<   2010年 12月 ( 18 )   > この月の画像一覧

雪中ハイキング

クリスマス前後は、にぎやかだった。
日本から親戚が遊びに来てくれたり、クリスマス3日間は義妹の家で皆で過ごしたり、その後
友人Rがデン・ハーグからやってきた。

クリスマスには降雪はなかったが、積もった雪がまだまだ2,30センチは残っていたから、
ホワイト・クリスマスだった。

雪の町へは毎日のように繰り出したから、昨日は趣向を変えてサーベルス・ボスでハイキング。


c0188818_18512961.jpg

       シント・ヘーアトロイド村の駐車場が出発地点。
       オランダのハイキング・ルートは、教会脇や
       カフェなど広い駐車場を基点とする周遊コースに
       なっている。
       どこから始めても、道しるべを頼りに、ぐるりと
       周遊するルートを辿れば、必ず出発地点に戻る。


c0188818_18552585.jpg

       色別に、6キロから8キロくらいのコースが様々。
       牧場や林、丘陵を縫い、森を抜けたり、小川に
       沿ったり、変化に富む。

これぞと思われるコースを選んだら、その色のポールが道しるべになっているから、それを
辿ればいい。地図を持っていなくても、迷うことはほとんどない。
そのはずだったが。。。。

c0188818_1915020.jpg

       色つきポールは、雪の下に埋っていることが多く、
       なかなか見つからない。出だしから躓いてしまった。
       ほとんどまっさらな雪の上には、点々と動物の足跡が。


c0188818_18585193.jpg

       自動車道や自転車道は、積雪があってもすぐに除雪
       されるが、歩道は、街中でも雪が深かったりする。
       森の中や牧場を通るハイキング・ルートの除雪がされて
       いるわけがないのだった。。。
       ほとんどスキー場と化した雪原を、そりの跡などを辿って
       の雪こぎとなった。


c0188818_1934322.jpg

       農家の敷地にあった、木の上に建てられたお城のような
       塔のある立派な見張り小屋。森の中では、猟師が獲物を
       狙うために潜むのだが、これは多分、子供の遊び用。

c0188818_1961492.jpg

       雪中の狩人ならぬ、雪中の馬だが、ブリューゲルの絵の世界
       そのままだ。
[PR]
by didoregina | 2010-12-31 11:13 | ハイキング | Comments(6)

リュミエール観客の選んだ2010年映画トップ10

毎度お世話になっている映画館リュミエールの観客による、2010年公開映画のベスト・トップ10
および観客動員数トップ10(2009年)が発表された。

しかし、マーストリヒトのアート・ハウス観客の一般的嗜好を、この結果から導き出すのは危険だ。
なにしろ、ベスト・トップ10選出アンケートに答えたのは、従業員も含めて30人だそうであるから。。。
わたしは、ちなみにアンケートに協力しなかった。

c0188818_10384313.jpg

             シネマトグラフ発明者 リュミエール兄弟

点数は、ベスト1には10点、2には9点、3には8点という風に採点したもの。
順位、タイトル、監督 (点数、配給会社)の順。

1. UN PROPHÈTE – Jacques Audiard (110p, Cinemien)

2. A SINGLE MAN – Tom Ford (64p, Cinéart)

3. DES HOMMES ET DES DIEUX - Xavier Beauvois (49p, Benelux)

4. ANOTHER YEAR – Mike Leigh (45p, Entertainment One)

5. HONEY (BAL) – Semih Kaplanoglu (41p, Eye)

6. THE TIME THAT REMAINS – Elia Suleiman (40p, Cinéart)

7. HADEWIJCH – Bruno Dumont (38p, Contact Film)

8. WINTER’S BONE – Debra Granik (35p, Paradiso)

9. THE GHOST WRITER – Roman Polanski (34p, Benelux)

10. LEBANON – Samuel Maoz (34p, Cinemien)

基本的にオランダでは、映画館でもテレビ放映でも歌劇場でも、なんでも原語主義なので、原語
タイトル・原語上映・上演で、オランダ語字幕が付く。(オペラなどで、ロシア語やチェコ語などの原題
だと読みにくく、理解が困難なのには、タイトルもオランダ語に訳される場合もあるが)

上位3位作品は、お正月の2日間、再上演される。堂々3位に入賞の作品(邦題は『神々と
男たち』)は、最近公開されて、現在も上演中なので、1位2位だけ特別公開になる。
『シングル・マン』は、春ごろに3,4週間しか上映されなくて見逃したので、丁度いいチャンスだ。


また、リュミエールで公開された映画の2009年度観客動員数トップ10は、以下の通り。
(2009年12月1日から2010年11月30日の間の数字)
『ミレニアム』の副題が、オランダ語になっているのは、『ハリー・ポッター』並みにメジャー路線
ということだろうか。

1. DAS WEISSE BAND – Michael Haneke (3749)

2. IO SONO L’AMORE – Luca Guadagnino (3204)

3. THE AMERICAN – Anton Corbijn (3154)

4. MILLENNIUM 2: DE VROUW DIE MET VUUR SPEELDE – Daniel Alfredson (3109)

5. THE GHOST WRITER – Roman Polanski (2571)

6. NOTHING PERSONAL – Urszula Antoniak (2294)

7. MILLENNIUM 3: GERECHTIGHEID – Daniel Alfredson (2280)

8. A SINGLE MAN – Tom Ford (2179)

9. PRECIOUS – Lee Daniels (2131)

10. COPIE CONFORME – Abbas Kiarostami (1963)

数字が小さいから、結構どれも伯仲している。
ベスト10結果と観客動員数とが、ほとんど重ならないというのが面白い。
いずれにせよ、一般映画館では上演しないようなものも取り上げるアート・ハウスの面目躍如で、
ヴァラエティに富み、地方都市でけなげに奮闘している姿が一目瞭然だから、やっぱり今後も
応援したくなる。
[PR]
by didoregina | 2010-12-27 02:35 | 映画 | Comments(4)

La Solitudine dei Numeri Primi (素数たちの孤独)

c0188818_19211422.jpg2010年
監督 Saverio Costanzo
マッティアの母 Isabella Rossellini,
アリーチェ(大人) Alba Rohrwacher,
マッティア(大人) Luca Marinelli,
アリーチェ(子供) Martina Albano,
アリーチェ(10代) Arianna Nastro,
マッティア(子供) Tommaso Neri
マッティア(10代) Vittorio Lomartire
ヴィオラ Aurora Ruffina




