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マレーナ様 新譜発売 La Voix du Nord

マレーナ様のオフィシャル・サイトをのぞいたら、7月1日スェーデン国内で新譜発売のニュースが。
外国からも彼女のサイトから直接注文できます。2枚組みで169スウェーデン・クローネ+送料は、かなり良心的な価格設定ではないでしょうか。
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ただ、どうして、2枚組みなのかというと、オペラ・アリア11曲と新曲のポップスが11曲のカップリングになっているからです。レコーディングは、ウィーンで、「ダイドー」公演合間に行われた模様。
クラシックとポップス半々という構成に、今後追求していく音楽方向が確固と示されています。

まあ、今までのCDでも内容はごちゃ混ぜで、全てを聴かせます、という姿勢を見せてきたので、そう驚くには当らないのですが。
例えば、My LoveというCDは、ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」よりロジーナのアリア、ビゼー「カルメン」よりハバネラ、モーツァルト「フィガロの結婚」よりケルビーノのアリアと、ラヴェル、シューベルトの歌曲に、デューク・エリントンと北欧の作曲家の歌という組み合わせでした。

新譜のトラック・リストがまだないので、今回はどのオペラからアリアを取り上げているのか不明ですが、1曲はプッチーニ「ラ・ボエーム」から、ムゼッタのワルツ。なんとも、彼女らしい自信満々の選曲です。クリックすると試聴できます。
これに、「ダイドーのラメント」がカップリングされてたりするんでしょうか。それとも、「ポッペアの戴冠」や「アグリッピーナ」のネローネのアリアとか?
確実に入っているのは、「チェネレントラ」のアンジェリーナのアリアでしょう。


本日は、来シーズン、アムステルダムのDNOでの「ダイドー」チケット発売日です。
9月30日公演(2日目)の、平土間前から4列目右寄りの席をめでたくゲットしました!

「ダイドー」は1時間と短いオペラですが、強気のDNOは、ROHのように別のオペラとのダブル・ビルにはしないで一本立てです。そのかわり、一晩に2興行というすさまじさで、それなのに値段は普通の2幕や3幕のオペラとほとんど変わりません。

ラッキーだったのは、平日夜7時からの最初の回なら8時終演なので、電車で日帰りができること。だから、マチネ狙いにせずにすんだので、希望通りの席が確保できました。平日なので安いし。ちょっと右寄りなので、ウィリアム・クリスティーの頭が邪魔にはならないでしょう。
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by didoregina | 2009-06-29 12:10 | マレーナ・エルンマン | Comments(8)

Bospop 懐メロ・ロック・ポップ・フェスティヴァル

夏だから、野外コンサートが盛んだ。やはり、野外なら、ロック・コンサートが一番。

毎年7月はじめに行われる Bospopというのに、一度行ってみたいと思っている。
このフェスティバルは、40代、50代以上のオールド・ロック・ファンにターゲットを絞っているのが特徴で、毎年、よくもまあ、こんな懐かしの人々を集めたもんだ、と感心するラインナップである。

このフェスのことを知ったのは、5,6年前である。
長男の誕生日をスランバー・パーティにしたら、子供を送ってきた両親が、なんだかとってもうれしそうである。理由を問うと、「今晩、Weertの Bospopに行くからだ」と言う。なんでも、中年向けのロック・ポップ・フェスで、その年は、ディープ・パープルチープ・トリックが出るのが売りだ、と言う。

ディープ・パープルってまだ生きてたの?えええ、、、、イアン・ギランか、それとも今はロジャー・ウォータースなのか。そして、チープ・トリックって、、、と絶句してしまった。
70年代、下手すると60年代の伝説的バンドが老体に鞭打って、中年ファンのためにステージ登場とは、ぜひ一度は見なければならない、と思った。(さすがに、ディープ・パープルの伝説的箱根ライブや武道館ライブは、年齢的にナマ体験していないが、チープ・トリックの初来日コンサートには行った。これもライブLPになったので、ナマ体験したと言うとこちらでは結構威張れる。)

毎年、丁度、ヴァカンスに出かける時期に当るため、まだ1度も実現していない。
今年は、あんまり知らないバンドばっかりだが、その中で白眉はジェフ・ベックだ!
3大ギタリストとして、名を馳せた彼は、今まだ健在らしい。

去年のメンツを見ると、結構凄いものがあるのでコピペする。

Timetable Bospop 2008
 Friday 11th of July:
Dommelsch Mainstage
17.00   Open
18.00-19.00   Ryan Bingham & The Dead Horses
19.15-20.15   Everest
20.45-21.45   The Waterboys
22.30-00.30   Neil Young

Saturday 12th of July:
Dommelsch Mainstage
11.00    Open
11.45-12.30   Stevie Ann
13.00-14.00   The Bangles
14.30-15.30   Racoon
16.15-17.15   Steve Lukather
18.00-19.00   Crowded House

20.00-21.15   Hucknall : a tribute to Bobby ‘Blue’ Bland
22.15-00.15   Santana

Tentstage
12.15-13.00   Tantrum
13.45-14.30   The Jimmy Bowskill Band
15.15-16.15   Danny Bryant's RedEyeBand
17.00-18.00   The hand me downs
19.00-20.00   Mick Taylor & Barry McCabe
21.15-22.15   Buddy Guy

Sunday 13th of July:
Dommelsch Mainstage
11.00   Open
11.30-12.15   Leaf
12.45-13.45   Subway to Sally
14.30-15.30   Thin Lizzy
16.15-17.15   Danko Jones
18.00-19.00   Apocalyptica
19.45-20.45   Ted Nugent
21.30-22.30   Europe
23.15-00.45   ZZ Top

