MusicAeternaのコンサート@ロッテルダム

2016年最初のコンサートは、自分が出演の所属合唱団恒例ニューイヤーコンサートだった。
聴衆として行った最初のコンサートは、わが合唱団が練習場として用いニューイヤーコンサート
も行なったセレブルダースカペルでのクリス(すなわちクリスティアン・ベザイデンホウト!)の
フォルテピアノによるベートーベン・プログラムではなく、同日わざわざロッテルダムまで出かけ
たテオドール・クレンツィス指揮ムジカ・エテルナ(ソリストはパトリシア・コパチンスカヤ)である。
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2016年1月13日@De Doelen

Biber - Battalia a 10 (‘Sonata di marche’)
Mozart - Symfonie nr.25
Mozart - Vioolconcert nr.5
Beethoven - Symfonie nr.5

MusicAeterna, Perm o.l.v. Teodor Currentzis - dirigent
m.m.v. Patricia Kopatchinskaja viool
Anthony Romaniuk clavecimbel

このコンサートは「バロック、その前後」というシリーズ・アボの一環であり、コンサート前の
レクチャーは、コンバッティメント(コンバッティメント・アムステルダム改め)のメンバー5人に
よる生演奏とチェンバロ奏者ピーター・ディルクセンによる解説という、内容も盛り沢山で素晴
らしい「前座」付きなのだった。すなわち、バロック最盛期からギャラントそして古典派への
流れを、バッハとその息子達および同時代の作曲家達(ビーバー、ゴルトベルク、C.Ph.E.
バッハ、テレマン、ブレシャネッロ、W.Fr.バッハ)の作品を生演奏で聴かせ対比しつつ論じ
るというもので、大変豪華かつ実に有意義な時間を堪能した。

さて、本日のメインイヴェントであるムジカ・エテルナのコンサートに関して、一つ重大な問題が
実は存在していて、私を悩ませたのであるが、その問題とは、一体、終演時間は何時になる
のだということである。コンサートホールからは「終演後、指揮者とソリストのサイン会があり
ます」というとても重要なお知らせが届いたが、終演時間は謎のままであった。
なにしろ、上記のプログラムは見ての通り「バロック、古典派、ロマン派」と盛り沢山であり、
クレンツィス指揮の演奏を一度でも聴いたことがある人ならわかっていただけると思うが、伸縮
自在・奇奇怪怪の演奏になることは必至なので、終演時間がまるきり読めないのだ。しかるに、
ロッテルダムからマーストリヒト方面への最終電車は22時48分発である。いざとなったら、
ベートーベンの『運命』はパスしようという気持ちで臨んだのだった。

まず、ムジカ・エテルナというロシアの古楽団体の生演奏を聴くのは今回が初めてである。
昨夏のルール・トリエンナーレでの『ラインの黄金』および11月のドルトムントでのダ・ポンテ
三部作の実演を聴き逃したのは痛恨の極みである。いずれもギリシャ旅行および日本里帰りと
重なったため。
モーツァルトでの編成では10、8、6くらいに見えたから、古楽オケとしてはかなり大きい部類に
入る。(舞台に近い席だったのと、チェロ、コントラバス奏者以外は全員立っての演奏だったため、
正確な人数がよくわからなかった)
当日変更になった演奏の順番は、ビーバー、モーツァルト、ベートーベンという時代を追っての
順当なものだった。しかるに、室内楽的小編成のビーバーの『バッタリア』では、クレンツィスの
指揮なしでコンマスがオケメンを纏めて楽しく自由闊達な演奏を繰り広げ、その晩のコンサートの
序章とした。
しかし、途中でなぜかソプラノのような声が舞台下手控えの間から聴こえ、わたしは訝しんだの
だが、そこからジブシー・ダンサーのような小グループが踊りながら舞台後方に出てきて、手拍子・
足拍子で賑やかに上手に通り抜けて行くという、ちょっとラルペッジャータのコンサートを思わせる
ような次第になった。
その後、モーツァルトの交響曲とヴァイオリン協奏曲になって、そのジプシー軍団の謎が解けた。
指揮者とソリストを含む、小編成のビーバーには参加していなかったミュージシャンたちが歌い
踊っていたのだった。