水曜日の午後は、クオリティ映画デイである。新作アートハウス系映画が5ユーロ50セントで
見られるのだ。家族4人で出かけた。
『素数たちの孤独』というタイトルがあんまりなので、当初、子供たちは「暗そうだ」と気乗り
しない様子だった。
しかし始まってみると、予想外に展開がスリリングで、飽きさせず、引き込まれた。
ストーリーとしてよく出来てるし、役者は皆上手いし、ほろ苦い青春の味もするし、印象深い。
もしかしたら、今年見た中で最高の映画かもしれない。




         キム・カーンズが歌う『ベット・デイヴィス・アイズ』が
         効果的に使われている。ハスキー・ヴォイスがかっこよさ抜群。


マッティアとアリーチェの二人は、10代の頃から惹かれあうのだが、普通の関係が築けない。
共に8歳ごろの体験が心の傷となっていて、極めて内向的な性格なので、学校に溶け込めず、
大人になっても世間から隔絶した自分だけの世界に籠もっている。
子供の頃、10代になってからのシーンが回想として展開され、二人のトラウマが徐々に明らかに
されるという仕組みの映画だ。

c0188818_19572596.jpg

         ラスト近く、大人になって再会したアリーチェとマッティア。
         アリーチェ役のアルバ・ローワッヒャーは、傷だらけで壊れやすい
         といった役作りに体当たり。折れそうに細い体型も、透き通るような
         白い肌もティルダ・スウィントンに似た印象。Io sonno l'amore
         では親娘を演じていたから、ティルダのお眼鏡にかなってるはず。


c0188818_206897.jpg

         高校時代、アリーチェの残酷な友人だったヴィオラ。
         ヴィオラの結婚式にカメラマンとして呼ばれたアリーチェが
         回想する学校生活は、青春のほろ苦さが一杯。


c0188818_2075141.jpg

         ヴィオラのパーティでのアリーチェとマッティア。(10代)
         マッティアは大人役も子役も似てるからいいけど、
         10代のアリーチェ役は、大人になってからのアリーチェに
         あまり似てないので、見ていてちょっと混乱した。


c0188818_2010996.jpg

         子供時代のマッティアと双子の妹ミカエラ。
         仮装パーティに出かけるが。。。。


c0188818_20183344.jpg

         マッティアの母役は、イザベラ・ロッセリーニ。
         この写真では美しいが、老けてやつれた顔をさらしてるのが凄い。


c0188818_2016758.jpg

         アリーチェの子供時代。利己的な父親から
         スキーのスパルタ式特訓を受ける。


親子関係は冷たく、友達との交友も上手く結べず、世間にも溶け込めないアリーチェとマッティアが、
タイトルの「孤独な素数たち」を体現している。
孤独そのものの存在同士、ぎこちないソウルメイトとして心の隙間を補うように求め合うものがあるのだが、いつでも二つの素数の間には別の数字が存在して、二人の結びつけを邪魔している。
ヴィオラの結婚式での「素数」に関するスピーチが、タイトルを要約していた。

心の傷を負った同士のぎこちない愛、ほろ苦い青春、という要素が村上春樹の『ノルウェーの森』に
似ているような気がした。こちらも、パオロ・ジョルダーノというイタリア人によるベストセラーの映画化だ。
小説『ノルウェーの森』は、大の苦手だったが、映画が来月から公開される。映画は見てみたい。
[PR]
by didoregina | 2010-12-23 12:41 | 映画 | Comments(6)

DNOの『西部の娘』 一年後のTV放映

丁度一年前にアムステルダムのミュージックテアターで上演されたプッチーニの『西部の娘』が
ようやくオランダ第二TVで放映された。
昨年も今年同様、大雪の12月だった。行こうか行くまいかと迷った末、年末にTV放映があると
の情報だったのでナマ舞台はパスした。しかし、それが1年後のことだとは思わなかった。
だから、待ちに待ったTV放映だったのだ。

c0188818_6123381.jpg
La fanciulla del West
Giacomo Puccini 1858 1924

muzikale leiding   Carlo Rizzi
regie   Nikolaus Lehnhoff
decor   Raimund Bauer
kostuums   Andrea Schmidt-Futterer

Minnie   Eva-Maria Westbroek
Jack Rance   Lucio Gallo
Dick Johnson   Zoran Todorovich
Nick   Roman Sadnik
Ashby   Diogenes Randes
Sonora   Stephen Gadd
Trin   Jean-Léon Klostermann
Sid   Leo Geers
Bello   Peter Arink
Harry   Pascal Pittie
Joe   Ruud Fiselier
Happy   Harry Teeuwen
Larkens   Patrick Schramm
Billy Jackrabbit   Tijl Faveyts
Wowkle   Ellen Rabiner
Jake Wallace   André Morsch
José Castro   Roger Smeets

orkest   Nederlands Philharmonisch Orkest
koor   Koor van De Nederlandse Opera

上記キャストの通り、登場人物の大部分は男性だ。女性は主役のミニーと端役のウォークルのみ。
西部劇だから、基本的に男の世界なのだ。
時代設定は、ゴールドラッシュの頃よりは現代に近づけて、摩天楼の下の暗黒街が舞台だ。

c0188818_6272731.jpg

        西部劇の要素も残しているのがポイント。
        大草原でギターを弾き語る男はまさに
        ジョニー・ギター。

基本的にフェミニストなのではないかと思われるプッチーニの、オペラのヒロインは、普通一般の女性
とは別の世界に生きてるような、特異な境遇の女性であるのは通例だが、ミニーはその中でもまた
格別に異色だ。
荒くれ男の中の紅一点である。だから、彼女を中心に展開されるストーリーなのだが、その性格は
なかなか、つかみ所がない。気丈な酒場の女であるかと思えば、実は純な生娘で、気風は姐御肌
なのに、信心深い教師もしくは優しい母親代わりの役割を演じたりする。かなり複雑で分裂気味だ。
もしくは、そういう風に千変万化・臨機応変に対応できる世間智のおかげで、ナイーブな男たちの信頼
を勝ち取っているというべきか。
ともあれ、ミニーはまさにマドンナ体現しているのである。

