくれた執刀医のビュローには感謝してもしきれない、毎朝、
喜びと満足で目覚めると、一様に言う。
しかし、その一方で、別の苦しみも味わい続けているのだった。

新たに出会った男性や友人には、性転換のことをいつ告白すべきかという悩み。
恋人は全てを受け入れてくれても、世間の偏見が立ちはだかる。
納得してくれたはずの恋人の心も次第に離れていくことが多く、関係が長続きしない。
結局自分は性転換した女性であって、生まれながらの女性にはどうやっても勝てない、と言う
のだ。

そして、老後・老醜の問題もある。女性に生まれ変わりたかったが、老女になるつもりは
なかった。
皆、美しく老いていて、老醜など微塵も感じさせない気概に溢れている人たちだが、忍び寄る
恐れはいつでもある。彼らは、若い頃は傍から見たら刹那的・享楽的に生きていたのかもしれ
ないが、現在の自分や今後の自分を見つめる目はシビアかつ冷めている。

ベルギー人、イギリス人、オランダ人、ドイツ人の4人のうち、70歳になるドイツ人のジーンは、
他の3人とは明らかに異なる容姿だ。3人の写真を見ると少年・青年時代にも美しさが群を抜いて
いたのに対し、ジーンは元々美人とは言えなかったようだし、性転換手術後、20年間レズの関係
だったパートナー(日本人のケイコさん)が、元男性とのレズビアン関係というややこしさに
耐えられなくなったため、ジーンは女性ホルモン摂取を止めてしまったのだ。だから、現在の
ジーンは、外見上、女性らしさには著しく欠ける。
しかし、男性でも女性でもないような外観とは裏腹に、ジーンの心の優しさは、ケイコさんの
墓に向かって唱えるお経の真剣さに現れていた。

ジーン以外も皆それぞれ、性転換によって新たに発生した悩みを抱えて生きている。
しかし、誰一人として、手術をしたことを後悔していない。
それを象徴するかのように、画面には陽光が溢れ、全体的にトーンが明るい。
(ただし、ジーンが登場すると、画面がとたんに暗くなる。年老いても新しいレズビアン・
パートナーが見つかったりと明るい要素もあるのだが。)

性転換した若く美しい人たちの写真や映像などは普段でも目に付くが、このように、術後40年、
50年経った彼らの現在、過去、未来を見つめるという観点が新鮮だ。そしてそこには、興味
本位に根ざしたようなナイーブさがなく、センセーショナルさは極力抑えていて、登場人物への
問いかけにも語りのシーンにも監督の眼差しの優しさが満ち溢れているドキュメンタリーである。
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by didoregina | 2012-11-23 10:36 | 映画 | Comments(6)

Alto Giove 聴き比べ

今年の目標として「カウンター・テナーを極める」を掲げた。
しかし、各地の歌劇場でのバロック・オペラ上演回数ががっくりと減ってしまった今シーズンは、
CTの生の声に接する機会があまり多くなかった。
また、バロック・オペラが演目にあっても、キャストにはCTではなくメゾ・ソプラノが選ばれること
の方が多い。実力ある若手CTが次々と育っているといるというのに、これはどうしたことだろう。

歌劇場のプロダクションやキャスティングに望みを託し手をこまねいているばかりでは、CTの未来
や立場には不確実な要素が多すぎるから、自らイニシアティブをとって魅力ある企画でCTを売り
出そう、と、マックス・エマニュエル・チェンチッチとそのパートナーによるプロダクションの『アルタ
セルセ』がナンシーの歌劇場での実演にこぎつけたのは、今年のあまり明るいとはいえないCT界に
とってもバロック・オペラ界にとっても画期的な出来事だった。
『アルタセルセ』には、人気の点でも実力の点でも今が旬で素晴らしいCTが5人も勢ぞろい
しているという点もユニークだ。もう一人のテノール歌手と合わせて歌手は男性ばかり。

ナンシー以外のヨーロッパ各地での巡業公演は、全てコンサート形式であるというのが惜しまれる。
特に、当初は共同企画の姿勢を示したケルン歌劇場が、財政縮小を余儀なくされたため、公演
回数を減らし、しかも舞台形式での上演ではなくなったというのが、ファンとしては辛いところだ。

さて、前置きが長くなったが、12月のケルン歌劇場でのヴィンチ作『アルタセルセ』公演の前祝い
というか、気分を盛り上げるために、(なぜか)ポルポラのオペラ『ポリフェーモ』中の有名アリア
Alto Gioveの聴き比べ大会を開催したい。

まずは、映画『カストラート』から。歌はデレク=リー・レイギンによる吹き替え。


 

