ユロフスキ指揮コンセルトヘボウ管の公開リハーサル

ウラディミール・ユロフスキ(別名 ユロ兄)がコンセルトヘボウ・オーケストラを指揮する
コンサートの公開リハーサルに行ってきた。
曲目は、ツェムリンスキーの『人魚姫』とラフマニノフの『ピアノ協奏曲第3番』(ソリストは
アレクサンダー・ガブリリュク)という、マイナーな曲と超有名曲の組み合わせだ。
好きな作曲家だし、指揮者にもソリストにもそそられるし、コンセルトヘボウの演奏を本家本元
ホールのコンセルトヘボウで聴いたことがなかったし、オーケストラのリハーサルというのにも
興味津々だった。

『オーケストラ・リハーサル』といえば、フェリーニ


       フェリーニの映画としては退屈で諧謔もわかりづらく好きになれなかった。


今回の公開リハには2ヶ月前から目を付けていたのだが、友の会会員のみ入場可という但し
書きがあったので一旦は諦めた。
しかし、色んなところで騒いでいたら思わぬ助っ人が現れて、本人も忘れていたが友人が会員で
あったことが判明。一緒にアムステルダムまで行くことになった。
朝9時半開始・途中入場不可なので、自宅を朝6時に出て6時半の電車に乗ってアムステルダム
まで行き、トラムに乗り換えてコンセルトヘボウに着いたのは開演5,6分前だった。
会場は、ほぼ満席に近い。売り出されたのは平土間のみで、バルコンとポディウム席はなし。
わたしがチケットを買おうと思った1ヶ月前には後ろの方の席しか残っていなかったのだが、コネの
威力か10列目の席が取れた。7列目までは立ち入り禁止になっていて、オケ・メンバーのコートや
楽器ケースなどが置かれている。
ポディウム席にはTVカメラマンが入っていて、こちらもリハーサルに余念がない。

司会者に促されて、指揮者がポディウム後方の階段から下りてくるのではなく平土間上手側から
ステージに上った。リハーサルだから、皆私服である。ユロフスキは、黒のタートルネックの薄手
ニットにダークなカラーのジーンズにベルト。肩にクリーム・カーキ色のジャケットを羽織っていたが、
指揮台まで来るとそれを脱いで、落下防止用柵にかけた。

舞台に向かって右側前方の席だったため、舞台後ろの方の編成はよく見えないが、対向配置で
第一第二ヴァイオリンとも10人の構成。ハープ2台と打楽器が場所をとるためか、舞台は手狭な
印象。

ツェムリンスキーの『人魚姫』の出だしから始めるのではなく、いきなり楽譜の小節を指定し細かく
区切ってのリハーサルに入る。まず、打楽器やホルン、トランペット、チューバなどの音の大きさ
や強弱のニュアンスの付け方にとても細かい指示を与えている。ユロフスキは、金管が爆音を
出すのは好みでないらしく(これはわたしにとっても喜ばしい)、よくありがちな箇所で金管が
ここぞと音を張り上げると「とてもドラマチックでイクサイティングな盛り上がりですがやりすぎです。」
などと抑止していた。
トランペットにも消音器を入れさせて音を聞き比べ、「そのくらいが丁度いいです」と。

↓は、ツェムリンスキー『人魚姫』の一部




映画『オーケストラ・リハーサル』のように、指揮者を無視して暴走するオケというのとは
正反対で、コンセルトヘボウの皆さんは指揮者の注意をよく聞いて、楽譜に書き込んだり、
書いてあったのを消しゴムで消したり、楽譜チェックにもかなり忙しい。
あまりに細々とストップしては注意を与えるのは、この曲がマイナーなためオケとして今まで演奏
経験があまりないためだろうと思われた。その朝のリハーサル中に全体を通しで演奏することはな
かった。その晩が、コンサート本番である。

休憩中に、友人の友人である団員に訊くと「わたしはこの曲は今回が初めて。他の人が言うには、
2,3回演奏したことがあるというけど」とのこと。

ツェムリンスキーは、19世紀と20世紀初頭の狭間の作曲家であり、いかにもウィーン世紀末の
匂いが紛々と漂う曲を作っている。
「『人魚姫』には後期ロマン派らしさもあるし耽美的な音楽なのですが、20世紀の音楽、プロコ
フィエフやストラヴィンスキーに見られるようなモダンな要素の先駆けも感じられます。その味わいは、
スタッカートの使い方で顕著に表現すべきです。変化のあるリズムに突き刺すようなアタックで」と
いうことをユロフスキは言っていたと思う。(客席には背を向けてオケ団員に向かってしゃべるので、
よく聴こえないから不確か)

ユロフスキの立ち姿は、非常に美しい。脚をほとんど開かずに真っ直ぐに立ち、背筋もすっと伸び、
動きも自然かつ力みが感じられずスマート。

c0188818_1839243.jpg


休憩20分を挟んで、後半はラフマニノフのピアノ協奏曲3番のリハーサルだ。

『ラック3』といえば、ガブリリュクの十八番でお手の物である。ベタといえばベタな曲だから、
リハーサルもさらりとオーケストラと合わせる程度ですんなりと行くだろうと予想した。時間は丁度
1時間。

まず、ピアノとオケとの掛け合いでもつれそうになるかもしれない部分とカデンツァ部分を練習。
しかし、それにしても、ガブリリュクは見かけは神経質そうな図書館司書みたいだが、演奏はとても
男性的で、豪腕を生かしてのダイナミックな音を作る。しかし、それは若さにまかせての荒っぽさとは
全く別物で、非常に立体的で明確な音楽観が聴き取れて心地よい。