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クレンツィス(略してクレさん)の指揮の実演は、5,6年前にケルンで見ている。これは、
「見る」という表現をどうしても使いたくなるほど視覚的サプライズに満ちたものであった。
ピチピチのピタパンにアンクルブーツで踊り跳ね、耳の下で切り揃えたワンレンの髪を揺さぶり
ながらの大熱演の指揮であったのだ。(彼の髪形はそれ以後様々に変化していて、衣装も
ゴシックだったりするが)今回多分ロッテルダム初登場だろうから、そのケルンの時とほぼ同じ
なりとアクションの彼を初めて見る聴衆は、最初唖然、その後は隣の人と顔を見合わせるという
反応を一様に示した。
なにしろ、指揮台は置いてなく、直径二メートルの半円の空間が指揮者のために空けてあり、
そこで舞台として(そこだけでなく、後方のホルンに指示を出すときには、ホルン奏者に近寄って
行った)ワルツのごとく踊ったりフェンシングのトゥシェのごとく突っ込んだり行進のごとく足音高く
拍子を取ったり、自由自在のダンスに近い動きの指揮姿なのである。(足音で拍子を取るために、
靴は編み上げのアンクル・ブーツで、靴紐は赤。)
私の座席はケルンでもロッテルダムでも3列目中央で指揮者の至近かつ真後ろ。今回、私の前
の列には楽器を習っていると思しい中高生が5人座っていたのだが、目を丸くしていた。
そして、クレンツィスは聴衆の目を剥かせるのみならず、耳も体も驚かす演奏を展開するのだった。

音の強弱の幅が尋常ではないほど広い。弱音に強いピリオド楽器の特性をよくよく生かして、
聴衆の耳をそばだたせるようなデリケートなピアニッシモで高速演奏を繰り広げるかと思えば、
大編成の長所を生かして一気呵成に爆音へと昇り詰める。そしてリズムと言えば、もう楽譜には
小節の区切りがないかのよう。テンポの伸び縮みの仕方が、はたしてこれで許されるのかという
程なのはCD等で聴いて先刻承知であるが、それでも実演に接すると、これがモーツァルトの
Vコン5番?これがベートーベンの『運命』?と疑問符が頭を横切るのはいたし方あるまい。

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クレさんの手足の一部と化しているかのようなムジカ・エテルナの楽員たちが繰り広げの自由
闊達な演奏はまあ合点が行く。テンポやリズムがハチャメチャなのによくまあ破たんなく器楽
アンサンブルがまとまっているものだと感心するほどだが、クレさんの的確な指示に従えばいい
のだろう。
しかるに、ソリストというのは別物だから、クレサンと音楽的傾向・趣味を同じくしていないと辛
かろう。ケルメス姐、マレーナ様、プロハスカちゃんなど、いかにもいかにも癖の強いエキセン
トリックな歌手となら馬が合うのはわかる。
今回のソリスト、コパチンスカヤ嬢を聴くのは初めてであったが、彼女こそクレさんの追及する
方向と音楽的にも同じくする貴重なヴァイオリニストであることがわかった。
黒の半袖Tシャツに赤のグラデーションのフワフワのオーガンジーのスカートを押さえるため木の
枝を格子に編んだような硬い枠のようなものを上から着けている。そして裸足。
彼女とオケ、チェンバロ奏者および指揮者との遣り取りはまるでモダンジャズの奏者のような
あ・うんの呼吸のような間が感じられ、特にカデンツァはジャズのインプロビゼーションそのもの。
観客への媚びは全く見せず、いっそすがすがしいほどふてぶてしさすら感じさせる演奏はあっぱれ、
堂に入ったもので、自分の求める音楽世界を作り出しているのに感心した。
そういう自由な音が際限なく入るし、テンポは凹凸のある鏡に映ってデフォルメされたイメージ
さながらグロテスクなほど伸び縮みするし、船酔いしそうなルバートになったかと思うと、ジェット
コースターのように急下降したり、まあ忙しいことこの上ない。眠気に襲われることは絶対にないし、
思索にふけることも許されない。聴く者は退屈になったり自分だけの世界に閉じこもることも拒否
されるのだ。

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休憩後、10時ジャストに『運命』の演奏が始まった。指揮者は舞台後方下手からさっと現れ
るや、風のように素早い歩きを止めることなくそのまま演奏に突入。急・緩・急・急だから、
速い演奏なら33分くらい、でもクレさんの緩はどれほどゆっくりになるかわからないから、もしか
して40分近い演奏になるやもしれぬ。時間が読めないのが心配であったが、ホールから駅ホーム
まで歩いて8分見ておけばいいからギリギリ終電には間に合うだろう、と肝を据えた。
出だしのテンポが疾風の如くだったので、途中でこっそり時計を見たらアンダンテ終了も10時
15分。そのままイケイケ~と祈るのも不要なほど、緊張と高速は途切れず、ベトベンらしい
ねちっこくしつこい最後のテーマの繰り返しもするすると通り抜け、大団円が終了し、拍手とスタ
オベが始まった時間は、30分を切っていた。
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by didoregina | 2016-01-16 02:37 | コンサート | Comments(0)


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プロフィール

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別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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