10月の東京でのオフ会はCT愛好者の集まりであった。そのとき、どのCTを聴いたのが最初で
深入りのきっかけになったのか?という質問があった。とっさには思い出せなくて、マイケル・チャンス
かも、意識して実演を聴いたのはベジュン・メータからかな、というあやふやな回答をしたのだが、
やっぱり、レイギンの声がわたしのCT萌え原点である。

この曲といえば、PJことフィリップ・ジャルスキーの十八番である。彼の歌は皆様よく聴く機会が
おありかと思うので、ここではちょっと意外な人による音源と動画を紹介したいと思う。

↓は、デヴィッド・DQ・リーの歌に、ヤニク・ネゼ=セガン(!)によるピアノ伴奏。



ピアノ伴奏がなんだかロマン派っぽいのがご愛嬌だが、リーの歌唱は彼の個性である溌剌たる
パワーに満ち溢れしかも叙情性があって素晴らしい。この2004年の録音はかなりレアではないか。
この二人の組み合わせはカナダ人同士というつながりだろうか。

意外にも、CTによるこの曲の録音でいいものが見当たらない。メゾやアルトならば、ヴィヴィカ・
ジュノーやアン・ハレンベリの歌唱がCTやカストラートの印象に近いものを与える。
しかし、もっと意外なのは、ソプラノ歌手が歌っている場合が、結構多いのである。
ヴェロニカ・カンヘミやカリーナ・ゴーヴァンなど。(追記・訂正:ゴーヴァンはポルポラの曲を集めた
CDを出しているが、この歌は録音していない)

ここでは、より意外かつレアな映像を紹介したい。ユリア・レージネヴァが歌っているもの。


         尻切れトンボでもうしわけない。


ユリアちゃんといえばまだ20代前半だから、この動画の頃はもしかしたら20歳になったかならないか
の年齢かもしれない。この早熟な歌唱力は驚異的。七色の声とテクニックを駆使できるユリアちゃん、
恐るべし。

聴き比べに格好の歌手といえば、ケルメス姐だ。ユリアちゃんとは声質も年齢もルックスも曲への
アプローチも対極に位置していると言えよう。

シモーネ・ケルメスの新しいCD DRAMMAから。



バロック・オペラのニナ・ハーゲンかと思える見かけとは裏腹に、ここでの彼女の歌唱は清楚かつ
さらりとしたもので、感情の込め方に嫌味がない。天上および地上の王を慰めるための歌という
真髄を突いたと思える表現力はさすがである。
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by didoregina | 2012-11-20 19:52 | バロック | Comments(10)

錨のスパゲッティ   

地元マーストリヒトで、クロアチアでのフロティッラ・セイリングの再会パーティーがあった。
そろそろ来年の夏のヴァカンスを予約してもらいたい、と願うチャーター会社が企画したものだ。
結構盛況であったが、皆別の週や別の海域のフロティッラ・グループの人たちばかりで、なんと
我がフロティッラ・グループから参加したのは、私達と二人のリーダーだけ。
マーストリヒトはオランダの南のはずれにあるから、北部や西部からだと遠征となり、パーティには
週末泊り込みで参加という人たちも多かった。

会場には写真がスライド・ショーでスクリーンに映されていて、懐かしいものがあった。

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      最終日には、参加艇が横に並んで湾に投錨し、名残を惜しんだ。


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      一見すると、ヨットが仲良く一並びになって和気藹々と楽しそうだ。


しかし、一隻ずつ錨を上げて港に戻ろうとすると、大変なことになっていた。

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      各ヨットの錨とチェーンが全部スパゲッティ状に絡まりあってる。

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      鮫が釣れたのではない。絡まってるチェーンと錨をひとつずつ上げては、
      解きほぐしていった。あわてずに、慎重に、皆で力を合わせて。。。


ヨットは風を動力とする船だから、少しの風にも影響され、風向きが変わると錨を中心にして360度
円を描くようにヨットの向きも変わる。だから、湾に錨だけで停泊するときには、船と船の間隔を十分
空けないといけない。ぶつかったり、錨が絡まるのを防ぐためだ。

地中海の港にヨットを係留するときは、船尾を桟橋や岸に向けるのが一般的だ。
クロアチアの港では大概、ムーリングのロープが海底に沈めてあるコンクリートの錘と繋がっている
ので、ヨットをバックで桟橋に着けながら、ムーリングのロープをフックですくって引っ張り、船首に
固定する。


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         桟橋に船尾を、ムーリングに船首を固定した例。


イタリアやギリシャではムーリングの設備がないところが多いから、その場合は錨を下ろして船尾を
ロープで岸に固定する。他のヨットが錨を下ろした場所がはっきりわからないから、どこかの錨と
チェーンがスパゲッティ状に絡まることがあり、そうなるとかなりやっかいだ。


