San Giovanni Nepomuceno はカルダーラらしさ爆発のオラトリオ

今年のユトレヒト古楽祭のテーマは「ハプスブルク、ウィーン、プラハ」となっていて、
チェコの古楽アンサンブルCollegium1704がアーティスト・イン・レジデンスである。
彼らが演奏する古楽祭オープニング・コンサートのチケットは取れなかったが、私的には
非常に興味を惹かれる演目であるカルダーラのオラトリオ・コンサートを聴きに行った。

c0188818_19161420.jpgA. Caldara: Oratorio San Giovanni Nepomuceno
@TivoliVredenburg Utrecht
2014年9月1日

Collegium 1704
Václav Luks - Conductor

Hana Blažíková - Regina, soprano
Alena Helerová - Angel, sorano
Sophie Harmsen - San Giovanni Nepomuceno, mezzosoprano
Václav Čížek - Ministro, tenor
Tomáš Král - Venceslao, bass









例によって、あまり演奏される機会のない曲のため、事前予習なし(ほぼ不可)である。
ストーリーをかいつまむと、ヨハネス・ネポムセヌスという聖職者の殉死がテーマの曲で、
ボヘミア王ウェンセスラウス4世(ヴァクラフ4世)は、王妃ヨハナの懺悔を聴く僧ヨハネス・
ネポムセヌス(サン・ジョヴァンニ)と王妃の仲を疑い、嫉妬が嵩じたあまり人間性を失って、
僧を残虐な手段で拷問した挙句、半死のまま川に投げ捨てさせたが、天使と王の寵臣によって、
僧も王も最後には救われる、という筋書きだ。

c0188818_1951731.jpg

以前と変わらない大ホール

今年からユトレヒト古楽祭のメイン会場は、今年の春にようやく改修工事が終わって新装
リニューアル・オープンとなったフレーデンブルク(新名称はティヴォリ・フレーデンブル
ク)だ。再オープンまで、8,9年かかったのではないかと思う。それで、内部はどうなったか
というと、大ホールにはほとんど全く手が加えられないまま、建物の箱は大きくなって外観
が変わり、建て増し部分に小ホールとポップやロックなどのコンサート向け会場が加わった。
多目的総合ホールになったのだった。

このコンサートも結構人気演目で、1か月半ほど前にチケットを注文した時にはすでにいい
席は残っておらず、ステージ横を上から見る位置の席を選ばざるをえなかった。
ところが開演してみると。会場は満席ではなく、平土間にもかなり沢山空席が目立つのだ。
いったいどういうわけだろう?納得いかない。
この位置では、舞台は真横上から俯瞰するので指揮の様子はよく見えるが、ソロ歌手の声が
人によっては全く届いてこない。
特に、王役のテノール歌手の声が聴こえない。字幕も見辛い位置にあり、ストーリーを知る
ために字幕を追うと歌手は視界から消える。視界に入らずしかも声が届かない歌手の歌を
聴くというのはしんどいものである。
寵臣役のバリトンとサン・ジョヴァンニ役のメゾの声はまあまあ聴こえる。
しかし、一番期待の王妃役ハナちゃんは素晴らしかった。すっとさわやかかつのびやかな
澄んだ声がびんびんとこの位置まで響いてくるのだ。

c0188818_2033013.jpg

ハナちゃん、感動をありがとう!

ハナちゃんの歌唱も声質もいかにも教会系で、バッハのカンタータやオラトリオにうって
つけのストレートな美しさで勝負なのだが、録音ではなぜか彼女の声は妙にキンキン響く
ように聴こえることがしばしばあり、「そうじゃないんだ、彼女の生の声は!」と触れ回り
たくなる。
今回の彼女の歌唱の素晴らしさは群を抜いていて、声には深みと艶と温かさが増し、ピンと
張ったきらめく絹糸のような芯のある美しいアジリタも決まって、びしびしと届く。
レチタティーヴォの発声もきれいで説得力があるので、うっとりと聞きほれてしまう。
無垢でかわいらしい印象だったのが、女王らしい威厳と気高さの表現力もあるのに驚かされた。
そして、無実の罪を着せされた王妃の無念さと、それに負けじと運命を切り開く強さを堂々
たる歌唱に込め、聴く者の心にじんと迫るのであった。

