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マレーナ様のネローネ@リセウ   バルセロナ遠征記その3

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  初演から10年後のマレーナ様ネローネ


マレーナ・エルンマン・ファンクラブの皆さま、長らくお待たせしました!
すでに『アグリッピーナ』千秋楽も終わった今、ようやくレポートを書く気分になってきました。
と、申しますのも、今回、リセウでの『アグリッピーナ』再演は、今年最大のメインイヴェント、
3年越しの念願、いや、マレーナ様を知った最初の日から今までずっと待ち続けていた、わたしに
とってほとんど人生のゴールの一つに近いほど重みのあるものだったのです。
そして、期待を予想以上に上回る素晴らしいプロダクションに圧倒され、また、マレーナ様渾身の
パフォーマンスは一世一代と言ってもよく、まさに伝説再生の現実離れしたパーフェクトな舞台に
立ち合って、こちらの身も心も彼岸に渡ってしまったような状態になっていたのです。
その興奮が一過性ではない証拠に、雲の上を歩いている感覚は2週間たっても続いているのです。
夢とうつつの境界線を彷徨う私に、レポを書くなど不可能なことだったのです。
(そのわりに、イエスティン・デイヴィスのコンサート・レポはすぐに書いたじゃないか、というツッコミ
もありますが、義理人情も絡んでいましたゆえ、お許しのほどを)

マレーナ様のネローネ@リセウ   バルセロナ遠征記その3_c0188818_19381495.jpg


まず、このヘンデルのオペラ作品自体の完成度の高さが、今回の大成功の礎であることに疑いの
余地はありません。
音楽は、聴きごたえのある歌唱部分とレチタティーヴォ、器楽演奏の分量配分がこの上なく
バランスよく、ダ・カーポが長すぎて聞き飽きるようなアリアは一つもなく、序曲から最後の大団円
のコーラスまで、一瞬ともダレだり飽きたりする瞬間がありません。
この作品で、ヘンデルの作曲家としての天才ぶりをまさに確認することになりました。
また、音楽だけでなく、この作品にはストーリー的にも荒唐無稽すぎる部分がなく、古代から変わ
らぬ人間の欲や愛憎、親子の情などが、誰にでも納得できるようなユニヴァーサルな要素が
散りばめられているのです。

しかし、素材がいくら極上でも、料理人の包丁さばきや味付けによって出来は全く異なるものになる
というのが、オペラと料理との共通項ともいえましょう
名人による美しく盛られた料理を舌に載せる瞬間のスリリングさ、そして、美味をじっくりと味わう
幸福の体験とオペラ舞台鑑賞とはかなり性質が近いもので、五感と体全体に興奮を与えてくれます。
多くの皆様と同様、団子より花ですから、オペラで味わう至福追及のためには遠征をも厭いません。
歌手の喉は旬の素材に近いもので、時期の一致を見れば聴くチャンスを逃してはなりませんが、
オペラ舞台の場合、演出家という料理人の任務が非常に重要だと思うので、つまらなそうな演出
だったら、最初から食指が動かないものです。
今回のマスターシェフは、デイヴィッド・マクヴィカーでした。

↓の序曲の動画は10年前の初演時のものですが、オケと指揮者とキャストが多少異なるものの、
今回も演出上、全く同じなので参考のために貼ります。



シンプルな舞台装置と現代衣装で、隅々まで神経の行き届いたスタイリッシュな演出ということがよく
わかるかと思います。10年経つまでもなく劣化が激しく見るに堪えないようになってしまう演出も
昨今は多いものですが、これは、今でも全く古びて見えません。

また、序曲部分のだんまり演技で状況設定の説明をしっかり行うという、ある種の演出にはお約束
になっている手法ですが、その方法がシンプルなのに明瞭なことこの上なく、ごちゃごちゃしていず、
説明しすぎでもなく、ほとんど理想的な序曲の演出だと思えます。
ロムルス・レムスが狼の乳を飲んでいる幕の前に座って、多分ローマ帝国歴代皇帝に関する本を
読んでいる人の後ろに、歴史上お馴染みの名前の彫られた石棺に座って登場する主要人物たち。
欲望と陰謀渦巻く、退廃のローマ皇帝一家の相関図が一目瞭然です。
まさに、見事に整理された冒頭場面演出のお手本と言えましょう。


10年前の初演以来すでに伝説化している演出とプロダクションですから、アクロバティックに
マレーナ様が歌い、踊り、演じる動画などは、すでに何度も見聞きされているかと思います。
たとえば、第一幕最初のネローネのアリア Col saggio tuo consiglio 


