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アリオダンテ@東京藝術大学奏楽堂

アルチーナさん、さわやか革命さん、Mevさんがすでにお書きになっているし、いまさら記事にするのもどうか、とも思うが、一応、忘れないうちに(もう忘れそうだが)書いておこう。

c0188818_2010668.jpg2009年9月13日@藝大奏楽堂
指揮 鈴木雅明
演出 平尾力哉

舞台監督 賀川祐之
古典舞踏 市瀬陽子
声楽統括 多田羅迪夫

出演 スコットランド王:新見準平
アリオダンテ:小野和歌子
ジネヴラ:朴 瑛実
ルルカーニオ:吉原教夫
ポリネッソ:彌勒忠史
ダリンダ:松原典子
オドアルド:加耒 徹

合唱 東京藝術大学声楽科有志
管弦楽 東京藝術大学古楽オーケストラ
 バロック・ヴァイオリン:若松夏美
 バロック・チェロ:鈴木秀美
 ヴィオラ・ダ・ガンバ:福澤 宏
 フラウト・トラヴェルソ:前田りり子
 オーボエ:三宮正満
 チェンバロ/オルガン:大塚直哉 ほか

主要歌手の半分はプロだし、器楽演奏にも、藝大教授や講師である日本古楽界の錚々たる面々が混じり、指揮は鈴木雅明氏だから、学内発表会というレヴェルでは、全くない。

コンサート・オペラといいながら、簡単な舞台背景や装置があり、照明は舞台効果を考えた使い方がなされている。歌手の衣装も、役に合った、しかし多分自前で用意した私服だろうと思わせるもので、それがかえって学芸会風な印象を与えた。
もうひとつ中途半端だったのは、舞台に立ててある譜面台で、合唱の学生が、主要アリアのつど、楽譜を置き換えたり位置を移動させるのだ。歌手は、譜面台が用意されてるから使わなきゃ悪い、とでも思ったように、とってつけたような態度で、暗譜で歌うのに譜面台の近くに立ち、一応楽譜のページもめくるのだった。しかし、譜面を見ながら歌っている人はいない。摩訶不思議と言うか、意味がわからない。

主役の小野和歌子さんは、藝大OGでローマで活動し始めていて、細身で長身の日本人離れしたプロポーションでズボン役が似合うタイプである。顔立ちもいい。コンサート形式という演出のためか、さほど演技といえるほどの演技はないが、表情がシーンによってちゃんとと変えられるから、いい演出家によるプロダクションのきちんとしたオペラ舞台では期待できそうだ。しなやかそうな肢体が生かされず、不要な譜面台の前で、棒立ちで歌うことが多かったのが残念だ。

オペラ全体では、聴くほうは、アリアならScherza infida とDopo notteに全力を注いげばいい。歌うほうも多分そうだったろう。迫真の歌唱であった。これらのアリア場面での、演歌ショー的演出がちょっとヘンだが、まあ、今回はそういうコンセプトなんだろう。
全曲版は今まで聴いたことがなかったので、初めて聴くソプラノのアリアにもいい曲があることを知った。上記二つの曲に呼応した形になるジネヴラのアリアのメロディーが、どこかライトモティーフっぽく、役柄の心情を表現する作りになっているように感じられた。

随所に挿入されたバロック・ダンスも見ものであった。荘重かつ軽やかに跳躍の多いダンス形式で、皆さんきれいに舞う。しかし、こういうコンサート・オペラにダンスというのはちょっと異質で、とってつけたような、学内発表会風の印象になってしまうのが残念だった。


