アネッテ・ダッシュの歌曲リサイタルでウィーン前夜祭

アネッテ・ダッシュの歌曲リサイタルを、ドイツのケンペンにある元教会(現在は音楽ホール)で
聴いたのはウィーン遠征前夜のことである。
2,3年前から地方文化振興のイニシアティブをとる篤志家によって、元フランシスコ会修道院付属
教会を会場にしてなかなか結構な内容と演奏家によるコンサートが開かれている。

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            会場は元修道院付属教会

去年8月に現在はアート展覧会場になっているこの修道院を訪れた際、今シーズンのプログラム
の中にダッシュのリサイタルを発見してチケットを取った。しかし、8ヶ月も前のことなので、歌手の
名前以外はすっかり忘れていた。なんとなく古典派の曲のリサイタルのような気がしていたのだが、
当日のプログラムを見てびっくり。なんと、全てウィーンの作曲家達による世紀末から20世紀初頭の
歌曲である。

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            ケンペンの紋章(三日月、星を、十字架)で
            形どった天使のプレート

この教会は修道院付属のこじんまりした礼拝堂といった趣の建物で、天井もあまり高くない身廊だけ
のシンプルな長方形。室内楽や歌曲のリサイタルにピッタリのサイズだ。厚く塗られた漆喰のためか、
床に敷かれた厚みのある絨毯のおかげか、残響がほとんどなく音響的に悪くない。

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            祭壇手前の天井から下がるシャンデリアの
            ろうそくは本物!

本物のろうそくが点るシャンデリアが中央と祭壇寄りに2つ吊り下がっていて、雰囲気も抜群だ。

プログラムは、前半がマーラーの『子供の不思議な角笛』、後半がツェムリンスキー、シェーンベ
ルク、コルンゴルトという、わたし好みのウィーンの作曲家達の作品で、しかもウィーン遠征前夜に
それを聴くことができるとはまさにお誂え向け。

アネッテ・ダッシュの歌のピアノ伴奏を務めるのは、ヘルムート・ドイチェに代わって妹のカトリン・ダッ
シュだ。

Annette Dasch (soprano) & Katrin Dasch (pf) 2013年4月23日@Paterskirch, Kempen

Mahler
From Des Knaben Wunderhorn:
Rheinlegendchen
Trost im Unglück
Zu Straßburg auf der Schanz
Lied des Verfolgten im Turm
Wo die schönen Trompeten blasen
Urlicht
Wer hat dies Liedlein erdacht
Ich ging mit Lust
Verlorne Müh
Scheiden und Meiden

(Pauze)

Zemlinsky
Altdeutsches Minnelied
Das bucklichte Männlein
Entbietung
Meeraugen

Schoenberg
Wie Georg von Frundsberg von sich selber sang
Warnung
Mädchenlied
Der Wanderer

Korngold
Schneeglöckchen
Die Sperlinge
Was Du mir bist?
Mit Dir zu schweigen
Welt ist stille eingeschlafen


最初の短い曲が終わると数人が始めた拍手に釣られてか、大半の人が拍手する。やれやれ。
2曲目の後も同様。この調子で9曲全部拍手で中断されたら困ったなあと思ったら、アネッテが
マイクを手にして語りだした。
マーラーが曲を付けた詩の内容についてであるが、それぞれが有機的に結合しているから拍手は
前半の曲全部が終わるまで控えてくれるようにとのお願いも忘れないのがさすがだ。

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          伴奏のカトリンと歌手のアネッテ姉妹

『子供の不思議な角笛』は、アリス・クート、サラ・コノリー、アンネ・ソフィー・フォン・オッターで
聴きなれているので、アネッテのソプラノで歌われると微妙な違和感を覚える。
彼女の声は全体的にまろやかだが、モーツアルトもワーグナーも歌ってしまう懐の深さがあるし
重量感があっていかにもオペラ歌手の喉らしい。低音も中高音もしっかりとした土台の上に立ってる
安定感があるのだが、『子供の不思議な角笛』にソプラノのヴォリュームを生かせる高音域部分が
あまりないため、なんだか聞かせどころに乏しい曲に聴こえてしまうのだった。前半は、だからベール
をすっぽり被ったまま歌ってるようで、膜が出来ている感じで、こちらの耳にびんびんと響いてこない
のが少々残念だった。

後半になると、ようやくソプラノの喉を十分に披露する高音部分が多くなり、メゾ向きでイマイチ
彼女の魅力が発揮できなかった前半の隔靴掻痒感が消えた。
光沢があってつやつやした高音に迫力が加わり、世紀末から20世紀初めのウィーンを彩った音の
煌きが宙を舞う。

各作曲家の曲の合間には、マイクを手に持って詳しい説明もしながら、ピアノ独奏による水増しなど
なく、かなり沢山の曲を次々と暗譜で歌う体力・知力に、さすがオペラ歌手、と感嘆した。
ワーグナーやモーツアルトなどスタミナを要するオペラに比したら、出ずっぱりとはいえ歌曲リサイタル
など屁の河童なのだろう。
また、実に知的なアプローチで歌われる高踏派的なツェムリンスキーの曲も諧謔的なところのある
シェーンベルクの曲もよかったが、ハイライトは、ちょっと映画音楽的要素も感じさせるコルンゴルトの
曲であった。目くるめくようにドラマチックに歌い聞かせてくれ、オペラ歌手の面目躍如である。

念願のアネッテ・ダッシュの生の声を存分に近くで聴くことが出来たうれしさと、ウィーンのご当地
作曲家でまとめた願ってもないプログラムでの幸先のよさに満足し、翌日からのウィーン遠征前夜
祭を祝ったのだった。

