「ほっ」と。キャンペーン

<   2009年 12月 ( 12 )   > この月の画像一覧

「タウリスのイフィゲニア」@モネ劇場

「アウリスのイフィゲニア」の10年後のお話。

c0188818_5245430.jpgmuzikale leiding | Christophe Rousset
regie | Pierre Audi
dramaturgie | Klaus Bertisch
decor | Michael Simon
kostuums | Anna Eiermann
belichting | Jean Kalman
koorleiding | Piers Maxim

Iphigénie | Nadja Michael
Oreste | Stéphane Degout
Pylade | Topi Lehtipuu
Thoas | Werner Van Mechelen
Diane | Violet Serena Noorduyn

Symfonieorkest en koor van de Munt

今回、モネでは「イフィゲニア2部作」を、1時間の休憩を挟んで一挙に上演してしまった。
ストーリーの継続性から考えると、この一挙上演は快挙と言えよう。
しかし、音楽的には、ほとんどこの2作に継続性はないように思えた。というより、「アウリスのイフィゲニア」作曲から5年たっているのだ。音楽性が変化しても不思議はない。

観客からすれば、「アウリス」(1部)を見たので、ストーリー背景が飲み込め、「タウリス」(2部)の世界にすんなり入り込めるし、演出家としても、説明的プロローグなどを付ける必要がないから、1部2部続けての上演は、双方にとって便利だ。

舞台装置は、ロイヤルボックス(軍司令部もしくは宮殿、2部では神殿)に繋がる階段の角度が、わずかに歪曲したのみで、大きな変化はない。

ディアナの加護によって命が助かったイフィゲニアは、スキタイのタウリス島で女神に仕える巫女になっている。
c0188818_5414337.jpg

     神殿を守る巫女たちというより、捕虜収容所か精神病院に入れられてる
     若い女の子たち。

タウリス島のイフィゲニアは、ナジャ・ミヒャエルが歌う。
ナチュラル・メークでスリップドレスの彼女からは、ナイーブで精神を病んだ少女らしさが漂う。
しかし、ミヒャエルの声は、古楽系のヴェロニク・ジャンスとは全く異なり、ドスを利かせたヴィヴラートを力強く響かせるので、まるで「サロメ」か「エレクトラ」みたいだ。
彼女の声を聴いただけで、10年の年月が過ぎ、アウリス島のイフィゲニアとは異なる境遇の、別人のようになった主人公という設定であることがわかる。
c0188818_62253.jpg

         メークのきついナジャ・ミヒャエルのポートレート。

また、ここで聞けるグルックの音楽も、バロックから決別して、新たな潮流に入ったことを明白に示す。しかも、ミヒャエルの声の印象から、古典派を飛び越えて後期ロマン派の音楽のようにも聞こえる。もう、R.シュトラウスの世界からそれほど遠くない。

ストーリーも、ギリシア悲劇に基づいているから「エレクトラ」に似ている。
弟のオレステスが、母と継父を殺して、タウリス島まで流れて来た。元はといえば、その母クリュタイムネストラが、夫アガメムノンを殺した、そのあだ討ちだったのだ。血塗られた家系の一家である。

c0188818_695792.jpg

        目隠しされ、生贄にされる寸前のオレステス。

オレステスは、親友ピラデスと共に、罰のため異国に流されたのだが、スパイ的使命も担っている。
タウリス島に流れ着いた異国人は、生贄のために殺されることになっている。ディアナからの神託を授かった巫女イフィゲニア自らの手で。

ここから、ドラマは深刻さを帯び、登場人物は皆、苦悩する。
イフィゲニアは、弟と知らずにオレステスに会うが、故国への手紙を託すため、オレステスかピラデスの一人だけ、命を助けることにする。
そこで、二人の男の友情が絡むのだ。どちらも相手を助けたいと願って。
その苦悩する男の一人、ピラデスを演じたのが、トピ・レティプー君だ。
c0188818_620973.jpg

        素顔に近いメークで、長身で颯爽としたトピ君。

テノール(ピラデス)とバリトン(オレステス)のデュエットもあり、互いに相手の命を救いたい男の友情、とくれば、「ドン・カルロ」を思い出さずにはいられない。
トピ君のことは、bonnjourさんのブログ記事を読まなかったら、ノーチェックだったはずだ。変わった名前だから、一度目にしたら忘れない。たまたま、当日しかも休憩時間に、トピ君が歌うことを知り、これはこれは、と注目した。
注目に値する、さわやかな容姿と伸びやかな声のテノールである。古典派の音楽に向いてる声質だから、モーツアルトやグルックのオペラの役がぴったりだ。これからも、期待しよう。

c0188818_631686.jpg

        ロイヤル・ボックスはディアナ(右)の神殿。

結局、あわやの時に、姉と弟だということがお互いにわかり、またもやディアナのご加護によって、命が助かる。精神病棟のガードマンか監獄の看守みたいなスキタイ王も、ピラデスの手によって殺され、めでたしめでたしで終わる。

1部2部ともに、ディアナ役は同じ歌手で、舞台を見守りつつ、重要な時になると必ず現れる。ストーリーのカギを握る人物だからだ。そんな風に、神の手のひらの上で踊らされている人間、というのは、まだまだバロック的考えであろう。グルックの音楽は、過渡期というより、もうバロックからは抜け出ていたが、R.シュトラウスのオペラ世界まではさすがにまだ行っていない。

