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Nigella Kitchen ナイジェラの新番組!

昨日は、ティルダ・スウィントン主演の映画を観た。
来週月曜夜には、クリスティン・スコット=トマス主演でコルノー監督の遺作が再上映される。
ああ、あとは、ナイジェラ・ローソンに会えたらいいのになあ、と願ったら、なんとその望みは
即、叶えられた。

BBC2で、ナイジェラの新番組がスタートした。

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TVからおなじみナイジェラのハイソっぽい低い声が聞こえてきたので、画面を見ると、ずいぶん
スマートなお姿。きっと、これはむか~しのヤツの再再放送だろう、と家人と言い合っていた。
セクシー、ダイナミックを通り越して、この1,2年はずいぶんと立派過ぎる体格になっている彼女
である。
体のスタイルはいいのだが、今日見るナイジェラのお顔には、どうも昔の若々しさがないというか、
加齢による崩れが見受けられる。
決定打は、お嬢様の姿だ。ずいぶんと大人っぽくなり、2,3年前には、拒食症を疑うくらい異常に
細かったのが、すっかりヘルシー体型になったように見える。ナイジェラのお子さんたちはうちの
息子たちよりちょっとだけ年下である。お嬢さんの様子から察するに、この番組は最新版に違いない。
料理のパターンと自虐っぽいオチは相変わらずだが、スマートになったので、スタイリッシュな服装が
キマって、グレード・アップした。

果たして、ネットで確かめると、今日から新番組スタート、となっている。
その番組のタイトルを冠した料理本も出るようで、毎度恐れ入る、万全のマーケティング体制である。

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TVで拝めるだけで満足なので、本は買わない。というか、フゴーの奥さんなんだから、これ以上
わたしが金銭面でサポートする必要はないのだ。
旦那様のチャールズ・サーチも、彼女と再婚して以来、スリムな体型になったようだから、本人も
やはり、本腰入れてダイエットに取り組んだんだろう。
彼女のキャラとあの体型はぴったりマッチしていて捨てがたかったが、スリムになったナイジェラは
やはり、美しい。

イギリス熟女三人衆に相次いでお目にかかれ、うれしい限りだ。
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by didoregina | 2010-09-30 22:26 | 料理 | Comments(8)

Io sono l'amore (I am love)

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Regie: Luca Guadagnino
Cast: Tilda Swinton (Emma Recchi),
Flavio Parenti (Eduardo Recchi Jr.),
Alba Rohrwachter (Elisabetta Recchi),
Edoardo Gabriellini (Antonio Biscaglia)
Jaar: 2009










イギリス熟女3人衆と勝手に名づけている、お気に入り美女たち(ナイジェラ・ローソン、
クリスティン・スコット=トマス、ティルダ・スウィントン)は、皆、今年50歳になる。
その中で、一番エキセントリックな匂いを放つのは、ティルダ・スウィントンだ。
彼女が自身でプロデュースし主演したイタリア映画を、リュミエールというアートハウス系
映画館で昼間から観た。月曜夜と水曜昼には、入場料が5ユーロ50セントになるからだ。

モデル並みのすらりとした長身で、色素が薄くて透き通るような肌、しかし、ルックスは少年風な
彼女は、年をとるのを忘れたかのように美しい。
今回の役柄はミラノの富豪の奥方だから、典型的なミラネーズ・マダム・スタイルをかっこよく
決めて見せてくれる。しかし最初のうちは、どうもバービー人形のようできれいなのに、心そこに
あらずというか血が通っていない女性のように感じられた。

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         エマはミラノのブルジョワのロシア人妻

画面は、最初、白黒でミラノの雪景色を映し出す。広大な庭もモノクロだ。
壮大な邸宅の内部はカラーである。黄昏のようなぼんやりとしたオレンジ色の光で満たされている。
初めのうちは、家の外と中が、はっきりと白黒対カラーの対比で表現されていたのが、次第に
夜になるとともに外の景色にも色がついていく。
これは、エドガー・ライツが『ハイマット』三部作で使っていた手法と同じだな、と思った。

ところが、実は、それだけではないのだった。
豪壮な邸宅内部で繰り広げられるのは晩餐会やパーティで、貴族的な富豪の生活シーンを
映し出すのだが、色はついてはいても薄ぼんやりとしたままで、主人公エマの顔にも生気が
感じられない。
それが、ある時点を境目に、色がはっきりと鮮明になるのだった。

自分の息子エドの親友アントニオに惹かれるようになったエマが、コックのアントニオが作った
海老料理を口にしたとたん、センシュアルな表情になり、全ての感覚が生き生きとしだして、
灯がともったように画面が明るくなった。

味覚から陶酔感覚を呼び覚まされ、恋を自覚するという表現が、秀逸だ。
料理が上手い男は、だから得なのだ。

美しい自然の中で逢瀬を重ねるうちに、人形のようだったエマは本来の姿、野生の女に戻っていく。
しかし、こんな関係が上手く長く続くはずはない。
凋落と没落は、火を見るより明らかである。まるで、Fatale/Damage(邦題『ダメージ』)の
関係そっくり。あちらは、息子の恋人と愛人関係になった父親だったが。
しかも、その不可避の結末は予測できる。そして、やはりそのとおりになったのだった。

親友と母との関係に気づいた息子エドは、ショックから不幸な事故死をとげる。
幸せだった家族は崩壊だ。
葬式の後で夫にアントニオへの愛を告白したエマは、夫から「お前は、もう存在しない」と
完全な絶縁状を叩き付けられるが、全てを捨ててさっぱりとした表情で靴も履かずに家をでる。
恐ろしいくらいの楽天的エンディングである。女の強さをここまで見せるか、と思った。

