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デュモーをチェーザレに!

「ジャゾーネ」でのデュモーの熱演を目の当たりにして、俄然、応援意欲が湧いてきた。
そこで、今月・来月は、「デュモー強化・推進月間」として、強力なプロモーションを行いたい。
特に目標としては、「トロメオ・イメージからの脱却」を掲げる。

来シーズン、パリのオペラ・ガルニエで「ジュリオ・チェーザレ」がかかる。もしやデュモーがチェーザレに抜擢か!と胸騒ぎがしたのだが、キャストを見ると、主役はローレンス・ザゾで、デュモーはまたしてもトロメオ役である。(ついでに、クレオパトラはナタリー・デセイ!)

デュモーは実年齢が若いから、中年のジュリアス・シーザーを演じるには、まだまだ青臭すぎる。しかし、青年のシーザーを演じるならば、歌声は十分に熟しているのである。演出いかんの問題である。
その証拠をご披露しようと思う。



2008年ボーヌでの録音だが、どうだろう、この堂々とした歌いっぷりと伸びやかな声と艶は。チェーザレの主役を張るに十分の貫禄である。ただし、楽譜を見ながら歌うというのは感心できない。まだまだこの曲を自分のものにしていないという証拠を見せるようなもので、減点対象となろう。
この曲で重要な役割を担うヴァイオリン・オブリガードは、フローランス・マルゴワールが担当。かの大御所ジャン=クロード・マルゴワールのご令嬢である。といっても年齢はわたしと同じで中年だが。彼女は、指揮も行うというから、先ほど注文した新譜「オルランド」の指揮はもしや娘のほうか?と心配になったが、親父がまだまだがんばっている模様。

この曲の聴き比べならば、この人に登場していただかなくては。チェーザレのイメージを決定付けたサラ様@グラインドボーンである。


さすがサラ様、自家薬籠中の物にしている。このDVD中の白眉でもある。
多分、デュモーはサラ様との長きに及ぶ共演で彼女を師匠とあがめ(?)その芸術を盗んだに違いない、と思えるほど似たアプローチになっている。声も。

比較検討のため、もう一人カウンターテナーに登場していただこう。ショル兄である。



歌声の男らしさという点では、デュモーのほうが勝っていると言えないだろうか。(歌声も含めて、表情と演技のトータルで見るとサラ様が一番男らしいが)
ここでの演出上、ヴァイオリンのオバサンが出てくる必然性が全く感じられず、マイナス点だけが付加される。もっと若くてきれいな男の子か女の子を軍服着せて出したらよかったのに。

オペラ実演では、歌手および奏者を生かすも殺すも演出次第である。若き野心家としてのチェーザレを主役とする、想像力を駆使した新演出が待たれる。そして、次代のチェーザレは、デュモーを置いて他には考えられない、と結論付けたい。
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by didoregina | 2010-05-30 16:46 | バロック | Comments(12)

対照的な2歌劇場の来シーズン演目

ベルギーは、言語的に南北ほぼ真っ二つに分かれている連邦国である。北がオランダ語(フラームス)圏、南がフランス語(ワロン)圏、首都ブリュッセルは、言語境界線上の真ん中に位置し2ヶ国語地域となっている。
ゲルマンとラテンという対照的な言語・文化・性格によって一国が分割されているから、悲喜こもごも様々な問題を抱え、隣から見るとなかなか面白い国である。政治的のみならず、オペラの世界も真っ二つに両断されているのだ。

フラームス圏の中心地アントワープおよびゲントを拠点とするフラームス・オペラ(フランダース・オペラ)と、ワロン圏の中心であるリエージュの王立ワロン歌劇場(ORW)の来シーズン演目を見比べるだけでも、その違いは一目瞭然である。


まず、フラームス・オペラから。

カイヤ・サーリアホ  「彼方からの愛」  
フィンランド人女性作曲家現代作品という希少性。演出はシルク・ド・ソレイユのダニエル・フィンジ・パスカ。

モーツアルト 「後宮からの脱出」

ロッシーニ  「セミラーミデ」

マスネ    「エロディアード」

シュトラウス 「影のない女」

モンテヴェルディ  「ウリッセの帰郷」
先日鑑賞した「ジャゾーネ」でも棒を振っていたサルデッリの指揮。

ヴェルディ  「アイーダ」 コンビチュニー演出!


そして、ORWは、以下の通り。 

ヴェルディ  「仮面舞踏会」

モーツアルト 「魔笛」

プッチーニ  「ラ・ボエーム」

ビゼー    「カルメン」 ホセ・クーラ再登場!