これで、グルックのオペラは「オルフェオとエウリディーチェ」「パリーデとエレナ」それにこの「イフィゲニア2部作」の計4作を鑑賞したことになる。この「イフィゲニア2部作」を聴いてようやく、彼の音楽の簡潔さが、なるほど古典派の楷書のような端正な味なのだと、納得できた。
多分、ルセのアプローチもその辺をしっかりと狙って、ダ・カーポ・アリアを省いたり、オケもモネ劇場専属オケを使ったのだと思う。

c0188818_7112634.jpg

         スキタイ王と右手後方に指揮者ルセ。
[PR]
by didoregina | 2009-12-27 23:02 | オペラ実演 | Comments(12)

雪降る宵は、蝋たたきの着物で

なんと、ホワイト・クリスマスになった。
c0188818_18415642.jpg


オランダでは、気象庁が正式に「ホワイト・クリスマス」と定義するのは、デ・ビルトの観測定点地面がクリスマスの両日(25と26日)、雪で覆われた状態になった場合のみ。局地的積雪では、正式にホワイト・クリスマスとは断定されない。
毎年、今年はどうか、と国中で気にかけるのだが、なかなか実現しなかった。前回のホワイト・クリスマスは1981年だったというから、待ちに待ったもの到来である。

雪の降るイメージにぴったりで、しかも色がクリスマスらしい、蝋たたきで雪を散らしたような絵羽模様の紬を着た。
c0188818_18464698.jpg

       降る雪が、積もっていくような絵羽模様。
       地模様も氷割れのようにむらむらとした濃淡。
       帯は、母が結び糸というテクニックで繋いだ糸を
       緯糸にして織ってもらったもの。
       帯締めは、伯母が組んでくれたもの。

c0188818_18523964.jpg

       今年は、イブから泊り込んで義妹宅でクリスマスを
       祝ったから、クリスマス・ストレス・フリー。
[PR]
by didoregina | 2009-12-27 11:00 | 着物 | Comments(13)

The Duchess  

現役を張ってる女優の中では、キーラ・ナイトレーがダントツに美しいので、贔屓にしている。
ノーブルなルックスで、コスチュームもの(時代劇)には、欠かせない女優になりつつある。
しかし、この映画(DVD)を見て、彼女も役を選ばないとこれから先細りしていくだろう、という哀しい思いを抱いた。
c0188818_7245731.jpg

18世紀の美しい衣装とお城・大邸宅・カントリーというオーセンティックなセッティングに、舞踏会や劇場・カジノといった煌びやかな社交界シーンの連続で、「ベルバラ」以来、コスチューム・フェチ気味のわたしにとっては、夢の続きを見せてくれる映画のはずだった。
しかも、キーラちゃんの夫役はレイフ・ファインズである。そこへ持ってきて、キーラちゃんの母親役で、シャーロット・ランプリングが老けてなお美しい姿を見せてくれる。キャストに不満はない。(いや、一部ある。キーラちゃんの不倫の相手が全然美しくなかった)

マリー・アントワネットそっくりな豪華ドレスとかつらをとっかえひっかえ、絢爛このうえないのだが、見ていて虚しさのつのる映画であった。
c0188818_7331555.jpg

まず、レイフの役柄が、いつものように外見は弱弱しいが惚れた女には尽くす男、というのではなく、妻には従順さと男の嫡子を産むことだけを求め、しかも妻妾同居を強要する封建的家長タイプ、というのがファンとして不満だ。
そんな夫に妻が不満を抱くのは当然だし、不満のはけ口として社会的自立や政治に活躍の場を求める気持ちもわかる。しかし、彼女が選んだ不倫の相手に、こちらは全然魅力を感じないから、中途半端な感情移入しかできない。
ストーリーもあんまりだが、キーラちゃんが美しく撮れていないのが、この映画の最大の欠陥なのだった。強い女のキャラクターにキーラちゃんがついていけず、衣装もかつらメークも彼女の美貌を殺してしまっている。
c0188818_7582679.jpg

   ジョシュア・レイノルズ 「デヴォンシャー公爵夫人ジョージアナ」(1775-76)


夫が結婚前に小間使いに生ませた子供を、実の子同様に育てる慈悲深さも、親友エリザベスを妾として同居させるという太っ腹も、若いキーラちゃんには今ひとつ無理が感じられ、役不足だった。
かえって、コケットな味のある妾のほうにシンパシーを抱いてしまったほどなのだ。
c0188818_805883.jpg

   ジョシュア・レイノルズ 「エリザベス・フォスター」(1787)

全体的にインパクトが弱い、ほとんど何も後に残らない映画だったから、アカデミー賞の衣装部門くらいしか取れなかったのも当然だと思える。その衣装も、時代考証はしっかりしているだろうが、デザイナーのファンタジー不足のため、見る者にほうっとため息をつかせるものがない。衣装に関していえば、ソフィー・コッポラの「マリー・アントワネット」のほうが、よほど遊びがあって、わたしは好きだ。
[PR]
by didoregina | 2009-12-27 00:23 | 映画 | Comments(0)

ドン・カルロもしくはフランドルの使者の帽子

気温が0度以上に上昇したら、積雪は一週間ももたずに、あっけなく融けてしまった。
ホワイト・クリスマスになるかしら、と期待していたのに、どうやらグリーンになりそうだ。
c0188818_724929.jpg