そこにいたるまでのエマとその娘エリザベッタの表情の変化が鮮やかだ。
冒頭の家長の誕生パーティのシーンでは、エリザベッタは、母エマとそっくりのお嬢様そのもの、
おっとりとはかなげにきれいなだけだったのが、ロンドンの美大で学ぶうちに女教師との愛に目覚め
レズビアンであることをカミング・アウトし、男の子のような格好とショートカットになると、態度も
堂々として自分が信じることに向かう強さが明らかになってくる。

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           エリザベッタとその恋人

エリザベッタ役の女優は、ティルダ・スウィントンに瓜二つだから、エマの心情を若いエリザベッタが
先行して鏡代わりに写す、というわけだった。
だから、エマもアントニオとの逢瀬で髪を短く切る。最後の晩餐会では、ショートカットにノーメーク
であった。
自分のせいで息子が死んだのに、結局はアントニオへの情愛を優先させ自己を解放したエマを、
エリザベッタだけが共感を込めた目で見送る。
少年のような姿で家を出るエマの表情は、『オーランド』の最後のシーンで寝転んで空を仰ぐ
満ち足りた清々しい顔に重なった。

この、いわばエゴの化身のような女の性(さが)を見せ付けるエマを、スウィントンはどうしても
自分で演じたかったから、この映画を作ったのだ。

映画館の外に出ると、曇り空なのにあまりにまぶしく、いつもとは世界が変わって感じられた。
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by didoregina | 2010-09-29 22:11 | 映画 | Comments(4)

The American by Anton Corbijn

アントン・コルバイン(オランダ人なのでオランダ語読みではコルバインだが、日本ではコービンと
呼ばれる)の映画監督2作目である。
ジャズ、ロック、ポップ界の大物のポートレート写真およびCDジャケット・デザインやヴィデオ・
クリップ畑でカリスマ的第一人者。第一作目の映画Controlでは、ほとんど無名の若手俳優を
起用していたが、ジョイ・ディヴィジョンのボーカリストの半生を描いたもので、期待を裏切らない
かっこよさだった。カメラマン出身らしいコービンの映像の凝りように感嘆した。

今回は、主演にジョージ・クルーニーを得て、一挙にメジャー進出だ。
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2010年 監督 アントン・コービン、
出演 ジョージ・クルーニー、ヴィオランテ・プラシド、
テクラ・ルーテン、ヨハン・レイセン他


ポスターの雰囲気が、いかにもコービン・スタイルで、
ちょっと古めかしい犯罪映画みたいだ。
オランダでの公開は16日からで、17日からウィーンに
出かけたので、帰宅した翌日20日に観た。
なんで、こんなに張り切って臨んだのかというと、
9月初めに日本の新聞ウェブ版で、この映画が
アメリカでの興行収入初登場一位というニュースに
興味をそそられ、その後オランダでの公開に
向けての新聞とTVでのコービン監督へのインタビュー
攻めで煽られたからだ。


観たかった動機の第一番は、監督コービンがどんなふうに、メジャー路線映画を作ったのか、という
点だ。

サスペンス映画なので、ストーリーをばらしちゃうと元も子もなくなるが、ヨーロッパで殺し屋稼業に
従事するアメリカ人の非情と悲哀と寂寥に満ちた日々を描いたクラシックかつオーソドックスなお話。
しかし、展開がいかにもヨーロッパ人監督によるヨーロッパ映画らしく、実に淡々として悠揚迫らない。
別の言い方をすると、撃ち合いや追跡など派手なアクション・シーンはごくごく少ない。
アメリカ人には多分、ほとんどついていけないくらい地味で悠長で起伏に欠ける映画に感じられた
ことだろう。

コービンはインタビューで「これは純粋ヨーロッパ映画だと思ってもらいたい」と語っていた。
すなわち、有名俳優とアクションと濡れ場が売りではない、スタイリッシュで味わいある雰囲気を
堪能してもらいたいということなのだが、その典型的な3種の神器は実際には使われている。配分は
ごくごく少量ながら。

舞台になるのはイタリアの荒地のような山間部や観光地でない美しい村だが、画面に映る量のかなりの
部分が風景描写に割かれ、ざらっと粒子が粗いタッチでゆったりと描き出されている。
観光絵葉書的写真とは根本的に異なる、ヨーロッパ人が求めるヨーロッパ原初の風景、みたいな
カメラ・ワークで、意外なほど雄大なスケールでスクリーンに映し出される。

非情の掟に支配され、一般生活とは隔絶された無情の世界に生きる殺し屋が、イタリアの小さな村に
逃れて来た。人の世の情けこそ、殺し屋としてはもっとも避けなければならないものだから、村人とも
交わらないようにしているが、おせっかいな神父や気に入った娼婦との交流で、徐々にほんの少しだが
一般世間に足を踏み込んで行く。淡々と最後の仕事をこなしながら、それを最後に危ない稼業から
足を洗う決意をする。馴染みの女もできたし、フツーの生活を送っても罰は当たらないだろう、という訳
なのだが、そうは問屋が卸さない。

緩慢でありながらクールなストーリー展開は、クラシックなミステリー小説を思い出させる。
いつか素晴らしい俳優を揃えて映画化してもらいたいと願っている小説、ギャビン・ライアルの
Midnight plus 1 に雰囲気がちょっと似ている。

