ヘンデルの『アレッサンドロ』@コンセルトヘボウ

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Händel - Alessandro
2013年9月21日@コンセルトヘボウ

Armonia Atenea
George Petrou (dirigent)
Max Emanuel Cencic (countertenor (Alessandro))
Julia Lezhneva (sopraan (Rossane))
Laura Aikin (sopraan (Lisaura))
Xavier Sabata (countertenor (Tassile))
Pavel Kudinov (bas (Clito))
Juan Sancho (tenor (Leonato))
Vasily Khoroshev (countertenor (Cleone))


この日のコンサートはオランダ・ラジオ4からライブ放送された。以下のリンクから、コンサート前(!)
の指揮者ペトロウのインタビュー、別のCDのディドナートによるリザウラのアリア、音楽評論家に
よる解説などの後、30分あたりからオペラ・コンサート全編を聴くことができる。
http://ntrzaterdagmatinee.radio4.nl/uitzending/201268/21-09-2013.html

新録音のこのCDは、昨冬に発売され、今年、アテネ、フランクフルト、ヴェルサイユ各地で舞台
形式で上演され、その後、アムステルダム、ウィーンなどでコンサート形式で公演が行われている。
CD録音メンバーと今回の出演歌手は、2役を除いて同じである。(CDではリザウラ役はカリーナ・
ゴーヴァン、クリト役はインスン・シム)

出演歌手では、マックス・エマヌエル・チェンチッチとシャヴィエ・サバタのCT両雄に加えて、新星
メゾ・ソプラノのユリア・レジネヴァに大きな期待を向けていた。
今年初めに買ったCDは私にしては聴きこんだ方だし、コンサート前日にはヴェルサイユ宮殿劇場
での舞台動画も見て泥縄式学習も行った。また、当日は、主役アレッサンドロ役のチェンチッチの
誕生日であることは、ファンには周知の事実であり、期待はいやがうえにも高まったのだった。

ただし、私の座席の位置は酷かった。サブスクリプションや土曜マチネ・チクルス発売はかなり前
から始まっていたので、一般チケットばら売り発売日には、全くろくな席が残っていなかったのだ。
3列目の右寄り座席4で、音響的には非常に不利であることは、最初から予測済みである。
コンセルトヘボウの舞台は異常に高く、しかも客席に張り出してるので、前5列までは下から見上げる
ことになり、音は頭上を通り過ぎていくのだ。7から9列目くらいが、視覚的にもかぶりつきに近くて
好きな位置なのだが。。。。

そして、今回の座席は視覚的にも隔靴掻痒であった。
主役級の3人(アレッサンドロ、ロッサーネ、リゾウラ)はほとんどいつも下手側に立って歌うので、
指揮者に隠れて姿が見えない。いきおい、左斜め上に首を曲げた姿勢で鑑賞せざるを得なくなり、
体が疲れる。
チェンチッチは、たまに上手側から登場することもあり、楽屋ドアから出てきて目の前の階段を駆け
上るので、ステージ衣装やヘアスタイルのディテールをガン見することはできた。
そしてまた、男性歌手3人はいつでもこちら側から登場して上手位置に立つので、サバタはよく観察
できた。

器楽演奏は、ピリオド楽器を用いた(とCDジャケットにわざわざ明記するのも今時珍しい)ギリシャの
古楽アンサンブルであるアルモニア・アテネで、指揮はCD同様ジョージ・ペトロウ。
CDと(そしてまたラジオ放送とも)大きく印象が異なるのは、その古楽アンサンブルの演奏であった。
CDのクレジットを見ると第一および第二ヴァイオリンは6人ずつで、ヴィオラは3人、チェロ4人、
コントラバス2人、チェンバロ2台、テオルボ、それにリコーダー2名、オーボエ2名、バスーン1名、
ホルン2名、トランペット2名、ティンパニ1名となっている。

しかし、今回のコンサートでは高音弦楽器の人数が大幅に削られているように思われた。(私の座席
側からだと人数がはっきりわからないが、半分くらいの印象)
上手側には(通奏)低音弦楽器奏者が座り、中央に置かれたチェンバロも含めて、通奏の音は
ビンビンとよく響いてくるのだが、ヴァイオリンの音が薄っすらとしか聞こえない。
座席の位置のせいもあろうが、弦楽器の人数不足のためか控えめすぎる演奏のせいか、オケ全体が
貧血気味みたいでエネルギーに非常に乏しい印象だ。元気もないし、自信もないような演奏だ。