でも、こういう懐メロ・コンサートには、どんな格好で行ったらいいんだろう、と激しく悩みそうだ。
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by didoregina | 2009-06-25 10:06 | コンサート | Comments(10)

今週は凄いものが勢ぞろい、でも見れない

なんだか、今週後半は、オペラ、映画、芝居、コンサートの各ジャンルで観たいもの聴きたいものが揃い踏み、しかし、そのどれもが遠すぎて行けない、というわけで地団駄踏むしかない。

まず、映画「シェリ」が公開される。フランスの女流作家コレット原作で、ミシェル・ファイファー主演のコスチューム物。まあ、これは少し待てば、家の近くにもやってくるから、そんなにあわてなくてもいいようなものだが、誰かに先を越されたら悔しいかも。
高級娼婦レアが娼婦仲間の息子シュリに寄せる叶わぬ愛、というフランスの香りぷんぷんの洒落た物語だから、「危険な関係」の監督によって映画化されたと知ってびっくり、そして興味津々。

「シェリ」とも似たような話だが、先日観たオペラ「イポリートとアリシー」のタネ本、ラシーヌの「フェードル」がロンドンのナショナル・シアターで、ヘレン・ミレン主演で公演中だが、明日の晩、METのオペラみたいに世界中の映画館で中継される!
ヘレン・ミレンはTVシリーズ「プライム・サスペクト」でのかっこいい刑事役が好きだった。映画「クィーン」でのエリザベス女王役、昔見た「迷宮のヴェニス」の怖い役も印象に残っている、演技派女優だ。
オランダではアムステルダムの映画館1館のみでの生中継なので、見られない。

明日はまた、TVでホランド・ファスティヴァルの「カルメン」生中継もあるので、楽しみにしていた。ところが、長男のギリシャ旅行説明会が学校であるという。なんで、また、急に明日の晩に説明会があるのか、納得のいく説明が欲しいものである。これで、オペラの前半は見られない。

今週末の日曜日には、ピアノの発表会と、その後、友人の50歳バースデイ・パーティがある。
そうでなければ、家から程近いベルギーのお城で行われる古楽コンサートに行けたのに。中世・ルネッサンス音楽部門のエディソン賞を受賞したばかりの、グランデラヴォアのコンサートなのだ。
または、マチネでアムスのコンヘボで行われるヴィクトリア・ムロヴァのバッハ・コンサートに行きたかった。彼女はもともと好きなタイプのヴァイオリニストなのだが、最近バッハへのアプローチと演奏方法を変えたようで、気になる。

最も残念なのは、日本の新作オペラ初演(6月28日)を見逃すことだ。
倉橋由美子原作の「ポポイ」がオペラ化されて、なんと静岡で上演されるのである。
古楽系の歌手が歌うようだから、どんな具合になるのか知りたいし、なにより、倉橋由美子は、学生時代から現在に至るまでずっと好きな唯一の日本の作家なのだ。彼女の著作は多分全部読んでいると思う。
その彼女の作品のオペラ化初演なんて、千載一遇のチャンスだが、ここからは遠すぎて行けない。

運命の流れに掉さすわけにもいかないので、せめてどなたかのレビューを読みたいものだ。
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by didoregina | 2009-06-25 00:04 | Comments(2)

ラモーの「イポリートとアリシー」     トラジェディ・リリック

Nationale Reisoperaは、専用のフランチャイズ・ホールを持たないオペラ団なので、1シーズンに5,6のプロダクションで国中の市民会館などを巡業している。有名歌手などは揃えようがないが、新旧取り混ぜたなかなか意欲的なプログラムで、お値段もそこそこなので、近くで公演の機会があれば観に行くようにしている。

Rameau Hippolyte et Aricie @ Parkstadtheater Heerlen 2009年 6月 20日
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Muzikale leiding   Jed Wentz
Regie   Stephen Langridge  
Decor en kostuums   Alison Chitty
Licht   Chris Davey
Choreografie   Teck Voon Ng
Koor van de Nationale Reisopera
Musica ad Rhenum

Hippolyte   Paul Agnew
Aricie   Eugénie Warnier
Phèdre   Sophie Daneman
Thésée   Maarten Koningsberger
Pluton/Neptune   Frans Fiselier
Diane   Marie-Adeline Henry
Œnone   Machteld Baumans
Tisiphone   Richard Coxon
Les trois Parques   Ivo Posti
       Pascal Pittie
       Grzegorz Stachowiak

ラモーのバロック・オペラ(トラジェディ・リリック)ということと、主役がポール・アグニューということと、演奏がジェド・ウェンツ指揮ムジカ・アド・レーヌムということで期待が大きかった。だが、田舎の市民会館を一杯にできる集客力はなかった。めったに上演されないバロック・オペラだからこそ、機会があったら万難を排してでも観にいくべきなのに。バロック・オペラ鑑賞は一期一会。生きているうちにもう1度見られるなどどは思ってはいけないのである。

このトラジェディ・リリックはラモーが50歳を過ぎてから作った最初のオペラである。
ストーリーは、エウリピデス作のギリシャ悲劇から題材を採ったラシーヌの「フェードル」に基づいているらしい。
フェードルは、夫の留守に若い継子のイポリートに愛情を抱き、悶々と悩んだ末告白するも、拒絶された結果、悲劇に導いてしまう、というまるで愛欲の塊のような女だ。
下は、ラシーヌの悲劇のヒロインにふさわしい大女優、サラ・ベルナールがフェードルを演じた時の写真。
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オペラの筋も、テゼーとその子イポリート、その恋人アリシーとイポリートの継母フェードルの4つ巴で入り組んだ愛憎劇である。ラシーヌの悲劇ではフェードルが主役だが、オペラでは一応イポリートとアリシーがタイトルになっているし、主役のようだ。とはいえ、4人がいずれも主役といってよいほど重要な役である。