バルダッサーレ・ガルッピ「L'inimico delle Donne」
バロック後期または古典派のオペラらしいが詳細不明。アレッサンドリーニ指揮。主役はアンナ・マリア・パンザレッラ。

ロッシーニ  「セヴィリアの理髪師」 スミ・ジョーがロジーナ、アライモがフィガロ。

ヴェルディ  「オテロ」 ダニエラ・デッシとアルミリアートのコンビ。

シュトラウス 「サロメ」 ジューン・アンダーソンが主役。


どちらの歌劇場も、イタリアものを中心にフランスものにシュトラウスとモーツアルトを配したオーソドックスな演目である。バロックは一つずつと少ない。
フラームス・オペラの方は、歌手に有名人は持ってこれないかわり、演出で勝負のようだ。ちょっとだけヒネリを入れて、おしゃれな若年層開拓を狙っているような気がする。
ORWは、相変わらずのジジババ好みのマンネリ路線だが、盛時を過ぎた有名歌手を色々引っ張り出して客集めを図る。

小国ゆえ、首都から100キロ位しか離れていない地方都市の歌劇場だから、競争には厳しいものがある。しかも、補助金の出所も割り当ても、モネとは比べられないほど、つつましいものだろう。
三者三様それぞれになんとか特色を出して、がんばっているのだ。
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by didoregina | 2010-05-27 09:46 | オペラ実演 | Comments(10)

デルフトの誇り

デルフトは小さいのに、確固たる誇りみたいなものを感じさせる町である。
この町にまつわる歴史が、オランダ独立や黄金時代の錚々たる著名人と関わるので、町を由緒あるものにしているからだ。

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           ブラウのデルフト地図 (1652年)

デルフト工科大学出身で、デルフトで仕事をしている友人Rは、理系にしては珍しいほどオランダ史に詳しいので、彼の案内でデルフトを歩いたら、目からウロコが何枚も剥がれ落ちた。

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           長方形のマルクト広場の片側に建つ市庁舎
           広場の反対側にある新教会の前には、
           グロティウスの像が立っていた。

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           新教会内部のグロティウス(フーホー・デ・フローテの
           ラテン語読み)の墓碑。国際法の父と呼ばれる彼は
           貿易上の障害のない公海の原理を提唱した。
           これ以外にも、17世紀の著名学者・科学者その他の
           墓がひしめき合っている。

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           その中でも別格は、オランダ独立の立役者
           オラニエ公ウィレムの立派なお墓。
           4方にオペリスクが立ち、ギリシャの女神達に
           守られて眠る。
           オランダ王室一族の墓所も地下にある。

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           オラニエ公ウィレムが22歳の時の肖像画 (1554年)
           アントニス・モル・ファン・ドゥスホルスト作。
           この肖像画を、デルフトのプリンセンホフ美術館で
           見て、あまりのその男ぶりのよさに惚れ惚れした。
           オランダ建国の父となる以前は、こんなにいい男
           だったとは!

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           新教会の塔を裏手の運河側から望む。

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           新教会内にもレプリカがあるこの地図の本物には
           プリンセンホフで出会えた。1536年の大火の年に
           描かれた地図で歴史的価値もさることながら、その
           稀な美しさに感動。紙に印刷されたものではなく、                               木の板に油絵で精密に描かれている。

大火でかなり消失したが、地図の中央より右上方に旧教会がある。その後修復され、立派な伽藍になっている。そこにも、有名人の墓があるが、デルフトといったらこの人、フェルメールの(だいぶ後世になって作られた)記念墓碑。
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           オルガンや側廊やチャペルが多い大教会なので、
           フェルメールの記念墓碑はちょっとわかりにくい。
           しかし、日本人なら間違いなく知ってるだろう、と
           思われたのか、オランダ人観光客から場所を訊かれた。

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           プリンセンホフ美術館にあった、黄金時代のデルフトの
           詳細地図。この美術館の所蔵品は、有名な絵画などは
           ないが、集め方にピリッとスパイスが効いていている。
           スペインとオランダとの確執をテーマにした展示が多くて、
           なかなかに楽しめる。オランダの歴史のお勉強に最適。


駅の近くに、いい品揃えのCD屋を発見。久しぶりに時間をかけて、掘り出し物を探した。
去年の9月に聴き逃した「ボッスの7つの大罪」を演奏したカメラータ・トラジェクティナのCDだ。タイトルも「黄金時代の音楽」という、デルフト観光の記念にこれ以上はないと思われるもの。
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カメラータ・トラジェクティナは、オランダの埋もれたルネッサンス、バロックの曲を掘り出して録音・演奏活動しているアンサンブルだ。
この「黄金時代の音楽」もコンスタンテイン・ホイゲンス作詞・作曲の宗教曲や当時の世俗曲を集めたもの。妙な土臭さがなくて都会っぽい音が意外である。なにしろ歌手が上手いし、曲目も久しぶりにレア度満点で、満足だ。視聴できるように、彼らのサイトにリンクを張った。
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by didoregina | 2010-05-26 12:27 | 旅行 | Comments(4)