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         桟橋にスペースが足りなくて、湾内に投錨してるヨットも見える。


また、桟橋に船体を横付けするときもある。そうすると、後から来るヨットが既に着いてるヨットに
横付けして何重にもなる場合もある。

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        別のヨットに横付けしたら、後から来たヨットから順番に出発しないといけない。


アンカー・ブイといって、ムーリングや桟橋などの設備がない湾で、海底に錘が沈めてありブイが
浮かんでる場合もある。

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        ブイが海底の錘に繋がってるのが見える。


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       ブイをフックで引き上げて、そこにロープを通して船を繋げる。


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        他のヨットの錨が絡まる心配は少ないが、ヨットはブイを
        中心にやはり風を受けて360度回転する。


他のヨットと錨がスパゲッティ状に絡まるとパニックになるが、フロティッラのリーダーがいると、
引き上げて解きほぐすいろいろな手段を知っているから安心なのだ。
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by didoregina | 2012-11-18 23:26 | セイリング | Comments(0)

ブリュッセルのアールヌーヴォー建築 その1

ヴィクトール・オルタの設計したアール・ヌーヴォーの邸宅が、ブリュッセルにはいくつか
残っている。
遠征時に利用するブリュッセル中央駅やその裏手にあるコンサート・ホールのボザールは、
既にアール・ヌーヴォーよりも後の時代のアール・デコ様式の建築だが、やはりオルタ設計
である。
今まで、なんと彼のアール・ヌーヴォー時代の建物を実際に見る機会がなかった。
それで建築を専攻する長男と共に、ブリュッセルまで出かけてピン・ポイントで見て回った。

まずは、アヴェニュー・ルイーズからちょっと脇に入ったヤンソン通りにあるタッセル邸から。

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         EU関連のオフィスになっていて内部見学不可。
         丁度ランチから戻る人が中に入るところだったので、玄関ドアの
         奥にあるステンド・グラスのようなものがちょっと見えた。

いかにもアール・ヌーヴォー然とした淡いブルーがかったミント・グリーンの鉄柵のあるファ
サードが、同じ通りにある他の建物とは歴然と異なるし、ブリュッセルのアール・ヌーヴォー
建築巡りツアーのグループが道に立ってたりするから、すぐにわかった。

次は、アヴェニュー・ルイーズにあるソルヴェイ邸。

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       こちらは、事前に団体で申し込めば内部見学可能。
       ドアのガラス越しに、ゆったりした玄関ホールや廊下が見えた。

もちろん予約なしだったので、ここも内部見学はできなかった。こちらは、大通りに面して
間口も広々とした堂々たる館である。窓枠と同化したかのような色合いの鉄製装飾が渋く、
ファサードだけ見ると、曲線の要素が少なくいため、ちょっとデコに近い印象だ。

しかし、アール・ヌーヴォー建築は、外から眺めただけでは全く予想がつかないような、
内装の細かいディテールにこそ、その真価が発揮されるものだから、中に入ってみないこと
には如何とも言いがたい。装飾から発展したジャンルだけに、建築の場合でも細部の美しさが
命でもある。

ようやく、現在は博物館になっているオルタ邸に入って内部見学ができた。ここは午後2時
からオープンなので、今まで入場の機会に恵まれなかったのだ。(しかし内部は写真撮影禁止)

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          外から見ると結構地味な外観。

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          外側は隣り合った二軒だが中で繋がっている。

パブリック的なスペースである食堂や客間などは、床も壁もタイル貼りで、なんだか寒々し
ていて、腰を落ち着けたくなくなる。音楽室や書斎も同様だ。ビジネス関連の客には、あまり
長居してほしくなかったのではないかと思えるほど。
それが、階上に行けば行くほど、居間や寝室や客室などのプライヴェートな空間になるので
インティームな内装で個性が発揮されて、ディテールも美しく凝っているのだった。
特に美しさと機能性が印象に残るのは、館の中央にある階段だ。その部分の屋根がガラス張り
になっているので明るく開放的で、廊下のかわりに階段が用途の異なる個々のスペースを
中央でまとめしかも分離する役割を果たしている。オルタのアール・ヌーヴォー建築の美しさが
ここに凝縮されている。

最上階の庭に面した側のお嬢さんの部屋が立地的にもいいし、一番気に入った。
主寝室のアン・スイートになっているバス・ルームは、当時としては最新設備のものだろう。
大きなシャワーも、ドアで仕切られたトイレも、クローゼットも機能的で使い勝手がよさそうだ。