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最初に登場したのは、アテネの王女アリシー。
敵方の姫なので、手厚いとはいいがたい捕虜のような境遇に置かれている。



一幕目の冒頭では、アリシーの歌が延々と続くのだが、どうも歌手の声に精彩さも迫力にも欠ける。嘆きの風情もなく、これで主役か、とがっかり気味の幕開けであった。ちょっとヘンなフランス語の発音も気になった。

そこへ、イポリートも現れて、2重唱したりするのだが、清らかなだけで、どうもイマイチ盛り上がらない。ポール・アグニューは、棒立ちで受難曲かなんか歌ってるだけならよろしいが、オペラの舞台では表情変化に乏しく、体を使った感情表現も下手なので、まるで大根役者。いくら悲劇だからといっていつも深刻一点張りの悲しげな顔ばかりではだめだ。これもがっかり。

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フェードルが登場して、ようやくストーリー展開がスリリングになりそうだ。

彼女は小柄ながら存在感のある容姿で、悲劇の継母にぴったり。


声もリリカルでいてドラマティックな表現もできるので、説得力があり聞き惚れてしまう。
毒を含んだルックスに、声はあくまで清純というのが、役に非常にマッチしている。
しかし、この二人では、歌手の年齢が近すぎて、どうも悲劇的展開を予測できない。
ううむ、中年体型のポール・アグニューは、この役には老けすぎではないのか。

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地獄で責め苦にあうテゼーも、3人の地獄の使者も、冥界の王プルートも芸達者だし、歌も上手い。
やはり、バリトンやバスは役得だ。
声だけで存在感が出せるし印象付けやすい。

この辺から、ようやく盛り上がったが、ここまでで一幕なのであった。
これで一応、全員登場して役回りがわかったが、ここまでが長かった。
この調子では、3幕終わるのは12時過ぎるんじゃないかと、不安になった。





しかし、2幕目からは展開のテンポが速まり、一気に悲劇に登りつめる。
フェードルによる愛の告白と、真面目で清廉なイポリートの拒絶による諍い。
そこへ偶然冥界からもどったテゼーが二人を見咎め誤解する。フェードルはとっさに嘘をつき、護身を図る。嫉妬に目が曇ったテゼーは自分の息子を信用できないので、邪心からネプチューンにすがりつき、イポリートを亡き者にしてしまう。
それを嘆き悲しんだフェードルは、血族に脈々と受け継がれた実らない愛と、悲劇を招いたわが身を呪い、真実を告げて命を絶つ。
その後、なぜか、純潔を守ったがゆえに父親の呪いで殺されたイポリートは、純潔を好む女神ダイアナの加護と恩寵によって生き返る。
イポリートとアリシーは結ばれ、ハッピーエンド。

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2幕目からは、ダイアナが大活躍である。
ギリシア神話や悲劇に基づいたオペラでは、神様が登場するとにわかに舞台に迫力が加わるのが常で、歌手にしろ、いつもほーっと感心させられるから、旨い役だ。
このオペラでも、神々の意のままに運命を操られる人間の悲劇が主題だ。
色情狂という呪われた血を持つフェードルは、ビーナスの気まぐれに支配されている。
父と子の確執も実は、ネプチューンとダイアナのいらぬおせっかいのおかげである。


ところが、レイスオペラのサイトでオペラの背景を読むと、「啓蒙思想の申し子ラモーの出した答えはこうだ。神ではなく人間がおのれの行く道を選択するのだ」みたいなことが書いてあって、嘘だ、全然違うじゃないか、と叫びたくなった。
悲劇の種は全て神々が蒔いたもので、その結実を味わって楽しむのも神々の業であり、人間は翻弄されるから、悲劇が起こったのだ。

オーケストラは、Brilliantからバロック・オペラのCDをたくさん出しているジェド・ウェンツ指揮のムジカ・アド・レーヌムだと、1ヶ月前くらいに知って、偶然に驚いた。超マイナー・バロック・オペラとして紹介したジョン・ガリアードの「パンと・シュリンクス」も同じ指揮者とオケによるし、その後、ヨハネット・ゾマーが歌っているので買ったモーツアルトの「羊飼いの王様」もそうだったのだ。どのCDも、はっきりと主張の感じられる演奏で気に入った。
ナマで聴くオケも、小編成だが、メリハリがはっきりしていて好ましい。もっと、メジャーになってもよさそうなのに、レーベルのイメージが足を引っ張っているかもしれない。
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指揮者は、もともとバロック・フルート奏者なので、チェンバロなど通奏低音を担当するわけではなく、指揮に没頭しコーラスではいつもいっしょに歌いながら指揮をしていた。若々しく引っ張っていくタイプで、バロック指揮者としての彼ももう少し評価されていいと思う。
その彼の指揮棒だが、両端が白く胴体が黒い、写真で持っているフラウト・トラヴェルソを細身にしたような感じの、まさにバトンだった。そして、真ん中をぐっと握っている。穴が空いていたら絶対これは笛だ、と思い、目を凝らして見ていたがよく分からなかった。もともと笛吹きだから、手に馴染んだ笛を指揮棒にしてるんだろうか、それとも、バロック時代の歴史的指揮棒なのか。