ハンザ都市カンペン

10時間のミニクルーズのあとは、友人夫妻とカンペンのカフェで夜更けまでねばった。
100メートル先、同じアイセル川沿いのホテルに宿を取ってあるので、心置きなくビールを飲める。
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   バウンティ号の船着き場向かいにある、スペシャル・ビール・カフェ。
   De Stomme van Campen (「カンペンの聾唖者」)というのは、
   当地出身の画家、ヘンドリック・アーフェルカンプのあだ名だ。


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「スケートをする人のいる冬景色」(1609年頃)アムステルダム・ライクスミュージアム蔵

オランダらしい冬の風景に、コミカルな調子で沢山の人物を描きこんだこの絵の作者は
愛すべき人柄だったろう。耳が不自由な画家の描いたこの絵は、しんとした音のない印象。
冬の間、ライクスミュージアムで彼の絵の特別展が開催されていた。
特別展は見逃したが、先日、アムステルダムでこの絵に再会できた。


さて、翌日は快晴。カンペンの町を歩いてみた。

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   アイセル川にかかる橋。真ん中が上下するようになっているのだが、
   マストの高い船は、通航不可だから、船着き場は、橋より下流側。

カンペンは、15、16世紀に栄えた、ハンザ同盟の町である。ニシンと毛織物の貿易で賑わったようだ。
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         ブラウの地図に描かれたカンペン (1649年)


だから、町には当時を偲ばせる建物がそこここにある。
敬虔なプロテスタントの人たちが多く住み、大学レベルの神学校もあり、日曜の朝は、教会に行く率もよそと比べてかなり高いとみた。そして、ゼーランドの町々でも感じたのだが、家の窓ガラスはピカピカ、ドアや窓枠はペンキ塗りたてみたいにきれいなのだ。勤勉で清潔好きな雰囲気が漂い、心地よい。

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        市庁舎。広場に面していないので、写真が撮りにくい。

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        ブルダー門(ミンダーブルダース=フランシスコ派の名が付いている)
        1615年 トマス・バーレンズ設計のルネッサンス様式。

 
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        門を通り抜けると、花壇も整った公園。
        池に浮かぶ、蚊取り線香を入れる豚の形の容器に
        似たものは、水鳥の巣箱らしい。沢山設置してある。

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        こちらは、セレブルダース門。1617年、同建築家による設計だから  
        ブルダー門と似ている。セレブルダースはアレクシア派修道士のこと。
        市庁舎もそうだが、白地に水色のすっきりしたデザインの
        木の鎧戸が窓に付いている。
        デザインと色が統一されていて、いい雰囲気。

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        コールンマルクト門(穀物市場門)は、全然違う様式の門だ。
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by didoregina | 2010-05-25 15:14 | 旅行 | Comments(2)

アイセル川と湖の船上パーティー

大学時代からの友人夫婦VとTの銀婚パーティーに招待された。
この1,2年は、50歳の誕生バーティーや銀婚式ラッシュである。いずれも、趣向を凝らしたものだ。
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        今回のパーティーは、アイセル川畔のカンペンが拠点。

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3本マストのバウンティ号というパーティー・クルーズ船をチャーター。いかにもオランダならではの趣向のパーティーである。

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   11時半に乗船し、アイセル川を下って、アイセル湖へクルーズ。
   もともと漁船だったものに、3本マストを付けた船。
   普通の三角の帆以外に、長方形の5列の帆が揚げられる。
   このバウンティ号は、世界中からトール・シップや帆船など大小600隻以上が
   勢ぞろいするセイル・アムステルダム(8月19日から23日まで)にも正式参加する。

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       帆がでかくて数も多いので、ロープの数も多くなる。

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       船の内部はサロンになっていて、食事ができる。
       招待客は約60人。夜10時まで貸切。ケータリング付き。

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       食事はビュッフェ式。これはサラダ・バー。
       なぜか、皆真剣な表情である。

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       アイセル川の河口は広く、両岸は、牧草地。
       数十メートルおきに、釣り人がびっしりと。
       いくら天気がいいからといって、異様な光景。
       船長によると、彼らは、ポーランドからの出稼ぎで
       セミプロの釣り人。
       道理で、装備が本格的だし、バーベキューしながら、
       テントに泊り込む。夜になっても釣っていた。

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       こういうクルーズ船の乗客はお気楽だ。
       手伝いたかったら、帆を揚げたり、操舵もさせてくれる。
       でも、大半は、のんびりと、飲み食いに専念。

アイセル湖の一部である、ケーテル湖に帆走で進んだ。しかし、前日に詳細海図を見ると、この辺りには、浅瀬が多い。バウンティ号の一番深い部分は、水面下3メートル60センチなので、注意が必要だ。と、思うまもなく、砂にはまりこんで、身動きがとれなくなってしまった。スクリューモーターを回転させて、なんとか抜け出した。しかし、そのあと2回もはまり込んで、なかなか進まない。
マストの高い船だから、川にかかる橋の跳ね上がる最終時間に間に合わないと、カンペンに帰れなくなる。夜10時までに川を遡ってカンペンに戻らなくてはならない。だから、湖にはあまり長くはいられなかった。ウルクかレリーシュタッドあたりまでセイリングするのかと期待したのだが、それどころではなかった。