      日曜日には、まだこんなに積もっていたのに。。。


寒波が去ってから、ようやく、新しい帽子が完成した。
c0188818_726339.jpg

      ビーバーの毛(!)のフェルトで作った、
      ソフト帽ならぬハードな帽子。

なんともいえない灰色の交じり合った色合いと不思議な質感の帽体を見たとたん、一目ぼれで、これで帽子を作ろうと決めた。
c0188818_734867.jpg

デザインは、マイケル・ジャクソンが被ってたようなソフト帽を、フェミニンにアレンジ。
すなわち、クラウンは高め、窪みは頭頂部のみで、ブリムは大きめにした。
ビーバーの毛が寝たままだと、濡れ鼠みたいでちょっと情けないので、ブラシで梳かして起毛させる。
トリミングの色は、グレーや黒の皮にすると強すぎるので、薄いココア色の裏皮を貼って、印象派風のニュアンスに。この動物的な帽子のイメージに合う音楽は、ドビュッシーのピアノ曲「雪の上の足跡」だ。

c0188818_7363043.jpg

   グレーの色調が、先日TVで観たオペラ「ドン・カルロ」に登場した
   フランドルからの使者の衣装に似ているので、名付けて「フランドル」
   または「ドン・カルロ」


3月に作った「ダルタニャンの帽子」ほど、シアトリカルではなく、カジュアルっぽい。
成型の際、よくよく帽体を伸ばしたので、薄くて被りやすい。
見た目は、さりげない普段着の帽子だが、実は材質に凝ってる、という自己満足の作品。
これに合わせるバッグの材料も揃ったので、年明け後には完成させ、コーディネートを完璧にするつもり。



   
[PR]
by didoregina | 2009-12-23 23:55 | 帽子 | Comments(2)

「アウリスのイフィゲニア」@モネ劇場

寒波と共に大雪が降った。
ベルギー首都圏では、しょっぱなから25センチも積もったので、交通マヒの様子である。
日曜日には状況も落ち着きをみせるかと思ったら、今度は吹雪。
ベルギー国鉄は列車の運行をしてくれるのか、心配になり、4時間も前に家を出た。木曜日から列車は最大1時間の遅れだとラジオで言ってるから、念には念を入れよ、である。
しかし、なんでこんな日にブリュッセルまで出かけなければならないのか。めったにないダブル・ビルのオペラ・チケットを買ったからだ。(<-ツッコミ)

c0188818_6521849.jpgmuzikale leiding | Christophe Rousset
regie | Pierre Audi
dramaturgie | Klaus Bertisch
decor | Michael Simon
kostuums | Anna Eiermann
belichting | Jean Kalman
koorleiding | Piers Maxim

Agamemnon | Andrew Schroeder
Clytemnestre | Charlotte Hellekant
Iphigénie | Véronique Gens
Achille | Avi Klemberg
Patrocle | Henk Neven
Calchas | Gilles Cachemaille
Arcas | Werner Van Mechelen
Diane | Violet Serena Noorduyn

Symfonieorkest en koor van de Munt

グルックの「イフィゲニア二部作」は、たしかに、主役が同じで、10年を間に挟んだ二つの事件を取り扱ったものだが、はたして、二部作として一挙上演する意味はあるのか。作曲家は、それを念頭において作ったものか、そうだとしたら、なぜ、一挙上演される機会があまりに少ないのか。
とにかく、意欲的な取り組みであることは間違いない。
両方合わせて5時間弱(1時間の休憩をはさむ)であるから、マチネで一挙に観るのが一番理にかなっていそうだ。

順を追って、まず第一部とも言うべき、「アウリスのイフィゲニア」について述べよう。

エウリピデスによる同テーマ同タイトルのギリシア悲劇とは、このオペラは少々趣が異なった。
たまたま、2年前に蘭・独・白の高校生による3ヶ国語上演で、このギリシア悲劇を観たが、印象があまりに違った。どこにドラマの焦点を置くか、視点が変わると展開のスリルも異なる。

トロイに向かうギリシャ軍の総大将アガメムノンが、神(ディアナ)を冒涜した罰で、風が凪ぎ、船は出航できない。神の怒りを抑えるため、娘のイフィゲニアを生贄に捧げなければならなくなる。それを食い止めることの出来ない母親クリュタイムネストラの苦しい心中と、報国という諦めの境地に至ったイフィゲニア。
結局、ディアナの加護により、すんでのところでイフィゲニアは救われるのだった。

ギリシア悲劇のほうでは、クリュタイムネストラの、母としてなすすべのない嘆きと、戦争という大義のために人身御供を求める軍や民衆との板ばさみで、アガメムノンも苦しむ。
c0188818_732405.jpg

         母(左)と娘。(その後に指揮者ルセ)
         迷彩カラーのドレスが素敵。

オペラのほうでは、そのアガメムノンは、横暴な専制君主そのものの軍司令官で、冷血この上ない。
また、特に目立って登場するのがアキレスである。イフィゲニアの婚約者として。
アガメムノンは苦肉の策として、アキレスとの結婚を口実に母と娘を騙すのだ。
そして、一番大きな違いは、多分演出家の視点がそうなのだが、今回のオペラでのクリュタイムネストラには、母親としての苦しみがあまり表現されていない。娘に対する態度が、どこかよそよそしく、哀しみの表情も白々しいのだ。まるで、継母。

c0188818_7374056.jpg

         アキレスとイフィゲニア。(または春樹と真知子)
         「戦争が終わったら、数寄屋橋で会おう」

また、イフィゲニア自身も、戦時下という非常事態で、絶対的権力を振るう父親の忠実な部下のごとく振舞う。だから、静かな諦観と共に生きる尼僧のようで、アキレスとの恋愛においても運命に翻弄されるがままになっているから、まるで「君の名は」のパロディではないか。