クルーニーはいい役だ。白髪交じりの無精ひげ、分厚い手と指、しかし、しなやかなで鍛錬の
行き届いた体。カメラはなめるように彼の体を写す。

何箇所か、細かい点で突っ込みどころがあり、ラストが弱いような気がして残念。
映像美は、さすが完璧主義者のコービンによるものだから、文句のつけようがない。

この映画の製作中、コービンは、パリのカフェ・コストで、ミック・ジャガーにばったり出会い
「ローリング・ストーンズの映画決定版を作って欲しい」と言われ考え込む。
そして、その直後マドンナからもやはり「わたしの映画を撮って」と頼まれた。映画の仕事との
折り合いがつかず、曖昧な返事しかできなかったとのことである。
そんな売れっ子コービンだから、これからの作品に期待しよう。
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by didoregina | 2010-09-27 09:34 | 映画 | Comments(1)

ダンス版『ブレード・ランナー』

この夏クロアチアでヨットのセイリングをした時、2週間フロッティッラ(チャーター・ヨットの船団)で
いっしょになり、自宅が我が家のすぐ近くだとわかったTとH夫妻とは、私たち夫婦と年齢がほぼ
同じで学歴・職業も似通っていて、共通する趣味も多いので親しくなり、その後もお付き合いを続け
ている。
8月には、夫婦2組でお城でのアート・フェア兼ペーターのコンサートのほか、Tといっしょに洞窟での
現代曲ピアノ・リサイタルに出かけた。
今日は、Hからお誘いがあり、ダンス・パーフォーマンスを見に出かけた。
ヨットと音楽はまだしも、Hは趣味が高じてモダン・ダンスを教える資格も持っているときいて、
びっくりした。本業はお堅い職業である。ダンス教師として登録してあるので、さまざまなダンス・
パフォーマンスのお誘いが来るのだという。
この時期、マーストリヒトで毎年開かれるNederlandse Dansdagen(オランダ・ダンス・デイズ)に
出演する団体のゲネプロだ。

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会場は元建材工場で、今はがらんとして鉄骨が剥き出しの、しかし天井から自然光が差し込む
広い建物だ。外壁と内壁はそのままで、床面積が広く、ガラス面積が多い窓やドアはきれいに
直してあるので、大きなインスタレーションのモダンアート展示等、多目的に使える。

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            大きなエントランス・ドア

観客の年齢層は非常に低く、高校生・大学生みたいな感じの若い子が多い。
普段、コンサートやオペラの会場に行くと、「ここにいる中でわたしが一番若いかも」などと思う
ことが結構あるから、これには驚いた。

入り口の大きなガラス・ドア越しに、黒服にフェンシングのマスクをつけたダンサーたちが、
壁といわず窓ガラスといわず階段や鉄骨の柱といわず、あちこちにぶつかりながらあたりかまわず
走り回っているのが見える。
そのうちに、ドアが開いて、観客は、ダンサーたちと同じ空間に入れられた。
男女4人が、アクロバティックなモダンなダンスを踊るのだが、お互いに傷つけあい、追い求め、
逃げ回るようなアクションで、そのあと、黒服の集団が加わり、逃走・闘争に拍車がかかる。

客席はなく、工場の空間全てをステージとして使うので、観客の間を縫って、ダンサーは走りぬけ
柱や梁や階段を使って踊る。モダン・ダンスやブレーク・ダンスにアクロバットが加わる。
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        踊る、というよりアクションである。

前後左右上下全ての空間を舞台としているから、観客はダンサーのアクションに合わせて場所を
移動する。
大部屋から小部屋に誘われたり、暗闇の空間でレーザーのような光に照らされたり、階段の途上、
はたまた階上から下を見下ろしたり。

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       ダンサーたちは、壁をけり駆け上り、柱もするすると登るから、
       神出鬼没で、見るほうも気が抜けない。

なんとなく、ストーリーがあるようなないような、『マトリックス』みたいなもの?と思いつつ
見ていた。
とにかくテンポが速くて、ぼおっとしているとダンサーの邪魔になるから、何かを考えている暇はない。
久しぶりに文字や音楽が脳に入り込む隙間がないような、感覚だけで鑑賞する爽快感を味わった。
頭を真っ白にして、とにかく何事が起こるのか追いかけるのに精一杯だ。

正式上演の前に、実験台の観客を入れてみて、ダンサーの動きに邪魔にならないかどうか確かめる、
観客もダンサーに合わせて移動できるかどうか確認のためのゲネプロだったのだ。
ダンスおたくっぽい人や若い人ばかりだったから、皆すばやく対応できたが、一般観客だったら、
はたして今日のようにスムーズにいくかどうか、疑問が残ったが。

一般的な舞台とはまったく異なる空間を使っているから、立体的・3次元的な観点の振り付けが必要で、
実験的ではあるが、面白かった。

Hは「なにか映画を題材にしていると案内書に書いてあったが、映画には詳しくないからわからない」
という。「ハリソン・フォードが出ている映画らしい」とも。
「えっ、それじゃあ、もしかしたら『ブレード・ランナー』なの?ルトガー・ハウアーも出ていた」と
聞いたが、この超有名なカルト映画をご存じないようだ。

帰宅して、ダンス・サイトで確かめたら、果たして『ブレード・ランナー』とタイトルがついていた。
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            ダンス版『ブレード・ランナー』

1982年に作られた『ブレード・ランナー』(リドリー・スコット監督作品)は、映画史上に残る画期的
作品だし、その後のSF映画の路線を決定したと思う。
2019年のLAを舞台とする近未来の反ユートピアの、にごった霧のかかったような暗い画面に、アンド
ロイドが跳梁跋扈するというシチュエーションは、それ以後作られたSF映画に臆面もなくパクられ、
似たような題材やモチーフが散見する映画が多く作られた。