その後は、最初からの通し演奏。とにかくピアノの音がクリアかつ大きくて、オーケストラの特に弦
パートは伴奏に徹しているように音量をかなり抑えている印象であまり耳に入ってこないほどで、
まるでピアノリサイタルを聴いているような感じ。
しつこいくらい繰り返されるテーマも、ピアニストの叙情溢れるニュアンスの付け方が洗練されていて
飽きさせないし、あの何とも言いがたく胸を締め付けるような、郷愁を覚えさせるロシア的メロディーが
全く陳腐にも泥臭くもならず軽い味わいになっているオーケストラ演奏に唸らされる。うねるような情感
には乏しいが、都会的・現代な解釈・演奏の『ラック3』である。

全曲通しになるか、と思いきや、フィナーレに入る前の意外なところで指揮者の手が止まった。
ピアニストとロシア語で話してなにやら確認したりしている。残り時間15分。またもや、細かい部分
ごとの手直し詰めの作業である。
フィナーレが終わると、ガブリリュクに対して盛大な拍手がわいて、周りに座った人たちは、皆一様に
「なんてすごいピアニスト!」と興奮している。

そして、きっかりと午後1時にリハーサルは終了した。

友人の友人の団員に「せっかくだから、今夜の本番のコンサートも聴いていけば?」と言われた。
「本当に全部きちんと聴きたいのはやまやまですが、終電に間に合わないので泊まるしかないから」
と暇乞いした。
その後、ゆっくりとランチをとって、4時の電車に乗ってマーストリヒト駅に着いたのは午後6時半。
12時間のプチ遠征である。もっと近くに住んでたら友の会会員になってコンサートにもリハーサルにも
通えるのに、と夢見たことである。

3月28日の同プロ・ライブ録音が、3月31日(日)14時CETからオランダラジオ4から放送される。
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by didoregina | 2013-03-28 10:25 | コンサート | Comments(4)
Commented by Kew Gardens at 2013-03-28 23:55 x
レイネさん、

galahadさんのところで、Demaux選手の話題ならとお誘いいただき、緊張してお邪魔をしたところトップのポスティングがコンヘボのリハーサル! 違うところへのコメントお許しください。

リハーサルは当日の朝というのも驚きですし、それも初めての曲というのは、本番がどうだったのでしょうか、興味深々です。 私は、このようなリハーサルを観たことがありませんが、指揮者がどこに注目しているのか、オケに何を求めているのかを知ったうえで、本番を鑑賞するというのは、感じ方も違うのでしょうね。 いずれにしても、贅沢な経験だと思います。 いいなぁ・・・
Commented by Kinox at 2013-03-29 00:54 x
と・に・か・く、めちゃくちゃ嬉しい!!!
詳しいリハーサルの風景の情報、ありがとうございました!!!
人魚姫、めちゃくちゃかっこいいことになりそうでますます楽しみになってきました。
ガブリリュクは凄い凄いという話は聞いてましたが、じっくり聴くのは初めてです。

そ、そして
> ポディウム席にはTVカメラマンが入っていて、こちらもリハーサルに余念がない
きゃあ、撮影があるならいずれは映像も見れる可能性もあったりなんかして、うふふ。

> 『オーケストラ・リハーサル』といえば、フェリーニ
うふふ、あんな大騒ぎになるリハーサルじゃなくて良かったです。
たしか最後はシュンと指揮者の言うこと聞くのはブラック諧謔的かもしれませんけれど、絵としても音楽的なフェリーニ的喧騒もたっぷりあるし、わたしこの作品はもしかしてフェリーニの好きな映画トップ3に入るかも、そうですかレイネさまはお好みじゃなかったですか。

週末のラジオ放送、わたしのほうでも大宣伝しちゃおうかな、レイネさまのページへのリンクを張ってもよろしいですか?
Commented by レイネ at 2013-03-29 01:26 x
Kew Gardensさま、ようこそおこしを。デュモーの話にもまたどうぞ。
その晩が本番第一日目のコンサートで、オケと指揮者との練習は数日前から始まっていたのではないかと思います。団員の方によると、通常の公開リハは水曜日の昼1時間ほどで、今回のように朝から全部見せちゃうというのは珍しく、とても緊張するそうです。カメラも入っていたので、ラジオ放送と同時にオンライン・ストリーミングも観られるかもしれません。それとも、この公開リハの様子をドキュメンタリーとして撮ってたのかしら。
いずれにせよ、とても面白い体験でした。オケに対するユロフスキの要求の仕方、しゃべり方や指摘が的をズバリと付いたように的確な表現なので、演奏側もしっかり付いて行きやすいだろうなという感じがしました。
Commented by レイネ at 2013-03-29 01:39 x
Kinoxさま、喜んでいただき、朝早くから行った甲斐があるというものです。
若々しい二人のロシア人(指揮者とピアニスト)とコンヘボとの組み合わせと意表をつくプログラムとで、非常に面白いコンサートになることと思います。

TVカメラマンもかなり真剣にメモとったりアングル変えたりしてのリハだったので、ライブ・ストリーミングかなにかの映像になるのではないかと期待してます。舞台上のTVカメラの他、客席後方に舞台全体を撮るTVカメラが立ってたし。

実物のユロフスキ、かっこいいですね、本当に。どんどん彼の宣伝をしてあげてください。つたないレポですが、お役に立てればなによりです。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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