オーディの作った舞台は、いかにも彼らしくて、物理的にもギリシア的ドラマの基本を正しく表現したものだ。
具体的に言うと、ドラマの舞台はオケピットの上に作られ、オーケストラは普段の舞台上、つまり歌手の後方で、そのまた後ろの半円形の階段状の椅子に合唱隊と観客の一部が座る。足場を組んで上手と下手に階段が建てられ、上手の階段はロイヤル・ボックスに繋がる。そこが、軍司令部というわけだ。
舞台後方には、半円の階段状の座席が設置され、そこには放射状の通路も設けられている。
通常のオペラ舞台が、正面から見ることを前提に作られているため、上下・奥行きがあっても平面的にならざるを得ないのに対して、今回の舞台は、3次元の構造がくっきりと立体的になっている。舞台がかなり客席に入り込むことになるからだ。
また、観客の一部が合唱隊と混じった舞台後方の席に座るというのも、合唱隊(コロス)は民衆の声を代表するという、ギリシア劇本来の姿に呼応している。

舞台装置もいいが、特に気に入ったのは、またしても衣装だ。
c0188818_81276.jpg

戦場が舞台なので、衣装には迷彩モチーフが、ろうけつのように繊細な方法で染めてある。その色合いも微妙なトーンのグラデーションで、そのまま着物の柄にしてもよさそうな上品さである。近くで見ると、いわゆる迷彩服とは、全然違うのがよくわかって、欲しくなってしまった。
王妃は、迷彩モチーフのロングドレスに赤のベレー帽という、素敵ないでたち。
生贄に捧げられるイフィゲニアの体には、手榴弾が巻きつけられ、まるで、現代の自爆テロに利用される弱者そのものだ。

そんな風に、オーディには珍しく、ちょっぴり時事が盛り込まれているが、それはほんのりとした味付けで、そのものズパリという悪趣味ではなく、観客にニヤリとさせる程度で、くどくない。いくらだって、置き換え・読み替えは可能だが、オーディの美意識はそれを避ける。
そのせいか、オペラを鑑賞したというより、ドラマを観たという印象のほうが強かった。

音楽は、グルックのオペラから、バレエなどのトラジェディ・リリクの要素を取り除き、簡潔に換骨奪胎したものだと、ルセが言っている。
そうすれば、たしかに、バロックから決別したグルックの音楽の革新性がより鮮明に浮き彫りにされる。

ヴェロニク・ジャンスの声が、清純無垢な娘の表現にぴったりだった。演技も悲劇の主人公になりきって、表情もデリケートで好演。しかし、彼女は、びっくりするほど大柄で馬面だった。カーテンコールでルセと並ぶと、ルセのほうが首一つ分小さい。
その他の歌手は、古楽系とクラシック系が入り混じっていた。アキレス役の歌手は、鼻声が強いヘルデン・タイプだ。だから、かえって、ヴェロニク・ジャンスの清清しい歌い方が、古楽的に聞えた。
[PR]
by didoregina | 2009-12-22 00:32 | オペラ実演 | Comments(8)

あなたも展覧会を企画しよう!

BBCの現代アート・オーディション番組School of Saatchiは、なかなかに興味深い結末を迎えた。
一番年少で、テクニックもアイデアもイマひとつ頼りないが、なぜか最終選考に残っていたユージェニーという女の子が、運命の女神フォルテュナに魅入られた、としか言いようのない偶然の僥倖のおかげで、優勝したのだった。
通りがかりに見つけた、青いフェンスに食い込んだ太い木の枝の切り口がシュールで面白いと、3メートルほどのフェンスごと、「サーチのギャラリーに展示したいから譲ってください」と持ち主に頼み込み、カットしたフェンスをギャラリーに運び込んだだけ、という作品だが、現代アートとしてのインパクトと存在感は凄かった。あまりに逆説的だが、他の作品とは比べようもないほど、完成された形になっていたのだ。ぶっちぎりの一人勝ちであった。

しかし、モダン・アートの分野では、オランダもイギリスに負けてはいられない、とばかりに、クレラー・ミュラー美術館が、素晴らしい企画を立てた。
一般投票で展覧されるに値する絵を選ぶ、貴方が企画した展覧会!というものだ。
c0188818_16894.jpg

クレラー・ミュラーといえば、オランダ中部の森林公園内に立地し、素晴らしいモダン・アート・コレクションを誇る美術館だ。コンテンポラリーという意味での現代美術ではなく、19世紀末から20世紀前半までのものを主とする、ゴッホや印象派、象徴主義など、一般大衆に受け入れられやすいおなじみの作品が揃っている。
c0188818_1134185.jpg

          オディロン・ルドン 「ヴェールの女」

所蔵作品は多いが、壁面面積は限られているし、特にいたみやすい紙に描かれた作品は、常設展示されていない。それらをお蔵入りにしておくのは惜しい、というわけで、一般から投票で50の作品を選んでもらって、来年2月7日から4月14日まで特別展示するという。
c0188818_1145661.jpg