6月というのは不安定な天候が続き、晴れると暑いが、雨だと寒い。丁度夏至の日であったが、午前中に用意した単衣の着物では夜は肌寒い。薄物の単衣の道行を羽織って行って丁度よかった。
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  竹の地紋の草色無地着物。
                           意匠化した竹の文字の手描き塩瀬帯


             着物でオペラ仲間のシンディさんと。
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by didoregina | 2009-06-22 14:38 | オペラ実演 | Comments(17)

TVの料理番組       BBCとCanvas

TVの料理番組を、ニュース同様、ほぼ毎晩見るのが我が家の習慣となっている。習慣だから、見ないと落ち着かないというだけのことだが。

オランダと並んでイギリスも、伝統的料理でも、どこに行っても美味しいものが乏しい国ということで名を馳せている。しかし、だからこそ、両国のTV料理番組の充実には目を見張る。逆説じみて聞こえるかもしれないが、某中東系女性料理研究家の言葉は正しい。「食べることに無関心だったおかげで、家庭料理で美味しいものが少なく、貧弱な食文化の国ほど、近年になって料理番組がやたら多くて、カリスマTVシェフが台頭している、というのは当然の帰結だ。」と。

TVから華々しく登場し、世界中に知れ渡ったイギリス人カリスマ・シェフは数多い。
従来の、人のいいお母さんタイプや有名レストランの太ったシェフといった、ありきたりのキャラクターのTVシェフにはもう出番はない。若くてヒップでキュートな男の子、エネルギッシュで放送禁止用語連発のど根性タイプ、インテリ文学青年上がり、ゴージャスでセクシーなセレブ・タイプ、人のいいカントリー青年など、イギリスからは個性的なメンツが次々と登場する。旧態依然としたドイツの料理番組と比べると、その新しさは一目瞭然である。

その中で、またもや新機軸を打ち出したのは去年の秋にシリーズ放映されたWhat to
eat now のValentine Warnerで、今月末からまたWhat to eat now, more pleaseとして続編が放送されるらしい。いつ始まるのか、毎日胸をどきどきさせながら新聞のTV欄に目を凝らしているほど、期待の大きい番組である。River Cottageの流れを汲むような、カントリー・ライフと料理を組み合わせた教養番組で、牧歌的かつほのぼのとしていながら、季節のまっとうな材料を使った正しい食というものを教えてくれる。
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              田舎で農家育ちのヴァレンタイン・ワーナー


しかし、ベルギーの料理番組もイギリスに負けてはいない。
ベルギーという国は、オランダ人から見ると不思議な国で、ベルギー人をネタにしたジョークには事欠かない。しかし、美食という点では人後に落ちず、フランスにも負けない。レストランの当たり外れがほとんどなく、外食が楽しい国である。(イギリス、オランダは外食が怖い国だ。)

去年と今年放送され、大いに国威を発揚、もしくは国家的議論を呼び起こした番組に
Plat prefereというシリーズがあった。
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                    再放送して~

男性料理研究家兼プレゼンテーターJeroen Meusが、亡くなった有名人の足跡を訪ね、故人ゆかりの人のために故人のお気に入り料理を作る、というものだ。
ロアルド・ダールのイギリスにあるカントリー・ハウスを訪ねて、そこの菜園で採れた野菜で未亡人のために料理を作ったり、マリア・カラスの友人でヴェネツィアに住む伯爵夫人のために、イタリア各地を自分でまわって最高級の食材を手に入れ、運河に面した館で心を込めてリゾットを作ったり、ベルギーの国民的シャンショニエ、ジャック・ブレルの娘さんのためにベルギー家庭料理を作ったり。フレディー・マーキュリーの回は、よんどころない理由で見逃してしまった。再放送して欲しい番組である。
議論を呼んだというのは、ヒットラーをテーマにした回があり、予告編で視聴者からの非難が大きすぎ、結局放映されなかった、というもの。

火曜日から、ベルギーのCanvasからまた新しい番組が始まった。Tournee Generaleという10回シリーズで、ベルギー・ビールを訪ねる旅番組である。ベルギーには300種以上のビールがあるといい、小さな個性的な醸造所が掃いて捨てるほどあるから、ビール談義には事欠かない。
ビールをテーマにした番組というと20年位前にMichael Jachson のBeer Hunterというのがあった。マイケル・ジャクソンというよりマイケル・ムーアみたいな体型のおじさんが 、世界のビールを探す旅で、Hi, I'm Michael Jacksonと自己紹介して相手を煙に巻くのが楽しかった。

この新しいTournee Generaleでは、ベルギー人とイギリス人のプレゼンテーターが組んで旅するのが売りだ。だから二人の会話やインタビューは英語で、外国への売込みを狙っていそうな番組である。
そのイギリス人の声と顔に覚えがある。誰だろ、誰だろと考えているうちに、思い当たった。
Ray Cokesといって、今は白髪の多いおっさんだが、昔80年代にMTVでポップス番組の司会をしていた。当時、ペット・ショップ・ボーイズに熱中していたわたしは、毎日MTV他のポップス番組を見ては、リクエスト葉書を出したりしていたのだ。
レイの声は当時と全然変わっていない。そして、彼らがトラピスト修道院を訪問すると、元警察官で15年前に修道院に入ったというビール醸造主任の修道僧が、「昔はMTVをよく見てましたから、あなたを知ってます」と言っていたので、わたしも同好の士を見つけたようでうれしかった。

80年代というと、イギリス・ポップス界は、あるプロデューサーに牛耳られていた。カイリー・ミノーグ、リック・ウェストリー、ソニア、ジェイソン・ドノヴァンなどなど、誰が歌っても似たように聞えるヒット曲を作り出す小室哲哉みたいな人がいた。Pete Watermanである。