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     夕日を浴びて、午後の曳航、になるか、とはらはらしたが、
     夜10時には、カンペンに無事戻ってきた。
     ハードで体育会系のセイリングに慣れている身には、かなり
     物足りない。
     10時間のミニ・クルーズ。食べて飲んでばかりの怠惰な一日。


  
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by didoregina | 2010-05-23 23:09 | セイリング | Comments(2)

「ジャゾーネ」のバックステージという名のオンステージ

この日の公演の後、「バックステージ・ツアー」なるものがあることは、フラームス・オペラのHPで知っていた。
しかし、始まるのは18:30からなので、電車で行く身には、帰宅時間の問題もあり、ツアーの予約はしていなかった。
公演が終わったのは、予定時間を過ぎた18:40ごろだった。アントワープ中央駅からのリエージュ方面行き電車は、毎時43分発である。グーグル・マップでは、駅から歌劇場まで徒歩4分となっているが、途中大通りを2回渡らなければならないし、地下深いプラットフォームまで行き着くには、劇場からやはり10分はみた方がいい。次の電車は、1時間後なので、バックステージ・ツアーに参加することに勝手に決めた。

フォアイエで待っていると、「ツアー参加者はこちらへ」との案内があり、秘密の通路を通って、どこか秘密の場所へ行くことになった。「ツアー参加には予約必須」と書いてあるが、入れてもらえるだろうか。
今日のツアーは盛況で参加人数が多いから、予約した全員が入れて、それでもスペースが余ったらよろしいと言われて、予約してなかった6人は少し待たされた。
結局OKとなり、階下に案内された。案内された先は、バックステージならぬオンステージだった。

説明役は、舞台装置担当の助手らしい。(遅れて入ったので、少し不明)
たった、10分くらい前まで歌手達が乗っかっていた舞台に、わたしたちは今立っているのだ。オケピットでは、大型楽器を片付けたりなんかしている。

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       わたしが立ったのは、舞台向かって右寄り階段手前のこの辺り。

フラームス・オペラのアントワープ歌劇場舞台は、縦横奥行きともさほど広いものではない。だから、舞台設営には工夫がいる。今回は、高さを変え、幾層にもなる作り。床は主にフォームを吹きつけ、岩山の感じを出した。しかも、アントワープとゲント二箇所の上演だから、舞台装置は移動可能でなければならない。
と、ここで質問が出た。「アントワープとゲントの劇場の舞台の大きさは同じくらいでしょうか」答えは、「はい、ほぼ同じです」
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       舞台を正面から見た全体の姿。

また、予算も限られているから、大掛かりな機械装置は使えない。電動の装置にする場合、安全面でも厳しい基準をクリアしなければいけないので、フラームス・オペラではまず無理。しかし、手動ならばOKなので、今回も手動でリフトを上下させたり、レール上の船を後から押してコンテナから出したりした。機械を回す動作や音も演出の一部となるように(苦しい)工夫をこらした。
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      王女の登場の仕方は、バロック的にセリ上がったり、衣装が膨らんだり。

舞台装置の全体案は、演出家と舞台装置担当者がプレゼンで出した後、劇場のスタッフとのディスカッションで決めていく。技術上・財政上・安全上、可能であるかどうか、討論する。
演出家は、稽古全てに付き合うわけではなく、また、舞台装置も担当者はいつでも待機する必要はなく、要所以外は助手に任せる。
「そういう職業に就くためには、専門の学校で学ぶのか」とオランダ人から質問が出た。ベルギー人のオランダ語とはアクセントが違うからわかるのだ。それに対して、案内役の人の答えるに「オランダでは、以前からそういう専門課程があり、職業訓練も盛んであるが、ベルギーでは、つい最近までそういう専門科目は高等教育機関にはなかった。自分は、もともと音大でジャズを学んだのが、この仕事に就いている。学生時代から、アルバイトで色々な劇場の舞台装置・設営の仕事の経験を積んだし、ドリース・ファン・ノッテンのブティックのディスプレイやショーの仕事もしていた」と、なかなか面白い経歴の持ち主である。

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         土管は海に通じ、メディアはここから海に落とされる。(土管の高さに注目)
         錆びた質感が上手く出ているが、木材に彩色したもの。

いくらよく練って制作したものでも、舞台装置が演出上の障害になることもある。
ジャゾーネが寝ているベッドは、45度くらいの傾斜になっているが、今日は本番中思わぬアクシデントが起こった。観客は気がつかなかったが、ベッドに引き戸が全開せず、せり上がったデュモーの肘が、ベッドと引き戸の間に挟まれてしまった。デュモーは痛みに耐えつつアリアを歌った。モニターでそれに気がついた担当者が、ベッドの角度を変えて、デュモーを危機から救ったそうだ。
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         問題のベッド・シーン。
         ベッドのマットレスにも仕掛けがあって、下から手がいくつも出るだけでなく
         メディアは穴から出入りして早代わり。