このオペラは、里帰り中、最も楽しみにしていたイヴェントだ。
有志に呼びかけて、いっしょにオペラ鑑賞後はオフ会ということになった。参加者は、アルチーナさん、Mevrouwさん、 REIKOさんと、日本ヘンデル協会の若いお友達の、計5人。熟女予備軍である。
着ていく着物には悩んだ。9月中旬だから、単衣だが、暑かったり雨だったらどうしようと。
結局、母の紬で、浅葱色に紺で大きな二つ巴の模様が全体に染められた小紋にした。絽の染め帯は、里帰りにあわせてネットで注文したもので、クリーム色の地に南蛮船と波が描かれている。どちらも夏らしい柄だ。
REIKOさんは、江戸紅型小紋(多分)にカラフルでかわいい模様を織り込んだ八寸の帯。東京風でしゃっきりすっきりした組み合わせで、お似合いだった。

上野駅に隣接する韓国料理店の個室でのオフ会は、大変盛り上がった。
韓国のにごり酒マッカリが半額というのを目ざとく見つけたので、皆マッカリ・ベースのカクテルやビール割りを注文した。マッカリ生ビールというのが、ベルギー・ビールにありそうな色と味でイケル。
お酒には結構強いわたしだが、アルチーナさんとMevさんのペースには、たじたじとなった。
たっぷり飲んで食べて、お喋りしまくり、皆さん存分に楽しまれたようだ。
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by didoregina | 2009-09-28 14:19 | オペラ実演 | Comments(14)

無伴奏リコーダーの饗宴       演奏中のXXX厳禁

c0188818_22363730.jpg2009年9月15日
フランドル楽派の曲集 (フォルムシュナイダー写本「3声曲集」より)
リチェルカータ (ジョヴァンニ・バッサーノ)
2つのファンタジア (ゲオルク・フィリップ・テレマン)
ソナタ 変ロ長調 (ゲオルク・フィリップ・テレマン)
無伴奏フルートのためのシランクス (クロード・ドビュッシー)
ソナタ5番 変ロ長調 (ジョセフ・ボダン・デ・ボワモルティ)
はやく座って (クリストファー・タイ)



出演: ヴァルター・ファンハウヴェ
田中せい子
ダニエレ・ブラジェッティ

さわやか革命さんのマイナー・コンサートのお知らせに載っていたので、リコーダーのコンサートに行ってきた。ルネッサンス、バロックおよび20世紀のリコーダー曲ということで、興味を持ったのだ。
場所は、浜松の楽器博物館で、恒例のレクチャーコンサートの一環であった。

ヴァルター・ファンハウヴェは、フランス・ブリュッヘンよりは10歳以上若そうなオランダのリコーダー奏者だが、昔は、「サワークリーム」でブリュッヘンといっしょに活動していたそうだ。
田中せい子女史はファンハウヴェの弟子で、ブラジェッティ氏は、ミラノで田中女史とデュオを組んでいる。

前半の4曲は、ルネッサンスおよびバロックの曲(トリオとソロ)だったが、集中して演奏を聴くことができなかった。それは、以下の理由による。

地下の楽器展示室の一角にしつらえられたステージから2,3メートルほど離れた、最前列中央の席に座ったのだが、隣の小学校高学年もしくは中1くらいの男の子が、演奏が始まったとたん爆睡して、しかも、上半身を激しく前後左右に揺さぶるのだ。わたしの体にぶつかるし、もし、前に席があれば椅子の背に頭をひどくぶつけただろう。最初は、音楽にあわせて体が自然に動くのかと思ったが、平日の夜、オヤジに連れられて部活の後にやって来たコンサートで、日中の疲れが出たのだろう、演奏開始と同時に眠りこけたのだった。
演奏家の目の前だし、演奏してる人や、後に座った人たちはどう思っただろう。きっと、みんなわたしのことを非常識な母親だと思ったに違いない。というのは、その男の子は、清涼飲料水のペットボトルを持っているのを係員に見咎められ、かばんの中にしまわせられ、ついでに隣でガムをかんでいたわたしも、注意を受けたのだ。たしかに、「演奏中、会場での飲食は固く禁じております。」とアナウンスが入ったが、ペットボトルは持っていただけだし、ガムは演奏が始まる前に捨てるつもりだった。こんなに厳しいチェックの入るコンサート会場は、初めてだった。
それなら、「演奏中の睡眠はご遠慮願います」とでも、言ってもらいたかった。この男の子のおかげで、まったく演奏に集中できなかった。しかし、演奏が終わると同時に目が覚め、拍手をするとまた爆睡、という繰り返しは、お見事であった。

