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Around the world in 50 concerts RCOの世界ツアー、ドキュメンタリー映画

Around the world in 50 concerts   RCOの世界ツアー、ドキュメンタリー映画_c0188818_22202022.jpg監督 Heddy Honigmann
2014年 オランダ




















ロイヤル・コンセルトヘボウ・オーケストラ(RCO)が2013年に行った創立125周年
記念世界ツアーのドキュメンタリー映画。
オランダ語原題は Om de wereld in 50 concertenで、2014年アムステルダム国際
ドキュメンタリー映画祭参加作品として、11月下旬に映画祭で公開されたばかり。
話題性は高かったのだが、12月初旬の底冷えする冬の日のリュミエールの観客は
わずか5名!

RCOの創立125周年を祝うTV特番は、昨年いくつかあり、5週連続でドキュ・ソープ
まで放映された。だから、このドキュメンタリー映画もそのTVドキュと似たもしくは
重複する内容なのではないか、という危惧を少々抱いたのだが、映画の方はコンセプトも
切り口もアプローチも全く異なるものであった。

Around the world in 50 concerts   RCOの世界ツアー、ドキュメンタリー映画_c0188818_22355040.jpg


まず、団員の何人かにスポットを当てて、その楽器との関わりや音楽に関する個人的思い
などをインタビューで語らせているのだが、不特定多数の視聴者を対象としたTV番組とは
異なり、芸術家である音楽家へのアプローチというコンセプトがはっきり感じられる。
また、日常から離れたコンサート・ツアーという特殊な場面であるから、音楽についての
語り口がストレートで、視点がぶれずに腰が据わった内容となっている。
だから、楽器や音楽、コンサートの思い出話にしろ、味わい深い。

それから、マエストロ、マリス・ヤンソンスの指揮姿や練習風景も登場するのは、TVドキュ
でも同様だが、ドキュ映画の方では、マエストロらしさを前面に押し出したいわばヒーロー
的描写が中心で、誕生日だのホテル予約だのという舞台裏の下世話な話題は出てこない。

しかし、なんといってもこのドキュメンタリー映画は、単にツアーに同行して映像を繋げた
というわけでは全くなく、時間をかけてリサーチした結果の作品であることは明らかで、
特に世界各地の音楽ファンの「人間ドラマ」が浮き彫りになっている点が目新しい。

Around the world in 50 concerts   RCOの世界ツアー、ドキュメンタリー映画_c0188818_22552439.jpg


ブエノスアイレスのタクシー運転手は、毎日12時間車を走らせているが、茫漠たる砂漠の
ような大都市での孤独感を埋めるため自分の世界を車の中に作り出す。すなわち、車中で
ずっとクラシック音楽を流して聴くのだ。乗客は、いわば、運転手の確固たる小宇宙にそれ
と知らずに入り否応なしに取り込まれる。それはまたとりもなおさず、運転手にとって
自己存在というものが希薄になって拡散しまうことを防ぐための方策であるらしい。

また、南アフリカ、ソヴェトに住む黒人たちが絶え間なく続く不安と危険と蔑視に満ちた
生活環境を一時でも忘れるため音楽の力で乗り切る、という姿を説得力溢れる映像と語り
で見せてくれる。

それら一つ一つはまったく別々のエピソードで、断片的描写であるにもかかわらず、
それぞれが有機的に繋がっているように思える構成である。
中ほどでコントラバス奏者がショスタコーヴィチの交響曲10番について語る場面が、
映画での最終ツアー地でのエピソードへの導入となっていることが最後にわかるのである。

ザンクトペトルスブルクの小さなアパートに住むユダヤ人男性の語り。
スターリン時代の粛清と僻地の収容所への隔離、そしてヒットラー時代には強制収容所に
入れられ、人生の大半をほとんど絶望的かつ生存不可能と思える状況におかれた彼が、
音楽を心の頼りに生きてきて、コンセルトヘボウ・オーケストラのコンサートに来る。
その彼が最後に見せる横顔に、このドキュメンタリーの真髄が表れている。

ラストでは、映画館の客席から思わず拍手がもれた。私以外全員が拍手していた。
by didoregina | 2014-12-04 23:20 | 映画


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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