デュモーのプロ精神は、今日、別の面でも発揮された。これには、わたしもびっくりしたのだが、闘牛士の格好で岩山の上で、牛をノックダウンさせた後、1階分はある高さの岩から下に飛び降りたのだ。
これは、舞台練習の時に一度だけやったが、失敗すると怪我をしかねず危険なので、禁止になった。保険契約上の問題が絡むからだ。もしも、本番で飛び降りるなら、自己リスクで、という契約条項を入れた。しかし、今日、なぜかノっていたデュモーは、飛び降りてしまったのだ。軽々と。
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         いなせな闘牛士姿のジャゾーネ・デュモーは、今日はノリノリ。
         上の写真にある土管の上の岩山から下に飛び降りた。

とまあ、果てしない裏話と質問が続いたが、時間になったので、舞台見学は切り上げて、フォアイエへ戻ることに。
この後にはお楽しみ、出演者のインタビューが待っているのだ。しかし、デュモーは登場せず、指揮者のサルデッリとメディア役のカタリナ・ブラディッチとイジフィレ役のロビン・ジョハンセンだけだった。それで、わたしは、次の電車に乗るため、インタビューは失礼させてもらった。残念。
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         お先に失礼します。(どうせ、デュモーはいないし)

そして、一路、目と鼻の先のアントワープ中央駅に急いだのだった。
車なら家から1時間強くらいなのだが、電車だとトンゲレンから1時間半。プラス家からトンゲレン駅まで車で30分と、片道2時間かかるのだ。
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        劇場ではなく、立派なアントワープ中央駅のファサード。
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by didoregina | 2010-05-19 00:14 | オペラ実演 | Comments(14)

カヴァッリの「ジャゾーネ」@アントワープ

アントワープまで電車で出かけて、フラームス・オペラ(フランダース・オペラ)による、カヴァッリの「ジャゾーネ」を鑑賞した。

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2010年5月16日 フラームス・オペラ@アントワープ

Giasone      Christophe Dumaux
Medea       Katarina Bradić
Isifile        Robin Johannsen
muzikale leiding   Federico Maria Sardelli
regie         Mariame Clément
decor en kostuums  Julia Hansen




ノーマークだったこのオペラを観に行こうという気になったのは、アルチーナさんによる強力なフランコ・ファジョーリ・プロモーションのおかげである。フラームス・オペラのプロダクションでは、タイトルロールはファジョーリではなくて、クリストフ・デュモーだ。
可愛そうに、デュモーはマクヴィカー演出の「ジュリオ・チェザーレ」@グラインドボーンでのエキセントリックなトレメオ役の印象が鮮烈過ぎて、固定されたイメージの払拭に多大な努力を払わなくてはならないという、重荷を背負わされてきたような気がする。その分、こちらの期待も大きい。

フラームス・オペラのHPで見られるメーキング・ヴィデオでのデュモーは、なかなかになまめかしい色男ぶりだ。
ポートレート写真では、こんな優男だが。
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興味と期待のキーワードは、デュモー、「ジャゾーネ」、カヴァッリ、フラームス・オペラという順番だった。
結論から言うと、デュモーの歌声と演技は、わたしの期待を裏切らないものだった。リリカルだが少し男性的な声質で、過不足ない声量の歌いぶりだから、安心して聴くことができた。(CTで声量が少ない歌手は、オペラの舞台上での他の歌手との絡みでは声量不足ではらはらしたりすることもある)
デュモーのルックスは、優柔不断でずるいが、女を魅了してやまないジャゾーネのイメージにぴったりだし、草食系で無駄な贅肉がないどころか、必要な筋肉はちゃんとあるという恵まれた肢体は鑑賞に堪える。
楽天的でC調で自分本位のプレイボーイのジャゾーネは、彼の存在自体が女を惹きつけてしまうという、一種のオム・ファタールなのだ。だから、異国の王女二人に愛されてしまうジャゾーネ本人には、罪の意識がないイノセントそのものである。惚れたほうが負け、と思わせてしまうから、女性は分が悪い。

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     「三角関係になったのは、僕の責任じゃないもん」

カヴァッリの「ジャゾーネ」のストーリーは、よく知られているエウリピデス作のギリシア悲劇「メディア」とは、大層異なる。まず、これは、悲劇ではないのだから。
金羊毛を奪いに行くジャゾーネ(イアソン)は、コルキスの王女(魔女)メディアといい仲になる前に、途中の島でねんごろになった王女イジフィレとの間に双子の子を生していた。この二人の気位の高い女性が、ジャゾーネを追いかけて火花を散らすというコメディである。
しかも、バロック・オペラとしては比較的初期に作られたものであり、上演都市がヴェネティアだったということからも、ドタバタ芝居に近い内容になっている。典雅に気取る必要はあまりなかったのだ。
登場人物も、神から英雄、王女に召使に市井の人々と、ありとあらゆる階層が網羅されているのが特徴だ。