レクチャーコンサートだから、説明のトークが入る。今回が90回目という盛況のレクチャーシリーズで、反対側の隣に座った常連らしき人たちが、熱心にメモを取っているのにも、驚かせられた。
ファンハウヴェ先生の英語によるレクチャーを弟子の田中女史が日本語に訳す。楽器の種類や、どういう曲かとかを簡単に説明する程度で、まあ、レクチャーと言うほどの内容でもない気もしたが、とにかく、拝聴すべし、という雰囲気の横溢したコンサート会場だった。ガムなんか噛んでたら、国賊扱いだ。

休憩中は、暇なので、楽器博物館の展示物を見ていた。コンサートチケットを持っていると、当日は博物館もタダで入場できる。
レクチャーコンサートとはいえ、2時間びっしりと演奏とトークがあるのに、お値段は2000円と、とてもお得なお値段だ。定員100名限定で、当日は、丁度100席埋まったそうだ。リコーダーという楽器は、演奏人口は多いだろうが、この楽器だけのコンサートは、結構マイナーなものではないだろうか。

後半は、ドビュッシー作曲のモダンフルートのための曲でスタート。これが、なかなかいい。
ドビュッシーのピアノ曲、オーケストラ曲とオペラ以外のものには、ほとんどなじみがないが、あまり20世紀らしくない印象である。パンとシュリンクスの物語にちなむ曲だから、たしかに笛のソロにはぴったりだ。

ボワモルティエのフラウト・トラヴェルソのためのソナタも、リコーダー3本で演奏だ。3人の息が文字通り合って、目線を交換しアンサンブルを整えているのが見て取れ、楽しい3重奏である。

最後のタイの「はやく座って」は、ルネサンスの曲だが、複雑なポリリズムが20世紀的で、聴いていてこれが一番面白かった。
解説によると「ある声部が2拍子で動いている時に、もう一つの声部は3拍子で動くという作曲法で、極端な場合には、5拍子対4拍子、7拍子対6拍子といったような非常に複雑なポリリズムが発生します。このような箇所は聴いていても混沌として分かりづらいのですが、その後必ず各パートが同一の拍子に戻るセクションが置かれていて、そこに到達すると大きな安堵感と安定感を感じることができます」とのこと。

ファンハウヴェ氏はトークで、「ヤマハ製のあるリコーダーで、自分の持っているものと同タイプが製造中止になったのが惜しい。木材がメープルのため割れやすいという理由から、もっと堅いオークにモデルチェンジになったが、色や木肌の感触が異なり、音質もメープルのほうがいいから、ぜひ世界中の演奏家のために再製造して欲しい。ヤマハの品質は優れ、プロが使うシェアは非常に大きいのだから」と本音も語った。浜松は、楽器の町で、ヤマハの本拠地である。

コンサート終了後、演奏家に挨拶に行った。そこには、ヤマハ関係者の方たちもいらっしゃった。ファンハウヴェ氏はまたも、件の楽器の再発売のお願いをしていた。「自分が使った限り、割れやすいという問題はなかったのだから」と。

わたしは、「オランダから、聴きに来ました。リコーダーだけのコンサートは初めてですが、後半の3曲が特に素晴らしかった。ルネサンスの曲も20世紀の曲も、思いがけないほど複雑で美しく、目が開かれた思いです」などと、ファンハウヴェ氏に話した。氏は、そうですか、ありがとう、そう思いますか、と相槌を打ってくれたが、インタビューになりそうな、面白い話は聞けなかった。
レクチャーのトークを聴いた印象でも、あまり話すのは得意ではなさそうだったから、わたしは自分の感想を述べただけで、またお会いできますよう、と言って別れた。
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by didoregina | 2009-09-25 17:49 | コンサート | Comments(6)

