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ルーベンスの時代さながらのコレクション展示@ロコックスの家

今回のウィーン遠征は二泊三日で、到着は正午、帰りは夜8時発のフライトなのでほとんど丸三日
いたことになるが、ガイド付きツアーでシェーンブルン宮殿を見学した以外は美術館には行けなかった。

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シェーンブルン宮殿内のインテリアも興味深いが、わたしの関心を惹いたのは各部屋に掛けられた
ハプスブルク家メンバーの肖像画の特に男性・男子の胸元である。
皇帝・国王、そして皇太子の肖像画ともなると正装に威儀を正しているのは当然だが、よ~く見ると、
首から金羊毛騎士団の勲章を掛けている人が多い。
元々は、1430年にブルゴーニュ公国のフィリップ善良公が創設した異教・異端の駆逐を目的とした
騎士団だが、1477年にブルゴーニュ公国がハプスブルク家に組み込まれて以来、騎士団もハプス
ブルクに引き継がれた。
だから、金羊毛勲章は現在に至るまでスペイン王家が授与する勲章として存在するし、プラドやエル・
エスコリアルで代々の王や王太子の肖像画の胸元に描かれているのを見たし、こちらオーストリアの
ハプスブルク家の肖像画にも描かれているのをここで確認して、歴史の流れの中に連綿と繋がる糸
を目の当たりにして感慨深いものがあった。

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      ナッシュマルクトにある魚料理の有名レストラン『ウマー』で。
      二人分の魚盛り合わせ。イカ、ホタテ、海老、手長海老、鮭、舌平目、カジキ
      マグロ、スズキ、金目鯛、鯉など、魚が上下に積み重ねられていて凄い量。
      グリルしてあるだけで、軽い塩以外の味付けはない。ペストとニンニクのソース。


そして、話は突然、ここからアントワープに飛ぶのである。

アントワープの王立美術館は、改修工事のため長期に渡って閉館されている。しかし、重要な所蔵品
のいくつかは、別の美術館や大聖堂などで見ることができる。
そして、今年の2月からロコックスの家で、興味深い展覧会が開かれている。

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         「この家にこの町の市長ニコラース・ロコックスが1603年から
          1640年まで住んだ」とファサードに刻まれている。

Nicolaas Rockox (1560 - 1640)は、ルーベンスの活躍した時代に長年アントワープ市長を務めた
人で大変裕福な資産家だった。ルーベンスのパトロンであり、様々な美術品の収集家でもあった。
当時を偲ばせる彼の住居内を、当時の美術収集家が飾っていたのと同じような方法で、絵画その他の
コレクションが現在展示されている。

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          サロンや書斎など住居の壁一面、所狭しと絵を飾って見せる。
          飾り棚には、貝や珊瑚のコレクションが並べられている。

この展覧会のコンセプトは、アントワープの黄金時代のメセナの収集品を本人の住居で当時に即した
方法で見せるというものなので、インテリアや調度品も当時さながらの館の中に入って絵の数々を
見ていると、その時代の空気を吸い込んでいる気分になる。美術館での美術鑑賞とは全く異なる体験
ができる。絵には番号や説明板が付いていない。一見せせこましくごたごたと飾ってあるようでいて、
絵は本来の場所を得て、伸び伸びと自由な空間でくつろいでいるように思えるのだ。

その中のひとつがこの絵。
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          Clara Peeters (Antwerp? 1580/89 - ca.1640)
           『魚のある静物画』 (1620年頃)

クララ・ペーテルスは、女流であるためか生没年その他不詳で、作品数も少ない謎の画家である。
彼女の描いた食卓の静物画は、いかにも17世紀らしい実物そっくりの緻密さに驚嘆するとともに、
思わず手を伸ばしたくなるほど美味しそうだ。
数少ない彼女の静物画の一つがアントワープにもあると知り実物を観たいと思っていたが、魚の絵だ
ということを忘れていたので対面してあっと驚く。ウィーンで食べた魚料理の素材を見てるような気分。
そして、実際に見るとびっくりするほど小さな絵だ。

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          クララ・ペーテルスの絵の魚を素材にして作ったかような
          ウマーの魚料理。3人で丁度いい位の量だった。


今回、ロコックスの家に展示されている作品には、一昨年完成した複合博物館MASやルーヴァン
でのファン・デル・ウェイデン展で観た絵(フーケの『聖母子』、ファン・アイクの『聖バルバラ』、
ファン・デル・ウェイデンの『フィリップ・ド・クロアイ』)もあって、またお会いしましたね、と思わず
言いたくなった。

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          ルーベンスの『凍えるヴィーナス』は、暖炉の上!
          この位置は、この絵にとって最高の場所ではなかろうか。


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          細密装飾が施された飾り棚やヴァージナルなどの家具調度や
          ルーマー(大きなワイングラス)の脚部分だけの破片も。
          16,17世紀の静物画にはほとんど欠かせないワイングラスだが、
          割れやすいだけに現在まで残っているものは貴重だろう。

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          17世紀ルネッサンス式中庭。面白い形のチューリップも植えてあった。

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             2軒続きのロコッコスの家は、立派な館。


クララ・ペーテルスつながりで、次回はデン・ハーグの市立美術館に行こうと思っている。ここには、
昨年マウリッツハウス美術館が購入した『チーズのある静物画』が展示されているからだ。改修
工事で現在閉館されているマウリッツハウス収蔵の国外不出の絵などを見ることができる。



          
      
by didoregina | 2013-05-07 11:06 | 美術


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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