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      メディアおよびイジフィレの登場の仕方は、
      紅白歌合戦でおなじみの某女性歌手を思い出させた。

そして、音楽だが、後世のものと比べると楽譜としては不完全な形でしか残っていない。主要メロディーラインと通奏低音が書かれているのみで、レチタティーボ伴奏や装飾音などは上演のつど即興で付けた。しかも散逸して失われた部分もかなりあり、今回の上演に当っては、指揮者のサルデッリが、カヴァッリ風の音楽を作曲して付け加えた。
同じ作曲家による「カリスト」でもそうだったように、聴かせるアリアはそれほど多くはないし、アリア自体がどれも短くて、あまり音楽に浸るということはできない。ダ・カーポ・アリアなんてないのだ。
この日のオケ編成を見ると、ヴァイオリンが10人くらい、木管が2人、チェロ1人、リュート(テオルボ)2人、チャンバロ2台、オルガン1台、打楽器(および効果音)1人という、こじんまりしたものだった。指揮者は指揮に専念。なかなかに、きびきびと明確な印象の指揮と指示ぶりだった。確固たるものがある。

バロック・オペラの通例として上演時間は長いのだが、カヴァッリ(もしくは当時のヴェネティア好み)らしく冗長でもあるので、冗漫で猥雑すぎる部分は、カットしての上演である。それでも、どもりの召使の滑稽な台詞や歌はかなりたくさん出てくる。コメディー要素としてわかりやすく、卑猥な表現よりは観客にあきれられる危険性が少ないからだろう。

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          王女イジフィレ役のロビン・ジョハンセンは、声もルックスも
          カルトホイザーそっくり。(終演後、私服姿を至近距離で見て
          あれ、なんでカルトホイザーがここに?と、びっくりした)

メディア役の歌手の声が、デュモーの声と非常によく似ている。二人が絡むシーンだと、字幕を追ってると時にどちらが歌ってるんだろうと確かめないといけなくなったりした。
ルックスは、華やかな悪女風の美人である。
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          はい、言わずもがな「タイタニック」のパロディです。

さて、フラームス・オペラ鑑賞は、今回が初めてである。今シーズンは、けっこう意欲的なプログラミングだったようだが、わざわざバロック・オペラとポスターやフライヤーに明記するくらいだから、あまりバロックは上演しないのだろう。それにしては、こういうマイナーなものに取り組む(ベルギーでは初演)という姿勢は、よろしい。
ベルギーでは、首都ブリュッセルにモネという素晴らしい歌劇場があり、かなりのうるさ型にも満足を与えるレベルの高さである。
それに対して、南部のワロン(フランス語)地域では、リエージュに王立ワロン・オペラ(ORW)があり、北部のフラームス(オランダ語)地域では、アントワープにこのフラームス・オペラという具合で、それぞれ特色を打ち出している。首都の歌劇場とは資金(補助金)面で差があるから、競っても仕方がない。
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     フラームス・オペラのフォワイエの天井画。
     写真を撮ってる人が全くいないので、劇場内で撮るのは控えた。

ORWの場合、演目はベルカントものが多くてオーソドックスだが、スター歌手を1つの演目に一人くらいは出演させている。お年寄りという客層にターゲットを絞っている。(客層といえば、オランダ人客が多いため、オランダ語がまず絶対通じないワロン地方としては非常に珍しいのだが、字幕は仏・蘭語が必ず、時には独語も出す)
フラームス・オペラでは、字幕はオランダ語のみ。客層の印象としては、皆非常に行儀がよく、ちょっとインテリっぽいブルジョワという感じがした。どのくらい行儀がいいかというと、開始を知らせる第一のチャイムでほぼ全員席に着き、上演まで10分くらい、しーんとして待つのだ。カーテンコールで写真を撮っている人は一人も見かけなかった。休憩中のフォアイエも、混雑してはいるがブリュッセルのように横入りのおばちゃんたちはいなくて、和気藹々としたもの。そして、飲み物では、ビールが馬鹿安!ドラフトのピルスは2ユーロ、スペシャル・ビールでも2.5から3ユーロ以内である。その代わり、なぜかワインは割高で、普通の白や赤が5ユーロというのは、納得いかない。大方、ビール会社のスポンサーでもついているのだろう。

座席は奮発して59ユーロ50セント、3階バルコニー一列目中央。初めての劇場だから、柱などの死角がなくて、上から他の階が被さらない席を選んだのだ。
しかし、舞台を正面に見るのはいいのだが、思いがけない障害物があった。手すりの前にズラリと照明装置用の鉄柵が付いていて、舞台前方が非常に見づらい。意外な盲点であった。
しかも、音響が非常に不安定である。
歌手が舞台のある一定の位置から前に来ると、特に左前方で歌うと、妙な倍音が右手後方から聞こえるのだ。それが、単なるはねかえる音響というより、マイクで拾って拡声させたとしか思えない、耳障りな増幅音である。リュートのソロの音が妙によく聞こえてくるのも怪しい。左手のヴァイオリンおよび管楽器の増強のためだったのだろうか。
どのくらい不愉快で不自然な拡声だったかというと、歌の途中でもステージのある地点では、ころりと音声が変わって聞こえるので、耐え難いほどだった。休憩後、少し耳が慣れたが、それでも不快なことに変わりはなかった。