北海の小エビのコロッケとKeizer Karel

ファン・デル・ウェイデンの絵を堪能した後は、アリーチェさんと昼食だ。
美術館から町の中心とおぼしき方面へ歩き、適当なカフェで簡単な昼食をとる。
美術館めぐりは、足が勝負で、展覧会一つ観るだけでも、結構疲れるものだ。
まずは、ビールで乾杯。
普段は、全くビール党ではないのに、ベルギーに来たら、やはりスペシャル・ビールを飲まずにはいられない。

座ったカフェのテラスでは、皆、Keizer Karel というビールを飲んでいる。わたし達も、樽出しのこのダーク・ビールを注文した。
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写真ではルビー色だが、実物はもう少し茶色がかっている。泡のキメは粗い。ハーヒト醸造所製だ。
味は、まあ普通のブラウン・ビール系で、甘みが勝ち、感激するほど美味しいとか変わった味というわけではない。オランダでは、ベルギー・ビール専門のカフェでもあまり見かけないから、わたしにとってはレアなビールではある。

Keizer Karel (1500 - 1558)と、ビールの名前になりグラスにも描かれているこの人物は、一体誰か。
オランダ語で言われてもぴんと来ないだろうが、フランス語でシャルル・カン、ドイツ語ではカール5世、スペイン語でカルロス1世、神聖ローマ皇帝だった人だ。
ブルゴーニュ公国だったフランドルのゲント生まれだが、母方のスペインを始め、多くの国を治めたので、名前の読み方が国によって異なるのだ。出身のハプスブルク家勃興期に当り、ドイツ、オーストリア、ネーデルランド、スペインなどヨーロッパ大半を統治したのみならず、南米にもその勢力を伸ばした。

お昼なので、アリーチェさんには、軽く食べられる小エビのコロッケを勧めた。
一応、ベルギー名物である。特に、北海沿いの地域ではよくカフェやレストランのメニューにあり、ディナーだったら前菜、ランチだったら主菜になる。

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  カメラを持っていなかったので、8月にオステンドのレストランで食べたもの。
  まあ、どこで食べても、大体2個が普通で、付けあわせがちがうだけ。

ベルギーの海岸には、この数年夏に1週間ほど、義妹とアパルトマンを借りるので、毎年、小エビのコロッケを食べる。しかし、実は、感動するほど美味しいものには、ベルギーでは出会ったことがない。名物に旨い物なし、というのではなく、オランダのゼーランド地方ブラウニッセで食べたものが美味しすぎて、それ以外はかすんでしまっているのだ。

やはり、決め手は小エビの量で、少ないと美味しくない。ブラウニッセはムール貝の産地で、町には巨大なムール貝の銅像が立っているが、小エビのコロッケの美味しさの方が際立って印象に残っている。旨い物の少ないオランダでは、異色である。

それ以来、美味しい小エビのコロッケを捜し求めているが、これだ、と言える出会いはなく、それならば、と自分で作ってみた。
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固めのベシャメルに小エビを混ぜ、俵型のコロッケにして揚げるだけで、難しいものではない。
難しいのは、指にくっつき粘るベシャメルを俵型にまとめることだけだ。
色々、試してみたが、びっくりするほど沢山小エビを入れないと、やはり美味しくできない。
してみると、あのブラウニッセのコロッケに入っていた小エビの量は、生半可なものではない、と悟った。

アリーチェさんとは、オペラや美術、旅行の話題が弾んで、楽しいひと時が過ごせたが、果たして、小エビのコロッケがお口に合ったかどうかは、聴き忘れた。
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by didoregina | 2009-09-24 18:26 | ベルギー・ビール | Comments(6)