               この胸キュン音楽にぴったりの可愛い男の子ネローネ役のマレーナ様

シンプルで美しく機能的な舞台装置と背景、現代的な衣装に、演技力ではぴか一のマレーナ様の
表情と身振り態度で、10代終わり頃の若い男の子の心の微細な揺れが歌唱にも表現されて、
観客の胸に迫るのです。
10年経っても、上の動画とほぼ同様の動きで、マレーナ様の美少年ぶりには衰えが見られません
でした。『セルセ』役以来トレードマーク化したちょっとエロチックな動作が今回は結構沢山の場面に
散りばめられているのが多少の変化もしくは進化ですが、思春期から抜け出せないままの色情狂の
ネローネ、しかもADHDが入っているという役どころを絶妙に演じているのでした。

今回の舞台でマレーナ様のズボン役を生で初めて観た人は、きっと一様に、彼女の男性役なりきり
ぶりに驚愕しただろうことは、想像に難くありません。マレーナ様セルセでびっくりした人は、今回また
数歩前進した役者ぶりに、思わず惚れ直したことでしょう。

マレーナ様は、特に主役を張る場合、前半は喉をセーブするためかなり声量を抑えることが
多いのですが、今回はタイトルロールではないということで気の張りが少なくて済んだのでしょうか、
最初からエンジンがかかって、しっかりと声を響かせてくれたのが、まずうれしい驚きでした。
出だしの歌からこうだと、他の歌手も乗せられるのか皆パワー全開になるものです。


また、今回の再演に当たって、マクヴィカー本人がバルセロナでビシバシと稽古をつけたことは、
全ての場面で、歌手や役者やダンサーの動きがびしっと決まっていることからもよくわかります。
誰一人緊張が解かれたり、ダレたりした場面が一瞬たりともないのです。
たとえば、今回ポッペア役だったダニエル・ド・ニースが最初に歌う場面をご覧ください。



ダニエルちゃんは、相変わらずダンスで鍛えた筋肉としなやかな体、派手な作りの顔の表情も豊か
で演技派なのですが、ポッペアのスタイリスト役のオネエタイプのダンサーの演技も光ってます。
ダニエルちゃんの歌唱が、このプロダクションのキャスト中では心配の種の一つだったのですが、
リセウの音響のためか、指揮者のバランス感覚がすぐれているせいか、1人だけ妙に力んだような
不快な声で歌ったりしていないのが、うれしいサプライズでした。ダニエルちゃんの生舞台には、
何度も接しているのですが、今回ほど不快指数が非常に低いのは初めてでした。


アグリッピーナのタイトルロールを歌ったサラ様の調子も絶好調だったと思います。
迫力ある年増の悪女役が最近多いサラ様ですが、アグリッピーナでもその真骨頂発揮です。



自分の息子ネロを次期皇帝の座に据えようと思った矢先、死んだはずのクラウディオ帝が生きて
もどってきたため、そして若く美しいポッペアとの確執もあり、様々な奸計を巡らすアグリッピーナ=
マキャベリズムの申し子のような存在にサラ様もなりきり、胸がすくような悪女ぶりを披露して
くれました。
女性役の歌手は皆、10センチはあろうかというピンヒールを履いて、階段を上り下りしたり、踊ったり
するので、見ていてハラハラするほど。

踊りと言えば、ダニエルちゃんよりももっと格が上なのは、やはりマレーナ様です。
ポッペアを追っかけまわす色情狂でADHDのネローネという役柄上、片時もじっとしている場面が
ないどころか、アリアでも様々なダンスや動きをしながら歌うという、マクヴィカーの演技要求に
応えられるオペラ歌手はマレーナ様以外ありえません。
ムーンウォークその他のダンスはもちろんのこと、アリア Quando invita la donna l'amante
では、腕立て伏せ、腹筋運動やピラティスのバランスポーズをとったままで歌うのです。これには、
もう観客はびっくりで、やんやの喝采と万雷の拍手でした。
よく出回っている、ネローネがコカインを吸引しながららりって歌うCome nube che fuggedalも
凄い迫力ですが、その前のアリアのでの動きはもっともっとすさまじいのでした。

長くなってきましたので、この辺でいったん中断して、カーテンコールやツーショットの写真は、
また別記事として投稿したいと思います。
by didoregina | 2013-12-04 14:12 | マレーナ・エルンマン


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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