          マリノ・マリーニ 「馬」

美術館のサイトから、好きだから実物を観たいと思う作品3点を選び投票する。第一候補は5点、第二候補は3点、第三候補は1点の割合で得点が加算され、最終的に上位に残った作品50点が展示される。そして、自分が選んだ作品の展覧会のオープニングには、それを選んだ25人がゲスト・キュレーターとして招待される。
投票してゲスト・キュレーターになるためには、選んだ3点に、自分なりの理由・説明を付けなければならない。その説明文は、実際の展覧会で作品の脇に表示されるのだ。
c0188818_1154835.jpg

          クルト・シュヴィッタース 「無題」

わくわくするような、インターアクティブな企画だと思う。公立の美術館で、ヴィジターが展覧会企画の一端に参加できるというのは、素晴らしいアイデアだと思う。
投票は、美術館のサイトから、多分オランダ語だけだが、1月17まで出来る。
投票の際付ける理由・説明には、その作品の属する潮流や画家について美術史的解説をしてもいいし、個人的思い入れを語ってもいいという。
わたしは、ヤン・トーロップの比較的知られていない作品3点を選ぼうと思う。しかし、それら全ては既に上位50点に入っているから、やはり彼の人気は本国では衰えていないのだろう。
c0188818_1205364.jpg

          ヤン・トーロップ 「ある少女の肖像画」

この記事に載せた絵は全てクレラー・ミュラー美術館所蔵の紙に描かれた作品で、普段はお蔵入りのもの。わたしが選ぶ3点は、それ以外のものだが、現時点では秘密。
 
[PR]
by didoregina | 2009-12-18 17:26 | 美術 | Comments(3)

クリスマス・ガラは仮面舞踏会?

12月はパーティ・シーズンなので、恒例行事があまたある。

5日の晩は、セント・ニコラスの夕べだった。子供たちは皆大きくなってセント・ニコラスの存在を信じなくなったので、特にプレゼントを用意する必要はない。そのかわり、ドイツに住む義弟の家で、チャリティ・(コンサート)パーティをするようになった。
彼らは毎年、クリスマスの時期に、南アフリカとナミビアにヴァカンスに行くのだが、その前にチャリティ・パーティを自宅で催して、現地で孤児に渡す寄付金を集める。
パーティ自体での食べ物は簡素にして、子供達がフルート、ピアノ、キーボードなどを演奏して、招待客から寄付金を募るのである。次男は、映画「アメリー」(および「グッバイ・レーニン」)のサウンド・トラックに使われたヤン・ティーアセンの曲を数曲弾いた。


次男の音楽学校では、ピアノ・クラスの発表会が12月に行われるのだが、今年は、ピアノと弦楽器、管弦楽器、バレエのクラスと合同の「くるみ割り人形」発表会が12日にあった。
c0188818_20201459.jpg

        校長先生自らが編曲・指揮した12曲。
        チェレスタやハープもちゃんと入っていた。


そして、昨晩は、息子達が通う高校のクリスマス・ガラ・パーティだった。
よく、アメリカ映画に出てくる、高校卒業のプロム・パーティみたいなのが、オランダの高校でも最近は盛んだ。スモーキングにロング・ドレスでびしっと決め、お城などのムードある会場を借り切って行う。
彼らの高校では、卒業パーティのほか、同様のドレス・コードのパーティが毎年クリスマスの頃にあるのだ。
c0188818_2151953.jpg

        コンサート後、出演者に一輪ずつ渡されたバラ。


今年は、長男と次男が高3と高1なので、同日にパーティに参加することになり、衣装の面で困った。
長男には、2年前にH&Mで買ったスモーキングがある。彼は中学時代からずっと背が高く、高校に入ったら190センチくらいになり、もう伸びないだろうと思い、スモーキングを買ったのだ。大学に入っても使えるはずだ。
次男にとっては、今年がガラ・パーティ・デビューである。彼は、まだ180センチに足らず、15歳だから、まだこれから身長は伸びるだろう。今買ってしまうと、来年はもう着られないかもしれない。いくら安くてもスーツとドレスシャツ、蝶ネクタイ、カフス・ボタンなどを揃えたら200ユーロは下らない。親にとって、大変な物入りである。また、来年以降は、長男のが着れるかもしれない。

そんな風に頭を悩ましていると、ピアノの師匠ペーターのママから耳寄り情報を得た。
「ヒューゴー・ボスのバーゲンで、ペーターがコンサート用のスーツを30%オフで買ったのよ。ペーターの体型には、ボスのカットがぴったりだから、いつもそこで買うの。」とのことである。
すかさず、「それでは、今までの衣装は?」と聞くと、
「商売着で、結構痛んでるから、コンサートにはもう着ない」と言うので、それでは、貸してもらえないかと頼んだ。
早速、次男と共にお宅に押しかけて、先月まではコンサートなどで着ていたヒューゴー・ボスのスーツ一式を試着させてもらった。思ったとおり、小柄なペーターのサイズは、次男にぴったりである。
靴以外は全て借りることが出来た。
次男は、「こんなブランド物のスーツを着てくるのは僕だけだろう」と、大層喜んだ。
わたしも、肩の荷が下り、ほっとした。

c0188818_2047379.jpg

   今年は、仮面を付けていないとパーティ会場入場不可。
   ヴェネチアの仮面デザインを元に、黒い繻子の帯地で
   仮面を手作りした。
   ブランド物スーツ、H&Mのと共に、しっくりキマッタ。
c0188818_2053177.jpg
ピエトロ・ロンギの描く「賭博場」
  1683年から1774年までヴェネチアのPalazzo Dandoloに開設されていた
  公営賭博場Il Ridottoには、仮面を付けていないと入場不可だった。
[PR]
by didoregina | 2009-12-17 13:03 | コンサート | Comments(9)