c0188818_651354.jpg

        摩天楼の下に蠢く暗黒界の
        女ボスみたいに登場するミニー。
        50年代の映画をパロった演出。

男勝りで気丈な西部の女、というイメージは、1954年のニコラス・レイ監督の映画Johnny Guitar
(邦題『大砂塵』)の主役ヴィエンナ(ジョーン・クロフォード)から拝借しているようだ。当時の
ウエスタン映画では珍しく、女性同士の決闘シーンもあり、男と張り合う強い女が主人公だ。

c0188818_7531148.jpg


 
金の詰まった金庫の管理を任されてるミニーに近づく色男のディック・ジョンソンは、実はお尋ね者の
メキシコ人ラメレス。
しかし、二人は互いの中に似たものも感じ、純粋に惹かれあう。

c0188818_7473027.jpg

        純情な女ミニーは、精一杯おしゃれをして
        ディック・ジョンソン(ラメレス)を
        迎える。どピンクのトレーラーハウスが
        彼女のシュミをあらわしていていい。

c0188818_759981.jpg

        追われるラメレスを匿うも、保安官ランスに
        見つかる。
        しかし、いかさまポーカーでランスを負かして
        首尾よくラメレスを逃がす。
        
c0188818_7504984.jpg

        逃亡して再び捕らわれたラメレス。 
        ラメレス役は、アラーニャをぶっ壊して
        ロバート・デ・ニーロの味付けを加えたような
        風貌のソラン・トドロビッチ。

その後、絞首刑にされる寸前のラメレスを、ミニーが啖呵を切って救う。荒くれ男たちの心情に
マドンナの魅力で訴えかける。
そのラストのミニー登場シーンが、またもや古きよきハリウッド映画調なのだ。MGMのライオンの
ロゴが背景に映し出され、大階段をラメも鮮やかな裾を翻すロングドレスで颯爽と降りてくる。
助かったラメレスは、いつの間にかタキシードに着替えて、フィナーレはキスシーンというハリウッド流
お約束もばっちり取り入れている。
ゴールド・ラッシュの西部という荒唐無稽の舞台設定で、性格は分裂気味のヒロインという、もともと
破天荒なオペラなので、この演出はぴったりだ。


ミニーは、エファ=マリア・ウエストブルックのハマリ役だ。(オランダでは彼女には、われらの、
という人称代名詞が冠詞のごとく付く)
本編の前に、今回は指揮者や演出家による解説はなくて、主役3人の歌手、特にウエストブルックの
インタビューにかなりの時間が割かれていた。

「この作品のCDとDVDはもちろん全部集めてます。ドミンゴがディック・ジョンソン(ラメレス)を
歌ったものが特に気に入ってます。後にROHでミニーを歌うことになったとき、演出がその一番
好きなDVDと同じものだったので、びっくり。西部劇風の衣装とセットが美しく、どのシーンも
まるで映画みたいに完成度が高いんです。憧れであり目に馴染んでいたプロダクションを舞台で
自分が歌い演じるというのが、不思議な気がしました。あのシーンを今わたしが演じてるんだわ、
この小道具も同じ、と、思わず笑みが漏れるほど。」

さらに、自宅のリビングでは夫君でテノール歌手のフランク・ファン・アーケンもインタビューに登場して、
「ミニーはエファそのものだと思います。彼女のために作曲されたかようで、こんなハマリ役も
めったにあるものではありません」などとコメントするのだった。

世界の歌劇場での彼女の活躍ぶりは素晴らしいから、オランダの誇るソプラノ歌手ということで、
国民的祝日には彼女の歌が欠かせない。5月5日の開放記念日の運河コンサートでもメインだったし
コンセルトヘボウのクリスマス・マチネ・コンサートで歌うのもTV中継される。そして、『西部の娘』
に続いて、彼女がカッサンドラ役だった、今年4月の『トロイの人々』もTV放映される予定だ。
[PR]
by didoregina | 2010-12-21 00:14 | オペラ映像 | Comments(10)

サヴァールは古楽界のリューか?!

エイントホーフェンのミュージックヘボーから、サヴァール指揮ル・コンセール・デ・ナションの
コンサートに招待された。2010年12月17日。
昨年のコンチェルト・コペンハーゲンのコンサート招待に続いて二年連続当選である。
単にくじ運がよかったのだろうか、それとも。。。

c0188818_66298.jpg

       雪が積もると着たくなる蝋たたきの紬。
       厚地でほっこりと暖かく着易い。
       あられ模様の羽織を合わせて。
       吹き抜けのシャンデリアは、この手のものでは
       (どの手のものなのか不明だが)最大だそうだ。

このところの雪と寒さは尋常ではない。
だから、金曜日の晩、時間に余裕を見て出発した。エイントホーフェンへは車で1時間の距離だ。
その日、北部および西部は大雪で、電車のダイヤは乱れに乱れ、高速もひどい渋滞だったようだ。
4時半にデルフト駅を出た長男が、マーストリヒト駅に着いたのは9時15分だったそうだ。
南部は、たいした雪ではなく、高速もスイスイと、エイントホーフェンに7時45分ごろ到着した。
しかし、毎週金曜日、エイントホーフェンの商店は午後9時まで営業するということを忘れていた。
(普段は、6時には店が閉まる)
クリスマス前だから、人出は普段よりも多い。エイントホーフェンに着いてから悪い予感がした。
フィリップス・ミュージックヘボーは、目抜き通りの大きなショッピング・モール内にあるのだ。
案の定、駐車場に入るまでが、大変な渋滞である。車の列は遅々として進まない。
そして、フィリップスは開始時間に厳しいのである。これは、アンスネスのリサイタルでも経験済み。
果たして、8時15分の開演に間に合わなかった。

c0188818_692672.jpg

           誰もいない2階のフォアイエは、
           ブルーの照明とパステルカラーの
           椅子が妙におしゃれだ。

間に合わなかった人が各階に10人くらいいた。
「23分後に最初の曲が終わりますから、それまでお待ちください」と、フォアイエの係員は
手馴れたものである。

一階も二階も、フォアイエが様変わりしている。夏に改装工事に入って10月に新装オープンした。
最後に来たのは3月のユンディのコンサートだから、この変化にはびっくり。
エキストリーム・メイクオヴァーと言っても過言ではない。いかにも80年代風だったインテリアはまるで
原型を留めていない。
絨毯も壁も天井もバーのカウンターも椅子も照明も全て新規一新で、大掛かりなイメチェンだ。
暇だから写真を撮りつつ見て歩いた。

c0188818_6205652.jpg

         階段踊り場コーナーは、ちょっと渋めの色。
         壁にはプロジェクション・ライティングを多用。

そうこうするうちに、「10分前ですから入り口で待機してください」と係員の声。
フォアイエとホールの間にある仕切られた空間に入れられる。ここにはホールからの音が漏れてくる。