冷血なアンドロイドも感情を持つ、ということがルトガー・ハウアー演じるロイが最後に見せた、なんとも
名状しがたい悲しみに満ちた表情で、詩的な説得力を持って胸に迫った。
この映画で、ルトさまは、完全に主役のハリソン・フォードを食ってしまって、スターダムにのし上がった
のだ、カルト映画界の。

もしも、この映画を見ていない人がいたら、悪いことは言わない、即、レンタルすべし。
しかし、この映画をまだ見ていない人に嫉妬してしまう。極上の楽しみが残されているのだから。

(ついでに、マーストリヒト在住の皆様、このダンスは来週木曜日にもう一度ゲネプロが行われる。
金曜日から本番が始まるが、木曜の夜はタダで鑑賞できるので、ぜひ行かれることをお勧めする。
場所は、Timmerfabriekで Noorderbrug脇、マルクトから行くとBoschstraatと Bassinの先、
スフィンクス工場跡の向かい)
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by didoregina | 2010-09-25 22:10 | 映画 | Comments(6)

クリムトの『炉辺の女』  絵画と音楽の相乗作用その2

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ベルヴェデーレで見たクリムトの絵の中では、他のいかにもクリムトらしい華やかな絵に比べて、
静謐さではぬきんでているこの絵に引きこまれた。

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       『炉辺の女性』(1897/1898、オーストリア絵画館蔵)

暖炉の火の前で寝そべるようにして椅子に座る女性の顔だけが、おぼろげに照らされて
いる。赤い暖炉の火が暗闇の中の明かりの役割も果たしていて、それ以外は
ぼんやりと背景に溶け込んだように輪郭の定かでない人物像のみ。全体の印象としては
とても充足して親密な空間が作り出されているようで、幸福がひとつの形をとって描き出
されている。

この絵のドイツ語のタイトルは、Dame am Kaminである。そのタイトルを見て即、頭に
鳴ったのは、チャイコフスキーのピアノ曲集『四季』から、1月の『炉辺で』(am Kamin)。

暗くて寒い秋冬には、柔らかな炎を上げて燃える薪の暖炉が、体だけでなく心を暖めてくれる。
そして、薪の焼ける匂いと音。針葉樹は油分が多くて薪には適さないかもしれないが、樅の木
には、とてもいい香りのものもある。ほっとするような、郷愁を誘う。

チャイコフスキーの音楽には、東洋的なメロディーが時として顔をのぞかせ、日本人の心を
たまらなくくすぐるような気がする。『炉辺で』の、おっとりとした朴訥な話口のようなメロディー
には、田舎の老人が思い出話を語るような、ひそやかさがある。



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          その晩は、国立歌劇場でバレエを鑑賞した。

チャイコフスキーの『オネーギン』である。
一番上の階のさほどいい席ではなかったが、バレエなら十分だ。

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          モダンアートの緞帳は毎月変わるらしい。

観る前は、バレエの『オネーギン』には、オペラの『オネーギン』の音楽が使われて、特に
タチアナのテーマ、暗く下降する旋回がオペラのようにしつっこく出てくるのかと思っていた。
しかし、耳に聞こえてくるのは、オペラの音楽とはまるで違うものだ。オペラ『オネーギン』を
見たのはずいぶん昔だが、事前によくお勉強して行ったから、音楽はなんとなく覚えていると思う。
かなり最近にオペラ『オネーギン』をご覧になったロンドンの椿姫さんも、やはりバレエ音楽は
オペラとはぜんぜん違う、とおっしゃる。



そのかわり、耳になじみのある音楽も聞こえてきた。
冒頭に、男性ダンサーがソロで、ピアノ曲『炉辺で』のメロディーに乗せて踊るではないか。
非常にアットホームな雰囲気が漂う。
ピアノ曲をオーケストレーションしたものだが、変なアレンジや変奏という感じではなく、ほぼピアノの
スコアに忠実だ。
昼間にクリムトの絵を見たときに頭に鳴った音楽と同じものが、こんなところでまた聞こえてくるとは、
驚いた。

その直後のパ・ド・トゥの音楽は、やはり『四季』から6月の『舟歌』だった。
この哀愁を帯びたやるせないようなメロディーは、しかし、非常にダンサブルでもある。
川の水か滝が流れるような流麗さが、クラシック・バレエの優美なステップにぴったりだ。
しかも、暗い下降旋回の部分が、暗い出来事を予告するかのようにも聞こえる。なかなかに劇的でも
ある。

メランコリックでロマンチックな、10月『秋の歌』も上手い具合に使われていた。
はっきりと流用されていたのがわかったのは、『四季』からの以上3曲だけだが、他にもなんとなく
聞いたことがあるような旋律がいつくかあった。
後で調べると、バレエ『オネーギン』には、オペラ『オネーギン』からの音楽はまったく使われて
いないということだ。これにもびっくり。
ドイツ人ピアニスト兼作曲家のクルト=ハインツ・ストルツェという人が、ジョン・クランコ振り付けの
バレエ音楽のために編曲したもので、チャイコフスキーのピアノ曲および『皇帝の小さな靴』と
『リミニのフランチェスカ』などからメロディーを拝借したのだという。
これでは、チャイコフスキー作曲というよりは、いくつかの曲をアレンジしてつなげただけだ。

バレエのストーリーはオペラと同じだが、アリアがないから、クローズアップされるものがおのずと
異なり、展開もなんだかあっさりしたものだった。

次回ウィーン訪問の折には、ここでオペラ鑑賞してみたいものだ。

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     各階にあるフォアイエのひとつで、ロンドンの椿姫さんと。

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     ホテルのラウンジでベートーベンとの対話。
     着物は水色の色無地単衣。帯は絽塩瀬に波に浮かぶ南蛮船。
     前帯には、赤い人魚姫が描かれている。
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by didoregina | 2010-09-24 13:46 | 美術 | Comments(8)