アヴェニュー・ルイーズに戻る途中のデファック通りには、オルタと同時代の建築家ポール・
アンカールの自邸がある。

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      こちらは、ファサード上部壁面のモザイクと壁画装飾が特徴的。
      同時代とはいえオルタとは全く異なるアプローチで、絵画を装飾に
      そのまま取り入れたアール・ヌーヴォー建築である。

この家は、周囲と全く相容れない壁画で正面ファサードを飾っているから、とても目立つ。
はっきり言って、非常に派手で自己主張が強い。

同じ通りにやはりアンカールによるシャンベルラーニ邸がある。
この家のある側を歩いていて、知らずにバルコニーの下を通ったとき不思議な感覚を覚えたので、
通りを渡って反対側から眺めたら、やはりアール・ヌーヴォーの建物だったのだ。
正面から見なくても、その無言の圧力とでもいうものを傍を通っただけで感じさせる、という
のが凄い。
しかし、1階部分はそっけない作りでアール・ヌーヴォーらしさを感じさせないから、この
感覚を覚えなかった長男からは「偶然でも、よくわかったね」とびっくりされた。世紀末芸術
に関しては、年の功というか、知らずと血肉となってるのかもしれない。

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     写真に写ってる人と同じ位置を歩いてるとき、第六感がピンと来た。


さて、この日最後に見たアール・ヌーヴォーの建物は、現在、楽器博物館となっている元百貨
店のオールド・イングランドだ。とはいっても、外から眺めただけ。ここは、最上階のレスト
ランの屋上テラスからの眺めが最高だ。しかし、いつも非常に混んでいて、そこで席が確保
できたのは一度だけだ。

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     元オールド・イングランド、楽器博物館の塔のある角を下から眺める。

この建物を設計したのは、ポール・サントノワという建築家で、この人は、なんとギャルリー・
サン・チュベール(グラン・プラス近くにあるアーケードで、モネ劇場に行くときは必ず
ここを通り抜ける)を設計したジャン・ピエール・クリュイスナールの孫。ついでに、お祖父
さんの方は、ブリュッセルのコンセルヴァトワール(音大)の設計も担当したという。
いずれの建築物もなぜか音楽に関係してるのが不思議というか、なんとなく縁を感じる。








        
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by didoregina | 2012-11-17 21:12 | 旅行 | Comments(6)

リエージュの王立ワロン歌劇場で衣装放出セール

リエージュのORWからのメールによると、来週の日曜24日に衣装放出セールがあるという。
何年かに一度、衣裳部屋やアトリエのスペース確保のために行われる恒例行事だ。
そしてサイトの詳細ページに飛ぶと、そこにある写真を見て腰が抜けそうになった。

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       2005年の『ユグノー教徒』でアニク・マッシスが着用した
       マルグリット・ド・ヴァロワの豪奢な衣装(中央)も放出される!


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        同じく『ユグノー教徒』のもの。こちらは清楚で上品。


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          しかも、ディテールが凝っていて可愛い。

このプロダクションのコスチューム・デザインは、ロザリー・ヴァルダという人が担当。デザイナー兼
女優で、しかも女流映画監督のアニェス・ヴァルダのお嬢さん。

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       ロザリー・ヴァルダ。オランジュでの『ミレイユ』のためにデザインした
       いかにもプロヴァンス風衣装の数々。こちらも可愛い。


帽子や小物も合わせて全部で800点がセール対象になり、値段は5ユーロからという。
ドレスなんかは、一体いくらで出品されるんだろう。わくわく、どきどき。

かねてから、歌劇場の衣装が放出されたら、ぜひ手に入れたいと思っているものがある。
例えば、アムステルダムの歌劇場だったら『ばらの騎士』の元帥夫人のドレスとか、『ポッペアの
戴冠』でマレーナ様着用のネローネの衣装とか、『ダイドー』でもいい。そういうドレスをひとつゲット
して、いつかヴェネツィアのカーニヴァルで着てみたいという夢があるのだ。(仮面つければ大丈夫)

マルグリット・ド・ヴァロワの衣装も、なかなかわたしの好みである。衣装に興味がありそうな、帽子の
師匠Pとともにリエージュまで行って、実物を手にとって見たい。


さて、マルグリット・ド・ヴァロワといえば、『王妃マルゴ』である。
イザベル・アジャーニ主演のマルゴーは、普段はなんだか商売女みたいな下品な格好で、結婚式や
戴冠式では窮屈そうなドレスに身を包んでいて、そそられるコスチュームが登場しない。

しかし、1965年にジャンヌ・モロー主演で映画化された『バルテルミーの大虐殺』でのマルゴーの
衣装はノーブルかつ可憐でいい。

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     ストライプがとってもポップでルネッサンス風デザイン。

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     正統派美人とはいえないが、若い頃のモローは結構キュート。


