Dunedin Consort & Iestyn Davies @ Bruges Bach, sin & forgiveness

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23 January 2016 @ Concertgebouw Brugge

Johann Christoph Bach (1642-1703)
Ach daß ich wassers gnug hätte, motet

Johann Sebastian Bach (1685-1750)
Brandenburgs Concerto nr. 6, BWV1051

Widerstehe doch der Sünde, BWV54

- pauze-

Dieterich Buxtehude (ca.1637-1707)
Muß der Tod denn auch entbinden, Klag-Lied, BuxWV76/2

Johann Sebastian Bach (1685-1750)
Vioolconcerto in a, BWV1041

Vergnügte Ruh, beliebte Seelenlust, BWV170

Dunedin Consort: ensemble
Iestyn Davies: countertenor
Cecilia Bernardini: viool
John Butt: klavecimbel & leiding


バッハ・アカデミー・ブルージュ2016というミニ・フェステヴァルで、イエスティン・デイヴィスが
バッハ(親子)とブクステフーデを歌うコンサートである。これは何があっても聞き逃すことは
許されない。しかしながら、ブルージュというのは遠い。日帰りは不可能だ。それで一泊
旅行を兼ねて聴きに行った。

彼のレパートリーとしては、現代作曲家によるカウンターテナーのための曲やオペラ、パー
セル、ダウランド等のイギリス人作曲家によるリュート・ソング、ヘンデルのオペラとオラトリオ、
そしてバッハの宗教曲があり、そのいずれも魅力的なのだが彼の歌うバッハをこよなく愛する。
そして意外にも、受難曲やオラトリオはたまたミサ曲などを除いては、バッハのソロCDは出し
ていない。そしてリサイタルでバッハを歌うことはあまりないから生で聴くチャンスも少ないのだ。
(1昨年、ウィグモア・ホールで今回と似たプログラムのコンサートを聴いているが、昨年5月
のバッハ・コンサートは病気のためオックスフォードもロンドンも直前に降板した。)

と言うわけで、いかに私がこのコンサートを待ち望んでいたのかがお分かりいただけようと思う。
そして実際、コンサートで彼の歌声を聴いてみて、古楽のメッカともいえるベルギーでのバッハ・
ミニ・フェステヴァルでバッハを歌うことに、イエスティン君自身がかなり力を入れて臨んだという
ことがよくわかった。

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まず、最初のヨハン・クリスチャン・バッハ作曲のAch daß ich wassers gnug hätteから
渾身の歌声である。この曲はラメントすなわち嘆きの歌であり、胸の中に埋火のように燻る
塗炭の苦しみを甘い悲哀の吐息と共に吐き出す、という表現を期待したのだが、なんと、
今回は甘さを排して実に力強い歌唱なのに驚いた。一昨年のウィグモアで聴いたときとは異な
るアプローチである。言うなれば、辛苦の闇を突き抜けた後の己の姿を客観的に突き放して
眺めているかのようで、甘いメロディーを歌いつつ、悲しみの世界に酔っていないのである。

ドゥネディン・コンソートによる器楽演奏ブランデンブルク協奏曲第六番は、特にアダージョの
部分がよく歌って聴かせる演奏である。

父バッハ作曲のWiderstehe doch der Sündeをイエスティン君が歌うのは何度か聴いている。
今回は甘さを全く排除した男性的な直球型歌唱でドーンと来た。自信に満ち溢れた堂々たる
態度と声である。イギリス以外で歌う時には、緊張で顔面蒼白・表情がこわばっていることが
多いように見受けられるのだが、それは遠征試合に出場しているわけだから当然である。
他流試合に挑む侍みたいな気迫が漲っている。

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ブルージュのホール、コンセルトヘボウは90年代に建ったと思しい、古都には不釣り合いな
ほどモダンで大きなしかし赤レンガを縦のアクセントにした外観の美しい建物である。
そして、ほどよい大きさのホール内部の音響も悪くない。驚いたのは、そのサーヴィスのよさ。
4日間に渡るバッハ・アカデミー・ブルージュ2016のプログラム・ブックは小型ながら無料で、
全曲目の説明も載っているし、別紙に原語と対訳歌詞が付いてくるし、しかもステージ上には
字幕も出るのだった。
特にレチタティーボ部分の訳を字幕で読みながら聴くことができるのはとてもありがたい。

ブクステフーデの嘆きの歌をイエスティン君の歌唱で聴くのは初めてだと思う。
典雅な彩のこの曲は、しかし哀しみの淵に沈む自らを叱咤するような厳しい内容の歌詞を持ち、
やはり男性的なことこの上ない。力強い男声で歌われるとぴったりである。
今回、イエスティン君はどの曲でもメッサ・デ・ヴォーチェを多用している。そして、高音で終わ
るフレーズはピアニッシモにしたり、表現の仕方がサラ様の歌唱を思わせる部分があった。
それでいて、聴かせる部分では声を遠くまで飛ばす。カウンターテナーには珍しく豊かな声量を
誇りホール全体に響かせることも得意な彼であるから、低音も高音も自由自在にフォルテに
しても、全く無理を感じさせない。

このコンサートでのハイライトは、最後のVergnügte Ruh, beliebte Seelenlustだ。
アリア3部とレチタティーボ2部が交互に組み合わさり、華やかな高音を効かせた美しいオルガ
ン伴奏とで盛り上がる。歌とオルガンとの丁々発止とした掛け合いが実に楽しい。
彼のレチには弁士のような熱と勢いがこもり、まるで教会で説教を聴いている気分になる。
牧師のごとき、はたまたバッハの受難曲の福音史家のような粛々とした威厳に満ちているのだ。
めくるめくような音楽の波が、力強く押し寄せては引いていく。最後まで安定して、テクニック
には全く不満の残らない歌唱だった。

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一週間後に、日本での初のソロ・コンサートを武蔵野、名古屋、鵠沼で行うイエスティン君。
相棒トマス・ダンフォードの伴奏でしみじみとしたリュート・ソングを歌うプログラムは、パワフル
なバッハとは対照的で、彼の魅力の別の一面を見せ聴かせることになるだろう。
日本ツアーに同行できないのは悔しいが、コンサートの成功を祈ってやまない。
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by didoregina | 2016-01-27 03:21 | イエスティン・デイヴィス | Comments(2)
Commented by sarai at 2016-02-08 01:32 x
レイネさん、saraiです。

レイネさんには成り代われませんが、配偶者と本日、鵠沼のイェスティン君のリサイタルに行ってきました。心に沁みる歌声を堪能しました。定員60名の小さな会場でかぶりつきで聴かせてもらいました。詳細はブログに書いています。次はザルツブルグのアデスの新作オペラでイェスティン君を聴きます。
Commented by レイネ at 2016-02-08 04:04 x
saraiさま、ご無沙汰してました。イエスティン君のサロン・コンサートを被りつき席で、わたしに成り代わって聴いてくださり、ありがとうございます!彼らの各地でのコンサートもマスタークラスも大盛況だった様子をSNSで追いながら、感無量です。ようやく、日本の方々も彼の生の歌唱を聴く機会ができ、力強くかつしみじみとした表現の美しさが皆さんの心を捕らえたということがわかる熱狂的な反応で。
わたしも、この夏はザルツブルク・デビューできそうです!(しかも一生無縁と思っていたバイロイトと組み合わせて。)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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