イエスティン・デイヴィスとAurora Orchestraのコンサート

Aurora Orchestra: How Pure the Sky
1 May 2014 / 19:30 @ LSO St Luke’s

Howells arr Muhly King David
Thomas Adès Three Studies from Couperin
Bach Cantata BWV 54, ‘Widerstehe doch der Sünde’
Nico Muhly Drones on ‘O Lord, whose mercies numberless’
Gluck ‘Che puro ciel’ from Orfeo ed Euridice
Schubert Symphony No 5 in B flat

Nicholas Collon conductor
Iestyn Davies countertenor
Aurora Orchestra




イエスティン・デイヴィスが出演するコンサートおよびオペラを、異なるプログラムであれば、
今年はできるだけ沢山生で聴きたいと思っているので、ヨーロッパ内であれば遠征は厭
わない。
有難いことに今年前半はほぼ毎月、時には2週間くらいの間隔でコンサートがあるのだ。
しかし、このコンサートの日には当初仕事の予定が入っていたので行くのは諦めていた。
ところが、リスボン遠征直後に、その仕事がキャンセルになった。ご贔屓歌手のキャン
セルは困るが、こういうキャンセルはうれしい、というのが本音である。しかも、いい席が
まだまだ残っていたので早速チケットゲット。ロンドンまで一泊の弾丸遠征を決めた。

プログラムにはニコ・マーリーの曲と、一曲だけだがグルックの『オルフェオとエウリディー
チェ』からのアリアも入っている。グルック・イヤーである今年はぜひともイエスティン君の
歌う『オルフェとエウリディーチェ』を生で聴きたいという悲願が少しだけ叶うのだ。
グルックのオルフェオ役は、当時のカストラート歌手グァダーニが初演で歌っている。
そして、イエスティン君は『グァダーニのためのアリア』集CDを出している。男性的なアルトで
ある彼の声質にこれほどぴたりと合っている役もないだろうと確信しているし、オルフェの
アリアはとにかく美しいので、今年イエスティン君がどこかの歌劇場でオルフェオ役で主演
しないかなあ、と夢見ていたのだ。

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このコンサートの会場は、LSOが練習場としているらしい元教会である。バービカンから歩いて
10分足らずの場所にある。しかし教会なので、特に舞台があるわけではなく、最前列の特等席
(かぶりつき席という言うのはやめる。最前列で歌手のドンピシャ真向いだったブリュッセルと
リスボンでは、イエスティン君から「今日は特等席だったね」と言われたので、その用語に従う。)
だと、恐ろしいくらいの近距離である。わたしは中央すこし右寄りの席だったので指揮台の左側
に歌手の立ち台が置かれた今回は特等席とは言えないが、ご一緒したロンドンの椿姫さんとご
主人の席はこの小さな台の真向かいで、歌手から1メートルもない距離だった。

内陣上部には大きなスクリーンが掲げられ、上に貼った動画のようなヴィデオ(草原を歩いたり
寝転んだりするイエスティン君の大写し)が流れる。それに呼応してオケの器楽演奏が始まったが、
歌手はオケの後ろの方、楽屋と思しき場所から登場して、マーリーが編曲したハウエルの『ダビデ
王』を歌う。
夜啼き鳥の声に哀しみを慰められるダビデ王という、抒情的でメランコリックな英語の歌詞を、
いつものように明瞭で丁寧な発音のイエスティン君によってストレートに歌われると、とらえどころの
ない寂寞感というものの実体が目に見えないまま、しかし空気のようにまことに直にこちらの胸に
届くのだ。
もっともっと長い曲ならいいのに、というくらいあっけなく終わったのが残念だった。

オケは小さな編成だが、この教会のスペースと音響的にはマッチしていて、アデス編曲のクープ
ランの雅な音楽にもぴったり。
バッハのアリアでは、歌手は教会後方上部から歌い始め、中央通路を通って歩きながら歌い、
オケの前まで来るという演出(?)なのだった。生真面目さの本領発揮ともいえる、やはり丁寧な
歌唱であるが、この曲も余韻に浸る暇ももないほど短い。
そこまでは、曲間の拍手もなしでヴィデオ・アートと器楽演奏と歌唱とが切れ目なく続いた。

もっと短かったのは、マーリーの次の曲だった。
期待が大きかっただけに、肩すかしというか、今思い出そうとしてもほとんど印象に残っていない。

グルックのChe puro ciel!を英訳すると、今回のコンサートのテーマHow clear the sky!に
なる。暗い草原を歩くイエスティン君の映像がスクリーンに映されると、歌手登場の合図のように
なっているらしい。
あてどなく彷徨うスクリーン上の彼の姿が、エウリディーチェを探し回るオルフェの絶望を象徴して
いるようであり、わかりやすい。
この曲もとても美しいし、イエスティン君の十八番らしいのだが、Che faro senza Euridiceも
歌ってもらいたかった。イエスティン君の歌うグルックが聴けただけで満足、と思わないとばちが
当たる。

シューベルトの交響曲第五番に関してはノーコメント。これが、本来ならメインであったのかも
しれないが。

そしてアンコールとして、雨が止んで明るい空を仰ぐかのように能天気な曲Blue Skiesを
傘をさして後方から歩きながらイエスティン君が歌った。いかにも古き良きエンタメ的要素が
或るポピュラー曲なので、彼の別の面を聴くことができて楽しかった。

c0188818_19262763.jpg

Courtesy of Tsubakihime (Peraperaopera)
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by didoregina | 2014-05-04 12:34 | イエスティン・デイヴィス | Comments(4)
Commented by ロンドンの椿姫 at 2014-05-04 20:39 x
ロデリンダに続き又ロンドンでご一緒できて楽しかったです。終了後、レイネさんが隅っこの暗闇にいたイエスティン君を見つけて下さったおかげで、良い写真も撮れました。
詳しい曲の感想もありがとうございます。私のブログにリンクさせて頂きますね。私はあまりに近過ぎてカーテンコール写真が撮りにくかったですが、何枚かはものにしましたので、そちらもご覧下さい。
Commented by M. F. at 2014-05-05 19:07 x
ミーハー話題にだけ反応してしまいますが、私も「特等席」何度もありますよ.でも、譜面を見て歌う歌手だと時としてこれが落とし穴!(笑)そうそう、ドゥシンゲルでは前の方が一番安いのでそれとは関係なくよく座りましたが、そうすると奏者の足元がよく見える訳で、コ〇チンスカヤ今日も裸足だなあ…とか、余計な事を覚えてます.
Commented by レイネ at 2014-05-05 23:36 x
ロンドンの椿姫さま、おかげさまで今回も中身が濃い遠征ができました。あんなにリラックスした表情で舞台に立つイエスティン君を見たのは初めてかもしれません。終演後の写真はしっかりポーズしてくれたので、キュートなショットがものにできましたね!あの2枚はオフィシャル使用できそうなほど上手く撮れてる。

2週間後、ケルンのリサイタルで沢山聴けるのが楽しみですが、フルに歌うのは重労働だろうなあ、とちょっと同情気分も。
Commented by レイネ at 2014-05-05 23:42 x
M.F.さま、ファンにとっての特等席って、劇場での一般的価値が低いってことが往々にしてありますよね。それで、来週のケルンでの席も劇場窓口で一番いい席だからと勧められた6列目にしたんですが。。。。音響を取るか、ガン見を取るかですね。それと、ステージの高さが重要。客席に対してあんまり高すぎると、足元しか見えなかったり、譜面で隠れたり。。。。モネでのコンサートなら特等席が一番です!


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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