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          休憩中に飲んだのは、フランシスコ会修道院ビールではなく、
          辛口のリースリング。コンサートのケータリングで出るワインは
          大概まずくて飲み干すのに一苦労するが、ここのは非常に秀逸。
          地元のワイン屋の直接販売でレベルが高い。グラスもリーデル!
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by didoregina | 2013-04-29 17:05 | コンサート | Comments(8)
Commented by ロンドンの椿姫 at 2013-04-30 08:00 x
7月9日にロンドンのWigmore Hallで彼女のリサイタルがあり、私も切符を買ってあるのですが、同じプログラムでしょうか? ピアノ伴奏は違う人ですけど。
http://www.wigmore-hall.org.uk/whats-on/productions/annette-dasch-soprano-helmut-deutsch-piano-32126
Commented by sarai at 2013-04-30 12:44 x
先日はありがとうございました。ウィーン遠征前にいいものを聴かれましたね。羨ましい! ダッシュと言えば、注目の若手ですね。idomeneoの予習で生きのいいエレクトラを聴きました。アルミーダ役もいいそうですね。あくの強い役が歌える実力派・・・コルンゴルトね、注目しておきましょう。
Commented by レイネ at 2013-04-30 17:14 x
ロンドンの椿姫さま、ハンブルク遠征お疲れ様です。アネッテ・ダッシュといえば、二年前のバイロイトでクラウス君と競演した『ローエングリン』のエルザ役が忘れられません。
ロンドンでのリサイタルと同じ曲目です。ウィグモアのサイトをコピペしようっと。(各作曲家の説明も歌手がしたので、その分、もしかしたら1曲づつ少なくなってたかも)
ピアニストも当初は同じ人の予定でポスターもそうなってましたが、当日のプログラム・ブックでは妹に代わってました。
Commented by レイネ at 2013-04-30 17:29 x
サライさま、長旅お疲れ様でした。こちらこそ、お礼を言わなければならない立場です。ウィーンでは丁度入れ替わりでお会いできなくて残念。初めて生のソニア・プリーナに接して、録音よりもいい声だし上手いなあと感嘆しました。
アネット・ダッシュも役柄の広い実力派の歌手ですね。アニヤ・ハルテルスとちょっと似たタイプで役柄も被りますが、アネッテは若くて元気一杯。
Commented by sarai at 2013-04-30 18:53 x
レイネさん、まったく、おっしゃるとおり。アンネット・ダッシュは言われてみると、アニヤ・ハルテロスと外見はかなり異なりますが、かなり似たタイプですね。今、ちょうど、スカラ座でやったシモン・ボッカネグラを見ていましたが、アニヤがアメーリヤを歌っていました。素晴らしい歌唱ですが、むしろ、2006年ザルツブルグ音楽祭でのエレクトラ役のほうがぴったりでした。アルミーダもよさそうな感じですね。
ダッシュはこれからティーレマンのベートーヴェンの第9番のCDでエネルギッシュな美声を聴かせてもらいます。
ウィーン遠征の成果?を楽しみにしていますよ。ソニア・プリーナ聴かれたんですね。マレーネ様とは全然別のタイプですが、なかなかですよね。
Commented by レイネ at 2013-05-01 14:58 x
サライさま、どうもハルテロスはキャンセルすることが多いようですが、体力的に弱いのかしら。ダッシュはエネルギーの塊みたいな感じだから、きっと大丈夫。
ウィーン遠征ルポ、これから少しずつ書いていきます。サライさんの方は、遠征記詳細編に既に入ってますね。見習ってがんばります。
Commented by Vermeer at 2013-05-02 18:31 x
昨年5月ウィーン・フォルクスオパーの『メリー・ウィドウ』日本公演に彼女が帯同した際、トッパンホールでソロ・リサイタルがありました。残念ながら行けませんでしたが、シューベルトとブラームスを13曲ずつ前後半各40分ほどをかけるずっしりとしたプロで、好評をもって迎えられていました。

オペレッタでは座付きではなく客演のためか、少なからず隙間風の吹く箇所も散見されましたが、押し出しも華もあって得難いドイツの名花ですね。サイン待ちしていたら、ベビーカーを押しながら登場、サインする間に代わって子守していたのは、何と『メリー・ウィドウ』のダニロ役、ダニエル・シュムッツハルト(Br)!二人は御夫婦なのでした。彼も良い歌手です。2人でシューベルティアーデで歌ったそうです。


2005年バイエルン国立歌劇場が来日した際、
ワルトラウト・マイヤーのリート・リサイタルがあったのですが、聴衆として客席にいた時もひと際目立っていました。勉強熱心な人のようです。

『ベアトリスとベネディクト』素晴らしかった様ですね。マレーナ嬢のみならずC.カルク嬢も素晴らしかった由。河畔劇場の意欲的な企画に敬服します。
Commented by レイネ at 2013-05-02 20:23 x
Vermeerさま、
>押し出しも華もあって得難いドイツの名花ですね。

御意。作曲家や曲の説明して聴衆教化に余念がない態度も、勉強熱心というのに通じるかと思いました。
彼女のモーツアルト、特に伯爵夫人など聴きたいと思うのですが、来年6月、エイントホーフェンでオランダ・バッハ協会のバッハ・カンタータ・プログラムに出演するので、それも楽しみです。

マレーナ様は、ウィーンでのオペラ出演中もバーデン・バーデンでのリハにとんぼ返りで参加したりしてましたが、ベアトリス役の歌唱も演技もばっちりで彼女の魅力を遺憾なく発揮してました。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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