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               マスターシェフの審査員

その彼が、昨晩BBCの Celebrity Master Chefに登場した。素人料理愛好家のオーディション番組マスターシェフのセレブ版である。素人版同様、スタジオで用意された材料で料理を作ったり、有名レストランで1日修行したりして、ふるい落されていく。
まず、スタジオに用意された材料で2皿料理を作る、という段階でピートは、とんでもないことをしてくれた。OBEとして叙勲されているので女王陛下との晩餐会も経験しているし、毎日のように1流レストランで食事していると言う彼だが、自分で料理することはめったにないというのは、言わなくてもわかった。
普通2皿といえば、前菜と主菜または主菜とデザートを作るものだが、彼はマッシュドポテトを一皿と勘定し、メイン料理は魚のソテーとサラダ菜の一皿。審査員は、目を点にしながらも、真剣にいいところも見つけては批評していた。受け狙いではない、真面目に取り組んだ結果である。
このことからも、イギリスの食文化の底の浅さが割れた。
とはいえ、ピートはプロの厨房での一日修行では健闘していたから、その翌日作った料理の進歩には目を見張らされた。彼が2回戦進出成らなかったのを家族一同残念に思った。
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by didoregina | 2009-06-19 12:33 | 料理 | Comments(6)

リエージュのポール・デルヴォー展   De demain a Delvaux

リエージュに3月新装オープンしたLe Grand Curtiusという博物館と美術館の複合施設で、今月終わりまで、ポール・デルヴォーの展覧会が開かれている。行こう行こうと思いつつ、今日ようやく期日ぎりぎりで見に行って来た。

クルティウス館というマースランド・ルネッサンスの貴族の館を中心に、いくつかの建物と複数の中庭からなる旧市街の一角がそのまま全てミュージアムとして使われている。

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              ご一緒してくれたバービーさんとK子さん。

中に入ってみて驚いたのは、時代も様式も異なるそれらの建物が複雑な迷路のようにつながり、リエージュの郷土史のならず、エジプトからはファラオの棺など、リエージュ近郊のヴァル・サン・ランベールの有名なガラスを中心に世界各国古代から現代までのガラス器、近辺の教会から持ってきたキリストやマリア像、祭壇画や聖遺物入れ、はたまた、ベルギーの作曲家イザーイの書斎、などなど、7000年の多岐にわたるあらゆる(美術)品々が陳列されているのだった。
全部じっくり見るには、丸1日はかかるだろう。

ポール・デルヴォーは、19世紀末に生まれ20世紀末に96歳で亡くなった、長寿の画家である。
作風から、なんとなく20世紀前半に活躍したようなイメージを持っていたが、いかにもデルヴォーらしい絵が見られるようになるのは、戦後の50年代以降であった。

デルヴォーの絵というと思い出す、少女のような贅肉のないすらりとしたヌードの金髪の女性は、永遠のミューズである二度目の妻がモデルであるらしい。
また、若い頃から鉄道に異常な関心を持っていたので、生涯を通じて彼の絵にはほぼいつも、駅と電車・汽車・路面電車・トンネルなどのモチーフが描き込まれている。
鉄道マニアぶりは相当なもので、フェチシズムと言っていいほどの駅と汽車の克明な描写にはっきり現れている。

そして、夜の停車場に後ろ向きの少女が一人で立っていたり、駅の中に裸の女性が寝そべっていたりと非現実的なので、シュールリアリストとひとくくりにされがちである。幻想的な彼の絵を見て「シュールだ」と思わない人はいないだろう。しかし、シュールリアリズムとは思想的に一線を画すことを表明している本人に敬意を表して、リアリズムとは正反対と言う意味で、わたしはidealism(理想主義的)な絵と呼びたい。

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          「鉄の時代」と名づけられた絵は、鉄道フェチの面目躍如。

展示されている絵がどれも結構大きいのは、意外であった。人物など、等身大に近い。画集やクッキーの缶などのグッズに印刷されている絵でしか見たことがなかったから、そのギャップに驚いた。

一番気に入った絵は、「森の駅」である。
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アンリ・ルソーのジャングルを思わせる素朴な樹形や木の葉からなる森の中にある駅と、行き先のない汽車、というのは、好きで好きでたまらない理想の愛玩物だが、現実には無用の長物、を象徴している。
ここにも、ミステリアスな後ろ向きの少女が描かれている。
そして、この絵の木々は、丁度今頃、夏至の時期の、暮れたのかどうかわからないような真夜中の我が家の庭そっくりなのである。

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この夜の風景に似合う音楽は何だろうと考えた。
ベルギーの作曲家には、デルヴォーの雰囲気と一致する作品が思い浮かばない。

2年ほど前、暗い旋律と霧のような和声が魅力で、次々と弾きたくなって止まらなくなったスクリャービンのプレリュードがぴったりだ、と思い当たった。その中で、特に夜の雰囲気なのは、これだ。



スクリャービンのピアノ曲にある軽い毒のような、魔法のような味わいは、北国の夏の暮れかかった空を見る時にわたしが感じる、いとしさを伴う寂寥感に近いのだ。
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by didoregina | 2009-06-18 00:38 | 美術 | Comments(2)

Musica Temprana               超レア・超マイナー・バロック・シリーズその3

超レアとか超マイナーという形容詞を用いるには、重々注意が必要であることは承知の上である。バロック音楽で、面白いのに人口に膾炙していないものをシリーズ化して紹介していこうと決めたが、単にわたしの無知を露呈する場合もあると思う。しかし、今回のも看板に偽りはない、正真正銘レア物であるはずだ。少なくともヨーロッパでは最初の録音・初演作品である。

