カルダーラの『惑星の調和』La Concordia de' Pianeti ライブ録音コンサート

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指揮のアンドレア・マルコンとヴェロニカ・カンヘミ

Antonio Caldara »La concordia de’ pianeti«
KONZERTHAUS DORTMUND
2014年1月18日

Verónica Cangemi Diana,
Delphine Galou Venere,
Carlos Mena Marte,
Franco Fagioli Apollo,
Ruxandra Donose Giove,
Daniel Behle Mercurio,
Luca Tittoto Saturno,
La Cetra Vokalensemble Basel,
La Cetra Barockorchester Basel,
Andrea Marcon Dirigent

バロックオペラ・ファンおよびCTファンにとって鳴り物入りだったカルダーラの幻のオペラは、
キャンセル騒ぎの末、上記のキャストでのコンサート形式上演となった。
ディアーナ役はアナ・プロハスカからヴェロニカ・カンヘミに、ジョーヴェ役はクリストフ・
デュモーからメゾ・ソプラノのリュクサンドラ・ドノーゼにそれぞれ変更という正式発表が
あったのは、コンサートの数日前である。メールとその後ご丁寧にも封書でキャスト変更の
お知らせが届いた。

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この幻のオペラは300年ぶりの上演であるから、録音も資料もなく事前には一体どういう
内容なのか殆ど全くわからず、タイトルと役名からなんとなく推測するしかなかった。
当日のプログラム・ブックでも、内容説明について割かれたページは1ページのみだ。

1723年11月19日、ハプスブルク家の神聖ローマ帝国皇帝カール6世(ボヘミア王も兼ねる)
の皇后エリザベートの命名日にボヘミアで上演された。
リブレット作者はピエトロ・パリアーティで、歌詞内容を一口でまとめると、神々がエリザ
ベート(作品中ではエルザ)の徳と善と美を口々に讃える、という祝典劇である。
だから、まずはトランペットが祝祭らしい華やかなファンファーレを奏で、その後は神々
(天に煌めく惑星でもある)役のソリストが代りばんこに立って、エルザ称賛のアリアを歌い、
最後に合唱でまとめるという構成である。
エリザベート皇后は、将来ハプスブルクの女帝となるマリア・テレジアの母君で、初演当時
別のお子さんを妊娠中であった。男のお世継ぎが生まれ帝国安泰、母子ともに健やかなれと
の願いがこの曲には込められていたのかも知れない。
それゆえトランペットは重要なアリアでオブリガート伴奏にも活躍するし、朗々とめでたさ
を寿ぐ音楽と歌詞に終始するのだった。

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            二人のCT。フランコ・ファジョーリとカルロス・メナ。


ディアーナは、カンヘミが急な代役で歌った。彼女の方がプロハスカちゃんよりもずっとイタ
リアン・バロック・オペラには向いてる声質だし、急きょの代役を務めてコンサートを救って
くれてありがたい、と感謝の念は持った。
だが、やはり練習不足の感は否めない。まだまだ、自分のものになっていないからか、聴き手
にも説得力を持った歌唱として響くものが少ない。もともと声量豊かな歌手ではないが、彼女
のそこはかとない歌心の感じられる味わいが好きなのだが、もう少し華々しくまたは情感込め
て自信たっぷりに歌ってほしかった、と望んでもそれはないものねだりというべきか。
月と狩りの女神ディアーナ役のカンヘミと、対称関係であるアポロ役のファジョーリとの相性
はなかなかよかった。

もう一人の女神ヴェネーレ(ヴィーナス)には、デルフィーヌ・ガルー。彼女は今まで2回生
で聴いているのだが、いつもなんだか期待外れに終わっていた。それが今回は、他の女声陣が
急な代役での出演であったため相対的にかなり手堅く歌い込んでいるように聴こえるのだった。
練習時間の差であろうか。少し見直したほどであるが、まあ他の女性歌手にちょっとがっかり
させられたから、彼女への評価も甘くなるのはいたしかたない。自意識が強そうな、愛の女神
役は悪くはなかった。

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            左にテノールのベーレ。女声陣は、ガルー、ドノーゼ、カンヘミ。