ヴィリャゾンの「ドン・カルロ」@DNOのTV放映

盆・暮になると、なぜか、オランダやベルギーのTVでは、オペラがよく放映される。
今月は、オランダ第二放送が、オペラ月間と称して、毎週日曜日にネーデルランド・オペラ(DNO)の既にDVDになってるのやら、先シーズンの新プロダクションやらを放映してくれるのは、ありがたいことである。
先週は、「アイーダ」だったのでパス。
今日は、2004年制作のヴィリャゾン主演の「ドン・カルロ」だった。
そして、来週は、なんと今年2月に見逃した(チケットが取れなかった)「恋するエルコレ」と、再来週は、やはり今年1月の公演だった「清教徒」が観られる。


c0188818_5225857.jpg
muzikale leiding    Riccardo Chailly
regie    Willy Decker
decor/kostuums    Wolfgang Gussmann
dramaturgie    Klaus Bertisch

Filippo II     Robert LLoyd
Don Carlo     Rolando Villazon
Rodrigo    Dwayne Croft
Il grande inquisitore    Jaakko Ryhänen
Un frate    Giorgio Guiseppini
Elisabetta di Valois    Amanda Roocroft
La principessa Eboli    Violeta Urmana

Tebaldo, paggio d’Elisabetta    Marisca Mulder
Una voce dal cielo    Cinzia Forte
Deputati fiamminghi    Peter Arink
  Jordan Shanahan    Bas Kuijlenburg
  Serge Novique    Mitchell Sandler
  Thomas Oliemans
Il conte di Lerma/Un araldo reale   Kristian Benedikt

orkest    Koninklijk Concertgebouworkest
koor    Koor van De Nederlandse Opera
instudering    Winfried Maczewski

この「ドン・カルロ」を歌った頃が、ヴィリャゾンの喉の最盛期ではないかと思われる。それ以降のヴィリャゾンのオランダ公演やリサイタルは、いつもキャンセルになっているからだ。
既にDVDになっているが、この素晴らしい「ドン・カルロ」をTVで観ることができたのは幸いであった。

歌手、オケ、演出、美術、衣装、全てにおいてほとんど最高・完璧といえる出来に圧倒された。
アラやケチをつけたくなるところが、見つからない。
歌手は、皆、迫力満点の喉を披露し、表情を含めた演技も上手い。
シンプルな舞台装置とマッチした、モノトーンだけど微妙な色合いの衣装が、ディテールまで繊細で美しい。
c0188818_548403.jpg


主な舞台デコールは、大理石の墓石が積み重なったような教会のインテリアで、その端正な構造がパラディオ設計のテアトロ・オリンピコを連想させる。
c0188818_557228.jpg

            パラディオのテアトロ・オリンピコ
c0188818_6122596.jpg



壁の大理石の墓石には、スペイン王家代々の人々の名前が刻まれているのが、諸行無常を暗示しているかのようだ。
c0188818_5594469.jpg

          国王フィリポ2世とロドリーゴ

また、衣装の色で、悪者は黒、良い者はグレーが基調という風に分けてある。
衣装のシルエットは、当時のスタイルに近いが、素材がウールみたいで、それらに蝋の撒き糊を散らしたような模様が入っていて凝っている。
しかも、グレーはグレーでも、ドン・カルロはアイス・ペールのトーンで、エリザベッタのドレスは少しだけピンクがかってるし、ロドリーゴは、ほんのちょっとだけ暗めのトーンである。
フランドルからの使者たちも、乞食じみた服装ではなく、颯爽としたいでたちだが、ドブねずみ色の服を纏っている。
日本古来の色には、灰色だけでも49色あるらしい。日本人の目には、灰色の、さまざまのヴァリエーションが区別できるからだという。それに近いような、優れた色彩感覚の服飾デザインである。
c0188818_6102499.jpg

          王妃エリザベッタとドン・カルロ

一番の悪者である、宗教裁判長の服装だけ、赤、というのもそのものズバリで分かりやすい。
父と息子の、政治と恋の鞘当てが絡んだ確執に、宗教問題も入ってくるから、救いようがなく、悲劇的結末は必然の帰結である。

しかし、ドン・カルロの最期はあっけなかった。
天井から下がったキリストの巨大な足が落っこちてくるのか、とか、カルロス1世の亡霊が墓の中から現れるのか、と、固唾を呑んで待っていると、なんと、ドン・カルロは自分の剣で自害するエンディングであった。謎の修道士の呪いの仕業なのか、なんだかよく分からないうちに、現世の苦しみから速く逃れたい一心で、自ら命を絶ってしまった。
c0188818_6245031.jpg


どうも、このイタリア語版だと、前後関係や悪巧みの背景がカットされているので、ストーリー展開が分かりづらい。
しかし、トータル芸術として見たこの舞台は、演出と音楽とが調和し破綻がなく、美意識も貫かれていたし、歌手にも文句の言いようがなく、満足できた。
[PR]
by didoregina | 2009-12-13 22:36 | オペラ映像 | Comments(10)