Musica Tempranaというのは、スペインおよびラテン・アメリカの知られざるバロック音楽を発掘して演奏しているアンサンブルで、アルゼンチンとオランダのハーフであるAdrian Rodriguez van der Spoelを中心とする若さ溢れる演奏家達だ。アドリアン・ロドリゲス・ファン・デル・スプルは、バロック・ギターなどを担当し、曲によって異なるアンサンブル編成は4人から8人。

去年の夏ごろリリースされた Avecillas Sonoras Villancicos from 18th century Latin AmericaというCDには、ラテン・アメリカのリマ、メキシコ・シティー、スクレ、クスコーなどの大寺院の古文書館や図書館で見つけた、18世紀はじめの音楽が納められている。主に二重唱で歌われる宗教曲だが、自由闊達で、いかにも南米音楽らしいアフリカ風リズムが、からっと乾いた空気を感じさせる。



ちょっとチェチリア・バルトリ似のメゾ・ソプラノ、Xenia Meijer(クセニア・メイヤー)は、10年ほど前、オランダ・オペラ界期待の新人としてデビューしたのをよく覚えている。モーツアルトのダ・ポンテ三部作やハイドンの「月の世界」などに出演していたが、最近は歌劇場の舞台よりは教会で出会うことが多い。Al Ayre Espanolとの共演も多く、いつの間にか、(スペイン)バロック専門になっているようである。
自分に適した分野が見つかったようで、ご同慶。しかも、新発見率がかなり高いジャンルだから、開拓精神がそそられるようで、これはハマッたらちょっと止められないだろう。

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アンサンブルのリーダー、ファン・デル・スプルによると、一般的に18世紀初期のスペインおよびラテン・アメリカの音楽は、同時期のイタリア音楽に比べて、和声にしろ、対位法にしろかなり保守的だが、彼らが選んで録音したものは、その傾向から少し外れるらしい。基本的にはインディオをキリスト教化するための音楽だったため、歌詞に重きを置く。歌詞を主とすると、旋律もリズムも従の関係である。そして、音楽は非常に内省的だという。メリスマによる強調なしで、感情表現を行い、感動を高めるのが特徴であるらしい。

イタリアの音楽、例えばモンテヴェルディでは、情熱は外に発散されるのに対して、スペイン音楽では、情熱は内に秘められる。発露を失ったかのように、内部で拡散していくのである。

スピノザの言葉、「激情というのは、我々がそこからそれにふさわしい理念を作り出すとき、激情たることを止める」というのは、逆説的だが、スペインとイタリアの違いを見聞きすると納得できる。イタリアの理知的で明るい文化と比べて、スペインのは暗い激情のままであり、それがまた魅力でもある。

Musica Tempra の4月にリリースされた最新CD、 Iyai Jesuchristoは、彼らが発掘した1780年頃のラテン・アメリカの音楽で、土臭さがぷんぷんとして、不思議な明暗に彩られた味わい深いものだ。
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6月4日にラジオ4で放送されたライブが、ラジオ局の「サン・ルーム・コンサート」として録画されて、全部見ると1時間とちと長いが、彼らの音楽の楽しさがよく伝わってくるので、リンクを張る。
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by didoregina | 2009-06-15 14:16 | バロック | Comments(9)

エディソン・クラシック・ガラでのサプライズ

エディソン・クラシックの授賞式を兼ねたガラ・コンサートの模様が、昨晩、デン・ハーグのリダーザールより生中継された。
PJ様は、授賞式には欠席との情報をいただいたが、インタビューくらいは流すんじゃないかと期待していた。

アレクサンドル・タローとジャン=ギエン・クエイラスのコンビは、授賞式には出席しなかったが、ナイメヘンで行われたコンサートに出向いた司会者が、エディソン像を手渡すという映像が流された。
それに比べて、PJ様は、全くお姿を現さなかったばかりか、授賞式兼ガラでは、なぜか名前すら告げられなかった。出席した人だけ脚光を浴びる格好になったのが不思議だ。

そのなかで、のけぞるほどの驚きは、全く賞には関係なく、ノミネートさえされなかった、ダニエル・デ・ニーゼがゲストとして登場し、ステージで歌ったことだ。リリース予定のモーツアルトのアリア集から、「コジ」のデスピーナのアリアを例の調子で、全くわたし好みではない大仰な声で歌ってくれた。誇張した表情の大写しになるとまるでドナルド・ダックみたいで、コケットでもキュートでもない。
(以下の映像は、2006年アムスのDNOでのもの)



彼女は、8月22日のプリンセン運河コンサートにも登場するとの予告であった。アムステルダムの夏の風物詩ともいえ、また、来るべきシーズンの開幕を告げる水上コンサートで、毎年TV放映される。
今回のダニエルちゃんゲスト出演もプリンセン運河コンサート出演も、AVROと組んだ新CDのプロモーションであることは、あからさまなほど明白である。
こちらは憮然とするか、訝るしかない。彼女のエディソン・ガラ出演はまさに、What a nice surprise!であった。

そのほかで登場したのは、ベルギーのGraindelavoixで、こちらは、しっかり中世・ルネッサンス音楽部門での受賞である。「ブラバントのアンリの歌」など、どこかアラブ風な旋律でなかなか雅趣がある。リダーザールのゴシックのバラ窓をバックに、彼らが演奏し歌うのを聴くと、気分は正しく中世、である。

