Lore ナチの子供達の辿るいばらの道

ヨーロッパ映画で第二次世界大戦を扱ったものには、当然ながらホロコーストが絡む場合が
多い。
またはナチに対するレジスタントものであっても、ユダヤ人を匿うという場面は欠かせない。
そうすると、ナチおよびドイツ人=悪者、ユダヤ人および占領された国の人々=被害者、
レジスタントおよびユダヤ人を匿う人=ヒーローという図式になることが多いのも当然と
いえば当然だ。そういう単純な図式から少し外れて、ナチ(およびそのシンパ)ではあっても
人間性のある個人とか、レジスタントの仮面を被ってユダヤ人を食い物にする団体などを
登場させて、善悪の二元論のみに収斂させることを拒んだ内容の映画もある。

c0188818_23201284.jpg監督 Cate Shortland
脚本 Cate Shortland, Robin Mukherjee, based
on a novel by Rachel Seiffert
配役 Saskia Rosendahl (Lore)
Kai Malina (Thomas)
Nele Trebs
Ursina Lardi
Hans-Jochen Wagner
Mika Seidel
André Frid
Camera Adam Arkapaw
EditorVeronika Jenet
Production designSilke Fischer
Sound DesignSam Petty
MusicMax Richter
2012年 ドイツ、オーストラリア、イギリス

Loreは、終戦後のナチス党員の子供達の辿った苦難の逃避行を描いた映画だ。
終戦を境に今までの価値観が崩れて、追う者=悪者と追われる者=被害者という立場が逆転
した瞬間から物語が始まる。

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       14才のローレは、乳飲み子を含む妹弟5人を率いて
       ドイツ南部から北部ワデン海の島にいる祖母の元へ逃れる。

ナチ党員だった両親は拘留されてしまった。敗戦国ドイツに進駐してきた連合軍やロシア軍は、
ナチ・シンパのみならず一般市民に対しても仮借なく冷酷・残虐な態度で臨む。
ギリシア悲劇の「トロイアの女たち」を例にとるまでもなく、古今東西を問わず、戦争に負けた
国の人々(特に女子供)が味わう苦難は悲惨というほかない。ナチの子供達には自国でも安全な
場所はなくなってしまった。
寝る場所も食べ物の調達も人の情けに頼るほかはないが、同国人ですら終戦を境にナチに対する
態度を一変させたから、差し伸べられる暖かい手など期待できないという状況である。

c0188818_2344750.jpg

         廃墟となった農家や家に寝泊りしつつ、北に向かう。
         家々の内部には、復讐や略奪・殺戮の跡が生々しい。

北への逃避行には、トマスという青年が加わる。
トマスはユダヤ人のパスポートを持っているので、ユダヤ・シンパの多い連合軍兵士の尋問や
関門突破も楽である。収容所から逃れてきたローレ姉弟たちの長兄と偽って。
ユダヤ人に助けられるナチの子供達というストーリーは意外な盲点を突いている。

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         トマスのおかげで旅の困難は大分軽減された。

しかし、ナチ教育が血肉となっている誇り高いローレはトマスを蔑み、彼の手助けに感謝する
ことはあっても、同等に扱うことが出来ない。
弟たちもトマスになつき兄のごとく慕ってはいても、心の底ではユダヤ人なんだから下等な人間、
という思いを持っている。
複雑な心理というか、3つ子の魂百までというか、トマスに対する理性の及ばない生理的嫌悪感
とから来るローレの愛憎の表現が見事である。

c0188818_07228.jpg


乳飲み子の弟も連れてのドイツを南北に横断する逃避行は、ほとんど不可能に思えるのだが、
ローレたちの鉄の意志は固い。そして、生か死かというぎりぎりの状況を生き延びるためには
自ら冷血にならざるをえない。


一風変わった自然描写がとても美しい映画である。住み慣れた故郷を捨てしかも同胞から見捨
てられた子供達の逃避行だからほとんど全てが戸外のシーンなのだが、瑞々しい草地や針葉樹
の葉の敷き詰められた森の中や、岩や川などの自然が接写で撮られているシーンが多い。
カメラの位置がかなり地面に近いもしくは地面すれすれに上からを映すアングルで、泥で汚れた
足の爪や腰掛けた岩の足元など、ハッとするほど新鮮である。接写で映されるそれらが自然との
対比で実に美しく撮れている。
2011年映画の『嵐が丘』での自然描写に近いものがある。こうして見比べると、両方とも女流
監督によるためか、感性的に近いものが感じられる。
若い女流監督による映画作品を見る機会が、このところ多いのだが、映像に瑞々しさが溢れて
いて、重いテーマを扱っているのに暗さが軽減されて、美に昇華している。実に頼もしいこと
だと、感嘆するほかない。
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by didoregina | 2013-04-22 17:28 | 映画 | Comments(2)
Commented by Mev at 2013-04-25 05:06 x
面白そうな映画ですね!ちょっと言語的に私には敷居が高いですが、、、。
ナチの子といえば、子ども向けに買った本「The Boy in the striped pyjamas」がそうでした。ラストは呆然とするものでしたが、生きながらえていたらもっと辛かっただろうと思っていました。
この映画はまさにその生きながらえた子どもたちを描いているのですね。興味深いです。 

おもえば、ムッソリーニは殺された後引きずり回され逆さ吊りにされていたそうで、そのニュースを聞いたヒトラーは自殺したあと部下に入念に火葬しろと命じていたそうですから、どれほどの恨みを民衆が抱いていたかというのは大人たちはわかっていたでしょうが、子どもたちはまた別の苦難ですね。
Commented by レイネ at 2013-04-29 06:12 x
Mevさま、このところ観た女流監督作品にはうれしい驚きが続いてます。暗い話でも映像は叙情的で、女性ならではの楽天的な視点がいいんです。
『縞模様のパジャマの少年』は、子供達が中学の英語のリーダーかなんかで読んでました。わたしは映画の方だけ見ましたが、情け容赦ない暗いエンディングですよね。
ヒトラーの最期を秘書の目を通して描いた映画Der Untergangでは、ナチ高官の子供達は眠ってるところを母親から薬で殺されてましたね。彼らはヒットラーと最後まで生死を共にしたわけで。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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