Le Concert des Nations o.l.v. Jordi Savall@Muziekgebouw Eindhoven

Rameau - Orkestsuite uit Naïs (1748)
Rameau - Orkestsuite uit Les Indes Galantes (1735)
Rameau - Orkestsuite uit Zoroastre (1749)
Rameau - Orkestsuite uit Les Boréades (1764)

最初の「『ナイス』管弦組曲」は、だから、半分だけドアから漏れてくる音を聴いた。
『優雅なインドの国々』管弦組曲の始まる前に、ホールに入れてもらえた。

サヴァールは、もちろん指揮だけ。古楽系のオケ演奏家には、普通のオケ団員と比べて、通常
なんとも形容しがたいイナセな雰囲気が漂うのだが、このル・コンセール・デ・ナションは、また少し
異なる印象。古式床しいというか、ヴィジュアルの印象が音楽にぴったりなのだ。いや、別に18世紀
の服装をしているわけではない。しかし、なんとも雅なのである。

なぜだろう、と考えるに、まず、指揮者のサヴァールおよび団員の性別および年齢によるのが第一
の理由ではないかと思えた。
男性対女性の割合は、数えると7対1である。平均年齢は不明だが、あまり若くなさそうだ。
オケ団員の国籍はわからないが、ラテン系が多いような気がする。(調べたら、その通りだった)
それら全てが、北方の古楽アンサンブルとはヴィジュアル的に異なる印象を与えるのだ。

それでは、音のほうはどうだろう。
これが、耳にとろけるような感触で、とんがったところが全くない。ラモーのギャラントな雰囲気を
表現するには最上の音だと思えた。
このホールは、内装に木材を多用しているせいか、かなりデッドでモダンな音響である。古楽には
不向きだ。ここでこんなに優雅な音を聴いたのは初めてだ。その心地よさに浸ると、ポンパドール夫人か
マリー・アントワネットになったような気分である。ここはヴェルサイユか。


c0188818_6552662.jpg

        休憩のドリンクはチケット代金込み。
        精神安定上にも混雑緩和にもいい。
        天井は、パネルを隠すように別のパネルを
        重ね、ブルーの照明がアトランダムに点滅。

トレンディなインテリアが美しく、ゆったりした椅子のコーナーも沢山あり、ドリンクはフリー。
こんなに優雅な気分に浸れる休憩はなかなかあるものではない。さすが、フィリップスだ。
コンサートに出かけるのは、非日常の空間、音楽と共に身をゆだねるという楽しみも大きい。
そうでなかったら、家でCD聴いてればいいんだから。そういう意味で、ここはプログラムもホールも
フォアイエも至れり尽くせり。

c0188818_75647.jpg

        ラブ・チェアみたいなのもいくつかある。
        音楽専門ホールだが、クラシックだけに限らない
        せいなのか、トレンディなインテリア。


夢見心地のうちに後半のプログラムも進んだ。
全く無理や衒いのない指揮と演奏で、ナマの音楽の愉しさが満喫できた。
そして、主人が周りを見渡しながら言った。
「何でここに2年連続で招待されたかわかった」
「なんで?」
「年齢を正直に書いたんだろう」
すなわち、会場を見渡すに、もしかしたらわたしたちが一番若いかも、と思えるのだった。
ほとんど会場全部が白髪で光っている。主人は年齢の割りに白髪がないので若く見える。
サヴァールと同年輩か、平均年齢60歳以上であることは確かな聴衆は、雅な音楽にノリに乗った。
ブラヴォーの声が飛ぶ。
そこでアンコールは2曲。最初はテンペストの効果音が入る曲。
老年のアイドル、サヴァールの面目躍如というべきか、2曲目では聴衆に手拍子の参加を要請した。
それに応えて、手拍子し熱狂しまくる人々。これで立ち上がって踊りだす人も出たら、まるでアンドレ・
リューのコンサートのノリではないか。
これが、サヴァールは古楽界のリューなのか、と思ってしまった所以である(<ーごめんなさい)


           昨年ロッテルダムでのコンサート。
           同じアンコールと手拍子。
[PR]
by didoregina | 2010-12-19 23:32 | コンサート | Comments(8)

モンテヴェルディ『聖母マリアの晩課』@聖母マリア教会

オランダ・バッハ協会のコンサート。2010年12月15日。

c0188818_22423966.jpgDe Nederlandse Bachvereniging
koor en orkest

Jos van Veldhoven dirigent
Hana Blazikova sopraan
Johannette Zomer sopraan
Charles Daniels tenor
Daniel Auchincloss tenor
Julian Podger tenor
Harry van der Kamp bas

Claudio Monteverdi (1567-1643)
- Vespro della beata Vergine (1610)




モンテヴェルディの『聖母マリアの晩課』(略して『マリア・ヴェスペルス』)が作曲・出版されたのは
丁度400年前の1610年なので、記念イヤーということで、各地でコンサートがある。
オランダ・バッハ協会は、ここマーストリヒトの聖母マリア教会でのコンサートを初日とするツアーを
行っているのだが、オフィシャル・サイトのつぶやきによると、この教会はヴェネツィアのサン・マルコ
聖堂の北方版みたいなものだから、いかにもマリア・ヴェスペルス演奏にふさわしい、とのこと。