リスナー賞は、ラルフ・ルソーというオランダ人ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者とマタンギ弦楽四重奏団による「シャンソン・ダムール」に決定した。ラルフ・ルソーは、金髪で長い巻き毛の、ギルランダイオ描く天使のようなルックスで、正統派古楽というよりはポップスとのフュージョンで新たなファン層開拓を目論んでいるような、軽いノリの音楽であった。
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特別賞の生涯功労賞はボザール・トリオに授与されたので、初代ピアニストのメナヘム・プレイスラーが駆けつけてショパンとドビュッシーを弾いてくれた。高齢ながら、渋み・枯れた味など微塵もなくて、清冽な音に驚かされた。
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by didoregina | 2009-06-12 17:04 | コンサート | Comments(8)

古楽フェスティヴァル2種

8月の終わりから9月にかけて、毎年恒例の古楽フェスティヴァルがユトレヒトで開かれる。
(Brilliantから出ているバロック・オペラのライブ録音は、このフェスティヴァル関連のものが多い。)
今年のテーマは、「イギリスに渡った3人のドイツ人」ということで、なんと、ハイドン、ヘンデル、メンデルスゾーンに加えてパーセルのプログラムが組まれている。

プログラムをご覧いただくとお分かりのように、1週間ほど朝から晩まで、ユトレヒト市内のいくつかの教会やホールで古楽演奏が繰り広げられる。効率よく選んで聴くには、ユトレヒトの地理を熟知して会場の場所および音響を把握しているなど、かなりの熟練を必要とする。
ちょっと遠いから、毎日通うわけには行かないので、日帰りができる日曜日に行くつもりだ。残りは涙を呑んで諦める。

その8月28日は、まず、11時半から、なんと、フランス・ブリュッヘンと一緒のブランチで始まる。パネル・トークみたいなものになるようだ。お昼代金は15ユーロである。
そのあと、15時からEnsemble Inegal (Adam Viktora指揮)というチェコのアンサンブルによる、パーセルの歌曲とチェコのガンバ奏者であり作曲家のGottfried Fingerのソナタ、というプログラム。15ユーロ。
17時からは、お待ちかね、ブリュッヘン指揮18世紀オケとオランダ室内合唱団によるハイドンの「十字架上の7つの言葉」。時間的にもこれが日帰り日程ではぎりぎり。夜のプログラムは無理だ。25ユーロ。
20時からは、ダニエル・ロイス指揮ベルリン古楽アカデミーとカペラ・アムステルダムによるオペラ「サウル」もあるのに!

昼間で、日帰りで行けそうなのは、
8月31日の、ピエルロ指揮リチェルカール・コンソートのハイドン、バッハというプログラム。17時からで15ユーロ。
9月2日にコントラスト・アンモニコという、オランダの新しいバロック・アンサンブルによるヘンデルのイタリア・カンタータのコンサートもある。例の、ヘンデル・イタリア・カンタータ全曲録音に挑んでいるアンサンブルである。ソリストは、ステファニー・トゥルー(S)。13時からだから、行けないこともない。18ユーロ。


9月13日には、家からさほど遠くないベルギーのハスペンガウという果樹地帯にあるお城で、「ハイドンの日」と称するものが開催される。ハイドン没後200年当日に合わせたお祭である。
この日も朝から晩までハイドン尽くしだ。クイケン3兄弟、リチェルカール・コンソートのほか、コンバッティメント・コンソート・アムステルダム、アンサンブル・オクサリスなどが入れ替わり立ち代り全部で5つのコンサートを行う。コンサートは、ばら売りで1つ12ユーロ、全部なら45ユーロ、+ランチで65ユーロ。
お城でのコンサートとランチ、夜は中庭での野外コンサート、というのが魅力的だが、その時期は丁度日本に里帰り中なのが、残念。
でも、家から近いベルギーでの古楽コンサートを調べたら、来シーズンも、垂涎ものプログラムが結構多いことが判明したので、お楽しみはまだまだある。その件は、長くなるのでまた別の機会に。
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by didoregina | 2009-06-11 12:16 | バロック | Comments(4)

Adam in Ballingschap @ Stadsschouwburg Amsterdam      楽園追放

2009年6月7日 世界初演 於ホランド・フェスティヴァル
Adam in Ballingschap door Rob van Zuidam
c0188818_22522782.jpgmuzikale leiding   Reinbert de Leeuw
regie   Guy Cassiers
video   Arjen Klerkx
kostuums   Tim van Steenbergen

Adam   Thomas Oliemans
Eva   Claron McFadden
Belial   Jeroen de Vaal
Asmode   Roger Smeets
Lucifer   Huub Claessens
Gabriël   Lenneke Ruiten
Rafaël   Maarten Engeltjes
Michaël   Helena Rasker
Uriël   Harry Peeters
Rey van wachtengelen   Vocaal ensemble
orkest   Radio Kamer Filharmonie

今年もホランド・フェスティヴァルには、意欲的な新作や初演が多い。ネーデルランド・オペラの芸術監督であるピエール・オーディが、フェスティヴァル監督も兼ねているせいか、観たいな、と思わせるオペラが多いのが特徴だ。アムステルダムらしいチョイスで、おなじみのものは「カルメン」以外一つもない。

それで、2週続けて、アムステルダムまで出かけた。フェスティヴァルのための新作オペラ「アダムの楽園追放」鑑賞のためである。
新作オペラの世界初演に接することができるというのは、観客として幸運なだけでなく、出演者にとっても光栄なことだと思う。観客としては、新作を積極的に観にいくことで、今後のオペラ振興の一端を担うことになり、また、最初の診断を下すという歴史的責任を負うのだ。緊張に身がぞくぞくする、と言っても大げさではない。なにより、期待感が普通よりずっと大きい。