ルーヴァンのファン・デル・ウェイデン展

日本からオランダに帰った翌日、ベルギーのルーヴァンで開かれているロヒール・ファン・デル・ウェイデンの展覧会に行ってきた。
帰国したら即、楽しいお出かけ用事を入れたり、出勤してしまうのが、時差ぼけにならないヒケツである。
しかも今回は、ブログで知り合ったアリーチェさんとご一緒なので、パスできない。
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            ルーヴァンの市立美術館

ベルギー国鉄には様々な割引券があり、次の駅がベルギーなので活用でき、オランダ国内の電車移動より、ずっと安くつく。
そして最近は、マーストリヒトから、ベルギー国内どこまででも片道10ユーロなどというチケットが発売されている。当地出身で、元欧州議会議員、現オランダ運輸大臣カミール・ユーリングスの実力の成果だろう。まだ若くてキュートな彼は、息子達の中学・高校のOBでもある。
マーストリヒトからは、平日なら毎時、ブリュッセルまでの直行電車も出ていて、これが新幹線並みにキレイで、特急料金もない。平日なら往復20ユーロ、週末は17ユーロだから、まあ、どうしてもアムステルダムよりはベルギーに足が向いて当然である。
前日は、アムステルダムから電車で帰ってきたのだが、車内の乱雑さ・汚さ・乗客のマナーのひどさは、もう言語道断だった。

ルーヴァンに新しい市立美術館が9月20日に開館した。
その記念として、ブラバント出身のフランドル・プリミティブ画家ファン・デル・ウェイデン
(1400 - 1464)展が開催されている。

アリーチェさんとは、12時に美術館入り口で待ち合わせした。
ブログ初心者のわたしなのに、今年すでに5人のブログ仲間と実際にお会いする機会に恵まれた。
6人目に当るアリーチェさんは、ロマネスク美術とオペラの旅を重ねておられ、今年になって訪欧3度目だからすごい。

オーディオ・ガイドを借りて、まだできたてホヤホヤ、ちょっとまだ不備のある美術館の中を回った。
全部で8つの部屋に、テーマ別に作品が展示してあり、各地からいろいろ集めたのだが、それほど有名どころは揃っていず、イマイチだ。
本人作のものより、アトリエや弟子制作とか模作の方が多いのであった。

その中で、気に入ったものは、まず、ブルゴーニュ公らの肖像画と、聖母子とフィリップ・ド・クロアイの二枚祭壇画だ。
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          フィリップ・ド・クロアイの肖像画

普段は、カリフォルニアとアントワープに分かれているこの祭壇画だが、今回は2つ並べて観られる。裏に描かれた紋章も見えるように展示されている。
この絵の左側に聖母子の絵が置かれ、寄進者の彼が二人を拝む形になっている。
どちらの絵の人物もノーブルな美形で、顔や手足の表現が生き生きとして、しかも、着衣や宝石の描き方が緻密で惚れ惚れする。
ド・クロアイの目の色と同じ緑色の背景に浮かび上がる、ビロードの衣の襞や金の首飾りの鎖、光を反射する真珠やその他の宝石をじっくり眺めた。

わたしにとっての白眉は、ロンドンのナショナル・ギャラリーから持ってきた「本を読むマグダラのマリア」とリスボンの「聖ヨゼフ」だった。
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この祭壇画は、なぜかばらばらに切り離されてしまって散逸しているのが、今回は、ロンドンとリスボンから借りられたので、そのうち2枚は揃った。
ロンドンのマグダラのマリアは、静謐な表情で読書に没頭している。その着衣のフェルトのような質感が堪らなく柔らかそうで、触れてみたくなる。

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老いたヨゼフの表情は、しわや白髪のリアルな描きかたで、年を刻んだ人間味にあふれている。マグダラのマリアの、気品があり磁器のようなつるりとした顔や手とは、好対照をなす。