こうして連想ゲーム風に、またもやたどり着くのはラファエル前派のジョン・エヴァレット・ミレー
による『ユグノー教徒』の絵。
ミレーがマイヤベーアのオペラ『ユグノー教徒』の実演鑑賞の舞台から触発されて描いたものと
いうのも、なんだかやっぱり好みが繋がってる証拠。。。

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       John Everett Millais A Huguenot (1851-52)
                     (The Makins Collection)


個人蔵だから普段はなかなか見れないこの絵も、やはりラファエル前派展のため特別にテートで
展示されてる!さすがというかおそるべきというか、徹底した集め方だ。
だからやっぱり、ロンドンまで行かなくてはならない。
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by didoregina | 2012-11-16 08:03 | オペラ実演 | Comments(4)

サント・カトリーヌの魚市場で小エビのクロケット

日曜マチネのモネ劇場へは、いつも1人で電車で行くのだが、『ルル』には珍しく主人も同行した。
オペラの前に何か軽く食べよう、と、魚市場の方に足を向けた。

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       サント・カトリーヌ教会脇の魚市場周辺には、魚介レストランが多い。


日曜の昼間だから、レストラン街は閑散としている。
教会の反対側に回ってみた。


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         教会前広場の一角にある有名立ち食い魚料理店。

ここは、観光客も地元の人も群れていて、まるで祭りのような賑わいだ。
注文するときに、自分の名前も言う。料理が出来上がると、注文を取った係の人が名前を呼ぶから
それを受け取り、空いてるテーブルで立って食べるのだ。
料理が出来上がる前にワインなどを注文しておいて、テーブルのスペースを確保しておく方がいい。


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        店の周りだけでなく広場にある立食テーブルも盛況。

ブイヤベース風の北海の魚スープが、具沢山でヴォリューム満点で4ユーロ50セントと安いので
ちょっと惹かれたが、やはり、わたしはベルギーではお約束の小エビのクロケットを注文。

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        しっかりとした味付けで、小エビもちゃんと入ってるし、悪くない味。
        クロケット2個で7ユーロ50セント。普通のカフェ・レストランの約半額。

ベルギーで今まで食べた中では、1,2位を争うと言ってもいい味の小エビのクロケットなので、
10点満点で8点をつけた。
しかし、ぶっちぎりダントツ1位は、オランダのゼーランド州ブラウニッセにある立ち食い魚テントの
小エビのクロケットである。


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        教会前広場にある牡蠣の立ち食い屋に心惹かれたのだが、
        オペラ鑑賞前なので、なんとなく控えてしまった。


今週末は、マーストリヒトのバッサン(町中のハーバーで、運河沿いの倉庫を改装したカフェや
レストランが多い)で、この夏のフロティッラ・メンバーの再会パーティーがある。
我らのグループはベルギー人が過半数だったのだが、ベルギーからパーティーに来る人はどうやら
少ないようだ。

一昨日、フロティッラのベルギー人グループが独自にゼーランドでの再会パーティを企画したので
12月にブラウニッセで会いましょう、というメールが来た。師走で非常に忙しいからゼーランドまで
行くのは無理だと思うが、ブラウニッセの小エビのクロケットには未練が。。。
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by didoregina | 2012-11-14 09:39 | 料理 | Comments(0)

モネ劇場の『ルル』

c0188818_17481310.jpgLulu
Alban Berg
2012年10月21日@モネ劇場

Muzikale leiding¦ Paul Daniel
Regie¦ Krzysztof Warlikowski
Decors & kostuums¦ Malgorzata Szczesniak
Belichting¦ Felice Ross
Dramaturgie¦ Christian Longchamp
Choreografie¦ Claude Bardouil
Video¦ Denis Guéguin

Lulu¦ Barbara Hannigan
Grafin Geschwitz¦ Natascha Petrinsky
Gymnasiast & groom¦ Frances Bourne
Maler & Neger¦ Tom Randle
Dr. Schön & Jack The Ripper¦ Dietrich Henschel
Alwa¦ Charles Workman
Schigolch¦ Pavlo Hunka
Tierbändiger & Athlet¦ Ivan Ludlow
Prinz, Kammerdiener & Marquis¦ Albrecht Kludzuweit
Theaterdirektor & Bankier¦ Rúni Brattaberg
Mutter¦ Mireille Capelle
Kunstgewerblerin¦ Beata Morawska
Journalist¦ Benoît De Leersnyder
Polizeikommissar, Medizinalrat & Professor¦ Gerard Lavalle
Diener¦ Charles Dekeyser
Eine Fünfzehnjährige¦ Anna Maistriau
Dans en schriftuur van de solo’s¦ Rosalba Torres Guerrero
Danser¦ Claude Bardouil
Orkest¦ Symfonieorkest van de Munt