マレーナ様の新DVD発売

先ほど届いたDNOからのお知らせメールによりますと、マレーナ様が主演したDido and AeneasのDVDが、ついに発売になりました!
c0188818_2564634.jpg

     今なら、オンラインで35ユーロが29ユーロ95セント。

サラ様ダイドーのDVDも既に発売されているので、クリスマス・プレゼントもしくはお年玉にねだるか、ボーナスのもらえる方は、ぜひこの際2つのDVDを購入されますよう。
冬の夜長、今世紀を代表する2人のダイドーを比較しつつ、典雅なバロックの世界にひたってください。
c0188818_258469.jpg


新DVDの録画はパリで行われたものなので、イーニアス役は、ウィーンとアムステルダムで美男子の益荒男ぶりを見せてくれたルカ・ピサローニでないのが残念です。

ルカ・ピサローニは、DNO制作のモーツァルト、ダ・ポンテ3部作では、「フィガロ」タイトルロールのほか、「コジ」でのグリエルモ役を歌っていて、DVDが既に出ています。
また、ダニエル・ドニースも、スザンナとデスピーナ役で参加していますので、ファン必携版と言えましょう。(誰のファンだ?)
c0188818_252178.jpg

     若き日のトラボルタを彷彿とさせる男前のルカ・ピサローニ。
[PR]
by didoregina | 2009-12-08 19:01 | マレーナ・エルンマン | Comments(10)

コンヴィチュニーの「サロメ」@ Muziektheater

DNOによる「サロメ」の千秋楽を観にアムステルダムまで行ってきた。

c0188818_16531584.jpg
muzikale leiding     Stefan Soltesz
regie    Peter Konwitschny
decor en kostuums    Johannes Leiacker
licht    Manfred Voss
dramaturgie    Bettina Bartz

Herodes    Gabriel Sadé
Herodias    Doris Soffel
Salome    Annalena Persson
Jochanaan    Albert Dohmen
Narraboth    Marcel Reijans
Ein Page der Herodias    Barbara Kozelj



Juden    Alasdair Elliott
       Marcel Beekman
      Jean-Léon Klostermann
      Pascal Pittie
      Andrew Greenan
Nazarener    André Morsch
         Julian Tovey
Soldaten    Alexander Egorov
        Patrick Schramm
        Ein Cappadocier
        Jacques Does

orkest    Nederlands Philharmonisch Orkest


ペーター・コンヴィチュニーが、数年の沈黙を破って(うつのため、新演出からは遠ざかっていた)再起を賭けた作品である。期待は大きかった。
その期待をいや増すかのように、DNOから事前に「おことわり」のDMが届いた。ネーデルランド・オペラの季刊誌ODEONからコンヴィチュニーのインタビュー部分をコピーし、通常の「サロメ」とは異なる解釈・エンディングであるが、ショックを受けないように、とのお断りレターも入っている。
しかし、18禁とは、明記してなかった。

NRC新聞にも、結構詳しいコンヴィチュニーへのインタビュー記事が載るほど、今回の「サロメ」は鳴り物入りだった。
それで、開演前の解説トークも聴いて、万全の構えで舞台に臨んだ。
解説トーク会場は始まる前から満員の盛況で、解説をしてくれる音楽学のヨーケ・ダーム女史自ら、椅子をどんどん増設していったほどだ。歌劇場の座席も満員御礼のようだった。

「サロメ」には、個人的な思い入れがある。
高校1年の時、有志でオスカー・ワイルド原作の「サロメ」ロック・オペラ版というのを上演した。そのせいで、台詞は、いまだに結構覚えている。上演時間の制約上、カットした台詞もあるが、それが、R.シュトラウス版に採用されているものと非常に近い、ということを後年発見して驚いた。
また、ビアズリーが描いた「サロメ」の挿絵も大好きだし、クラナッハやその他の画家による「サロメ」を主題とした絵画には魅かれるものが多い。

そういった、もろもろの情報が頭の中に渦巻いた状態で臨むのだから、コンヴィチュニーがどのように料理してくれるのか、かなり怖いもの見たさの楽しみがあった。
結論から言うと、ある意味で期待通りだった。

c0188818_1712720.jpg

     核シェルター内部のように孤立・閉塞した空間に
     「最後の晩餐」風のテーブル。
     中央、頭から袋をかぶせられた捕虜みたいなのが
     ヨカナーン。

サロメは、「ボーダーライン」や映画「スーザンを探して」の頃のマドンナみたいなコスチュームと髪型。ふてぶてしいルックスとドスの利いた声のこの歌手にはよく似合う。つまり、可憐さは、全くない。

ヘロデ王や后ヘロディアが率先して、閉じ込められた空間の中の登場人物は、ありとあらゆるデカダンな享楽にふける。詳述すると、このブログがアダルト・サイトになってしまうから、避けるが。
それを、コンヴィチュニー特有の写実描写で見せるので、観客は辟易させられる。まあ、それが彼の狙いでもあろうが。
とにかく、登場人物の全てが色情狂の様相を呈し、タブー意識のかけらも見せず、扇動し合い、狂乱の行動はエスカレートするばかり。

c0188818_17181963.jpg

   度を越した乱痴気騒ぎの果て、ナラボはヘロデに誤って射殺される。
   その死体は、好色な人々の餌食になる。
   ソファーの下、絨毯に包まれ放置された死体。
   また、小姓は、ここでは女性料理人。