大学時代は好きだった初期ネーデルランド絵画だが、ファン・デル・ウェイデンの絵を観るのは、とっても久しぶりだ。しかし、こういう地味な展覧会に果たして沢山人が観に来るのだろうか。
オープニングの日は多分、関係者と招待客のみだったろうから、昨日が実質上の初日で、係員もまだ慣れていない。TV局が2つ入っていて、解説やニュースを撮影していた。

オーディオ・ガイドでは、絵の説明の前後にルネッサンス音楽が流れる。それがぜんぜん特定できないのだが、とってもいい曲だった。

グランデラヴォワ(ルネッサンス音楽を演奏するベルギーの若いアンサンブル)のサイトで聴ける13世紀のブラバントの歌や15世紀のバンシュのジルの歌、16世紀のマグダラのマリアの曲が、雰囲気としては合うので、リンクを張る。視聴してみて欲しい。
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by didoregina | 2009-09-23 14:49 | 美術 | Comments(8)

吉原つなぎでパーティに

ピアノの師匠ペーターのご両親の結婚40周年パーティに招かれた。
一人っ子のペーターが全て密かに企画したもので、昼は親戚総勢20人ほどの昼食会、夜は80人招待してのコンサート兼パーティである。

昼食会は、サミットでよく使われるお城シャトー・シント・ゲルラッハで、ゴージャスなものだったようだ。夜の会場は、毎度おなじみ、ペーター主催のコンサート会場でわたしがピアノのレッスンも受けているライクハルト城だ。
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この時期は、暑くなったり寒くなったりで、着ていくものに悩む。当日は、夕方から日が照りだして妙に暑くなったので、浴衣を着物風に着ていくことにした。お酒やおつまみが出る立食パーティだから、絹の着物は避けたいところなので、丁度よかった。
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        吉原つなぎの浴衣にパープル系の博多献上帯。
        パーティの終わる頃には、衿がはだけてしまった。 


こういうパーティ(結婚何周年記念とか50歳の誕生パーティとか)では、まず入り口付近に祝われる側が立ち、招待客は、キスして挨拶しプレゼント(もしくはお金)を渡す。
オランダらしいというのか、ちゃっかりしているというのか、この15年くらいは、結婚式やこの手のパーティ招待状には、大抵の場合、封筒マークが印刷されているのが興を殺ぐ。封筒にお金を入れたものをプレゼントしてくださいと、アピールしているのだ。
ペーターからの招待状には、そんなはしたないマークは印刷してなかった。そうするとまた、プレゼントに悩むのである。ご両親には事前に何も知らせないサプライズ・パーティなので、ペーターに問い合わせると、「お金よりは、心のこもった物のほうがいい」とのことなので、オペラのDVDにした。彼ら一家はオペラ好きで、リエージュのオペラ座で20年くらい定期会員になっていたのだ。
しかし、当日、目にした限りでは、皆ほとんど封筒を手渡していた。うーむ、やはり、難しい。どうでもいいようなものをもらっても困るから、お金のほうが誰だってうれしいだろう。

お客は、そのままお城の玄関ホールで、飲み物を飲んでおしゃべりしながら全員集まるのを待つ。
招待客が全員揃ってから、ピアノのあるサロンに移り、コンサートが始まった。
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Schubert   Landler D790
A. Dietrich/Brahms/Schumann
FAE-Sonate
Kreisler Liebesleid, Liebesfreud
Liszt Reminiscences de Norma

最初のシューベルトと最後のリストは、母親Eが大好きな曲で、ピアノによる独奏。
真ん中の3曲はヴァイオリン・ソナタである。
ペーターと長くコンビを組んでいるヴァイオリニストのハンスが、登場。
これもご両親には秘密にしていた。
クライスラーの曲は、結婚40周年にふさわしいタイトルだ。