特にトランペット・オブリガートとの掛け合いのアリアでは、彼女の声質とバロック・トラン
ペットの華々しい音質が上手い具合にマッチして、このコンサートの白眉であった。
崇高という言葉はこれを指すためにあるんだな、と思え、目頭が熱くなるほどだった。

c0188818_20194681.jpg

幕間休憩時に、空いていた平土間の席に移動した。
やはり、音響・視覚的に難ありの席に座っていた大多数の人が、上からがら空きに見えた
平土間に移動してきたので、最前列には座れなかったが、2列目右はじの席を確保した。

すると当然ながら、前半では全く冴えなかったテノール他の歌手の声もまっすぐ届くから
よく聴こえて、まるで別の印象になるのだった。
しかし、もっと印象が変わったのはオケの演奏だ。
ステージ上手側上方の席だと、正面からのヴァイオリンの音が妙にぬるりとした感じで、
テンポが遅れ気味で、よく言えば典雅でおしとやかに聴こえるのだったが、平土間から
直に響くオケの音にはもっとびっしりとしたしまりがあった。
このオケには、イタリアのバロック・オケによくあるような、あざとさと紙一重になるほど
効かしすぎたエッジやドライブ感は期待していなかったが、演奏や音にぼやけたところは
なく、かえってノーブルで正統派でいわば育ちのよさを感じさせる好ましいものがある。
ウィーン的、いやプラハ的におっとりとしている。
プラハご当地ものオラトリオだが、カルダーラ作曲のおかげでドラマチック、オペラチッ
クなバロック感覚が炸裂していた。

c0188818_20374229.jpg


後半になるとドラマが意外な展開を見せるため、もう一人のソプラノの天使も登場する。
せっかくいい席に移動したのにハナちゃんの見せ場・聞かせどころが少ないのが少し残念
だったが、やはり間近で聴く彼女の声と歌唱は感動的で、すったもんだのキャンセル劇で
スケールが矮小化してしまった1月のカルダーラの別のコンサートのソプラノ代役として
彼女が出演していれば!と思ってしまったほどだ。それほど実力を見せつけたハナちゃんの
独り舞台だったのだ。
今シーズン、彼女は見逃せない。
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by didoregina | 2014-09-02 13:40 | コンサート | Comments(2)
Commented by Vermeer at 2014-09-03 10:39 x
ブラシコヴァー嬢はこの数年バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の常連です。カンタータ全集の終盤ではソプラノ・ソロを一手に担っていました。BCJ御大・鈴木氏の信頼が厚い。

BCJの定期演奏会(神戸のすごい山の上!にある女子大)まで遠征した際、‘Collegium 1704’の1704って年号だと思うんだけど、何の年?と尋ねたら、「あれ、何だったかな?」。調べたら彼らのレパートリーの主要作曲家ゼレンカの最初の作品の年号、とのことでした。

蘭・英⇒仏・伊が中心だった古楽界も、チェコを含め東欧やポルトガルの団体をしばしば見かけるようになりました。音楽ソフト冬の時代なので日本ではなかなか窺い知れませんが。Václav Luks率いるEnsも優秀な団体ですよね。
Commented by レイネ at 2014-09-03 16:54 x
Vermeerさま、ハナちゃんはバッハ・カンタータのソリストによく起用されるので、教会系歌手ってイメージが強いんですが、オペラチックなこのオラトリオでは歌唱は情熱的で劇的表現もよかったので、オペラにも向いてるんじゃないかと思えました。たしか、1、2か月前、ドルトムントかどこかで人形劇版「リナルド』に出演したはず。彼女のアルミレーナ役聴きたかった!

Collegium 1704やそのほかのチェコの古楽団体は、ゼレンカなどご当地ものやレアものバロックを取り上げた、いい演奏の録音がありますよね。世界各国から個性的なアーティストがいろいろ沢山出てきていて、古楽界も新旧取り混ぜ活況でエキサイティングです。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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