演出および舞台装置に関しては、バック・ステージ・ツアーに参加したので、そのレポを兼ねてまた別に書きたい。
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by didoregina | 2010-05-18 18:23 | オペラ実演 | Comments(14)

Ebony and Ivory   2010年春夏の帽子

イースターには間に合わなかったが、春夏用の帽子が出来上がった。しかも2個同時にである。

一つは、国家的式典参列のための黒。昨年の映像を元に、厳かな雰囲気のデザインにした。
しかし、当日は5月だというのに非常に寒くて、ウールのコートが要りそうだ。透ける夏素材の帽子ではいかにも寒々しそうだし、素材感が合わない。
冬の帽子にしたほうがいいのか、しかし、フエルトの黒の帽子は持っていないし。。。
女王陛下はいかがなものか、とお伺いを立てた。(実際には、陛下の前日の帽子をTVで見ただけ)
すると、しっかり冬の素材の帽子をお召しである。
う~ん、と悩んだが、家族の勧めもあり、新作の帽子で行くことにした。
他の参列者の様子を観察すると、帽子の素材はばらばらである。

エボニーと名付けた。
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目の粗い張りのあるガーゼみたいな布を2枚重ね。クラウン部分は普通の平織り2枚で、ブリムはプリーツになったものを重ねた。
ブリムの縁は、グレーのグラデーション。クラウンとブリムの間のベルト部分もグレー・グラデーションだが、式典用にその上に黒のプリーツ生地でベルト・リボンをつけ、グレー部分を隠した。これをはずせば少しだけカジュアルな雰囲気になり、普段使いもできる。
実際に被ると、頭は黒いのでそれほど透け感はない。


そして、アイボリー。
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三年前に作った麦藁帽子を、作り直した。つばが広すぎて、海岸でないと浮いちゃうから、つばの狭いデザインに変えた。クラウンのトップにソフト帽のような窪みをつけて、シティー・カジュアルに。
白い麻の着物用反物のハギレがあったので、縁飾りとベルトに利用。フェミニンな雰囲気になった。
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by didoregina | 2010-05-17 08:23 | 帽子 | Comments(4)

エルミタージュ・アムステルダムの「マチスからマレビッチまで」展

ライクスミュージアム見学の後は、昨年新装オープンしたエルミタージュ美術館アムステルダム別館へ。ロシアのエルミタージュから半年毎に色んな作品を持ってきて、特別展を開催するという方式をとるようで、オープン時に館長は「ライクスミュージアムと双璧となる、アムステルダムの観光目玉にしていきたい」と抱負を語っていた。

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正面ドアの上のゲーブル・ストーンには、Diaconie Oude Vrouwen Huys anno 1681と読める。
アムステル川に面したこの建物は、落成(1683年)当時はアムステルダムで最長のファサードを誇り、もともとは、17世紀の富裕商人の遺産で建てられた老婦人のための養老院だった。当時の入居資格は、50歳以上(!)、10年以上教会の信徒であること、15年以上アムステルダム在住のこと、となっており、収容者数は400人。
20世紀になってアムステルホフと名前は変わったが、前世期末まで養老院として使われていた。2年間の改築・改装を経て、2009年に美術館としてオープン。
外観は(中庭も)いかにもプロテスタント的で、そっけないシンプルな作りだが、内部はなかなかにモダンで、展示室以外(注1)は機能的で空間の使い方がいい感じだ。特に、階段やトイレなどデザインが洒落ているし、カフェ・レストランのインテリアが21世紀のアール・デコとでも呼びたいゴージャスさで気に入った。

現在の展覧会は、「マチスからマレビッチまで」というタイトルで、19世紀末から20世紀初頭にかけて織物商として羽振りのよかったモロゾフとシュクーキンという美術収集家のコレクションを、本家エルミタージュから持ってきたもの。
マチス、ピカソ、ブラマンク、カンディンスキー、ファン・ドンゲンなどの絵画、計75点だ。

一番気に入ったのは、ファン・ドンゲンの「春」(1908年)という、ちょっとゴッホ風の風景画だが、美術館サイトの写真は著作権に厳しくて、右クリックができないようになっているから、リンクしたサイト先でご覧あれ。
いかにも彼らしい風俗のパリジェンヌの肖像画よりも、この絵の珍しさに惹かれた。白い花の咲いているアーモンドかなにかの木の絵なのだが、白の塗り方が文字通り立体的なので、ぱっと目に飛びこみ、鮮烈な印象として残る。