クリムトの「ユディット」 美術と音楽の相乗作用その1

ウィーン2日目は、朝から晴天である。
半そでのポロシャツにミニスカート、タイツとパシュミナという格好で一日歩いて観光した。

ホテルからワンブロック先に分離派会館ゼツェッションがある。
ここでクリムトの壁画『ベートーヴェン・フリーズ』をまず見よう。

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      ロータリーから見たゼツェッション。葉っぱをつなげたような金色の
      ドームが陽光に映える。
      花壇のある小公園には、なぜかさまざまな都市のマンホールの蓋が
      集められている。

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ベートーヴェンの『歓喜の歌』からインスピレーションを得たというこの壁画は、長年見てみたい
と憧れていたが、展示室に入って対峙すると、それほどの感慨が沸いてこなかった。

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絵を見ても、頭に音楽が鳴り響いてこないのだ。
どういうことだろう。

絵を見ると、すぐに音楽が聞こえてきたり、頭の中が文字で一杯になるような気がすることがある。
前者は、象徴派や印象派の絵の場合が多く、後者は、図像の絵解きをしなければならないような
神話や宗教的題材の近代より前の絵に多い。

ここにあるクリムトの絵とわたしとの接点はいつのまにかなくなっていて、心は遠く離れたところに行って
しまったようだった。クリムトとベートーヴェンという組み合わせも、いかにもウィーンらしいという気が
していたのだが。

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       ゼツェッションを出ての道すがら、ベートーヴェンの像に出会った。


次の目的地は、ベルヴェデーレだ。
まず『スリーピング・ビューティ』展を見た後、本館にあるオーストリア絵画館に行った。

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ここでもクリムトの絵がメインであるが、セガンティーニとホドラーのいい絵があるからうれしい。
27,8年前にここを訪れたときには、『接吻』『抱擁』などのキンキラと華やかな装飾性の強い
絵に惹かれたが、今見ると、どうもメジャーになりすぎて手垢がついたような感じがして、正視に
耐えられないくらい俗悪に思えた。これは、単にわたしが年を取った証拠なのかもしれないが、
コマーシャリズムの犠牲になった絵が哀れだ。

その代わり、クリムトの別の絵で、ほの暗い背景に浮かぶようなタッチの肖像画がいい、と思った。

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     クラヴィンのカルロスに扮した役者ヨーゼフ・ルウィンスキー
     (1895、 ベルヴェデーレ・オーストリア絵画館蔵)

金色を小量効かせてきりっとした使い方で、背景から煙るようにぼおっと浮き出る繊細な人物像との
対比が絶妙。線的・平面的なタッチと立体的でファジーなタッチとの組み合わせが洗練の極地だ。
こういう肖像画なら、頼んで描いてもらいたい。

そして、もう一枚、不思議と気に入った絵があるのだが、それは、次回の話にしたい。


BravaTVで昨日、モーツアルトの唯一のオラトリオ『救われたベトゥリア』を放送してくれた。
2006年にザルツブルクでコンサート形式で上演されたものだ。

c0188818_22362534.jpgMozart  Betulia Liberata(1771)
libretto  Pietro Metastasio (1698-1782)

Jeremy Ovenden als Ozias
Marjana Mijanovic als Judith
Franz-Josef Selig als Alchior
Julia Kleiter als Ami
Christoph Poppen 指揮
Münchener Kammerorchester
KV Wiener Staatsopernchor






聖書の「ユディット書」に題材をとった、モーツアルト15歳のときの作品だ。宗教的な作品はほとんど
書かなかったモーツアルトだから、オラトリアというのは珍しいが、生前は上演の機会に恵まれなかった
ようだ。
ベトゥリアが陥落寸前、寡婦ユディットは美しく着飾って敵の陣地に乗り込み、敵将ホロフェルネスを
誘惑し天幕の中で寝首を切り取った、という故事は、絵画ではよく見かける題材である。



ユディット役のミヤ様に注目してもらいたい。いつもと違うイメージではないか。妙にフェミニンだ。
しかも髪型は、クリムト描く『ユディット』そっくり!
いくら女らしく歌ってもミヤ様のユディットは、クリムト描く官能的な女性像とはかけ離れている。
しかし、それはミヤ様の責任ではない。天才とはいえ、15歳のモーツアルトが作ったユディット
像は、世紀末的ファム・ファタールにはなりえなかったのだ。時代や作曲を依頼した人の嗜好や
意向も無視できないだろう。モーツアルトのユディットは、お国のために、やむなく敵将を誘惑して
殺すという、正義の人なのだ。

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   『ユディットI』(1901、ベルヴェデーレ・オーストリア絵画館蔵)
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by didoregina | 2010-09-23 15:38 | 美術 | Comments(8)

濁り酒 Sturm

ウィーン近郊にはブドウ畑が意外なほど沢山ある。
先日、ドナウ川下りの白眉、ヴァッハウ渓谷を観光クルーズしたら、まるでライン川やモーゼル川の
ように斜面を利用して葡萄が植えられていたし、ウィーンに帰る列車の窓からも平地のブドウ畑が
見られた。
そして、今丁度飲み頃になっているのが、シュトゥルムと呼ばれる、ぶどうジュースとワインの中間
位のちょっとだけ発酵した濁り酒だ。発酵を進ませて濾過し新酒になる前の飲み物だ。
モーゼルではフェーダーワイスと呼ばれるのは、モーゼルでできるのは白ワインのみだから白濁
しているからだが、ウィーン近郊では赤ワインも作られているので、赤のシュトゥルムもある。

