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Bakkhai ベン・ウィショー主演の『バッコスの信女たち』

ロンドンのアルメイダ劇場でエウリピデス作、アン・カーソン版のBakkhai、即ち
『バッコスの信女たち』を鑑賞した。
c0188818_18275695.jpgBakkhai by Euripides @ Almeida Theatre
2015年9月15日

Bertie Carvel
Amiera Darwish
Aruhan Galieva
Eugenia Georgieva
Kaisa Hammarlund
Kevin Harvey
Helen Hobson
Hazel Holder
Melanie La Barrie
Elinor Lawless
Catherine May
Belinda Sykes
Ben Whishaw

Version Anne Carson
Direction James Macdonald
Design Antony McDonald
Composition Orlando Gough
Light Peter Mumford
Sound Paul Arditti
Choreography Jonathan Burrows
and Gillie Kleiman
Musical Direction
Lindy Tennent-Brown
Casting Anne McNulty CDG
Assistant Direction Jessica Edwards
Costume Supervision Ilona Karas

ロンドンの劇場でギリシア悲劇を鑑賞するのは、昨年11月のオールドヴィック座での
クリスティン・スコット=トマス主演の『エレクトラ』に次いで二度目だ。
今回のアルメイダ劇場は、劇場がひしめくウェストエンドからは離れたキングズクロス駅
北に位置しているのだが、その辺り、近年急速に開発が進んだようで、なかなかトレンディ
な繁華街になっているのに驚いた。
そして平日の公演であるが満席の盛況で、観客層はクラシックコンサートやオペラに比べ
非常に若いのも驚きである。ベン・ウィショー効果もあろうが、頼もしいことである。
(ロンドンの劇場での驚きはまだほかにもあって、コンサートホールや歌劇場と大きく異なる
のは写真撮影厳禁というのがかなり徹底していて、係員が目を光らせ、始まる前の舞台や客席
での撮影もカメラを取り出しただけで注意される。しかし、会場への飲み物持ち込みは当たり
前のようで、売店で売っているビールやソフトドリンク片手に皆さん観劇するのだ。)

c0188818_18432649.jpg


ベン・ウィショーは、イギリスの若手俳優の中では一番の贔屓で、表情での巧みな演技・
感情表現力が抜群で、ハリウッド映画に出るアメリカ人俳優などとは一線を画している。
英国の映画俳優には多いのだが、きちんと演劇学校で訓練を受けているから、映画出演の
かたわら舞台に立つのも安心して鑑賞できる実力を持つ。
彼がバッコス役を舞台で演じると知ったのは、開幕したばかりの7月下旬で、新聞評を
たまたま読み、これは!と急いで予約サイトに飛んだのだが、チケット購入しようと色々
記入しているうちにどんどん席が埋まっていき、希望の日時はなかなか取れないのだった。
彼の生舞台を一度見てみたいと長いこと思っていたので、贔屓のコンサートを振って、ベン・
ウィショーの方を選んだ。ギリシャ悲劇、しかもエウリピデスの『バッコスの信女たち』と
きては、バッコスの信女を自任している私としては見逃すわけにはいかない。

c0188818_191714.png

さて、アン・カーソンによる新訳英語版のこの作品では、人間の姿で地上に降り立った
バッコス=ベンの朗々たるセリフ回しにまず安堵した。劇場は小規模で奥行きもあまりない
から大声で発声する必要はないが、聞き取りやすいゆったりとしたテンポというのがいかに
もギリシア悲劇の基礎を弁えていて、うれしくなった。現代的な衣装と現代英語であっても、
大時代的な発声・発音で古典の美しさを損ねない。
(素人芝居のギリシア悲劇を鑑賞すると、セリフがやたらと速くて、悲劇に浸れないことが
しばしばなのだ)

スリムでしなやかな体から発せられるとは思えないほど堂々とした声で、しかし、彼の得意
なある種狡そうな表情と、両性的なシナを作る所作とが、見事に現代のバッコスを体現して
いるのに思わず快哉を叫びたくなった。なるほど、こういうスーパースター的なバッコスに
女たちが我を忘れて熱狂するのは非常に納得できる。

c0188818_19205234.png


バッコスの信女たち、即ちギリシャ悲劇に欠かせないコロスたちだが、セリフの半分以上が
現代的に作曲された歌になっていて踊りもあるし、ちょっとミュージカル風演出で悪くない。
コロスの斉唱のようなセリフを聴くと、ああ、ギリシャ悲劇だなあ、という感慨をもつもの
だが、バッコスの信女たちである彼女らならば踊り歌うのが本領なのだから、ア・カペラで
歌わせるというのはギリシア劇の本来の姿に適ったものとも言える。

バッコスの信女たち=コロスは全員女性で、それ以外の登場人物は男優3人が演じ、入れ
替わり立ち代わりに衣装とメイクを変えて出てくる。その早変わりの妙。
ベンはバッコス、テーバイの盲目の老人、そして使者の役であった。それぞれ全く異なる
キャラクターであるため、声色も変えている。セクシーかつ狡賢く、人間を試すバッコス、
人間の老人そして若者それぞれの役柄を熱演したのだが、使者の役だけはおどおどと顔を
下に向け袖で顔を覆ったりしてセリフを言うので、聞き取りにくいのが残念であった。
しかし、彼の魅力の一つである、頼りなくイノセントで思わず抱きしめたくなるキャラは
ここに発揮されていた。

c0188818_19511944.jpg


新興宗教の教祖さながらのバッコスを捕らえるも、信女たちを取り締まるためには虎穴に入
らずんば虎児を得ずとバッコスからそそのかされ、女装して信女たちの狂騒の集いを覗きに
行ったテーバイの王ペンテウス(カドモスの孫でアガウエの子)だが、その母アガウエは狂乱
の果て真実を見る目を失い、わが子をライオンと思い込み狩りの獲物として仕留め八つ裂き
にして首を杖に刺して凱旋する幕が、悲劇の絶頂だ。
そのペンテウスとアガウエの両方の役を女装して演じる男優Bertie Carvelがなかなか上手い。
陶酔と覚醒そして悔悟が怒涛のように続けて押し寄せるさまを演じて圧巻。


中学二年の時『アンティゴネ』を舞台で見たのがギリシア悲劇との出会いで、それ以来、
蜷川幸雄演出『王女メディア』などの芝居や文学やオペラなど様々な形で身近にあるのだが、
こうして久しぶりに生舞台で役者によって演じられるのを鑑賞するのは、純粋に楽しい。
これからのロンドン遠征には観劇も加えようと決めたのだった。
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by didoregina | 2015-09-23 19:58 | 演劇 | Comments(6)


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