カピラ・フラメンカとヘルメス・アンサンブル 『エレミアの哀歌』

Aleph
Capilla Flamenca & HERMESensemble
2013年9月20日22時 @ Martinuskerk

Daan Janssens Incipits (オランダ初演)
Pierre de la Rue Lamentaties
Alexander Agricola Lamentaties
Josquin Desprez Victimae paschali

Dirk Snellings, bassus
Lieven Termont, baritonans
Tore Denys, tenor
Steve Dugardin, altus


毎年9月中旬の週末3日間に開催されるプチ音楽祭Musica Sacra Maastrichtの今年のプロ
グラムはなかなかそそられるラインナップで、おお、行きたい!と思うコンサートが4つあった。
すなわち、タリス・スコラーズによるビクトリア『哀歌』、カピラ・フラメンカによるド・ラ・リューその他、
ジェズアルド・コンソートによるジェズアルド、コンセルト・ソアベ(マリア・クリスティナ・キーア)に
よる『マグダラのマリアの改悛』という、『エレミアの哀歌』をテーマにした、ポリフォニー声楽の
白眉ともいえる錚々たる面々によるコンサートが目白押しだったのだ。
結局、そのうち行くことができたのは、カピラ・フラメンカのコンサートだけであったが、これがまた
期待を大きく上回る素晴らしさであった。

そのコンサートは開始時間が夜の10時である。(同じ日のタリス・スコラーズによるコンサート開始
時間は夜6時と微妙な時間帯なのにチケットはソールドアウト。ネームバリューの強みか)
晩課のための『エレミアの哀歌』を聴くのにふさわしい時間帯である。
会場は、マルティヌス教会で、大きすぎず残響の具合もポリフォニー向けでどんぴしゃだ。

プログラムは、15世紀~16世紀にピエール・ド・ラ・リューとアレクサンデル・アグリコラが作曲した
ポリフォニー声楽曲『哀歌』夜課の曲間に、現代作曲家ダーン・ヤンセンスの2013年新作で
今回がオランダ初演となる器楽曲Incipitが挿入され、最後はジョスカン・デプレの声楽曲で〆ると
いうもの。フランドルの精華が圧縮されたかのようなコンサートだ。

マルティヌス教会は、19世紀半ばにピエール・カイパース設計によって建てられたネオ・ゴシックの
教会で、家から自転車で15分と近い。
開演の30分近く前に着いたら、席は半分以上埋まっていた。夜遅いコンサートにしては、かなりの
盛況と言えよう。このフェスティヴァル全体における低い値段設定も功を奏しているだろう。なにしろ、
たったの8ユーロである。(しかも、プロモーションでそこから10%割引してもらった)
そして、夜10時にはほぼ満員になった。

c0188818_1601646.jpg

                  西正面入り口の上部にあるオルガン

普段は普通に教会として使われているカトリックの教会だから、木の椅子が東にある祭壇を向いて
並んでいる。正面を向いて座っていると、突然背後からえもえいぬハーモニーの男声4声による
ア・カペラのポリフォニーが響いてきた。ふわ~り、と一瞬にして天の高みに昇る心持になった。
歌手4人が、2階のオルガンの前に立って歌っているのだった。降り注ぐ音のシャワーともいうべき
効果。
カピラ・フラメンカによって歌われる完璧なバランスの美しさが、心を癒し浄化してくれる。
そして、また『哀歌』であるのに、人の世の苦しみとは無縁のごとき聖なる響きである。
眼福という言葉があるように、これはまさしく「耳福」と言うべき。

  
正面祭壇前には、フルート、クラリネット、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ピアノ、打楽器からなる
器楽演奏家が並んでいて、中世やルネッサンス音楽とさほど乖離していない現代器楽曲を、声楽
曲の合間に奏でる。それらも、耳に優しくほ~っと体に浸み込むような滋しみに溢れていて、心身の
リラックス効果は満点だ。
ヤンセンスもフランダースの作曲家であり、ポリフォニーの伝統をそのまま現代に生かしたような
音楽が、500年という時の差を感じさせない。現代音楽というと、伝統を壊すのを信条とするかの
ようにヒステリックだったり無調だったりで、とんがっているのが多く耳に優しくないのがほとんどだ。
しかし、彼の音楽はもっぱら静謐さを重んじ、聴衆に挑まず、心地よいアプローチである。

一週間を終えるのにこれほどふさわしい癒しは他にないだろう。音楽による心身への贅沢なマッサ
ージである。

カピラ・フラメンカのプロモーション・ヴィデオを下に貼っておくので、疲れを癒したい方はぜひどうぞ
お試しあれ。


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by didoregina | 2013-09-24 09:20 | コンサート | Comments(2)
Commented by さわやか革命 at 2013-09-25 07:01 x
おお、なかなか良さげな教会ですねえ。こんな所でルネサンス宗教曲を聞いてみたいものです。
コーラスは終始背後から聞いて、器楽は前方から鑑賞ということですか?
現代のコンサートの形式からすると規格はずれですが、当時の形態からは正しい聞き方ですかね。
Commented by レイネ at 2013-09-25 18:28 x
さわやか革命さま、そうです、カピラ・フラメンカの面々は、拍手でカーテンコールみたいに下に降りて前方祭壇前に来るまでずっと後方上部にいて、声だけしか聴こえてこなかったんです。合唱隊の席は上部にある教会が多いから、オーセンティックな形態なのかもしれません。雰囲気は抜群でした。教会内部の造りや音響によって臨機応変に対応してるのかも。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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