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今の季節限定だし、もの珍しさにつられて、飲みたくなった。
大体、4分の1リットル入りグラスで、赤なら3ユーロくらいだ。白のほうが少し安いようだ。
ほんの少し発砲したような口当たりで、さっぱりとした酸味とフルーティな果物そのものの甘みが
あり、とても飲みやすい。ワインよりはジュースに近い飲み口だ。

アン・デア・ウィーン劇場の向かいは、飲み屋や簡単な食事の出来るレストランや、果物や肉や
チーズや魚などを売る店の並ぶ楽しい市場になっている。

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普通のカフェやレストランにはまず置いてないが、ワイン専門のカフェや飲み屋にはあるから、
シュトゥルムあります、という看板を見つけたら飲むべきだ。もう一軒、市民公園に程近いところに
あるカフェでその看板に誘われ、思わず昼間から喉を潤した。

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こちらは、Schilchersturmと呼ばれるもの。普通の赤とは区別されていた。違いを説明してくれた
がよくわからなかったが、お勧めであるという。
これも25dlだから、普通のグラスで飲むより結構な量だ。

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            市民公園入り口門扉に実る葡萄

ナッシュマルクトの飲み屋では、ラズベリーのシュトゥルムも置いてあったが、飲み逃がした。
白の濁り酒も飲んでみたかった。メルク修道院近くで飲めるかと期待したが、意外にも飲み屋は
見つからない。船の上でもだめだった。
幻の味になった。次は、いつこの時期にウィーンに来られるだろうか。

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by didoregina | 2010-09-22 22:42 | 旅行 | Comments(4)

ウィーンでマレーナ様に直撃インタビュー

マレーナ・エルンマン・ファンクラブの皆様、大変お待たせいたしました。
久しぶりの会報は、ウィーン出待ち特集記事です。(写真は全て、ロンドンの椿姫さんから
提供していただきました。感謝!)

マレーナ様が出演した『セメレ』の終演後、劇場裏口に回り、楽屋裏出口で出待ちをしました。
そこには、空港のチェックインの列などで見かけるようなゴム・スタンドが張ってあり、すでに10人
ほどのファンが並んでいます。(これは、バルトリのため)

ほどなく最初に出てきたのは、指揮者のクリスティーでした。
dognorahさんは、早速サインをもらっています。
次に、ジュピター役のチャールズ・ワークマン。
コーラスやオケ団員、その他の歌手が次々と出てきます。

そして、ついに私服に着替えたマレーナ様登場!
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サインして貰えるようなものを準備していなかったので、マレーナ様とは記念写真のみ。
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撮影はdognorahさんで、ロンドンの椿姫さんとのスリーショット。
私のカメラの調子がよくなくて写りが悪いので、椿姫さんのカメラで撮ったものをお借りしています。

マレーナ様は、しきりに私たちの着物を褒めてくださいます。
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そのあと、スウェーデンから追っかけで来ているファンクラブの方々数人とスウェーデン語で
マレーナ様は談笑。ファンとの付き合いも気さくで、まるで普通のお姉さんのよう。
スウェーデン語は皆目わからないので、わたしは輪から外れていました。

そこへ、別の人がサインを求めに来ました。
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ファンクラブの輪から少し離れたマレーナ様に、すかさず話しかけてみました。
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以下、かねてより知りたかったことを聞いてみました。

R:数年後にバルセロナで「アグリッピーナ」のネローネ役で出演するというのは本当ですか?
M:ええ、そのとおり。たしか予定は2013年だったと思いますが、ブリュッセル版です。
R:それには、サラ・コノリーがアグリッピーナ役を歌うという噂ですが?
M:どうかしら、ブリュッセルでは違ったけど。
R:彼女は、同じ演出でロンドンのENOの英語版アグリッピーナだったんです。それで、サラ・
  コノリー・ファンの友人が別ソースから得た情報では、あなたと同じ時期にバルセロナで
 「アグリッピーナ」に主演ということなので、お二人が共演するのではないかと。
M:そうなの?わたしはブリュッセルと同じキャストだとばかり思ってました。
R:在ブリュッセルのスウェーデン大使館の広報HPによると、バルセロナでの「アグリッピーナ」に
  ブリュッセル版からのオリジナル・キャストで出演するのは、あなただけ、ということなので、
  サラ・コノリーとの共演というのが非常に信憑性が強いのです。それに、彼女はアグリッピーナの
  適役でもありますし。

マレーナ様からは、バルセロナでの「アグリッピーナ」出演という噂の裏が取れました!
この件は、マレーナ様のオフィシャル・サイトでは未発表です。
しかし、サラ様と共演かどうかはご存じないようです。

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M:あなた、美しいわ。素晴らしい。(<-着物が)
R:ありがとうございます。あなたのサイトでツイッターをフォローしてますが、2012年には、ここ
  ウィーンでの「セルセ」主演が決まりましたよね。
M:そうなの。これからウィーンへ来ることが多くなりそう。そうしたら、また観に来てくださる?
R :はい、もちろん。去年は、アムステルダムとブリュッセルにも行きましたから。
M:まあ、それじゃあ、これからも、会えるのね。ぜひ、またお会いしたいわ。
  楽しみにしてます。ああ、でも、本当に、美しいわ。(<-と、何度も着物姿を褒めてくれる)

着物姿から日本からのおっけけファンだと認識してもらえたようで、マレーナ様は非常にお喜びの
様子で、興奮を隠し切れず、着物姿をべた褒めになり、だんだん一体どちらがファンなのかわから
ないような会話に発展していったのでした。
こちらは、狐につままれたような気分ですが、マレーナ様に好印象を残すことができた喜びでいっぱい
でした。
そして、マレーナ様はスウェーデンからのファンクラブの皆さんと連れ立って、町に繰り出して行きました。
それを追いかけるのは、大和なでしことしてははしたないと思ったので、信号手前で別れました。