ジョーヴェ(ジュピター)は天の神であるから、やはりどうしてもカウンターテナーの男声で
聴きたかった!ドノーゼの声も歌唱もおばさんぽいルックスも全て含めて、この役には向いて
いない。
彼女の歌唱を聴きながら、ああ、絶対数が少ないCTの中といえども、この役を短い練習期間
でも歌える歌手はきっと探したらいたはずなのに、と思えて残念でならなかった。
デュモーで聴きたかったのはもちろんだが、他のCTで代役を引き受けてくれる人がいればなあ、
と残念しきりである。男の神なのだし、他の2人のCTとのバランスを考慮に入れても、この役は
絶対にCTに歌ってもらうべきであった。

ジョーヴェ役に脳内変換していたデュモーの動画を貼る。


         2013年11月、マドリッド王立歌劇場の『インドの女王』でのデュモー。


CT以外の男性歌手は、テノールのベーレとバスのティットートだ。
ベーレはメルキュリオ(マーキュリー)、ちょっと優しい雰囲気の彼は残念なことに殆ど印象
に残っていない。バロック・オペラではテノールが活躍する場面が少ないし、ほとんど脇役
だったからだ。
ティットートはサチュルノ役で、これもバロックオペラではありがちなのだが、笑えてしまう
ほど低音がよく響く。大体、バスはコミカルもしくは好色爺みたいな役どころであるが、
サチュルノという役柄に似合うキャラと深い声とで、全体を引き締めていた。


さて、今回の歌手の中では、1人減って二人になってしまったが、CTに注目していた。

まずは、中堅と言ってもいいカルロス・メナ。
彼が参加したCDはいくつか持っているのだが、どうもいまひとつ個性が足りないような印象
を持っていたのだが、実際に聴く彼の声は外見よりもずっと若々しく、特に高音が澄んで美
しい。
12月に、彼が『リナルド』のタイトルロールを歌う公演を聴きに行くはずだったのだが、
その時はイエスティン君熱に浮かされていたため他のCTに目が向かなくなり、行くのを止め
てしまった。
それを後悔するほど、メナの歌唱はなんとも素敵で味わいがあるのだった。見直してしまった。

今回一番の目玉は、何と言ってもフランコ・ファジョーリだ。現在の若手CTの中でも群を抜い
て実力および個性が際立っている、CTファンの間では話題の歌手である。
彼の生の声を聴くのは3回目で、大体1年に一度の割合なのだが、その歌唱の進歩には今回も
驚かされた。別名「男バルトリ」と呼ばれるのに恥じない、イタリア人らしい濃い色合いの
深みのある声を持ち、歌唱はあくまで滑らかなベルカントで、得意な高音域をより際立たせる
ような装飾をふんだんに盛ったコロラチューラを聴かせるのである。
今までのカウンターテナーとは全く異なるタイプで、他に比べる人が見つからない。古今東西
見渡しても唯一のユニークな存在である。似ている歌手を探すならば、多分18世紀のカスト
ラートがこういう歌唱をしたのではないか、と思わせるようなスケールの大きな歌手なのだ。

彼をご存じない方のために、動画を貼る。


     昨年11月のパリでのリサイタルでグルックの『オルフェオとエウリディーチェ』から
    「エウリディーチェを失って」を、独特の装飾を加えて歌うフランコ・ファジョーリ。


彼が歌うアリアは、カルダーラが彼のために(実際には当時の花形カストラート、カレスティ
ーニのために)作ったとしか思えず、ファジョーリは易々と超絶技巧を炸裂させて歌い上げる
のだった。
現在まだ30歳そこそこなのに、比較を絶する唯一無二のCTとしての自信が、歌唱と表情とに
あふれて、聴く方は胸がすく。1年ぶりに接する彼のルックスは、またまた精悍さを増した。
その日のスターは何と言ってもファジョーリなのだった。
CTファンもそうでない人も、同時代を生きしかも日々進化を止めない彼からは、目を離すべき
ではない。神話がそろそろ完成するだろう。


