3 x Bach, 3 x Magnificat in Antwerp

ジョナサン・コーエン率いるArcangeloとソリストによる、バッハ父子3人3種の『マニ
フィカト』コンサート@アントワープのレポ。
3x17、3x Bach, 3x Magnificat @deSingel 2015年9月24日

Magnificat a 4 in C, E22 Johann Christian Bach
Magnificat in D, BWV243 Johann Sebastian Bach
Magnificat in D, Wq215 (H772) Carl Philipp Emanuel Bach

この組み合わせのコンサートはありそうでいてなかなかないので興味を持ち、目をつけていた。
バッハ・マニア向けかもしれない。とにかく、チケット発売日を心待ちにして最前列中央席を
ゲットした。

bass Thomas Bauer
tenor Thomas Walker
soprano Olivia Vermeulen , Joélle Harvey
countertenor Iestyn Davies
musical director Jonathan Cohen
music performance Koor & Orkest Arcangelo

演目以外にもソリストも気になる。贔屓歌手は言わずもがな、メゾ・ソプラノのオリヴィア・
ファームーレンちゃんは前々から一度生の声を聴いてみたい歌手だったのだ。

演奏順は、1760年ヨハン・クリスチャン・バッハ作曲、1733年ヨハン・ゼバスチャン作曲、
休憩後に1749年カール・フィリップ・エマヌエル作曲作品であった。

最初の曲は、3作品の中では一番時代的に新しく、またとても短い。1750年の父バッハの死を
一応バロック期終焉の年とするならば、それから10年後に作曲されたこの『マニフィカト』
には、すでにギャラントを経て古典派への移行が端的に感じられる。
特にわたしの耳を今回の演奏で欹てたのはソプラノ歌手ジョエル・ハーヴェイによる歌唱で、
微妙なうねりのようなヴィヴラートがかなり入っており、お、と思わされた。トランペットの
響きが最初から祝祭的なイメージを醸し出し、それに続くソプラノの声の明るい色あいかつ
いかにもギャラントという雰囲気のオペラチックな歌唱と相まって、バロックとは一味異なる
曲であることを否応なく示す。(そして、その後の大バッハでは、いかにもバッハらしい歌い
方で明瞭に対比を示していた。)
期待のオリヴィアちゃんのいかにもメゾらしいまろやかな声にも最初の一声から魅せられた。

あっという間に終わり序曲のような味わいの後に続く二曲目は、時代を遡って、大バッハ
作品だ。1723年に最初に作曲された最初の『マニフィカト』BWV243aを10年後に改訂
したBWV243が当夜の演奏曲である。
この曲は、なんとコンチェルト・コペンハーゲンにイエスティン君がソリストとして参加した
コンサートを6年前にエイントホーフェンで聴いている、ということを数年後に知ったという
いわくつき。その時のブログ記事を読み返すと、ソリストには印象に残る歌手がいなかったと
バッサリと切り捨てていて名前すら書いていない。それがイエスティン君の歌を生で聴いた
初めてのコンサートであったのに、知らないとはなんとも恐ろしや。というわけで、罪滅ぼし
の意味合いも込めて、今回改めてじっくり聴くつもりであった。
アルトのソリストが歌うのはたった3曲であるが、その中でソロで聴かせてくれるEsurientes
implevit bonisが白眉であろう。最初のソプラノ・アリアEt exsultavit spiritus meusと
呼応するかのような曲調のこの曲は、シンプルな木管の助奏と相まって、樹間から光差し込む
森の小路を小鳥のさえずりを道連れに歩くかのような清澄さと清々しい空気が感じられる。
思わず、大きく息を吸い込み、歌を胸いっぱいに取り込みたくなる。イエスティン君らしい
丁寧な発音で一言一言明瞭に説き聴かすかのように歌われると、その清浄効果は倍加する。

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休憩後は、また、時代が下り、長男カール・フィリップ・エマヌエル作曲の『マニフィカ
ト』。ダイナミックな華々しさ溢れるこの曲を最後に持ってくるのはプログラム構成上、
当然のことといえる。
しかし、なんとアルトが歌うのは2曲のみ。しかもそのうちイエスティン君が歌ったのは
ソロ1曲だけだから、彼君目当てで行くとかなりコスパが悪いかもしれないが、わたしには
オリヴィアちゃんという別の楽しみもあったのだ。Deposuit potentes de sedeは彼女と
テノール歌手とのデュエット。
オランダ人らしくすらりと長身で、今回はディーヴァ風なパープルの後ろにスリットが長く
入ったボディコン・ドレス姿の彼女は、聴衆の目も耳も逸らさない華がある。また、その
スタイルのよさから、ズボン役はさぞかし映えるだろうなと思わせる。声は、私の好みの
タイプのメゾで強いて言うならば、マレーナ様に近い感じ。若手で実力もルックスも兼ね
備えている彼女の今後には期待できる。ぜひオペラ舞台で見て・聴いてみたい。

この『マニフィカト』は、なんだかヘンデルのオラトリオを聴いているような気になる。
メロディーにもどこかところどころ聞き覚えのあるような、懐かしさがこみあげてくるので
あった。
ここでのアルト・ソロSuscepit Israel puerum suumは、私的にはこのコンサートのハイ
ライト。バスもテノールもソプラノも、ドラマチックで迫力ある歌唱を聞かせはくれたが、
切々と胸に響くのは耳になじんだイエスティン君の声だ。彼が歌うバッハをヘンデルのオペ
ラやオラトリオと同じかそれ以上に好きだと、改めて思った。
この3人のバッハによる3つの『マニフィカト』は、来月ロンドンとタトベリーでのコン
サートの後、CDレコーディングされるそうだ。合唱団もオケも、こうして何回かコンサート
を重ねて音楽が練られていくだろうからCD発売も楽しみだ。

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by didoregina | 2015-09-29 19:35 | イエスティン・デイヴィス | Comments(4)
Commented by ロンドンの椿姫 at 2015-09-30 07:38 x
詳細レポート、ありがとうございます。10月1日のロンドン公演に行く前に参考になります。
Commented by didoregina at 2015-10-01 15:28
ロンドンの椿姫さま、ロンドンのコンサートは今晩ですね。地味でマニア向けなコンサートですが、ほぼ連日の『ファリネッリ』公演の合間の息抜きとも言えるので、ファンとしては応援に駆けつけなくてはね。(日本語表記はマニフィカトが正しいようなのでなので訂正しました。)
Commented by Vermeer at 2015-10-03 22:46 x
オリヴィア・フェアミューレンはBCJにも何回か客演、11月にハ短調ミサのソロで来日します。翌日の岐阜公演に出掛ける予定でいますが、なんと合唱が帯同せず、ミサ曲はやらず、交響曲40番初期稿。大好きなこのミサ曲、なかなか生を聴く機会がない(唯一の生はマリナー/ ASMF 、1992年10月)ので連荘してしまおうかな、などと思案中。
Commented by レイネ at 2015-10-04 00:20 x
Vermeerさま、オリヴィアちゃんがBCJに客演してるとは、日本ではお馴染なんですね。バッハもヘンデルも彼女のレパなので、機会があれば追っかけたいと思っています。11月には日本に里帰りの予定なので、丁度その頃だったら理想的なのですが。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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