その晩、マレーナ様のツイッターには、こう書かれていました。

Lots of followers at the show!! AND lots of fans from Japan!!
Blows the mind.. Thank you!
12:04 PM Sep. 18th

ちなみに、その晩着ていた着物は、黒の紗に赤の立わく模様。帯は、薄いグレーの塩瀬地に相良刺繍。
頭には、黒のカクテル・ハットを髪飾り代わりにさしていました。
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by didoregina | 2010-09-21 22:29 | マレーナ・エルンマン | Comments(20)

Sleeping Beauty@Belvedere

縁というのは不思議だ。思いがけないところで、逢いたかった人と逢えたり、見たいと願っていた
ものを見ることができたり。
ブログで願をかけると叶う、ということが度々あってびっくりする。

週末にウィーンに出かけた。メインはマレーナ様が出演するオペラ鑑賞だが、それに付随する願いは
ほとんど全て叶えられた。座席はかぶりつきだったし、ホテルの部屋は楽屋と狭い道一本隔てただけ
だから、マレーナ様の発声練習が聞こえてくるし、終演後待つというほどのこともなく本人に会えた。

思わぬ遭遇のチャンスは美術展にもあった。
昨年、ロンドンとデン・ハーグで見逃した、プエルトリコのポンセ美術館から巡回していた特別展が
丁度ウィーンで開催中だったのだ。(マドリッドとシュトゥットガルトでも展示された)
特に見たいと願っていたバーン=ジョーンズの大作4点を含む「スリーピング・ビューティ」展だ。
こういう機会でもない限り、プエルトリコに行くこともまずありえないから、一生逢えるかどうか。

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       「いばら」連作3枚のうち3つ目のシーン「眠れる森の美女」
        (エドワード・バーン=ジョーンズ 1860年頃 ポンセ美術館蔵)

中でも圧巻は、大作「アーサー王の最後の眠り」だ。
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         (1881-1898 ポンセ美術館蔵)

アヴァロンで、モーガン・ル・フェの膝枕で安らかに眠るアーサー王が、楽器を奏でる乙女たちや
アマゾネスのような(女性)兵士などに取り囲まれて守られている。神殿か霊廟のような建物は
小島に浮かび、水辺には菖蒲のような花がひそやかに咲いている。

展示室の大きな壁一面にこの絵がかけられ、その反対側には習作(着ている服のドレープや人物の
ディテールのデッサンの数々と、それら人物で構成されたほぼ同じ構図の習作だが、アーサー王の
眠る建物が描き込まれていないため簡略なのがかえっていい味で、木々や霧に囲まれて憂いと神秘
の度合いが強い佳品)が掛けられ、残りの壁二面にはアイリスの花が生けられている。
薄暗いこの部屋には、霊気が漂うかのようで、絵から放たれる呪縛力もすさまじく、長時間座って
見ていたくなる魔力のある作品だ。

アンドロギュノスのような体型のバーン=ジョーンズ描く女性は、たいがいモデルには少年を使って
いるので、ウエストのくびれがほとんどなくて胸も小さい。「アマゾネス」と題された楯を持った兵士
の絵の習作では、題名とは裏腹に少年を描いているのが一目瞭然だった。

そのほかにもラファエル前派の絵が何枚かあったが、この「眠れるアーサー王」を観てしまうと、
どうも印象が薄れてしまう。それくらいこの絵のインパクトが強かった。
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by didoregina | 2010-09-21 00:01 | 美術 | Comments(4)

バルトリ姐とマレーナ様の『セメレ』@アン・デア・ウィーン

今年2度目のハイライトは、マレーナ様がイノー役で出演する「セメレ」だ。
主役はチェチリア・バルトリ、公演はたったの4回とあって、チケット争奪戦は熾烈を極めた。
しかし、奇跡のように、最前列の席がひとつだけ取れた。

Semele@ Theater an der Wien on 17 September 2010
Oratorium in drei Akten (1744)
Musik von Georg Friedrich Händel

Besetzung
Musikalische Leitung William Christie
Inszenierung Robert Carsen
Ausstattung Patrick Kinmonth
Licht Robert Carsen und Peter van Praet
Choreografie Philippe Giraudeau
Einstudierung Regie & Choreografie Elaine Tyler-Hall

Semele Cecilia Bartoli
Jupiter / Apollo Charles Workman
Cadmus/Somnus David Pittsinger
Ino Malena Ernman
Juno Birgit Remmert
Athamas Matthew Shaw
Iris Kerstin Avemo
Orchester Les Arts Florissants

アン・デア・ウィーンは、かなりこじんまりとしたつくりの劇場で、座席数は少ないがバロック・
オペラ上演には、この広さがちょうどいい。
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       国立歌劇場からほど近いアン・デア・ウィーン劇場の正面。
       向かいはナッシュマルクトで庶民的だ。

劇場の横側には、ベートーベンが住んでいたうんぬんのプレートがあり、もとは由緒ある建物
だったようだ。泊まったホテルは劇場から道一本隔てた隣で、その名も「ベートーベン・ホテル」。
dognorahさんと aliceさんお勧めのホテルで、とにかく劇場に近いだけでなく、全てが快適だし
従業員の対応が非常にきちんとしていて万事の処理が迅速で、気に入った。