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                  終演後、楽屋口でツーショット。
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by didoregina | 2014-01-23 23:45 | オペラ コンサート形式 | Comments(8)
Commented by アルチーナ at 2014-01-24 16:16 x
「神話」!どうもありがとうございます。
それにしてもやっぱり代役というのは考えていなかったっぽいですね~~。
あまり沢山楽譜を配りたくなかったんでしょうかね?
早くCD発売にならないかな?又、レイネさんは生と録音の違いも楽しめますしね。歌も楽しみですが、演奏も華やかそうなのでそちらも楽しみです。
Commented by M. F. at 2014-01-24 19:15 x
これがそんなにレアな演目だとは思いませんでした.聴いてみたいです.
うーん幾らDGG推しの歌手で何でも歌えるからといって、何にでもキャスティングしないでほしいですねえ…(苦笑)<某女史 他に妥当な人はいくらもいると思うのだけれど.せめて録り直しセッションはしないのでしょうかね….
Commented by レイネ at 2014-01-25 00:29 x
アルチーナさま、フランコの自信と余裕が全身からみなぎっていて、精悍そのものになったルックスもクールで、耳も目も彼にくぎ付けでした。舞台上の彼をガン見してもしも視線が合ってもドキドキしないから、落ち着いて冷静に聴くことができましたよ。
初物を一回聴いたきりでは印象がまとまらないので、CDになってからじっくり聴きこみたいと思います。
オケの高音弦が上手だったし、リュートの二人はリラックスした楽しげな表情で、のびのびした演奏を楽しめました。
写真撮るのに忙しくて、拍手をサボってしまいましたが、わたしにしてはかなりいい写真が沢山撮れて、それもうれしい。
Commented by レイネ at 2014-01-25 00:36 x
M.F.さま、このレアなコンサートはライブ録音され、DGGからCDが発売されます。そういうメジャーから発売されるのは、もちろんプロハスカちゃんのネームバリューのおかげだろうと思ってましたが、彼女が降板しちゃうとは。。。どっちみち彼女が出演しても練習不足だったろうから、カンヘミでもノープロブレム。録音し直しなんてことはないでしょうが、もしスタジオ録音し直すのならば、デュモーを加えて3人CTでお願い!とDGGに対して熱烈要望します。
Commented by M. F. at 2014-01-25 01:22 x
DGGが出すんですか、彼らにとっても大誤算でしょうね.あのレーベルは音が素直でないから好きでないのです.
物心ついてからブーレーズ・ファンでしたから、殊に近年は、無茶なリリース・スケジュールで編集ミスも結構あったりと泣かされましたよ…結局ラジオの音源を有難がって、CDはほとんど聴きません.

でも、本当にちゃんと出してくれるならそれだけでも有難く思うべきかもしれませんね.別件で、ドゥセが降りちゃった事でポシャッた企画がある話を聞きました.
Commented by kametaro07 at 2014-01-26 20:56 x
デュモー選手降板は残念でしたが、珍しい演目をご覧になれて羨ましいです。
既にご存知かもしれませんが、デュモー選手は夏にドロットニングホルムの『ポントの王ミトリダーテ』にファルナーチェ役でご出演が決まりましたね。
発表当初は名前がなかったのですが、今日発見しました。
また行きたくなってますが、スウェーデンは物価が高いのが難点で悩みどころです。
Commented by レイネ at 2014-01-27 18:15 x
M.F.さま、舞台にはマイクがいっぱい立っていて邪魔なくらいなので録音はしてましたが、本当にCDリリースしてくれないと困るわ。こういうマイナーな曲がDGGから出るのか、ってのもちょっと引っかかるものがあります。
わたしはCD派なのですが、最近、ラジオ録音の世界に目覚めました。面白い音源や録音はラジオ放送の方に多いんですよね。ライブ録音だから、編集が入っていても臨場感はそこそこあるし、CDには絶対にならないようなマイナーなものはラジオ音源で聴いてます。
Commented by レイネ at 2014-01-27 18:25 x
kametaro07さま、貴ブログの「夏のドロットニングホルム・プログラム」記事に昨年11月か12月にコメントしたんですが、うまく送信できなかったようです。昨秋からデュモーは「来夏はモーツァルトのロールデビュー!」と何度かアピッていて、そのたびに「イダマンテか、ファルナーチェかシファレでしょ?」と突っ込んでいたんですが、のらりくらりとかわされていました。CTが歌えるモーツァルトの役柄は限られてるし、夏の演目で詳細決定されていないのはドロッティングホルムしかないから、ここの『ミトリダーテ』だろうと予想・確信してました。数日前に劇場からの正式発表の後で本人もようやく公表しました。
行きたいのはやまやまなんですが、8月にはグラインドボーン遠征予定なので、連荘は難しそうなんです。。。。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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