Ariodante @ DNO  サラ様『アリオダンテ』は「小間使いの日記」風

サラ・コノリーが題名役、ポリネッソ役にソニア・プリーナ、そしてダリンダ役がサンドリーヌ・
ピオーというトリプルSが揃い踏みの期待の舞台『アリオダンテ』@DNO千秋楽公演を鑑賞
した。このプロダクションは、エクサンプロヴァンス音楽祭との共同制作で、かの地では2年前
のフェスティヴァルで上演され賛否両論かしましかった。全編がYTにアップされているが、
わたしは敢えてアムステルダムでの実演鑑賞までサラ様の歌う場面を除いては見ないように
して、ほぼ白紙の状態で臨んだ。

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2016年2月3日 De Nationale Opera & Ballet in Amsterdam
Muzikale leiding Andrea Marcon
Regie Richard Jones
Decor en kostuums Ultz
Licht Mimi Jordan Sherin
Choreografie Lucy Burge
Regie poppenspel Finn Caldwell
Ontwerp poppen Nick Barnes en Finn Caldwell
Orkest Concerto Köln
Koor van De Nationale Opera i.s.m. jonge zangers in het kader van De Nationale
Opera «talent»
Instudering Ching-Lien Wu

Re di Scozia Luca Tittoto
Ariodante Sarah Connolly
Ginevra Anett Fritsch
Lurcanio Andrew Tortise
Polinesso Sonia Prina
Dalinda Sandrine Piau
Odoardo Christopher Diffey
Poppenspelers Sam Clark, Kate Colebrook, Louise Kempton, Shaun McKee

舞台は、いかにもリチャード・ジョーンズ好みの例のあれ。と言うだけではピンとこないという
向きのために補足すると、質素な内装の家の天井・屋根と客席に向いた正面の壁一面を取り
払った造りで、下手から玄関、キッチン、ダイニングルーム、ジネーブラの部屋と一列に続き、
その中でホームドラマが演じられるという仕掛けである。
原作ではスコットランド王家の権力争いと愛憎が交錯するドラマだが、時代設定はインテリアや
衣装から察するに前世期後半あたりで、王家は寒村の人々の支持と忠心を受ける有力者の家系
もしくは因習に縛られた素封家に置き換えられていて、違和感はない。
登場人物には高貴な家柄らしき人はいず、アリオダンテは漁師、ポリネッソは牧師、ダリンダは
王女に仕える侍女ではなく、小間使いという趣。

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スコットランド辺境の寒風吹きすさぶ小さな漁村では、牧師の持つ権力・影響力には想像を絶
するものがあることは徐々に明らかにされるのだが、序曲の間、牧師ポリネッソが説教を行い、
聴こえないその言葉が字幕に出てくるという点にもまず強調されている。
そして、神の威光で人々を目くらましにして自らの欲望のおもむくまま、悪事を働くのである。
そのポリネッソ役のソニア・プリーナの演技の上手さ。憎まれ役ながら、役得とも言えるのだが
この村を裏から支配しているのは、村長(王)ではなく、因習・妄信を利用したポリネッソなのだ
ということを体現している。
彼女は小柄ながら、ヘアメイクと衣装と態度とドスの利いた低音の独特の声で、嫌な男ポリネッ
ソを堂々と好演。ただ、今回は、どうも声があまり飛ばず、難しい低音域でのアジリタの切れが
イマイチだったのだけが、残念だった。

そのポリネッソに横恋慕されるイノセントそのもののジネーブラ役は、アネット・フリッチュ。彼女の
実演は初めて聴くのだが、特に秀でた個性はないものの無難にこの役を務めた。牧師に凌辱され
無実の罪を着せられ、精神的に不安定になり、だれからも理解されずに墜ちて行くという、哀れを
極めるこのジネーブラは若い女性の存在がいかに簡単に悪漢の餌食となりうるかという弱者その
ものの存在を示すのだが、最後のシーンでは、弄ばれるだけだった弱い女が自らの意志を持って
家を出る強い決意の表れという風にも受け取られる。

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ジネーブラと相思相愛のアリオダンテは、若いためか人生経験が足りず、ちょっとした諫言を信じて
ジネーブラから去り、絶望のあまり自ら海に飛び込む。最初から最後まで一貫して弱々しい男という
難しい設定で、それをサラ様はどう演じて歌うのか、これがまず第一の見どころ・聴きどころである。
この辺りが予想以上に説得力あるドラマになっている演出の力、ジョーンズの目の付け所にまず
脱帽した。北欧映画のようにリアリスティックかつシリアスな芝居構成になっていて、それを粘っこ
いまでにスローテンポの音楽でこれでもかと悲劇性を上塗りしていくのである。
だから、アリオダンテの絶望の歌Scherza Infidaは、なんと13分にも及ぶ。前奏からしてもう
ヴァイオリンの演奏もタメを効かせた演歌調。これ以上スローにしたら歌えないのではないか、と
危ぶむほどのテンポをマルコンは破綻させずに最後まで持っていくのだった。演出に合致した演奏
とテンポであるが、マニエリスティックになるぎりぎりの線だ。
サラ様は、顔面蒼白でしかも呆然自失という態で、しかし歌い方は比較的淡々としていた。今まで
サラ様の歌うこのアリアは実演を2回聴いているのだが、今回のは非常に異質というか異常性を
前面にだしたものだった。
あまりに悠揚迫らずくどいほど粘液質の演奏であったためか、途中でフライング拍手が、多分若い
観客から起きてしまったほど。しかし、緊張感はそのまま二度の休憩を経ても続いたのだった。

このシリアスなホームドラマの最初から最後まで舞台にほぼ出ずっぱなしなのが、ダリンダである。
サンドリーヌ・ピオーのあっさりした存在感ある演技と、それに反して情熱ほとばしる歌唱とが全編
を引き締める。「あなたがジネーブラ役ではないのが残念」と丁度一年前『アルチーナ』に主演
した時、サイン会でピオーに言ったのだが、「いえ、歌は比較的少ないけど、重要な役で大変
なのよ」とか何とかの返事だったように思う。
小間使いの屈折した心理、クルクルとネズミのように健気に働き、主に尽くさなければならない
立場をわきまえてはいるものの、愛と人並みの幸せを得たいという儚い望みと裏腹の、主人に対
するジェラシーと意地悪な気持ちが抑えてはいても出てくる。そういう人物設定のダリンダ=ピオー
が、このプロダクションでは光る。

人形劇を挿入して、アリオダンテとジネーブラの未来(夢と現実)を予言し表現するという手法も
絶品。
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ありえねえ、と切って捨てられるような展開や場面がなく、悲劇が淡々と北海の荒い波のように
押し寄せ緊張感のあるドラマなのだが、最後にポリネッソが倒され悪事を告白、正義は勝つという
展開になった時はそれまでの流れに比較してご都合主義に感じられたのか、客席から笑いが出た。

Dopo Notteは通常、暗い夜の闇が去ったという歓喜のアリアなのだが、このプロダクションでは
手放しで喜べないエンディングになっているため、サラ様の歌にも感情はごくごく抑えられていた。
この歌でば~っと一気にカタルシスという具合には行かないのが残念だが、さすがサラ様、微妙
な状況と心情を、絶妙に歌っている。コンサート形式であったら、ここで一気に最高潮に登りつめ
るのだがなあ、とファンとしてはほんのちょっぴり心残りだが、それを望んではいけないのであった。

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by didoregina | 2016-02-06 20:13 | オペラ実演 | Comments(0)


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