日本から帰ってきてすぐの日曜、ブリュッセルまで出かけてマチネ公演を鑑賞した。
舞台には近いが、照明やヴィデオなどが目の前にあって死角の多い座席で、下手側がよく
見えない。
このプロダクションは、視覚的情報が盛りだくさんなので、見逃したものが多いだろう、
と思ってストリーミングでもう一度鑑賞してからのレポである。
モネ劇場のサイトから、11月28日までオン・デマンド・ストリーミング視聴できるので、
ぜひご覧になっていただきたい。

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      わたしの席のほぼ正面のロイヤル・ボックスに照明が当たっている。


ワルリコフスキの演出なので、演劇的アプローチだろうな、と思ったとおりだった。
音楽は二の次、とは言い過ぎかもしれないが、視覚重視の演出である。
その姿勢がはっきりと示しだされているのは、音楽が鳴る前に観客(登場人物だが)を一人一人
舞台上のカーテン前に案内して座らせる、という始まり方からも明白だ。

そして、ロイヤル・ボックスから英語の語りが聞こえてくる。語られるのはリリスの話だ。
リリスは、アダムの伴侶として神が土くれから創った女性である。男性との対等性もしくは
上位性を求めるリリスは、アダムに三行半を突きつけて楽園から出奔する。そして、彼女は
悪魔と結託して諸悪の根源になるのであった。(エヴァは、そのあとでアダムの肋骨から造られた)

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       リリスといえば、ダンテ・ガブリエル・ロゼッティのこの絵を思い出す。
       現在、ロンドンのテート・ブリテンでのラファエル前派展のために
       デラウェアから来ている!やはり、観に行くべきだろうな。。。


そういった一連の演劇的プロローグの後で、ようやく音楽演奏が始まり、実際にベルクがプロ
ローグとして作曲した導入部に入るのであった。
そこまでの間にも語りの内容とは無関係に少年が踊るバレエ・シーンがあるし、それから後も、
下手後方スクリーンにヴィデオ映像が映し出されたり、舞台では黒鳥のようなバレエ・ダン
サーが踊っていたり、上手後方のガラスの部屋の中やその後ろでメインの音楽や歌とは別の
芝居が行われていたりする。観客は、目も耳も同時に色々な情報を取り入れないといけないので
忙しい。
いくつかの異なった視覚要素が同時に存在しているから、いつも舞台が分断されている。

正面席(およびストリーミング映像)だったら舞台全体が見えているから、それらがある意味で
有機的に結合していることがわかるが、舞台を横から観る位置の座席だと非常に不利である。
いつでもどこかに死角があり、意味深かつ重要らしい出来事が見えないのでイライラした。
モネ劇場は、アムスの歌劇場のように舞台も客席も横に広くて死角がほとんどないというモダンな
造りではないから、視覚重視の演出にするなら、座席配置にも気を配ってもらいたいものである。

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        舞台装置の全体像。ラスト・シーンだが、上手前方でゲシュヴィッツが殺され、
        その後ろのガラス張りの部屋の中にルルが倒れている。下手前方では、幼い
        ルルを象徴する少女バレリーナがシゴルヒに連れられて舞台を去るところ。
        その後ろでは黒鳥のダンサーが踊っている。そのまた上部にヴィデオ映像。


無調の音楽は、ドラマチックな盛り上げ方がしばしば映画の効果音やサントラのような印象を
与える。
つまり、ストーリーに沿ってはいるが、音楽が主役になってはいない。あくまでも添え物・
二次的な存在になっているかのように聞こえるのだ。
『ルル』の場合、ベルクはかなり詳しいト書きに演出上の注意書きを加えていて、映像を流す
場面もその映画音楽になる部分も指定されているから、そういう印象はもともと織り込み済みで
ある。
全体的に、無声映画に添えられた楽団の演奏という雰囲気になるのだ。
そう感じてしまったのは、どうも、今回の演出は作曲家のもともとの意図よりもずっと視覚
重視の方向に行ってしまっていることと、歌手の声質にもよるのではないかとも思われる。
つまり、ヴィジュアル重視のため細身で軽い声の歌手を揃えた結果、歌唱も音楽も軽い印象に
なってしまったのだ。また、オーケストラ演奏に厚みが乏しいのは、毎度ながらモネの欠点で
ある。

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       バーバラ・ハニガンは、可憐なルックスもスリムな体型もルルにぴったり。