もう一点気に入ったのは、カンディンスキーの「コンポジションVI」(1913年)
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シェーンベルクの音楽からインスピレーションを得、色で音を表現したものらしい。

注意すべきは、絵の展示方法だ。目玉のマチスの絵などは、どうしても押し合いへしあいになって、よく見えない。ライクスミュージアムとは来場者層が異なり、地元オランダ人がほとんどなので、日本での海外美術館特別展みたいな雰囲気になり、鵜の目鷹の目の美術ファンが押しかけるのだ。狭いスペースの小部屋は、ちょっと離れて全体のイメージを見たほうがいい近代絵画の展示には向いていない。
人の頭を見に来たんじゃないから、展示スペースのとり方と方法を、もう少しよく考えたほうがいいと思う。

秋からの新展覧会は、「アレクサンドロス大王展」となっており、今回とはがらりと趣向を変える。
面白い企画で、魅力ある美術品を選りすぐって見せてもらいたいと期待する。
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by didoregina | 2010-05-15 05:18 | 美術 | Comments(8)

ライクスミュージアム@アムステルダム director's choice

ライクスミュージアム(国立博物館もしくは国立美術館)は、いつ果てるともない改修工事に入ったまま抜け出す気配が感じられない。前回最後にここを見学したのは、2002年頃で、工事突入直前だったような気がするが、とにかく「夜警」はゆったりとした部屋で見ることができた。現在は、あの広い美術館の翼のほんの一部のみのオープンで、展示物はびっくりするほど少ない。その代わり、選りすぐりの絵画などを要領よく展示してあって、時間のあまりない観光客にはぴったりのセレクションとなっている。人気のある絵画をしっかり集めてあるから内容が凝縮され、満足感を与えるように上手く考えられている。いい意味で一般大衆に迎合しているのだ。
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           写真に写っていないが、建物左翼の一部のみオープン

空港と同じような赤外線チェックを通過して入場すると、まずは「オランダの黄金時代」と称する展示物の部屋に通じる。スペインからの独立戦争時代から、西インド会社および東インド会社による貿易で栄えた17世紀の海軍・海運の歴史を、VOC船の模型や貿易や海戦の様子を描いた絵画、有名な提督ミヒール・デ・ロイターやマールテン・トロンプの遺物、はたまた現在ではまず見られない緻密な絵付けの素敵な陶器など、展示物は様々である。栄光という言葉をキーワードに集めると、こうなるのだろう。海事フェチの我が一家は、この部屋をけっこう時間かけて堪能した。

その後、階上の部屋に行くと、もうびっくりの濃さであった。レンブラントとフェルメールとハルスが一同に会するなんて機会には、なかなか遭遇できないであろう。
その中のいくつかの絵には、Wim Pijbes keuze / Director's choiceと銘打って、特別解説も付いている。2年前にライクスミュージアム館長に就任した、パイベス氏が選んだお勧めの絵だ。

その中で、一番気に入ったのは、トレンティウスが描いたもので唯一残るこの絵(1614年)。
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         静物画なのに、なぜか鬼気迫る。
         不気味な死の匂いが漂うのだ。
         17世紀のオランダ絵画では、この暗さは異質。


そして、レンブラントの「マリア・トリップの肖像」(1639年)
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リアリスティックな筆致で、情け容赦なくモデルの外見と内面を描き出している。
彼女の性格が一目瞭然。
身に付けているレースや真珠、髪型などは、当時の流行先端を行く。


しかし、もし肖像画の画家を選ぶことができるなら、わたしなら、ヨハネス・フェースプロンクに頼んだだろう。(この絵は、館長のお勧めからはもれていた)
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         「マリア・ストライプの肖像」(1652年)

磁器のような肌の光沢は、皮膚の膜下から光が射しているかのよう。
ちょっと上半身をひねって座ったポーズが独特で、流れるような自然な美しさ。
当時の肖像画にありがちなモデルの地位の表現よりも、優美な女性美を重視。
レースの飾りの繊細さにもため息が出る、モデルの立場から見ると理想的な肖像画。

この絵は、わたしにルーブルにあるダヴィッド作の「レカミエ夫人の肖像」(1800年)
を思い起こさせた。
長椅子に座ったエレガントで清楚な女性らしさの極みの、あの絵である。ポーズがちょっと似ているし、尊厳さよりもモデル女性の儚なさの描き方がどちらの絵にも共通する。


現代アートでは、マールテン・バースのGrandfather's clock (2001)が、抜群の面白さ。



等身大のおじいさんの時計というインスタレーション。時計の内側に人がいて毎分ごとにマジックで描いた時計の針を消しては、新しい時刻を描いていく。ヴィデオのインスタレーションだが、本当に中に人がいるみたいに見えるし、実際に人間を使って撮影したはずだ。途中で適当に休憩したりしてるが、毎分の仕事は欠かさない。ついつい感心して、長居して見てしまう。
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by didoregina | 2010-05-13 20:21 | 美術 | Comments(6)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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