古楽が盛んなオランダやベルギーでは、コンセルトヘボウをはじめとして各地のコンサートホール、
そして教会で、錚々たる演奏家による様々な古楽オケの演奏会がしょっちゅうあり、生演奏を聴く
機会が多い聴衆の耳は肥えている。
はっきり言ってしまうが、ギリシャは音楽後進国であることが、今回これほどあからさまに露呈される
とは思わなかった。古楽の演奏レベルとしては、アングロサクソン系のドライブ感や個性に乏しい、
ぬるま湯のようにまったりしているような古楽オケよりももっと初心者的な感じ。コンセルトヘボウの
舞台で演奏する水準とは思えない、というのが正直なところだ。
歌手のレヴェルとの落差が激しく、指揮者もリードが下手だし(出だしを間違えたり)、歌唱が盛り上
がって、アクロバティックなアジリタを滑らかに歌う歌手にオケが付いていけてないということもあった。
『アレッサンドロ』は古代ギリシャの大王とはいえ、なぜ、ギリシャの古楽オケがCD録音や演奏ツアー
に参加しているのか、大きな疑問であった。しかし、このレビューを書くためにCDジャケット裏をふと
見ると、名を連ねるスポンサーの欄に、オナシス基金というのを見つけた。「2011年から2013年の
オーケストラの大スポンサー」と明記されている。なるほど!

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         『アレッサンドロ』でコンセルトヘボウ・デビューのユリアちゃんの独擅場


しょぼいオケに対して、歌手は皆堂々としたもので、安定した歌唱を披露して、コンサート全体の
レヴェルをぐんと引き上げてくれた。
女性陣二人は、ヘンデルの時代の大歌手ファウスティーナ・ボルドーニ(ロッサーネ役)と
フランチェスカ・クッツォーニ(リザウラ)もかくや、と思わせる実力。もともと、この二人(特にロッ
サーネ)のアリアには、拍手喝采や大向こう受けを狙ったテクニックを見せつけることができる
美しい曲が多く、得な役回りではある。

特に、今回がコンセルトヘボウ・デビューになるユリアちゃんの歌唱は、いかにも清々しく気持ちよく、
安定したテクニックと声量も十分あり、聴衆は皆安心して身を任せることができる快感に浸った。
休憩前の第一部では、ロシアっぽい花の刺繍のある可愛いドレスで、(Mevさん目撃談によれば)
日によく焼けたデコルテの背中を見せて、若々しさ初々しさとキュートさをアピール。後半の衣装は
オペラ・ピンク。
年齢やルックスに似合わないほど落ち着きすら感じさせる歌唱とテクニックには誰がも唖然とするの
だった。アジリタはまるでコマドリかナイチンゲールのような滑らかさで、心地よい。
この日、一番拍手やブラーヴァの掛け声を受けたのは彼女だ。

CDでのリザウラ役はゴーヴァンで、彼女は来月からのDNOオペラ『アルミーデ』主演なので、アムスに
滞在しているはずだから、もしかして1日だけコンサートに出演しないかな、と淡い期待を抱いていた。
もしくは、舞台公演で同役だったアドリアーナ・クチェロヴァちゃん登場だったら可愛い子ちゃんコンビ
が実現したのだが、ローラ・エイキンもさすがの貫録と歌唱で文句のつけようがない。エイキンの方が
ちょっと年増っぽいから役に無理がないし、ユリアちゃんの可憐さが際立った。

二人のCTは、外見も声質上も対照的でよい組み合わせだ。
チェンチッチは、小柄でまろやかな少し暗めの声の持ち主である。声量はあまりない方だが、
スターとしての存在感と、感情を込めたしみじみした歌唱で座長らしい貫録を感じさせる。
最初は抑え気味な歌唱でパワー温存、コンサート進行とともに少しずつパワーアップしていき、
ここぞという場面では聴かせクライマックスに持っていくというコントロールの仕方と、実力を
心得たテクニックである。もちろん全部暗譜で、芝居も交えて歌う。
益荒男ではなく優男という設定のアレッサンドロに、チェンチッチのキャラクターは抜群にマッチ。
お洒落な彼は、スリム・フィットのスモーキングにブラック・タイ、エナメルの靴。ソックスは赤!