バーバラ・ハニガンは、音を取るのが難しい現代ものオペラに欠かせないソプラノで、声が
とても軽い。
下着やバレエのチュチュ姿で登場することが多いし、若々しいルックスもルルの印象そのもの
だからヴィジュアル重視のキャストにピッタリだ。
ただし、昔の録音の歌手と比較すると、あまりに軽い声質とさらりとした歌い方なので、歌唱
だけ取り上げた場合、主役としてのインパクトにイマイチ乏しい。
その軽さがスタイリッシュかつ現代的なので、今回の演出には正に適役なのだが。
爪先立ちでバレエ風に踊ったり、表情も豊かで演技も上手いのだが、歌唱に関してはどうも
一本調子でメリハリに乏しいような気がした。可愛いだけでなく、ルルは生来の悪女である
ことを歌唱でももう少し印象付けてほしいものである。

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           ルルとアルヴァ、そしてシェーン

シェーン役のディートリヒ・ヘンシェルは、ニヒルなルックスもスリムな体型も現代物にぴっ
たりのバリトンだ。やはり、モネには欠かせない歌手で、軽めの声である。
アルヴァ役テノールのチャールズ・ワークマンも同様。だから、ルルとシェーンの絡み、
ルルとアルヴァの絡みのシーンでは、軽い味の歌手同士なのでそれぞれとてもバランスが取れ
ている。全体的に、うまく均されていて1人だけ突出するという歌手がいなかった。

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視覚情報過多と言ってもいい演出なので、一度観ただけでは疲れてしまって消化不良になる。
何度か鑑賞するとよさがわかってくるプロダクションだ。

ワルリコフスキの『ルル』がファム・ファタールであるのは、ボーダーライン症候群で
『ブラック・スワン』の主人公のように解離性障害もあるという理由のようである。
そういう設定なら、なるほど、自分も周りの人物もことごとく破滅に導く彼女の行動にも
納得がいく。
また、クラシックのバレリーナであるルルには、ベルクの隠し子だった女の子の境遇や
生い立ちも反映されているようだ。
規律や束縛も欲しながら、放埓と安逸を求めてしまうという対極さがルルの中に存在し、
美貌と相まってその生き方が人々を魅了してしまったために起きた悲劇だ。
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by didoregina | 2012-11-13 11:50 | オペラ実演 | Comments(26)

Stradella@ORW  フランクの超レア・オペラはアクア・アルタのヴェネツィアが舞台

ベルギー東部ワロニー地方の都市リエージュにある王立ワロニー歌劇場は、足かけ3年に及ぶ
改修工事がようやく終わって、9月にリニューアル・オープンした。
その杮(こけら)落とし公演には、ご当地出身の作曲家(しばしばフランス人と思われてしまう)
セザール・フランクのオペラ『ストラデッラ』が上演された。記念的演目であるから、多分今回に
限るのだろうが、いつものように一回きりのライブ・ストリーミングではなく、Arte Live Webから
オン・デマンドでかなり長期に渡って見ることができる。一見以上の価値があることは、保証する。
その理由を説明していきたい。

Stradella by César Franck

Musical direction : Paolo ARRIVABENI
Direction : Jaco VAN DORMAEL *
Orchestration : Luc VAN HOVE
Set : Vincent LEMAIRE
Costumes : Olivier BERIOT *
Lighting : Nicolas OLIVIER *

Chorus master : Marcel SEMINARA
Orchestra and Choruses : Opéra Royal de Wallonie

Leonor : Isabelle KABATU
Stradella : Marc LAHO
Spadoni : Werner Van MECHELEN
The Duke : Philippe ROUILLON
Pietro : Xavier ROUILLON
Michael : Giovanni IOVINO
Beppo : Patrick MIGNON
An Officer : Roger JOAKIM

この作品は、歌劇場のサイトによると、フランクが15歳の時に作曲したもので1837年3月3日に
パリ・オペラ座で初演、とあるが、Arteでのストリーミング映像でも、サイトの同じページにも
「世界初演」が謳われている。
一体これはどうしたことか。
様々な情報を付き合わせると、どうやら『ストラデッラ』は歌の部分しか楽譜が残っていなくて、今回
Luc Van Hoveによってオーケストラ・パートが作曲されて上演された模様。それで、世界初演と
銘打っているのだろう。そしてまた、パリで初演と言っても、きちんとオーケストレーションのなされた
オペラとしての上演ではなかったらしい。

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まず、今回の舞台演出は、オペラ演出は初めてらしいJaco Van Dormaelという人なのだが、
それが、舞台装置を含めて、「えっ、これがリエージュ?まるでモネみたい」と思えるほど、革新
的なのである。
とにかく、百聞は一見に如かずである。悪いことは言わない、映像を観ていただきたい。
ネタをばらすのがもったいないから、冒頭の序曲シーンだけでも、まずご覧になっていただきたい。
百年一日の如きオーソドックスな演出および舞台装置で、とにかくコンサバなお年寄りをヘンに刺激
しないことを心がけていたとしか思えないリエージュの歌劇場が、とうとうここまで来たか!という
衝撃的かつ耽美的シーンで舞台が始まる。(他の劇場なら、特筆すべきことでもないのだが)


