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サラ・コノリーのリサイタル@Jurriaanse Zaal ロッテルダム

コンセルトヘボウでのヘンデル『アレッサンドロ』のマチネ・コンサートと同じ日の夜、ロッテルダムで
サラ・コノリーのリサイタルがあった。
多目的ホールであるデ・ドゥルンは、ロッテルダム中央駅から徒歩2,3分だし、アムステルダムと
ロッテルダム間は電車の便がよく、最速だと40分弱で結んでいるから、余裕で行けた。
今回は、デ・ドゥルンの小(中?)ホールである。

サラ・コノリーのリサイタル@Jurriaanse Zaal ロッテルダム_c0188818_2021185.jpg

21 september 2013
Jurriaanse Zaal

Sarah Connolly - mezzosopraan en Julius Drake - piano

Schumann - Widmung; Die Lotosblume; Hochländisches Wiegenlied
Schumann - Frauenliebe und -leben
Howells - Come sing and dance; King David
Gurney - By a Bierside; Sleep
Britten - O Waly, Waly; Corpus Christi Carol
Bennett - A History of the Thé Dansant

ステージが下のほうにあって、客席がひな壇になっているホールだが、会場は満席ではないのが
少々残念だ。私の席は3列目中央右寄りで、歌手が目の前の位置だ。冷風が感じられ妙に寒い。

颯爽と登場したサラ様のステージ衣装には目を瞠らされた。なんて素敵なデザインと色!
明度の高い薄いグレーの柔らかなシルクのシンプルなロングドレスなのだが、右肩から同生地で
幅広の布が斜めにショールのように掛かり、ウエストの左側で留められ、プリーツともドレープとも
とれるひだが下に流れる。そのショール状の布は、前後ともドレスと同様にフルレングスである。
まるで、ギリシャの女神像!
柔らかくクラシカルなデザインのドレスとは対照的に、銀色のネックレスはモダンな正方形を組み
合わせたモチーフが鎖骨に沿うようになっていて、こちらも素敵なデザインである。
ヘアスタイルは、短めのボブに不規則なカールを付けて自然に後ろに流した感じで、お似合いだ。
数年前までは、サラ様のステージ衣装というと「イケアの壁紙か包装紙のモチーフか」と言われ、
デザインも格好悪くて、体の欠点まるわかりという不可解なものが多かったのだが、少なくとも
オランダで3回見たサラ様のステージ衣装はどれも素晴らしかった。近年はスタイリストを付けたの
だろうかか。

プログラム前半は、ドイツ語のシューマンの歌曲である。
ロマン派らしい熱情を秘めた暗いラブソングの一種なのだが、サラ様はあまり感情をこめすぎず、
発音もさらりと歌うので、独り言ちもしくは内面に向けた感情の吐露という具合で、あっさりした
歌唱が心地よい。
ピアノ伴奏も、サラ様の歌唱同様あっさりとしていて、どちらかがリードするとか寄り添わせるという
のではなく、自然に歌とピアノが溶け合って一つの音楽を形成している。
そのコンビの絶妙さ具合は、ピアニッシモに顕著に表れる。
サラ様の歌でいつもうっとりさせられるのは、凛としたピアニッシモの美しさなのだが、ドレイクの
ピアノもピアニッシモを大切にしていて、最後は消え入るようにため息のように終わることが多く、
とても美しい。
そして、観客の拍手のタイミングも絶妙なのだ。ペダルで延ばされてほとんど聞こえなくなっている
ピアノの最後の最後の音が消えるまで待って、その後で心から温かい拍手を贈る。
こうなると、歌手、ピアニスト、聴衆が三位一体となってアトモスフェアを作り出しているような趣で、
空間は緻密な音楽の結晶で満たされて、とても密度が高くなっているのだった。

後半は、あまりなじみのないイギリス人作曲家による英語の歌曲である。期待は一層高まる。
それは聴衆のほとんどにも同様だったとみえて、聴衆全体が耳を傾けて聴いていることは、身じろぎ
もほとんどなく、咳や物音などが聞こえてこないことからも察せられた。息を呑んで聴いて、最後には
ピアノの呼吸と同じく吐息をつくという風情なのである。
20世紀初頭から戦後にかけて作られ、ルネッサンス風の歌、ポピュラーっぽい現代クラシック歌曲、
ジャズそのものという曲もある。
サラ様によって歌われる英語の美しさといったら!
↓に音源を貼るので、何はともあれ、聴いていただきたい。

Sleep  作曲 Ivor Gurney (1890-1937)  作詞 John Fletcher (1579-1625)



そういう風に上質かつ親密な雰囲気のリサイタルとなり、贈られる拍手は暖かく、アンコールには
3曲も歌ってくれた。
ドレイク曰く「このように皆様から温かい拍手をいただき、こちらとしてもアンコールに応えないわけには
まいりません」
アンコールの一曲は、James FentonのI'm in Paris with you




終了後、トイレ脇の通路に若い子たちに囲まれたサラ様とドレイクがいた。
開演前にトイレに入った時、サラ様の発声練習が隣から聴こえてきたので、楽屋が隣接しているの
だな、と思ったとおりである。
サインを求める子たちは、ロッテルダムの音大生で声楽専攻とのこと。
サラ様はきさくに「今日のリサイタルの曲目の中で、今までに練習したことがある曲はあった?」とか
訊いている。
わたしも仲間に入ってサインをいただき、「今晩はロッテルダム泊だと思いますが、明日はバルセロナ
に行かれます?」と尋ねた。サラ様が答えるに「明日はボストンなのよ」とのこと。

トイレから戻ると、今度は中高年ファンに囲まれていた。またもや仲間入りし、サラ様のドレスを褒める。
ドレイクが「そうそう、このドレス、今日が初めてだよね」と言う。
サラ様は、「ここのホールはエアコンが効きすぎて、ちょっと辛いわ。喉もそうだけど、髪も風で揺れるし、
触ると乾燥してる感じ。それは先シーズンの『アリオダンテ』の時にも思ったのよ」と言うので、
「『アリオダンテ』は大ホールでしたでしょ?」と訊くと、
「どちらのホールも同じくらい乾燥してて、寒いのよ」とのこと。
「それでは、肩の開いたドレスは禁物ですね」と突っ込むと、
ドレイクが「そうだね、何かで肩を覆った方がいいかも」という具合で、和気あいあいというか、二人とも
とても気さくなのだった。
11月にはバルセロナ遠征(サラ様タイトルロールの『アグリッピーナ』鑑賞のため)するので、再会を
楽しみにしております、とアピールしておいた。
by didoregina | 2013-10-03 14:31 | コンサート


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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