それに対するサバタは、最近シェイプアップしてスリムになったがいかつい外見の大男なので
ルックスに似つかない優しい声に聴衆はどよめいた。声量はしっかりあって明るく伸びも響きもいい
声の持ち主だ。特に生で聴くと、その実力に唸らされる。(譜面台をチラ見しながら歌っていたが。)
いかにもインドの王様らしい、ちょっとコミカルな役どころが似合う。
舞台衣装は、シングル・ブレストの黒のスーツにシルバーのシャツとタイで、他の男性歌手とは異なり
個性的なのが彼らしい。

この二人のCTがまた共演する『タメルラーノ』の録音はこの夏終了した。来年から各地でコンサート
が行われるので、非常に楽しみにしている。


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               鯖田さんのために作った帽子をプレゼント。

若さと清々しさ溢れる『アレッサンドロ』コンサート終了後には、パルナッソス・プロダクション恒例の
サイン会があった。
鯖田さんは先月、チッチは当日がバースデイだったので、プレゼントを持参してサイン会に臨んだ。

まず、ユリアちゃんに素晴らしい歌唱へのお礼。舞台を下りて真近で見る彼女は、あどけない笑顔で
本当にちっちゃくて、話しかけながら先ほどの歌唱を思い出して涙が出そうになった。

コンセルトヘボウでのマチネ・コンサートの後は、ロッテルダムに移動して夜はサラ・コノリーの
リサイタルに行くため電車の移動が長い日だし、プレゼントその他の持ち物も多かったので、着物は
無理だった。ドイツからの追っかけ友達と3人で写真を撮りあったりしてサイン会終了片付けの最後
まで粘った。私のカメラは壊れてしまったので写真はないが、特に鯖田さんには、手作りプレゼントを
とても喜んでもらえ、楽しかった。
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by didoregina | 2013-09-29 13:50 | オペラ コンサート形式 | Comments(4)
Commented by galahad at 2013-09-29 21:58 x
ラジオ放送を聞きました。ユリアちゃんは素晴らしい歌唱でしたね。かわいいドレスの舞台姿も見てみたかったです。
レイネさんの席、ちょっといけませんでしたね。東京芸術劇場も前のほうの席はみごとに頭上を通りぬけていくのです、あの残念な気分。
サバタさんへのお帽子はすてきです。彼もおしゃれさんだから、どんなにか喜ばれたことかと、想像するのも楽しいです。
Commented by レイネ at 2013-09-29 22:16 x
galahadさま、わたしもラジオ放送をオンデマンドで聴いてみたのですが、オケの演奏は録音では別に気になりませんね。バランスもまあまあだし。通奏低音がやっぱり一番よく響いてるけど。全てはわたしの席のせいなのか。。。でも、本当にしょぼい印象だったのよ。歌手の声はしっかり聞こえるのに。
鯖田さんは、プレゼントにとっても感激してくれてた。彼の大ファンというか追っかけみたいに思われたかな。
Commented by Mev at 2013-09-30 02:52 x
いえ、席のせいではなく、オケはボリュームが足りなかったです。(実力も、、、)

夕方は来客だったのでサイン会は残念ながらユリアちゃまのだけをいただいて退散しました。ユリアちゃんのえくぼがまたチャームポイント。というかなんといっても歌がすべてを物語っていて、アムスの聴衆はとても正直なのでユリアちゃんにだけは毎回ブラボーがとんでましたよね。今後がますます楽しみです。
Commented by レイネ at 2013-09-30 05:44 x
Mevさま、下手に座られたので管楽器の音がよく聞こえなかった(もしくはあまりじょうずに聞えなかった)かもしれませんが、ユリアちゃんが目の前で歌ってくれてラッキーでしたね。羨ましい。指揮者の陰になって、舞台上の彼女はほとんど見えなかった。。。でも、声は四方八方によく響いてましたよね。鯖田さんも。
1月のPJとの共演も楽しみ!


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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