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CERAMIX @ Bonnefanten Museum

マーストリヒトのボネファンテン美術館では、5、6年に一度、企画も質も申し分なく興味深い
展覧会が開催される。(地方の美術館としては、財政的にその頻度での実現が限界らしい。)
2015年10月16日から2016年1月31日まで開催中のCERAMIXは、企画・展示方法・内容の
いずれをとっても、今までにないほどの意気込みが漲った素晴らしいものだ。(2年前に館長が
変わって以来、特に新感覚と息吹が感じられる。)

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「ロダンからシュッテまで」と副題の付けられた今回の展覧会は、セーブルの国立陶器博物館
およびパリのメゾン・ルージュとの共同企画というのがミソで、オペラならばさしずめ複数の
歌劇場の費用折半によるコープロのようなもので、専門分野に強い博物館の実力やコネ、その
道のエクスパートによるキュレーションの実力が束になったおかげで実現できた。
20世紀および21世紀の作家110人の作品計250点が世界中の美・博物館や個人コレクションから
集められ、来年はセーブルとパリでも巡回展示される。

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まずは、ロダン作の『バルザック』の頭が目に飛び込む。用いる素材がブロンズではなく陶器
であるから、物理的力強さに欠けるのではという恐れは、ここで吹っ飛ぶ。焼き物につきもの
壊れやすいという弱点から来る脆さの印象は皆無である。モデルと作り手双方のパワーが相乗
している結果と言える。

最初の方の展示は、ピカソ、レジェ、マティスといった、20世紀初期の作家(画家)による作品
で、アプローチに古臭さが感じられるのは、水差しや花瓶や入れ物という実用にも重きが傾い
ているためだろうか。あっと驚くような意匠も少ない。所謂、画家が絵を描く合間の手慰みに
土を捻ってみました、という域からあまり出ていない。

それが、次々と別の展示室に入るたび、コンセプト別に集められた現代作品が現れ、思わず
にやりと笑みが漏れたり、感嘆のため息をついたり、新発見にも暇がなく、楽しくなってくる。
創作物が自由に息をついているような、伸びやかさが出てくるからだ。

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Chiaro di luna (Moonlight) 1932-32, Arturo Martini (1889 - 1947)

この『月光』というかなり大きな作品(等身大に近い)の、バルコニーから身を乗り出して月の
光を浴びている恍惚の乙女たちを観ていると、ドビュッシーの『月の光』が聞こえてくるよう。

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今回の展覧会での目玉の一つは、ジェシカ・ハリソンによるパロディ心一杯の女性像たちだ。
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展覧会の告知やポスターにも使われているPainted Ladyやその他のリャードロ風フィギュリン
の実際に見るとびっくりするほど小さな磁器人物は、よく見るとデコルテ部分に船乗りが好む
刺青を施していたり、切り口も生々しい断頭の頭を自分で持っていたり、すまし顔でポーズを
取りながら一筋縄ではいかない女性像たちなのだ。

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Predictive Dream XLIII (2013), Katsuyo Aoki (1972 -)

女性ならではの繊細な指先と驚異的なディテール感覚から作り出されたのだろうなと、思わず
勘違いしてしまいそうなほど、女性作家の緻密な作品に目が釘付けになった。
鬼とも竜の頭とも見えるこの作品は、均衡のとれたシンメトリーと波立つカールの細かさとで
なる美の結晶だ。

また別の気に入った作品も女性作家によるもので、セルビア出身の彼女は日本で焼き物の勉強
をしたという。こちらは額に入れた絵画のような一見平面的な作品だが、ひび割れのような
細部の線を構成するのが手で綯ったひも状の粘土から作り出されていることが近づいて見ると
わかり、驚嘆する。
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Analysis and inplementation of the global game plan (2012), Ljubica Jocic-Knezevic (1973 - )


そういった細密な作品と対応するように、展示室の床や壁を大胆に使ったインスタレーション
作品もある。
壊れた破片のような形を繰り返し作り、それが全体を構成してさわやかな風が吹き渡るような
印象になっている。

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壁に掛けられているのは、It's the Wind (1985), Piet Stockmans (1940 - )


陶磁器と言うと実用の美、というものを想像しがちである私の狭い知識と古い感覚に
ガツンと鉄槌が下されたような、小気味よい快感を得る展覧会である。
by didoregina | 2015-10-30 18:30 | 美術


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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