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          劇場の横側の破風

ホテルの部屋はこの劇場横に面していて、ひそかに期待した通りのことが起った。
5時頃から、部屋で着物に着替えていると、向かいの楽屋窓から発声練習が聴こえてきた。
あの太くて温かみのある声は、マレーナ様に間違いない。幸先よろしい。

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          ホテル中二階のラウンジで。

今回は、ロンドンの椿姫さんとdognorahさんとご一緒のオペラ鑑賞である。
これがまた楽しいのである。始まる前、幕間、終演後、おしゃべりの話題も尽きず、団体行動
すればうれしいオマケがいっぱい出てくる。オペラは3人以上のグループで行くに限る。

『セメレ』のストーリーは大体知ってはいるが、初めて鑑賞するオペラだ。しかし、プロダク
ションも同じで主要歌手も今回と同じDVDはあえて観なかった。まっさらのままで、マレーナ
様に対峙したかったのである。

オケは、ウィリアム・クリスティ指揮レ・ザール・フロリッサン。マレーナ様がもっとも信頼を
寄せるピリオド演奏団体だ。最前列左寄りの座席だったので、溌剌として年齢からよりはずっと
若々しく、きびきびと細かくリードを取るクリスティーの指揮は、見ようと思えばよく見えるが、
視界にいつも入って邪魔ということはなかった。

カーセン演出の舞台は、ロング・ドレスとブラック・タイのガラ・パーティまたは舞踏会の
ような雰囲気でゴージャス。エキストラやコーラスの人々も若くて細くてきれいな人ばかり
だから華やかで、天上もしくは殿中というシチュエーション設定が視覚的に説得力を持つ。
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イノーは、ジュピターに見初められ天上界に上るセメレの妹だから、前半に出番が集中している。
しかし、姉妹という設定ながら、マレーナ様とバルトリ姐は、ルックス的には全ての面で対照的
である。
片や金髪・長身・筋肉質のノーブルな容姿で、セメレの方はキュートではあるが黒髪・小柄・
太り肉。
性格的にも、大人しくて控えめな妹と、セレブの仲間入りができてうれしくて仕方ないミーハーの
イモ姉ちゃんなのだ。

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オラトリオとはいっても、『セメレ』は、オペラ・ブッファによっぽど近い内容だ。
ジュピターの花嫁という玉の輿に乗って、舞い上がるセメレのわがままはどんどんエスカレート
する。
天上で物質的には贅沢三昧の生活を送るが、心の底から満たされることはない。正妻ではないし、
なにより人間のままであるという立場に我慢できないのである。不死の神に仲間入りできず、
欲求不満でヒステリーを起す。一般人から王室入りしたが、貴族的な振る舞いができずに孤立
するプリンセスみたいなものである。

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ジュピターの正妻ジュノーは威厳のある女王そのもので、イリスはその侍女のような立場だ。
このでこぼこコンビが、セメレ追放のための計をめぐらすのがコミカルで笑いを取る。しかし、
やりすぎない演出だからスマートだ。
天上に上ったセメレのロマンチックな心情を表すかのような舞台背景の星、それ以外は椅子、
ベッド、レッド・カーペット、玉座などのシンプルな小道具のみを使用しているが、効果抜群。

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舞台に傾斜があるため、セメレの婚約者アサマスは滑りそうになったし、不眠でイライラを
募らせるセメレはベッドから降りたとたん、アリアの最中にかなり激しくこけたが、コミカル
な歌と振りのためあまり目立たなかったのが幸いだ。バルトリはこけた拍子に、相当激しく
顔や体を打ったと思われるが何事もなかったかのように演技も歌も続けた。コロラッチュー
ラが噴火爆発のアリアの後は、いつも拍手喝さいで、さすがディーヴァの貫禄十分。
また、椅子が滑ってオケ・ピットに落ちそうになった時には、ヒステリーの演技のふりをして、
バルトリは上手く椅子を蹴っ飛ばして落下防止していた。よく気がつく人だ。

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メゾ・ソプラノが活躍するオペラで、セメレ、イノー、ジュノーと主要な歌手が三人いる。
ジュノーがイノーに化けてセメレを訪問し、ちやほやする場面が後半にあるから、ジュノーと
イノーを同一歌手で演じさせるという演出もあるようだが、その必要は特に感じなかった。
イノーと同じ鬘とドレスを着ているジュノーのほうがわかりやすいと思う。

今回は、女役のマレーナ様だが、清楚でおしとやかな役も予想以上にぴったり。
もしもマレーナ様がジュノーとイノーの二役を歌ったなら、と想像するのも悪くないが、
その二役の演じわけはかなり難しいのではないか。
神々しいばかりに美しい女役のマレーナ様は、イタリア人がグラマラスでゴージャスな女性を
褒めるのに使うという、まるでジュノーのよう、という表現がぴったりで、『甘い生活』の
アニタ・エクバーグを髣髴とさせた。

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      トレヴィの噴水での神々しいジュノーのようなアニタ・エクバーグ

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      筋肉質なのに胸も豊かなマレーナ様は、金髪大柄なスウェーデン美人
      だから、アニタ・エクバーグのイメージに近い。

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      激やせだった頃のバルトリ姐。アニタ・エクバーグばりのゴージャスな
      ショットだが、どうもイメージにそぐわない。

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      今はこのとおり、またころころとしてキュート。

夢のような舞台を、いずれ劣らぬ歌手の歌声や、オケの音が直接びんびん響くかぶりつき席で
鑑賞というラッキーなチャンスに恵まれ、夢見心地になったが、夢はその後、現実のことと
なったのだった。
詳しくは、ファン・クラブ会報としてレポしたい。
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by didoregina | 2010-09-20 10:23 | オペラ実演 | Comments(12)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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別名: didoregina
性別:女性
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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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