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Adam in Ballingschap という、17世紀オランダの文豪ファンデルの同タイトル文芸作品に基づいたオペラで、非常に珍しいことに、オランダ語で歌われている。作詞も行った作曲家のザウダムは、フォンデル作品のエッセンスを損なわないように、4分の1程度まで短縮し、あえてオランダ語のままで作曲した。
世界的興行を目指すなら、オランダ語のオペラというのは相当なハンディキャップを負うことになると思う。しかし、自国語の詞にメロディーを付けるという作業は、他にもいくつかオペラを作った彼にとって思いがけない経験だったようだ。頭で考えなくても自然にメロディーが浮かんでくる、というのか、非常にスムーズに作曲できたのが新鮮だったと言う。

フォンデルの名前は、普通のオランダ人にとって、セントラル・パークかハイド・パークのような市民の憩いの公園、フォンデル・パークの名の基になっているという程度でしか知られていないと思う。もう一人の文豪PCホーフトと並んで、高校で必読の古典作品を書いてはいるが、実際に読んでいる人は少ないはずだ。実は、オペラ鑑賞の前に原作を読んでやろうと一念発起したが、なかなか手に入りづらいというか、ポケット版になっているわけではないので、あまりに値段が高いので買うのをあきらめた。(オランダ語の本は、読む人口が少ないため、一般的に高額である。英語のポケットの方が安かったりする。)
だから、オランダ語の(新作)オペラが(少)ないのも肯ける。非インターナショナルな言語だからだ。

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モネ劇場でも意欲的に新作オペラを上演しているが、今年の新作は、川端康成の「眠れる美女」を原作とする英語版だし、数年前のマレーナ様主演のオペラ「ジュリー」はドイツ語だ。「ティエスト」もオランダ人作曲家によるものだったが、フランス語のオペラだった。だいたい、オランダ語圏ベルギー人であるメーテルリンク(「青い鳥」や「ペレアスとメリザンド」)でさえ、作品はフランス語で書いていたくらいだから。

また、オランダ語の響きは音楽的ではない、というのも衆目の一致するところであろう。たしかに、オランダ語で歌われる流行歌には聴くに耐えないものが多い。さて、クラシックではどうであろうか。
結論から言うと、オランダ語で歌われたこの新作オペラは、美しかった。歌詞の詩的な美しさと音楽が非常によく調和していたからで、耳障りな感じがないのだった。これは、作曲家の技量に負うところが大きい。歌詞をよくよく吟味して練りに練った旋律には、現代音楽にありがちな不協和音が少なく、耳当たりがまろやかで、ミュージカルのようにメロディアスでさえあったのだ。

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楽園に住むアダムとイブは、結婚式を間近に控え、幸せ一杯。天使も愛の勝利を歌い、二人を祝福している。しかし、幸福は長くは続かないものだ。結婚式に招かれなかったことをひがんだ堕天使(悪魔)は、まるで「眠り姫」の魔女のように悪巧みを画策する。イブに禁断の木の実を食べさせようとするのだ。

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                 イブとベリアル

(知的)好奇心を押さえきれないイブは、ベリアル(蛇)の甘言に乗って、禁断の木の実を食べ、その結果、様々な意識に目覚める。このオペラの主人公は、自我の目覚めと自己解放の喜びを知ったイブである。タイトルは「アダムの楽園追放」だが、アダムの影は薄い。というより、彼を保守的で優等生というキャラクターにすることで、知的で革新的なイブとの対比がはっきり出ている。
ラジオや新聞のインタビューで、作曲家ザウダムも、女性が主人公であるほうがオペラは面白い、と断言している。

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最後には、ウリエル(神)の怒りを買い、二人は楽園を追放されて、日々の不安に脅かされることになる。タイトルからは、その後の二人の苦難の物語のような印象を受けるが、追放による別の物語の始まりを予感させるオープンな結末である。
不安に怯えるのは同じでも、イブは確信犯だったのだから、共犯者にされただけのアダムよりは強い。見かけは可憐だが芯は強い、現代的な女性としてのイブを見せるオペラであった。

歌手は、皆、上手い。声量があり、堂々たるものである。イブ以外では特に、悪魔と堕天使が迫力満点であった。ベリアル役は、見ることができなかった、幻のオランダ最古のオペラ「グラニダ」に主役の羊飼い役で出た、イェルン・デ・ファールである。彼の声は初めて聴いたが、気持ちのいいテノールだ。
また、オランダの新進カウンター・テナー、マールテン・エンゲルチュスが、天使の一人として出るのに注目していた。エンゲルチュスという名前は「小さな天使たち」という意味で、歌声は天使的だが、体はでかいのが不釣合いだが、ウィリアム・クリスティー主催の新人歌手育成講座にも選ばれて参加しているし、今後に期待できる。
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          左端がラファエル役のエンゲルチュス

コーラスの天使たちの歌には、オランダ名物の木靴を打楽器としてリズムに使うのが、面白かった。ディズニーランドの「イッツ・ア・スモール・ワールド」で、オランダの人形達が踊っているような木靴ダンスが、笑いを誘うものではなく、ちゃんとした音楽の一部になっているのには感心した。
そんな風に、この作曲家の才能には端倪すべからざるものがある。オランダ語ながら、インターナショナルになりうる、期待を上回る高水準のオペラだった。
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by didoregina | 2009-06-09 17:49 | オペラ実演 | Comments(4)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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