そうやって、これでもかこれでもかと、モラルのない乱痴気騒ぎの中の人間を描くのが、いかにもコンヴィチュニーらしい手法なので、これに嫌気がさしたり、目をそむけたら、観客側の負けである。かなり辟易させられるが、それが、後半の昇華へ向かうための前哨戦なのだった。

サロメの七つのヴェールの踊りは、シュトラウスらしく甘美で官能的な音楽を楽しむのが第一目的だという観点からすると、ストリップまがいの踊りを見せるのは、常套手段だが実は正しくない。
そういう気持ちにさせられたのは、ここでのサロメの踊りが、全くエロティックではなく、ヘロデの劣情を刺激する目的も感じられなかったからだ。
それよりも、閉塞状況から自由世界へ解き放たれたいという希求の表現だった。

その褒美としてしつこく望んだヨカナーンの首は、象徴的に遠ざかる空間の下から出てきた。
汚辱の現実は、はるか後方に退き、舞台前方にたたずむサロメとヨカナーンは、自由と愛の世界にいる。そこでの二人はロマンチックな愛を謳歌する。
現実とロマンの対比を見せるために、コンヴィチュニーは「サロメ」を再構築したのだ。
c0188818_1739735.jpg

     二人だけの愛の世界は、現実を超えたもの。
     ハッピーエンド風に手をとる。
    
そして、最後に本来ならばヘロデ王が発する「あの女を殺せ」という言葉は、舞台からではなく、客席最前列中央、指揮者の後ろに座っていたサクラが、振り向き、客席に向かって言うのだった。「あの女は、死ななきゃいけない」と。

これを、モラルのかけらもない舞台の最後に出てきた、モラルに最も近い言葉として捉えることができる。しかし、サロメは殺されない。
このエンディングのあと、絶妙のタイミングですかさずブーイングが2、3飛んだ。これもサクラの仕業か?

客席は、賛否半々という雰囲気だった。いつものようなスタンディング・オヴェーションはなく、立ってる人は少ないが、拍手はなかなか鳴り止まなかった。最も大きな拍手を貰えたのは、指揮者だった。アムステルダムらしい反応であるが、アムステルダムらしくない、ともいえる。

このプロダクションは、2年後に日本でも公演予定だが、いかがなものだろうか。オペラなら、何でもありでも大丈夫なのか。しかし、最後のサクラの台詞は、日本語にするのが難しそうだ。「あの女を殺せ」では命令調で、観客に向けて発せられるモラル覚醒効果がない。ネタばれになってしまったが、そんなことは事前に承知で観ても、色々考えさせられる点は多いと思う。
[PR]
by didoregina | 2009-12-07 10:02 | オペラ実演 | Comments(11)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28

プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


最新のコメント

Vermeerさま、多分..
by レイネ at 01:38
トマスのソロ・コンサート..
by Vemeer at 01:25
Vermeerさま、この..
by レイネ at 20:56
詳細なレポート、楽しく拝..
by Vermeer at 18:02
ロンドンの椿姫さま、それ..
by レイネ at 17:03
大満足のマスタークラスで..
by ロンドンの椿姫 at 23:41
鍵コメさま、ヴェロニカ・..
by didoregina at 18:57
Mevrouwさま、北海..
by レイネ at 18:46
レイネ様も怒涛の更新で、..
by Mevrouw at 23:33
Mevrouwさま、サー..
by レイネ at 22:10
Mevrouwさま、夏の..
by レイネ at 22:05
新作オペラに挑むのは本当..
by Mevrouw at 20:56
クロアチア~ベネチアを自..
by Mevrouw at 20:27
Mevrouwさま、ご高..
by レイネ at 20:19
ようやく一息つける日なの..
by Mevrouw at 19:57
Mevrouwさま、癒し..
by レイネ at 16:49
このところネットからも音..
by Mevrouw at 16:37
斑猫さま、もうすでにパリ..
by レイネ at 16:57
ロンドンの椿姫さま、まさ..
by レイネ at 16:54
こんにちは CT研究会..
by 斑猫 at 00:16

以前の記事

2016年 11月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 06月
2015年 04月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月

タグ

最新のトラックバック

究極の愛を描いたワーグナ..
from dezire_photo &..
バッハが人類に残したメッ..
from dezire_photo &..
バッハが『ロ短調ミサ曲』..
from dezire_photo &..
ルター派のプロテスタント..
from dezire_photo &..
ダンテの『神曲』 ”地獄..
from dezire_photo &..
ポン=タヴァン派、総合主..
from dezire_photo &..
倉冨亮太さんの繊細な美し..
from dezire_photo &..
ダイナミックで刺激的な多..
from dezire_photo &..
贅沢と快楽に生きる娼婦な..
from dezire_photo &..
バッハとヘンデルの音楽性..
from dezire_photo &..

カテゴリ

全体
バロック
映画
オペラ実演
オペラ映像
オペラ コンサート形式
着物
セイリング
コンサート
美術
帽子
マレーナ・エルンマン
イエスティン・デイヴィス
クイーン
CD
20世紀の音楽
旅行
料理
彫金
ビール醸造所
ベルギー・ビール
ハイ・ティー
サイクリング
ダンス
ハイキング
バッグ
教会建築
カウンターテナー
演劇
未分類

検索

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

音楽
映画

画像一覧