記念ツアー初日だし、人気のある曲だから、チケットはソールド・アウト。乗り遅れたわたしだが、
チケット・オフィスに行ったら、リターンしに来てる人がいて手に入れることが出来た。
また、この教会でのメジャー系古楽コンサートでは、絶対に忘れてはいけないことがあるのに、
うっかりしていた。それは、全席自由席、早い者勝ちの原則である。
当日、8時開演かと思ってチケットを見たら8時半となっているので、まだいいや、と思ったのが
間違い。日中最高気温もマイナス2度くらい、積もった雪が凍って、教会コンサートには最悪なのに
人の出はよかった。
8時10分くらいに教会に入場してみると、もうほぼ満席。後ろから3列目の補助席みたいなのが、
ひとつ空いているのを発見。柱のかげでないだけでもありがたいと思わなければいけない。

c0188818_22544727.jpg

         祭壇上部と天井のモザイク画。
         この下の祭壇手前がステージ代わり。

そして、もう一つ気がかりなのは、この教会の音響だ。
リサイタルならいいのだが、オケと合唱団の入る編成のコンサートには、いかにも不向きなのである。
唱句の朗唱、応唱、ファンファーレと続いても、音が拡散してからばらばらに反響するから、もう
なにがなにやらわからない。あの、かっこいいはずのファンファーレですら、しまりがなく聞こえる。

モンテヴェルディのマリア・ヴェルペルスということ以外にも、ヨハネット・ゾマーがソリストとして参加
している、というのがわたしにとって重要ポイントであった。
しかし、ようやく人の頭の間からお顔が覗けるからまだましだったものの、音響がひどいので
全体にぼわーんとして、メリハリがないから、音楽が非常につまらない。演奏がどうのこうのという
問題ではまるでないのだ。演奏者がよく見えて、音が直接耳に届く前の方の席を確保すべきだった。

c0188818_2317463.jpg

          小型のチェンバロとオルガン

また、覚悟と準備はしていたものの、いつも予想を上回るのが寒さである。
聖母マリア教会でのコンサートには、季節を問わず、山歩きもしくは野外スポーツ観戦と同じような服装
と非常用毛布を持って来るべきなのだ。
ここは現役の教会なので、暖房装置が入っていない。オランダで2番目に古い教会で観光の目玉
でもあるから、いたしかたない。ロマネスクのマール石造りの美しい教会は、外気と風は遮断してくれ
るが、足元からしんしんと冷気が立ち上る。吐く息は白くなかったから、0度以上はあったと思うが、
ダウン・ジャケットに毛布のような大判ショールに手袋、帽子、ブーツで武装しても、じっと座っていると
寒さが身にしみる。
演奏するほうも大変だろう。皆さん厚着の様子だったが、これで喉を壊しはしないかと、心配になった。

手持ちのCDは大昔に買ったガーディナー指揮モンテヴェルディ合唱団&オケのもので、どうしても
比べてしまう。
CDには少年合唱団も参加しているが、今回のコンサートは大人の合唱のみ。サンタ・マリアの合唱は
美しい女声コーラスだった。ソロのソプラノも美しく、全体的に女声が勝って、ソロのテノールは、
ちょっと精彩を欠いていた。
よく見えなかったが、テオルボ奏者は二人いたようだ。帰り際にフレッド・ヤーコブスとすれ違った。
ヴィオラ・ダ・ガンバ、チェンバロ、オルガン、ハープは一人づつ。
コルネットとサクバットがかっこよく大活躍する曲だ。最初のファンファーレは教会の音響のせいなのか、
なんだかコケたような感じだったが、だんだんよくなっていったので、後半はうっとりした。


         オランダ・バッハ協会コルネット奏者による
         楽器の説明。


しかし、寒さはいや増しになり、もう、早く終わってくれ、と願うばかりになっていった。
会場皆の願いは同じだったようだ。祈りが通じたかのような最後のアーメンの後、拍手はなかなか
起きなかったが、すぐに立ち上がる人は多かった。スタンディング・オヴェーションというわけでなく、
立ち上がったら歩き出すのだった。
我慢の限度ぎりぎりだった。演奏が悪いわけではない、寒さが耐え難いのだ。
教訓:真冬の教会でのコンサートは避けたほうがいい。CDで聴いたほうがずっといい。

c0188818_23534394.jpg

         教会前の広場のスズカケの木に吊るされた
         大きな鈴のような電飾が幻想的。
         外はマイナス5度だった。中はいったい何度?


オランダ・バッハ協会のCD直売スタンドが出ていた。その中に、豪華ブックレット付きのものがいくつか
あり、目を惹いた。ユトレヒトのカタリナ・コンヴェント美術館との共同企画の特別ヴァージョンだそうだ。
オランダのキリスト教関連に特化した美術館所蔵の彩色写本をブックレットにしたものだ。
特に、『クリスマス・オラトリオ』のが美しくて気に入ったが、40ユーロと高いので、パスした。
家に帰ってから、やっぱり欲しくなった。バッハ協会のサイトでは、売り切れになっている。プレストや
アマゾン、レーベルのチャネル・クラシックのサイトでも見つからない。幻のコレクターズ・アイテムだ。
見つけたときに即、買っておくべきであった。
[PR]
by didoregina | 2010-12-17 16:01 | コンサート | Comments(8)

スペイン・ルネッサンスのクリスマス音楽   超レア

c0188818_1623112.jpg

Que bonito nino chiquito
So el enzina @ Cellebroederskapel 2010年12月14日

Adrian Rodorigues van der Spoel (歌、ギター、パーカッション、ビウエラ)
Luciana Cueto (メゾ・ソプラノ)
Regina Albanez (ビウエラ・デ・マノ、ルネッサンス・ギター)
Catherine Bahn (ビウエラ・デ・アルコ)
Andres Locatelli (リコーダー)

アドリアン・ファン・デル・スプール率いるルネッサンス・スペイン音楽アンサンブル、
ソ・エル・エンジナによるスペインのクリスマス・コンサートに行ってきた。
会場は、セレブルダース・チャペル。ここは、マイナーな古楽コンサートがよく
行われるので、15年位前までは通っていたが、この10年くらいはほとんど来て
いないような気がする。去年、ここで従姉妹の結婚式があったが。