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        アクア・アルタのヴェネツィアのごとき光景

ステージ一面が水である。それが場面によって、桟橋のような、板を渡した橋のようなものが水面
すれすれに頭を覗かせたりする。まるで、アクア・アルタに見舞われたヴェネツィアそのものである。
そう、この作品の設定は、元々ヴェネツィアなのである。

あらすじを知らずに、何の字幕もない映像をまず鑑賞してみた。どうやら、女1人に男二人の三角
関係というか、愛し合う男女の間に残忍な貴族が無理やり入り込もうとするお話のようである。
悲劇への道をひた走る愛し合う二人は殺され、現世では結ばれず水の中で一緒になる、ということ
らしい。

あとであらすじを読んでみた。ヒロイン・レオノールはヴェネツィアの10人会の有力者ペーザレ公に
言い寄られ、公の手下によってかどわかされ屋敷に閉じ込められている。レオノールの愛情を得る
ために考えられた策は、人気歌手ストラデッラの歌で冷たい心を解きほぐそうというもの。しかし、
ストラデッラとレオノールは実は相思相愛の仲だった。ストラデッラは、公の策に乗ったふりをして
レオノールに歌のレッスンをする。そして、危険を犯してレオノールを逃がそうとする。しかし、
追っ手が迫り、二人の逃亡は地獄への道行きとなった、というストーリーだ。


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              屋敷の中も水浸し。


荒唐無稽ではない単純なストーリーであるが、音楽はなかなかにドラマチックで、まるでヴェルディ。
しかし、残忍な貴族とその手下は、『トスカ』のスカルピアや『リゴレット』のマントヴァ公のような
悪人として名を残し異彩を放つ迫力には欠け、ヒロインも悲劇の主人公なのにタイトルを張るほどの
魅力がない。ストラデッラとはヒロインでなく、カヴァラドッシを思わせる悲劇の主人公の名前なのだ。
その地味さ加減が、なんとなく、『シチリア島の夕べの祈り』を思わせ、ストーリーも音楽も悪くない。

強いて言うなら、音楽がヴェルディ風にドラマチックすぎてほとんどフランクらしく感じられないのが
ちょっと惜しい。アリアやデュエットの場面の構成も、正統的イタリア・オペラ的なものなので、歌詞は
フランス語でも全体の印象がフランス・オペラっぽくない。それは、しかし、フランクのせいではなく、
新たにオーケストレーションを行った作曲家の好みなんだろう。これはこれで、なかなかいいのだが。
そう、ベルギーの新古典イタリア・オペラとして、今後、各地の歌劇場で取り上げられたらいいくらい。

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          カーニヴァルから一転して、葬式のヴェネツィア。


水の上、もしくは文字通り水の中が舞台なのと、舞台後方から下がってくる鏡を多用した装置は、
シンプルでスタイリッシュで効果抜群。
歌手は、コーラスも含めて皆、漁師のような長靴を履いて水に浸かったり、雨合羽で傘を差したり、
雨に濡れたりするシーンが多くて大変だ。
特に、主人公とヒロインは、膝まで水に浸かっての演技と歌である。最後には二人とも水の中で
死ぬという設定だから、びしょぬれどころの騒ぎではない。

ヒロイン・レオノール役のソプラノは、レオンタイン・プライスみたいな古典的な黒人らしい顔立ちで、
涼やかかつ清らかなリリコ・スピント。
主人公ストラデッラ役のテノールは、第一幕では頼りない感じの声で、重要なセレナードなど歌詞
内容が甘いのに声が付いていかなかったが、2幕目以降は、伸びのあるリリックな声が艶を増して、
俄然よくなった。
悪役のバリトン二人は、最初から声がよく出ていて舞台を引っ張っていった。2幕目、3幕目では、
3人の絡みが多くなるのだが、主人公の二人も歌唱にバランスがとれていったので、ひやひやせず
にすんだ。


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       ドッペルガンガーのダンサー二人の使い方が上手い演出。
       シルエットだけだったり、水の下に沈んだり天上に浮かんだり。


殺された愛する二人は水に閉じ込められたまま、最後は天に昇っていく。しかし、鏡と水を用いた
造形表現方法のおかげで、もやもやと幻影のようで、まるでリミニのフランチェスカのように、
天国には行けないでふわふわと漂い続けているよう。死んでから二人が結ばれたのは、天国なのか、
海の中なのか、はっきりわからないその曖昧さがいい。
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by didoregina | 2012-11-08 15:33 | オペラ映像 | Comments(6)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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