いつもコンサートでは、入り口のドア付近の補助席みたいなところに座っているご両親だが、今晩は主役だから、ピアノを真正面に見るいい位置が用意された。
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ほとんど普通のリサイタルの半分くらいの量のコンサートの後、一旦玄関ホールに出てまた飲んでるうちに、サロンからはピアノと椅子がのけられ、シャンペンとケーキの用意ができた。
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      いつもは殺風景な鏡の前や窓際にもフラワーアレンジメント。
      ペーターが密かにフロリストに頼んだものだ。
      ウエディング・ケーキはラズベリーとアーモンドで美味。

ここでようやく、乾杯して、その後は夜が更けるまで招待客同士歓談する。お酒はふんだんに振舞われるし、つまみもどんどん運ばれて来るし、自分でとって来てもいい。久しぶりに会う古い友や遠くから来た知人とのおしゃべりで、居心地がよかったので、わたしは招待客全員が帰ってから、ようやく御輿を上げた。

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          桐草履を脱いで、見せているところ。

吉原つなぎは、江戸っぽくていかにも母好みの模様だ。ちく仙(ちくは竹冠にニ)のだと思う。
去年、わたしのために誂えてくれたのだが、この柄を見て、一瞬ぎょっとした。日本では素人女性には、ちょっと着にくい。
もともと、吉原の引き手茶屋の暖簾に使われたという柄だから、粋な歌舞伎役者なんかが好む。
この柄の由来をガイジンに説明する時には、少し汗をかく。
旅館の浴衣なんかによくある白地に細かい柄とは、色も雰囲気も異なるので、この浴衣は着物として着るのが好きだ。

ビートルズ来日時に、飛行機から降りたとき着ていた半纏の模様も、吉原つなぎだったと、いせ辰のHPに書いてあった。
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by didoregina | 2009-09-07 15:09 | 着物 | Comments(6)

A Good Woman   究極のコスチュームもの

c0188818_1932283.jpgA Good Woman
2004年 監督:マイク・バーカー 
主演:ヘレン・ハント、スカーレット・ヨハンソン

この映画、邦題を「理想の女」というらしい。そして、「女」と書いて「ひと」と読ませる。
原作は、オスカー・ワイルドの「ウィンダミア卿夫人の扇」である。
映画につけた英語のタイトルも日本語のタイトルも、どうもイマイチ弱いなあ、と思う。
「ウィンダミア卿夫人の扇」のままでは、なぜいけないのか。

映画は、オスカー・ワイルドの原作をもとに、舞台を30年代のイタリア・アマルフィ地方に移し、主な登場人物はアメリカ人にして、「華麗なるギャツビー」みたいな、ゴージャスなヴァカンス・スタイルを見せてくれる。お金持ちのための風光明媚なリゾート地での、恋愛もしくは不倫もの、というコスチューム・ジャンルの真骨頂で、どのシーンもため息が出る美しさだ。
それが、このタイトルではなんだか軽すぎて、きちんとした文学作品に基づいたコスチュームものとしての出自の正しさが伝わらないと思うのだ。
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ミセス・アーリンをヘレン・ハントというのが、意外なキャスティングだが、エレガントな大人の女(理想の女)をなかなか上手く演じていて、感心してしまった。
金蔓を求めて、イギリス人のお金持ちがうじゃうじゃいるイタリアの避暑地にやって来た、道を踏み外した女、という役どころなのだが、カミッラ夫人みたいな服装といい、態度といい、ハマリきっている。
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その大人の女の手練手管に酔ってしまったウィンダミア卿の、若い妻がスカーレット・ヨハンソンだ。どうも、うぶで世間知らずの若妻を演じることが多い彼女である。

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ミセス・アーリンとウィンダミア卿との不倫関係は、避暑地での狭い社交界の格好の話題になるのだが、実は、込み入った別の関係がウラにあるので、ストーリー展開は、どうも新派の世界に近くなっていくのだった。
その意外な展開が、いかにもワイルド的で洒落ていて、わたしはとっても堪能できたのだが、我が家の男性陣の感想は、「こんなのありえない」とか「うそっぽすぎて鼻につく」とか「現実離れしてる」とかいうものであった。
彼らには、夢の世界に遊ぶ心の余裕がないので、そういった感想は無視した。

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      来年の夏には、こういう透ける素材の帽子を作ろう!