スペインの修道院や宮殿などに残された15世紀の古文書に記載された音楽の
カンシオネロスから、クリスマスにふさわしい音楽が演奏された。コロンブスの
弟が編纂させたというコロンビーナ歌曲集、マドリッドの王宮の地下室で発見されたというパラシオ歌曲集、数奇な運命でスエーデンのウプサラに所蔵されているウプサラ歌曲集など、スペイン・ルネッサンスの土俗的な香りの強いサウンドだ。
主にキリスト生誕の感動やマリアを讃える歌だが、楽器はルネッサンス・ギターが中心で、それに様々な打楽器が加わる。リコーダーも入るが、弦楽器と打楽器の音が比較的騒々しいので影が薄く、最前列に座っていたのに、目の前の笛の音もかすかにしか聞こえてこない。

c0188818_17123942.jpg
大小のギターに太鼓と楽譜。

ビウエラは、ギターのように指で弾く(ビウエラ・デ・マノ)のが普通だが、弦を使う(ビウエラ・デ・アルコ)というのもあった。それは、ヴィオラ・ダ・ガンバそっくりで、サイズも 大小ある。

メゾ・ソプラノのルシアーナ・クエトの歌が、くせのない声と発声で好感が
持てる。この人、ペネロペ・クルスとオドレイ・トトゥを足して2で割ったような、びっくりするほどの美人で、そのまま化粧品か香水の広告に使えそうだ。(下の動画の歌手は別人)




      こちらは、ファン・デル・スプールの別のアンサンブル
      ムジカ・テンプラーナだが、ギタリストは、今回の
      コンサートと同じ人。歌はペルーのロマンス。

休憩後は、コロンブス以降のラテン・アメリカ・バロックだ。クスコー、グアテマラなどに残る音楽で、スペインのビヤンシーコ(方言で歌われる民謡が元になっている15世紀のポリフォニー世俗曲)とインディオの土俗音楽が合体したもので、対位法などは稚拙だが、妙味がある。ビヤンシーコは、民謡というイメージが強いかもしれないが、農民や牧人が歌っていたわけではなく、実際には、消費階級である貴族のために発展していった音楽だそうだ。

子供が生まれたという神聖な感動と、母親としての経験のないマリアの戸惑いが、ストレートに表現された音楽はえもいわれぬ雅趣がある。
その戸惑いが可憐さに転じて、少女としてのマリアを歌ったものも多いそうだ。もちろん、恋歌の趣になる。

c0188818_17384910.jpg

          ゴシックのチャペル内部にある聖母子像。
          上方に天使。ここのインテリアには天使が
          沢山使われていて、柱頭には二人ずつの
          天使像が彫られ彩色されてるのが可愛い。

c0188818_17432996.jpg

       左からリコーダー奏者、美人歌手、歌にギターに
       パーカッションに解説と大活躍のファン・デル・スプール。

かなりレアな曲を集めた(オランダでは初演奏の曲もあった)クリスマス・コンサートは、地元のスペイン語および文化協会であるシルクロ・セルバンテス主宰であった。心もほっこりと温まり、予想以上に楽しめる内容だ。小さな会場はよかったが、もっとPRしたら集客できそうな気がする。
日本へはけっこうよく行ってるファン・デル・スプールだが、本拠地オランダでは、なかなか実物にお目にかかれなかった。念願が叶ってうれしい。
[PR]
by didoregina | 2010-12-16 09:51 | コンサート | Comments(2)

カメラータ・ヤナーチェクのバロックと偽バロック

日曜夜に、クリスマス・コンサートに招待された。
地元LSOのコンマスであるギル・シャロンが主催するアマーティ室内楽シリーズの一環である。
今回は、チェコの室内楽アンサンブル、カメラータ・ヤナーチェクにシャロン(v)が加わった。

カメラータ・ヤナーチェクは、ヤナーチェク・フィルの団員から成る室内楽団だそうだ。
いかにもチェコの楽団らしい名前からチェコものを期待したのだが、プログラムはちょっと異色。
急に招待されたので、演奏曲目や奏者も知らずに会場のマーストリヒト音大に出かけたのだった。
今回は、長男が同行した。

Camerata Janacek + Gil Sharon (v)
Amati Kamermuziek Serie Kerstconcert @ Conservatorium 2010年12月12日

Corelli Concerto Grosso op.6 no.8 (per la notte di natalo)
Vivace - Grave
Allegro
Adagio - Allegro - Adagio
Vivace
Allegro
Largo (Pastorale ad libitum)

Grieg Holberg Suite op. 40
Praeludium
Sarabande
Gavotte
Air
Rigaudon

Pauze

Vivaldi De Vier Jaargetijden
Concerto No. 1 op. 8 La primavera
Concerto No. 1 op. 8 L'estate
Concerto No. 1 op. 8 L'autunno
Concerto No. 1 op. 8 L'inverno

テーマは、ずばり、バロックと偽バロックである。

コレッリの合奏協奏曲とヴィヴァルディの『四季』という真性・正統的バロック音楽に、グリークの
18世紀風の擬似バロック音楽を組み合わせた、意欲的なプログラムだ。

コレッリのこの曲は、クリスマスのための、と副題が付くくらいだから、今回のコンサートの趣旨に
叶っている。終章のラルゴは、ボッティチェッリの『キリストの生誕』から霊感を得て作られたらしい。
同タイトルで描かれたいくつかあるボッティチェッリの絵のうち、どれを指すのかは知らない。
それよりも、長男が「!」とすぐに感応したのは、またもやコンピューター・ゲームにこの曲が使わ
れているからだ。Empire:Total Warというのは、18世紀のヨーロッパを舞台にしたゲームである
から、コレッリの曲がオープニングに使われるのはしごく理にかなっている、とは長男の弁。

カメラータ・ヤナーチェクは、ヴァイオリンは主に若い女性、ヴィオラ、チェロ、コントラバスは主に
男性が担当し、ステージ左側に黒い衣装の女性たち、右側に赤シャツがユニフォームの男性たち、
と視覚的にくっきりと分かれた配置だ。チェンバロとチェロ、コントラバスなどの大型楽器以外は、皆
立ったままの演奏である。
バロックと偽バロックを演奏した彼らであるが、楽器はモダンで奏法はピリオド・アプローチがかってる。

