International Vocal Competition に視聴者審査員として参加

今年で50回目を迎えたInternational Vocal Competition Den Bosch (IVC)は、過去の受賞
者名を見ると、過去または現在各地の歌劇場で活躍の歌手の名前が出ている。このコンクールは
綺羅星のごとくスターを輩出しているのに驚く。
そのオペラ・オラトリオ部門に、クラシック専門のテレビ局Bravaの視聴者審査員として参加
することになった。
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今年からBrava視聴者賞が設けられて、テレビ局が募集した審査員に自薦で応募した中から
選ばれた12人が、デイム・キリ・テ・カナワや元ウィーン国立歌劇場のホレンダー総裁を
はじめとする錚々たるメンツの本物の審査員会とは別にアマチュア審査団を組んだのだ。

土・日2日間に渡って繰り広げられた本選第一ラウンドでは、午前・午後・夜それぞれ10人が
自分の得意とするアリア3曲を歌った。そして、われわれ審査員は1日に30人の異なる歌手
(の卵)が歌うアリア90曲を聴いた。

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われわれの採点方式は、出場歌手の歌唱を聴いて、名前と歌う曲が印刷された用紙に100点
満点で点数を付けるというもの。視聴者審査員の出した点数から平均値を計算し、最高点を
得た歌手がBrava視聴者賞を受賞するという仕組みである。
仕組みは単純ながら、点数を付けるために歌を聴くという行為は実は思ったよりもずっと大変
なのだった。

わたしは、歌唱を聴きながら気付いた点・感想をメモった。大体、歌手一人につき3、4行だ。
声質、歌唱、スタイル、ルックス、その他のアピールする点を、実際に生で聴いたことのある
現在活躍中の歌手と比較しての印象を書きこんだ。
それを元に点数を付けるのだが、それがまた難儀である。
特に初日午前中の部出場者は、本選に最初に登場であがっているだろうし、朝11時では通常
声のコンディションは万全ではないだろうし、こちらとしても比較対象が少ないから困る。

どうも初日午前の部はあまりパッとしないというか、ハッと鮮烈な印象に残る出場者があまり
いないのだったが、午後からだんだん盛り上がって、上手い人が続々と出てきた。
夜の部となると、皆甲乙つけがたいほど優秀な歌手ぞろいなのだった。
そして、最初の方に付けた点数が甘すぎたと痛感することになる。このままいくと、100点満点
に限りなく近い点数を付けざるを得ない。

テクニックなど様々な点を考慮に入れつつ、この人の声が好きだし、この人の歌をオペラ舞台で
観たい・聴きたいと思う場合、高得点を付けた。

とどめは、夜10時、最後に歌ったオランダ人ソプラノだった。
堂々たる押し出しの強さと自信がみなぎった態度の成熟した歌唱で、どの音域でも声量は十分
あり、発音もはっきりとして、ドラマチックな声なのに気品がある。無理の感じられない自然
な発声で、ガタイのいいせいかよく響きよく通る。まるで、ウエストブルックの再来か、と
思えるほどのオーラを放ち、完成度が高くて素晴らしいリサイタルの趣だった。
ほとんど視聴者審査員全員一致で、その日の一位は決定した。

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その晩、われわれアマチュア審査員は皆よく寝付けず、よく眠れなかった。
集中しつつ生で聴いた歌の絶対量が多すぎ、頭が一杯になってしまったのだ。
リラックスしたり、ピュアに楽しむために音楽に身や心を任せて聴くコンサートやオペラ鑑賞
とは全く別の態度で臨んだためだ。

そして、翌日も同様に朝から晩までアリアを聴いた。(実は、わたしは日曜夜の部は抜けさせて
もらった)
全部聞くと2日間で180曲だ。しかも、コンクールだから熱唱・熱演の真剣勝負である。
そのエネルギーを受け止めるためにはこちらも万全の構えで臨まないと圧倒されて疲れてしまう、
ということがよくわかった。
しかも、感情的に好き嫌いのみで評価するわけにもいかず、理性的思考を行いつつ音楽を聴くと
いう行為は精神的にも重く、こういう疲労感は今まで味わったことのないものだ。

本職の審査員たちによる本選の結果が出て、20人のセミ・ファイナル出場者が決定した。
わたしが高得点を付けた人で入っている人もいれば落ちている人もいる。その逆に、低得点を
付けた人が残っていたりして、なるほど、プロの審査員とアマチュアとは好みも目の付け所も
かなり分かれるんだなあ、と思ったことである。(プロの審査員団には、歌手以外にも指揮者、
インテンダント、インプレッサリオが入っている)

一日置いて、火曜日にセミ・ファイナルが行われる。出場者は今年のコンクールのために
委託作曲された現代曲の課題曲ともう一曲自分の得意な曲を歌う。20人X2だから、40曲で
すむが
、精神体制を整えてセミ・ファイナルの審査に臨むつもりだ。
(追記: 課題曲ともう一曲だと思ってセミ・ファイナル審査に出かけたが、なんと課題曲
プラス3曲のアリアを歌うということを当日知った。またまた丸一日、20人X4曲歌うのを
聴くことになった。結局、コンテスタントたちが全員歌い終わったのは夜11時過ぎで、その後、
得点集計・審査会議があり、結果が発表されたのは真夜中の0時だった。)

才能あふれる新人発掘というチャンスに遭遇するのは、何と言ってもスリリングだし、とても
楽しいことでもある。
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by didoregina | 2014-09-08 13:14 | コンサート | Comments(4)
Commented by Vermeer at 2014-09-10 10:18 x
HPで審査員名簿拝見すると、オペラ部門で知ってるのは、デイム・キリとイェルザレム、S.ジョーの録音で指揮していたモンゴメリ。リート部門は錚々たる顔ぶれ、アメリンク、ヴァン・ネス、G.ジョンソン、I.ゲージ、R.ヤンセン。アメリンクはマスタークラスもあるんですね。
Commented by レイネ at 2014-09-10 10:33 x
Vermeerさま、かなりすごい審査員のラインナップでしょ?本日のセミファイナルにも行ったんですが、なんと一人4曲なので第一ラウンドより長丁場で、終電に乗るために最後の歌手の最後の歌を聴くのを諦めました。帰宅したら、もうHPに結果発表がアップされてる。
休憩中に犬を散歩させてるデイムに出会ったので「写真撮らせてください」と頼んだら、ノーと言われてしまいました。FBやツイッター世代のアーチストだとツーショットもバンバン撮らせて、SNSやブログへのアップもOKって場合がほとんどなんですが。
Commented by Vermeer at 2014-09-11 14:32 x
オペラ部門と広報担当はキリ、歌曲&オラトリオ部門はアメリンク、って感じなんでしょうか。

犬同伴で審査というのがデイムらしいですね。西宮のソロリサイタルで出待ちしましたが、出て来てくれせんでした。コンサート自体も決して彼女の名誉に相応しい出来でありませんでしたが。
Commented by レイネ at 2014-09-11 18:42 x
Vermeerさま、オペラ・オラトリオ部門の目玉審査員で、金曜日にはマスタークラスを行います、デイムは。ホレンダー元総裁がこの部門の審査委員長。アメリンクのマスタークラスもあるはず。

デイムは、3月にROH『連帯の娘』にコミカルな侯爵夫人役で出演なさってて、彼女が登場しただけで満場大拍手。少し歌のサービスもありました。その日は、マリー役のチョーフィの出来がイマイチだったので、IVCに出場した某イギリス人ソプラノのChacun le saitが上手くて唸らされました。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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