美しいコスチューム、特に帽子が沢山出てくるのに、わくわくさせられた。
当時は、昼の外出には必ず帽子を被ったのだ。TPOで次々を違うものを見せてくれる。
帽子フェチにとっては、垂涎のシーンばかりだ。帽子デザインのための、見本帳にしたくなる。
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by didoregina | 2009-09-04 13:30 | 映画 | Comments(0)

Musica Sacra   行きたいけど行けない

とってもマイナーだったり、好みのアーチストが出演するコンサートやオペラで、ぜひとも行きたいけど行けない!というのが、よくある。今回は、丁度日本への里帰りと重なるので、行きたくても行けないのだ。

Musica Sacraは、毎年9月のある週末、マーストリヒト中の大きな教会やチャペル、劇場その他の歴史的建物を会場として繰り広げられる、ミニ音楽祭である。
「聖なる音楽」という名前を掲げたフェスティヴァルだから、おのずと宗教色が濃いものであるが、「聖」という概念は、毎年、実に幅広く解釈されていて、決して抹香臭いものではない。
だから、必ず面白いメッケモノがあるのだ。

今年のわたしにとってのハイライトは以下のもの。両方とも9月19日(土)なので、行けない。。。

まず、ミレイユ・ドルンシュ(ソプラノ)とミシェル・ブロフ(ピアノ)によるリサイタルが、福音ルーテル教会で行われる。

c0188818_19161257.jpgフォーレ Le Chanson d'Eve
クレア・デルボス L'ame en bourgeon
メシアン Poemes pour Mi
という構成である。

フォーレが曲をつけたのは、フランドル象徴派詩人 Charles van Lenbergheによる10の詩で、イブの楽園最初の日を歌ったものだという。

Claire Delbosというのは、メシアンの最初の奥さんだった人で、メシアンの母の詩に彼女が曲をつけた。メシアンの母は妊娠中に、生まれる子供は男の子で作曲家になるだろうとの予感があったという。この曲は、多分オランダ初演になるらしい。

メシアンの曲のMiというのは、最初の妻クレアのニックネームで、これは、彼女との結婚を讃えた祝婚曲だそうだ。

ああ、書いてるだけで、どれも、とっても聴きたくなる。しかも、歌はミレイユ・ドルンシュでピアノ伴奏がミシェル・ブロフで、料金はたったの5ユーロである。
信じられない値段だが、例年このフェスティヴァルには補助金がかなり出るようで、いつもコンサート・チケット代は格安である。

そして、同じ晩に聖ヤン教会で、また気になる演目があるのだ。
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Camerata Trajectinaというグループによる、歌と器楽演奏とダンスとヴィデオと解説の合体したものらしい。
タイトルは「ヒエロニムス・ボスの7つの大罪」といい、プラドにあるボスの絵「7つの大罪」を題材に、オランダ人作家ヘリット・コムレイが詩を書き、しかも本人が舞台で解説もする。
その詩にボスの時代(1480年ごろ)の流行歌のメロディーを合わせた、音楽劇になるらしい。もちろん、珍しい楽器も登場するだろう。
この音楽劇も初演で、入場料は5ユーロだ。(なぜか、フェスティヴァルおよびカメラータ・トライェクティナのサイトとも、英語ページにはこの音楽劇のことが書いてない。オランダ語上演だから、オランダ語が分からない人は観にこなくてもいい、という訳なのか)

ボスの「7つの大罪」に関しては、詳しい説明のあるサイトのリンクを張る。
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by didoregina | 2009-09-03 12:17 | コンサート | Comments(4)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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