グリークの『ホルベルク組曲』というのは、初めて聴く曲だ。1884年、物理学者ルードヴィヒ・
ホルベルク(1684-1754)の生誕200年を記念して、彼の生きた時代に耳にしたであろう古楽
風に作曲されたもの。クープラン、リュリ、ラモーなどの舞踏音楽コピーに19世紀末風味付けを
加味している。
はっきり言って、バロック音楽のおおまじめなパロディーである。面白い試みの音楽ではあるが、
後で思い出そうとしても、頭に何も残らないという、可愛そうな曲だ。アイデアは買おう、しかし、
出来はイマイチ、なのであった。

休憩中は、わたしたちも銀行からの招待客であるという名目なので、別室で飲み物を供された。
普段コンサートに来てる聴衆とは客層が異なるように感じられるのは、皆様、非常に洗練されてシック
な服装だからである。さりげなく高級品を身につけている。
普段着の長男は、「こんな格好だし、若い人は他にいないから、ちょっとなあ」と少々ひけていた。
某国立銀行から外資の某大手銀行に移った知人の名前が、コンサート・プログラムにスポンサー
として出ている。彼は金曜の夕方に「急で悪いけど、日曜日にコンサートがあるから、来てくれる?」
と電話してきたのだ。大企業向け接待部長みたいな仕事らしい。わたしたちはサクラとして招待された。
彼もピアノを弾く、音楽愛好家仲間である。

休憩後のヴィヴァルディ『四季』が本日のメイン・イヴェントである。
ヴァイオリンのソロは、アマーティ室内楽シリーズの主宰であるシャロンが担当だ。
地元LSOのコンマスとしておなじみの彼が、ルーマニア出身でエネスコ・プロジェクトも推進している
ということを初めて知った。道理で、ロンドンのルーマニア大使館の文化関連コンサートみたいなのに
も登場しているのに合点がいった。

エッジが利きすぎたりゴリゴリしたところのない滑らかな演奏で、刺激的な面は全く強調しない。
ヴィヴァルディ演奏の進化というか研究には、この20年ほど目覚しいものがあるから、こういうピリオド
的でない演奏も、また珍しいのではないだろうか。おっとりとした上品な聴衆の好みにぴったり合った。
ヴィヴァルディの責任ではないのに、皆が手を出すので垢まみれのような印象の『四季』だが、
ライブで聴くとやはりいいなあ、と思える名曲だ。
[PR]
by didoregina | 2010-12-15 10:24 | コンサート | Comments(0)

弁慶格子

弁慶格子というのは、大柄のギンガムチェックのことだ。
きっぱりとモダンな模様で遠めにも目立つからか、歌舞伎の衣装にもよく用いられる。
それが江戸時代の流行の源泉になったのだろう。

c0188818_16521674.jpg

         弁慶格子の大島紬の長羽織

太い縞同士の交差ということで、九鬼周造の『「いき」の構造』では、粋の度合いがあまり高くない
柄とされているが、歌舞伎では遊び人や勇みの人・荒ぶる人や艶っぽい人妻の衣装にも使われる。

c0188818_16534164.jpg

         勇同士酉道連(いさみどうしとりのみちづれ)と題がついた
         浮世絵。このワルッぽい男は、多分、蝙蝠の安だ。
         半纏と襦袢の模様が弁慶格子。

c0188818_171275.jpg

         二枚の版画を対で買った。この美男子は多分、切られ与三郎。
         暮れの風物詩、酉の市の熊手を担いでる。熊手と綿入れ半纏に
         富の字が入ってる。お富さんのことだ。
         こちらは、いかにも市川系の顔つき。

この二枚の版画はオークションで手に入れたものだが、いろんなストーリーが語られていて
見ていて飽きない。というより、なぞや疑問のほうが浮かぶ。
描かれているのは、多分、遊び仲間の与三郎と安なんだろうと推測するが、安にはこれだと
わかる決め手がないし、与三郎は顔に傷がない。『与話情浮名横櫛』や『切られお富』とは
別に、この二人とお富が登場する芝居があったんだろうか。それとも、現在ではほとんど上演
されない場面を描いたものなのか。
与三郎の半纏の模様にも何か意味がありそうだ。
また、二人のかついでいる毛布みたいなものにも、文字の一部のような模様が見える。
識者の助言を待ちたい。
[PR]
by didoregina | 2010-12-14 09:19 | 着物 | Comments(4)

エマニュエル・アックスのピアノ・リサイタル

BravaTVにはオペラ放送で毎度お世話になっている。しかし、それだけではない。
ニュースレター会員登録してあるので、2週間に一度ほどメルマガが届く。
こういう文化系商業メルマガには、コンサート・チケットやCDが当たるというクイズや懸賞が必ず
あるので、これはと思うものには応募している。そして、またも当選してしまったのである。
エマニュエル・アックスのリサイタル・チケット2枚が。

アックスは、来週コンセルトヘボウでハイティンクとブラームス・プログラムを3日間行うのだが、
それらは全てソールド・アウトである。アムステルダムまでは遠いのでマチネしか狙えない。
いくらタダ券をもらっても、泊りがけになってしまっては大変だから、そういう懸賞があっても
応募しない。
しかし、今回のは、うちからすぐ近くのヘーレン市民会館でのリサイタルで、懸賞のお知らせが
来たのはコンサートの2日前だ。チケットの売れ行きがよくないんだな、しかも田舎だから
応募する人も少ないだろう、と思った通り、翌日、当選のお知らせメールが届いた。
次男といっしょにでかけた。

市民会館のカフェには、ピアノをペーターに習っているカリンとクリスも来ていた。
音楽学校の先生お勧めだったので、顔見知りの生徒もいるかと思ったが、見当たらない。

アックスは6,7年前にユトレヒトまで聴きに行ったので、今回はパスするつもりだった。
というのは、あまりに地味な演奏だったので、嫌いじゃないが、また聴きたいとは特に思わなかった
のだ。
前回は、ショパンを中心にしたプログラムだったと思う。そして、アンコールはドビュッシーだった
ように記憶している。

今回は、シューベルトとショパンである。
予定では、前半がシューベルトのソナタD960で、後半がショパンというプログラムで、いきなり最初に
重いものを持ってくるというのが意表を突いていて、この人は、失敗を恐れて先に難しいのを終えたい
んだろうかといぶかった。
しかも、なかなか会場に入れてくれない。ぎりぎりまで練習してるんだろうか、とさらに疑問が湧いた。

舞台に登場したアックスは、椅子に座る前に、「今晩は、予定していた曲順を入れ替えて、前半に
ショパン、後半にシューベルトといたしますが、よろしいでしょうか」と聞くなり、有無を言わさずに
ショパンから弾き始めた。
なあんだ、よかった、とこちらもほっとして演奏に臨むことができた。

Emanuel Ax ピアノ・リサイタル@ Theater Heerlen 2010年12月11日

Frederic Francois Chopin (1818 - 1849)
Barcarolle in Fis opus 60
3 Mazurkas opus 59
no. 1 in A minor: Moderato
no. 2 in A flat: Allegretto
no. 3 in F sharp minor : Vivace
2 Nocrurnes opus 27
no. 1 in cis-moll: Larghetto
no. 2 in Des-dur: Lento sostenuto
Scherzo no. 2 in bes opus 31


Franz Schubert (1797 - 1828)
Sonata no. 21 in Bes D 960
Molto moderato
Andante sostenuto
Scherzo: Allegro vivace e con delicatezza
Allegro, ma non tropo

ショパンの優しい曲から始めて、肩のこらないマズルカとノクターンをいくつかの後、ドラマチックな
スケルツオという、無理のない展開だ。
この人のピアノ演奏には、総じて無理がない、と言いきることが出来る。生真面目な、四角四面の
ショパンという感じだ。
リズムを揺らしすぎたり、大仰に悲壮感を漂わせたり、音に酔ったふりをしたり、恍惚感を表情に出した
りは絶対にしないのだ。

今回初めて知って意外だったのは、彼はポーランド生まれで10歳までそこで育ったということだ。
以下の動画も、ちょっとありえないような場所で演奏していて、びっくり。



   寒々としたアウシュビッツでの演奏は、淡々として文字通りデッドな響き。
   特に、二曲目のワルツは、まるで鎮魂歌のよう。このワルツには華やかな
   舞踏的雰囲気はもともとないのだが、ここまで寂しさを出した演奏も珍しい。


休憩後に、シューベルトの大曲ソナタだ。
このソナタは、わたしが一番好きなシューベルトの曲だが、アックスが演奏すると、これまた枯淡の
響きで、非常にドライである。とにかくテンポを揺らすのが嫌いみたいで、きちんきちんと弾くから、
まるで小節ごとの線が見えるような気がしてくる。
ダイナミックの振幅も弱音に偏り勝ちで、クレッシェンドの道のりもフォルテもごく短い。
ヘタな小細工を弄して聴衆を手玉に取ったり乗せるのは照れくさいし苦手、という印象だ。
まるで、モーツアルトの曲のように聞こえるシューベルトであった。
ここまで、ドラマチックな盛り上がりを意識的に避けたかのような演奏も珍しい。

モーツアルトから受け継がれたものが、シューベルト、ショパンへと続いた流れがあるのは事実だが。
それを、これほど明白に表わされたので、かえってびっくりした。

アンコールは、シューベルトの即興曲D899 Opus90 の第3番だった。これも好きな曲だ。
重いソナタの後で、こういう優しさの漂う小品はほっとできて非常にいいのだが、この段になってようやく
演奏に乗ってきたのか、ソナタの続きみたいな、暗さを強調した重厚な響きになっていたのには、
驚かされた。最後にアンコールで観客を乗せちゃえ、という気になったようだ。
正統な路線を突き進むと、かえって意外性が発見できるというパラドックス。普通のオジサンっぽい外
見にそぐわず、その演奏と解釈は一筋縄ではいかない、アックスであった。

   
[PR]
by didoregina | 2010-12-13 01:08 | コンサート | Comments(6)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

プロフィールを見る
画像一覧

プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


最新のコメント

Vermeerさま、多分..
by レイネ at 01:38
トマスのソロ・コンサート..
by Vemeer at 01:25
Vermeerさま、この..
by レイネ at 20:56
詳細なレポート、楽しく拝..
by Vermeer at 18:02
ロンドンの椿姫さま、それ..
by レイネ at 17:03
大満足のマスタークラスで..
by ロンドンの椿姫 at 23:41
鍵コメさま、ヴェロニカ・..
by didoregina at 18:57
Mevrouwさま、北海..
by レイネ at 18:46
レイネ様も怒涛の更新で、..
by Mevrouw at 23:33
Mevrouwさま、サー..
by レイネ at 22:10
Mevrouwさま、夏の..
by レイネ at 22:05
新作オペラに挑むのは本当..
by Mevrouw at 20:56
クロアチア~ベネチアを自..
by Mevrouw at 20:27
Mevrouwさま、ご高..
by レイネ at 20:19
ようやく一息つける日なの..
by Mevrouw at 19:57
Mevrouwさま、癒し..
by レイネ at 16:49
このところネットからも音..
by Mevrouw at 16:37
斑猫さま、もうすでにパリ..
by レイネ at 16:57
ロンドンの椿姫さま、まさ..
by レイネ at 16:54
こんにちは CT研究会..
by 斑猫 at 00:16

以前の記事

2017年 11月
2017年 10月
2017年 08月
2016年 11月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 06月
2015年 04月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月

タグ

最新のトラックバック

究極の愛を描いたワーグナ..
from dezire_photo &..
バッハが人類に残したメッ..
from dezire_photo &..
バッハが『ロ短調ミサ曲』..
from dezire_photo &..
ルター派のプロテスタント..
from dezire_photo &..
ダンテの『神曲』 ”地獄..
from dezire_photo &..
ポン=タヴァン派、総合主..
from dezire_photo &..
倉冨亮太さんの繊細な美し..
from dezire_photo &..
ダイナミックで刺激的な多..
from dezire_photo &..
贅沢と快楽に生きる娼婦な..
from dezire_photo &..
バッハとヘンデルの音楽性..
from dezire_photo &..

カテゴリ

全体
バロック
映画
オペラ実演
オペラ映像
オペラ コンサート形式
着物
セイリング
コンサート
美術
帽子
マレーナ・エルンマン
イエスティン・デイヴィス
クイーン
CD
20世紀の音楽
旅行
料理
彫金
ビール醸造所
ベルギー・ビール
ハイ・ティー
サイクリング
ダンス
ハイキング
バッグ
教会建築
カウンターテナー
演劇
未分類

検索

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

音楽
映画

画像一覧